六百六話 大魔獣デスパニと迷宮戦車
俺を見て叫ぶ、受付嬢。
長い睫に青い瞳。
綺麗な外国人風の女性。
豊満なおっぱいさんは、俺を覚えていてくれた。
懐かしい表情だぁ。
ニコニコとして、俺と
受付嬢としての顔じゃないってのが、また嬉しいな。
「シュウヤさんとロロちゃん!」
「ひさしぶり、元気そうだ」
「にゃ」
「はい、元気ですよ!」
「よかったよかった、いい笑顔でいい元気。その笑みの力は冒険者を強くする」
「嬉しい……です、ありがとう」
と、涙ぐんでしまった。
「はは、おおげさだな」
「ううん、わたし初めてです。こんな温かい言葉を直接言ってもらったこと、なかったから……」
受付嬢は、胸元を押さえつつ語る。
衣装も前と変わらない。
「率直な感想だよ。冒険者の中には、本当に救われている者が居るはずだ。君の笑顔をもう一度見るために、この依頼では死ねないってね」
「……それって、逆に死に繋がる危ない言葉よね」
背後から、死神に愛でられているユイらしい、ツッコミが。
レベッカなら、スリッパの形をした蒼炎を下から上に振るい、ドライブスマッシュ風のツッコミを俺の後頭部に繰り出したはずだ。
そして、確かに、死亡フラグ満載な言葉だが……。
案外男ってもんは幾つになってもセンチメンタルな部分があるもんさ。
とは言わず、冒険者カードと木札を提出。
「あ、仕事なんですよね……」
「そりゃそうだが、今度会う時はちゃんと話がしたいとか、思っていた」
俺がそう発言すると、受付嬢は、嬉々に溢れる表情を浮かべて、
「えっ! ほ、ほんとですか?」
そこに素早い魔素の動き。
薄いバニラ系のいい匂いが漂う。
「――ご主人様、わたしも依頼を受けていますので、手続きは、手速く、チャッチャと済ませましょう。変なおっぱいの雌虫が付く前に!」
「そう、ただでさえライバルが増えたってのに。消毒薬を撒かないとね! ということで、わたしも依頼を受けておくから」
「ん、レベッカもSランクの依頼は来たがる。一緒に行きたい」
エヴァは優しい。
ま、エヴァとレベッカは親友を通り越して……。
本当に血を分け合った姉妹の<
「フルーツに美味しい食事を食べているんだ。我慢してもらうかもしれない」
「そう言うけど、呼ぶつもりでしょ?」
と、ユイが発言。
「そうだな。東に向かう時はジョディも呼ぶし」
『器よ。東ならば『神仙燕書』も東の方角ぞ、ついでに探すのじゃ』
サラテンの沙が反応。
『了解、『御剣導技』か『御槍導技』として身に付けようか』
『ふむ、いい気概だが、そう甘くはなぁい』
『三叉魔神経網も鍛えたい。羅仙瞑道百妙枝<仙羅・絲刀>はかっこ良かった、あの琴の技術も学べるかな』
『……器は弦楽器が得意であったな。羅も嬉しがっている……妾にはない能力ぞ』
と、沙は声が消えるように静かになる。
念話はストップした。
正直、羅の音楽センスは傍でもっと聴きたいから、今度、お願いするかな。
俺はユイと視線を合わせると、そのユイが、
「よかった。レベッカがいないとどうもしっくり来ないのよね。シュウヤにリズムを与えるツッコミがほしい。それに、ライバルにガチンコの牽制をしてくれるし頼りになる」
と、発言。ルマルディさんと受付嬢を牽制する。
「ん、ユイ、いいこと言った!」
エヴァはボクシングの審判が勝利した者の腕を上げるように、ユイの腕を持ち上げた。
ユイは笑いながらエヴァの手を握りつつ、喋りを続ける。
「
「ん」
ユイに向け微笑むエヴァは可愛い。
受付嬢を一瞥したヴィーネが、
「確かに、ハンカイも気になるはず。一族の行方は、この間の地底神絡みの地下旅でも気になっていたように喋っていました。サイデイルの状況次第ですが、話をするだけしてみましょう」
俺は頷いた。
「あと、北マハハイムに出る秘密の通路探索でもあるわけでしょう? このSランク依頼をやり遂げたらすごい偉業になると思う」
ユイがそう発言。
「はい、ラド峠以外にもう一つ地下を進む通商路の発見ということにも繋がります。ただし、入り口は北のレフテン王国かエルフの領域の【テラメイ王国】が絡むはず。無事に皇都に繋がる道を発見しても、そこの地表は魔族領、魔境の大森林側。厳しい戦いとなることでしょう。ですが、魔界に直結した傷場ごと大森林の一部を占領下に置けば、南マハハイムと北マハハイムのアーカムネリス聖王国を結ぶ新しい通商路の開拓が可能かもしれません」
