五百二十三話 <飛剣・柊返し>と偽宝玉システマ

 

 白銀色に発光したモニュメント。

 青白い光を発光したモニュメント。

 イチゴの形をしたモニュメント。

 立派なおいなりさんの形をしたモニュメント。

 お豆が粒揃いのモニュメント。

 一対の巨大な双丘さんのモニュメント。


 それらを芸術の森にあるような芸術作品風のモニュメントを確認しながら――。

 繭から生まれた&生まれつつある強い魔兵士を蹴散らしつつ進む。


 ジョディはフムクリの妖天秤を用いてイチゴの形をしたモニュメントを調べ出す。

 フムクリの天秤の形作るガラス状の水晶玉のようなモノから魔線が怪しく噴き出した。


 ジョディはその揺らめく魔線たちと自身の身体から<光魔の銀糸>をイチゴのモニュメントの溝の中に侵入させていく。


 すると、イチゴの形をしたモニュメントからパチコンッとした変な音が響いた。

 その瞬間――。

 イチゴのモニュメントの表面が窪む。

 そこから出来物のようなモノが排出された。

 ジョディは出来物の表面を魔線と糸で綺麗に拭き取っていくと、中から現れたのは極大魔石だった。

 一見では気付かないな。

 原石を見極める宝石師のような感じだろうか。


「あなた様、回収しますね」

「おう」


 エレニウムストーンに利用できるかもしれない。

 迷宮産とは違う魔石だからアイテムボックスに納めても認識するか不明だが。


 一方、ラファエルも魔眼を発動――。

 魂王の額縁から、小さいどんぐり兜をかぶる首を短くしたアルパカ風の動物モンスターを出した。


 違うモニュメントを観察していく。

 使役している新しいモンスターは胴体側に頭部の一部が食い込んだ形のアンフォルメルなアルパカ。

 アルパカ系の動物モンスターは主旋律のある歌のような音を発しながら……。

 

 草でも食べるように口をもぐもぐと動かして、長い舌を使い、モニュメントを舐めている。


 ……謎だ。

 ゴルディーバの里で飼っていたレーメとはまた違う。


「こっちの方は、それぞれの属性が高い極大魔石を用いた魔道具だね」


 と、動物の力か不明だが、魔道具だと断言したラファエル。

 謎だ。


「そっか――」


 と、俺たちは魔兵士と小さい恐竜を蹴散らすことに専念。


 ……そうこうして塔の根元の手前に到着。

 しかし、青白く透けた壁のような結界に阻まれた。


 半透明な青白い結界が塔を覆っている。


 ま、当然か。安全策は用意しておくよな。

 縦長な塔の外壁は結界に阻まれながらも、俺たちからは見えている状態だ。


 その外壁の色合いは鋼鉄っぽい。

 未知の金属かな。

 外壁の模様は灰色と紺色と漆黒色が混ざり合った電気回路のような模様だ。

 電気回路のような溝の線から白銀色の眩い輝きが漏れている。

 

 あの溝からの眩い光が結界を内側から照らし青白いサーチライトのような閃光を地下宮殿の暗闇に作っていたようだ。

 

 出入り口らしきものは見当たらない。

 機械風、長方形な巨大デバイス装置。

 巨大なモニュメントって感じだ。


 結界にしろ外壁にしろエヴァとミスティが見れば、それなりに分析はできたと思うが。

 あの外壁の一部を剥がすことができたら剥がしてミスティにプレゼントしよう。


 と、見ている間にロロディーヌが無数の触手を青白い結界に衝突させていた。

 しかし、結界に穴を無数に作るだけで崩せない。

 そして、穿った穴はすぐに再生する。

 ガトリングガンから射出する弾丸のような骨剣の連撃が効かないとは強力な結界だ。


「ガルルルゥ」


 と、相棒は悔しそうに唸り声をあげると、触手を体に収斂させる。

 両前足を結界に乗せた。

 その両前足を上下させていく。

 結界に向けての爪とぎ風。

 爪で、結界の表面を掻き掻きとほじくるように削り取っていく。

 本当に削っていくから凄い。

 相棒の下に、大工道具のカンナで木材を削ったような、結界を削った証拠としての、青白い塵のような物質が溜まっていく。


「ロロちゃんなら、このまま結界を削って侵入できそう」

「確かに……だが時間はかかる」


 炎で消滅させることは可能かもしれないが、まだ相棒は炎は使わなかった。


「採取します」


 と、ヴィーネは削りカスの塵を採取していく。

 地下で色々と採取していた経験だろう。

 呪神フグの眷属戦での地下探索においてミスティからの指示が身についているようだな。


 しかし、問題はこの結界か。


「……ロロが削った箇所も瞬時に再生する。柔軟性のある結界か」

「うん。ありきたりだけど、この建物が大切なモノなら当然ね」


 ユイが一刀流の構えを取りながら語るとジョディがサージュを振るう――。


 ――お?

