四百三十話 リョクラインの活躍

「これが〝真・魔界血沸き踊りツー〟ですぞ!」


 ゼメタスの熱気をはらんだ重厚な声だ。

 その声に反応するように、


「頼もしいです! 死者の百迷宮にむような、星屑ほしくず揺曳ようえいを身にまとう黒骨騎士!」


 リョクラインが叫ぶように応えていた。

 

 近くで戦うハイグリアも呼応。

 体ごと突き上げる勢いで爪剣を上げた。


 そして、剣精霊を切断。


 そのまま逆流する滝を彷彿ほうふつとするサマーソルトキックを宙から迫る剣精霊に衝突させた。


 華麗に着地したハイグリアは、


「まったくだ! ダオンが気に入るわけだ! 素晴らしい」


 そう元気がいい声でリョクラインの言葉に同意しつつ、ゼメタスの活躍を称える。


 ハイグリアたちは中衛or強襲前衛に近いポジションだ。


 そのハイグリアに敬礼したリョクライン。

 レイピア型の爪剣を使いつつ、


「姫様と黒骨騎士に続きます!」


 正式な名前は黒沸騎士ゼメタスなんだが、リョクラインは名を覚えていないようだ。


 そのリョクラインは、古代狼族らしい膂力あるステップを踏んでは、歪な剣精霊たちの突きと薙ぎの攻撃を爪剣の切っ先と爪剣の腹に当て、受け流す。

 

 続けてリョクラインは爪剣を払ってから、縦に振るい上げた。

 

 ――爪剣で宙に十字を描く。


 そして、長剣型の剣精霊。

 鎌型の剣精霊。

 エキセントリックな手裏剣型の剣精霊。


 それらの攻撃を華麗に払う。


 リョクラインの足元に、幾つもの刃が欠けた剣精霊が突き刺さった。


 リョクラインは地を蹴って軽快に移動。

 軽功を意識したような軽い跳躍をしつつ爪剣を振るう――。


 刃渡りの太い剣精霊を爪剣で叩き上げてから、即座に左回し蹴りを実行。


 刃渡りの太い剣精霊を地面に蹴って叩き落とした。


 リョクラインは体は細いが力がある。


 華麗なリョクラインか。

 ダオンさんとは体形が正反対。


 細身で手足がすらりと伸びた体形を活かす踊るような機動剣術を主体とする。

 

 確かな爪剣術と体術を身につけていなければ、あのような動きはできないだろう。


 地に立ったリョクライン。

 段だら模様の部族服が映える。

 胸元にあった月のマークが踊って見えた。


 爪鎧はノースリーブを意識した胸元と肩の一部を隠す軽装タイプだ。

 古代狼族らしい毛も、ちらほらと体から生えているが、人族と獣人の中間ぐらいの見た目だろうか。

 