ヴィーネらしい予測だ。
「ゴルディクス大砂漠を経由しない莫大な利益を生む通商路の開拓か。まぁ、それは成功してからの、というか気が早い。仮に依頼が成功したら……未来の礎にはなるかもな」
『……〝未来の礎〟とは深いですね』
小型ヘルメがそう発言。
姿は小さいが表情は真剣だ。
「人族の拠点、またはルシヴァルの拠点が作られる。という予測でしょうか。しかし、魔界の傷場に近づくことにも繋がりますので、ありとあらゆる勢力が、この依頼を注視しているかもしれません……」
「ん、そう考えると……怖くなってきた……」
「ま、レベッカを含めて血文字で報告しつつ、メルたちと合流し領主と会談後に、一度サイデイルに戻ろう」
「はい。では、登録し直します、名前はキサラと、戦闘職業とパーティ名にイノセントアームズの名を書いた紙はここにありますから」
木札も出したキサラに続いてルマルディさんも、依頼の木札と銀色のカードを出し、
「冒険者カードはあります。あ、イノセントアームズをここに書くのね」
アルルカンの把神書に注意を受けつつ紙に書いていく。クナはそのアルルカンの把神書を触ろうとしたが、アルルカンは書の表面に目を出現させ、バチバチと音を響かせながらクナの指を弾く。
何やってんだか。
だが、あの目は、恐怖を抱かせる。普段は面白いやつだが、得体の知れない、身の毛もよだつもの系の神様なんだろうか。
「チッ、弾くか。異質、荒神? 分からないわ。ふん――」
小声だが、魔族顔のクナだ。
小声でアルルカンの把神書の目を見て語る。
そのクナが笑みを作り、
「わたしは別のパーティ名があります。【刺の毒針】と言う……ですので、イノセントアームズに編入です♪」
と、キラーンと双眸を光らせながら語る。
「ク、クナさん……ですよね。あの……生きて……」
「あら、何か? 生きていたら拙いとでも?」
クナは、パーティ名を記した紙を提出している。
「しゅ、シュウヤさん、どういうことですか? クナさんと……」
俺は目に力を入れて、
「気にせず、依頼の処理と皆の手続きを頼む」
と、発言。
受付嬢はきょとんとした表情を浮かべて深く息を吐くと、納得するように頷く。
「……分かりました」
「よろしく」
受付嬢は、俺の視線に誘導を受けたように……。
視線を台にある依頼の木札と冒険者カードに向けて確認。
「はい、あ、Sランクの依頼! あ、冒険者カードが銀色になっている! Bランクになったんですね」
「冒険者活動を続けた結果だ。で、今回はSに挑戦しようかと」
数回こくこくと首を縦に振る受付嬢。
おっぱいさんが悩ましく揺れていく。
「納得です。魔竜王討伐で唯一個人で結果を残した方がシュウヤさんですからね!」
「おう。ありがとう。しかし、声が大きい」
「すみません、つい、嬉しくて」
「ところで、前から名前が気になっていたんだ。教えてくれる?」
「勿論! 嬉しい……わたしの名前は、フィオンといいます!」
「フィオンさん。いい名前。覚えとく」
フィオンさんは、急にうっとりとした表情を浮かべた。
彼女はボ~と呆けてしまう。
「フィオンさん?」
「あ、はい! す、すみません、急いで仕事をします、皆さんのも」
と、テキパキと仕事をしていた前の印象とは違う。
ま、フィオンさんと名前を知れたし、よかった。
そして、ギルドマスターの姿を探すが、あの爺さんは居ないようだ。
「にゃ~」
台の上に乗った相棒が挨拶。
フィオンさんは
笑みが素敵な受付嬢のフィオンさん。
モテるだろう。
「ふふ、黒猫のロロちゃん! 今、仕事をしちゃいますから、待っててね」
「ンン」
と、
その相棒は、エヴァが伸ばした人差し指に、肉球を当て、ET遊びをしている。
「登録をする方、ここに親指を」
「はい」
キサラが銀盤のある水晶玉に掌を置く。
指に針でも刺さったようにチクッとするが、痛くはないはず。
