四百四十五話 骨喰厳次郎


 エンパール家……。

 襟章のバッジは、そのエンパールの家紋かな。

 彼が着ている紅色を基調とした戦闘服を着ている。

 渋くカッコいい。

 胸から腹にかけて並ぶ真鍮製の金具の表面には〝緑薔薇の蛇模様〟もある。


 地下都市ダウメラザン出身の魔導貴族としてのマークか。


 ヴィーネから【第三魔導貴族エンパール家】の名は聞いた覚えがある。

 この後、暇になった時に血文字でヴィーネに報告だ。


 そこに――。


「――闇虎ドーレ!? いや、黒豹だと!? 触手を持つ新種の魔獣か!?」

「音叉月界の絶対防衛ラインは一体どうなっている!」

「黒き獣は宝物庫の奥から来たようだぞ!」

「――狼さんたち! こんにちは!」


 アリスの声だ。


「え? 獣の上に子供が乗っている?」

「何でここに、それだけじゃない! 黒触手に捕まっているノイルランナーが二人も!」

「捕らえろ!」

「――ガルルルゥッ」

「うあ、触手から骨刃が!?」

「しかし、行き止まりのはずの宝物庫から、なぜ、黒豹が……」


 黒豹ロロが向かった先から複数人の切羽詰まった声が響く。

 その声音からして衛兵たちだろう……。

 その黒豹ロロは派手に宝物庫の外側をぶち抜いたからな。


 岩盤を崩したような振動音は外にも伝わったはずだ。

 しかも、ここは……森屋敷のある狼要塞の地下だ。


 上の方で騒ぎが起きていることは確実。


「神獣様……アリスは」


 神姫ハイグリアが不安そうに呟く。

 エルザもアリスの声が聞こえてきた方向を見ていた。


 彼女の後頭部は項から伸びている魔糸の群とは違う。

 アウトローマスクと直に繋がった細い黒のバンドで無造作に髪たちを結んでいた。


 正直、おろしたおくれ毛がこなれて、いい感じの髪型だ。


 一方で前頭部はアウトローマスクで覆われているから、彼女の表情は分からない。

 アリスの声を聞いて、ハイグリアと同様に不安を感じたことだろう。


 しかし、『油断はしない』という言葉を発するように対峙を続けているバーレンティンたちへ向けて攻防一体型の武器と化した左腕のガラサスを向け続けていた。


 俺はそれを見てから、


「ハイグリア、ここは俺たちに任せろ。ロロを頼む」

「分かった――神獣様ァ――」


 銀毛が逆立ったハイグリアは即座に動く。

 宝物庫の入り口の方へ走った。


 宝物庫の衛兵たちは神姫に任せよう。


 俺はこの墓掘り人たちに集中だ。

 リーダー格のラシュウかバーレンティンを凝視。


 その金髪の彼は、ハイグリアが向かった先、相棒たちの方を見ていた。

 細い金色の眉の片方を釣り上げている。

 

 肩が震えている? 騒ぎの様子を聞いて、驚いているのか?

