四百三十四話 小さな会合

「ゼメタスとアドモス、もう魔界に帰っていいぞ」

「承知! この新しい〝闇に輝く光〟のマントを魔界でも使いこなしてみせませる!」

「閣下ァ、ゼメタスばかり刮目しないでくだされ! 我も見てほしい!」


 と、力強く重厚な口調で語るアドモス。

 その瞬間、生きた肋骨にある段々とした機構の間から赤煙が噴射――。

 そのまま濃厚な魔力が詰まった赤く輝く煙を身に纏うと、彼も背中に赤く輝くマントが出現した。


 ゼメタスと同じようなマントの質だ。

 ということは、互いに影響しているのか。


 マントが似合う赤沸騎士アドモスと黒沸騎士ゼメタス。

 両雄が、俺の左右に並び立つ。

 そして、新しい眷属リサナと常闇の水精霊ヘルメが仲良く彼らの背後の上空に漂う。


 リサナの桃色の髪近くに舞う小さい蛞蝓とカタツムリが奏でるバロック風味の韻律な音とヘルメの水音が弾ける音が相まって……。


 一気に周囲の温度が冷えるような厳格な雰囲気を醸し出した。


 ……正直、沸騎士たちカッコよすぎだろ。

 俺は思わず、その魔界騎士然とする姿に片膝を地につけて、彼らに頭を下げたくなった。


「……アドモスもマントを獲得していたのか。それは新しい防具? スキル?」

「はい。〝赤に輝く光〟ですぞ!」


 似たような感じか。


「では、閣下! 逝きますぞ――」

「逝ってまいります――」

「ンン、にゃお~」


 さっきまで頭蓋骨を叩いて遊んでいた黒猫ロロが寂し気に鳴く。

 もう黒猫の姿となっていた。


「おう」


 俺の声と共に指に装着した闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトが微かに光を帯びる。

 その瞬間、アドモスは赤煙を纏いながら消失した。

 切腹はしていない。

 が、似たようなポーズを取りながら消えていく。


 ゼメタスも追いかけるようにカラカラと音を立て消失。

 

