六百十一話 ステータスと空が好きな相棒※
新橋色から飛雲の景色に移り変わる。
無数の極大魔石をアイテムボックスに収めたいが、まだいいか。
片手で触手の操縦桿を握りつつ魔煙草を吸う。
空を見た。
ロロディーヌは、
「ンン、にゃ~」
と、鳴きながら触手の一つを西のほうに向ける。
遠い西北だろうか、狸を操る人族系の方と、グリーン色の翼を持つ神界戦士団の方々が見えた。
相対する魔族系の軍団は人の頭蓋骨を持つ龍軍団……。
関わってはいけない戦いだ。
「ロロ、交ざりに行かなくていいからな」
「にゃ~」
長い耳を俺にかぶせてきた。
内側のフェザーとピンク色の肌に包まれる。
「はは、くすぐったいぞ」
「にゃ」
相棒は両耳を元の位置に戻して、通常運転に切り替わってくれた。
カラフルな毛が丸くなった毬藻風妖怪と、その丸い妖怪を使って空中でテニスのような遊びを繰り返すジョディが視界にチラつくが――。
まずは、ステータスの確認だ。
ステータス。
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:23
称号:覇槍神魔ノ奇想:血魔道ノ理者
種族:光魔ルシヴァル
戦闘職業:霊槍印瞑師:白炎の仙手使い:血外魔の魔導師:血獄道の魔術師
筋力28.0→29.4敏捷29.1→30.1体力26.9→27.7魔力29.5→32.8器用26→27精神30.5→33.5運11.4→11.5
状態:普通
全体的にかなり上昇した。
呪神ココッブルゥンドズゥ様の呪いのせいでもあるが、俺の運が上がることは珍しい。
当然かな、地下の旅からここまで激戦が続いた。
その最たるものだった独立都市フェーンでは……。
地底神ロルガと
キッシュ、ハーデルレンデの一族の象徴『蜂たちの黄昏岩場』の秘宝〝蜂式ノ具〟を取り返した。
その秘宝〝蜂式ノ具〟はキッシュの女王としての冠に変化した。
神々が祝福した大いなる力を宿す冠。サイデイル復興の象徴でもある。
――おめでとうキッシュ。
友であり、愛した女性だ、誇らしいし、とても嬉しい。
ロルガ討伐に、蜂式ノ具の奪還は、そのキッシュの祖先のベファリッツ大帝国と繋がるエルフ氏族ハーデルレンデたちとキストリン爺の願いでもあった。
聖戦士イギルも関わっているのかもしれない。
ボンが魚と一緒に釣り上げたガラス瓶の中にあったイギルの歌。
その記述では、イギル・デスハートは個人のようなニュアンスの文字だったが……。
俺が<死の心臓>を獲得した際の経緯から判断すると……。
複数のイギルが、古貴族を含めて過去に存在していたと認識すべきか。
そして、ダークエルフのミグス・ダオ・アズマイルを救出し、ダウメザランに戻してあげた。
そのミグスが関わる第六位魔道貴族アソボロス家の内紛について細かくは知らないが……。
俺がそのアソボロス家の権力争いに一石を投じたのは事実。思わず、魔毒の女神ミセアの嗤う顔を思い浮かべた。
そういったことがあったから、運が少しあがったのかもしれないな。
次は、スキルステータス。
取得スキル:<投擲>:<脳脊魔速>:<隠身>:<夜目>:<
恒久スキル:<天賦の魔才>:<吸魂>:<不死能力>:<血魔力>:<魔闘術の心得>:<導魔術の心得>:<槍組手>:<鎖の念導>:<紋章魔造>:<精霊使役>:<神獣止水・翔>:<血道第一・開門>:<血道第二・開門>:<血道第三・開門>:<因子彫増>:<破邪霊樹ノ尾>:<夢闇祝>:<仙魔術・水黄綬の心得>:<封者刻印>:<超脳・朧水月>:<サラテンの秘術>:<武装魔霊・紅玉環>:<水神の呼び声>:<魔雄ノ飛動>:<光魔の王笏>:<血道第四・開門>:<霊血の泉>:<光魔ノ蓮華蝶>:<無影歩>:<ソレグレン派の系譜>:<吸血王サリナスの系譜>:<血の統率>:<血外魔・序>:<血獄道・序>:<月狼の刻印者>:<シュレゴス・ロードの魔印>:<神剣・三叉法具サラテン>:<魔朧ノ命>:<鎖型・滅印>:<霊珠魔印>:<光神の導き>:<怪蟲槍武術の心得>new