 分からない。

 ま、二つの名前を持つ理由から聞くか。


「ラシュウが本当の名前か? 仲間からはバーレンティンと呼ばれていたようだが……」


 金髪の彼は、俺の言葉を聞いて、気を直すように頭部を揺らす。

 そして、俺と視線を合わせてきた。


「……ラシュウは元の名。今は【墓掘り人】として、吸血鬼としての名が……バーレンティンとなる」


 ラシュウであり、バーレンティンでもあると。

 しかし、バーレンティンの名前のところで、少しタメがあった。

 眉毛も微かに動いている。


 何の躊躇いが彼にあるんだろう。

 今は、何事もなかったように平然としているが……。


 名前と墓掘り人に、理由があるのかもしれない。


「……どっちの名で呼べばいい?」

「バーレンティンでいい」

「了解した。では、俺も名乗ろう。シュウヤが名だ。ヘルメとジョディにエルザが仲間だ」


 ヘルメとジョディは微笑みながら頷く。


「分かった。よろしく頼む」

「俺は昔の名前のヒレカンではなく。スゥンと呼んでくれ」

「俺はサルジンだ」


 スゥンもヒレカンとは呼ばなくていいらしい。

 そのスゥンだが……。

 スゥンに〝さん〟とつけて敬語で話をしたくなる相手だ。


 頭部に見事なバーコードラインのある禿げを持つ。

 そして、頬にくっきりとした豊麗線もあるし、渋い方だ。


 赤髪ヒャッハーのサルジンと違い燕尾服の似合う中肉中背の男。

 渋い彼はハルゼルマ家の生き残り。

 同じハルゼルマ家の放浪者でもある黒の貴公子と繋がりがあるかもしれない。


 ダンジョンマスターのアケミさんの配下ミレイも、ハルゼルマ家の生き残りだ。

 しかし、そんなミレイは……。

 迷宮核と融合した四本の長細い腕を持つ骨騎士のような姿となり別の存在に生まれ変わっている。


 そんなことを思い出したところで、そのスゥンが口を動かした。


「しかし、バーレンティン。ここに誘われるように動いていた理由は、音だけではないのか?」


 そう語るスゥン。

 最初にハイグリアの身に着けている銀爪式獣鎧を見た瞬間、叫んだ男だ。

 バーレンティンと同様に優秀な鑑定眼を持つのかもしれない。


「そうなのか? 俺はてっきり、地底の底を漂う音が気になっての移動と思っていたが」


 そうバーレンティンに聞いているのは、赤爪を揮っていた赤髪の男だ。

 彼は獣人系。

 オッペーハイマン地方の吸血鬼ハンターから逃げていたと語っていた。

 ノーラの家系と関係すると予測できる。


 アンジェとの再会は……。

 今、そのことを考えるのは止しておこう。


 赤髪の彼は燕尾服が似合う大柄の人族。

 しかし、獣人の血が入っているとか。

 赤爪と赤髪が獣の血の証明か。


 黒豹に変身できるエブエ系かな?