 そして、ハイグリアを慕っているただの侍女ではない。

 性格も、俺の前では、おとなしく控え目な女性だが、やはり、古代狼族の中でも優雅さとエネルギッシュさを持った抜きんでた存在と分かる。


 続いて、背中側から迫った剣精霊の杭刃も、リョクラインは、背中に目でもあるように、振り返りつつ、ぎりぎりの鼻先の距離で杭刃を避けた。

 その直後――。

 側面から爪剣を力強くグイッと持ち上げる――。

 それは無造作にバットを振るうような要領だ。


 爪剣の腹と衝突した杭刃を空へ向けて打ち返す。

 杭刃を真上へとかっ飛ばす――。


 空を直進する杭刃の剣精霊から、ぴゅーっといった音は聞こえないが……。

 そんな風にカウンター攻撃を受けて打ち上げられた杭刃状の剣精霊は、その宙の位置で他の剣精霊が身に纏っていた幻想動物と真正面から衝突、粉々に砕け散る。


 打ち上げ花火を見ているように、俺はスカッとした気分になった。


 ホームラン打撃を繰り出したリョクラインも空を見る。

 火照った頬に風を受け、快いといったような表情を浮かべた。


 そのまま両手を元の位置に戻したリョクラインは、下段左回し蹴りで、地面に突き刺さり、まだ蠢いていた剣精霊の一つをへし折る。


 蹴り技を繰り出した長細い爪先からは、爪が伸びていた。

 尻尾がゆれて、可憐さを増しているのが、また、魅力的だ。


 そのままリョクラインは近くで戦う妹に話しかけていた。


 そこに、小さい鮫と複数の熊が合体したような姿をかたどった剣の精霊が現れる。


 複数の熊の頭部が、口を広げてリョクラインと、そのリョクラインの妹を喰らおうとしていた。


 視線が鋭いリョクラインは冷静に対処。


 左右のレイピア型の爪剣をクロスさせるや、素早く両手を斜め前方に伸ばす。


 その一対のレイピアの爪剣の切っ先で、自らに迫った歯牙と、妹に迫った鮫の頭部と熊の頭部を、円錐状に切断する。


 リョクラインは続けて、回転蹴りを熊の頭部に衝突させた。

 

 リョクラインは、熊の頭部を蹴りでへし折ったことを確認する間もなく、中段足刀を熊の胴体に繰り出してから跳躍。


 体を捻った浴びせ蹴りだ。


 更に、上段右回し蹴りを実行。

 熊と鮫の頭部を持つ剣精霊の頭部を潰す。

 更に、中段左回し蹴りを、その熊と鮫の頭部を持つ剣精霊に喰らわせた。


 連続蹴技を喰らった熊と鮫の剣精霊は、


「ダダーン、ぼよよん、ボヨヨン」


 といったような、揺れ響く音と動きを示してから不気味に消失した。

 そんな面白懐かしい音は、一瞬で終了。

 

 シックルの刃が目立つ歪な剣精霊が、唸り声を上げてリョクラインに向かった。


 斜め上から振り降ろされた剣刃が、リョクラインの肩口に迫る。


 リョクラインは涼しげな表情を崩さない。


 刃が連なったレイピア型の爪剣を斜め前方へと伸ばし、迫った刃を、爪剣で引っ掛けるように往なした。


 華麗なリョクラインは、状況を把握するように視線を巡らせる。


 数多くの剣精霊を倒したリョクラインと古代狼族の小隊たちだったが……。


 未だに、その周囲には、歪な形を誇るような剣精霊の数が多い。


 その剣たちが幻想的な動物を舞っていることも、数が多く見える原因かもしれない。


 数の多さに辟易したような面を浮かべたリョクライン。

 飛鳥のごとく踊りながら、自身のレイピア型の爪剣を上下に打ち分ける牽制剣術を繰り出す。

 その直後――。


「リュカ、ドビー、セセリン、この場はいい、退け、姫様の部隊の近くに集結しろ」

「「はい!」」


 女性ながら渋い声音で指示を出したリョクライン。

 自ら囮になり逃走する形だ。


 数が多い剣の精霊たちを引き付けては巨大蛞蝓へと駆ける――。

 速い、魔闘脚の技術だ。

 巨大蛞蝓の横を駆け抜けつつレイピアの刃を器用に傾ける。

 

 続けて、リョクラインは女性らしい掛け声を発した。

 走りながら傾けたレイピアの切っ先を巨大蛞蝓の胴体へと突き刺す。

 そのままレイピアの刃で巨大蛞蝓の胴体を撫でるような斬撃を繰り出した。


 巨大蛞蝓の脇腹に相当する部位に切り傷を与え続けながら、巨大蛞蝓の横合いを駆け抜けていく。


 シュタタタタッとしたくノ一が駆け抜けるような速さで、可憐だ。

 獣人の秘書っぽい侍女もいいな。


 そういえば……。

 リョクラインのカッコいい姿を見て、昔のできごとを思い出す。

 ハイグリアに警邏巡回チームの報告をする時だったかな?

