五百七話 魔拡群絵師と少女の声


 ◇◆◇◆



 ……僕の視線に気付いた外の者。

 魂王ファフニールの視線に気付いた黒髪の男。

 彼を鑑定したけど、旧神テソルの<魂魄解眼>を使った鑑定に失敗した。

 <魂魄解眼>を用いて相手の能力を視る事に関しては失敗も多いから理解はできる。<魂魄解眼>は運命神アシュラーのような力ではないからね。

 とはいえ自信を失うなァ……。

 <魔拡群絵師>というレアな戦闘職業も形無しだよ。

 <魂魄解眼>でゼレナードも一部だけど能力は視ることはできたし、旧神テソルの<魂魄解眼>と魂王ファフニールの力があれば大概は見抜ける自信があったけど……考えを改めなければいけない。

 

 そして、黒髪の男の体から魔素の流れの一切を視ることができなかった。

 

 明らかにオカシイ……だけど姿は見えていたし一見は普通の黒髪の男。


 でも魔素が感じられないなんて普通はあり得ない。

 いたのに、いないような無機質な影が歩いているようだった。

 本当に不思議な感覚だった。

 幽霊、シャプシー系でさえ魔素が宿るというのに……。

 だけど、何事も絶対はない。

 魔法絵師の友達のノッコにモンスター使いのピノコも、


『この世は、お目目が見えている世界だけではないのんお!』


 と可愛らしく教えてくれたっけ。

 そうだ。<隠身ハイド>が如何に優秀でも……僕は実際に見たからな。

 現実に魔力を感知させない者がいるという事は理解しないと……。

 たぶん、あの黒髪の男は、僕が生きてきた中でトップクラスの気配殺しに魔力操作の技術の持ち主という事だ。

 そして、今も警報は鳴ってない。

 ゼレナードが飼い馴らしている魔族兵士たちの動きも皆無。


 ここの白色の貴婦人側の勢力は、僕以外、誰も、彼の存在に気付いていない。

 だからこそ、ゼレナードに報告はしない。

 帰ってきたロンハンとダヴィにも教えなかったし。


 外の者の侵入にゼレナードが気付いて、上手く対処したとしても、知らぬ存ぜぬを貫き通す。

 魂王ファフニールの力がありながら、どうして見逃した、と責められるかもしれないけど……。


 僕にはゼレナードに一度も見せたことのない『シーグル』もいるし何とかごまかせるはず。

 でも、大丈夫か。

 何しろ僕は、ずっと、ここにいたんだし心配のしすぎかな。

 それに、たぶんだけど僕以外が責められるはず。

 気配を断つことが達者な黒髪の侵入者は、何かしらの要因があるからこそ、ゼレナードという存在に気付いたのだから。

 ゼレナード討伐に動いている陰の英雄かもしれない。

 

 ――きっとそうだ。


 戦神を信仰する戦神教のことや仙王家の存在は聞いたことがある。

 英雄ではなく他の勢力かもしれないな。

 古代狼族の狼将とか、僕の知り合いの幻獣ハンターとか、始祖の十二支族家系図に載る十二支族たちも悪だけど、樹海では色々な勢力と戦っているから、彼ら吸血鬼たちが、ここの秘宝を狙って攻めてきたのかもしれない。


 しかし、ゼレナードとケマチェンめ……。

 僕だけでなく『ゼットン』の胸にまで紋章を打ち込みやがって……許せないよ。

 とはいえ、ゼレナードは頭がいい。

 悔しいけど、卑劣なゼレナードには才と強さがある。

 秘宝を着実に得ているし……。

 人材を得ようと配下に対して褒美も与えている。

 恐怖で人材をコントロールする術を心得ている。


 刃向かえば僕の魂とゼットンの魂はゼレナードに吸収されてしまうし、死んだらお仕舞いだ。

 僕が死んだら魂王の額縁の中で生活している無数の魔獣、モンスターたちも暴れてしまうだろうし……ゼレナードも対処に困って大切なモンスターたちごと額縁を破壊してしまうかもしれない。


