六百二十話 ミホザの騎士団の古代遺跡

 ◇◆◇◆



 ここはセクター30の最新型深宇宙探査船トールハンマー号の艦長室。


 四方にレジスターを備えた無数の魔機械類があり、宇宙船の内部と繋がっている。

 中心には、普通の壁にも見える映像出力装置があり、そのカメラから惑星セラの高精細な映像を斜め下の宙空に展開していた。

 その艦長室に艦長ハーミットが立つ。

 正式には宇宙海賊ハートミット・グレイセスが彼女の名。

 ハートミットこと、ハートミット・グレイセスは、この艦長という身分を気に入っていた。


 そんな艦長ハーミットは……惑星セラで暮らすシュウヤ・カガリから出ている魔力反応を注視しつつバイコマイル胞子の異常な数値を把握し、数回、頷いた。

 ……惑星セラの球体ホログラフィックを両手で操作。

 球体ホログラフィー映像の地図は拡大される。

 その場所は古都市ムサカ。


 ハーミットこと、ハートミットは――。


 ここに選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスがいるのね。


 と思考する。


 エウロパは前に、


遺産高神経レガシーハイナーブと呼ぶべき代物ですから、伝説のアウトバウンドプロジェクトの超貴重なサンプルを、このまま反応を失えば……』


 と言っていたけど……。


 選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスは、【八皇】の宇宙海賊でもある、わたしの目的に気付いた?


 あの都市の地下の奥には、前々から目を付けていた。


 第一世代の回収していない文明の品があるはず。

 それを回収できる鍵を手に入れたのかしら。

 だとしたら、エウロパに悪いけど……。


 わたしが直に海賊・・として、オセべリアから免許状を受けているハーミット団としても、接触するしかないようね。


 遊星ミホザが残した第一世代のレアパーツは貴重。


 でも、鍵で起動ができたのなら……選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスと交渉できるかしら……。


