六百十三話 ムサカ特務分遣隊第零八小隊


 空戦魔導師の気配を背後に感じたが、相棒の速度に追いつけるはずがない。

 空極のルマルディが、セナアプアに戻ったことを察知した優れた空戦魔導師が居たようだ。

 アキエ・エニグマなら追いついてきそうだが。


 と、神獣ロロディーヌを操縦しながらヴェロニカと血文字連絡をしていく。

 

『戦争は血を集めるのに好都合だけど、その地方は昔を思い出すから嫌い』

『悪かった。友のことがあったな』

『ううん、いいの。わたしの個人的なことだから気にしないで。サイデイルを守るための行動だし、シュウヤたちを応援する、がんばって』

『おう。ありがとう。ゲンザブロウとアイを救出し、豹文文明を調べる』

『うん! その古代遺跡は面白そうね。海と通じるミホザの騎士団の秘宝が眠るらしいし』

『そのようだ。マジマーンが持つ七戒を刻む古の石版の聖櫃アークも、その一つ』

『ベニー・ストレインが持っていた魔銃セヴェレルスも聖櫃アークでしょ?』

『そうみたいだな。ベレッタ系を基本としながらも、ベニーが俺たちと敵対した時は、ブルパップ方式のP-90やFNF2000と似た未知の銃に変形していた。そして、銃剣のギミックもあるし、後部に魔力をエネルギーに転換するコイルと繋がった噴射機能もある。スーパー格好いい魔銃だ』

『その、〝セヴェレルス〟の機構を熱く語られても、ちんぷんかんぷんなんだけど?』

『武器はロマンだからな。ともかく、魔銃を製造し聖櫃アークとして保管したミホザの騎士団は、相当技術力が高い集団ってことだろう』


「シュウヤは武術を学ぶことが好きなこともあるからね」

「ん、槍使いだけど、武術家でもある」


 傍で血文字コミュニケーションを見ていたレベッカとエヴァが話しかけてきた。

 俺は頷いて、


「銃使い的な<鎖>を使ったスキルも、この間覚えたからな」


 と、発言。

 

 魔銃を現在の技術で造るとしたら……。

 ミスティのような金属を扱える天才が数十人に、専用の高級炉に、エヴァも必要か。

 とにかく相当な技術力が必要なはず。

 だとすると、ミホザの騎士団は古代ドワーフ? 他の知的生命体の集団? 

 魔界? 邪界? 神界? エセル界? などの他の次元世界の集団?

 同じ次元内だとしたら、宇宙もありえるか。

 

 ナ・パーム統合軍惑星同盟。

 そのナ・パームと敵対する銀河帝国の品? 

 

 宇宙と言えば、アイテムボックスにエレニウムストーン大となる魔石を納めて、新しい銀河騎士用の装備も手に入れたいところだが……。

 迷宮産とは違う極大魔石だが、もし認識されたら、数も多いし大きさも普通じゃないから、凄まじい数のエレニウム総蓄量が溜まるはず。

 偵察用ドローン、アクセルマギナ、フォド・ワン・プリズムバッチと気になるアイテムは目白押し。


 ま、俺は不死だ。ゆっくりと歩む。

 そう思考したところで、ヴェロニカの血文字が浮かぶ。


『……うん。マジマーンもベニーも、地下神殿で見つけたらしいから、今回もミホザの騎士団関連かな』

『たぶんな』 

『でも、ミホザの騎士団ってあまり有名じゃないし、突如消えたことも不思議よね』

『まさに、古代ミステリーだ』

『ふふ、なんか、今、シュウヤの声が聞こえたような気がした』

『あはは。で、その魔銃を扱う魔薬中毒者のベニーの治療は、眷属化でも可能だとは思うが……どうなるか読めないからな』

『ベニーの件は任せて。でもさ、総長も守る者たちのためとはいえ、わざわざ、人族のオセべリア王国と付き合うようだし……色々と大変ね』

『そう言うお前もな』

『うん、お互い様か』

『んだな。で、その忙しいペルネーテの動きはどうなんだ?』

『総長の予測通り。メルが外に出た直後、潜伏していた闇ギルドのクソ共が湧くに湧く!』


 やっぱりな。


『倉庫街、歓楽街、貧民街辺りか?』

『そう、例の如く『港街』と呼べる倉庫街の縄張りの争いが激しい。中小の闇ギルドに海賊たち。魚人も人族も皆同じ。欲望に果てがない。ガゼルジャン経由以外からも色々な品が流通する場所がペルネーテでもある。そして、錬金術と同じく魔薬も常に進化しているようだから』