 あの時、重そうな血濡れた鹿モンスターの頭部を、軽々と細い片手で持っていた。


 今の調子で剣術を駆使して、狩りをしたんだろう。


「リョクラインは相変わらずいい動きだ。リュカたちは右辺に移動!」


 ハイグリアの声だ。

 彼女の銀剣は、槍の形状と化す。

 あの穂先の形は、神槍ガンジスの穂先の方天戟と似ている。

 彼女の爪の色合いは銀に近いからな。


 ハイグリアは俺の影響を受けたらしい。

 俺の視線の意図を感じ取ったのか、ハイグリアは一瞬、俺を見て笑顔を見せてきた。

 口の端から飛び出た小さく尖がった歯が白く光る。


 その笑みは可愛いし、健気さがあった。

 だが、『今は戦いだ!』といわんばかりに、巨大蛞蝓と歪な動物を模った剣精霊たちに対してキリリッとした睨みを利かせたハイグリア。


 そのまま<魔闘術>を纏うと、素早い機動を生かすように前進――。

 

 ハイグリアは、方天画戟のような槍爪を斜め上へと突き出す。


 歪な剣精霊の一つを突いて倒した。


 ハイグリアは続いて、穂先で銀の絵でも描くように左右に斜めにと銀槍の爪を振るいつつ斜め前に走る。


 若い古代狼族の兵士をかばった。


 そんな善い子なハイグリアは前衛のゼメタスの位置から迂回しつつ巨大蛞蝓が放つ液体の矢を弾いていった。


「神狼ハーレイア様! わたしに力を! 皆に力を!」


 若い兵士を庇った直後、移動を続けていたハイグリアが叫んだ瞬間――。


 本当に、神狼ハーレイア様の加護の力が現れた。

 刹那の間に、狼のような霧状の魔力を周囲に発生させた。


「おぉ!」

「姫様の力だ!」


 同時にハイグリアの銀鎧が神々しく輝いた。

 その姿は、まさに、神姫ハイグリア。


 神姫としての力が戦場を支配した。

 

「骨狼陣・第一は散! 双月・狼漣小隊陣に切り替えろ! 総掛かりを仕掛ける――」


 ダオンさんではなく、ハイグリアの指示が飛ぶ。

 ハイグリアから神々しい魔力の波動が皆に伝わった。


 神狼ハーレイア様の加護の力だろう。


「承知! 双月神ウリオウ様の加護を!」


 ダオンさんの気魄きはくが篭もった声も響いた。


「おおおぉ――!」

「月環組・零隊ルルン!」

「狼剣組・一番隊ウク!」

「爪狼組・二番隊エンゼン!」


 古代狼族の若い兵士たちは元気がいい。

 神狼ハーレイア様の恩恵を受けた効果もあるだろう。


 各自、二人組みツーマンセル三人組スリーマンセルを組んでいる。


 そして、小隊メンバーたちは、漣どころか、薙刀を迅速に振るったような勢いのある波のようになって、巨大蛞蝓へと突進していった。


 巨大蛞蝓の脇腹から背中を切り上げるように駆け抜けた。


 そして、示し合わせたように地を蹴って反転――。


 再び、巨大蛞蝓の背後の位置から、突進を開始。


 その瞬間、互いの手を握る古代狼族の兵士たちは回転を始めた。


 くるくると回転した勢いを、両手から伸びた爪剣に乗せつつ巨大蛞蝓の背後から襲い掛かった。


 巨大蛞蝓は精霊。

 