 笑顔を意識しないと。


 と、自分の両頬にある靨に指を当てて……。

 微妙な笑顔を作る練習を繰り返す艦長ハーミット。



 ◇◆◇◆



「……エヴァは元気なのか?」

「はい」

「そうか、よかった……」


 クレインさんは微笑むとトンファーを拾う。

 そして、おもむろに顔を上げて、


「……エヴァは、この塔雷岩場前線に?」

「いえ、コンサッドテンの陣地にいます」

「ムサカに来ているのか! しかし、あの子がねぇ」


 クレインさんは、そう言うと、俺を睨む。

 ……アキレス師匠から受けるようなプレッシャーを感じた。


 これがエヴァの師匠か。

 しかし、睨みもいい……美人さんだなぁ。

 非常に若々しいエルフのトンファー使い。

 んだが、年齢は高いはず……。


 失礼のないように、


「……エヴァは強くて優しい女性です」


 俺の言葉を聞いても、クレインさんは凝視を続けてくる。

 全身を舐めるように蒼い瞳が動くと、腰の位置で視線が止まった。

 クレインさんは、俺の腰の装備品を見ていく。


 魔軍夜行ノ槍業。

 髑髏の杯の柄が目立つ血魔剣。

 その血魔剣とは、正反対な見た目と属性の眷属アイテム閃光のミレイヴァル。


 そして、鋼の柄巻のムラサメブレード。


「防具服は見たことのない質。武具も優れ物か」

「はい」


 クレインさんは、俺が右手に握る独鈷魔槍も凝視。

 短剣のような見た目で、仏具的な道具にも見える。


 珍しい魔道具とかにも見えるかな。

 神聖っぽさと魔の雰囲気を併せ持つ独鈷魔槍。


 銀色を基調とした螺鈿模様も珍しい。

 漆黒色と赤色と黄色で螺鈿と葉脈が合わさったデザインが施されてある。

 独鈷魔槍は、すこぶる芸術性の高い武器。


 エヴァの師匠のクレインさんが……。

 この独鈷魔槍を、しげしげ、と念入りに見る気持ちは分かる。


「その短槍は間合いが変化する魔槍か」


 独鈷魔槍の形状から予測はつくか。


 独鈷魔槍は、両端が伸びて槍刃も出る。

 見事、機構を当ててきた。

 さすがはエヴァの師匠。


 尊敬の意思を込めて、


「正解です。鑑定眼をお持ちでしたか」

「鑑定眼の魔眼はない。魔察眼からの推測だ」

「なるほど」


 俺の装備類を確認したクレインさんは俺の言葉に頷く。

 やや遅れて俺の顔を見てきた。


 ……また、少し間が空いて、


「エヴァの恋人に家族か……」


 と小声で呟くクレインさんは俺を見ながら首を縦に振る。

 観察を強めていると分かる。


 『うんうん』と頷く。


「だが、彼女の一人か……」


 と、ユイをチラッと見てから俺に視線を向ける。

 やや睨みを強めてくる。

 少し恐怖感を覚えたが、どことなく納得した表情でもある。


 そのクレインさんは、何かを思い出したような視線の動きから眉を開く。


 『ふふ』と笑ったクレインさんは魅力的。

 すると、銀色のトンファーを掌で急回転させた。


 ガンスピン的に銀色のトンファーを回す。

 回転する銀色のトンファーを滑らかな機動で手首へと移動させた。


 そのままトンファーで銀の数珠でも作るように――手首を返し返しのジャグリング技術の応用めいた動きで銀色のトンファーを扱っていく。


 ――凄い。

 俺も槍なら似たようなことができる。

 だが、今の、途中で軸を変えた微妙な速度変化はできないから勉強になる。

 筋肉と魔力操作か?