 ヘルメとリサナは消失していく沸騎士たちへ手を振っていた。

 一方、聖ギルドメンバーたちは唖然としながら、沸騎士たちが消えた様子を見ている。


 ドルガルはそうでもないが……。

 アソルは緊張した面持ちを浮かべる。

 杖を破壊してしまったリーンの表情はあまり変わらない。


「ンン」


 黒猫ロロだ。

 そんな聖ギルドメンバーたちを見て、悪戯でもしようかと思ったのか……。

 首元から一対のお豆型触手をそのメンバーたちに伸ばす。

 アソルの黒髪の毛を触っていた。


 その様子を見ていたリーンは微笑む。

 しかし、アソルとドルガルは冷や汗を掻いていた。


 今は可愛い子猫の姿だが……。

 口から炎をちらつかせて、皆を威嚇したり、剣精霊を喰ったりしている神獣の姿を近くで、見ているからな。


 冷や汗を掻く気持ちは分かる。


 黒猫ロロは構わず、触手を使い黒髪の毛で紐を結ぶように遊んでいく。

 どうやら、胸元の魔力を放つ紐を作ろうとしているらしい。


 その際、メンバーたちの和風ジャケットを間近で拝見した。

 やはり特別な衣服防具だと分かる。

 衰と似た胸元の魔除けのような組紐の飾りから、強い魔力を感じた。


 ……さて、落ち着いたところで、


「……それじゃ、話をしよう」


 と、喋りながら、視線を巡らせる。

 どこか休む場所は……と……あった。


 地中から飛び出た横長の根を発見。

 あそこでいいか。

 と、狙いをつけてから――<邪王の樹>を意識。

 伸ばした指先から、腕サイズの樹木を伸ばす。


 狙った箇所へと伸びゆく邪界ヘルローネ製の樹木。


 剣精霊たちの破片が衝突して自然の根が変形しているが、その造形を利用する。

 俺は指揮者の気分で、簡易的な長椅子と机を瞬時にたくさん作り上げた。


 すぐに――感嘆の声が上がる。

 公園にあるような木製のベンチが瞬時に、ぽんぽんと生成する光景はあまりないだろう。

 だが、樹を操るスキルを持つ人物は、必ず他にも居るはずだ。


 その証拠に、感嘆の声を上げていない方も居た。


「樹生成ですか……」

「豊富なスキルを持つ方だ」

「スキルは普遍だが、その魔力内包量だろう」


 聖ギルド連盟らしいインテリ風の雰囲気を持つ男性メンバーと女性メンバーたちだ。

 俺は構わず、


「そこに作った椅子に座って休んでくれ」


 視線と言葉で、作ったばかりの椅子へと座るように促した。

 そして、ハイグリアと地上に降りていたヘルメを見つめながら、


「皆も、ここに座ってくれ」


 と、告げる。


「はい、休憩ですね」

「分かった」


 ヘルメとハイグリアが競争するように椅子に座る。

 ダオンさんとリョクラインも、古代狼族たちも各自が返事をしながら座っていく。


「では、わたしも――」


 良い匂いを漂わせるリサナだ。

 広げていた扇子の武器を片手の掌に当てる。

 畳まれた扇子からパンッと小気味よい音が生まれると、広がっていた扇子は掌で小さくなって畳んだ。


 その扇子から淡い色彩の蛞蝓とカタツムリたちが、魔力の粒子となって大気の中へと消えていく。


 続いてリサナは上半身の魔力を少し活性化。

 一対のカーボンブラックな巨大な手を前方へと伸ばし、移動を開始した。


 漆黒色の巨手が動くさまは重量感がある。

 その機動仕草を見ていると……。

 カーボンブラック色のヘラジカが移動しているようにも見えた。


 彼女の下半身的な存在となっている波群瓢箪も移動する。

 重い波群瓢箪の底が地に衝突するたびに穴を作っていた。


 そんな重い波群瓢箪が前方へ跳ねて移動する機動は面白い。

 少し必死な表情を浮かべている可愛いリサナ。


 頭部の雌鹿の先からピンク色の粒が噴き出していた。

 俺はそんなリサナの胸元、巨乳さんを注視してしまう。


 キャミソールが似合う巨乳。

 細い腰元のバランスがスタイルの良さを現している。

 そんなスタイルのいい上半身をバネのように扱うリサナ。


 ハイグリアの隣に移動していった。


 ハイグリアはそのリサナの移動の度に、地中から響く震動を受けて、銀毛が逆立っていた。

 皆が集結して椅子に座ると、黒猫ロロも続く。


「ンン――」


 喉声を鳴らしながら机の上に飛び乗った。

 そして、机の上で散歩するようにトコトコと歩いてから……。


 両目を細めると、小鼻をくんくんと上に動かして匂いを嗅ぐ仕草を取る。


 そんな可愛い黒猫ロロをみながら、俺も歩いて会合の場に向かった。

 皆がコソコソと話をしているところで、


「では、会合といこうか。情報を共有しよう」


 と、宣言。


 机の上で双眸を細めていた相棒の小さい頭を撫でながら、眷属たちを紹介。

 古代狼族たちを代表してハイグリアにも話をしてもらう。


 そうして……。

 樹海にしては珍しい陽が射すこの場所で、小さな会合を行うこととなった。

 互いの誤解を打ち消すように色々な話をしていく。


 ギルド秘鍵書を巡る騒動の話。

 その関係で、アルゼの街を永いこと拠点としている【ギルティクラウン】。

 