 欲望に果てがない、か。

 それは成長にも繋がる重要な生命観にも関わる部分でもある、仕方がない。

 

 すると、眼前に浮かぶヴェロニカらしい可愛らしい血文字を『うんうん』と頷いて見ているレベッカとエヴァ。

 隣に居るヴィーネは、俺の左肩に頭部を寄せる。


 そのヴィーネのくびれた細い腰に手を回して、ぎゅっとしたった。


「ご主人様……」


 お望み通り口吻をプレゼント。

 が、すぐにヴィーネの唇から離れて、血文字を作る。


『オセベリアの治安はどうなんだ? 白の九大騎士ホワイトナインのレムロナは?』

『王都にファルス殿下と出張中。治安は衛兵隊と第二青鉄騎士団と【天凜の月わたしたち】が対処している状況。だけど、わたしたちも忙しいから』

『レムロナは王都か。そういえばメルが極秘の和平交渉のことを言っていた』

『うん。戦争は長引くと思ったけどねぇ。オセベリア大平原と【大湖都市ルルザック】の利権は巨大だし、それに【緑竜都市ルレクサンド】も入るようだからね。戦争を推し進めていた第一王子派たちも痛手を被ったから互いの思惑が一致して、和平を急ぐ気配が濃厚。その交渉を巡って、レルサン王太子派とファルス第二王子派との争いが濃厚に……エスカレートしたら、総長の危惧通りになりそう……』

『内戦かよ。ラドフォード帝国も押し戻していたようだが……』

『なんでも【帝都アセルダム】で黒髪隊を推進していた侯爵が謎の死を遂げたとか。だから、サイデイルに関しても王都の連中がぐちゃぐちゃと言ってくる暇はないかと思う』

『ラドフォード帝国の侯爵の謎の死か。血長耳の暗殺者?』

『乱剣のキューレル以外に、そんな仕事を完遂できる実力者? ……うーん、分からない』


 だよなぁ。ん? もしかして……。

 セナアプアにレザライサが居なかった理由。

 俺にはエセル界に出張中とか言っていたが……。

 

 実は、帝国に出張していたレザライサ一行?

 ありえる。

 そのことは告げずに、


『……サイデイルとしては、ラドフォードとオセベリアの和平が上手くいっても、近くで内戦が始まるとか、それはそれで前途多難だな』

『まだ分からないからね。今回の脅しと第二王子とシャルドネの圧力は、かなりの貴族たちに効くと思うし、総長の暗殺が大きな布石になって内戦にいかないかもしれない』

 