 槍の技術に応用が可能。


 新体操のバトン競技にもありそうな技かな。

 そんな銀色のトンファーを楽し気に操作するクレインさんは――。

 俺に向けてウィンク――。


「なるほどね――」


 そう喋りつつ銀色のトンファーを腰に差し戻す――。

 専用のホルスターに収めた。


 エクセレントな美乳さんが微かに揺れた。


『素晴らしいポージングですね!』


 小型のヘルメも興奮。

 気持ちは分かる。


『俺の視線の意味に気付いたような感じでもある』

『クレインは、閣下のおっぱい教とわたしのお尻教に気付いていたのですね』

『違うから。まぁ違うこともないが、俺の技術を学ぼうとする姿勢に気付いていたと言いたかった』

『あ、はい!』


 ヘルメにツッコミを入れながらも……。


 クレインさんを凝視。

 乳房と脇腹を覆う部分だけ肌に密着した作り。

 乳首さんの形が分かるが、その乳首さんもファッションとして取り入れている非常に洗練された防護服だ。


 筋が入った小物も魔塔のマークが入る。

 全体的にファッションセンスが高い。

 動きやすさを重視する装備品でもありそうだ。


 俺がクレインさんの観察を強めると、ニコニコ顔のクレインさんが、


「まさか、ディーとリリィも?」


 と、聞いてきた。


「ディーさんとリリィはペルネーテで元気に暮らしています」

「……そうか」

「はい」


 クレインさんは、安心したような面を作る。

 すぐに優しげな表情に変化した。


 また、俺を凝視してくるクレインさん。

 俺の瞳からエヴァの姿を探すかのような……深い眼差しだ。


 ……クレインさんは涙ぐむ。


「……あとでエヴァから話を聞くとしよう」

「エヴァも会えばびっくりするはずです」

「……はは」


 なんとも言えない表情だ。

 ……エヴァに会わせてあげたい。


「ですが上に戻る前に、この遺跡を調べます。ですので少々お待ちを、よろしいでしょうか」

「律儀な盟主様だ。構わない」

「リズさんもいいですか?」

「……」


 リズさんはクレインさんとは違う。

 反感を持ったように俺を睨む。


 カリィに相棒が殺されたとなると……。

 口では止められないか。

 だが、リズさんはクレインさんと知り合いだ。

 戦いたくはない。もし戦闘となったら『命を大事に』の精神で相手の動きを止める方向でいくか……。


 <鎖>か。

 ヘルメの<珠瑠の紐>を用いるとしよう。


 そう考えを一瞬で纏めた。

 リズさんに話をしようとしたが、


「……リズ。わたしは【天凜の月】に付く。今は気持ちを抑えてくれないか」


 察したクレインさんが、間に入ってくれた。


「どうしてさ、エヴァってのは銀死金死の弱みなのか?」

「エヴァは弟子なのさ。娘のような感覚と言えばいいか」


 リズさんはクレインさんの言葉を聞いて驚く。


「……クレインの娘のような弟子か……お前にそのような知り合いがいるとはねぇ」

「あぁ、追われているだけじゃない。昔、受けた仕事だったが、仕事を途中で中断しなければならない状況となった。そして、別れたまま、もう会えないと思っていたんだ」

「そうかい……予想外か。嬉しいだろう。が、テツは死んだ」


 リズさんはそう語ると、階段のほうにいるカリィを睨む。

 カリィは足だけが見えていたが、その足も見えなくなった。


 変なカリィの嗤い声がリズさんの怒りを助長する。


「……テツとは、恋人ではないだろう?」

「そりゃそうだけど」

「テツは、強者と渡り合って死ぬなら本望だと、毎回話をしていたな」


 と、クレインさんは思い出すように語った。

 リズさんも体を弛緩させて涙ぐむ。


「言ってた……」


 リズさんの短い言葉と態度を見てクレインさんは頷く。


「テツはカリィと戦いながら笑っていたぞ」


 リズさんは双眸を揺らし、涙を流す。


「……あいつらしい」

「わたしの加勢を拒み、カリィとテツの戦いは最低五十合は互角以上に打ち合っていたな。切り札を返されて致命傷を負いつつも……カリィに【流剣】の異名通りの<徳利流し>からの剣技で傷を負わせていた……しかし、その途中で、魔術師の集団と剣士の邪魔が入って乱戦になった。他にも手練れが交じり、階段へと環境が変わる中……紆余曲折あって、最終的に<導魔術>のカリィが勝ち残ったんだ」

「そうだったのか……戦いで満足に死ねたんだな」


 リズさんは涙を流しつつクレインさんに聞く。


「わたしが見るかぎりでは、そうだろう」

「そうか」


 リズさんは両目を瞑り、深く頷いた。

 テツさんは、流剣の渾名があるように強かったようだ。

 そして、クレインさんは、


「……リズ。【血月布武】のこともある」

「そうね。会長たちに……」

「あぁ」

「……そんな面を見せるな銀死金死。分かったから……今までの驕りが出た。そこのゲンザブロウといい強者との戦いで気持ちが高ぶりすぎたこともある」

「気持ちは分かる」

「ありがとうクレイン。テツの話といいよく止めてくれた。冷静になれたよ」


 二人の会話は……。

 他人だが、ジーンと胸にきた。


 二人は【魔塔アッセルバインド】に所属する傭兵だ。

 俺の名を知っていたように【血長耳】のレザライサと、その組織の会長さんは知り合いか。


「……でもさ、血長耳は戦争に参加しないと聞いていたのに……」

「リズ、愚痴はそこまで」

「……分かった。だが――」


 リズさんは、俺に青白い光を放つ魔剣の切っ先を向ける。

 ユイとレンショウが反応して、俺の前に出た。


 俺はゲンザブロウとアイを守ることを意識。

 斜め前に出た。


 リズは微笑みながら「安心しろ」と呟いて袖の中に魔剣を納める。

 と、頭を下げて礼をした。

 おもむろに頭部を上げたリズさんは、ユイたち越しに、


「【天凜の月】の盟主。わたしも銀死金死と同じく従おう。だが一つ頼みがある」

「話は聞こう」

「カリィと一対一の勝負がしたい。その立会人を【天凜の月】の盟主であるシュウヤ殿に、お願いできないだろうか」


 リズさんにお願いされた。

 カリィが、俺に従うような態度だったからか?


 すると、神鬼・霊風の魔太刀を鞘に仕舞ったユイが、


「――リズさん。それは厚かましいお願いよ? カリィを守るわけでもないけど、彼とは知り合いなだけで、【天凜の月】とカリィは無関係なんだから」


 と、発言。

 やや後方にいるレンショウも頷く。

 リズさんは頷いてから、


「……その通り。返す言葉もない……が、わたしの言葉は、この場だからこそ言える戯れ言と思ってくれ。そして、恐縮だが……同じ剣士の、武に生きる者の願いとして判断してくれないだろうか」


