五百九十七話 骨は過ちを繰り返す※アイテムインベントリ表記あり

 イモリザたちが手を振って呼んでいる。

 手を振って応えたが、まだ降りない。

 沙・羅・貂の三人娘は旋回中――。


『サラテンは周囲を警戒、無闇に戦いは仕掛けるな』

『分かった。器よ。デカブツをよく倒した』

『おう』


 神剣・テンは岩が散乱する場所に向かう。


 神々の残骸でも見つけたのか。

 とりあえずサラテンは放っておく。

 重い心臓を確認。


 肩に乗った相棒が片足を伸ばす。


「ンン」


 悪戯娘のロロディーヌだ。

 喉声を鳴らしているように……相棒も奇怪フィナプルスの心臓が気になるようだな。

 その相棒の肉球パンチを避けながら……。


 小さく、重い、菱形心臓を見た。

 菱形の中心に魔印を刻む小さい心臓がある。

 何かの重さを意味するかのように、凄まじい量の魔力が詰まっていた。


 米粒の大きさに……。

 地球ほどの質量が詰まっている印象。

 おおげさだが……。

 ブラックホール的な心臓だ。

 奇怪フィナプルスと思うが、この菱形の心臓の名はなんだろう?

 速やかにアイテムボックスのメニューを操作。

 試しにアイテムボックスの中に入れるか――。

 すんなりと入った。


 アイテムボックスを操作――。


 ◆:人型マーク:格納:記録

 ―――――――――――――――――――――――――――

 アイテムインベントリ 84/490


 中級回復薬ポーション×101→99

 中級魔力回復薬ポーション×95→92

 高級回復薬ポーション×31→29

 高級魔力回復薬ポーション×23→20

 大白金貨×6

 白金貨×986

 金貨×1133

 銀貨×542

 大銅貨×20

 魔力増幅薬ポーション×3

 帰りの石玉×11

 紅鮫革のハイブーツ×1

 雷魔の肘掛け×1

 宵闇の指輪×1

 古王プレモスの手記×1

 ペーターゼンの断章×1

 ヴァルーダのソックス×3

 魔界セブドラの神絵巻×1

 暁の古文石×3

 ロント写本×1

 十天邪像シテアトップ×1

 十天邪像ニクルス×1

 影読の指輪×1

 火獣石の指輪×1

 ルビー×1

 翡翠×1

 風の魔宝石×1

 火の魔宝石×1

 ハイセルコーンの角笛×1

 魔剣ビートゥ×1

 鍵束×1

 鍋料理×5→4

 セリュの粉袋×1

 食材が入った袋×1

 水差しが入った皮袋×1

 ライノダイル皮布×2

 石鹸×5→4

 皮布×11→8

 魔法瓶×2

 第一級奴隷商人免許状×1

 ヒュプリノパスの専用鎧セット一式×1

 魔造家×1

 小型オービタル×1

 古竜バルドークの短剣×29→28

 古竜バルドークの長剣×2→1

 古竜バルドークの鱗×138

 古竜バルドークの小鱗×243

 古竜バルドークの髭×10

 レンディルの剣×1

 紺鈍鋼の鉄槌×1

 聖花の透水珠×2→1

 魔槍グドルル×1

 聖槍アロステ×1 ☆

 ヒュプリノパスの尾×1

 フォド・ワン・カリーム・ビームライフル×1

 フォド・ワン・カリーム・ビームガン×1

 雷式ラ・ドオラ×1

 セル・ヴァイパー×1

 ゴルゴンチュラの鍵×1

 フィフィンドの心臓×1

 魔皇シーフォの三日月魔石×1

 グラナード級水晶体×1

 正義のリュート×1

 トフィンガの鳴き斧×1

 ハザーン認識票×1

 ハザーン軍将剣×1

 アッテンボロウの死体×1

 剣帯速式プルオーバー×1

 環双絶命弓×1

 神槍ガンジス×1 ☆

 魔槍杖バルドーク×1 ☆

 時の翁×1

 神魔石×1

 血骨仙女の片眼球×1

 魔王の楽譜第三章×1

 双子石×1

 閻魔の奇岩×1

 聖ギルド連盟の割符x1

 波群瓢箪×1

 魔石袋×1

 極星大魔石×1

 new:セヴェレルスx2

 new:ダ・バリ・バムカの片腕×1

 new:奇怪フィナプルスの魔心臓×1

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 名前はそのまんまだ。

 この異世界を構築しているだろう〝フィナプルスの夜会〟と関係がある?