 背後だろうが正面だろうが、関係ないようだ。


 迫る古代狼族たちに向けて、迎撃用に、蛞蝓らしい触手網を伸ばした。


 触手網が迫った古代狼族の兵士たちは慌てない。


 俄に古代狼族たちは小隊同士で視線を巡らせる。


「ウォォォン――」


 狼らしい叫び声を上げる。

 片方の爪を変化させた。


 その変化した爪と爪を互いに引っかけて、駒のような横回転を行う。


 各自、先ほどの手を握った時よりも回転力を増していた。

 その素早い回転力を生かして、地を蹴り、反対の手から伸びた爪剣を横から振るい巨大蛞蝓の一部を切っていく。


 目の前に迫る触手槍の群れを爪剣で切断して回る小隊たちも居る。

 巨大蛞蝓の攻撃を引き付けるように、逃げるような誘導戦術を取る小隊も居た。


 機敏な動きで間合いを測ったり集結したりと、連携を取る小隊たち。

 紅虎の嵐を率いているサラが複数居るような機動だ。


 臨機応変に動く小隊戦術は凄い……。

 素早い機動力と独自の爪剣を持つ古代狼族らしい戦い方だ。


 隊長クラスの額に十字傷があるダオンさんも続く。


 ダオンさんは、イケメンらしい表情を浮かべながら、ゼメタスと視線を巡らせた。

 そして、短い暗号名を互いに呟く。

 動いている最中だから、声も小さく、俺には聞こえなかった。


 その重騎士のような姿のダオンさんは、ゼメタスの方盾を、軽戦士のような機動で、また足場にした。


 あれは先ほどと同じだ。

 跳躍してからの機動剣術だろう。


 宙の位置で、八相のような大上段の位置に爪剣を構えるダオンさん。

 大柄なだけに迫力がある。


 そのダオンさんは、額と目元にある十字傷が似合うような、


「キェェェ――」


 と、猛々しい気魂めいた声を中空で発しながら――。

 両手から伸びる両手剣の幅を持った爪剣を、紫電が走るような速度で振り降ろした。

 縦軌道のバスタードソードのような二振りの爪剣は、巨大蛞蝓の頭頂部を潰すように頭に侵入し、一気に胸半ばまでをスパッと切断――。


 三つにぱっくりと割れた巨大蛞蝓の頭部は半透明となって消失した。

 頭部はあっさりと消える。

 しかし、胸元の斬られた部位が蛇のように蠢くと、牙を無数に生やす曼脚に変身した。


 新しい触手か。

 物質化した巨大蛞蝓は怪物というか、元が精霊なだけに再生力が異常に高いな。


 一瞬、多重の乳房を持った守護者級のモンスターが脳裏に浮かんだ。

 ペルネーテの二十階層。

 ルリゼゼが棲んで居た洞窟で魔宝地図を使った時に出現した奴だ……。

 おっぱい好きなだけに印象の強い敵。


 そんなトラウマは忘れるように、巨大蛞蝓を強く見る。

 サイデイル村の警邏けいらチームだった沸騎士ゼメタス&古代狼族たちは強い。


 確実にそんな再生力を持った巨大蛞蝓を削っていく。

 時間が進むごとに巨大蛞蝓は徐々に姿が小さくなっていった。


「ンンン――」


 喉声を発した黒豹姿のロロディーヌ。

 聖ギルド連盟のメンバーたちと同じく前衛たちの戦いに混ざらない。


 ロロ・・なりに、少し見学気味だ。


 毛がフサフサしていそうな尻尾が可愛らしい古代狼族のフォローばかりしている。


 小柄獣人ノイルランナーと似た月環組・零隊のルルンちゃんだ。


 相棒のお気に入りか。


 そんな<従者長>サザーのようなお気に入りを見つけた相棒のロロディーヌだが、ちゃんと彼らの作戦を理解している。


 遠巻きから触手骨剣の攻撃を散発するのみ。


 だがしかし、時折巨大蛞蝓の姿を見ては、


『お菓子でも食べたいにゃ』


 と言う印象で、口からキラリと光る牙から盛大な唾を垂れ流していた。


 ロロディーヌからは、巨大で蛞蝓だが、美味そうに見えるらしい。


 前世のフランスのブルゴーニュ地方で有名なエスカルゴ。


 葡萄の葉を食べて育ったカタツムリは美味しいとか聞いたことがある。


 だから、エスカルゴ、ナマコ、アワビのような味かもしれない。


 オーブンで焼くようにロロディーヌの炎で丸焼きにしたら、美味そうだ。


 まぁ、この世界にも寄生虫はたくさんいると思うから、俺は食わないが。


 邪神ヒュリオクスという存在もある。

 

 知らず知らずのうちに、脳から首の後ろにかけて蟲が取りついていた……。


 そして、蟲が、知らず知らずのうちに体内でチェストバスターに成長していた、なんてことは嫌すぎる。


 前世もカタツムリは危険だ。

 広東住血線虫という危険極まりない寄生虫を持つ。


 人間の体に寄生し、脳の中枢神経に移動するとか……。


 ロロディーヌは神獣だ。

 そんな虫は効かないと思うが……。

 火炎で燃やす前に食べちゃうと少し心配だ。


 そんなロロディーヌは、頭部を振るって巨大蛞蝓に噛み付きたい衝動を抑えているのか、皆の行動に合わせていた。


 偉いぞ、ロロ。


 その巨大蛞蝓は、古代狼族たちとゼメタスに、斬られ、叩かれ、突かれ、といったように集中攻撃を浴び続けているから回復が追い付かない。


 そうして、巨大蛞蝓は下腹部の奥から水晶のような心臓部を覗かせる。


 あれが心臓部か?