 リズさんは、再び頭を下げていた。


「……う、そうなると……」


 ユイはそう呟きつつ、困ったような表情を浮かべて俺を見てくる。

 ユイもまた武術に生きている剣士だからな。


 リズさんの気持ちが理解できるんだろう。

 ユイは俺に判断を委ねるようだ。

 俺は頷いてから、


「自由なカリィで、なにも強制力はないが、俺なりに努力はしてみよう」

「了解した。感謝する」

「期待はするな。それと血長耳の幹部を通して、レザライサに話を通すこともできると思う」

「そこまでしてもらうのは、気まずい」

「そっか。ま、とにかく、俺は二人と仲良くしたい」


 と、正直な気持ちを告げる。


「ふふ、【天凜の月】の盟主の、その言葉だけで十分だ。ありがとう」


 リズさんはそう語ると、隣のクレインさんとアイコンタクト。

 美女たちは頷き合う。


 落ち着いたようだ……俺は笑みを意識。


 リズさんは、俺を見て、蒼い目を揺らす。

 頬を斑に赤らめた。


「……シュウヤ殿。【天凜の月】の盟主か……なんか調子が狂う……」


 リズさんも美人さんだけに……。

 その視線と言葉の質を聞いて、少しドキッとした……。


 が、今は遺跡のほうを調べるとしよう。

 皆に視線を向け、


「じゃ、ミホザの騎士団の古代遺跡を調べる。少し待っててくれ。ゲンザブロウとアイはユイの近くで待機」

「はい」

「分かりました」


 二人はユイの背後に回る。

 ユイは俺に頷いてから、踵を返し、


「ゲンザブロウさんとアイさん、よろしく」


 と、挨拶していた。

 レンショウとリズさんにクレインさんも挨拶をしていく。

 カリィの声は聞こえないが、まだ階段の上のほうにいるだろう。


 ……さて、俺も遺跡の奥を見ながら歩く。


『ヘルメ、精霊の目を借りる』

『はい』


 歩きながら、片方の視界がサーモグラフィー化。

 温度変化的なモノはあまりない。


 右目の横の十字の形をした金属面アタッチメントを指で触る。

 カレウドスコープが起動すると、卍の形に金属の形が変化。

 瞬く間に、右目の視界にフレーム的なモノが発生し消えると、一気に視界が高精細に変化した。

 視力か、解像力的も能力が上がった。


 そのまま半透明色の髑髏を持ちながら……。

 祭壇の手前にあるような段を上がった。


 刹那、俺の足下が光る。

 光の足跡だ。


 半透明色の髑髏も魔力が自然発生している。


『――閣下の魔力に反応を?』

『そのようだ』

「シュウヤ、足下が光っているけど、大丈夫?」

「大丈夫だと思う」

「……わたしたちは、近づかないほうがいい?」


 背後からユイの声。


「悪いが見といてくれ。何が起こるか、これまた分からないからな」

「……見てるだけでわくわくしてくるんだけど……仕方ないわね」

「すまんな」

「うん」


 ユイの笑みのニュアンス。

 彼女の微笑む声と、頷く姿を思い浮かべる。


 心配してくれていると分かるから嬉しい。


 ま……この遺跡に来てニャンモナイトで帰るはずがない。

 いや、何もしないで、帰るはずがない。


 何もしないでニャンモナイトとか、自然と浮かんだが……。 

 相棒がいないから寂しいようだ。


 その刹那――。


「にゃごぁ」


 と、相棒の声が背後に木霊した。掌握察を実行――。

 相棒の魔素を確認しながら振り返った。ロロディーヌだ。


 ユイたちを走り抜いて、古代遺跡の壇を上がってくる。

 その足跡が光り輝く肉球マークだから、面白い。


「ンンン――」


 そのロロディーヌは、黒豹から黒猫に変身。

 小さい黒猫の相棒ちゃんが、肩に乗ってきた。


「戻ってきたのか」

「にゃ」


 と、俺の頬をペロッと舐めてくる。

 その相棒の小鼻をツンと人差し指で小突いた。

 俺の人差し指を凝視して、少し寄り目となる黒猫ロロ助。なぜか『コロ助』的に助とつけたが、ミーシャはエヴァたちに任せたのかな。


 肩に、相棒の可愛い体重を感じながら、台座に近付いた。

 古代の祭壇。

 その台座の中央には、それらしい窪みがある。


 この兜の内側のような半円形の窪みは……。

 どう考えても、シャルドネが俺に預けた、この〝半透明な髑髏〟を填める場所だ。


 台座は鍵穴。


「ンン」


 相棒も台座と、魔力を発生させている半透明な髑髏に興味しんしん。


「ロロ、猫パンチはなし」

「にゃ」


 よーし、このドクロちゃんを填め込んでみようか!

