四百二十四話 神出鬼没※
船に向かうと神獣ロロディーヌは足を停めた。
黒豹の形をした岩と下の急流へと複数の黒触手を伸ばして水を掬う。
その掬った水をデルハウトに掛けていった。
彼は臭いからな。
デルハウトは、かっと見開いた双眸のまま、水を浴び続けていた。
どこか納得した表情だ。
そんな彼の目元から背中に伸びた触手のような先端は、さっきと同じくテールランプのように光っている。
水飛沫が彼に衝突するたび、その姿と似合わない煌びやかな空気感を醸し出す。
そして、あまり意識しないように努めてきたが……いざ仲間として認識し側で見ていると……。
やっぱ気になる。
あの顔から髭風に出た触角的なモノ。
彼の背中側へと柳の枝のように垂れているモノ。
海老の触角だろうか?
それとも竜の髭?
たとえるのは難しい。
または皮膚鎧の一部とか?
実は筆先で、文字が書けたりして?
そんな思考を繰り返す俺も足を停めた。
そこで滝から落ちず岩棚に引っ掛かっているモンスターの死体を確認。
……樹怪王軍の兵士モンスターの死体。
サイデイル村に攻めてきた時に見かけた隊長クラスだったモンスターは居ない。
下半身が水棲プラナリアだったモンスター。
ソロボとクエマたちは、樹怪王軍の中に炎槍ディーンという有名な槍使いが居ると話をしていたが……。
槍を持った人型と巨人系の槍使いの死体はここにはない。
ここは戦馬谷の大滝の上。標高が高い。
だからか、死んでいる兵士モンスターの種族は機動力がありそうなモノばかり。
ひょっとして樹怪王の軍勢も地域ごとに派閥の種族があって、軍も種族に見合ったように分かれているのだろうか。
オークたちも軽装歩兵や連弩兵に重装歩兵も居た。
トトクヌ氏族の鬼神の一党は特殊な小隊だったようだし。
ソロボとクエマの姿を思い出しつつチェックを続けた。
多脚の体を持つ死体……。
この鹿の角を頭部の左右から伸ばした、こいつは……長細い馬型の頭部で上半身は人族系。
下半身は馬に近い多脚のケンタウロス型。
アーカムネリス聖王国で遭遇したグリズベルという種族の魔族の名と姿を思い出す……。
この死体は微妙にグリズベルとは、顔も胴体も腕も足の幅も違う。
さて……。
この立派な鹿の角と眼球に眉毛も何かの素材となるはず。
ゴブリン・テルカのように金玉も貴重な薬の素材となるかもしれない。
が……金玉はいやだ。
その丸々とした金玉を除き、古竜の短剣を使いながら回収と解体に挑戦……。
装着している装備類にも注目した。
獣皮と骨と金属で合成したような特殊な鋼鎧……。
節と節の間の密着具合が精巧だ。
魔力も備わっていた。
鉈が納まった剣帯、ポーション類、魔法袋、細い樹木製のネックレスもある。
ちょうどいい。
この鋼鎧はデルハウトに渡してみよう。
鎧の金具と釦を外して、鋼の鎧を回収。
肩にその鋼の鎧を担いでから、モンスターたちが戦った足跡や形跡を見ていった。
トロールと推察する一対の巨大な足跡は――。
滝の反対側へと続いている。
川沿いの奥か……。
その縁近くには緑の血が散乱している。
川沿いから逃走した?
トロールのようなモンスターは傷を負ったようだ。
ま、追いかけるつもりはない。
そして、大滝は激しい水飛沫の音を立てているが、この岩棚の下の急流からはあまり音が響いてこない。
黒っぽい岩棚は分厚く頑丈だからか?