 こいつに俺の魔力を込めたら……。

 取り出し、ポケットの中に入れておく。

 これは眷属たちが居るセラがある世界に帰る直前に使うべきだろう。


 そう考えてから、


 ――手をまだ振っているイモリザに手を振った。


 沸騎士は、そのイモリザの横で仁王立ち。

 助さんと格さん風だ。

 いや、仁王立ちだし、阿形あぎょう吽形うんぎょうと喩えたほうがいいか。

 その三人の前の地面は戦いでも起きたのか地面が大きく捲れて窪んでいる。


 いつぞやの場面を思い出す。

 イモリザが地面をひっくり返したんだろう。


「「閣下ァァ」」


 下から響く独特のハウリングボイス。

 黒沸騎士ゼメタスと赤沸騎士アドモスの重厚な魔声――。

 その声を耳にしながら<導想魔手>から飛び降りた。

 向かい風を体に感じながら――。

 スキルと魔技を用いて修業だ――。


 それは三つ。

 <導想魔手>と<魔闘術>と<血鎖の饗宴>。


 基本の体幹を軸とした魔闘術は変わらない。

 だが、普通の<導想魔手>とは少し違う。


 <導想魔手>の歪な魔力の手を、ピクチャーレール風に扱った。

 その<導想魔手>で腰、尻、太股を支え吊るイメージを実行しながら宙を滑り降りる――。


 そして、両足の防具の隙間から出力を極力抑えた<血鎖の饗宴>を出す。

 アーゼンのブーツを壊さないように意識。


 足からの<血鎖の饗宴>の発動と消去を繰り返す。


「――その武術歩法は見たことがない。新しい血の歩法か?」

「そうだな。武術修業の一環だが、ある種<血鎖歩法>と呼べる代物かもしれない」


 そういった修業の成果か――。


 着地後の粉塵は立たない。

 イモリザの髪が揺れる程度の風が僅かに発生しただけだ。 


「血鎖の応用か。それは高祖吸血鬼が持つ<血道第二・開門>とかか? 略して<第二関門>か<第二開門>というスキルだろう? それかエクストラスキルが絡んでいると判断した」


