四百二十三話 ゼリウムボーンと地下大熊

 ザクザクとした足下の感触は気持ちいい。

 ――霜柱を踏むような感覚に近いか。周囲には魔素の反応が無数にある。


「警戒しろ。掌握察で魔素を探知した」

「はい」

「承知、俺も探知した」


 デルハウトも探知したか、あの長い器官の能力かな。

 彼の両頬の長細い器官は大きいナマズの髭的だ。

 その長細い髭的な器官はデルハウトの背中にまで伸びている。

 器官の先端が車のウィンカーの如く点滅中だから、その器官の能力で察知した?

 器官の点滅は魔力の回復を意味する?

 掌握察的な能力を秘めているのなら、触角的なセンサーでもあるのかな。


「閣下の索敵はわたしよりも速い!」


 常闇の水精霊ヘルメが褒めてくれた。俺の掌握察の使用頻度は高い。

 自らの体から発した魔力を円の形のまま周囲に展開する技術、それを掌握察と呼ぶ。

 この掌握察を用いた魔力の偵察は、アキレス師匠のお陰で体に染みついているからな。 アキレス師匠も、


『そうだな……コツは魔力を即座に絶つことだ。掌握察を維持せずにな? またすぐに掌握察を〝放出〟し、すぐに魔力を〝絶つ〟。これにより維持するよりも魔力消費は少なくて済む。これは熟練が必要だ。数をこなせばこなすほど感覚が鋭くなって掌握察の範囲も広がる。やればやるほど魔力消費が少なくなって精度が増すという訳だ。何事も経験だ』


 と語っていた。そして、常闇の水精霊ヘルメは索敵が疾くて的確。

 そんなヘルメの称賛は素直に嬉しい――が、油断はしない。

 ここは闇の世界、地下の世界だ。寒い風もあるし、微かに腥臭が鼻をつく。


 黒猫ロロが魚を喰ったあとの口の臭いではない。


 <夜目>で見ると……。

 巨大な長方形のクリスタルがあちこちの地面と壁に生えていた。

 天井にもクリスタルの群れが生えている。

 それらのクリスタルの反射光はすこぶる綺麗だ。

 ミスティがいたら、手に取って紙片に色々と書き留めたかも知れない。


 しかし、天井の長細いクリスタルは不気味だ。

 クリスタルの先っぽから、煙のようなモノがぶくぶくと噴き出ては、泡のようなモノを吐き出している。その泡は宙空で毒々しいモノに変質しつつ渦を巻いていた。

 ……天然の毒を放つクリスタルか?


 神具台が降りた場所の近くの絶壁には六つの火柱がある。

 火柱は神具台が急激に降りてきた結果だろう。

 天井から地面までの壁を這う線路のような金属が燃えていた。

 神具台の滑走路か? 線路的な金属は直線だから宇宙用のマスドライバーの滑走路を想像してしまう。


 それとも神具台が通る線路のような溝には、なにかが、こびり付いていた?