 青白い結界を簡単に切り裂いた。

 しかし、青白い結界はすぐ皮膚を再生させるように修復してしまう。


「――柔いようで頑丈な結界です。厄介ですね」

「ジョディちゃんの必殺斬りでもだめなら、僕の番だよ!」

「使役しているモンスターか、さっきのアルパカとは違うのか?」

「なんだ、そのあるぱかとは! さっきのは『ピックピック』という可愛い名前がある!」


 と、ラファエルは独特なポージングを決める。

 右手を胸元の横に、左手は、その右手の内側をチョップするように指を揃えていた。


「そして、戦いにはまったくもって貢献できなかったけど『フェルナンド』なら、結界に干渉ができるかもしれない!」


 と、両手を広げたと思ったらはばき骸の魔眼を掲げたラファエル。

 自慢げな表情だ。


 なんか、本当に印籠のように思えてきた。


「……玩具の世界に棲むモンスターたちか。可愛い盾しか見てないけど、色々と棲んでいそうね」

「印籠のような魔眼はさておき、その魂王の額縁はレベッカがイライラしそうなぐらいに、優秀なアイテムと分かります。しかし、強い制約がありそうです」


 長耳が魅力的なヴィーネは銀色の虹彩を輝かせながら魂王の額縁を眺めていく。

 さっきはすぐに額縁から視線を逸らして、俺とイチャイチャに夢中だったからな。


 ラファエルは眉をピクピクと震わせながら双眸を泳がせる。

 自身が持つ、はばき骸の魔眼を見てから、胸に手を当て、深呼吸をしながら、


「……美人なヴィーネさん。君、鋭いね……僕は、ファフニールとの契約があるんだ、よ」


 と、ラファエルの言葉を聞いた時、背筋に寒い感覚を味わう。

 この感覚は……。

 眉目秀麗のラファエルが真面目に語りながら醸し出す雰囲気を受けた影響ではないだろう。

 そして、猫じゃらし風の杖が肩から覗かせている理由でもない。


 やはり〝闇のリストの一人〟。

 クナの血文字が齎した情報がクローズアップしてくる。


 ヴィーネは愁眉筋に力が入った。

 細い眉と眉が寄る。

 ラファエルの態度と言葉に怪しい雰囲気を感じたのか、俺に銀色の虹彩を寄越す。


 それはアイコンタクトだけだが『ご主人様、このラファエルを信用していいのですか?』 といったような意味が込められていそうな視線だ。


 そのヴィーネに『大丈夫だ』と微笑みを意識しながら……。

 魔法絵師のことを考えて、


「ダークエルフ社会にも魔法絵師は居るんだろう?」


 と、ヴィーネに聞く。

 彼女は厳しい表情から一転して優しい表情に変わり、


「はい、伝説級と神話級の品と推測できるアイテムボックス機能を有した魔法の額縁を持つ者は魔導貴族の長の女司祭を含めて複数いたはずです。北方諸国のロロリッザでは、巨人を封じることのできる魔法絵師が居ました。また、当時わたしは奴隷としての環境でしたが、ゴルディクス大砂漠の独立都市の多くを支配するアーメフ教主国に反旗を翻そうと統一戦線を唱道する魔法絵師を見かけたことがあります」


 と、過去のことを思い出しながら語ってくれた。

 アーメフ教主国か。

 いつかは……ゴルディクス大砂漠の観光もしたいところだ。

 ピラミッド的な古代遺跡を想像しただけわくわくする。


「ヴィーネは奴隷となる前、地上を長く放浪していたんだったな」

「はい。勿論、ラファエル殿と同じような絵画といいますか、世界を持つ〝魂王の額縁〟のような絵画を備えた額縁は見たことがありません……不可思議なモンスターの絵画を扱う魔法絵師なら、ペルネーテと同様に他の地域でも見たことがあります」