黒魔女教団の四天魔女キサラが、前に一度登録したのなら秩序の神オリミールも認めるはずだ。光神ルロディスと闇遊の姫魔鬼メファーラと知記憶の王樹キュルハを信奉する黒魔女教団だろうと。
「できました」
あっさりとできた。
「では、少々、お待ちを」
フィオンさんの仕事は暫く続く。
クナに向けて、
「クナは今は口を謹んでくれ」
「はい、衛兵を呼びに出た方もいたようですが」
「ま、いいさ」
注目を受けるとキサラとエヴァが、その周囲の者たちを睨む。
その途端、一旦、周囲の者たちは視線を逸らす。
そうして、暫く待っていると、
「こちらのカードをお返しします。皆様、依頼をがんばってください」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「冒険者カードは変わりませんね」
「よし、ロロちゃん~」
と、フィオンさんに
「にゃ」
「ふふ」
じっと見つめ合うフィオンと
たぶん、相棒は白髭が下がって、『しかたにゃい』という顔つきだろう。
「……小鼻ちゃんがふがふがしてますね。ちゅっとしたいです~」
「にゃ?」
「あぅ」
と、
「うう、肉球ちゃんが、柔らかくてグッドな匂いが……」
肉球の洗礼を浴びたか。
その間に、受け取ったBランクの冒険者カードを把握。銀色は綺麗だ。
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:22→23
称号:竜の殲滅者たち
種族:人族
職業:冒険者Bランク
所属:イノセントアームズ
戦闘職業:槍武奏:鎖使い
達成依頼:50
すると、周囲の冒険者が銀色のカードを注視する。
またか?
別段にBランクが珍しいわけではないはず。
すぐにカードへの注目は背後のクナに向かう。
フィオンさんと他の受付の方々もクナを気にしている。
もう一度、背後を含めて……掌握察と魔察眼を実行した。
凄腕冒険者らしき者たちが、鋭い視線を寄越すのみ……クナとユイに俺を凝視している……。
どこかの闇ギルドの手の者かサーマリア関係か。
戦争中だ。サーマリア関係かな。
或いは……オセベリア大貴族の手の者か。
ま、絡んでくるなら、喜んで歓迎しようか。
ギルド長のカルバンと……エリスもいない。
出かけているのか? 逃げたか?
ギルド長のカルバン爺には、クナは死んだと報告したからなぁ。
皆、暗黒のクナが、生きていると知れば、びっくりするのは当然だ。
しかし、無数の組織が絡まって、ややこしい話になりそうだ。速やかに退出しよう。
「相棒、戻ってこい」
肩に乗ってくる相棒。
俺はフィオンさんを見て、
「では、また」
「えぇ……はい」
フィオンさんは残念そうな表情を浮かべてくれたが――。
踵を返す。
出入り口付近で皆と合流。
ヘカトレイルの冒険者ギルドを出た。
ふぅ――いい天気だ。
通りを行き交う冒険者。
馬車とポポブムが引っ張る荷車。
通りの向こうでは、無造作に商品が並ぶ店が見えた。
あれは、バボン店かな。昔を思い出す……。
「ん、いい天気。気候的にペルネーテとそう変わらない」
「そうだな」
エヴァが手を握ってくれた。
握り返すと「ん」と天使の微笑を浮かべる。
俺は自然とエヴァと歩いていた。
ユイとヴィーネにキサラと遠慮しているルマルディさん。
アルルカンの把神書から「もっとシュウヤに近づけ」と催促を受けていた。
アルルカンの把神書は金具を外したり嵌めたりして、ルマルディさんの服を引っ張っている。
その様子を見て、皆が笑った。
アルルカンの把神書は面白い。
そして、隣のエヴァは嬉しそうだ。
ヘカトレイルに来たことはないだろうからな。
当然、見知らぬ土地。
故郷のナイトレイ家があった場所からは遠い東がヘカトレイルだ。
ユイとヴィーネも楽しそうに歩いて、周囲の様子を見ている。
同じ国が支配する都市だが、それぞれ景色が違うからなぁ。
すると、レドンドさんと血長耳のエルフたちが前方の角で、
「シュウヤさん、こっちです――」
と、手を振って呼ぶ。
俺は皆と視線を合わせて、
「あの角を曲がった先らしい」
「「はい」」
「にゃ」
皆と移動。
そこで、
「支部は中央区のほうです。迷宮戦車があるのでこちらに」
迷宮戦車?