ロロディーヌとデルハウトを見た。
デルハウトは、まだ水浴びを続けている。
ヘルメもその水浴び活動に参加していた。
両手の指先から、ちょろちょろとした水鉄砲をデルハウトの尻に当てている。
ヘルメは相変わらず面白い。
一方、シュヘリアは双剣の黄色い刃に水を通す。
そして、砥石のようなモノで刃の表面を磨く。
エブエも彼女から砥石らしきアイテムをもらう。
彼は愛用している魔斧の刃に、その石を当てて磨き始めていた。
その光景を見ながら、
「デルハウト。この鋼の鎧が合うかもしれない。着てみろ」
「承知した。だが、今はこのまま水浴びを続行する」
そう語ってから、身を屈めるデルハウト。
急流の中に自らの顔を突っ込んでいた。
おいおい……。
身体ごと川の急流に……。
と、一瞬、注意しようとしたが……杞憂だった。
ガバッと持ち上げた頭部。
瞼の形がブアアンと変化して面白顔となっていたが、大丈夫だった。
しかも、口には魚を咥えている……。
ガブッと魚の頭部を生のまま食べるデルハウト。
額当ての中心に嵌まっている魔宝石が輝いて見えた。
「おぉ、お見事ですデルハウト殿。馬の戦魚を口だけで捕まえて食べるとは」
エブエが褒めていた。
魚の形は馬に似た変わった魚だ。
だからそんな名前らしい。
「黒き獣が、いや神獣様が俺に運んでくれたこの魚は美味い」
顔を洗うんじゃなかったのかよ。
というツッコミは入れなかった。
エブエとデルハウトは魚の話に移行していく。
俺はそこから船の残骸へと足を向けた。
船の残骸の形はヘカトレイルの港に停泊していた船の一部と似ている。
巨大なガレー船に近い作りだ。
大きい船だ。
しかし、船尾楼のようなスターンデッキを備えたガレアス船ではない。
巨大で底が深い作りの船。
だから宝箱とか荷物はありそうに見える。
中身は期待できそうもない。
ここからだと、移乗戦を想定した渡し板のような長板が突き出た上部が目立つのみ。
船の下部は穴だらけ。
急流の中に浸水していることが分かる。
滝の水が船の内部に流れ込んでいる?
巨大な岩も甲板を貫いて船底の中に幾つもめり込む形で、入り込んでいた。
魚礁になってそうだ。
「……俺とロロがあの船の中に入るから、お前たちは周囲を警戒」
「トロールの足跡を追いますか?」
「いや、船も小さいし。すぐに帰る」
「承知しました。ではシュヘリアちゃん。わたしたちはこの船の周囲を偵察しましょう」
「はい」
水遊びをしていたロロディーヌは黒猫の姿に変身。
子猫の姿となって小さい触手を器用に使いながら、肩の上に乗ってくる。
肩に
俺は船の上に向けて跳躍した。
傾く船の出っ張りに手の内を当て――。
腐ったロープに気を付けながら、一気に身を捻りつつ片足の先から船の中へと乗り込んだ――。
甲板に触れたアーゼンのブーツの足先が濡れる。
冷たい空気……。
風が運ぶ水の空気は気持ちいい。
まだ船の形が残っている小さい階段が付いた甲板の上に飛び移った。
――が、すぐに足下の板が崩れる。
板は腐っていた。
その足裏と同じ幅の穴から櫂だった木の棒が覗く。
底から積み重なった樽も見えた。
酒の臭いが漂ってくる……ワイン?
肩に居た
「酒かな」
「にゃ」
「神酒とか?」
「にゃ~ん」
俺は
「降りるか」
「にゃ」
と、
船の底に降りた――。
水に浸かったアーゼンのブーツ。
汽笛はボーッと鳴らないが……耳に少し圧を感じた。
モーゼじゃないが小さい範囲の水を左右へと裂くイメージで<水流操作>を行う――。
水に浸かった足下の水を足から弾くように飛ばしながら道程を測るように積み重なった樽の場所まで歩いた。
上の穴が空いた甲板とは違う。
足裏から感じる船底の強度は意外にしっかりとしていた。
積み重なった樽の場所につく。
浸水した水の影響を受けた下の方の樽と違って上の方の樽は色合いが違う。
樽が数段重なった一番上の樽を手に取る。
この樽の表面は……見るからに乾燥していた。
臙脂色の底と横とひび割れたような木目をチェック。
その樽の表面に鼻を近づけて……。
中身の臭いを確認してから揺らす。
――たぷんたぷんと液体が傾く感触。
樽の中身は……やはり酒か。
……中身は無事だろう。
樽の外側には、焼鏝の印があった。
……二頭の牛の上に片手を突いた子供が踊る絵?
