六百二十一話 宇宙海賊ハーミットと邂逅

「貴女はいったい?」

「――シュウヤ、そのいきなり現れた女の人は? 時空属性の魔法使い?」


 と、背後からユイの声が響く。


「分からない」


 俺は軍人女性を凝視しながら、腕を泳がせつつ背後にいるユイに向け語る。

 目の前の軍服が似合う女の人はニコッと微笑むと、


「こんにちは、この方と第一世代のレアパーツを借りるわよ――」


 と、ユイに向けて発言しつつ浮く魔宝石を取って胸元のバッジを触った。


「艦長権限RKユニット、テスファオメガを許可します! 強制転移開始――」


 軍人女性が、そんな言葉をどこかに投げかけた刹那――。

 目の前の光景が、一瞬で、特殊な船室となった。

 ワープか。びっくりだ。

 転移魔法とはまた違う技術。

 俺と相棒の位置を正確に捉えてどこかに強制転移させるとか。


 どんだけ高度な魔法技術を持つんだよ。

 ペルネーテにある水晶の塊を触って行うワープ技術よりも高度な魔法技術だ。

 

 魔法というか科学技術か。

 まさに、『アーサー・チャールズ・クラーク』が残した言葉を想起する。

 『充分に発達した科学は魔法と見分けが付かない』


『閣下、転移魔法を?』

『いや、違う』


 ヘルメも分からないようだ。

 とりあえず、片手に魔宝石を持つ軍人女性に聞こうか。


「ここは?」

「深宇宙探査船トールハンマー号よ。その艦長室」

「俺たちは拉致られたわけか……」


 足下の相棒は円盤機械の匂いをチェック。

 たぶん、その内に縄張りチェックをやるはずだ。

 

 どこかに頬を擦る確率は百パーセントだろう。

 マイクロ波的なモノを出していそうな円盤的な機械か。

 

 さっき幻影的な光景だと思っていた特殊な船室だ。


「そうなるわね」


 軍人女性は気まずそうに語るが……。


 俺は二度目か?

 最初は真っ白い世界に拉致られた。

 転生した頃を思い出しつつ……。


 足下の黒猫ロロの後頭部や小型のヘルメを見て……。

 強い安堵感を覚える。

 そう、あの時とは違うんだ。


 転移だとして、座標特定の仕方が気になる。


「俺と相棒を狙った生物転移の方法だが、標的マーカーの条件は地表の奥にいても透かせるのか?」

「凄い知識ね、原住民ではないの?」

「いいから理由を」

「そうよ。テスファオメガを使った。バイコマイル胞子を捉えるためにエネルギーを消費するし、あまり使いたくない放射性元素をまき散らすから、こちらの座標も感知されやすくなる。勘のいい賞金稼ぎに見つかるかもしれない……わたしのような?」


 疑問形?

 軍人風だが、賞金稼ぎなのか?


「へぇ……」


 そして、さっきの転移の大本は、磁力か不明だが……。

 出力の高いトラクタービームってことかな。


 と右を見る――右壁にはパワーアーマー的な鎧が飾られてあった。

 ハンマー? 切断機、何かのヒューズ的な男前家具的な黒セラミックの用品が並ぶ。


 やべぇ、格好いい。


「それは第一世代の魔強化サイキック型Manned Maneuvering Unitの一つよ。皮は骨董品だけど、中身のパーツは、自慢じゃないけど、今も第一線級の素材として流用が可能。一級品の貿易素材になりえる代物よ。エレニウムストーン系技術を応用して作られた特殊アーマースーツといえば分かるかしら」

「これで骨董品なのか。聖櫃アーク的な鎧にも見える。パワードアーマー的にも、あ、モビルスーツのちっこい奴か? それを操るニュータイプのような存在はいるのか?」

「本当に原住民?」

「下の惑星出身か? という問いなら、違うとだけ言っておこう」

「……驚き。でも不思議な言葉が多かった。聖櫃アークの意味は分かるけど、ニュータイプとは何? 学術的な計算の仕組みのことかしら……それとも古代の銀河騎士の言葉? 選ばれし銀河騎士の暗号かしら……」

 

 軍人女性は困惑した表情で喋る。

 そりゃそうか。

 と、俺は笑う。


 ……天井は渋いシーリングライトと一体化した壁模様。

 細かな溝が、俺の武器の独鈷魔槍の造りと似ているが偶然だろう。


 左壁は唖然とする……宇宙空間。

 巨大惑星セラの一部と分かるモノが見える。

 壁のほとんどが強化硝子だろうか?