 名の意味は賞金首を追う聖ギルド連盟の組織名と教わった。

 聖ギルド連盟の本部は南西のイーゾン山の手前。

 小さい山城の【貿易都市デニム】の近くに本部があるようだ。


 もうフロルセイル七王国ではない。

 嘗てイーゾン国があった地域。

 南の大国セブンフォリア王国と西の大国ラドフォード帝国の間。

 旧王都ガンデから避難する形だったらしい。

 未だに戦乱が激しい場所と聞いたところで……。


 暫しのインターバル。


 すると、ヘルメが常闇の水精霊としての力というか魅力を見せるように水飛沫を発生させながら、舞いを披露してくれた。


 俺はそんなヘルメを助けるように――。

 生活魔法の水を彼女の足元に敷く。


「ふふ、閣下ありがとうございます~」


 と、ヘルメは微笑みながら、俺のばら撒いた水へと、自身の足から放水させた水を合わせて小さい泉、いや、湖を瞬時に創り上げる。

 透き通った湖、そう「アティトラン湖」のミニチュア版といった感じだ。


 そこから、リサナの桃と銀が彩る髪の近くで浮遊しているカタツムリと蛞蝓たちが作るバロック音楽に合わせて、氷上スケートを楽しむヘルメ。

 ジョディも「精霊様、混ざります~」と、空で血を纏った白蛾の蝶を発生させながら、大きな鎌を振るいダンシング。


 凄い……圧巻だ。

 ヘルメは踊りながら歌う。

 ジョディも合わせて眩惑的な声を発した。

 彼女の近くを舞う小さい蝶たちも切なく奏でる。


 水の精霊のヘルメと光魔の蝶だからこそ可能な美しい壮大なデュエット物語を彷彿させるアメイジングなダンスを披露していった。


 最後にリサナの淡い魔力に包まれたカタツムリと蛞蝓たちがヘルメとジョディのあとを追うようにしてバロック音楽が止まる……。

 

 すると、ヘルメとジョディは視線を巡らせる。

 二人で微笑み悩ましく組み合いながらボディウェーブ――。

 そこから迅速な動きで足を伸ばしたチェアーダンスから、くるくると体を回しながら器用に立ち上がる二人。


 ヘルメは前進。

 ジョディは後退しながら浮かぶ。

 ヘルメは腰を捻り、お尻を揺らしながらの絶妙なヘルメ立ちを披露した。


 ジョディはそんなヘルメの頭上で逆立ちをしながらキレのある一回転を行う。

 そのままスパイラルの回転機動でヘルメの背後に移動すると、白蛾の蝶を発生させながら、ヘルメと千手観音ダンスのようにトレインダンスを行う。

 