 それの逆もある。

 ま、そのことは血文字では告げず。


『……ファルスはまだ王太子ではない。ゼントラーディ伯爵の暗殺も王都グロムハイムに近い貴族連中には、大した効力もないだろう』

『そうね。その辺りは、ファルス殿下の実力次第ってところかな』

『おう。どちらに転ぼうとも、サイデイルに手を出す奴らには、それなりの報復を仕掛けるつもりだ』

『なら手っ取り早く王太子レルサンとかルーク国王を倒す?』

『いや、それなり、と言っただろう』

『そっか、ふふ、ごめん』

『サジハリの知り合いの高・古代竜ハイ・エンシェントドラゴニアがレルサンの傍に居ると聞くし、機会があれば会いたいな』

『総長だし、世渡り上手と褒めたほうがいいかもだけど、遊泳術も、ほどほどにね』

『サイデイルを守るためなら努力するさ。んだが、ゼントラーディのような奴らばかりなら、最悪……』

『……寒気が走ったんだけど」

『ん、シュウヤは、少し怒ってた』


 と、傍に居るエヴァが血文字をヴェロニカに送る。


『敵と認識した途端、シュウヤは鬼となる』

『ん、優しいシュウヤだからこその、鬼。すべてが敵となってもわたしはシュウヤの傍にいる』


 エヴァ……。


『……エヴァらしい血文字ね。あと、そのゼントラーディ伯爵の行方が気になる』

『伯爵を操るように浮かんでいた幻影の人形。そして、伯爵と部下の死体を吸収して消えた人形は不思議だった』


 切り札の時間も関係なく少量の血と死体を吸い取って消えた。


『ゼントラーディは死んでいないかも? 怪しい』

『裏があることは確実だろう』

『でも、その伯爵が本当に死んでいたら、暫く【ペインバーグ】が主無き地となる』


 ペインバーグとは初耳だ。


『ペインバーグ?』

『ヘカトレイルの南西、バルドーク山の真上辺りの陸地。ペル・ヘカ・ライン大回廊の右辺りの土地名』

『知らなかった』

『うん、かなりマイナーで小さい土地だから』


 ヘカトレイルの周辺、オセベリア領か。

 だからこそ、シャルドネの会合に来ていた理由でもあるか。


『陸地で山間ってわけでもないのにバルドーク山の影響で隘路も多いし、ドラゴンたちの餌場でもあるゴブリンの巣だらけ。それに、大きな鉱山都市タンダールのほうが、超がつくほど有名だから』

『へぇ、そんな土地を支配していた伯爵か』

『そう。あと、ペルネーテでも報告がある』

『どんなのだ?』

『南方の墓地よ』

『イシュルーン闇教会か』

『そう。ポルセンとアンジェに総長たちが対処してくれた、あの邪教連中が、また増えてきた』

『あいつらは異常だったな……』

『うん、東亜寺院との争いの結果かもしれないって。せっかく、ララーブインの乱戦で【髑髏鬼】のちょっかいが減ったと思ったら、これだもの。ザープさんは楽になったと言うけどね。お陰で、帰ったばかりのベネ姉は忙しい。ま、そんな邪教連中だけど、神聖教会の魔族殲滅機関ディスオルテが戦ってくれるから漁夫の利的に、わたしたちには、いいんだけど……よくもない』

『よくもない、か。それはヴェロニカに対して、神聖教会の連中のちょっかいが始まったのか?』

『そう。メルがヘカトレイルに出た直後。他の闇ギルドたちと同じように始まった。アメリの活動は、平和そのもので貧しい人々を救ってあげているんだけどね』

『……神聖教会の連中はどんな面子だ?』

魔族殲滅機関ディスオルテのメンバーに、聖鎖騎士団を率いている助祭と司祭。個人の名前はまだ知らない……わたしはアメリを見守りたいのに……でも、その神聖教会の連中の追跡は、ミスティのイシュラの魔眼を備えた新型ウォーガノフの効果もあって、楽ちんに逃げることができたの!』

『ミスティから聞いてない』

『軽くあしらったし、わたしが報告する! と強く言ったから』


 血文字を見ている周囲から笑い声が起きる。


『ヴェロニカらしい』

『うん、ミスティは研究以外に臨時講師としての仕事も再開しているから。ま、わたしが単独で戦っても? <専王の位牌>で新しく造った紅月の傀儡兵を囮にして<血剣還楽>の集中砲火でフルボッコにできたんだけどね!』