 話を聞いていたジョディも、


「……魔法絵師。昔、わたしたちの領域に、流離いの魔法絵師と呼ばれた者がいたことを思い出しました。優秀な魔法絵師は、皆、ラファエルと同様に、曰く付きの額縁を持つようですね」


 ジョディがそう発言。

 その死蝶人の領域に侵入した魔法絵師に興味を持った。


「その流離いの魔法絵師とは対決を?」

「はい、シェイルと一緒に追い掛けました。しかし、その流離いの魔法絵師は強かった。不思議な煙のモンスターを使い、本当にけむに巻くように逃げられました」


 死蝶人をか?

 流離いの魔法絵師の種族は、魔族かハーフか。

 人族ならかなりの強さだ。


 と、納得しながら、ラファエルに視線を向けて、


「で、そのラファエルの『フェルナンド』トーレス? か分からないが、ラファエルのモンスターでも、結界の干渉は危険かもいれないから、今は却下だ」

「名はフェルナンドだよ! まったく! トーレスじゃない」

「そ、そうだよな。悪い」


 冗談でいったつもりだったが通じない。

 カッとなったラファエル。

 両手首に備わるイントルーパーこと、火を吐く蜥蜴たちが、本当に火を吐いていた。

 俺が謝ると、すぐにニコッと微笑むラファエル。


「別にいいさ。そして、この盾の名はドザンだからね、虫じゃないよ?」

「分かってるさ。その腰に差したバッタの足が生えている杖が、トルーマン元大統領だろう?」

「違う! トルーマン・・・・・だ! 勝手に〝もとだいとうりょう〟と長くしないでくれ。笑っているし、わざとだろう!」


 はは。

 皆も俺が変なことを話していることは、皆、分かっているようで笑う。

 ラファエルは睨みを強めてきたが、彼もすぐに微笑んでくれた。


「まったく、マルゲリータに叩かれるよ? 彼女の右手は神速の域なんだから……でも、シュウヤなら強引に結界を打ち破る槍技が使えそうだね、今は出してないけど、紅色の矛の魔槍は強烈だ」


 見たいようだから、魔槍杖バルドークを右手に出した。


「そう、それ……」


 ラファエルはユイとヴィーネの背後に移動していく。

 逃げるなよ。


「……たぶん、打ち破ることはできると思う。まぁ、それは最終手段だ。一応、魔法の専門家の意見を聞いて助力を仰ぐ」


 すると、ユイとヴィーネの間から頭部を傾けて前髪を揺らしながら俺を見たラファエルは、


「――あ! まさか、クナちゃんがここに? さっきの骨のような騎士たちのように……」

「いや、魂王の額縁のような物はないから、さっきのヴィーネの遠距離連絡方法は見ていなかったのか?」

「うん。あ、血文字ってやつか」

「そうだよ。クナは正解だ。ま、見ていれば分かる――」


 魔槍杖をしまい、すぐに筆記体風の血文字をエヴァに送る。

 エヴァ経由でクナに質問をぶつけた。


 俺の血文字を見ているラファエルは……。


「個人ごとに変わるメッセージを送り合えるのか、便利だ」


 と血文字のことを指摘するとユイが、


「眷属たちが使える連絡手段よ」


 と発言。


「そうです。白色の貴婦人討伐作戦の要と言えましょう」


 ヴィーネがそう言葉を重ねると、ユイは頷く。


「うん、父さんとサザーとフー。そして、エヴァたちとメンバーを分けて遠くから連携をとりながらのアルゼの街も同時に救うという一大作戦だったからね」

「……ご主人様とわたしたちだからこそ可能だった作戦。そして、アルゼの街に多数の一般市民を救えたことは本当に誇らしく思います……」

「ヴィーネは魔導貴族としての歴史を知っているだけに、何となくだけど、その気持ちは分かるわ」

「……凄い。アルゼの街までも救っていたんだ……」


 ラファエルは急に言葉を震わせている。

 そういえば、アルゼのことを告げていなかったか。


「シュウヤ、僕は……」


 涙ぐむなよ。

 悪いが、その表情だけでお腹いっぱいだ。

 腕を振って無難に応えようとしたところで、ダブルフェイスも、俺を尊敬するような眼差しを向けて、


「タスクフォースを組み、この魔法遮蔽に覆われていたはずの白色の貴婦人の本拠地を狙いつつアルゼの仕込みも粉砕とは……その機動力、連絡能力、攻撃能力、すべての作戦遂行能力に恐れ入る……死の旅人たちがあっけなくやられるわけだ」


 と短く呟いた。

 そう渋い口調で語るダブルフェイス。

 彼から深いインテリジェンスを感じた。

 元軍人あがりの暗殺者とか?