商会のマークかな。
色合い的に十年~三十年ぐらい前と推測。
二束三文の値打ちとは違うと予想……。
もしかしたら貴重なお酒かもしれない。
中身が完全に無事な樽は……この一個ぐらいか。
その樽を持って船から外に出た。
燦々と射る太陽を睨みながら、
「皆、この樽のマークを見たことあるか?」
と、樽を胸元に掲げながら問うた。
「酒の樽? マレリアン大商会の幹部マークとも違います。ルクソール商会の船マークとも違います。軍港都市ソクテリア、湾岸都市テリアでも見たことのない商会のマークです」
元魔界騎士の任務で南部の街に詳しかったシュヘリアだが、この樽のマークは知らなかった。
聡明なヴィーネに、この樽のマークを見せれば知っているかもしれないが。
まぁ、分からないだろう。
「俺も知らない」
綺麗さっぱりとなったデルハウトも樽を見ながら語る。
彼は、鋼の鎧を身につけていた。
体格的にどうかな?
と思ったが、ちょうど合って良かった。
とりあえず、この樽はしまうか。
「……了解した。船の中にあっためぼしい物は、これだけだ。それじゃ飛行機の場所まで向かう」
「はい」
皆の返事を耳にしながら近未来型の時計のようなアイテムボックスを見る。
太陽を模った丸く厚みのある円盤をタッチ――。
「オープン」
と発した。立体的に半透明のウィンドーが浮かぶ。
◆:人型マーク:格納:記録
―――――――――――――――――――――――
アイテムインベントリ 77/490
格納を押す。
真っ黒なウィンドーに切り替わった。
手に持った樽を、その黒いウィンドーの中に放り込む。
そして、変身した神獣ロロディーヌの背中に飛び込むように乗り込んだ。
「ンン、にゃぁ~」
黒毛を涼しい風に揺らしながら神獣ロロディーヌが気持ち良さげに鳴く。
四肢の力強い膂力を示すように加速。
風を孕む速度で、岩棚の崖の上を颯爽と走り続けた。
そして、大滝を作る崖から飛び降りるように、天に上る機動で空へと飛翔――。
そのまま鳥の大群を追いかけたり、竜の群れと巨大鳩を追いかけたりして寄り道をしながらステータスを確認。
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:22
称号:覇槍ノ魔雄
種族:光魔ルシヴァル
戦闘職業:霊槍血鎖師:白炎の仙手使い
筋26.7→26.8敏捷27.8体力24魔力28→28.3器用25.2精神29.2→29.4運11.0
状態:普通
次はスキルステータス。
取得スキル:<投擲>:<脳脊魔速>:<隠身>:<夜目>:<分泌吸の匂手>:<血鎖の饗宴>:<刺突>:<瞑想>:<生活魔法>:<導魔術>:<魔闘術>:<導想魔手>:<仙魔術>:<召喚術>:<古代魔法>:<紋章魔法>:<闇穿>:<闇穿・魔壊槍>:<言語魔法>:<光条の鎖槍>:<豪閃>:<血液加速>:<始まりの夕闇>:<夕闇の杭>:<血鎖探訪>:<闇の次元血鎖>:<霊呪網鎖>:<水車剣>:<闇の千手掌>:<牙衝>:<精霊珠想>:<水穿>:<水月暗穿>:<仙丹法・鯰想>:<水雅・魔連穿>:<白炎仙手>:<紅蓮嵐穿>:<雷水豪閃>:<魔狂吼閃>
恒久スキル:<天賦の魔才>:<吸魂>:<不死能力>:<暗者適応>:<血魔力>:<魔闘術の心得>:<導魔術の心得>:<槍組手>:<鎖の念導>:<紋章魔造>:<精霊使役>:<神獣止水・翔>:<血道第一・開門>:<血道第二・開門>:<血道第三・開門>:<因子彫増>:<破邪霊樹ノ尾>:<夢闇祝>:<仙魔術・水黄綬の心得>:<封者刻印>:<超脳・朧水月>:<サラテンの秘術>:<武装魔霊・紅玉環>:<水神の呼び声>:<魔雄ノ飛動>:<光魔の王笏>:<血道第四・開門>:<霊血の泉>:<光魔ノ蓮華蝶>new