エクストラスキル:<翻訳即是>:<光の授印>:<鎖の因子>:<脳魔脊髄革命>:<ルシヴァルの紋章樹>:<邪王の樹>
まずは<死の心臓>からか。
地底神ロルガの一派との戦いに勝利した時に、獲得した格闘系のスキル。
この<死の心臓>は骨種族のドルライ人の強者ワイティワンに喰らわせた。
……<死の心臓>を獲得した際は不思議だった。
巨大な光を帯びたデボンチッチらしき幻影が現れて、
『イギルを超える聖戦士。我はしかと見た、り――これを――』
そんな思念を寄越してから、幻影が出現した裂け目の空間から、光り輝く紙片が落ちてきたんだ。
あの幻影の正体は光神ルロディス様だろうか。
八咫烏とか、熊野の烏のような存在?
キッシュの時にも黄金の烏は現れた。
それとも魂の公正さを量れる秤を持つミカエルのような大天使?
レオナルド・ダ・ヴィンチとロレンツォが作った『受胎告知』の絵で有名な〝神のことばを伝える天使〟としての、ガブリエルのような存在?
神の御座に近い熾天使セラピム?
智天使ケルビム?
神界セウロスはエデンの園ではないから、違うか。
どちらかと言えば、ギリシャ神話的かな。
最近、冒険者ギルドでキサラが水晶に手を当て、お世話になった秩序の神オリミール様。
機械的な姿が異質だった、正義の神シャファ様と話をしたこともある。
この間も、『正義はなされた』と声が響いた。
何気に、正義の神様とは……縁が深いか。
その正義の神様から授かった正義のリュートは時々使う。
職の神レフォト。
戦神ヴァイスのような荒々しいイメージを持つ戦う神様もいる。
戦神イシュルルもいる。戦巫女のアレイザは、未開スキル探索教団のメンバーにいた。
そんな神界から墜ちたモノも多いようだ。
神剣
北洋神話を彷彿させるオークの神々も神界セウロスと繋がるんだろうか?
神界セウロスも一つの次元だからとてつもなく広いだろう。沙、羅、貂、の貂は仙魔術系の仙王術が使えるし、俺の戦闘職業の一つ〝白炎の仙手使い〟の説明にもあった。
※白炎の仙手使い※
※神界の〝白蛇竜大神〟を崇める【白炎王山】に住まう仙王スーウィン家に伝わる秘奥義<白炎仙手>を獲得し、竜鬼神グレートイスパルの洗礼を受けて、他にも様々な条件を達成後に覚える希少戦闘職業の一つ※
※仙技系戦闘職業は数多あれ、水神アクレシスの<神水千眼>に棲む八百万の眷属と
神界には白炎王山もある。
貂の出身地の【
神界セウロスか。
さて、<死の心臓>の使い手デスハートが残した紙片を、もう一度、読むか。
ポケットから、そのデスハートの紙片を出した。
□■□■
わたしは聖戦士の連盟者が一人。
イギルの名がついたデスハートである。
帝都キシリアに向かう途中、地底神たちの争いに巻き込まれた。
地底湖のような場所に落ちてしまった……。
そして、この傷は深い……。
いかに聖戦士が一人と呼ばれた、特異な血の回復能力を持つわたしでも、この傷だ。
あぁ、今も片目が腐った。
だが、まだ奇跡のような光景は見えている。
これもルファの言葉通りかな。
……はは。
この手紙がルファに届くか不明だが……。
書くだけ書いているように……片腕と片足だけが、動くのみ。