 神具台が着地した場所は破壊されたクリスタルの残骸が散乱中。

 足下の感触は、その破片か。

 さて、動く魔素は……魔力探査の掌握察では至る所に魔素の反応がある。


 人の造形の魔素もある。大きさは様々。

 耳をつんざくような音が響くように、魔素たちは殺気だっている。

 魔素の反応は、確実にモンスターだろう。


「音で判断したと思うが、モンスターのような反応がある。そして、暗い視界で毒もあるが、戦う準備はできているか?」

「大丈夫だ」


 デルハウトは厳つい顔で答えた。


 彼の双眸は光を帯びている。

 暗闇の中でも、あの双眸ならば、確実に獲物を追えるだろう。

 デルハウトは愛用の紫の魔槍の矛先で地面を突く。

 硬い地面に転がる破片を突いて確認していた。


「はい、キルモガー族の力で対処します」


 エブエの眼光も鋭い。

 猫の目のように虹彩が細まると光を帯びた。

 黒豹のコスチュームを身に纏う。


「ナズ・オン将軍の毒の息のほうが凶悪でした」


 シュヘリアも大丈夫なようだ。

 ま、彼女は元魔人ハーシク。人族より頑強だろう。

 今は光魔騎士が一人。

 <魔靭・錦帯花>という魔眼の能力を持つ。

 ユイの白色の魔力が双眸から出る能力とは違うが、戦闘に特化した魔眼だと思う。


「閣下、左はお任せを」


 ヘルメは水の防御膜を周囲に張る。


「了解した。右にデルハウトとシュヘリア。左にヘルメとエブエ。俺とロロは真正面だ」

「「はい」」

「ンン、にゃ~」


 相棒の声に反応したわけではないと思うが――。


 前方からクリスタルが生えた。にょきにょきっと、タケノコが急激に生え出すような勢いでクリスタルモンスターが出現。


 長方形のクリスタルの胴体で人型。

 クリスタルは無色透明ではない。

 

 無数の色違いのクリスタルがクリスタルの中に格納されている。

 

 その中身のクリスタルは『マンデルブロ集合』のような印象。


 フラクタル性極まる『マンデルブロ集合』風か、『ジュリア集合』的か、『ファトゥ集合』的なクリスタルとも言えるか。マトリョーシカ的でもある。その不可思議なクリスタルが輝いた。その輝きは夜空の星屑が集結しているようで美しい。


 その美しく輝いたクリスタルの腕がこちらに向かって伸びるや、バッと異質な音を立てた。

 突起物を長細い腕の先端から飛ばしてきやがった。


 その数は無数――。

 クリスタルの突起物は俺が対処するが、皆にも知らせよう。

 皆の力からして余計な世話だが、ま、俺の部下たちだ、守る――。


 そして、沸騎士たち、呼ばなくて済まん!

 と心の中で謝りつつ――。


「各自、警戒しろ。が、俺がやる――」


 守りを意識した警戒の声を発しながら両手首から<鎖>を伸ばした。


 俄に<鎖>の大盾を生成。

 前方に展開した<鎖>製の大盾に衝突してくる突起物――。

 突起物はクリスタルの矢なのか?


 ――カンッ。

 ――キィンッ。

 ――ギィン。


 といった硬質なアルミ的な物が衝突したような甲高い不協和音が響く。

 大量の硬質な矢を防ぐと、黒猫ロロが俺の肩を蹴る――。


 ――痛い。


 飛来する攻撃を見て黒猫ロロは興奮したんだろう。

 足の爪は鋭い形になっていたから、俺の肩を蹴った際に肩が削れて凄く痛かった。


 黒猫ロロは<鎖>の大盾の上に乗っかると、


「ンン、にゃごァ――」


 気合いの声を発しながら俺たちを守るように巨大な黒豹の姿になる。

 俺の<鎖>製の大盾は相棒の重さで潰れないが、その大盾を潰すような大きさだ。


 そして、炎を盛大に吹く神獣ロロディーヌ!


 遅れて飛翔してきた突起物は、その神獣ロロが吹いた巨大な炎に呑まれて消失した。熱波、という感じではない。


 神獣ロロの煌びやかな紅蓮の炎は、巨大な入道雲を彷彿とする。


 神獣ロロディーヌの紅蓮の炎は無慈悲に半円状に広がった――。

 あの紅蓮の炎を遠くから見れば、かなり目立つだろう。


 前方のクリスタルの人型の群れは、その巨大な分厚い紅蓮の炎に巻き込まれて融解。


 新しいオブジェと化した。


 毒ガスに引火して大爆発ということはなかった。

 神獣の炎だ。引火するはずのガスさえも蒸発させたのかもしれない。


 まだ残っているクリスタルの人型モンスターを確認。


 あの形、どっかで見たことがある。ゼリウムボーンか?