 そう分析してくるアルルカンの把神書。

 ヴァンパイアを知っているアルルカンの把神書。

 やはり、ただの喋るだけの魔法書じゃない。


「正解だ」

「先のデカブツの内部で戦った時も槍武術の修業をしていただろう?」

「当たり前だ」

「ルマルディとは正反対の性格だな」

「へぇ、天才肌なのか」

「そ、そうとも言うが、普段は買い物ばかりだからな……」 


 と、なぜか焦るアルルカンの把神書。


「使者様、おかえりなさい~」

「風を両足で踏みつけるような着地ですな」

「お尻と足に、歪な魔力の手と血鎖も足から出てました~。使者様の不思議な着地です」


 俺の着地の修行を見たイモリザとアドモスがそう発言。


「次の動作に移行するための修業でもある」


 着地の制動を殺すことは重要だ。

 次の戦闘動作へと、スムーズに移行する槍武術の歩法修業。


 この魔書が作る星と重力に大気と魔力。

 セラには地球と同じような重力と大気はある。


 ま、星ではなく、亀の上とか、象の上とか、四角い大陸が浮遊しているだけかもしれないが……。


「シュウヤよ。その血鎖歩法を、修業と語ったが……俺には完成しているように見える」

「そう見えるのは嬉しい。だが、まだまだだ。武術に完成はない。日々の積み重ねが物をいう。体を動かすたびに武術の成長を感じるからな……」

「……研鑽か」

「そうだ。常に先を予想しながら未知の戦いに生かすべく鍛えていく」

「……それゆえの血鎖歩法か。<鎖>と同様に使い手の能力が高いシュウヤだからこそ可能な……新しい<光魔血鎖流>と呼べばいいのか?」

「長すぎるし、別に名前はつけないでいい。それに世界は広い。俺よりも優秀な奴はいっぱい居るだろうよ」

「……いや、それはどうだろうか。俺もかなり観察眼には自信があるが……」

「あまり持ち上げるな把神書」

「……ふん。素直に受け入れろ。糞強い槍使いめが……」


 小声でボソッと言ってるが、わざとだな。


「何か言ったか?」

「いやいや、で、気になることは他にもある。体内で魔闘術系の技術を実行しているのだろう?」

「基本だろ」

「そうだが、先の戦いでは……複数のスキルを同時に使おうと、更に違うことを試そうとしていた。戦いの真っ最中だというのに、色々と思考している」

「よく分析している」


 まぁ、デカブツの肉腫迷宮の中で<血鎖の饗宴>をかなり使ったからな。


「種族光魔ルシヴァルか、非常に興味深い種族だ……」

「把神書様も、刺激を受けたか」

「おうよ! 俺も理を学ぼうと進化する把神書の一角だ。知識欲は高いぜ。実際に戦うほうが好きだがな?」


 分かる。最初に火の玉を飛ばしてきたし。


「俺も戦いは好きだ。研鑽を重ねた武術の戦いは奥が深い」

「槍を学んで数百年か?」

「いや、数年だ」

「……」


 アルルカンの把神書は震えている。


「どうした?」

「にゃ?」


 黙っていた黒猫ロロも頭部を傾げている。

 可愛い。


「いや、なんでもない。と言いたいが、言おう。光魔ルシヴァルは吸血鬼の一種だから……長年にわたり戦い抜いた結果、槍武術やら多数の眷属やらを勝ち得たのかと考えていたのだ」

「そっか。そう思うのも当然だ。戦闘に関しては成長しやすいんだ」

「ほぅ……優れた資質があるからこそだな。で、闇属性だけでなく、光属性もあるのだろう?」

「<光闇の奔流>を取り込んだ<光魔の王笏>もあるしエクストラスキル<ルシヴァルの紋章樹>もあるからな。ヴァンパイアのスキルもいくつか使える。本来のルグナドの直系が持つような変身は無理のようだが……」


 <蜘蛛王の微因子>のことは告げない。

 第四の蜘蛛腕とかなら嬉しいが、合体だからなぁ。


 蜘蛛娘アキの興奮した顔は少し怖かった。


「ふむ……吸血鬼の身でありながら、吸血鬼の支配から抜けるとは。因果律を超える時、お前の精神には壊れるぐらいの衝撃があったはずだが……」

「……壊れるか、確かに。ルシヴァルに進化する前は地下を放浪した。そんな生活があった影響もあるとは思うが、そして、黒き環ザララープと関係するだろうグランバという怪物を倒して、俺がルシヴァルに進化するときに……俺は、本当に精神が壊れたのかもしれない」


 地下を放浪したことを思い出す。

 血の暴走。

 狂乱枯渇カオスティックアウトがあった。


「クククッ、壊れた男が見ず知らずの子供を助けるのか?」

「そうだよ」

「カカカッ、その面は相当なことがあったようだな。しかし、素で吸血神ルグナドに喧嘩を売っている種族とか……聞いたことねぇ……」


 アルルカンの把神書は表面に立体的な目を出現させる。

 俺を凝視していたアルルカンの把神書。


 アルルカンの把神書が何を考えているか分かる。

 必死に俺というか、光魔ルシヴァルの分析でもしているんだろう。


「にゃお」


 相棒が肩を叩く。


「ンン、にゃあ、にゃお~」


 連続して俺の肩をポンポン叩く。

 そんな元気な相棒を見たアルルカンの把神書は震えた。


 装丁の金具が外れている。

 黒猫ロロはそんなアルルカンの把神書を無視。


 アルルカンの把神書は、金具に魔線を絡めつつ少し距離を取った。

 黒猫ロロに噛まれて操縦を受けたことがトラウマとか?