体は朽ちていく。
……ルファ。
……わたしのルファ・クリストン。
お前との約束を果たせず、ここで朽ち果てることを許してくれ。
お前を幸せにすると、サデュラの森で誓いを果たすと……約束したが……。
してやれなんだ。すまない……。
だが、この死を前にした状況で、分かったことがあるんだ。
目ではなく、感覚で理解できることがある、と。
目に見えるものだけがすべてではないのだ、とな……。
ルファがわたしに……。
『目で見える物がすべてではないのよ』
と、語ったことを。
あの時、わたしは『どういうことなんだい?』と聞いたな。
ルファは『心で見るの。そうするとね、自然に大地の神ガイア様の息遣いを感じられる』
『理解できんよ』
『ふふ、デスハート。大切なことは目に見えないのよ。植物の女神サデュラ様の美しい言葉も心の目で見ると、聞こえてくるんだから……』
あの笑みは忘れない。
そして、その言葉は本当だった。
今、目の前にある落ちた場所は綺麗な地底湖で、奇跡を見ている。
片目だけで、だ。
頭も打ったから幻覚かと思ったが違う。
しかと、見えている。
感じられている。
この地底湖は、どうやら光神教徒のような魂たちが集まる場所のようだ。
天道虫が沢山集まっている。だからこそ、今、書いている。
……光神ルロディス様。
わたしには、愛の女神アリア様の力はありませんが……祈ることはできます。
この手紙を愛しいルファに届けてください。
そして、奇跡が成し得て、この手紙を見た方……。
わたしが血の集積から得て獲得した技術を、この紙片に託す。
血の技術を流用できるスキルを持つ者よ、利用してくれ。
ま、無駄なことになる可能性が高いが……。
どうせ死ぬのだ。構わない……。
最後の魔力を込める。
……その前に、あのドワーフの語っていた地底湖がここなら、聖槍ソラーはここに眠っていることになる。
同時に、わたしの愛用した魔槍グンダファと、皇都までの地下地図にアロトシュの血衣と、他の装備もここに眠ることになるだろう。
オークたちも含めたダークエルフたちが奪うかもしれないが……。
神々が力を貸してくだされば、光神の導きを持つ聖戦士が見つけてくれるはず……。
だから、ここに使えるアイテムが眠る場所を記しておく。
そして、わたしのすべてを込める前に……。
ルファ愛している。
幸せになってくれ……。
□■□■
紙片を仕舞う。
皇都までの地下地図とは、皇都キシリアのはず。
風のレドンドの依頼に通じる重要な手がかりだ。
<光神の導き>を持つから導きを受ければ手紙の内容の地底湖付近で眠っているデスハートさんの装備を手に入れられるかもしれない。
しかし、地下も色々な勢力が存在している、その装備品も失われている可能性が大きいから期待はしない。
転生した直後……。
古代の図書館のような遺跡にアロトシュの書物があったが、触ったら塵のように消えてしまったこともあった。
よし、スキルを調べよう。
※死の心臓※
※光貫手流技術系統:亜種※
※聖貫手流とも呼ばれる。光属性必須、筋力、敏捷、魔力の高水準が求められる※
※魔槍使いデスハートが無手でも強かった証し※
聖貫手流技術系統か。
キサラから貫手法を学んだことも影響はあるかな。
心臓を抜き取る技でもあるが、ようは、素手を槍の穂先に見立てた<刺突>って感じだろう。
<白炎仙手>、<ザイムの闇炎>、<蓬茨・一式>に応用は可能なはず。
次は<光穿>。
※光穿※
※光槍流技術系統:基礎突き。上位系統は亜種を含めれば、数知れず※