 ケマチェンとゼレナードのコンビに捕まった時、切り抜けられると踏んだ僕の判断能力の低さが原因だし仕方がないのだけど……。 


 だからといって諦めない。

 僕はまだ生きているんだから。

 生きて、この牢獄から抜け出してやる。

 僕は世界に住む色々なモンスターたちを見たいんだ……。

 そして、魂王の額縁を使って傷ついたモンスターたちを救いたい。

 でも、ゼレナード的には……魂王の額縁の秘奥に気付いているからこそ……。

 僕だけではなく僕が愛用して頼りにしていた『ゼットン』も人質として利用したんだ。


 だからこそ、僕が生かされて、ゼレナードたちは僕を仲間にしようとしたんだろうけど。

 実際、仲間になったし。

 ま、それはあくまで表向きフリ

 そう、ケマチェンやフェウのように心まで墜ちたりしない。

 彼は優秀だからこそ墜ちるしか生きる方法がなかったのだとしたら……。

 いや、彼に同情しても得にはならない。


 僕の胸に紋章を刻んだ時の彼の愉悦の表情は忘れないし、あれが演技だとしても許せない……。


 そして、あの外に居た黒髪の男がゼレナードと敵対している者なら……。

 ゼレナードもケマチェンも皆、僕をバカにした鬼強い戦闘メイド長も倒してくれるかもしれない。


 ゼレナードを倒してくれたら、僕の紋章も消えるだろうし、期待したい……。


 でも、戦いになった場合、門番代わりの火蜥蜴イントルーパーたちが心配だ。

 戦いになったら密かに逃げるように、と、隠れて、イントルーパーたちに指示を出したけど……。


 僕の力も万能じゃない。

 デュアルベル大商会に所属していた魔族のクナちゃんが語る〝闇のリスト〟とかのメンバーの一人だけど……ゼレナードの力を得たケマチェンによって白色の紋章を胸に刻まれてしまったし……。

 クナちゃんがムカつくほど強いと言ってくれた魔霊絵師系統の<魔拡群絵師>だけど仲間・・たちを使わなきゃ僕は弱い。


 だから、何かを期待して隠れていよう。

 <魂魄解眼>と魂王の額縁から『アヒーム』を出せば隠れることはできる。



 ◇◆◇◆



 よーし! ゼレナード討伐成功!

 アドホックは正直分からないが、ま、死んでいるだろう。

 ――と、首筋に少し痛みを覚えたが、無視。


 急ぎ、皆に血文字で連絡しながら周囲を確認。

 ママニ&バーレンティンたちと違ってミスティ&レベッカが居たところでは戦いが終わっている。

 そんな二人からの血文字で、俺が指摘した魔物使いの青年は居なかったと報告を受けた。


 そのレベッカたちは、ママニたちの加勢に向かうかどうかママニと血文字で話し合いをしていた。


 『状況が安定するまで、集合するのは愚策かと。背後を突かれるよりは、今の陣形を維持した方がよろしいかと思います』と、ママニからミスティとレベッカは血文字で報告を受けていた。


 兵を指揮していただけはあるママニの血文字報告。

 ま、当然か。

 リアルタイムに時間は進んでいる。


 ミスティたちが戦った相手は戦闘メイドたちが大半だったようだ。

 ロンハンたちを出迎えていたメイドたちかな。

 改造を受けた上級戦闘メイドたちは異常に強かったらしい。


 詳しい戦闘は聞いてないが、ミスティもレベッカも傷を受けたようだから、かなり強かったようだ。


 俺が侵入しようとした一階付近の光景を見れば、どんな戦いだったかは、ある程度推測できた。

 血文字を送り合いながら、俺はアイテムボックスから高級魔力回復薬ポーションを取り出す。


 エナジードリンクを飲むようにポーションを飲む。


 戦闘中のママニとの血文字の連絡は短かった。


 『ご主人様、こちらはお任せください、フォローは無用』


 とのことだが、もう相棒がフォローしている。


 別働隊の隊長のカルードからも連絡があった。

 レネ&ソプラからフォローを貰いつつ、無事にアルゼの街から脱したようだ。

 何か曰くつきの凄腕冒険者と見知らぬ集団に追われている状況らしいが……。

 戦わず、セーフハウスで待機しているエヴァたちに合流するようだ。


 ママニたちのフォローのために上空に居た俺と離れた相棒は、巨大化し、荒ぶる神獣と化している。

 魔竜王じゃないが、咆哮を上げながら、連続的に盛大な炎を吐いていた。


 敵兵士ごと樹海は燃えていく。

「樹海は燃えているか?」

 悲壮な曲、映像の世紀の曲を思い出す。


 自ら起こしといてあれだが、こりゃ戦争だな……。

 無残に死んでいく兵士たちを見ると、不条理さ、いや、気にしても仕方ない。

 魔界の神々は喜んでいるかもしれないな……。


 さっきから首筋に変な痛みを感じて、血も流れているし……。

 悪夢の女神さんも楽しんでいるんだろうか。

 

 神々よ、俺たちの愚かさを嗤って見ているのか?