 螺旋した先端を持つ水晶のような物体。

 このままゼメタスと古代狼族たちだけで、暴走した巨大蛞蝓精霊の対処はできそうだ。


 一方、アドモスとジョディの方は、剣型の精霊を倒し続けていた。


 が、剣型の精霊たちと幻想的な動物精霊たちは、まだまだ多い。


 しかし、この剣精霊の量は凄まじい。


 神槍ガンジスの方天画戟と似た穂先がぶっ壊したリーンが持つ杖は特別だったのか。


 こんな量の剣精霊たちをコントロールしていた魔杖は、貴重なアイテムだったようだな。


 単に光魔ルシヴァルという血と魔力を吸った結果の突然変異かも知れないが。


 ま、どちらにせよ。

 敵対行動の結果、包囲を受けている不利な状況に変わりはない。


 そのアドモスとジョディは俺に視線を寄越してきた。


「あなたさま!」

「閣下!」


 剣霊オーがどの剣型の精霊か分からないぐらいに数が多いからさすがに厄介か。

 意外に苦戦しているようだ。


 良し、ここは出番を欲しがっていたサラテンの出番か!

 アイテムボックスから出した〝波群瓢箪はぐんひょうたん〟はまだ使わない。

 波群瓢箪の表面の模様の一つが血色の光を帯びたから、俺が準備したことを理解しているようにも感じた。


『……サラテン、出番だ。アドモスとジョディには〝絶対〟に攻撃するなよ!』

『ぬほほほほほーん!』


 サラっ娘、テンション高くなりすぎ。


『仲間を攻撃するなよ? 分かったか?』

『わっふるわっふるるる~』

『なんでわっふるるるなんだよ。止めようかな。ロロにみ付かせるかな?』


 神剣サラテンを使い始めた当初、いきなり飛び出しては、俺の頭部の一部を吹き飛ばしたからな……。


『わ、わかぁーった! まったく、素直じゃないのう器よ!』


 焦ったサラテンが繰り出す念話が面白い。

 俺は笑いながら左手をかざす。


 <サラテンの秘術>を意識した。

 てのひらの中心にある運命線のような線が左右にゆっくりと開いていると、感覚で理解。


 傍目はためからは仏像の目でも見開くような……。

 重そうな瞼が開いていくようにも見えているはず。


 その孔から突出した神剣サラテン――。


『ワハハハハハッ』


 と、宙へと喜びながら躍るように飛び出た神剣サラテンが最初に狙ったのは……。


 半透明の鼬を纏った歪な長剣だった。

 その鼬の形をした精霊をサラテンが貫き、物質化した長剣を砕いた瞬間――。


 おぉ!?

 鼬と砕いた剣を……取り込んだ?

 剣の精霊の一部をサラテンが吸い取ったらしい。


 神剣サラテンの近くに半透明の全身が透けたイタチの姿をまとう歪な剣身が浮かんでいた。

 半透明の体の表面に薄っすらとした桃色の刷毛はけのようなモノが生えている。

 他の剣精霊たちと同様に物質化はしているようだ。


 物質化しているのは剣だから、剣精霊というカテゴリーだとは思うが。

 あれもリーンが操作していた精霊なんだろうか?


 蚯蚓みみず風ピクミーの名前からして……。

 巨大な風か水の属性を持つ蛞蝓なめくじ系の精霊だとは思うが……。


 剣霊けんれいオーとは……。

 この物質化した数知れない剣精霊たちをまとめたグループ名だったのか?