 俺は皆の視線を感じながらエヴァとの血文字を行っていく。


 エヴァはカルードたちと連絡を取り、セーフハウスから外に出ていた。

 クナを抱えながら、カルードの部隊を追い掛けてきた集団と戦闘したらしい。

 相手は、片腕の冒険者の虎獣人ラゼールを中心としたグループ冒険者で、その虎獣人ラゼールはハンカイと互角に戦ったとか。

 見知らぬ集団は、銀船を追っていた連中。

 幻の四島を見つけた大海賊マジマーンの一味らしい。

 エヴァに加えて、レネ&ソプラとカルードに血獣隊の敵ではなかったようだが、苦戦はしたようだ。


 戦いに勝利し、捕らえた者たちの尋問をすると……。

 十二大海賊団ではなくとも、その実力と名声はかなりの物だと血文字で告げてくれた。

 マジマーンという女海賊の容姿を聞いたが、エヴァは『ん、知らない』と、突っぱねていた。

 だから美人さんだろう。


 そうして、俺の方も説明をしていく。

 ラファエルと遭遇からデラースと戦闘し単眼の子供ユーンを助けたこと。

 宝物庫から秘宝の回収を終えて、ユイたちと合流しダブルフェイスの存在を告げていく。


 ダブルフェイスのことはもうエヴァは知っていた。

 ヴィーネとユイから血文字連絡を受けていたようだ。

 そして、地下宮殿に到達し、大量のモンスターを屠り続けてから、モニュメントが疎らに設置されていることや巨大な魔法陣と地下宮殿の心臓部らしき魔神具を囲う結界のことを事細かく伝えた。


 さらにエヴァは、クナとの会話を血文字で起こしてくれた。


『ラファエルは一種のステークホルダーですから、優秀な魔物使いの彼に再会を楽しみにしています。それよりも! 巨大魔神具らしき建物を見たかった! 結界ですが、近くに何かの起因するモノがあるはずですよ! 極大な魔石が五つか、或いは、八つほど嵌まっているモニュメントか石碑はありませんか? ただし、罠もあると思います。気を付けてくださいね。と、クナは鼻血を流して興奮しながらいってる!』

『分かった。エヴァもありがとう。今、見てみる』


 と、鼻血のことはツッコまず。

 エヴァに返事をしてから周囲を見渡すと……。


 ――あった怪しい石。

 一見は今まで見てきたような墓碑のようなモニュメント。

 だが、あきらかに蔓のようなモノが複雑に絡まって偽装が施してある。 


 蔓のようなモノの間という間から、溝と一緒に巨大な魔石の一部が覗かせていた。


 罠は当然、あるだろう。

 だが、痛いも嫌だが、挑戦はしたい――。


 すぐに地面を蹴って前進――。

 すると、何かの圧を感じた。

 もう罠の範囲内ということか、俺の第六感が罠だと告げるが、構わず――。


 モニュメントに到達するや否や、左手に握る月狼環ノ槍を地面に突き刺す――。


 ジジジッと、不自然な音と小さい火花が地中から走る。

 それも無視して、腰から鋼の柄巻を抜く――。


 モニュメントを覆う蔦類を、素手の指でなぞりながら……。

 右手が握る鋼の柄巻に魔力を通す――。


 ――ブゥゥンと好きな音が鳴る。

 鋼の柄のはばき根元から青緑色の刀身、ブレードが生まれ出た。

 青緑色のプラズマのような光刀だ。


 血魔剣でもいいが、やはり、ムラサメブレードの方が愛着がある!