※<刺突>系に連なる槍スキル。光の属性が付加され物理&魔法威力が上昇、対闇属性特攻効果あり※
※光属性に<光神の導き>と高水準の能力が必須※
なるほど……。
過去を思い出しながら、少し前に獲得した<光神の導き>を調べた。
※光神の導き※
※<光の授印>と光神ルロディスの影響化にあるアメリの聖眼を見て、祝福を得て、祝福を与え、愛されていることが必須※
※迷いし光の魂たちを直接救う者が魔と縁深き者であることに光神ルロディスが強く興味を抱いた証明※
※光神ルロディスと光の精霊たちの誘いを受けやすくなる※
<霊珠魔印>と<召喚霊珠装・聖ミレイヴァル>といい……。
すべてが繋がっていると分かる……。
続いて<光穿・雷不>だ。
これも使った。魔壊槍の神界版といった印象だった。
※光穿・雷不※
※光槍流技術系統:光槍奥義※
※<光穿>と<光神の導き>が必須※
※<光槍技>に分類、光神ルロディスの失われた八本の神槍が一つ、名は雷不※
※別名、光涙の八矛。光神ルロディスが光の大精霊を失ったさいに流した八つの涙が、雷を帯びつつ集結し光槍となったとされる※
へぇ。光槍奥義か。
小とか付いていないが、基準がないのかな。
ということは、雷不という神槍が、神界にある?
すると、角度を変えたロロディーヌ。
負けるか、まだ調べていないスキルがある!
自然と指が――<怪蟲槍武術の心得>に向かった。
※怪蟲槍武術の心得※
※すべての高水準の能力と<光神の導き>と<魔雄ノ飛動>が必須※
※王牌十字槍ヴェクサードを地面に刺すことで、<魔雄ノ飛動>に呼応した攻防一体の魔力波動が使い手から自然発動し、他武術との連動性が飛躍的に高まる。槍武術の場合は、器用と敏捷が、より強化され、槍の交換がスムーズとなる※
※怪蟲槍武術とは、蟲使いの狂戦士ヴェクサードが、巨大魔消水晶、魔白金王プレムなどで作られた王の位牌を武器とする怪狂流を源流とするオーク古代武術とタンモール語をアレアガニムの地下街で学ぶことにより、獲得できた※
※オークの狂戦士ヴェクサードは地底神キールーを崇拝するアブ・ソルンの一人と呼ばれている※
ふぅ、少しズキッと頭部が痛んだが、大丈夫だろう。
俺はステータスを終了させた。
「ンン――」
「神獣様も楽しげです~」
飛行するジョディが言うように、俺たちは空旅中。
遠くにクラゲの群れが見えた。
『すき』『あっち』『あっち』『くらげ』『あそぶ』『くらげ』『たべる』『おなかへった』『あそぶ』『すき』『たのしい』『すき』『あめんぼ』『まほう』『ほのお』
と、神獣ロロディーヌが気持ちを寄越す。
ラファエルが魂王の額縁から出していたラメラフルは、もう仕舞ったようだ。
「ん、泳いでいるクラゲたちのほうが大きく見える。ハイム川が小さい」
近くに居たエヴァが指摘。
俺は左のほうに腕を向け、
「そうだな。あそこには、巨大な塔が見える」
「――ん、遠いけど目立つ、不屈獅子の塔」
「昔から冒険者が集まると聞いたが、まだ行ったことがない」
「ん、わたしもない。大昔から存在すると聞いた。でも、綺麗。神々が使う巨大な槍みたい」
巨大な槍か。
「塔とは聞くが、エヴァの言うとおり、本当に、宇宙規模の槍だったりして?」
「ん、シュウヤがおっきくなって使う?」
「巨大槍使いの爆誕か! ないない」
「うん、ふふ」
エヴァの微笑を見て、気持ちが和らいだ。
「……あの手前が、王都ファダイク辺りか」
「うん。ネレイスカリと敵対する宰相の地……」
「サージバルト伯爵領はこっちのほうか」
と、ハイム川近くの陸地を指すが、ここからではあまり意味がない。