 それとも見ている者に対して、宇宙だと錯覚させる、視覚効果か?

 

 または、カメラか。

 深宇宙探査船トールハンマー号の外壁にある全天周囲モニターと繋がった映像を、この船内にリアルタイムに投影しているだけかもしれない……。


 もしそうなら、ラグのない高速通信とかが気になる。

 そして、中央に立つ軍人女性か。

 胸元のバッジより、美乳と分かる膨らみさんが気になった。

 

 ――うむ。

 おっぱい教の神様に感謝――。

 

「……綺麗でしょう。でもここは艦長室だから」

 

 と、その途端、左側の壁が右側と天井のデザインに様変わり。

 ――驚いた。っていうかすげぇ。


 ナノ空間内の反応制御技術が異常だな。


『驚きです! 時空の精霊ちゃんらしきモノが見えましたが……あとは光の渦が見えました……』

『時空の精霊ちゃんが気になる』

『閣下が、前にお話しされていた、小さいプリンとクリームブリュレが合わさったような形をして可愛いです』


 余計に分からない。

 時空の精霊ちゃんとは、スイーツ風の<闇蒼霊手ヴェニュー>ということか。


『そっか』


 と、気を取り直しつつ、


「……ナノサイズの物質をユビキタス元素を扱うようにスムーズに操作できるのか?」


 そう言いながら……。

 今まで惑星と宇宙空間を映していた左の壁を凝視。

 ナノテクノロジーと電磁波的研究が極まれば……。

 さっきのように簡易ディスプレイにもなり得る金属として操作が可能か。

 

 軍人女性は眉を動かし双眸を揺らす。

 動揺を示す彼女。


「……できる。わたしは専門外だから詳しくは知らないけど……」

「凄い技術だ」

「ここの仕組みが理解できるの? 一応、最新鋭の宇宙戦艦なんだけど?」 

「いや、理解はしてない」


 そう素直に告げる。


「……そう? でも他の惑星出身で遺産神経レガシーナーブに適応したのなら、この船の機構を見ても驚かないのもわかる気がする」

「まぁ、それを言ったら、この宇宙がある時点でな?」

「……深いわね。うん、上と下を見れば……か」

「そう言うこった。惑星があって恒星の周りを回る。極々当たり前のこと。他にも同じような星と生命体がいると考えることが普通」

「そうね。と言いたいけど、それは素敵で幸せすぎる思考よ。お花畑とも言える。頭が腐った生命体は何処にでもいるから。狂気に満ちた生命体は下にもいるでしょう。洗脳しようとする宗教も含めて、本当に罪深い奴らは、宇宙にも腐るほどいるから」

「……」


 千差万別はどこも同じか。

 しかし、宇宙人が宇宙人を語る。

 何気に怖いんだが。

 相棒と一緒に宇宙に出たときも、銀色の変なエイリアンが飛翔していた。


「……で、出身星系はどこかしら。あ、まずはわたしからよね。名はハーミット、ここの艦長。ナ・パーム統合軍惑星同盟上級大佐よ。セクター30という特殊部隊に所属しているの。だけど、それは仮の立場で、実は海賊&賞金稼ぎが本当の立場。下の海で秘密裏に活動していた時もハーミット団。でも、本当の名は、ハーミット。わたしのことは、どっちの名前で呼んでくれても構わないわ」


 早口で自己紹介してくれた。

 んだが、海賊&賞金稼ぎかよ。

 ナ・パーム統合軍惑星同盟の上級大佐が、仮? 