と、疑問に思いつつレドンドさんの歩法を確認しながら付いていく。
その彼の立ち居振る舞いは確実に凄腕。
剣士としての腕は超が付く実力者と予想ができた。
俺と同じ思いを得たユイとヴィーネもキサラとアイコンタクト。
「シュウヤ、彼ほどの存在がメンバーを募る依頼ってことね」
「数百年生きたエルフ。血長耳の幹部ですから当然かと」
「レドンド。凄腕の剣士ですね。一瞬、魔剣を扱う十侠魔人のイドラッドを思い出しました」
皆、風のレドンドの強さを認識したようだ。
すると、その風のレドンドよりも、更に驚く光景が現れた。
一目見て、分かった。あれが迷宮戦車だ……。
巨大な魔獣が引く、魔力が備わる装甲車だ。
キャネラスの馬車も特別だったが……あれは凄い。
酸漿提灯は後部の横にぶら下がる。
昼間でも、その光源が傾斜した外装の表面を飾る白鯨のマークを照らす。
装甲車の銃座のような射手台が後部にある。
分厚い車体の横は、マクラーレンのスーパーカーを巨大化したような射手用の椅子が付いたバタフライドア。ガルウィング的でもあるか。
いや、椅子があるからSF的なキャノピードアか。
その特殊なドアの横の窓にもメッシュ付きの鉄格子。
二重サッシの横開きドアも備わる機構の装甲車。
ロケットランチャーの攻撃も防げそうな外装だ。
前方の装甲はメッシュ穴が多い。
メッシュ穴から出た魔線の群れが脳のシナプスを表現するように大魔獣と繋がっていた。
キャノピードアは上がったまま。
迷宮戦車こと装甲車の内部が覗く。
内部には、作戦会議が行えるようなテーブルと椅子が並ぶ。
キャンピングカーの内部を軍用に転化した感じだ。
手前にブリッジの可能な魔道具と機関部。
内装は魔力が備わる鋼鉄で小型の実験器具と炉のような魔具。
機関部の奥には、硝子管と貝? が露出。
硝子管の中身は、プラズマが放電しているようにも見える魔線を無数に放つ分厚い蝋燭?
その分厚い蝋燭には、魔法陣がびっしりと刻まれている。
分厚い蝋燭と硝子管と同じ大きさの貝も不思議だ。
貝はステレオとラジオのような機械から出ていた。
そんな装甲車の魔線と繋がる三頭のアリクイとカメレオンが合わさったような大魔獣。
細長い口から箱状頭部は幅広となる。
胴体は、やや扁平。
頭部だけならアリクイと似ているが、異なる大魔獣。
一対のカメレオン的な複眼。
額に黄緑色の魔石が嵌まる。
カレー色とほうれん草色の毛が覆う耳は可愛らしい。
そのカラフルな毛先に、小さい魔法陣が浮かぶ。
魔法陣から出た魔線は背後の装甲車前部にある穴の中に吸い込まれている。
なんというか、今まで見てきたどの乗り物よりもユニークだ。
大魔獣も、初めて見る、非常に面白い珍獣と呼べる大魔獣だし……。
皆も俺と同様に驚いていた。
相棒も「ンン」と喉声を出して、触手を俺の首筋に当てると、『びっくり』『まじゅう』『びっくり』『おめめ』『けけ』『いろ』『けけ』『におい』『へん』『へん』『まじゅう』『におい』『うまい?』
と気持ちを伝えてきた。
「ロロ、食べものじゃない」
「ンン」
「レドンドさん、あの大魔獣は蟻を食べて胴体のカモフラージュが可能とか?」
一瞬、肩の
「分かりますか。さすがですね。カモフラージュ能力を有してます。そして、蟻以外にも様々なモノを食べる雑食です。名は、デスパニッシャー。略してデスパニ。
レドンドさんは、その大魔獣の首下を撫でながら語った。
「ギュォン」
大魔獣デスパニは、独特の鳴き声でレドンドさんに応える。
面白い。
「にゃ、にゃお」
肩の
大魔獣デスパニに挨拶したのかな。
触手は出していないが、俺の肩をポンポンと叩いてきた。