「ん、シュウヤ、そろそろ皆のとこに戻る」
「了解」
エヴァは近くを飛翔するジョディに、手を振ってから、神獣ロロディーヌの背中側に向かう。さて、このまま塔烈都市セナアプアだ。
その下層の港で、停泊中のメルたちと合流予定。
小隊同士が鎬を削る【塔雷岩場】の戦場には、まだ向かわない。
そして、空が好きな相棒だ……。
これから向かう場所は激戦必至な戦場の予定だ。地下遺跡といい未来は読めない。
今は空を飛びながら美味しいモノを食べてお腹を膨らませて、楽しんでほしい。
だから、運転は任せよう――。
その俺の気持ちは、瞬く間に相棒へと伝わった。
『すき』『すき』『すき』『あそぶ』『くらげ』『たべる』『まんまる』『あめんぼ』『ぱるぱー』
と、気持ちを寄越すロロディーヌ。
俺の首に張り付いていた平たい触手の先端が離れると、ゴムが縮むような動きで触手手綱を握る親指と人差し指の間へとシュルッと収まった。
その操縦桿のような相棒の触手手綱から手を離す――。
操縦桿のような触手は、後頭部の中へと瞬時に引き込まれた。
巨大な神獣ロロディーヌは、耳を揺らしつつ、
「――ンン」
そう鳴くと、上昇を開始――。
同時に、俺は、背中側に振り向く――。
「シュウヤ、ロロちゃんに操縦を任せるってことは寄り道?」
「おう、相棒も腹が減ったようだ」
そう発言しながら、操縦席の神獣ロロディーヌの後頭部から足下に生えた黒毛を滑るように降りる。
手を振るレベッカたちの下に向かった。
アイテムボックスからある物を出して、皆にそのアイテムを見せた。
「それがシャルドネさんから、頂いた髑髏ですね」
白と黒の双眸を持つジョディが聞いてくる。
俺は頷きながら、
「そうだ。半透明で不気味だが、地下遺跡の鍵らしい」
「ん、ベニーが気にしていた」
「帽子が似合う銃使いね。彼の理由を聞いたら……」
「あぁ」
ベニーか。
事情を知るとやるせない……。
と、俺の表情を見たレベッカは、パッと明るい表情を浮かべてくれて、
「でも、さ、豹文文明の秘められた歴史が眠る地下遺跡の鍵を、あっさりと差し出すなんて、シャルドネにとって、連絡が途絶えたゲンザブロウとアイの二人は、よほど、失いたくない貴重な戦力なのね!」
と、話題を変えてくれた。
普段のレベッカは、ツッコミ屋だが、こういうところは凄く優しい。
俺は頷いて、
「そのようだ」
と、話をすると、キサラが、
「シュウヤ様が、橋頭堡と港の権利を断ったのは驚きでした」
「交易に利用できるだけで十分だ。メルは〝飛び地を守るためだけに、貴重なルシヴァルの眷属を配置するのも損失ですから〟と語ったように、シャルドネ側としたら、俺にオセベリア王国の飛び地を守らせたかったんだろう」
ヴィーネも、
「はい、橋頭堡と港の権利も、報酬といえば報酬ですが……結局は、『懸かるも引くもおりによる』を知るご主人様をサーマリアとの戦争に引き込んで、戦いを少しでも有利に運ぼうとする意図が見えます」
「シュウヤは引き時も知るからね」
「時機は個人的な戦いなら分かる。だが、集団戦はまだまだ勉強不足だ。シャルドネは、【血月布武】としての効果も狙ってるんだろう」
「……なるほど、シャルドネは策士ね」
「レフテンとサーマリアが手を握ったこともあるとは思います」
「第二王子派になったと宣言した、その裏にも、メッセージを感じました」
レベッカとヴィーネとキサラがそう発言すると、そのヴィーネが、
「はい、王ではなく一侯爵が、戦争を指揮する立場。一石二鳥、いや、三鳥となり得る布石を打つのは、当然の戦術かと。先の【ゴリアテの戦旗】といい、転ばぬ先の杖を実践する優秀な雌です。ダークエルフ社会でもそれなりの地位へと、昇り詰められるほどの智略がある」