 

 魔毒の女神も居そうだな……。


 爆炎と呼ぶべき援護を受けているママニはアシュラムを<投擲>しながら血文字の交換をしていた。

 虎獣人ラゼールらしい強烈な踏み込みから投げたアシュラムは血を纏っている。


 死の旅人と推測できる戦闘に特化した冒険者崩れたちの身体を両断していった。

 さすがは血獣隊隊長のキャプテンママニだ。


 キースさんは剣豪らしい所作で素早く敵との間合いを詰めながら魔刀を振るっていた。

 魔刀に肉がこびりついているように見えるが、ここからじゃよく分からない。

 キースさんは、俺と血文字を交換しながら器用に戦うママニの周囲を回っている。


 臣従している用心棒のような感じだ。

 一方、バーレンティンは、血の炎のような狼煙技を披露しながら、骨喰厳次郎を横から揮う。

 血の一閃技で、右側の敵の二人の首を一度に刎ねると跳躍――。

 敵たちも覚悟はあるのか、バーレンティンを数で押し潰そうと群がっていく。


 回転したバーレンティンは得物の骨喰厳次郎を離した。

 更に、双眸が煌めくと――ネモフィラのような鮮やかな青い瞳から魔線が四方八方へ伸びていた。

 怪光線という類じゃない。

 胸元の魔弩紋と呼んでいた金具の上に浮かんでいた幻影の弩と、その双眸から出た魔線が合体した。


 その瞬間――。

 中空に連射機能がありそうなクロスボウ的なモノが無数に出現した。

 その魔力を秘めたクロスボウの幻影のようなモノからも凄まじい数の魔線群がバーレンティンの指元に向かう――イケメンのバーレンティンの十本の指に無数の輝く紐のようなモノが繋がった。


 離していた骨喰厳次郎は宙に浮かんでいる。

 魔線群と繋がったバーレンティンの指からは、また別のレーザー光線のような魔線も出た。

 そのレーザー光線は照準のように水平に動いていく。

 

 バーレンティンはクロスボウを操る人形師にも見える。

 すると、バーレンティンは両腕を左右に広げて指揮者のようなポーズを取った。

 そして、手首を曲げ、親指を掌に納めるように、引き金でもあるように動かした瞬間――。


 指先と連動したクロスボウから、凄まじい数の魔力の矢が直進。

 手前に居た敵を一瞬で屠る魔力の矢。

 止めどなく魔力の矢は発射されていく。

 距離を取っていた敵の一陣に向けて飛翔していった。

 バーレンティンは広げたままの十の指から、魔弾でも発射しているように、ゆっくりと両腕をクロスしては広げていく。

 その腕が動く方向にレーザー照射したような線と共に連動したクロスボウから無数の魔力の矢が、次々と発射されていった。

 

 圧巻だ……ガトリングガンを超えている。


 機関銃を何十人かで撃っているように右辺の敵を一掃していくバーレンティン。

 本当に凄い。冒険者崩れの数を五十は屠ったか? もっとか……。

 地下の経験はヴィーネ&ミスティとハンカイも語っていたが、凄まじい戦場が多いようだからな。今のような範囲攻撃スキルを得る土壌があるんだろう。


 だが、まだまだ敵は多い。

 魔族系兵士を含めると、まだ、百人以上はいるようだ。

 最初の読み通りか……。

 樹海の外に出ていた兵士たちが戻ってきたか?