 最後は、背中を合わせて、互いのダンスを止めていた。

 二人はやりきったという壮快な笑顔を浮かべている。


 すげぇ、皆から、どっとした歓声が沸きあがる。

 俺も感動だ。

 自然と手が動いて、拍手――。

 というか聖ギルド連盟の方々を含めて、全員が拍手だ。


 そこからヘルメのウィットに富んだ小話が終わり、笑いが周囲を包む。

 アソルも喜んでいるから、自然とポーズの伝授でもしていたようだ。


 和んだところで、俺は自身の胸に刻む<光の授印>のマークを見せることにした。

 しかし、


「魔印持ち、貴族の出なのですか?」

「聖刻印のマークとは違う」

「神聖書の記述にあったと聞く紋様だろうか?」

「魔印持ちとは想像していました」

「あの強さ、納得です」

「あぁ、魔傀儡人形イーゾンを超える鬼神のような槍捌きを持つシュウヤさんだ。きっと八槍神王上位とも渡り合えるはず。八支流武王大会に出場するべき人材と思う」

「剣精霊たちを倒した魔槍を扱う技術、遠距離魔法に加えて、バスター五番のドルガルを制した光り輝く剣の扱いも凄かったぞ」


 と、いったように俺の印を見ても、一つの能力としての反応が占めていた。

 ま、当然か。

 光神ルロディスは彼らにとって絶対な神じゃない。

 聖ギルド連盟たちは、秩序の神オリミールを信じている。

 同じ神界セウロス側といっても光神ルロディスを信じているわけじゃない。


 それに、一神教の神聖教会とは相容れないはずだ。

 だから興味がなければ神聖書を知らないし知ろうともしないはず。


 戦神教の賢人ラビウス爺は知っていたが。

 そもそも、ここは南マハハイム地方。

 多神教を中心とした文化がある。


 そこからサイデイル村との交易に関する話をしていった。

 聖ギルド連盟にはそのような交易を行える権利権限はないようだ。


「しかし、現在の樹海にある道は極わずか。その少ない街道の安全確保もままならない難しい状況です。厳しいと思います」


 と、アソル、リーン、ドルガルは語る。

 ま、当然だろう。交易を開始するにもサイデイル村に向かう街道がない。

 命知らずな商会が出るのは、儲けが大きいと分かってからの話だ。

 そして、交易が可能かどうかの判断は、正式な手続きも踏まえて領主に報告してからとなるようだ。


 アルゼの街に関することを聞いていく。


「アルゼの街は樹海の最南端。領主はヒエジ・ゼン・トニライン伯爵様。現在はその娘フレデリカ様が領主代行を務めています」


 トニラインという名はフランから聞いた覚えがある。

 そのことは告げず、冒険者のことを聞くとしよう。


「冒険者たちが多いのかな」

「今はペルネーテに近いベンラック村の方が多いようです」


 人口はそれほどでもなさそうだ。


「モンスター討伐以外にどんな依頼がある?」

「樹海未探索地域の偵察、ハイム川支流を遡るアルゼサーモンの漁の手伝い、第四青鉄騎士団入団試験冒険者枠、四眼のババエリの秘宝探索、闘技大会の護衛、闘鶏の世話、古代秘文書の解析作業、綿草リュメカの採集、川芽フゼの採集、魔石群鳴地帯の探索、エホーク村の殺人事件の個人的調査、才気煥発のヒョアンの作品と目されるローデリアの黄昏を含む贋作の審議見極め、ハウザント高原に咲く毒草ヒセンブの採集、ノイル村への隊商護衛、ベンラックを経由したペルネーテへと向かう隊商護衛。フェニムルを経由したヘカトレイル行きの隊商の護衛依頼、など、たくさん、まだまだあります」