 左半身を引いた体勢から正面を覆う蔓だけを狙い……。

 右腕をスッと持ち上げる。

 ムラサメブレードの切っ先をモニュメントに差し向けた。

 そのまま、ユイが時々扱う一刀流を参考に……。


 正眼の構えで、モニュメントを睨んだ。

 モニュメントから見れば、俺の姿は青緑色のプラズマの光で覆われた形。

 視界があるわけではないと思うが見にくいだろう。

 その光刀の切っ先を蔓に当て刺す――柄を横に振るう――。

 続いて、斜めに上の蔓を狙い斬る――。


 蔓は一瞬で蒸発するように散った。

 動から静となった瞬間――モニュメントが一気に露出。


 え? 八角系の魔法陣だが……人の頭部?


 そして、人の頭部の周囲に、極大魔石が方位を示すように嵌まっている。


 しかし、人の頭部かよ……すっぽりと輪郭にそう形で嵌まっていた。

 生きている女性っぽい。

 綺麗な女性の頭部だ。


 額にほくろがある。


 その頭部は僅かに動く。

 俺のことをジッと睨んできた。


 その瞬間、唇が開く。 

 女性の双眸が、ちかちかと光を帯びながら、


「……認識障害、レゾンデートル解明、外部侵入者を検知。危険レベルSSS、危険、危険、危険、危険、危険――」


 と、言葉を発し始めていく。

 独特のエラー音も発生すると――。


 ぐらぐらと縦揺れと横揺れが起きる。

 地響きが発生した。


 さらに、目の前のモニュメントと同じ形の石碑が、地面から突出してきた。

 その地中の魔法陣を崩すように現れたモニュメントも、人の頭部が中央に填まっている。


 その頭部たちの双眸群から、魔法光線が射出されていく――。

 やはり、罠か、光線は俺にきた?