大魔獣デスパニは微かに頭部を揺らす。
あの辺のゆったり加減は、ポポブムを彷彿する。
俺は、その大魔獣デスパニを見ながら、
「デスパニは鎧将蟻を食べるとして、
「さすがに
「この大魔獣デスパニと迷宮戦車で、マハハイム山脈の地下を探索していたのですね」
「はい。数十年と、広大な地下世界の極々一部を走り回ってました……しかし、未だに、皇都の手がかりも掴めず……」
レドンドさんは望郷の念が顔色に出る。
その態度と言葉の質から、血長耳の盟主レザライサとの会話を想起した。
『ベファリッツの国務省、賢者院辺りが残した秘宝の隠し場所は知っている。大半は魔族に荒らされて宝どころの話ではないと思うが……』
『そんな宝が……』
『ま、それは建前だよ。変わり果てたとはいえ、一度はこの目で皇都を見たいという思いがある』
あの時のレザライサの瞳は忘れない。
当然だが、レドンドさんも同じ気持ちか。
千年間も故郷を見ていないことになる。
「あの迷宮戦車ならモンスターを吹き飛ばしながら移動ができそうです」
「はい、ある程度までは蹴散らせる。しかし、迷宮戦車は砦と隠蔽が主目的。ふだんはわたしたちが外に出て戦います」
「外装と射手用の盾もあるのは、そのためですか」
頷くレドンドさん。
「魔通貝と貝力風の遠距離通信の中継の要。他にも車体に組み込まれたエセル界を用いた秘密はありますが、要は休憩室であり司令室でもあるんです」
魔通貝は聞いたことがある。
「大魔獣デスパニなら狭いところでも進めそうですが、背後の迷宮戦車は基地としての運用ですか?」
「そうですね。マハハイム山脈の地下は整った道が少ない。なので、当然、狭い場所の探索は徒歩。なんらかの飛行術を使える者なら飛行で探索。または、その飛行術が備わる魔靴ジャックポポスを装備しての飛行移動。あるいは、ハーネスと魔貝噴射が一体化した筒から、クライミング魔刃を壁に飛ばし、その魔刃から出たエセル板で壁に簡易的な足場を作り、その足場を利用しながらの移動探索となります」
「へぇ、移動は多岐に渡るんだ」
相棒なら炎で迷宮の内部を溶かして進むこともできる。
俺も<血鎖の饗宴>と<闇穿・魔壊槍>に<紅蓮嵐穿>もあるから掘って移動も可能。
リアルマインクラフトを実行可能だ。
溶岩に自ら突っ込んで溶けたらどうなるかの実験はしない。
すると、クナと一緒に興奮しながら迷宮戦車を見ていたヴィーネが、
「疑問があります。質問してもよろしいでしょうか」
そう聞くと、レドンドさんは笑みを浮かべて「どうぞ」と対応。
俺も頷く。そのヴィーネが、
「大魔獣デスパニは人員と装備を、戦車と呼ぶ鋼鉄車に載せつつ難路の迷宮の中を進めるのですか?」
「鋼鉄は魔鉄の一種で、重そうに見えますが、実は見た目ほど重くはないんです。エセル界の品で軽くなる仕掛けも施してあります。そして、大魔獣デスパニも凄まじい膂力がありますから速い。数人を騎乗させた状態で壁に貼り付くことも可能な足を持ちます。では、そのデスパニと迷宮戦車を操縦する運転手を紹介しておきましょう。ソーニャとパパル、挨拶しなさい」
レドンドさんは、迷宮戦車のキャノピードアに視線を向ける。
すると、その戦車の屋根のような場所で寝そべっていた射手用の盾の位置から腕が上がった。
「はーい」
「はーい」
と、二人のエルフが下りてきた。
「「こんにちは」」
可愛いエルフの二人組か。
彼女たちも血長耳のメンバーか。
「【天凜の月】の皆様。そして、槍使い様ですね。初めまして、魔獣使いのソーニャ」
「同じくパパルです」
俺の知る中に魔獣使いはいなかったはずだが。
セナアプアで留守番していた方かな?