 勝手にドクロちゃんと名付けた半透明な髑髏を――台の窪みに填め込んだ瞬間――。

 台座が自発磁化でも起きたように、台座ごと半透明な髑髏が動く。


 カチャッと小気味よい金属音が響く。


 刹那、髑髏の中に魔力の光が生まれた――。

 ……クリスタルのプリズム光?

 受動素子風の光の伝わり方が綺麗だ……。

 半透明な髑髏の内部で樹状突起が発生。


 そのニューロン的な光の伝達はシナプス回路にも見えてくる。生命の意味がありそうな、光の魔力が生まれて、消えて、また、生まれていく。


 結晶光学が極まった動きとなった。


 極小さい集積回路が集結している?

 大脳と松果体か、アンフォルメル的なケイ素生命体の働きでも秘めていたのか?


 新型魔導人形ウォーガノフのゼクスの頭部を一瞬、想起する。

 学校で忙しいミスティを強引にでも連れてくるべきだったか?


 そして、光が頭蓋骨内を拡大するように頭蓋骨内を乱反射――。


「ンン」


 黒猫ロロは俺の肩から降りた。

 足下から目の前の髑髏の内部で起きている現象を見ている。

 時々、「ガルルゥ」と唸り声を発しているから警戒しているんだろう。


 半透明だった髑髏は、光の髑髏となると、眼窩に、その光が集結。

 眼窩に光の目玉的なモノが宿る……。


 いやな予感――眼窩の光はビームとなって俺の方向に迫る――。

 ぬおあ――とビームを仰け反って避けた。

 眼前と鼻先をビームが通るっ熱を感じた――。

 光子魚雷的な音がすげぇ!

 髑髏の眼窩から絶賛放送中の強烈なビームは背後の光り輝く壁と衝突。その壁を溶かし始めた。

 

 壁? 溶解する姿はアイスクリーム的でシュールだが――怖い。


「ンン、にゃご?」


 相棒もびっくりだ。

 目の前の硝子の髑髏がまた横回転。


「皆、避けろ――」


 と、ユイたちは階段側へと避難していたが、一応、警告。


 回転中の髑髏の眼窩から発せられているビームの火力は高い、遺跡の壁を切り裂く。


 線状の傷を壁に作っていった。

 遺跡が崩れたりしないだろうな――。


 更に髑髏はビームを放つ眼窩を動かす。

 眼窩の位置は変わらないが、屈折率を変えている? ビームはミホザのマークを模るように鋭角に壁を切り取った。



 壁が消えると髑髏の眼窩のビームの勢いが弱まりつつ眼窩の奥に引き込むように消えた。


 そして、その壁の向こう側には、狭い近未来的な空間が出現していた。


 中央には魔宝石が浮いていた。


「おぉぉ……」


 驚きだ。

 魔宝石の下と上に磁力の機械?

 

 魔力を発しているクリスタルが左右にある。


「にゃ?」

「ロロも興味を持ったか」

「にゃお~」


 と、鳴きながら――。

 一歩、二歩と先を歩く黒猫ロロさんだ。


 前方の空間を凝視。

 首から小さい触手を伸ばしていた。


 傘の尾のように、可愛い尻尾が立っている。

 

 黒毛が逆立って、もさもさだ。


 うんちのあとが可愛い菊門さんを露出しているが、指摘はしない。


「相棒、俺が先にいくからまて」

「ンン」


 と喉声を寄越す。

 とりあえず、あの魔宝石か?

 

 あれが聖櫃アークだろう。


 すると、聖櫃アークの隣に白っぽい霧?

 カレウドスコープの視界だと……。

 宙空に樹状突起的な亀裂が走っている。

 白っぽい淡い傷か、カビの胞子的なモノ?


 先ほどと同じ?

 髑髏の内部に生まれた樹状突起のようなモノか?

 それらの樹状突起の群れが、パワーパック的なモノが並ぶ?


 特殊な船室のようなモノを一瞬映す。


 と、樹状突起の群れは霞がかったような動きで、人を象りながら集結。


 その刹那――。


 パッと霞ごと象った白っぽいモノが消えた。

 え? 人の魔素の反応を示す。

 衣服が未来風の軍服を着た女性が出現した。

 どういうことだ。転移魔法?


 笑顔の軍人さんだ。


「――初めまして。選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスさん? と、黒猫ちゃん?」

 

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