 皆は黙りだ。

 皆、神獣ロロの紅蓮の炎の息吹にびっくりしていた。


 気持ちは分かる。

 顔がひりひりするような炎。

 日焼けを促すような熱を感じさせたからな。


 そんな皆に、当たり前のことを報告。


「あれはゼリウムボーンと似ている。クリスタル系のモンスターだ」

「……は、はい! 左に数体残存しています」


 額に金色の髪を張り付かせていたシュヘリア。


 汗を掻いたらしい。

 やや動揺を示した顔色。


 双剣を抜いて<鎖>の大盾に肩を当てつつ周囲を窺う。


 この辺りは、自らのやるべきことは何か?

 を瞬時に理解する元魔界騎士らしい判断力だ。


「――了解したッ」


 力強いデルハウトの言葉だ。

 『神獣の炎なぞ怖くない!』といった雰囲気のデルハウト。


 デルハウトは筋骨隆々の背中を揺らしつつ――。


 一人で突貫――。

 ――前傾姿勢のデルハウト。

 右腕を捻るように突き出す。


 その右手が握る紫の魔槍が、真っ直ぐ伸びた。

 スキルは<刺突>系だろう。カッコイイ、が――しかし……。

 あまり見たくないが、彼はフルチンだ。


 魔族だから、違うかもしれないが……。


 まぁ野郎だ。あまり分析はしない。

 残っていたクリスタルモンスターの胴体を紫の魔槍が貫く。

 その貫いたクリスタルモンスターごと紫の魔槍を持ち上げた。


 その紫の魔槍を勢いよく振るう――。

 魔槍が胴体に刺さったままのクリスタルモンスターは、その魔槍からスポッと抜けて飛ぶ――クリスタルモンスターは投げっぱなしブレーンバスターよろしくといった勢いで――溶けたオブジェと衝突。

 そのクリスタルモンスターはエロい体勢で両足が折れて粉砕された。


「はい……」


 一方で、歯をくいしばった表情を浮かべていたエブエ。

 大盾の裏にヘルメと一緒に隠れていた。

 ヘルメと一緒で炎が怖かったようだ。体を震わせつつ魔斧を構えている。


神獣ロロ様、わたしのほうには炎を吹かないでください。死んでしまいます」

「にゃお」


 大盾の上に乗っていた相棒は、黒猫に戻った。

「にゃ~」

 と再び鳴いてから下に降りると、複数の触手をヘルメのお尻に当てて押しては、優しく撫でている。


「――きゃっ」


 ロロ的に『分かってるにゃ~』という意思表示だろう。

 そのままヘルメの肩に器用に乗ると、そのヘルメの顔をぺろぺろと舐めるロロディーヌ。


 ヘルメも嬉しそうに黒猫ロロの頭部を撫でる。

 その微笑ましい姿を見ながら<鎖>の大盾を消去。

 そして、走りつつ魔槍杖バルドークに魔力を込めた。

 いきなりの<紅蓮嵐穿>や<魔狂吼閃>ではない。


 普通に<投擲>だ――と、槍投げ選手になりきらず――。


 大リーガー気分の上手投げオーバースロー風に魔槍杖バルドークをぶん投げた――暗い宙の中を走る魔球――。

 もとい魔槍杖バルドーク――。

 まさに消える魔球さながらに、魔槍杖バルドークから無数の閃光が発生。


 紅色、紫色、漆黒色といった色合いに変化する閃光が四方八方に煌めいた。

 鮮烈な魔槍杖バルドークの穂先がクリスタルモンスターを貫くや背後のクリスタルモンスターも貫いた。

 衝破と似た衝撃波を発して衝きの勢いが止まらない嵐雲、漏斗雲と似た紅色の穂先は三体目のクリスタルモンスターも貫いた。そのまま数十のクリスタルモンスターを喰らう魔槍杖バルドーク。