『ん、血剣がいっぱい?』

『頼もしい! さすがはヴェロニカ先輩ね!』


 エヴァとレベッカが血文字を送った。


『ふふ、さすがは血を分けた姉妹たち! よ~く分かってる! 敵を<筆頭従者長選ばれし眷属>の力で蹂躙! あ、アメリちゃんに嫌われちゃうから無理だった』

『逃げられるなら、無理に戦う必要もないだろ』

『うん。あと、ここはペルネーテだから、ミスティとわたしが逃げ切ったあと魔族殲滅機関ディスオルテと神聖教会の連中は、邪界と魔界の眷属たちと争いになってた……少し野次馬気分で見ていたけど、邪界の連中は酷かった……戦う場所を選ぶ魔界の眷属たちが、まともに見えてしまったわ。で、助けてくれたミスティへの、お礼ってわけじゃないけど、ミスティの新型魔導人形ウォーガノフの素材提供と、ミスティとレベッカがよく知る魔法学院の秘密も手伝うことにしたから』

『だから、メルがセナアプアで素材を手に入れていたのか』

『うん、貿易の仕事はそれだけじゃないけど』


 傍に居るレベッカも頷いていた。


 このレベッカさんだが、ペルネーテかサイデイルか、それとも、俺たちと行動を共にするかと迷ったようだが……。

 俺がサイデイルに戻った際に、レベッカはルマルディの存在を実際に見てカッと目を見開く。

 そうして、紆余曲折あり、まぁ大嫉妬なんだが……。

 他の眷属たちに促されていたのも加わって、付いてくることになった。


 今も、レベッカは腰に手を当て胸を張りながら頷いている。

 すると、隣のユイが、


「シュウヤ、これから向かう古都市ムサカのことだけど、戦術面の貢献は期待しないで。父さんもあまり知らない」

「分かってる。同じサーマリアとはいえ、都市が違えばかなり違うからな。それより、カルードの手伝いはいいのか?」

「うん、遠い西のサザーデルリを目指す予定が大本だけど、父さんも父さんで、鴉さんの助言もあったのか、メルさんの手伝いに、ポルセン&アンジェにノーラさんと合流するみたい。アンジェさんとノーラさんは、姉妹とはいえ普通ではないからね」

「ノーラのことは気になる。が、ホルカーバムの地下街アンダーシティーの仕事か。トドグディウス系の【血印の使徒】との争いか?」

「そう。片腕のゾスファルトも乗り気。他にも裏の仕事を引き受けた。メリッサさんとディノさんの【ベルガット】とも連携するみたい」


 メリッサ……会いたいが、我慢。

 と、そこに「ンン、にゃおおお~」と、神獣ロロディーヌの大きな鳴き声が響く。


 相棒は巨大な頭部を微かに右側に傾けた。

 霧があるが……そろそろか。お、霧が晴れた、古都市ムサカが見えてきた。


「ん、古都市ムサカ?」

「うん。別名、豹文都市ムサカ!」

「手前のハイム川にある大きな港がオセベリア領ね、ここを押さえてある辺り、シャルドネの優秀さが分かる」

「……空軍がない」


 相棒に触手と手を繋ぐように金具が結ばれているアルルカンの把神書が語る。

 

「グリフォン隊同士の戦いもあったようですし、建物に突き刺さっている死骸が……」


 ルマルディの言葉に頷いた。

 ユイが、


「建物は残っているところが多いから、ゲリラ戦になるのは当然ね」


 と、発言すると、キサラが、


「両陣営とも、ムサカの都市機能を麻痺させたくはないんでしょう」


 と、言いながら、ダモアヌンの魔槍の穂先を古都市ムサカに向ける。


「ん、でも、被害が大きいところがある……」


 俺は皆の意見に頷く。


「ここから少し見ようか。ドンパチ具合が気になる」


 と、皆に告げる。

 この高度からでも下の戦いの様子は、ある程度把握ができた。


「了解」

「ん」

「おうよ。俺が偵察してきてもいいぞ」

「だめ、目立つ」

「チッ」

「当然ね。レネのような射手もいるでしょうし、神獣ロロちゃんでも危ないんだから。撃ち抜かれたアルルカンの把神書も見てみたいけど」

「おう、ちっぱい、レベッカとやら、俺の火球を味わってみたいようだな?」

「あれ? この間、わたしの蒼炎弾を喰らって、ごめんなさいしてたのはだれ?」

「……神獣ぅぅぅぅ」

「ンン、にゃ~」


 神獣ロロはアルルカンの把神書を引き寄せて黒毛の中に格納してあげた。

 ふさふさな黒毛から、震えているアルルカンの把神書は上部を少し晒して、こちらを窺う。

 面白い把神書だ。

 