 冒険者ギルドはどこも同じか。

 依頼は豊富だ。

 ベンラックの方に集まっているとはいえ、アルゼの街も人口は多そうだ。


「樹海の依頼も豊富なのかな? 護衛依頼もあるようだし」

「はい。特にフェニムル村へと向かう隊商は樹海を突っ切る形ですからね。最難関ルートとなります……」


 だろうな。オーク、ゴブリン、樹怪王、旧神、様々にある。

 人族側にとっては、古代狼族と冒険者崩れの盗賊討伐の依頼もあるだろう。


 だが、隊商か。

 護衛なら、ハイム川の支流を利用すれば……。


「ハイム川の支流があるなら、船は? だいぶ迂回すると思うが……陸よりは安全に輸送が可能だと思うが……」

「あることはあります。しかし、浅い流域のせいで船の操作が難しいようです。だから輸送船の数と海運商会は少ないですね」


 なるほど、支流だから少ない、か。

 なら、逆に商機がありそう。


「少なからず、海運ルートは存在すると」

「しかし、浅瀬の中、船を上流へと航行させる難しさを逆に利用する形で、幅を利かせている連中も居るのです」


 アソルの口調は少し変わる。

 どことなく話の節々に棘があった。


「その連中とは?」


 俺はそう質問した。


「……あまり、その商会のことは……」


 気まずそうな表情を浮かべたドルガルが指摘。


「そうね……ギルティクラウンのイメージが」


 ドルガルとアソルは視線を合わせると、頷く。

 あまり話をしたくないといったような態度だ。


 二人の様子を見たリーンはため息を吐く。


「二人とも、シュウヤさんに良い面ばかりを見せようと、必死すぎ!」

「そうなのか? 気にせずとも話は聞いてみたい。リーン、できればでいいが……その幅を利かせている商会・・・・・・のことを少し教えてくれ」


 と、俺は丁寧に頭を下げてから、話を促した。


「了解。その商会の表向きは輸送専門の小さい商会なの。でもね……内実は違う。闇ギルドを含めて、色々な組織と深い関係が持つ〝何でも屋〟って奴なのよ」

「何でも屋か。どこの都市でもそんな連中はいるとおもうが」


 リーンは俺の言葉を聞いて数回首を縦に動かし、頷く。


「確かにそう。でも、この小さい商会は普通じゃないのよねぇ」

「普通じゃないとは、怪しい?」

「うん。怪しいは怪しんだけど、優秀な人員。そして、所有している銀色の魔力を宿した小型船舶。とくにこの小型船舶の方は、怪しさを超えた他の類を見ない特殊な魔導船なの」


 特殊な魔導船。

 銀色の魔力を宿した小型船舶か。

 そういえば、メルから銀船を巡る海賊たちの争いがあるとか聞いたことがあったが。


 その件は聞かずに、


「その〝何でも屋〟とやらは、聖ギルド連盟のギルティクラウンが追うほどの?」

「……追うというよりも、いつも逃げられている……」

「逃げ足速いか。何でも屋は、名前の通り便利屋みたいな感じなのかな」


 と、俺が聞くと、リーンではなくアソルが口を動かした。


「そうです。大小関係なく様々な依頼を請け負っていると聞きます。アルゼの負の面を象徴しているといいますか……」


〝何でも屋〟で、負か。

 想像すると……誘拐から殺人に関わっている?

 国が禁止しているような魔薬を積んで、他の地域に輸出、または輸入をしている?

 逆に国の依頼もこなしているかもしれないな。

 まさに、裏の連中か。


 と、思考したところで、その何でも屋の優秀な人員のことを聞く。


「……乗組員は優秀といっていたが、海賊なら魚人?」

「魚人の強さを持っていますが、見た目は人族です。その船長の名はレイ・ジャック。凄腕の剣士。通称、海竜斬のレイ。昔はアズラ海賊団の元六番隊隊長だったとか」


 そうアソルが話をしてくれた。

 海賊団か。

 何番隊まであるんだろう。


「アズラ海賊団の名は知らないが、元隊長なら強いだろう?」


 と、俺は質問。


「はい。個人の力も相当なモノ。刻印バスターたちをあしらう強さを持ちます。一度だけ、地形を利用して追い詰めたことがあったのですが、逃げられてしまった」


 アソルはレンチの長柄武器に握る手に力が篭っている。

 ドルガルは頷くと、口を動かす。


「海竜斬のレイ……。そのレイが、かつて所属していたアズラ海賊団は〝大海賊私掠船免許状〟を持つ十二大海賊団が一つ。ローデリア海では屈指の海賊団と聞きます。そのせいか、レイの仲間も強いんですよ」

「だろうな」

「はい。そして、そのレイが率いる商会は、複数の盗賊ギルドだけでなくオセベリア、サーマリアにも深いコネクションを持つらしく……捕まえようにも強いうえに逃げ足も速くて……」