 壊槍グラドパルスの如く宙空突貫が止まらない。


 あ、地面に突き刺さってやっと止まった。

 揺れに揺れた魔槍杖バルドーク。


 一瞬、魔槍杖バルドークが、地面をも喰らおうとするシャチに見えてしまった。


 魔槍杖バルドークは閃光を放ち続けて、周囲の血飛沫を吸い寄せている。


「……皆、大半の動いているクリスタルモンスターを倒したと思うが、まだ魔素の反応はある。個別にモンスターを倒しながら周囲の探索をしようか――」

「承知した。俺は右を見てくる。回収はどうする?」

「回収は宝だと分かるもの以外はしないでいい。素材は俺が回収する」

「分かった」

「では、わたしは左を」

「わたしは上から先を偵察してきます」

「にゃ」

「は、はい」


 エブエは黒豹の姿に変身。

 魔斧を咥えると神獣ロロディーヌと一緒に向かう。


 俺は投げた魔槍杖バルドークを回収。

 ゼリウムボーンならば、この素材は使えるはず。


 回収しておこう。


 アイテムボックスの中の食材が入った大きな袋を取り出す。

 中をチェック。


 分けた食材袋の中には、皆の血を保存した蓋つき瓶もある。


 ヘルメも血をストックしているから別に失くしても平気なんだが、ま、<血鎖探訪ブラッドダウジング>で使う以外に血の補給にもいいだろう。


 回収作業を素早く終えた。

 すると、


「閣下、前方が戦場のようです。暴れている大型のモンスターがいます!」

「了解――」


 戦場……。

 アムの美しい顔を思い浮かべる。

 が、まさかな?

 

 ハフマリダ教団のノームたちか?


 ――しかし、岩が乱立していて足場が悪い。

 ヘルメの指摘した場所に向かって<導想魔手>を足場にしながら宙を飛翔する。


 暴れていたのは凶悪な表情を持つ獣人風の大熊だ。

 しかも頭部が二つ。頭蓋骨の半分が露出している。


 腕は分厚いのが四つ。その内二つが骨の腕という異質さ。

 

 大柄で肉厚そうだが、体の内部の骨が見えている。

 ここからだと鋼鉄の鎧が似合う大熊の魔将軍にしか見えない。


 が、その魔将軍という印象を与えている主な原因は大熊だけではない。


 その大熊が騎乗している動物が、荒ぶる黒獅子でカッコ良かった。


 黒獅子は黒曜石のような肌で綺麗。

 しかし、頭部がヤヴァい。

 

 頭蓋骨が半分剥き出し状態。

 ゾンビ魔獣とでも呼ぶべき魔獣だ。

 

 しかも、大熊の魔将軍と同じく頭部が二つ。

 冥界の門番ケルベロス的。


 黒い骨が剥き出した状態。

 大熊の分厚い骨腕が握る骨の鎖も太い。

 その骨の鎖は、暴れる黒獅子の銜と首輪に繋がっていた。


 鬼の形相を持つ大熊は鵜飼いの鵜の操作を楽しむように嗤いつつ、骨の手綱を引いて騎乗中の荒ぶる黒獅子を押さえていた。


 その大熊の魔将軍の背後には大熊の兵士たちが数十屯している。


「「死ねェェ!」」

「リリウム谷を治めるのはウォース王である! 糞ドワーフ共ではない!」


 二つの頭部の口を広げて大熊の兵士たちは叫ぶ。

 その大熊の兵士たちが騎乗する黒獅子を凝視。

 魔将軍の黒獅子と同じく頭部が二つある。巨大な角もあった。


「ウォース王万歳! ドンガ隊長万歳!」

「ドワーフだけではないぞ? ノーム、ドワーフ、樹怪王、魔神帝国の地底神の手先ども、ダークエルフ、すべての骨を噛み砕こうぞ! 骨神ウォース王に捧げるのだ」

「ウォース王万歳! ドンガ隊長! ついていくぜぇ!」


 大熊の兵士たちは、魔将軍をドンガ隊長と呼ぶ。

 ウォース王って存在が大熊たちの背後にいるのか。


「先鋒ドンガ・ガ・ン、参る!」


 ドンガ隊長は、黒獅子の骨の鎖を引っ張り、胴体を足で叩くと前進を開始した。


 胸帯から伸びた馬衣を備えた黒獅子は自らの巨大角を真横に振り回しながら突進――。

 無数の人型の体にその角を突き刺しては、撥ね飛ばしていく。


 そして、四肢で人型の死骸を踏みつぶし駆けていった。

 そんなドンガ隊長が率いる大熊の兵士たちと闘っている人型たちの背は小さい。


 大熊の兵士の言葉から察するに、ドワーフか?