 ユイの片腕も傾くように動く。

 アルルカンの把神書の魔線から離れた。


 ユイの手が握るガルモデウスの書。

 もう血塗れではなく普通の片腕だが、浮遊を続けている。


 俺はイモリザを見ながら、


「イモリザ、戦いは起きたのか?」

「戦いは起きませんでしたから、大丈夫ですよ~♪」


 イモリザが敬礼しながら、そう発言。


「くりぬいた地面を見たら、皆、逃げちゃいました~」


 だからか。

 楕円形にくりぬかれた跡が目立つ。

 端のほうでは、崩落を起こしていた。

 すると、隣に居る沸騎士たちも、


「閣下、デカブツの討伐おめでとうございます」

「実に見事な戦いです」

「おう。お前たちも少女を守ることに徹してくれたようだ。ありがとう」

「閣下、私たちはここで立っていただけですぞ」

「我らも閣下のデカブツ退治に参加したかった」

「まぁそう言うな。お前たちが居るからこそ、安心して戦えるってもんだ」

「……閣下ァァァ」

「……閣下の言葉は心が滾る!」


 俺の言葉を聞いたゼメタス&アドモス。

 頭蓋骨系の魔の骨兜を輝かせる。

 沸騎士コンビは気持ちが昂ったらしい。


 眼窩ごと燃焼させるように瞳の炎が強まった。

 更に、鎧のスライス状に重なった溝から黒と赤の魔力蒸気が噴き出す。


 その噴き出た黒と赤の魔力蒸気は周囲へと拡散。

 俺もその蒸気めいた煙に包まれた。


 黒猫ロロはその煙を食べるように吸い込みながら跳躍。

 魔力蒸気を吸い取った相棒は着地した。

 寝ている少女の臭いを嗅ぐ。

 少女の腹の臭いも嗅ぐ。

 ぶつぶつの病変が気になるのか、何回も入念に臭いを嗅いでいた。


 何事もなく頭部を向けてくると、


「にゃ~」


 と、黒猫ロロは鳴いてから、肉球を少女の顔に当てている。

 お医者さんのつもりか分からない。


「少女は大丈夫そうだ」

「深い眠りのようです」


 イモリザが指摘する。

 沸騎士たちの音で起きるかもな。


 お湯が沸騰したような、ぐつぐつ音だ。

 沸騎士の体から噴出する蒸気めいた魔力の煙は、一見、火傷しそうな感じがある。

 しかし、黒猫ロロが消し飛ばした黒と赤の煙は、肌によさそうな生暖かい感覚があった。


 エヴァが〝ぼあぼあ〟と例えたが、そんな感じの優しい蒸気。

 もしかしたら、相手によって蒸気の〝質〟を変えられるのかもだが……。


 その黒沸騎士ゼメタスが、


「閣下に気持ちを捧げる――」

「――うむ!」


 ゼメタスとアドモスは互いの骨盾をぶつけ合う。


「「そうですぞ!!」」

「ですぞ♪」


 イモリザも加わった。


「そして、巨大怪物が塵となって崩落していくさまは――」

「――実に、圧巻でしたぞ」


 ゼメタスがそう喋りつつ、骨盾をアドモスの骨盾に衝突させた。

 イモリザも真似をする。