 艦長が、仮とは驚きだ。普通は逆だと思うが。


 宇宙海賊とは……。

 本来はフリーな立場か。


「そんな重要な情報を、拉致った俺に語っていいのか?」

「ここは艦長室。簡易AI〝マギナ〟も遮断中で、だれにもこの会話は聞こえていないわ」

「……そっか。んじゃ俺も名乗っておく。俺の名はシュウヤ、黒猫はロロディーヌ」

「にゃ~」

「ふふ、うん知ってる。いきなり転移させちゃったけど、よろしく」


 ま、あれやこれやと騒いでも仕方なし。


「おう、よろしく」

「ンン、にゃお」


 足下の相棒も慌てていない。

 俺の心の言葉に同意するように鳴いた。

 また、軍人女性のハーミットさんに片足を上げて挨拶。

 肉球を見せる可愛い挨拶だ。

 ハーミットさんは、微笑んだ。


 ロロディーヌ砲は万国共通だ。


「ンン」


 挨拶をしたロロディーヌは満足したご様子。

 トコトコと円盤の転送装置から降りた。

 俺も続いて降りてから、ハーミットに近寄った。


「で、単刀直入に聞こうか。忙しい俺を、なぜ、この艦に連れてきた?」


 双眸に魔力を込めて聞く。


「……うふ♪ 建前はナ・パーム統合軍惑星同盟としての戦力の勧誘。本音はわたしのクルーの人材にならない?」

 

 と、ハーミットは持っていた魔宝石を揺らす。


「クルーの人材に入ると、そのミホザの騎士団が残した魔宝石をくれるってか。そもそもミホザの騎士団とはなんだ?」

「ふふ、察しがいい!」


 んな褒め言葉はいい、顎をクイッと動かしつつ、


「で?」


 と、ミホザの騎士団についての話を促す。


「ミホザの遊星が大本。高度に発達した古代種族の異星人たちの勢力の一つ。わたしたちの星系では、浴に第一世代と呼ばれている。ミホザ種族は、生命体が住む星々にモニュメントを残すことが多い」

「下の遺跡を作ったのは、そのミホザ星人?」

「下の原住民が聖櫃アークと呼ぶ代物はそうよ。遺跡はミホザが作ったかは分からないわ。そして、星人ってよりは他種族。頬とか耳とかに特徴がある。下の惑星セラでも、その末裔が確認されている。確かソサリーという名の種族だったはず。珍しいから見たことはないかもね」


 え? 見たことはある。

 やっぱりそうだったのか!


 マリン・ペラダス。

 俺が復活させたホルカーバムの大樹を代々守ってきた司祭。

 そして、聖花の透水珠を作ってくれた偉大な司祭だ。

 

 彼女のお陰で、メリッサとナーマさんは救われた。

 ……ミホザの、知的生命体の末裔だったのか。


「……知り合いにいる」

「へぇ、南マハハイムよね?」

「そうだよ」

「……ふ~ん」

「ソサリーとミホザが結びつくとは思わなかったが……」

「年月が経てば変化する。廃れたこともあるはずよ。でも、何かしらの遺跡は近くにあるかもしれない」


 ホルカーバムの近辺にか?

 枯れた大樹とか関係があったりして……。


 ベファリッツ大帝国の頃から石材が有名だったらしいからなぁ。

 他はやはり地下街アンダーシティとか?

 

 エヴァが昔住んでいたところも可能性があるのか。


「……古代の歴史か。ロマンだ」

「ふふ、そうね。第一世代のミホザは、いいパーツを残すし、すっごく、好きな種族よ……」


 すっごくか。

 何か意味があるのか?


「……第一世代と言うからには、最初の知的生命体の可能性もあるのか」

「それはだれにも分からない。わたしたちが勝手に第一世代と呼んでいるだけ。アセンションを経た種族と、エネルギー生命体に進化した種族のミホザという古代宗教が、ある惑星で有名だったけど……うーん。ミホザは、この惑星セラに元々あった遺跡を利用して、ただ、立ち寄っただけかも?」


 話を聞いていて、一瞬、モノリス大明神を思い出す。

 そして、


「意図的なパンスペルミア胚種広布じゃないのか」


 俺の言葉を聞いたハーミットは沈黙。

 俺と黒猫ロロを見る。


「ンン」


 喉声を返す黒猫ロロは視線を分かっているようだ。

 ハーミットは微笑んだ。

 そんな黒猫ロロを見て、触りたくなった、が……。


 我慢だ。

 