 俺と肩が触れ合う距離のヘルメに、


「ヘルメ、あそこに向かうぞ。口上を聞く限り俺たちの敵は熊だ。熊退治といこうか」

「はい、賛成です」

「――皆、この先、右手斜め、三十度の位置に俺とヘルメが向かう。各自、ドワーフらしき者は襲うなよ? まだ残っているクリスタルのモンスターを掃討し、殲滅を目指しながら集結しろ」


 デルハウトとシュヘリア、ロロディーヌとエブエに知らせながら前進。


「――承知したァ!」

「はい――」

「ンン、にゃ、にゃ~」

「――ガルルゥッ!」


 ロロは楽し気に声を発するが、ま、大丈夫だろう。

 子分のエブエに尻尾を絡ませて、『お前も働けにゃ』というように尻尾でエブエの黒豹の頭をナデナデしている。


 戦場は近いからすぐに分かるだろう。


 前を見たら、ヘルメが無数の氷魔法の雨を大熊の兵士たちに衝突させていた。

 雨というか巨大な《氷槍アイシクルランサー》の連続放射だから威力が凄い。


 黒獅子の頭にも突き刺さっている。


 先頭のドンガ隊長もさすがにヘルメの氷魔法に動きを止めた。

 ドンガ隊長の後ろにいた大熊の兵士たちも足を止める。


 常闇の水精霊ヘルメが凍てつく吹雪を起こしたように見えた。


 氷の精霊を兼ねているだろう常闇の水精霊ヘルメさんだ。

 水飛沫を周囲に飛ばしながら後退したドワーフたちの前に立った。そして、腰に右手を当て左手の肘の角度を意識しているように、左の手の内を胸に運ぶ。

 同時に腰を悩ましく捻った。お尻がプルルルンと震える。

 ――真・ヘルメ立ちを敢行。


 驚き興奮したドワーフたちの背後で、俺は思わず拍手した。


「ここから先はルシヴァル神聖帝国の大参謀ヘルメ・ルシヴァル・最高幹部会筆頭・お尻研究会顧問――」


 前に移動して、


「――ヘルメ、長い」


 俺のツッコミの《氷弾フリーズブレット》を頭部に喰らったヘルメは頭部を仰け反らせてから、額を手で押さえて、


「閣下……痛いですッ」

「すまんな――だが、戦いの場だ。調子に乗るな」

「はい」


 そう語りながら<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を五つ発動。

 

 ドワーフたちを越えた五つの光槍が流星の如く煌めく。


 その流星的な<光条の鎖槍シャインチェーンランス>が、ドンガ隊長の頭部に直撃、頭部を突き抜けた。そのドンガ隊長の半分露出した頭蓋骨から閃光が迸る。

 頭蓋骨はマグマを喰らったように溶けていった。

 突き抜けた<光条の鎖槍シャインチェーンランス>は後部を揺らしつつ背後の壁と衝突するや、瞬時に光の網へと変化を遂げて壁を覆った。


 網模様の一種の光源と化す。


 少し遅れて、もう一つの<光条の鎖槍シャインチェーンランス>がドンガ隊長のもう一つの頭部を貫く。


 そのドンガ隊長の頭部は爆発。

 闇色の骨が散らばった。闇が濃い種族らしい弱点だ。

 二つの頭部を失った大熊軍団のドンガ隊長は絶命。

 