「ん、いっぱい得するシャルドネ?」
「はい、シャルドネ自身が地下オークションの時にも喋っていたことでもありますが、ファルスと繋がりのある『猫にもなれば虎にもなる』といったご主人様に、〝虎〟として東の戦争で活躍してもらい英雄として確実な名声を得てもらう。並びに、自身の領土拡大に虎を利用……最終的に力と名声のある〝猫〟のご主人様と結婚して、オセベリアの王族打倒を狙い、新たなアナハイム王朝を打ち立てるつもりの野心家かと」
「ふふ、ヴィーネ。素晴らしい考察です」
ヘルメは満足そうだ。
ヴィーネは深読みしすぎかと思うが、シャルドネだからな。
シャルドネは王太子ソーグブライトのことを貶していたが、ヒュアトスにも通じていたように『なんで隠れていたのよ、馬鹿!』といったような好敵手発見に喜んでいたようにも感じることがあった。
シャルドネは、さり気ない言葉のやりとりに情報を散らす。
『敵に味方あり味方に敵あり』的な深い思考を持つ。
「ん、結婚は絶対に阻止。ハイグリアだけ」
「どちらにせよ。シュウヤ様のことを好いて、信頼している証拠かと」
「うん。シュウヤもまんざらでもないような面だったし、でもさ、【血月星海連盟】以外の他の闇ギルドは、ペルネーテの権力者でもあるファルス殿下と合同で動く【天凜の月】のことを、オセベリア王国の犬と化した。と、思っているかもね」
「犬か。犬猫も三日飼えば恩は忘れないってか? ま、カリィと言葉はかぶるが、正直、どこの犬と呼ばれても構わない。ペルネーテの裏社会を支配するメルたちも、そのほうが、なにかと好都合だろう……俺的には、ファルス殿下は、単なるイノセントアームズのパトロンでしかないんだがな?」
「ん、犬でも猫でも、ペルネーテには店と家族も居るから、ファルス殿下との繋がりは大事」
「魔宝地図もあるし、変なアイテムも、高く買い取ってくれるパトロンは凄く大事よね。シュウヤは、この間ゼレナードの地下施設で、手に入れた気色悪いアイテム、まだ持っているんでしょ? さっさと売ってね」
そう喋るレベッカの言葉に、ヴィーネ、ユイ、ジョディが数回素早く頷く。
地底神セレデルの不死眷属のデ・ムースは、マイナス要素があった〝茨の王ラゼリスの冠〟を愛用していた。ビアが気にしていた姥蛇のアイテムもあったが、それは火山に投げようかな。
「武術街の屋敷に警備隊長のアジュールと使用人たちも居るし、レムロナとフランも居る」
「友のザガ&ボンにルビアもそうか。ミアも元気にしているといいが……そう考えると、ペルネーテの権力者である第二王子ファルス殿下との縁は大事かな」
「そうね……ごめん。犬の件は、闇の面子に拘りすぎたわね、愚問だった」
ユイの言葉に、皆、頷いた。
すると、ヘルメが、
「閣下、レムロナやフランは、キサラと同じく重要な眷属候補の人材かと」
と、ヘルメが発言。
「レムロナとフランは好きだから眷属化はある」
「なら、シェイルの魔宝石探索とレドンドさんの依頼が終わったら、一旦、ペルネーテに戻る? サイデイルは大丈夫だと思うし」
「まだ分からん。んだが、改めて、サイデイルを考えると、結構な戦力となったもんだ」
「ですね、デルハウトとシュヘリアだけでもかなり強いですし、血の精霊の幼子ルッシー様のお陰で、知記憶と破壊の血を得ている女王サーダインの攻撃を退けていますから」
「そのサーダインは、閣下の<紅蓮嵐穿>を用いても、死なない強者でした。現状、相対している中で最強クラスの敵と認識しています」