エクストラスキル:<翻訳即是>:<光の授印>:<鎖の因子>:<脳魔脊髄革命>:<ルシヴァルの紋章樹>:<邪王の樹>
<光魔ノ蓮華蝶>をチェック。
※光魔ノ蓮華蝶※
※混沌の光魔ルシヴァルの系譜者が、蝶族の魂を救い光魔としての自らの血脈に宿る因果律に導いた証明※
光魔ルシヴァルの<筆頭従者長>と<従者長>という枠の範囲内ではない眷属。
イモリザ、ツアン、ピュリンの精神が宿る<光邪ノ使徒>と同じ部類か。
常闇の水精霊ヘルメや沸騎士たちに近い存在かな。
光魔ルシヴァルの騎士となったシュヘリアとも微妙に違う。
ステータスのチェックを終えたところで、ビジネスジェット機を放置していた場所に向かった。
亜神だったゴルゴンチュラと戦った湖畔だ。
水を飲んでいる鹿系の小型モンスターと水面を這う蛇モンスターの姿を確認。
「綺麗な湖です」
ヘルメの言葉に同意しながら、周辺を見渡す。
湖の縁に沿って水から突き出た長い草やイングリッシュ・ブルーベルのような野花が風を受け美しく揺れていた。
「精霊様が言うように綺麗だが、モンスターの数は多い!」
気合声を張るデルハウト。
湖面の先に居るモンスターに、紫の魔槍の穂先を差し向ける。
「魔双剣の準備はできている。魔界十二剣士が一人ミグ・ハーミットの剣法〝魔靭・疾〟を試すいい機会だ」
狡猾に目を光らせたシュヘリアが語る。
「地下の大熊退治の時に魅せていた剣術か」
デルハウトがそう聞いていた。
彼女は頷く。
片手の細い指先を魔剣の柄頭に伸ばす。
魔剣の柄頭に備わる魔眼の瞼は閉じていたが、シュヘリアの指先が触れると、その瞼が開く。
魔眼を持つ魔剣……。
あの挙動を見るに……。
魔剣に意識があって生きているように見える。
サーマリア伝承に伝わるソール&ヴィルマルクだっけか。
魔眼が備わる方の剣の名は知らないが。
そんな感想を持ったところで、エヴァが<念動力>で運んだ飛行機の姿を確認しようと……。
視線を巡らせる、が……あれ?
白濁した糸に、蜘蛛の巣?
周辺の樹木の太枝から枝の間を埋めるように白濁した糸が巨大な蜘蛛の巣でも作るように四方八方へと伸びては、白色の繭たちと繋がっている。
おかしい……。
蜘蛛の巣だらけで機体が見当たらない。
背丈の高い樹木群に寄り掛かるように飛行機が存在していたはず……。
先端が細いコックピットの先端部が、地面に付いていたはずだ。
……その飛行機があった地面の側に落ちているのは、エンジンの一部か?
表面が溶けたような金属部位も落ちている。
近くの樹木には、やや灰色気味に変色した金属部位が引っ掛かっていた。
しかし、白濁した色合いの繭のようなモノに覆われて小さい?
白い繭が包む元飛行機の金属部位は、溶かされているのか小さくなっていた。
溶けた機内の一部らしきものが……。
その白色の繭の中から覗かせている。
白濁した色合いの繭は、太枝にぶら下がった果実の塊にも見えた。
そして、その白濁した糸を生み出し続けているモンスターを発見。
枝の上で動いている。無数に居た。
見た目は、巨大なオウム貝。
外側は曲線を描くように丸い形の甲羅。
表面は鋼鉄のブロックか。
または、竜の鱗皮膚が幾重に重なり密集しているようにも見えた。
その内側には、蛸のような触手群が無数に生えてぐにょぐにょと動いている。
すると、そのオウム貝のようなモンスターは蠢く。
丸い甲羅に縦線が入る。
その線が左右に開く。
ぱっくりと岩が割れた。
割れた中心から蟷螂のような頭部が突き出てくる。
その頭部はゴツゴツとした表面を持つ岩にも見えた。
岩の頭部に小さい孔も無数にある。
その孔という孔から白濁した色合いの不気味な糸が伸びていた。
さらに額の位置から湯が沸き立つような音を響かせながら複眼が誕生していった。
額の複眼の出現はすぐに止まる。
代わりに、三角形の顎が上下に引き裂かれた。
口か?
