四百八十八話 魔法学院ロンベルジュ
◇◆◇◆
「ふふ~」
少女は楽しげにスキップをしながら渡り廊下を進む。
彼女の視界に入る少年少女たちの視線は気にしない。
少年たちの中には、この少女に憧れを持つ者も居たのだが、少女は気付いていなかった。
金色の髪の少女がスキップしている廊下だ。
周囲には学生服を着た男女の生徒たちが歩く。
中年の男性教師、若い女性教師と臨時の講師、武術師範の雇われ講師も歩く中央廊下。
そう、ここは迷宮都市ペルネーテにある魔法学院ロンベルジュ。
オセベリア暦五百十三年陽夏の季節の頃だ。
ふふ、やったやった。とスカートを揺らしながら歩く少女。
身なりは、かなり貧乏くさい。
だが、不思議と、どこか気品を感じさせる少女だ。
彼女の歳は14歳。
名はレベッカ・イブヒン。
彼女は廊下の先を曲がったところで立ち止まる。
右は階段があった。
今の時間は朝、生徒たちが階段を上がり下がりと利用して教室に向かっている。
建物は地下を含めると六階建てとなる大きな建物。
一見は魔法が掛かり、巨大な姿には見えないが、実はかなり工夫が施されている建物の魔法学院だ。
廊下には大小様々な教室がある。
魔法実験室や武術指導を行う教室もあった。
今、生徒たちは急いでいるように、時間が決められている授業もある。
まだ授業に間に合うレベッカは、手前の壁の端に背中を預けて寄りかかりながら……。
改めて、自分の成績が記されている羊皮紙を凝視していた。
レベッカが見ている羊皮紙は学校が特別に用意している高価な代物、流通はしていない。
※魔法力試験、烈級、素晴らしい出来、火の扱いは特筆べきモノ※
※詠唱技術試験、並、普通※
※魔力操作、上級、素晴らしい出来、優れた魔力操作能力は彼女の希望とする戦闘職業の魔法絵師に合う。今後の努力次第では、魔法ギルド、国から誘いが来るだろう※
※魔力耐久試験、並、無難な出来、要、努力※
※冒険者能力試験、並、無難な体力と器用さ※
試験の結果、クラスでナンバー5!
まだ中間試験だけど、クラスでトップ5に入れたのは嬉しい!
「レベッカ、嬉しそうね~……」
と、話しかけてきたのは、黒髪の女性。
眉は細く整えられている。
前髪から耳元に流れている髪は白紐で結ばれて二房となっている。
「うん!」
「あ、その紙、成績表ね」
「そうよ~」
レベッカは頭部を左右に揺らしつつ、黒髪の女性に成績表の紙を見せびらかすように振るう。
微笑んでいるが、自慢げな表情だ。
「あ~そういうことね。成績が良かったのね?」
「当たり!」
と、成績表を見せるレベッカ。
「わぁ……え、5番め? 凄いじゃない!」
「うん、これも優秀な友のお陰かな?」
と、偉そうに目の前のカテジナに聞いてはいるけど……。
本当に彼女のお陰なんだ……。
ベティさんには悪いけど貧乏なわたしのために魔法道具と素材を分けてくれたり……。
安物だけど予備の杖もくれたり……勉強に訓練も手伝ってくれた。
大きな家にも案内してくれた、商人のお父さんにも会わせてくれたし……。
お母さんは……居ない。
あまり、そのことに関しては話をしないカテジナ。
でも、優しくて強くて最高の友達……。
「ふふ、レベッカが努力したからよ」
「そう、そうなのよね~。わたしの実力って奴よ」
「あはは、少し動揺して、無理して強がらないでいいのに」
「ごめん、癖だからね。でもさすがに分かるか」
「当たり前! 一緒に冒険している中でしょう」
「……うん」
カテジナはわたしが差別を受けても友としていてくれる。
「それで、わたしよりも、カテジナの方よ。どうなの?」
「あ、うん……」
と、成績表を急に背中に回して隠すカテジナ。
レベッカはそこでカテジナの肩を握り、引っ張る。
「こっちに行こう」
「うん」
カテジナも成績表を隠しながら、レベッカと一緒に階段を上った。
周囲にだれもいないことを確認したレベッカは、目の前のカテジナに向けて、
「……上位に入ったらルークに告白する! と息巻いていたけど……もしかして成績が悪かったの?」
「ううん……気にしないで、成績が悪いわけじゃないから」
「ならどうして……」
「だって、告白なんて勢い余って言っちゃったけど……ルークは仲間だし、わたしは知っているように夢があるし……いずれはこの都市を出るから……」
カテジナは、頬をまだらに赤く染める。
「もう! カテジナったら、将来のことを考えすぎ! 今は今よ」
「だけど」
「もう、わたしより成績優秀なのに……いざとなったら引っ込み思案なんだから、今度の依頼の大草原の狩りの際に挑戦するのよ?」
「その場には、ジャッキーとサンも、キヴィだって居るのよ? 無理よ」
その言葉を聞いたレベッカは、すぐに腰に片手の掌を当て、もう片方の手をカテジナに伸ばす。
「わたしに任せなさい! 二人っきりにしてあげる!」
いつものように、強がった喋りだが……告白の成功のことは考えていなかった。
ただ、彼女なりに、とある秘策は考えてはいる。
「本当?」
「うん!」
ふふ、わたしが直に二人を連れて、パーティから引き離せばいい。
……大草原だし。
冒険者たちのキャンプもいっぱいあるし……。
陰となる場所はたくさんある。
そこで、ベティさんからもらった恋人同士が飲む紅茶と恋するビスケットを二人が食べたら……。
と、恋のキューピット役を考えたレベッカ。
二人がキスするシーンを思い浮かべて、顔を赤くしているレベッカであった。
「……」
その様子を黙って見ているカテジナ・キノミヤ。
内心、カテジナは『この運のないレベッカに任せて大丈夫かな?』と思っていた。
でも、『レベッカがわたしのために必死に考えていることだからね』
と、友の気持ちを知り、嬉しい思いを優先して、不安なことは告げないでいた。
◇◆◇◆
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