 続いて、二つの<光条の鎖槍シャインチェーンランス>が背後の大熊の兵士と衝突。

 鎧の隙間を貫く<光条の鎖槍シャインチェーンランス>だ。


 最後の<光条の鎖槍シャインチェーンランス>は大熊の兵士のキュイスに突き刺さって止まった。そして、<光条の鎖槍シャインチェーンランス>の後部は先ほどと同じくイソギンチャクの触手のように分裂して網目状に広がると、光の網と化した。


 大熊の兵士の腰を、その光の網が覆う。

 腰と足の一部に網目の模様を作るように光の網が浸透。

 大熊の兵士の腰と足は、網の大きさに沿った細かな肉片となって切断された。


 鎧以外に光の網が浸透した形だ。


「ヘルメ、出るぞ」

「はい、合わせます――」


 俺は前進しながら、残る大熊の兵士たちを狙う。

 <導想魔手>に聖槍アロステを召喚――。


 端から見たら何十といる兵士に突撃をかます蛮勇行為。


 左手の掌からサラテンを射出。

 右手が握る魔槍杖バルドークで、前方の大熊の兵士を普通に穿つ。

 突出したサラテンは――左の大熊の兵士の頭部を穿つと――。


 宙に弧を描く軌道で飛翔――。


『熊か、くまくま~!』


 とか、いまいち理解できない念話の歌を歌いながら飛翔するサラテン。

 喜ぶように血を纏いながら大熊の兵士たちに突撃。


 数体を貫き岩壁をも貫く。


 ――動けなくなっても知らんからな。


 聖槍アロステで足止めした大熊の兵士目掛けて――。

 魔槍杖バルドークを斜めに振り抜いた。

 漏斗雲の形に近い穂先が大熊の兵士の肩口を抉る。

 続けて、柄を前に押し出し、魔槍杖バルドークを右手から左手に持ち替えながら横回転。他の大熊の兵士の肩口と胴体を斬って吹き飛ばす。血飛沫の門が宙空に発生するが如く、大熊の兵士の血と肉が宙に散る。


 続いて、魔槍杖バルドークを引きつつ――。

 その魔槍杖バルドークの穂先で目の前の大熊の兵士を袈裟斬りのモーションでぶっ叩く。


 すぐに――爪先半回転を実行。

 頭部を潰した大熊の兵士は見ない。

 回転しつつ左手を聖槍アロステへ向けて伸ばす。


 長い柄を指先で引っ掛けて聖槍アロステを左手で握った。


「ころせぇっ! 隊長のかたきぃぃ!!!!」


 右の大熊の兵士が叫ぶ。

 その大熊の兵士に十字矛の穂先を向けた。

 光る十字矛の聖槍アロステを<投擲>――。


 直進した聖槍アロステの十字矛が大熊の兵士の腹を突き抜けた。


「ぐえぇ」

「武器を投げたぞ、いけぇ」

「かこめぇぇ」


 群がる大熊の兵士たちを見ながら俺は背中をヘルメの背中に預けて一回転。

 左に多い大熊の兵士目掛けて、魔槍杖バルドークを振るう。

 大熊の兵士の頭部に穂先の紅矛を衝突させて豪快に破壊。

 ――頭部が潰れた大熊の兵士は吹き飛んだ。

 続けて魔槍杖バルドークを振るう。

 その魔槍杖バルドークの柄と紅斧刃と衝突した大熊の兵士たちは頭部が潰れながら吹き飛んで、「「――ぐあぁぁ」」他の大熊の兵士と「「ぐおぉ――」」衝突し、多数の大熊の兵士が巻きこまれて転倒。


 起き上がった大熊の兵士たちは逃げず、突進してくる。

 それらの大熊の兵士たちの体にヘルメの氷剣が突き刺さった。


 背中合わせで回転していたヘルメの氷魔法だ。

 氷剣の魔法を体に喰らう大熊の兵士たちからドドドドッと鈍い音が轟いた。彼らの肉厚な体に氷剣が突き刺さっていく。

 