 それとも巡回のチームが合流したのか不明だが……。

 敵には樹海の外と破壊の跡が酷い施設から飛び出てくる兵士たちが合わさり混乱しながらも大規模な戦場と化していた。


 左側に集結した冒険者崩れたちは、見たことのない装甲馬車を起点とした戦術を展開している。

 怪物の姿をした兵士もいる。

 魔物使いか。最初に俺を見た青年ではない。

 しかし、ゼレナードが討たれても逃げずか……。


 ロゼバトフさんもいた。

 彼はメイスを振るい――間合いを詰めてきた魔族系兵士の頭部を破壊。

 頭部が潰れた敵は吹っ飛ぶ。

 続けて群がってきた人族兵士たちを拳の武器とメイスを振るい回して吹き飛ばしながら前進するロゼバトフさん。


 血を発しながら咆哮した。

 樹海に響くロゼバトフさんの声。

 ……重戦車だ。


 すると、宙からバーレンティンが重戦車のロゼバトフさんに指示を飛ばす。

 バーレンティンは指揮者然としながらもロゼバトフさんと連携する。


 バーレンティンは華麗に宙を飛翔するように<血魔力>の塊を足下に発生させて跳躍を繰り返す。

 ここからじゃよく見えないが、彼の秘術のようだ。


 そこから両手と連動した「諸葛弩」風の魔連弩から連続的な魔矢を放っていく。


 ロゼバトフさんは大柄に見合わない動きで、ターン。

 足裏にターンピックがあるような素早い回転だ。

 ロゼバトフさんは、バーレンティンの魔弩の攻撃を喰らい数が減った中隊規模の兵士たちへ向けて走り出す――別働隊の敵のリーダークラスと推測できる大柄の人族兵士が標的らしい。


 猪突猛進の歩法だが、凄い迫力だ。

 迎え撃とうとした大柄のリーダーは長剣をロゼバトフさんの胸元に突き出す。


 が、その長剣を避けようとしないロゼバトフさん。


 ロゼバトフさんも防具を身につけているが、防具が弾いた切っ先が斜め横方向にずれて胸元に突き刺さってしまう、しかし、勢いは衰えるどころか逆に増した。

 吸血鬼らしく血飛沫を操作しながら強引に拳を振るい抜くロゼバトフさん。

 驚愕しているリーダーの頭部をロゼバトフさんらしい巨漢の拳のギャラクティカマグナムが貫く。


 勿論、技名は俺が勝手に付けたが……。


 まさに、ザ・破壊者。


 プランジング・ネック的な革鎧が似合うイセスも活躍している。

 彼女は、小さいチャクラム系の武器を<投擲>――。

 その小さいチャクラム系の武器が宙に弧を描くと兵士たちの手足を切断。

 続いて、<血魔力>で覆った土色の巨大な土剣が――。


 ぐわりと振り回された。

 巨大な土剣染みた魔剣のようなモノが、近くの巨大な樹木ごと複数の兵士たちをなぎ倒す。


 背中の巨大なチャクラムは使用していない。


 続いてレベッカとミスティは……あそこだ。

 俺が突入する前待機していたところの反対側にいる。


 そこはもう戦いが終わったようだ。

 新型魔導人形ウォーガノフこと、ゼクスの肩に乗るレベッカ。

 レベッカは井戸の方に指を向けている。


 ゼクスの武器を弄っていたミスティは起き上がりつつ、そのレベッカに向けて何か話をしていた。

 細い指をレベッカに向ける。


 位置的にミスティはレベッカのパンティの色でも指摘しているんだろうか。


 しかし、相棒のロロディーヌが吐いたというか、吹いた炎の威力はやはり凄まじい。

 相棒はバーレンティンたちを助けようと助太刀するような、いい意味で、炎を吐いたが……。


 樹海の一部は完全に燃えている。

 

 このままでは樹海全体に広がる大火災となってしまうかもしれない。

 そうなったら本末転倒だ。


 一瞬、《氷竜列フリーズドラゴネス》を放ち鎮火するのもいいかと、思ったが……。

 まだ敵と味方は乱戦中。


 上空からの強烈な範囲攻撃はママニたちにも被害が及ぶかもしれない。


『――ヘルメ、外に出ろ。皆のフォローをしながら、ロロの炎があれ以上広がらないように消してくれ』

『はい――』


 常闇の水精霊ヘルメは火災が発生している場所に飛翔していった。

 すぐに左目から突出したヘルメ。


 俺はヘルメの姿を見ながら――唇を細めた。

 口内の舌を合わせつつ、息を吹く。

 そう、黒馬の姿をした相棒に向けて甲高い鶯のような口笛を吹いた。


「ロロ、戻ってこい!」


 そのヘルメと交代するように、相棒が戻ってくる。

 螺旋軌道の飛行を行う巨大な戦闘機に見える神獣ロロディーヌだ。

 