「……蝙蝠だったからな。話していないことは多い」


 バーレンティンは仲間たちに対して憂いの口調で語る。

 他にも複数のヴァンパイアたちが居るが、今はいいか。


「……で、墓掘り人たち。スコップとかツルハシは、持ってないのか?」


 そう冗談めいた口調でバーレンティンに尋ねた。

 すると、金髪のバーレンティンは、青白い頬を弛緩させる。


 俺の冗談が通じたようだ。

 そして、


「……スコップか。ふっ、その代わりに、この魔刀がある……」


 そう喋りながら右手に握る刀の切っ先を俺に向けてくる。

 片手で握る鮫革模様が美しい柄巻きを、下方へと傾けたバーレンティン。


 魔刀の切っ先ふくらが見えた。

 精巧な技術で作られた刀身と分かる。


 そして、ダークエルフが持つような片手剣術の構えから、魔刀越しに俺たちを青い目で見つめてきた。


 睨む。というわけじゃないが武芸者のような凄みを感じる。


 そして、俺たちが魔刀に注目したことを確認したバーレンティン。

 そのまま握っている刀身の角度を変えてくる。


 右手一本で握る魔刀の上身と棟を俺たちに見せる形となった。


「片手剣術か。ダークエルフの技かな」

「エンパール家の【闇百弩・・・】だ。縁遠兵と質が違う……」


 彼は、地下エルフ語でわざとらしく語る。


 しかし……紫色の刃文は美しい。

 そんな美しい刃文から頭蓋骨を模った紫色の魔力たちが宙へと迸った。

 禍々しさと美しさを兼ね備えた頭蓋骨たち。

 頭蓋骨たちは塵状に分裂しながら大気の中へと消えていく。


 すると、魔刀の何か恨みでもあるような骨の手の幻影たちも刀身から生まれ出た。

 上身と棟をも侵食していくように刀身に巻き付いていく。


「紫の頭蓋骨か。不気味だ。血、いや、魂を求めるような妖刀か魔刀に見える」


 バーレンティンは俺の言葉を聞いて……肯首。

 そして、片手で持つ不気味な魔刀を睨みながら、


「……妖刀か魔刀か。確かに……そういった類の刀だろう」

「興味が出た。その剣の名は?」

「名は〝骨喰厳次郎〟という」


 骨喰かよ。

 紫色の魔力だが……頭蓋骨と骨腕の群れを刀身に纏わせているわけだ。


「骨喰……実際に骨でも食いそうな感じだな? 名前的に東邦の出の武器か」


 バーレンティンは、俺の問いに頷く。


「鳳凰都市セイフォン。群島諸国サザナミ製と聞いた」


 バーレンティンは物静かに語ると腰を下げた。

 腰に差す鞘の鯉口に反対の手を当てる。

 そして、片手に握る柄巻きの模様を見せつけるように、上身を傾けながら骨喰厳次郎を一気に動かす――。


 中空を何度も輪切りにする勢いで揮われていく刃の軌道――。

 背筋と胸筋で揮う鮮やかな刀捌き。


 紫の頭蓋骨が波紋から連続的に表れ消えていく光景は美しく感じた。

 無駄のない侍のような刀捌きがそう感じさせたのかもしれない。


 そんな感想を持った直後――。


 バーレンティンは、骨喰厳次郎の刀身を懐の中へと畳むように扱い、そのまま反対の手が持ち上げていた鞘の中へと、その骨喰厳次郎を華麗に納めた。


 ――鞘の縁から小気味いい金属音が鳴り響く。

 魔刀こと、骨喰厳次郎を納めた鞘の見た目は古風。


 小気味いい音を響かせた鍔は髑髏模様が交ざった金属螺鈿があった。

 長い鞘の表面は天然樹脂の漆加工風のデザイン。


 日本で例えるならば……。

 室町時代か平安時代に作られたような、気品のある鞘だ。


 ユイが持つ神鬼・霊風の鞘と少しだけ似ている。


 そんなことを考えた時……。

 バーレンティンが武器を納めるのを見た他の墓掘り人のメンバーたちも武器を納めた。


 皆、戦う気はないということか。


「……見ての通り。戦う気はない。そして、皆を代表してわたしが話そう。よろしいか?」


 バーレンティンの口調にはリーダーとしての気質を感じた。


「いいよ」

「承知。まずは、偶然とはいえこの宝物庫に侵入したことを謝ろう」


 バーレンティンは、胸元に手を置いてから律儀に頭を下げてくる。

 

 金の前髪が微かに揺れている。

 ……礼儀正しい。

 礼の動作は執事の仕事のような礼。


 礼には礼だ。俺も一礼をしよう。

 彼に頭を下げてから、


「――謝罪は了解した……しかし」

「……分かっている。シュウヤ殿の条件を飲もう」


 いきなり条件か。戦いよりも下手に出る交渉。

 見え透いたおべんちゃらとは違う。

 俺たちに気持ちを読まれることを慮った上の配慮だ。

 メルのような相手か、相当な経験値を感じる。


 そして、俺たちの懐に入り込もうとしてくる、そんな彼の内情は分からない。

 生き延びるという選択をする以外にも、理由があるんだろう。

 ま、それは後々聞けていけばいい。


 それにしても、さっきから喉と丹田の縦ラインの魔力が気になった。

 直刀を連想させるような独特な魔力の練り上げを続けている。

 すると、その魔力と連動しているように、その縦軸の魔力線の横から……。


 小さい弩の形をした魔力紋のようなモノが、くるくると回転しながら胸元の金具と並ぶように浮かび消え出した。


 侍系かと思ったが魔術師系の能力もある?

 俺との交渉を続けながらも戦闘を辞さない覚悟があるということだ。


「条件か……」

「そうだ。わたしたちは地下に詳しい」

「それは俺たちを雇えば得だと暗にアピールか? さっきは、すべてを滅し。とか何とか話をしていたが」

「……それは建前だ」

「バーレンティンのいう通り! 『すべてを、滅し、すべての宝を頂く。が、命はかけない』という続きがある」


 墓掘り人メンバーであるスゥンが叫ぶ。

 どんぐり眼は真剣な色合いを帯びている。

 バーレンティンはその仲間の言葉に同意するように頷きながら、


「戦えば確実にこちら側に死者がでる。そして、宝は命があればいつでも狙える」


 バーレンティンはそう語る、今、この瞬間も……。

 青い目に鋭さが増していた。


 ……ハハ、今、ジロッと視線を強めた時、少し寒気を感じた。


 この男……バーレンティンは、確実に強者か。

 戦ってみたい。


 と、月狼環ノ槍を握る右手を意識した。

 刹那、左手の傷が疼く。

 バーレンティンから視線を外しながら左手を意識した。


 手の内にある瞑った瞼を彷彿とする運命線さんのような傷が困る。


『器よ。無理をしおって……心ノ臓が高鳴っておろう』

『バレたか』

『ふん、当たり前ぞ。妾に隠し事なんて不可能なのじゃ! しかし、しかし、器よ』

『何だよ。もったいぶって、バーレンティンに不意打ちをして血が欲しい?』

『そ、そのようなことは……か、考えて、は、おらん! 違うぞ!』


 少しは考えたようだな。


『はは、じゃ、何だよ。手短に頼む』

『……腰の魔書のことだ』

『魔軍夜行ノ槍業か、警告してくれたな』

『そうだ! 得体のしれぬ悪鬼羅刹の者たちに取り込まれず、閻魔の奇岩と神々の残骸を渡すこともしなかった! 靡かなかったことを褒めてやろう。そして、その理由は……妾のことを……すこぶる大事に思い……尊重した故の結果だと分かっている……』