 いや、魔法光線は宙で弧を描いて、俺の頭上で、バチバチと音を立てて衝突し合う。

 一瞬で、その光線は百八十度、俺の頭上に広がった。


 俺を囲うようなバリアって感じだが……さて……。


「――ちょっと、何よこれ! クナさんと連絡した?」


 遅れてきた皆を代表するように、モニュメントの外側、バリアの外側に居たユイが質問してくる。


「にゃおお」


 相棒も心配そうに鳴く。


「いや、してないが……ロロもユイも手をだすなよ。皆もだ。ここは俺が対処するとして、この生きているだろう頭部と交渉だ――」


 魔闘術を纏いながらそう発言した直後、空から光線が迫った――。


 ムラサメブレードを左から右へと振るいつつ――。

 その光線にプラズマの刃を当て逆に光線を跳ね返していく。


 <導想魔手>も鎖の防御もなしだ――。

 だが、これは使う――。

 <血道第三・開門>を開門――。

 <血液加速ブラッディアクセル>を発動。


 頭上の光の網のようなモノから、無数の光線が迅速な速度で降り注いでくる――。


 血の加速で避け続けていくが間に合わない――。

 頬やら、腕やら一部が裂かれた。

 百八十度からほぼ連続的に照射されてくる光線攻撃。


 罠に自ら飛び込んだ形だが――この環境だからこそ得られることがある。

 ゴルディーバで過ごして経験が脳裏に浮かぶ。


 【修練道】での木人、丸太、縄網、を使った激しい訓練を思い出す――。

 咄嗟に百目血鬼の<虎口天狗斬り>をイメージするが、できない――。


『――喝だ、コラァ!』


 アキレス師匠の怒った幻影が見えた気がした。

 ――すみません、師匠! やはり基本は大事だ。 

 ラ・ケラーダの想いを胸に抱きつつ俺の知る<水車斬り>を意識しながら足下に水を撒く。

 同時に右の掌に水を集結させた。


 風槍流の『片折り棒』のステップワークから足下の水と利用しつつ回転しながら光線を避ける。

 ――機動だけならッ。

 華麗な百目血鬼の進行性剣法を実行――。

 同時にカウボーイハットじゃないが、帽子の似合うダブルフェイスの短剣機動とユイとヴィーネの力と速さと技が錬磨された剣術機動を参考に応用も行う――。


 屈伸に近い運動から――。

 片方の伸びた右足に沿うようにムラサメブレードを伸ばす――光線を避けながら、ムラサメブレードの刃に当てた光線を跳ね返す――。


 続けて『何事も修行――!』と意気込みながら地面を蹴り左に移動――。

 水で覆う右手が握るムラサメブレードを強く意識。


 手の内側で――水流操作ウォーター・コントロールの水で勢いを加算させた鋼の柄巻を急回転させていく――そして、魔法書をくれたサジハリに感謝した瞬間――。


 ※ピコーン※<飛剣・柊返し>スキル獲得。


 おぉ剣術のスキルを獲得した。

 覚えたばかりの<飛剣・柊返し>を実行しながら――。

 無数に迫った光線を、急回転していく青緑色のブレードを使い、すべて跳ね返すと、頭上の光線の網のようなバリアは弱まった。

 周囲のモニュメントに嵌まる頭部から煙が上がっている。

 だが、煙を発しているだけで、まだ光線は行き交っていた。


 そして、正面のモニュメントに嵌まっている美しい頭部だけは燃えていない。


 ――攻撃が止んだか?


 鋼の柄巻に送っていた魔力を止める。

 そして、小銃を扱うように回転させた鋼の柄巻きを、さっとした動きで腰の専用剣帯へ差し戻した。


「「おぉぉ」」

「ご主人様の剣舞!」

「にゃおお~」

「……圧巻ね。水の動きはわたしも真似したい。歩法もダブルフェイスから剣法はわたしたち以外にもあった……」

「そうですね。ご主人様はアズマイル流剣法にもない剣法をお使いになっていました」


 俺は片手をあげて、皆の視線と言葉に答えながら、


「喜ぶのはまだだ。光線の網はまだ展開している」


 そのまま正面のモニュメントの頭部に手を伸ばす。

 が、バチッ――と痛い――。


 上空を行き交う光線バリアの一部が、鞭のようにしなりながら俺の右手をピンポイントに攻撃してきた。

 右手は貫かれる。


 すぐに手の甲の穴は血で染まり再生するが、痛いことに変わりない。

 すると、目の前の綺麗な女性の頭部が、


「危険レベルSSS、危険、危険、危険、危険、危険――」


 と、警告してくる。


「おい、聞こえているなら攻撃はよせ」

「シュウヤ、壊しちゃえば? だめなの?」

「だめだ、あの塔が自爆でもされたら困る」

「あ、そうか……」


 と、一瞬で青ざめた表情を浮かべたユイに安心を届けるような、微笑みを意識してから……。

 <血鎖の饗宴>を発動させながら右手を再び伸ばす。

 また、光線が俺にくるが、螺旋した血の鎖群に光線は効かない。


 光線は蒸発するように消えていく。

 さっきと違い、光線は俺の手だけを狙い撃つ。


 モニュメントの美人さんの……『わたしに触れるな』という意思の表れか?

 とりあえず、あの頭部の額のほくろに……。


 ――指を当てた。


 ほくろはすごく柔らかい。

 まさか、櫨豆のような乳首さんが額に!?


 なわけがない。

 感触があるということは、やはり生きてる。

 3D映像でよく言われるような不気味な谷はないし、人の頭部が嵌まっているのか。


 光線群の鞭の数が増えて、攻撃が激しくなった。


 しかし、なぜか、俺の全身を攻撃してこない。

 だが、このまま光線の攻撃が腕に続くのなら、ユイの言うように……。


 血鎖でモニュメントごと貫くか?


 そんなことを考えながら……。

 指から魔力を直に額のホクロに送り込む。


「……ァ、ァ、ン! 高位魔力層を感知!」


 と、思ったら、甲高い女性の声で反応した。

 しかも、色っぽいぞ……。


「……認識……ゼロハチハチハチハチ」


 柔らかい乳首ほくろと魔力がスイッチだった?

 分からない。


 認識と呟く女性頭部。

 空の光線バリアからの攻撃は止まった。


「お前はなんだ?」


 と、聞くと双眸がぐるぐると蠢く。

 そして、ピタッと止まって俺を凝視。

 双眸の虹彩は蒼色だ。微笑んだ? 美しいからドキッとする。


「……偽宝玉システマ……である。汝、答えよ。何者ぞ……ゼロハチハチハチハチ」


 最後の数字は認識番号的な数字だろうか。

 声と頭部に乳首のような感触といい、完全に生きた人間っぽいが……。


 それとも、血獣隊の零八小隊が好きなのか?


「シュウヤ、わたしにはガルモデウスの書があるから、交渉に利用できるかも!」


 アドリアンヌからもらったアイテムか。

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