 ヘルメは大規模な雨のような水飛沫を発生させた。

 ――火の勢いは弱まった。

 <闇水雹累波>ではないようだが、何か新しい技でも繰り出すのだろうか。

 ま、炎が徐々に消えていく最中にも氷槍を生み出している。

 

 そのヘルメの十八番の氷槍で、ママニのフォローも行っていた。

 常闇の水精霊ヘルメに任せよう――。


 相棒の背中に飛び乗った。


「ロロ、下に向かう――」


 俺は触手の手綱を掴むとロロディーヌを下方へと傾けた。

 手綱の触手の先端が俺の首の両側に付着する。


「にゃ~」


 ゼレナードとアドホックが作り上げた穴の中へと再突入――。

 首からの痛みが増した。


 そう、<夢闇祝>だ。

 血の刻印みたいな感じだな。


 こりゃ確実に悪夢の女神ヴァーミナの関係者か、アイテムが、ここにある。

 悪夢の神様だが白銀色の髪を持つ美人さん。

 エメラルドと深淵の闇を感じさせる虹彩を持った美しい瞳は忘れない。

 そして、死体が好きという……まさに、ダークな方だ。


 あの神様も、魔界で攻められている状況のはずだが……。

 ちゃっかりと、他の眷属を地上で活動させているようだ。

 

 と、風を感じながら地下に向けて降下していく。


 転移から出現する兵士たちが止まってなければ沸騎士たちはまだ地下で戦っているはず。

 ま、巨大な地下施設だ……。

 転移してくる他にも兵士たちの詰め所は至るところにあるだろう。


 そして、ゼレナード&アドホックという存在が消えても外の兵士たちは戦っている。


 戦わず、逃げている者もいるようだが……。

 ここは樹海、逃げることも困難だろうし。


 だから諦めてどうせ死ぬなら戦って死ぬことを選ぶ者が多いのかもしれない。

 白色の貴婦人側として長く戦いに参加している奴らほど……。


 その覚悟はあるだろう。


 状況次第では、リサナも出して、確実な橋頭堡を築くとしようか。 

 他にもお宝部屋とかがあるかもしれない。

 サラテンの回収もして、神々の残骸も切って採取だ。

 デボンチッチの化石を集めて、デボンチッチフィギュアシリーズを作り、家に飾ろうか。

 

 神棚に飾って、パンパンと柏手をして、お祈りとか。

 そんなことを考えながら……。

 痛みが更に増した首にある傷痕<夢闇祝>を触りつつ、相棒に騎乗した状態でゼレナード&アドホックが作った巨大な穴の中へと下降していく――。


 その途中、明らかにオカシナ部屋に繋がる巨大な扉を確認した。


 ――相棒、止まれ。

 と、気持ちを伝えると、ロロディーヌは急ストップ。


 黒馬のロロディーヌは翼の形を変えてコンパクト化しながらホバーリング。


 ゼレナード&アドホックが作った穴の断面というか部屋だった断面の大半は……。

 巨大なレーザーが通り抜けたように溶けている。

 しかし、あの巨大な扉はどう考えても、ゼレナードの幅と高さだよな……。

 魔素の反応もある。


 鍵が掛かっていそうな扉だが……。

 束となっているクナの鍵たちも、さすがに合うわけがないし……。

 と、思った直後、ロロディーヌはその扉に触手を繰り出していた。


 それも神獣らしい数十といった数の触手群――。

 巨大な扉に、ドドドドドドッと連続的に打楽器を越えた音が響く。

 そう、神獣の触手が突き刺さっていた。


 その突き刺した触手を、また、凄い勢いで引き戻すと、巨大な扉はあっさりと外れて飛んできた。


 おーい。とツッコミを入れるほどの速度で巨大な鉄製扉が飛翔してくる。

 俺は<闇の千手掌>を発動させて、迫ってきた巨大な鉄製扉を弾き飛ばしながら、黒馬の相棒と共に、そこの扉の先に見えた部屋に突入した――。


 暗い部屋だが<夜目>がある。

 魔素の反応があるところを見た、その刹那――。

 ――今、一瞬、黒いモノが見えたような気がしたが気のせいか?

 しかし、ここは何かの実験室? 病院の手術室を連想するが、魔力を内包した色々な物がある。


「……助けて」


 黒いモノが見えたような場所から少女の声が響く。

 巨大な棚の向こう側だ。部屋の隅か?

 <夢闇祝>が疼く……。

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