ヘルメが真面目に語るように強敵だ。
他にも、十何個かある樹海に移動できる能力も凄まじい。
「しかし、ルッシーと蜂式ノ具を得て強くなった緑の剣帝キッシュ。その新しいサイデイルの女王に進化した<
「サーダインには魔族系の優秀そうな軍団も居るから、一概には、言えないが……キッシュたちなら信じられる。大丈夫だろう」
「はい、そのサイデイルは、わたしたちの名を刻むルシヴァルの紋章樹が育つ神聖な場所。ご主人様の弟子ムーのゆりかごでもあります」
「信じているけど、無数の勢力が犇めく樹海のことを考えると、人族側との揉め事は拡大したくない」
皆の言葉を聞いていた、ユイがそう発言。
「ん」
エヴァもこくこくと、小さい頭部を縦に振るった。
「以前にも増して、シャルドネとファルス殿下のパイプは重要です」
「そうね。キッシュが強くても、ロロちゃんと巨大なロターゼが居ても、用心はしないと」
真面目な顔のレベッカさんだ。
「そういうこった。樹海はオセベリア王国の領土内だから、尚のことだ。だからこそ、ヘカトレイルの女侯爵とペルネーテの第二王子の王都にまで響く権力を利用すれば、ある程度は、オセベリア王国の大貴族たちの押さえが利く」
「サイデイルに手を出してきそうな、【王の手ゲィンバッハ】と宮廷魔術師サーエンマグラムの中央貴族審議会ですか」
ヴィーネの言葉のあと、ユイが、俺に熱い眼差しを向けて、
「……だからこその、面談と暗殺か」
と、語る。
「そうです。死体が消えたとはいえ、ゼントラーディ伯爵が利用した高級店は有名。シャルドネを含む、内外の組織も知ったことでしょう」
「七戒の幹部と違って、死体が消えたゼントラーディ伯爵と、その部下の人形使いは気になりますが……しかし、シャルドネにとっては、面談以上にゼントラーディ伯爵の暗殺は効いたことでしょう」
「自らが治めるヘカトレイル内部での暗殺劇だからね。シャルドネもびっくりするはず」
「ご主人様の、火の粉を払う。という言葉の意味を知ったことでしょう」
「ん、サイデイルのために、速攻で動いたシュウヤ。かっこ良かった!」
「血文字で聞いたけど、その姿は、想像できる……オセベリア王国の貴族だろうと、矛を向けたらやり返す!」
レベッカが、細い腕を曲げて、二の腕に小さい力瘤を作った。
蒼炎で作った槍を天に向けていた。
その際に、魅力的な腋を晒す。
ふむ……細い脇腹といい綺麗だ。
俺の視線に気付いたレベッカちゃんはジロッと俺を見て微笑む。
「綺麗だ」
「……えっちいけど、許す」
皆、レベッカの言葉を聞いて、笑った。
そのレベッカは真面目な顔を浮かべて、
「サイデイルの皆とも仲良くなったし、わたしもがんばるから……ルマルディさんとも仲良くしたい」
「そうですね」
ルマルディ&アルルカンの把神書は、蒼炎嫉妬使いのレベッカと初接触を果たしている。
あの時は……モガとネームスが吹き……いや、止めておこう。
「クルブル流とアジュールとの稽古は?」
「それも、時々、がんばる……」
「ん、わたしも時々リリィとディーの店を見に戻る予定。でも、今は、シュウヤと一緒がいい……」
エヴァは俺の手をぎゅっと握ってくる。
愛しい目だ。ルマルディとキサラから、凄まじい嫉妬の視線が来る。
が、これは仕方がない。
レベッカが、エヴァとの視線を妨害するように、蒼炎の卓球ラケットを振りつつ、
「――地下遺跡は
と、話を切り替えてくる。
いつもなら、スコーンッといったツッコミを繰り出すはずだが、なかった。
優しい一面もあるレベッカだったりする?