「でしたぞぉ~♪」


 イモリザの太く怪しい形の銀髪にも動じないゼメタスとアドモスは、互いの骨剣を伸ばし目の前で切っ先をクロスさせる。

 キラーンと輝く骨剣といい、ゼメタスとアドモスは正直、格好いい。


「まさに、魔界絶景六六六を超える光景!」

「――うむぅ!」


 と、叫びながら骨剣と骨剣を掲げた。

 そして、腕を振るい、また、その骨剣を衝突させた。更に、互いに頭突きを始めた。

 額をぶつけ合う度に……。

 蒸気機関車的な勢いで魔力の煙を全身から吐き出す。


「ゼメちゃん&アドちゃん、大丈夫?」

「大丈夫ですぞ」

「我らも成長しているのですから」


 痛いは痛いようだが、ゼメタスとアドモスはそう語る。

 額に罅が入っていない。

 確か、前に頭突きをした時は……額に罅が入っていたような気がする。


 今の骨兜の額当ては新しい。

 小さい角の穴に銀色の小さい環が連なったアクセサリーが装着されていた。

 成長しているようだ。

 ちゃんと魔界で経験を積んでいるんだな。


 他にも成長を感じさせる特徴はあった。

 それは風を孕んで揺らめく星屑のマント。

 沸騎士が出す黒と赤の魔力蒸気をマントの内側が吸い取っていた。


 星屑のマントが、栄養でも得ているような印象。


 その刹那――。


「あ、あれ……あぁぁぁぁぁぁあ」


 と、寝ていた少女が起きたが、悲鳴を上げて失神。


 あ、沸騎士は、もろに頭蓋骨だった。

 彼女にとって骨種族の親玉的な将軍にも見えただろう。


 その直後、魔素を感知――。

 イモリザがくり抜いた地面の端を越えた向こう側から、小さい一本角を額に生やした種族の方が現れる。


「リャイシャイ様だ!」


 そう叫ぶアニュイル人は複数だ。

 その瞬間、皆に召喚した魔槍杖を見せるように振るう。


「――俺が出る」

「はい」

「承知」


 そして『俺が出る』と意思表示をかね全身から魔力を出す。

 <血魔力>を意識――。

 <血道第四・開門>の<霊血装・ルシヴァル>を装備しつつ前進していた。


「リャイシャイ様を救え」

「おう――」


 と、アニュイル人が骨槍を投擲してくる。


「にゃ」


 相棒の声から黒豹に変身したと分かる。

 俺の視界は骨槍――。


 形状は骨槍、竜の歯牙を用いたような穂先だ――。

 前傾姿勢で突貫。

 その<投擲>された骨槍に魔槍杖をぶち当てた。

 骨槍を嵐雲の矛で粉砕――。


「動きが速い!」


 前に出たアニュイル人たちは警戒を強めたのか、次々と骨槍を投擲してきた。


 ――<鎖>を発動。

 左手首から出た<鎖>の先端が、飛来してきた骨槍のすべてを貫いて突き進む――散った骨の破片がッ、痛すぎる。次々と顔に破片が突き刺さるって痛いが、我慢だ。

 顔に傷を受けるが――。

 