「それは、生命の起源のことを聞いているのかしら……わたしは考古学者じゃないわよ?」

「知ってる範囲でいい」

「人工知能のマギナを遮断しているから詳しく答えられない……多種多様の一言で終わるでしょ」


 それを言ったら身も蓋もない。

 んだが、せっかくだし聞いとこう。


「もう少し頼む」

「宇宙の種として、一定の効果はある。とは思うけど、それがすべてじゃないわ。ありとあらゆることが積み重なった結果よ。昆虫とモンスターとわたしたち、神界に魔界にエトセトラ。色々と異次元的繋がりもあるからね」

「要するによく分からないんだな」

「うん」


 そんなもんだよな。

 邪界ヘルローネには、もう一つの宇宙がある。


 この世は、まさに摩訶不思議。


 その、人工知能のマギナという言葉は気になった。

 俺のアイテムボックスに魔石を納めてもらえるアイテムの中に〝アクセル・マギナ〟がある。 

 あとで魔石を入れる際に試すか。


 が、まずはミホザの残した聖櫃アークを聞く。


「その魔宝石は何に使える? マジックアイテムだとは思うが」


 ベニーが扱っていた武器やらマジマーンが持っていた石版とは違うアイテムだろうし。


「魔力が豊富に含まれているから、魔石と同じく原住民たちもほしがるアイテムで、エネルギー源となる魔宝石。マジックアイテム生成の要として長らく使えるアイテム。本当はエレニウムストーン系、高濃度の魔力を含む金属素材で、深宇宙探査に必要不可欠な代物となりえる。わたしたち側では魔力なんたらとメチャクチャ長い名前があるわ。他にも、宇宙貿易の商品、艦内の設備で壊れた部品の代替パーツの素材を、これで作れるし、人工知能の感情抑制保護メモリの保管とスペクトル分析の補助部品にもなる」

「ほぉ~、重要だな。だが、恒星からエネルギーを吸収しないのか?」

「恒星からのエネルギー転換も便利だけど……ね。多重ワープ技術に耐えられるほどのエレニウムストーン系は造れないし、次元枠の維持もできないから、隠蔽機能維持のエネルギーにも使えるエレニウムストーン系は、かなり便利なの。恒星エネルギーの陽子変換は時間がかかるけど効率も悪いし……」

「へぇ、よう分からんが、魔石と似たような物でもあるってことか」


 と、アイテムボックスを見る。

 小さいが、膨大なエネルギーを秘めているってことか。

 極大魔石みたいな感じかな。


 だから、俺の交渉素材になるってわけか。

 ハーミットは、アイテムボックスを見て、

 

「それが戦闘用携帯デバイス……」

「このアイテムボックスを戦闘用携帯デバイスと呼んでいるのか?」

「……うん。戦闘型デバイスとも呼ぶ。その戦闘用携帯デバイスを下で、惑星セラの中で、手に入れたのよね?」

「そうだよ。しかし、俺は現地民とそう大差ないから、宇宙船もない」

「それで……遺産神経レガシーナーブに適合した、と……」


 過去に……。

 ――≪フォド・ワン・カリーム・サポートシステムver.7≫起動。

 ――遺産神経レガシーナーブを注入しますか? Y/N


 とあったな。

 そして、

 

 ――未知の元素、抗体を確認。適合化確率82%。

 ――適合化、成功。


「だとしたら、その戦闘型デバイスを、下のセラに持ち込んだ銀河騎士マスターか、その弟子の銀河戦士カリームの超戦士がいたはずだけど……」

「さあな。さきの話と通じるが、可能性ならいくらでもある……聖櫃アークとは、その素材の他にもあるんだろう?」


 ベニーとマジマーンが持つ聖櫃アーク

 七戒に集めさせて、セブンフォリア王家がほしがる秘宝が聖櫃アークだ。


「単体の武器もあるわね。性能も普通で興味はあまりないけど。あ、でも、文化レベルが低くても扱えるって点は、かなり凶悪かな。各地域を治める権力者が手に入れようとするのも頷けるわ」