『何を語りだす運命娘……』

『運命むすめ? あ、分かったのじゃ! 妾と器だけの暗号文! 妾にときめきトゥナイトな運命メモリアルを感じたのだろう? フフ、ハハハハッ』


 ……ハイテンションなサラテン娘だ。

 今は交渉中。

 ときめきトゥナイトを彼女にしてあげることはできないし、このまま左手の中で静かに暮らしていて貰おうか。


 俺はサラテンとの念話をシャットアウト。


 バーレンティンを注視した。


 墓掘り人たちを率いるバーレンティンは地下に詳しい。

 ツラヌキ窃盗団たちも同様だろう。


 俺にはキッシュの先祖たち、キストリン爺の願いがある。

 魂の黄金道があるから地底神ロルガたちの棲む聖域まで迷うことはないと、思うが……俺たちが向かおうとしている場所は未知だ。


 地底神を含めた魔神帝国と地下世界そのものが相手となる。

 ナズ・オン将軍のような強い存在も居る。

 アムやロアたちが住む味方側となる地下都市もあるが、敵対しそうなフェーン独立都市同盟のような都市は無数に存在するだろう。


 だから、今後のため、この墓掘り人たちを味方にしたい。

 サイデイル村の力となるのなら魔も光もない。

 すべてを取り込んでやる。


 だから、正直に俺たちの状況を話すとしよう。

 俺は金髪のイケメン過ぎるバーレンティンを見て、


「……正直いうと、俺たちもグレーな立場だったりするんだ」

「何だと? 双月神か神姫と直に繋がる神狼の眷属ではないと? 宝物庫を守る特別な守護者でもないのか?」


 バーレンティンは意外だ。とでもいうように目を見開く。


「そうだ。俺は守護者でも番人でもない。だが、神姫ハイグリアとは仲間。同時に古代狼族側からしたら極めて珍しい見た目・・・が人族の客ということになる。そして、今さっき相棒と衛兵たちの声が聞こえていたように……この宝物庫に穴を開けた原因は、その相棒こと神獣ロロディーヌが起こした行動の結果だからな」


 神獣と聞いたバーレンティンの青い瞳が強く揺れる。


「……神獣。一瞬、消えるように入り口へと向かった黒き獣か。闇虎ドーレのような……」


 声音が少し震えた?

 ついさっきの騒ぎ立った方向を見て、動揺していたが……。

 すると、虹彩にも変化が起きる。

 毛細血管の筋が広がった。

 目尻から耳元にかけて血管のような青筋が幾つも浮かび上がる。

 相棒に何か心当たりがあるようだが、今は問わず、


「……で、条件だが、俺から提示してもいいのか?」


 俺の言葉を受けて、眉をまた動かしたバーレンティン。

 

 言葉の深読みをしているようだ。


「……当然だ。ただで見逃してくれと訴えているわけじゃない……」


 ラシュウことバーレンティンは含みを持たせて語る。

 俺はヘルメとジョディとエルザに視線を向けて、頷いた。


 続いて、念のため――。

 バーレンティンを含む墓掘り人たちを見ながら――。


 右目の側面部に備わる十字手裏剣の金属素子を意識した。

 カレウドスコープの起動だ。


 ゲームコントローラーの十字ボタン風の金属素子を、指でポチッと押した直後――。


 十字の形の金属が俺の頬の表面を這うように卍の形へと移行する。

 金属素子カレウドスコープが動く……この感覚は、何とも言えない……。


 ――視界も一瞬で明瞭になる。

 不思議だ。

 機能性の高い有機金属素材と魔力が融合した?