 <霊血装・ルシヴァル>が頬と首に衝突してくる骨の破片を何度も弾いてくれた。


 宙に弧を描いていた<鎖>を消去――。

 やや遅れて<投擲>してきた骨槍が視界に入った。


 風槍流の構えで待ち構える。


 一の槍の精神。基本の<刺突>をぶちかまそう。


 腰を少し沈めた。

 丹田の魔力を右腕と魔槍杖バルドークに伝えながら<刺突>を繰り出した。


 嵐雲の穂先が骨槍の切っ先を捉え、穿つ。

 骨槍を両断していく嵐雲の穂先から金属音が響いた。

 二つに分かれた大きな骨槍は俺の左右の地面に突き刺さる――。


 裂けた二つの骨槍は特別なモノだったようだ。

 銀と金の魔力が周囲に散る。

 刹那、右手が握る魔槍杖バルドークが喜んで、その魔力を喰らうように吸う。

 飲み込む音を響かせる。

 魔力を吸った魔槍杖バルドークの紅色の穂先が輝いた。


 穂先の嵐雲の表面を飾る髑髏模様たちが、カラカラと嗤った。


 そして、俺は魔槍杖バルドークを握る右腕は槍と化したように、真っ直ぐに伸びた体勢だ。


 隙がある。槍使いの最大の弱点。

 しかし、この俺の、隙を突くような攻撃がない。


 アニュイル人には、戦士が多いように見受けられるが、すこぶる優秀な武人タイプはいないようだ――。


 ならば、と――すぐに跳躍――。


 周囲の彼らの動きを牽制する<血鎖の饗宴>を発動――。

 肩の竜頭装甲ハルホンクの防護服の隙間から血鎖を放射状に展開させる――。


 <血鎖の饗宴>で、アニュイル人の戦士としての動きを阻害だ。


「うあぁぁ」

「血の鎖?」

「触れるな!」

「いや、触れるも何も……俺たちは血の鎖は当たってないぞ」

「警告か……」

「どういうことだ、ウェーズ・ドルライ会が扱う魔法が来ないのもオカシイ……」

「槍と鎖の飛び道具か……今までの魔法使いではない」

「槍? まさか……先の奇怪フィナプルスを倒したのは……」

「伝説の霊槍使い?」

「ウェーズ・ドルライ会が召喚に成功したの……」

「ならば……リャイシャイ様は……」


 そう語ると……。

 覚悟を決めたような面を浮かべていくアニュイル人たち。


「――待て、よく見て攻撃をしろ。リャイシャイ様とやらは寝ている少女のことだろう?」

「助けた?」

「そうだよ。今も寝ている」

「本当か!」

「待て、アルビカ、こいつは怪しい」

「そうだ。俺たちに似ているが角はない」

「それに、見ろ! 横たわるリャイシャイ様の傍に、ウェーズ・ドルライ会らしきモノが二体居る!」

「本当だ!」


 沸騎士のことを指摘するアニュイル人の戦士。


「あれは俺の部下で召喚した沸騎士だ。ウェーズ・ドルライ会のメンバーではない」

「部下……」


 すぐに闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトを意識しながら――。

 『沸騎士、魔界に帰れ』


 と、指示を飛ばす。

 その瞬間、沸騎士たちはいつものように黒と赤の煙めいたモノを噴出させながら消えた。

 沸沸とした音はここからでも聞こえる。

 同時に牽制として出している<血鎖の饗宴>を消去。


「消えた、では……」

「そうだ。今、リャイシャイ様とやらをここに運ぶから攻撃はするなよ?」


 と、魔槍杖を消してから素早く戻った。

 寝ている少女の下に戻る。


 イモリザに、


「無益な争いは避ける。最初は交渉だ」

「はい。お喋りが可能な種族ですからね♪」


 と、イモリザは楽しげな声で返事をする。

 そのイモリザの向こう側に骨種族たちが現れた。

 黒ローブを着た魔法使い集団。

 イモリザが地面をくり抜いたお陰で、歩む速度は鈍い。

 丁度、アニュイル人たちとの前線に境界線ができたようになっている。


「イモリザ、二つの種族の板挟み状況になる可能性が大だ。撤退の準備、第三の腕になるか?」

「できればこのままがいいです」

「分かった」


 そう喋りつつ片膝で地面を突く。

 少女を丁寧に両手で抱く。


「んじゃ、この少女を返すからアニュイル人たちの下に向かうぞ」

「はい~」


『サラテン、戻ってこい』

『まてぇ……』


 少女を抱えながらアニュイル人の下に走った。

 そして、アニュイルたちに向けて、抱えている少女を見せる仕草を取りつつ、


「この少女のことだろう?」


 と、その少女が、再び、目を開けた。


「あ、貴方は……」

「起きたか。初めまして、俺の名はシュウヤ」

「はい、あれ、わたし捕まって霊魔神殿で、おなかに剣を、生贄に……あれれ、治っている?」

「そう。助けたんだ。さ、立てるかな」

「え、あ、はい」


 と、少女を下ろす。

 背後のウェーズ・ドルライ会が気になるし、早く仲間たちに合流してもらうため、彼女の背中を押す。