上下に分かれた不気味な口の中から……。
棘が密集した灰色の細長い舌が突出した。
伸びた舌は、にゅるりと気色悪い音を立てながら伸び縮みを繰り返す。
鉄が好物な甲羅を持つモンスターか。
周囲に散らばっている皆は経験豊富だ。
一々、知らせる必要はないが、一応、警告。
「敵だ。各自対処――」
そう注意を促した瞬間。
その甲羅モンスターたちは、頭部から白濁した糸を放出しながら俺たちに向けて突っ込んできた。
俄にムラサメブレードの鋼の柄巻きを握る。
ゼロコンマ数秒もかけず、柄へと魔力を注いだ。
柄の、はばきの根元から青緑色に輝く光の刀のようなブレードが飛び出る――。
瞬く間に、ムラサメの光刀から大気を切り裂く音のようなブゥゥンとした音が鳴り響く――。
と、同時に、鋼の柄巻きを持ち上げた――。
ゴルフスイング機動の青緑色のムラサメブレードの光刃が甲羅モンスターと衝突。
甲羅モンスターを下から持ち上げる感触はあまりない。
スパッと硬そうな甲羅モンスターを下から両断した。
左右に分かれた甲羅モンスター。
その断面から鋼の色が混じる石油染みた血が迸る。
石油のような血は沸騰音を立て突然発火した。
火は石油のような血を伝い二つに分かれた甲羅モンスターに燃え移る。
あっという間に甲羅モンスターは火に包まれた。
ボッと音を立て爆発するように散る。
その独特な花火のような散り際が合図となったかどうか不明だが――。
他の樹木に止まっていた甲羅モンスターたちが一斉に襲い掛かってきた。
白い粘液を飛ばしながら奇妙な音を響かせてくる。
「にゃごぁぁ――」
右辺の手前から迫った甲羅モンスターの大群には――神獣ロロディーヌが対処。
烈級を超える王級規模の指向性のある火炎の息吹が甲羅モンスターを焼却処分した。
左辺の大群には――。
前衛に魔界騎士コンビと黒豹エブエが突出。
そのフォローに後衛の位置からヘルメが氷のタクトを揮う。
正面の甲羅モンスターの群れは、
「正面は俺が貰う――」
と、喋りながら魔槍杖バルドークの穂先を、上方へと持ち上げる構えを取った。
――二匹の甲羅モンスターが俺を挟むように迫る。
まずは、上からだ――。
上部に構えた魔槍杖を真下に振り降ろす――。
嵐雲の矛が上から迫った甲羅モンスターを捉え粉砕した。
続いて、振り下がる嵐雲を纏う穂先が、下から迫った甲羅モンスターの頭部を叩き割った。
そうして、二匹同時に潰す。
しかし、地面に衝突した二匹目の甲羅モンスターは魔槍杖の打撃が浅かったらしい。
その微かに動いた甲羅モンスターを、足の裏で踏みつぶすように魔闘脚で地面ごと、その甲羅頭を踏みつぶしながら、前かがみの姿勢を取り前進した。
前傾姿勢から刺突を行う風槍流『風研ぎ』の技術を生かす。
視界に迫る甲羅モンスターたち。
細長い舌先から、岩の棘のようなモノが見えた。
飛び道具か?
俺はレーダーでミサイルのロックオンでもするかのように、そのモンスターたちを睨みつけながら、左の手の内に神槍ガンジスを召喚。
舌先を伸ばした甲羅モンスターとの間合いを潰す――。
そして、その甲羅頭部へと振動した方天戟の<刺突>をプレゼントした。
神槍ガンジスの方天戟が、岩の棘を突出した舌ごと甲羅モンスターの頭部を貫いた。
一本の左腕ごと槍と化すような神槍ガンジス。
一槍の技術の集大成。
その伸ばした左手を手前に引きながら掌握察を用いる――。
魔素を探知。まだまだモンスターの数は多い。
前と右斜めと左斜めから突進してきた甲羅モンスター。
前方の甲羅モンスターは一回り甲羅が大きい。
その甲羅モンスターには、これだ――。
神槍ガンジスの大刀打の位置に備えた蒼毛の嬰に魔力を込める――。
踏み込みざまに、神槍ガンジスの蒼毛の嬰は急回転しながら刃を形成――。
螺旋しながら放射状に伸びた蒼い纓は甲羅モンスターの前部をくり貫くように切断した。
甲羅モンスターは地面に縫われたかのように動きを止める。