 暴走した剣の精霊たちが纏う動物たちは様々な色を持つ。

 半透明の微妙な色。

 黄緑色のぼたん鼻を持つタヌキ


 とにかく、色彩豊かな動物たちで、幻想的。


『器ァ~、見たか、見たか!』


 喜ぶ神剣サラテンは神々しく輝く。

 橙色だいだいいろや金剛樹に近い色合いの光が、空と樹海を焦がすように拡がった。


 そんな光を放つサラテンは宙を駆け抜ける。


 樹海の一帯も、そのサラテンの光に呼応するように、万灯会まんどうえのような光を発して、樹海の一部を埋め尽くした。


 しかし、サラテンの機動は、UFOが森に光を当てて、逃げ惑う人や動物を追う光にも見えた。


 あの光はトラクタービームかもしれない。 

 光を浴びたらアブダクションされてしまいそうだ。


『器! 妾の子分だ! 見ているのか!』


 とサラテンは自慢してくる。

 子分か……。

 剣の上でサーフィンを楽しむサラテンっ娘は楽し気だ。


 その楽し気なサラテンに後ろから付いてくるイタチを纏う剣。

 それは名作シューティングゲームに登場するオプション兵器にも見えた。


『……見たけどさ。仲間に攻撃するなよ? 古代狼族も含む話だからな?』


 調子に乗っているだけに心配だ。

 神剣サラテンは金色に近い剣身の一部を様々な色合いに変化させる。


 剣型精霊の力を吸い取って高揚しているらしい。

 そのまま宙の位置で動きを止めると、


『ウハハハ! 器よ! 妾の神剣としての力を見て、圧倒され、改めて惚れ直したのであろう? 分かる、分かるゾォ』

『いや』

『まぁ、無理もないィ!!』


 俺の念話を聞いていない。

 それほど、力が増して嬉しかったようだ。


『この子分のいたち剣は、妾の力の一部となった! 名はイターシャ。恥ずかしがり屋のようだ』


 名前があるのかよ。

 一瞬、痛ー子に聞こえたが、そんなことは念話しない。


『イターシャか。よろしく伝えておいてくれ』


 すると、イターシャは鼬の姿を小さくして、頭部を下げてきた。

 念話は伝えてこないが、恥ずかしいのかな?


 可愛いかもしれない。


『ウンウン! だからこれからは、その紅玉環に棲むアドゥエロピコ大魔王なんたら……という単眼球よりも、神剣の妾を大切に使うことだ!』


 アドゥムブラリのように早口で喋るサラテン。

 そのテンションもアドゥムブラリのように高い。

 そして、わざと、アドゥムブラリの名前を間違えてやがる。

 あの単眼球のことをライバル視しているサラテンだ。


 ま、無理もないか……。

 アドゥムブラリは俺に<ザイムの闇炎>というスキルを与えてくれた。

 そのアドゥムブラリが、


『魔大竜ザイムがまとっていた魔炎だ。そして、ただ主の拳に炎をまとわせるだけではない! 敏捷性びんしょうせいと魔力を増やす効果もあるのだァァ』


 と語っていたように、俺は敏捷性が増した。

 アソル相手に敏捷性が増した拳を連続的に繰り出すことができた。


 闇色の炎で造形された魔大竜ザイムの頭部を纏った拳。


 四天魔女キサラから習い途中の掌底と貫手からの格闘技術でもある。


 <魔闘術>系の<魔手太陰肺経>を活かした肩、肘、膝、手、足の近接格闘から、擒は固く拿は柔軟を意識した技術をより強く発揮できたのは<ザイムの闇炎>のお陰だ。


 アドゥムブラリはヴェロニカの傀儡兵の頭部にも合体できるし、重要だ。


 ミスティの作り上げた新・魔導人形ウォーガノフとの相性がどうなるか……。

 それは不明だが。そんなことを考えながら、


『……考えておこう』


 と念話を送った。


『ハハハッ、器よ! 接吻せっぷんだけでなく、一晩中、一緒に柔らかい血肉の花にくるまる特別なしとねを用意する許可を与えてやろう』


 しとね? 座布団とか敷物ってわけじゃないだろうし、夜伽みたいなもんか。

 その際に、俺の頭をぶっ刺して、血肉をらう気だな。

 相変わらずぶっ飛んでいる神剣サラテンだ。

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