「初めまして、こんにちは」
「「こんにちは!」」
「ソーニャとパパルは、盟主の会合に呼ぶほどの幹部ではないですが、同じ内戦を生き抜いたベファリッツ大帝国特殊部隊【白鯨】の出身です」
「そうでしたか」
そこで、その皆に向けて、
「ってことで、皆、デート兼観光は、血長耳の支部に入って挨拶後、ということでいいかな?」
「いいわ」
「ん」
「はい」
「シュウヤ様と一緒ならどこでも」
「はい。しかし、シュウヤ様、わたしに視線が……」
「暗黒のクナとしての帰還?」
と、ユイが聞く。
「はい、やはり目立ちました。衛兵さんが集まってくるかもしれません」
「ま、そうなったらそうなったで、シャルドネに話を通すさ。それに、俺にはこれがある――」
侯爵の指輪を見せる。
「あ、そっか。魔竜王討伐の証拠、侯爵家の家紋はここでは絶対的」
「なるほど、シャルドネ様もわたしの存在を知れば、接触しようと試みるはず」
「だろうな。ま、おいおいだ、衛兵が来たら遇うのもあれだから、直にシャルドネと会うとしよう」
「そうですね」
「食事も美味しいのが出ると思うし、ってことで、レドンドさん、この迷宮戦車に乗っても?」
「どうぞ――」
と、ガルウィングとキャノピーが合わさったドアの下から迷宮戦車に乗り込んだ。
椅子はクッション。
机は硝子製。
その中にマハハイム山脈の地図が描かれた魔法地図が嵌まっている。
レドンドさんも乗り込んできた。
その特殊なキャノピードアが自然と下りてくると、操縦席の位置と合体する。
魔法陣が浮かぶ魔線が出た木製のハンドルもあった。
よく見たら、幾つも連なった杖のハンドルだった。
杖のハンドルを握っているソーニャとパパルの小さい手。
杖ハンドルから出た魔線は、前方の大魔獣デスパニと繋がっている。
ここからだと、高級車という印象。
外観だけでなく内装の作りも格好いい。
と、操縦席でハンドルを握るソーニャとパパルが、
「レドンド~いっくよ~」
「家に帰ろ~」
「いいぞ、支部にむかう――」
と、戦車の内壁を叩くレドンドさん。
「うん~今日は大収穫~♪」
「うんうん、久しぶりの探索メンバーゲット~♪」
「でも、すぐに向かうわけじゃない~♪」
「うん~支部長の待つ家に帰ろう~♪」
二人は歌うように語り運転。
リズムに合わせて前進する大魔獣デスパニ。
機動は戦車というか馬車に近かった。
そうして大通りを進む。
「もうすぐ~♪」
「ここ~」
ソーニャとパパルの声が響くと大魔獣デスパニは止まった。
【白鯨の血長耳】の支部に到着だ。自動的にドアが開く。
「ここです――」
レドンドさんが先に下りて、俺たちも続いて下りた。
建物外観は黒が入ったモスグリーン。
白鯨のマークはないが、ミニ斜塔のような建物。
出入り口付近にエルフの兵士たちが居る。
ソーニャとパパルは装甲車のような迷宮戦車から降りてこない。
三頭の大魔獣デスパニは嘶きのような声を上げている。
デスパニの鼻から出た、魔力の波紋が、建物に当たっていた。
「行こう」
と、建物の中に案内される。
兵士たちはレドンドさんに軍隊式の挨拶。
応接間を通りすぎて、こぢんまりとした部屋に入った。
奥にある簡易的な机に腰掛けていた小柄な女性は、クリドスス。
そのクリドススと話をしているのは冒険者か。
背中から
どこかで見たような体格だ。
「にゃ」
相棒はドワーフの後ろ姿を見ながら鳴く。
鼻先をクンクンと動かしていた。
最初に気付いたのは、クリドスス。
「わ! 槍使いと眷属たちも居るじゃないか! あれ、レドンドも、ということはまさか……」
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