そこに、俺の左右斜めから突進してきた甲羅モンスター。
俺は魔槍杖バルドークの先端の嵐雲の矛を右回しに振るう――。
斜めから迫った甲羅モンスターの側面部に穂先をぶち当てる。
カウンター気味の一撃。
ひび割れる音が立ち甲羅モンスターは地面に沈む。
続いて魔槍杖バルドークを握る右手を前に押し出すように、竜魔石の石突を、左の下側から浮き上がるように迫った甲羅モンスターへと衝突させた。
甲羅は左の方へと吹き飛ぶ。
その際――甲羅の細かい破片が周囲に弾け飛ぶ。
俺の頬や首に鋭い破片が突き刺さった。
痛い、痛かったが、無視だ――。
地面に沈んで動きを止めていた甲羅モンスター目掛けて魔槍杖バルドークを捻り出す。
<闇穿>を喰らわせる。
闇のオーラを纏う紅色の嵐雲が甲羅を粉砕するように貫いた。
その斜め下に伸びている魔槍杖バルドークを、右の手の内から消失させる。
そのまま側転を行うイメージで回転。
アーゼンのブーツの先端の硬い部分を、左から迫った甲羅モンスターに衝突させた。
そこから地を蹴って身を捻るように跳躍――。
――ムーンサルトの機動だ。
視界が移り変わる有視界の情報に加えて掌握察も同時に行う。
一瞬で、周囲の状況を把握した――。
距離は離れているが……上下左右の位置に甲羅モンスターの群れを確認。
俺を囲む機動を取る巨大アンモナイト型モンスター。
来るなら来い、貝を食べてやる――。
そこにロロディーヌの躍動する姿が見えた。
上下に開いた顎から生えた鋭いサーベルのような牙を光らせながら、口を広げている。
口から炎を吹いていた。
いつもの盛大な炎じゃない。
指向性の高いビーム系の炎だ。
宙を切り裂くように真っすぐ伸びた炎は綺麗だった。
こんがりと甲羅モンスターを焼く。
ロロディーヌは頃合いを見て、神獣らしい力強い膂力で走りながら跳躍した――。
跳びながらフサフサの黒毛が目立つ胸元から複数の黒触手群を甲羅モンスター目掛けて伸ばしている。
多連ミサイルのような黒触手群の先端からはキラリと光る骨剣が突出した。
そのミサイルを彷彿とさせる黒触手群は、黒豹エブエに襲い掛かった甲羅モンスターたちを上から貫きながら、死体アートを地面の上に作り上げていく。
子分の黒豹エブエを救う形でちゃんとフォローするロロディーヌは偉い。
流れるように華麗に着地したロロディーヌは、身体を震わせるような動きを取ると、胸元から宙へと曲線を描くように伸びていた黒触手群を胸元に収斂させる。
当然、触手骨剣が貫いている甲羅モンスターもロロディーヌのもとまで運ばれた。
「ガルルルゥ」
唸り声を上げたロロディーヌ。
牙から唾を垂らしながら、足下の甲羅モンスターにがぶりと、喰らいつく。
そのまま硬そうな甲羅を奥歯を使って噛み砕く。
むしゃむしゃと咀嚼を続けるロロディーヌ。
素早く喰い終わると、また走り出した。
そして、前足からきらりと白刃のような爪を伸ばす。
その刀のような前爪を横から水平に揮うと、複数の甲羅モンスターを両断した。
白濁した糸が黒毛に絡まったが、その絡まった白濁した糸ごと吸うように、甲羅モンスターに触手をぶち当てて、また引き寄せる。
そして、足元に来た甲羅モンスターに喰らい付いた。
何回も喰らい噛み付き、喉を震わせる音を立てて、美味しそうに食べていく。
海老の味でもするのだろうか。
見ていたら、本当に美味しそうに見えてくる。
左後方にはヘルメたちが居た。
氷槍と<珠瑠の花>で多数の甲羅モンスターの動きを止めたところに、紫の魔槍を扱うデルハウトとシュヘリアが連携。
デルハウトの双眸が燃えるように光ると、
「うぬらはだれを敵にしているか! 分かっているのかァァァ――」
凄まじい気魂。
彼の額当てのような触角の先端が光を帯びる。
その触角さえも武器のような色合いとなった。
そのまま下半身の膂力を見せつける左足の踏み込みから雷属性を纏った槍技を繰り出す。
左右の背中に靡く触角からも雷光が迸る――。