 アソルとドルガルは悔しそうに語るが、諦めに近い感情を受けた。


「へぇ」


 と、短く呟く。

 魔煙草を吹かした。


 しかし、十二大海賊団か。

 黒猫号と船長とクルーに魚人海賊のメンバーを雇った時、メルから報告があったが……。

 ということは【血月海星連盟】の名をここで出すのはヤヴァそうだ。


 今は、あまり闇ギルド方面の顔は出さない方がいいだろう。

 サイデイル村の責任者はキッシュ。

 交渉が必要になる場合、【血月布武】を含めた闇ギルドの名を出せばいい。


 そのアズラ海賊団には興味が出たから、少し、聞くか。

 まさか荒神が関係している分けじゃないだろうし……。


「……そのアズラ海賊団のトップ。盟主というか団長の名は?」

「レフト・ドン・ガーシュ。通称、四腕の英雄レフト。賞金首です」


 レフト、左利き? 名前的にマフィアのドンって感じだな。

 または、左手がフックの義手とか。ありそう。


 その賞金首のシステムも気になるな。

 戦神教と争ったからなぁ……。

 俺の首にも賞金が懸かったりするのか。


 と、思考しながら、レフトの賞金を聞く。


「そのレフトを捕まえたら、それ相応のお金が貰える?」

「はい。捕まえることができれば……ですね」


 アソルの声は小さい。


「海賊の規模が大きすぎる?」

「海賊の規模というより、普通に捕まえるのは無理なんですよ。巨大な海賊国家ローデリア国から正式に許可を得ている大海賊団ですから」


 巨大な海賊国家ローデリアか。

 ローデリア海なら聞いたことがあるが、国の名前は初耳か?


「そうね。大海賊私掠船免許状。他国の船を襲ってもいいという国が海賊を認める行為」


 ドルガル、リーン、アソルはレイと因縁でもあるのか……。

 そのレイに関するバックボーンも調べたようだな。


「他国からしたら、たまったもんじゃないな」

「はい。そんな白金貨を超えている賞金首ですが……東と南の先に広がる海の話」


 アソルの言葉に深く頷くリーン。

 そのリーンは、椅子から立ち上がる。


 腰にぶら下がる布袋の表面を細い指先で触っていた。

 すると、触れた布が虹色に輝く。


 俺たちは、その虹色を注目。

 しかし、彼女はあまり気にせず……。


 少し黙祷するような仕草を取りながら、


「……アソルの言う通り海は広大。ローデリア海とハイム海といった名がついているけど南の大海に繋がっているからね。そして、魚人の国も人魚たちが棲む幻のセピトーンの街も全部が繋がっているんだから」


 海神セピトーンの名が付く街。

 歌手&冒険者&人魚なシャナの出身地か。


「海か、南の大海なら少し聞いたことがある」


 海といったら……十六面のパレデスの鏡を回収した場所。

 難破した船の中にあった十六面の鏡。


 あの時は……眷属たちが着てくれた貝殻の水着を見て、大興奮した。

 砂浜を笑いながら一緒に走ったなぁ。


 ……思い出すだけで、幸せな気分になる。

 木にぶつかったが。


 そして、ユイとカルードと合流した砂浜に森林がある場所だ。

 サーマリア王国の王都ハルフォニアの東南に位置する〝フォーレンの入り江〟


 入り組んだ地形、要はリアス式海岸。

 日本だと三陸海岸のような場所。


 そういえば……。

 フォーレンという名がどうして付いたのか、ユイたちから聞いていなかった。

 今度、血文字で質問してみよう。


 と、思考していると、茶色髪のリーンが、


「そう。海。そんな果てのない大海の先にはアーゼン朝の文明が存在する大陸もあって、実はその先に途方もない大海が存在するって聞いたんだ……」


 だれかに聞いたような口ぶりのリーン。

 彼女は南の出身とか?

 何か、気持ちが篭っている。

 ヘルメがそのリーンに興味を抱いたのか、リーンのことを見つめていた。


「リーンは、南に詳しい?」

「うん。フリュード冒険卿の名は聞いたことがあるでしょ?」


 知っている。


「自慢じゃないが実際に近くでみたことがある。ヘカトレイルでの晩餐会だったかな」

「え? お爺ちゃんと会ったことがあるの?」


 え? お爺ちゃん?

 リーンはフリュード冒険卿の孫だったのかよ。


 ヤヴェェ、戦いの結果とはいえ……。

 俺は有名人の孫の胸を貫いたのか……。

 ……リーン。助かって良かった。

 そして、アソルが目を見開き、


「シュウヤさん、ヘカトレイルの晩餐会って、あの女侯爵様と知り合いなのですか?」

「そうだよ。まずは、これを見た方が速いか」


 シャルドネの家が抱えている魔金細工師が、魔竜王の臍を素材にして作った指輪を手に取った。

 その指輪をアソルとドルガルにリーンへと見せる。

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