「さぁ、仲間たちの下に戻るんだ」

「あ、はいっ」


 押された少女は、仲間たちの下に歩いていく。


「あぁぁ~リャイシャイ様だ!」

「――おおおお」

「リャイシャイ様が生きていた!」


 だが、アニュイル人たちの下に戻らない少女のリャイシャイ。

 途中で、俺を振り返り、お辞儀をしてくる。


「俺のことはいい。いったいった」

「は、はい、本当に助けてくれてありがとう!」


 笑顔のリャイシャイ。

 少女らしい無垢の表情だ。


 そのリャイシャイは俺に背中を見せると、額に角を生やした仲間たちの下に戻る。

 俺とイモリザは頷く。

 アルルカンの把神書が降りてきた。

 サラテンはまだだ。


「使者様、背後の骨種族たちが……」

「あぁ、雰囲気が変わったな」


 そのウェーズ・ドルライ会の方々が揉めだした。


「――どういうことだ」

「我らの霊槍使いが、世界の害悪であるアニュイル人を助けるなんて!」

「なんたることか!」

「……まがい物か?」

「そうだ、まがい物に違いない」

「ルエルは、まがい物を召喚したのだ! 害悪のアニュイル人を助ける者が、我らの伝説であるわけがない!」

「ルエルを捕らえよ――」

「え? きゃ、ま、待ってください」

「大人しくしろ!」


 と、仲間割れか。


「どうして、わたしを!? あの方は本物の霊槍使いです! 奇怪フィナプルスは打ち倒されたでしょう!」

「ならば、どうしてあの生贄は生きている! アニュイル人たちの下に居るではないか!」

「そ、それは……」


 と、ルエルという方は女性のようだ。

 スケルトンだが、綺麗な顔を持つ。

 しかし、狼狽しながら俺を見る。


 両肩を押さえられて黒ローブの一部が裂けていた。

 胸元が露出した。膨らんでいるし、やはり女性だった。

 その胸元も骨が多い。


 骨だけに、おっぱい肉が少し目立つ。


「うう……」

「大人しくしとけ、ルエルちゃんよ」

「けけ、ルエルの体を、昔から、こうやって触りたかったんだ」

「……俺もだ……」

「く、あぅ……は、離しなさい!」

「いてぇな、くそ」

「お前が悩ましい姿で、俺たちに指示を出していたのが悪い……」

「あぁぁ、そんなものを擦り当てないでください!」


 ルエルは、にやにやした骨種族の男たちに体をまさぐられる。

 一方、アニュイル人たちは、リャイシャイを守ろうと陣形を張った。


「――こしゃくな、攻撃陣形か! 骨槍を飛ばしてくる気だぞ」

「グレとハアンは、そのままルエルを押さえていろ。皆は、あのアニュイル人の殲滅だ!」

「はい! ワイティワン様!」


 と、ウェーズ・ドルライ会の魔法使いたちが火球と雷球を生み出す。

 火球と雷球はアニュイル人たちに向かう。


 魔法で、対処だ。


 その魔法攻撃を《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》の紋章魔法が防いだ。


「「――な!?」」

「これほどの氷の網の魔法を、瞬時に……アニュイル人を守るとは!」

「――まがい者めが!」


 と、骨種族の魔法使いたちは、火球を次々に俺に向けて繰り出してくる。

 その火球はイモリザの黒爪たちがすべて斬り落としてくれた。


 火球が散ると、暫し沈黙が流れる。

 イモリザの十本の黒爪は自然と、元の爪に収束。


「またも一瞬で……」


 ウェーズ・ドルライ会は唖然としていた。

 その光景を押さえつけられながら見ていたルエルは、


「……当たり前です。奇怪フィナプルスを仕留めていただいた伝説の霊槍使い様の配下……そして、その霊槍使い様に対して……攻撃を仕掛ける……なんて愚かなことなのでしょう……ワイティワン……アリワン様に報告しますからね」


 そう語ると、


「黙れ、ルエル! アリワンにお前の報告が届くことはない」

「ぐっ」


 殴られている。

 女性が殴られていることに、怒りを覚えた。


 が、冷静になるべきだ。

 あのデカブツ、奇怪フィナプルスと戦って生きている奴らだからな。


「世界を滅ぼす奇怪フィナプルスなど、所詮まやかしだったのだ」

「な、都市が幾つも滅びたというのに、あれほどの被害を受けた奇怪フィナプルスが、まやかしな訳がないでしょう――ぐぁ」


 と、押さえつけられているルエルの背中に杖の一撃が入った。


「黙れ、もう邪魔な大怪物は消えたのだ。残るは、あのアニュイル人……」


 あのルエルを殴る骨種族の男は屑か。


 ま、屑はどこにでも居る。

 キッシュに忠告したように、権力争いはどこにでもある。

 彼らは、アニュイル人との戦いに勝利したとしても、何かしらの内輪もめで争う未来は簡単に予想はできた。


 人類と同じ。

 人は過ちを繰り返すってか?