紫魔槍の三角刃の矛から闇の雷を纏った連撃だ。
デルハウトの両腕ごと紫色の魔槍からもバチバチと雷の音が弾けて闇のオーラが迸る――。
それは複数人が槍衾を形成するかのような凄まじい速度だ。
一突き、一突きに魂が篭った技だと認識。
そして、甲羅モンスターの死骸の一部を片足でドッと鈍い音を響かせながら踏みつぶし、
「――<愚連・雷牙突>」
技名を呟くデルハウトの姿は、正直カッコいい。
シュヘリアもサラのような可憐さを持った機動から、双剣をかち上げる。
そして、双剣を左右交互に迅速な速度で振り降ろす。
黄色い閃光が宙を駆け抜ける――。
瞬きする間に、甲羅モンスターを三枚おろし状態にして倒した。
そんな状況把握中な、俺に対しても甲羅モンスターは迫ってくる。
斜め前方から差し迫った甲羅モンスターの群れには――。
魔槍杖バルドークをもう一度生かす――。
筋肉が咆哮を上げるかのような身を捻り上げる横回転から<魔狂吼閃>を繰り出した。
小型の紋章魔法陣が魔槍杖バルドークから浮かぶ――。
そして、嵐雲を纏うかのような螺旋した形の紅色の穂先から、魔竜王の小さい頭部が顎を広げて、咆哮を発しながら出現した。
続けて、胸元が異常に開いた邪獣セギログンの小さい幻影も出現。
しかし、少し遅れて出現した虎の姿を模った邪神シテアトップが、その先に出現した邪獣セギログンに喰らい付く。セギログンはのたうちまわるような悲鳴を上げている。
それら魔槍杖バルドークから現れた魔力嵐の幻影たちは、俺に近付く甲羅モンスターたちを一瞬で、ミジンコでも磨り潰すかのごとく喰らっていった。
ゼロコンマ数秒も掛からず――。
斜めの方向に存在していた甲羅モンスターたちは消失した。
魔槍杖バルドークが吸収したというより〝喰った〟という勢いの消え方だ。
だが、まだまだ甲羅モンスターは多い。
俺は、左足の爪先回転を軸とした回避行動に移っていた。
彼らモンスターに視界があるのか不明だが、<魔狂吼閃>を見て、恐慌したらしい。
槍圏内で戦う俺を警戒したようだ。
距離を取った甲羅モンスターたち。
食欲旺盛なだけで知能はあるらしい。
生命の危機を感じ取っただけかも?
そんな疑問通り、遠距離攻撃を繰り出してきやがった。
岩の棘群の飛び道具だ。
人の親指ほどの大きさのある岩の棘を避けながら――。
再び魔槍杖を右手に呼び戻す。
差し迫った大量の岩の棘群――。
眼前というか、空が暗くなる量だ。
一瞬、<鎖>で盾を作るかと思考したが、止めた。
その呼び戻した魔槍杖で横斜めから左上に動かして、岩の棘の群れを――防ぐ。
「――閣下の槍技には無数の矢も通じません! まさに究竟の武人!」
皆のフォローに回っていたヘルメが俺を見ていたのか興奮しながら喋っていた。
そのヘルメの誉め言葉に少し照れを覚えたが――。
左手で握る神槍ガンジスの石突で、背中側から迫った甲羅モンスターの突進を払い除けた直後――。
そのヘルメを含めた皆に向けて、
「右辺から前に出るな」
と、右手から魔槍杖を消去すると同時に仲間に警告。
斜め方向へと差し向けた腕先から――。
魔力を込めた烈級:水属性の《
温度が急激に下がる。
腕先から出現した〝龍頭〟を象った列氷は一瞬で連なり、多頭の氷竜と成った。
氷竜は全身から氷牙を無数に生み出しながら自らが巨大な氷刃と化すように、螺旋回転しながら直進し、樹海の一部と衝突――。
凄まじい爆音が響く。
氷竜の叫びが周辺に轟いた。
凍てつく竜の悲鳴は、氷の海のような凍えた世界を樹海の一部に作り出す。
しかし、極寒の地獄のような氷世界は、幾千万の霜柱となって大気の中に溶け散るように消失した。
凍り付いていた背丈の高い樹海の一部の樹木たちも破壊。
右辺の甲羅モンスターは完全に消失。
そのタイミングで着地。
神獣ロロディーヌが、「にゃおおおー」と鳴くと、周囲の氷を解かす勢いで炎を吹く。