 だからか。

 納得した。


「クルーになるとして、条件とかはあるのか? 強制は勘弁だ。宇宙の戦士ではないし、俺は下の惑星でやることが多数あるからな」


 〝軍に入って宇宙生物をぶっ殺して人類の進歩に役立とう〟は勘弁だ。


「……別にないわ。自由よ。わたしも自由に楽しく遊んで第一世代のレアを探しているし。あ、一応、下で活動しているエウロパって、ナ・パーム統合軍惑星同盟の部下がいるんだけど……」

「その部下と会え?」

「うーん。会ったら、たぶん、この船に誘導するでしょうし、本部に報告がいく。伝説の選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランス発見がナ・パーム統合軍惑星同盟の司令部に伝わることになるから、わたしの権限を越えちゃうわね、色々と拙いことになるから……」

「……ハーミットさんよ。あくどいな?」


 と、笑った。


「ふふ、これでも【八皇】の一人の宇宙海賊だからね。そして、上手いことやってクルーの一部と、この最新鋭艦を頂くつもりなの!」

「そのクルーに俺が入ってくるってわけか」

「そうよ。伝説の選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランス! ナ・パーム・ド・フォド・カリーム!」

「なんだそりゃ、クリームパンは最高に旨いの暗号か?」

「違うから!」


 と、片手で水平チョップ的なツッコミを入れるハーミット。

 違うポーズで一々ジェスチャーを取るから面白い。


『いいポージングです!』

『腰が細くてスタイル抜群だもんな……ヴィーネの腰ラインに似ている』

『はい、筋肉と骨が少し他の人族と違うようですね。精霊ちゃんの気配が少ないことも気になります』


 へぇ、何か強化外骨格的なモノが仕込んであるのかな。

 筋肉強化に役に立ちそうな〝プロテオーム解析〟。

 遺伝子強化の〝エピジェネティック編集〟の技術は発展していそうだ。


 俺が知る地球科学でもCRISPRでDNAのカット&ペーストは楽勝だった。


「しかし、艦長さんよ。ナ・パーム統合軍惑星同盟には、敵対している連中がいるんだろ?」


 俺がそう聞くと……。

 ハーミットは〝よくぞ聞いてくれました〟的な面を浮かべる。


「銀河帝国! わたしには商売相手の一つ。現在は敵対している立場でもあるけど」

「ハーミットさんよ。あんたは、ナ・パーム統合軍惑星同盟の上級大佐でもあるわけだろ? いいのかそれで」

「いいのよ。何か理由があるにしろ、わざわざ【八皇】のわたしを選んだのは、ナ・パーム統合軍惑星同盟の上層部なんだから、好きなようにするわ」


 ナ・パーム統合軍惑星同盟も裏がありそうだ。


「……このトールハンマーに乗っているクルーは、ナ・パーム統合軍惑星同盟の兵士たちなんだよな?」

「クルーの大半は汎用型ロボットよ」

「アンドロイド兵士か。なるほどねぇ……」

「あ、トップ連中は特殊機関セクター30の人員が占めている。だから、わたしの素性は知ってるはずなんだけど、なぜか、目を合わさずスルーする隊員が多い。実は、泳がされているのかもしれない。わたしは銀河帝国の餌?」


 ぶりっこポーズが似合う。

 

 だが、きな臭い連中が居る中で、分かってて艦長をやっているのか。

 ハーミットには、他に海賊仲間が居る?

 下で活動している海賊としての他に宇宙船があるのか。

 

 この船と本人が、帝国を含めたセクター30の監視者からの囮としての役割か。

 そのことは指摘せず、


「……それは俺も餌ということか?」

「あ、そうかもしれない。アウトバウンド・プロジェクトの資料が極秘裏・・・に銀河帝国側に回ってる可能性が高いし」


 わざとらしく、極秘裏のタイミングで、ウィンクを繰り出すハーミット。

 めちゃ美人で快活な女性だが……。

 関わっちゃいけない香りがぷんぷんする。

 が、面白そう……。

 

 クナ的でもありメル的な雰囲気もある。

 