 ここだと骨になるのか。


「……使者様、反撃はしますか?」

「あぁ、攻撃を受けた場合でいい」

「はい」


 と、ウェーズ・ドルライ会に忠告しようとしたら――火球と雷球が飛んできた。


「使者様に対する愚弄は許せません――」


 そう発言したイモリザが、重い機動で前進。

 動きは多少は速くなっているが遅い。

 そのイモリザは「使者様、大丈夫です♪」と、俺の動きを見て、片目を瞑りつつ発言。


 可愛い表情だ。

 そのイモリザは、短い片腕を伸ばす。

 その片腕から五本の黒爪を伸ばした。

 眼前に迫った火球と雷球を貫いて、破壊した。


「近づいた銀髪女を先に潰せぇぇぇ」


 ウェーズ・ドルライ会のメンバーたちがそう叫ぶ。


 火球と雷球の魔力の残りがイモリザに当たっていた。

 火花が散るようにイモリザの銀髪とココアミルク肌と衣装を燃やし焦がす。


「ふふふーん♪ 効きません」


 そう語るように、すぐに銀髪と衣装と肌は再生した。

 そのまま、もう片方の腕を上げて、五本の黒爪を展開。


 黒爪は、次の魔法攻撃を繰り出そうとしていたウェーズ・ドルライ会の魔法使いたちに向かう。

 魔法使いたちを牽制し、数人の骨種族の体を貫いていた。

 黒爪を瞬時に引き込み格納する。


 側転して火球を避けたが少し体に喰らっていたイモリザは、両手を広げる。

 火傷の痕が再生途中の小さい指で、素早く魔法陣を描く。


 俺は《水癒ウォーター・キュア》を発動。

 イモリザは再生するが、痛そうだし、癒やしてあげた。


 その際にも、押さえつけられたルエルの様子を窺う。

 男の骨種族野郎に、肉盾として利用されている。


 俺の様子から、ルエルに同情していることを読んだか?

 俺は珍しい骨種族のおっぱいさんを凝視していたからな。


 おっぱい教の性だ。仕方なし。


「……あのルエルという骨種族は助けるとしよう」

「はい~使者様にお任せします」


 イモリザは、いつものように、その魔法陣でピアノを弾くように指で魔法陣を叩いた。


 大きい<魔骨魚>を召喚。

 その<魔骨魚>に乗るイモリザ――。

 動きが加速したイモリザは、火球を裂けつつ飛翔しながら両手を斜め下に伸ばす。


 十本の黒爪が下に降り注ぐ。

 魔法を飛ばしてきたウェーズ・ドルライ会たちの体に黒爪が突き刺さった。


 しかし、動きの速い骨種族が二人。

 イモリザの黒爪を魔剣で器用に弾きながら、魔弾を手甲にある装備から飛ばす大柄の骨種族にも、目がいくが……速度が俄に加速した杖を持つ魔法使いは、かなりの手練れと予想。

 あの加速は<血液加速ブラッディアクセル>のような加速だった。


 手前の魔剣士は、イモリザの攻撃を避けつつ防御魔法を両肘に展開。

 そして、右手と左手に持つ紫色に輝く魔剣の切っ先の形を変えている。

 魔剣士ではなく、やはり基本は魔法使いなんだろうか。


 強者だ。

 そのウェーズ・ドルライ会の大柄な魔剣士が、


「異質な黒爪使いか」

「わたしは<光邪ノ使徒>が一人、名はイモリザです」

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