そこから<導想魔手>と<白炎仙手>を使い黒豹エブエをフォロー。
さらに本格的に後衛に回ったところで「閣下!」と細い手を伸ばしてきたヘルメに「おうよっ」と、叫びながらヘルメに応えるようにハイタッチを交わす。
ヘルメが前衛へと躍り出た。
そして、レアなことを意識――。
『わくわく』
『残念――違うんだな』
『ぐぬぬ――』
サラテンの声はシャットアウト。
「……闇の精霊ベルアードよ。我が魔力を糧に、闇の結束の力を現したまえ、――《
闇壁を用いて、黒豹エブエに集まっていた甲羅モンスターを分断する。
俺はそこで<
中級:水属性の《
後衛らしくポジションを意識しながら、皆のフォローに回った。
さらに、ふざけて――。
ヘルメに中級:水属性の《
続いて、上級:水属性の《
後衛もいいな。
頼もしい仲間の活躍が見れる。
ヘルメは美しい氷の女王のような機動だ。
デルハウトは槍の武将。
燕人張飛という感じの凄まじい豪快さを持つ。
一方、シュヘリアも武人だが双剣を扱う機動戦術は可憐さを持つ。
甲羅モンスターを輪切りにした剣捌きは美しさを併せ持つ女剣士の際たるもの。
こうして、すべての甲羅モンスターを倒し終えた。
「しかし、金属を喰う甲羅モンスターとはな」
と、話をしながら、飛行機の残骸らしきモノを調べていく。
中には、椅子らしき溶けてぐちゃぐちゃに変形したモノの残骸があった。
……座席があれば、俺の家のソファの一部に使えるかと思ったのになぁ……。
もう使えない。新しいDIYに挑戦とか考えていたが……。
冷蔵庫もあったら、炭酸とかあったろうに、溶かしやがって。
地表には穴もあった。
どうやら、この穴からアンモナイト風の甲羅モンスターが現れていたようだ。
ホルカーバムの沼地にもアンモナイトのようなモンスターが居たが……。
今、戦っていた甲羅のモンスターの方が、動きと質と量からして強いことは確実。
この穴から出現したと仮定すると、強さといい地下関係かな……。
甲羅モンスターは、どこかの地底神繋がりの眷属なのかもしれない。
「距離を取ったように、知恵も多少あったようですが……食欲旺盛なモンスターでした」
水球を周囲に作っては、その水球を周囲に展開しているヘルメが語る。
「地上の森では、あまり見たことのない種かと――」
周囲の警戒を怠らないシュヘリアも、視線を巡らせながら語る。
魔剣の黄色い剣身から、ブーメランのような黄色に輝く魔刃を飛ばして、樹の枝から飛び出していた猿型のモンスターを殺していた。
彼女も知らなかったようだ。
「南のセブンフォリア王国の南に、
デルハウトが指摘するが、南のセブンフォリアは遠いし、知らない。
しかし、ベンラック村の樹海方面や、タンダールの西部やヘカトレイルの南部から樹海側に出張してきた冒険者たちは、こんなモンスターたちと戦うことが多いのかな。
あの白濁した糸は、近接用の武器類や防具も溶かすだろうし……。
冒険者には嫌な部類だろう。
討伐ランクは最低でもBクラスは必須かもしれない。
もしくはAクラスかもしれない。
ロロディーヌが美味しそうに喰っていたし、グルメな貴族が依頼を出してそうだ。
と、考えてから、潰した甲羅ごと回収。
裏側の蛸のような触手群は歯ごたえもあって美味しそうだったしな。
「……見た目が岩の貝と人か蟷螂の頭部を模ったモンスターだし、海か川に住むモンスターかな。湖畔が近いことも関係するかもな――」
と、簡潔に答えながら回収を終える。
そして、待っていた神獣ロロディーヌに乗り込む。
まだ、周囲にはモンスターが居るが、無視だ。
そうして、この寒くなった湖畔の樹海エリアから離れた。
まだまだ、他のモンスターが沸くというか、出現する兆しはそこら中にある。
まさに神出鬼没な樹海のモンスター。
しかし、きりがない。
そのままサイデイル村へと飛ぶように帰還。
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