「じゃ、ハーミットのクルーになろう。で、エウロパさんともいつか会おうと思うが」

「うん。会ったら、わたしとは初対面の振りをしてね♪」

「……時と場合による」

「そ……まぁいいわ」

「まだ会うか分からないが、エウロパさんの外見はどんな感じなんだ? 俺の右目にあるカレウドスコープを装着した怪しい女ドワーフなら見たことがある」

「確実にその子よ……銀河騎士マスターに憧れている女兵士。貴方にかなりお熱な状況。フォド・ワン・ガトランスマスター評議会のことを呟いていたし、ナパーム星系の覇権のことを含めて、何か秘密があるのかもしれないけど……」

「あの女ドワーフか……」

「あ、偽装しているだけだから、本来の見た目は超がつく美人さん。見たら驚くかもね♪」

「それは興味深いな。会いたくなったよ。本来の姿のほう、でだが……」

「ぇ? まだだめよ。まだ見つけていない第一世代のレアパーツとか……宇宙……特殊の……とかあるから」


 と、ぶつぶつ言い始める。

 

「んじゃ、下に送ってくれ。目立つからだめなのか?」

「いいわ。目立ってもステルス機能は高い。同じ場所に送る。あ、これとこれも――」

 

 と、聖櫃アークでもあるミホザの魔宝石と海賊マーク的なバッジを受け取った。

 

「その徽章はわたしの仲間としての証拠になる。心臓と髑髏のマーク。可愛いでしょ?」

「あぁ」

「真ん中のボタンを押して」

「こうか?」


 と、押した直後――。

 バッジが分解されてオカリナに変形した。


「それを吹けば……大切な思い出の音楽が鳴る。わたしと個人的に通話が可能になるから」


 レーレバの笛を想起する。


「へぇ、思い出の曲が流れるってことは大切なオカリナじゃ?」

「うん、気にしない。聞きたくないならミュートできるし、通話できるだけ。仕舞うときは、そこの下のボタン」

「そか」


 と、せかされた。

 押すと、オカリナが分解されつつ小さい心臓と髑髏のバッジに変化。

 そのバッジを胸元につける。


 ハーミットは急にそわそわして、恥ずかしそうな表情を浮かべていた。

 頬も斑に赤い。


「……ありがと」

「おう。じゃ下まで転移を頼む」

「うん、まってね――」


 ハーミットは掌のデバイスを起動させる。

 掌に小型の丸いウィンドウが出た。


「ハーミット、正直楽しかった。また会おう」

「にゃお~」

「うん、わたしも。記念の邂逅ね。じゃ操作するから――」


 デバイスのウィンドウに指でサインをする。

 ナ・パーム統合軍惑星同盟の軍の規約めいたものが勢いよく羅列していく。

 目の前のウィンドウから、はみ出るように出現した半透明のキーボードもある。

 ハーミットは片目に魔眼的なモノを発動したが、カレウドスコープ系の機械だろうか。

 

 そして、手の甲の表面に、うっすらと別の魔力の手が出現。

 その魔力の手は<導想魔手>ではない。


 コンピューター用のデバイス機能の一部か。 

 黄緑色に透けた長細い指たちは蠢く――。

 指たちは別の意思が宿っているかのごとく、凄まじい勢いでシュタタタタと音を立てながら、キーボードを叩いていく――。


 すげぇ……あの指の部分はアナログ的だが……。

 不思議と近未来的な印象を抱く。


 ナ・パーム統合軍惑星同盟の艦長デバイスを利用して、何かのハッキングをしているのか?


「――声紋は拒否、記録はすべて消去して、秘密裏にテスファオメガを許可、バイコマイル胞子を解放――」


 そのハーミットの声が響くと――。

 樹状突起めいたモノが俺の周囲に出現。

 背後の円盤機械からブゥゥンと音めいた波動を感じた直後――。


 元の地下遺跡に転移した。

 戻ってきた。


「あ、シュウヤとロロちゃん!」


 ユイたちが駆け寄ってくる。

 背後の皆はびっくり仰天顔だ。

 とくにクレインさんの驚愕めいた表情はおかしかったが……。


 今の現象を見たら、当たり前か。

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