 活性錯体風の未知な化学変化が起きているのかもしれない。


 そんなカレウドスコープを用いて……。

 箱掘り人たちヴァンパイアたちの一人一人を調べた。


 良し――全員、大丈夫。

 カレウドスコープには蟲たちは映らなかった。

 洗脳はなしだ。ま、予想通りだが。

 少なくとも墓掘り人たちは、邪神系ではない。

 誘うとしよう。


 俺はヘルメを見てから、


「単刀直入に言おう。バーレンティン。俺の軍門に下れ――」


 左腕と右腕を真横に揮う――。

 ヘルメは目を輝かせた。

 そして、常闇の水精霊ヘルメの力を出すように、氷の飛沫を全身から発しながら俺の横にくるとポーズを取る。

 さらにジョディも細身の体を駒のように回転させながら近寄ってきた――。


 ヘルメの反対側で、そのヘルメと合うようなシンメトリーのポーズを取る。

 その行動を見ていたエルザ。

 彼女はヘルメたちのポージング行動に参加はしない。


 徐に半身の体制を維持しながら右手一本で持っていたヤハヌーガの大刃を背中に戻す。


 ガントレットに内包しているガラサスも蠢く。

 盾と三叉の爪の剣となっていたガントレットは魔力を帯びる。

 すると、ぐにゃりぐにゃりと蠢きながらクロワッサン風の腕と化した。


 先端が竜巻のような形から一つの触手が飛び出す。

 ガラサスの蟲触手だ。

 この間と同じく、見た目は、黒猫ロロが持つカワイイ触手とは真逆。


 その単眼が瞳孔を散大。

 興味深そうにヘルメとジョディのポーズを凝視していた。


「……す、すまん、交渉の邪魔をするつもりはないのだが、あまり、見たことのないダンスにガラサスが強い興味を抱いてしまった……」

「いや、いいさ、ガラサスも気に入ったんだろう」

「オモシロイ……」


 ガラサスが喋った。

 単眼だが、ウインクするように瞼を閉じてゆっくり開く。

 かわいいと、素直にいえないが、この蟲と気が合うかもしれない。

 

 その直後――。

 バーレンティンたちは、片膝を地面に突ける。

 彼の仲間たちも片膝を突けてきた。


「……これも何かの縁。今はシュウヤ殿に随おう。だが、俺は墓掘り人たちのすべての意思を総括しているわけじゃない。皆の中には、従えないという者もいるかもしれない」


 バーレンティンがそう語るが、大半は彼に従うように見える。

 その墓掘り人たちに向けて、


「了解した。今は墓掘り人の代表者のバーレンティンの縁という言葉を信じよう。しかし現状を急ぐ。暫しの間、俺たちに随ってもらうが、いいな? 墓掘り人たち――」


 バーレンティンと赤髪と禿げを含めた七名に告げた。


「了解した」

「シュウヤ殿に付いていこう」

「地下を徘徊する墓掘り人は卒業だ!」

「俺は……」

「バーレンティンの判断を信用しよう。今までの今まで、間違ったことは一つもなかったからな。俺はついていくぜ」

「そうだ……な。命を救ってくれたあいつが、一瞬で靡く相手だ……」

「わたしは信用しない」

「俺も信用はしない。しかし、お前たちが付き従うのなら付き合うとしよう。シュウヤ殿は吸血鬼だろうと差別はしない相手のようだし、そして、好感を抱かせる相手だ。様子を見てからでも遅くはない」


 悧巧そうなバーレンティンが率いているだけあって、墓掘り人たちは優秀そうだ。

 まだまだ不安はあるが……。

 名前と違って燕尾服が似合う紳士風集団の登用に成功したといえるか?


 ま、俺にはジョディとヘルメが居るし大丈夫か。

 ヘルメとジョディも満足そうに頷いている。


 俺は神獣ロロディーヌの唸る声が響く方向に腕を差し向けた。


「シュウヤ、先に向かう――」


 エルザがガラサスを仕舞うと先に走り出す。


「分かった。ヘルメ、ジョディ。この宝物庫の品を回収してくれ」


 この穴が開いた宝物庫に放置はできないからな。


「はい!」

「承知いたしました」


 ジョディは複数の白蛾たちを指先から放つ。

 すると、宙を舞う白蛾たちは口や翅から白糸を発した。

 宝物たちに絡んでいく白糸。

 白蛾たちは色糸ごと宝物を持ち上げていく。


 ヘルメも宝物に向けて指先から<珠瑠の花>を放つ。

 宝の一部を輝く紐で絡め持ち上げる。

 そのまま宝を運びながら側に寄ってくる。


 彼女たちの様子を見てからバーレンティンたちが立ち上がるのを待った。


「行こうか。争いはなしだからな」

「承知」


 バーレンティンたちにあらかじめ忠告。

 そのまま一緒に宝物庫の入り口に向かう。

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