 その氷魔法の剣が、いつもと違った。

 フランベルジュ級の大きさの氷剣だ。

 幅のある槍のような氷剣の連撃射出だから、すこぶる強烈だ。


 氷魔法の氷剣か、《氷槍アイシクルランサー》ではない。

 

 んだが、どこかで見たことのある質の剣。

 女王サーダインか。《氷槍アイシクルランサー》のほうが得意だから、今回だけのレアな魔法攻撃だと認識。そのヘルメの攻撃は凄まじい。

 俺よりも大熊の兵士たちを屠った数は多い。


 そうして――。

 瞬く間に、俺とヘルメの周囲に大熊の兵士の死体が壁となって積み重なった。


 戦場が静まり返ると、ロロディーヌが駆ける。

 その壁を突き崩して、残党狩りを開始。

 遅れて魔斧を咥えたエブエも大熊の兵士に飛び掛かった。

 

 口に咥えた魔斧が豪快に大熊の兵士の頭を捕らえた。

 黒豹エブエの体が少し膨らむと、豪快に大熊の兵士の胴体を潰すように魔斧を振り抜いた。

 

 胴体を両断。黒豹エブエか、やるじゃないか。


 シュヘリアとデルハウトの元魔界騎士コンビも掃討戦に参戦。

 元魔界騎士らしく独自の戦術があるようだ。

 槍技と双剣技を組み合わせた巧みな戦法で、大熊の兵士を屠りまくる。


 神剣サラテンと聖槍アロステ、魔槍杖バルドークを仕舞ったあとは……。

 仲間の活躍を見ているだけとなった。

 戦場を制したと分かった途端、背後のドワーフたちは口々に叫ぶ。


「おおお、凄い動きだ! 聖槍ソラーのような聖槍を扱う槍使い! 水棲のピュル族の氷の連撃! 獣使い! 皆凄いぞ!」

「ありがとおおおおお!」

「でも、だれ?」

「いいじゃないか、そんなこたぁ。おれたちはたすかったぁぁぁ」

「よかったぁ、逃げたら副王会の連中にどやされるところだったからな」

「だが、うしろって……袋小路」

「ゼリウムボーンの溜まり場でしかないが……」


 そんなドワーフたちに近付いていく。


「こんにちは、今しがた、聖槍を使った者です」

「「マ、マグルゥ!?」」



 ◇◇◇◇


 暫し、マグルの祭りとなった。

 一緒に片足を交互に上げて、マグル、マグル、と、『ヤッタ』、『ヤッタ』、『ヤッタ』、と異世界葉っぱ隊的なノリでヘルメと一緒に踊る勢いだったが。

 そんなことはせず、落ち着いた態度で対応。

 遅れてきたシュヘリアを見ると、彼らは興奮。


「金髪のダークエルフだ」


 と鼻息を荒くして騒ぐ。


 ドワーフにも女性はいると思うが……その美観は同じらしい。


 続けて、厳ついデルハウトの姿を見たドワーフの皆は沈黙した。


 デルハウトの耳の裏へと伸びた触角のような器官が光る。


 皆、驚くというより、


「あれは魔族か?」

「地底神の勢力……」

「キュイズナーが隠れている?」

「魔神帝国の勢力だとしても交流を望む魔族もいるぞ……」

「……魔神帝国の勢力も無数にあるからな」


 と、息をひそめながら話をしていく。


「だが、あんな点滅するような髭は珍しい」

「おい、サンチェ、針鼠神の彫像へのお祈りを忘れていないだろうな」

「ダマノン、お前はどうなんだ?」

「忘れていない」


 針鼠の神への祈りには効能があるらしい。

 が、意味は分からない。


 そんな針鼠の神を信奉するダマノンを含めた皆は、デルハウトから、神獣ロロディーヌとエブエを見る。二度見して、三度見して、デルハウトを見てから、もう一度、ロロディーヌを凝視。