「ごめんなさい、レベッカさん。アルルカンの把神書に代わって謝ります」

「あ、ううん、いいって、事実だし……」


 そう語るレベッカは、ルマルディではなく、俺を熱い眼差しで見つめてくる。

 俺はすぐに頷いた。

 そうだ、胸の大きさなんて関係ない。


 好きな女のおっぱいが重要なんだ。

 そんな俺の心を読んだように微笑むレベッカは、ルマルディに視線を向け直し、


「……それより、ルマルディさんは、まだ不死じゃないから無理はしないでよ」

「大丈夫です。それなり・・・・に戦えますから」


 と、ルマルディは俺を見ながら自信ありげに語る。


「そう? 空極って渾名の実力か」

「飛行術も学んでいない手前、まだまだひよっこだが……空の戦いは、是非とも参考にしたいぞ」

「ヴィーネさん、無属性か風属性があれば飛行術の魔法書で覚えることだけは・・・、可能です。その希少な魔法書は、セナアプアにある魔法学院か、空魔法士隊に所属すれば安く手に入るはず」

「かなりの訓練が必要となるのだな」

「はい。適性もありますし、魔力や精神だけではない技術が必要です」

「すべての魔法使いが空を飛べるわけじゃないからね」

「飛行術を覚えられる魔法書って、お店で見たことないけど」

「その辺りは、【魔術総武会】の既得権益でもあるからね」

「既得権益か、ぶっ壊したくなるな」

「既得権益をぶっ壊せ?」

「そうだ。既得権益をぶっ壊せだ!」

「ンン」


 俺の言葉に影響を受けたわけじゃないと思うが、急に神獣ロロディーヌが喉声を発した。

 続けて、


「にゃお~」 


 と、鳴いてから、触手をユイの体に絡ませる。


「きゃ、え? わたし? ぁう」


 と、ぎゅっと触手でユイを抱きしめたようだ。


「ンン――」


 そのままユイを俺に預けた神獣ロロディーヌは旋回を開始する――。

 俺はユイの腰に手を回して、首筋にキスをしたった。


「ぁ――」


 と、すぐに俺の唇を強引に奪うユイ。

 ユイは必死に俺の唇を貪る……可愛い。


 そんなキスを長く続けていたかったが……。

 レベッカに脇腹を突かれて、エヴァに引き離された。


「閣下、お楽しみはそこまでです、そろそろ都市が」

「おう」


 指先から水をぴゅっと飛ばすヘルメちゃん。

 蒼い水飛沫に促されたわけではないが――。


 俺は古都市ムサカを見る――。

 古都市ムサカとは距離が離れているが、戦場だとよく分かる状況。


 悲惨な戦場の現場は現実だ。

 感傷に浸る暇なんてない。


 ユイが語るように、射手と魔法による対空攻撃は、未知数。

 優秀な射手のレネ。

 スナイパーによる狙撃以外にも、91式携帯地対空誘導弾的な赤外線ホーミング性能を持った火球や礫の遠距離攻撃など可能性は無限だ。


 ……ただでさえ、空の領域にはモンスターが多い。

 グリフォン隊やら竜騎士隊がある戦争だ。

 竜退治に使える巨大なバリスタ。

 スティンガーミサイルのような魔法は豊富にあるだろう。


 そんな攻撃がどこから来るか、分からない。


「あなた様……わたしでは敵と味方の区別がつきかねます」

「そうだな。青鉄騎士団は青色だったから青が味方だと思うが……何分、ゲリラ戦だ……」


 そう告げてから、再び古都市ムサカを見る。

 <光魔ノ蝶徒>のジョディは、ロロディーヌの巨大な耳の傍で飛翔していた。


 手前が、港のある北側のオセべリア王国の領域。

 南側の奥がサーマリア王国が奪還した地域……。

 塔雷岩場は……古都市ムサカの南西と聞いたが……。


 だいたい、把握したが、やはり距離がある。