と、聞くように、レベッカの蒼い瞳を見るとレベッカはドキッとした表情を見せて、
「な、何よ」
お宝センサーが発動したようだ。
「お宝は、ベニーが持っていた
「ふふ……シュウヤったら、わくわくさせるようなことを!!!!」
「ん、レベッカが燃えている!」
「本当に蒼く燃えています……アルルカン分かる?」
「分からねぇ、ルシヴァルの面子は不思議な奴らばかりだ」
「選ばれし眷属の力が作用していると分かるけど、不思議と、蒼い炎は、ムントミー装備にも燃え移っていないし」
「いつみても、不思議です……」
キサラがダモアヌンの魔槍でレベッカの蒼い炎をツンツクした。
「ちょっと、キサラ。そのシュウヤがよくやるようなポーズで突かないでよ」
「はい。しかし、これは、シュウヤ様の突きの動き、槍使いの妙技を真似ている結果なのです。すみません」
「そ、そう……」
レベッカの動揺した声が出た直後、背後から、
「はは、くすぐったい~」
「ちょっと、ワインをこぼさないで!」
と、エマサッドに叱られているラファエルの声が響く。
ラファエルとエマサッドは相棒が皆のために作り上げていた天然の黒毛ソファに座っていた。
二人は酒を飲みつつ、皆の話を聞いていたようだ。
笑顔満面の表情で楽しそうなラファエル。
そのラファエルに、
「ミホザの
「はい」
「うん……分かってる」
エマサッドはすぐに返事を寄越したが……。
ラファエルは気が乗らないような顔つきと、言葉だ。
「どうした?」
「ベニーのことさ」
「やっぱ、なんだかんだいっても、ベニーが仲間になるのは嫌か」
ラファエルの顔色を見てから、エマサッドとエヴァを見る。
エヴァは微笑みつつも、頭部を微かに横に振った。
エヴァが何を言いたいのかは、分かる。
「ううん、そうじゃない」
ラファエルも、すぐに否定してきた。
「ラファエルの友と一緒に所属していた、はばき骸部隊壊滅の件はいいのか?」
「それは、もういいんだ」
エヴァもラファエルの気持ちを代弁するように頷いていた。
それを横で見るエマサッドも優しい表情を浮かべる。
レベッカが、
「当たり前だけど、戦っていた時の顔とは、まるっきり別人ね」
とエマサッドに語りかけていた。
ラファエルに視線を向けると、彼は俺の目を見て、頷く。
「……そう。シュウヤも知っているように、エヴァちゃんから、ベニーのセブンフォリア王家と関わるぶっちゃけた話を聞いたからね。だけど、やっぱり直にベニー・ストレインと話がしたい」
「話をするにも……ベニー本人がラファエルに喋ると思えんが。それに、辛い面が多すぎる……これは余計な世話か」
あいつは俺の仲間になったが、家族を助けてくれと懇願してこなかった。
なんつうか……。
その時、神獣ロロディーヌが急降下。
もうセナアプアの港についたようだ。
この急降下は事前にルマルディの指示があった動きだ。
他の空戦魔導師に評議員の争いがあるってのに迷惑でないなら、俺についてくると言い張ったルマルディとアルルカンの把神書。
ルマルディは魔闘術系の力を纏うと体を少し浮かせている。
やはり、実力は超一流か。
「――続きは、あとだ。メルたちと一旦合流する」
「ん、下は普通の港だけど……」
エヴァが指摘するように、ここが塔烈都市セナアプア。
レベッカが興奮して、
「――うわぁ、上のほう、岩がたっくさん! 塔も浮いている!!」
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