 皆、驚いた。


「怪物だぁぁぁぁぁ!」


 と騒ぐ。


「――落ち着け!」


 一通り説明。

 ドワーフたちが落ち着いたところで、自己紹介を終える。

 彼らはラングール帝国に所属する地下都市レインガンから遠出してきた行商傭兵軍団コンゴード・マシナリーズだった。


 アムたちのハフマリダ教団と行商傭兵軍団コンゴード・マシナリーズは知り合いらしい。


 独立地下都市ファーザン・ドウムから遠く離れた位置にある、このリリウム谷の一部を守るよう副王会から指示を受けたと、一人の老人ドワーフから教えてもらった。

 名はコンゴード。この部隊の隊長だった。


「ところで、特殊探検団ムツゴロウマルは無名じゃが、どこの地下都市を主力に活動しておるのじゃ?」

「それは、知らないほうがいいかと思います。俺はマグルですから」

「……そ、それもそうか」


 そこからドワーフたちが倒した大熊の兵士を使った手料理というか、鍋料理を作ってお礼をしてくれた。


 俺も食材を提供したら、ドワーフの一団はさらに喜んでくれた。


「しかし、こんな地下で熊鍋とは」

「デルハウト、美味くないのか?」

「いや、美味い! が、陛下の話を聞くと、この大熊モンスターたちが支配する領域は近いと分かる。敵地の中で、焚き火をたき、裸でその大熊を喰らう。大胆不敵だと思ってな」


 ま、その厳ついデルハウトも裸のような印象だ。

 そんなお前がいるからだろう、とは言わない。


「そうだな。俺たちと神獣ロロディーヌがいるからだろう」


 ドワーフたちは裸になりながら肉を食う。

 裸の文化か、この隊の慣習か。

 不思議な親近感を覚えるが、さすがに裸は見せたくない。

 そして、コンゴートから大熊軍団には骨神ウォース王がいて、ラングール帝国とは争うこともあると教わった。

 

 暫くして地下都市レインガンから来たドワーフの一隊と別れた俺たち。


 最後に、ドワーフの一隊から、一緒にレインガンに来ないか?


 と誘われたが、美人さんはいなかったから遠慮した。


 神具台のところまで戻ってきた俺たち。

 ネックレスのメダルを嵌めて神具台を操作。


 神具台はゆっくりと上がった。

 外側から金属と金属が擦れる音が聞こえたが、無事に超高層ビルのエレベーター的な機動で地上に向かう。

 戦馬谷の大滝の奥の間に戻ってきたところで、神具台はストップ。

 神具台の扉が開いた。戦士の石筒がある聖域、異界の軍事貴族の広間が見える。


「外に出るぞ」


 そのまま皆で走りつつ、戦馬谷の大谷の外へ向かった。

 滝壺には飛び込まず、来た道から外に出てから、瞬時に巨大な神獣と化したロロディーヌの背中に乗せてもらった。


「んじゃ、先ほども話をしたが、滝の上に向かう。船を優先だ。モンスター同士の争いがまだ続いていたら様子見」

「了解しました」

「「はい!」」

「ンン、にゃ~」


 神獣ロロディーヌは両方の後脚で岩を蹴る。巧みな三角跳びから飛行を行って、飛翔しつつ嘗ては船だった物をあっさりと越えた。宙空から体を捻って後脚を下に揃えるや旋回を続けながら下降。このままでは甲板を壊してしまうかも知れない。が、相棒は甲板の上に後脚を突けるように着地を実行、ドッと鈍い音が相棒の足下から響いた。お、音はヤヴァ気だが、着地の機動は軟らかい。肉球を有した蹄か!

 腐食した部分もある甲板だったが、陥没はしなかった。そして、大滝の上に広がる岩棚の上付近がよく見えた――。

 鹿モンスターの死骸が散らばっている。戦闘は終わっていたらしい。


 俺たちを乗せた相棒は一旦川辺に降り、船の残骸に向かった。

 足下から舞う水飛沫が顔に掛かるが、構わない――。

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