 ここからじゃ、いまいち分からない。


「やっぱり、わたしたちも地上に降りなきゃだめか」

「勿論」

「ん、当然」

「はい、ここからでは建物も多く判断が難しい。敵味方が入り乱れて戦っていると分かりますが……」


 ヴィーネの言葉に頷いてから、


「とにかく二人を救えればいい。敵の殲滅が目的じゃない」

「顔は覚えている」


 エヴァに代わって、俺の手を握ったユイの言葉だ。

 その手を奪い返すレベッカが、


「――地下オークションの時、両手から四角い物体を作っていた能力者よね。異彩を放っていたからよく覚えている」


 レベッカの手を叩いて、俺の手を奪ったキサラが、


「――わたしは知りません。ですが、シュウヤ様の命令を聞いて、全力を尽くします」


 キサラの言葉を聞きながら、触手手綱の操縦桿を離した――。 

 直ぐにカレウドスコープを起動。


 ビームライフルを取り出す。

 スコープ越しに戦闘が激しい場所を調べていく……。

 散発的な戦闘が建物と路地と崩壊した建物の中で起きている。


 一方で、大規模な戦いもあった。

 それは灰色の騎兵集団と青色の槍兵たち。

 騎兵は足場が悪そうに見えるが……随分と機動力が高い。

 馬が特別か、馬具か、騎乗主の全員が魔法使いか。


 戦国時代でも竜騎兵と呼ばれた鉄砲騎馬がいた。

 

 ビームライフルを仕舞う。

 カレウドスコープも解除。


「特別な騎兵、シャルドネの兵が苦戦したと語っていたが……」


 と、傍に居るサーマリアを知るユイを見たが、ユイは頭部を振る。

 ヴィーネも知らなかった。

 レベッカはなぜか自信ある表情を浮かべて、


「知らない。ポポちゃん系の魔獣じゃないからよかった」

「そうだな」


 と笑って頷く。


「皆、ゲンザブロウとアイの塔雷岩場はここからじゃ分からない。まずは、シャルドネの指示通り動くとしようか。豹獣人セバーカ虎獣人ラゼールの頭部が記された旗がある、陣地を目指す」

「傭兵集団コンサッドテンの軍営ね」

「あれでしょ?」


 と、レベッカが白魚のような指の一つを伸ばす。


「そのようだ。それじゃ降りる前に、皆、もう一度作戦を整理しよう。俺が許可するまで先制攻撃はなし。現場には、少人数で向かう。先鋒は俺と相棒とユイ。少し遅れてヴィーネとジョディが中衛。コンサッドテンの軍営側に近い後衛に、エヴァとレベッカとキサラとルマルディだ。で、当面の目標はゲンザブロウとアイの確保。最終目標が、コンサッドテンの陣地側に、その確保したゲンザブロウとアイを連れて行けば任務達成となる」

「了解」

「はい」

「任せて」

「ん」

「ご主人様、フォローはお任せを」

「閣下、水攻めの出番ですね!」


 忍の浮き城の話を覚えていたヘルメ。


「いや、とりあえずヘルメは左目に戻れ」

「はい――」


 左目にヘルメが来る。

 相棒はすぐに下降し、傭兵集団コンサッドテンの陣営に到着。

 俺たちは神獣ロロディーヌから降りると早速、獣人の傭兵たちに囲まれた。


「止まれ!」

「何者だ、指示にないぞ!」


 皆、傭兵集団だけに厳つい。

 すると、ヴィーネが、


「――静まりなさい。今、隊長が説明をします」


 と、演技モードに入る。

 なんか、懐かしい。

 よし、シャルドネの指示通りに、いや、少し弄って、


「俺たちは、ムサカ特務分遣隊第零八小隊の者だ」


 そう挨拶してから侯爵の家の指環を翳した――。


「それは、閣下の!」

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