四百十二話 人の心は面の如し
声はルシヴァルの紋章樹から聞こえた。
思わず、神獣ロロディーヌから視線をルシヴァルの紋章樹へと向ける。
「え?」
心に思ったことをそのまま発した、俺。
皆も同じく「え?」と、呟いて驚いている。
うん、当然の反応だろう。
ルシヴァルの紋章樹の太い幹が欠けているだけじゃない。
それは
のしのしと二つの巨脚は地面の蔦を踏みしめ歩く。
ミスティが見たら……と、考えながら、その
ゴーレムの胸元には、あの可愛い樹木の子供が納まっている。
ビー玉の双眸が光っていた。
「妖精のオシリーヌちゃんが操作を……」
「却下! ルッシーよ!」
「ん、イエシュちゃん」
皆が指摘しているように、ゴーレムの胸元には樹木の子供が嵌まっているというか……。
……眷属の妖精は、樹の鎧を纏うように合体?
ルシヴァルの紋章樹を鎧やパワードスーツのように扱っているようだ。
首飾りの中央にあった水晶がエネルギー源らしい。
水晶の真上から、淡い光を放つ小さい立方体が浮かんでいる。
その立方体の中の杖らしきマークが激しく点滅を繰り返しては、その立方体から魔線の群れが魔導鎧の各部位へと伸びて繋がっていた。
魔線のうねりは、キサラが持つ魔女槍の柄孔から伸びるフィラメント群の動きと似ている。
そして、妖精眷属は「あるじ、守る――」と、再び発言。
『モビルワーカー』が動くような音を立てた紋章樹機体の二つの足が蔓の地面を捉え蹴り飛翔する――。
いや、飛んでいるわけじゃない。
背中から伸びた樹木は彼女の背後に聳え立つルシヴァルの紋章樹と繋がっていた。
だが、もう眷属の妖精は宙へ上がっている。
彼女が身に纏っている樹製魔導鎧はゴツイ。
だが、眷属の妖精がどの程度の強さなのか、まだ把握をしていない……。
彼女は近づいてくる存在を敵と認識して迎え撃つつもりらしい。
まだ、名前も決めていないのに!
空から迫る者たちの姿が見えた。
頭部が環状の神界戦士たちだ。
背中に一対の金属製の翼を持つ種族たち。
他にも、人族も混ざっている。
俺が知るブーさんの姿はない。
それらの神界側の戦士たちは身に迫った紋章樹の枝を迎撃。
空で戦いが始まってしまった。
ルシヴァルの紋章樹と繋がっている妖精眷属は両手から無数に枝を放出している。
先端が尖った枝槍の群れだ。
それら枝槍の群れは、多連ロケット砲から連続で発射されたミサイル群のように神界勢力の方々へと向かっていく。
サイデイル村から少し離れた空とはいえ、かなり近い。
何かが落ちて子供たちに被害が出てからでは遅い。
相棒に視線を向ける。
「ガルルルウゥ」
興奮したような唸り声を上げ竜が持つような歯牙を覗かせるロロディーヌ。
首下からシンメトリーに揃い伸びた触手群はいつもより太い。
漆黒の鎧を着こんだような黒色の胸毛も立派だ。
ローゼスだった頃の姿とは違う。
獅子のような異風さと、黒豹としての凜々しさを併せ持つ神獣ロロディーヌ。
まさに、神獣の女王の雰囲気だ。
「ロロ、向かうぞ。エヴァとレベッカ、シェイルやこの村を頼む」
「ん、分かった」
「了解~。蒼炎の威嚇もなし! 大人しく魔法使いのふりをしとく」
「ヘルメ、来い」
「はい――」
左目にスパイラルしながら突っ込んでくるヘルメを視界に捉えながら、グーフォンの魔杖をバトンのように扱うレベッカの姿を見た。
金色の前髪が揺れている。
シェイルの手をもう片方の細い手が握ってくれた。
そのシェイルは急に手を引っ張るレベッカを見て、びっくりしていたが、笑顔を見せている。たぶん『ジョディ?』と聞いているんだろう。
今は守ってやらんとな。
と、同じ気持ちのエヴァは紫魔力を宙に展開。
瞬時に、黄緑色の金属群の一部と白色の金属群の一部を魔導車椅子から射出。
盾のような金属部位を、幾つも宙に創り上げていた。
皆の様子を見ながら神獣と化していたロロディーヌに飛び乗る。
同時に手綱を掴みながら黒毛がふさふさの頭の上に片膝をつけて屈んだ姿勢に移行。
そして、反対の手の内を、ロロの後頭部に当て撫でた。
「ロロ、先制の炎はなしだ――」
「ンンン、にゃおお」
俺を乗せたロロディーヌは爆速で宙を進む。
幸い、まだ神界側に被害は出ていない。
神界戦士の方々は身に迫る枝槍を切断して対処。
棒を扱う人族は、宙を跳ねるように金属製の足場を使い素早い回避行動を取っていた。
一応、ブーさん繋がりで光の技を見せておくか。
狙いは金属頭の神界勢力たち。
『割れ目ちゃん、強い!』
ヘルメの念話は無視。
神獣ロロディーヌの前頭部の位置に立った状態から――。
<
光槍の大きさは左手に持つ雷式ラ・ドオラと同じぐらいだ。
――光槍は宙を切り裂くように突き進む。
『器よ。妾――』
サラテンもシャットアウト。
ルシヴァルの魔導鎧を身に纏う眷属の妖精に対して放った
「光――!?」
凄まじい閃光を目の前にした神界戦士の集団たち。
表情を一変させる。
続けて、二つの光槍と衝突した
魔力波を伴う心臓に直接響くような多重音を響かせながら
光の欠片が周囲に弾け飛んだ。
サイデイル村にその光の破片は飛んでいない。
頭部が金属環の神界戦士の数人が、持っていた光り輝く薙刀を振るい――。
身に迫った光の破片を両断して対処していた。
「――ルッシー、攻撃を止めろ、下に戻れ」
「……主」
雷式ラ・ドオラの穂先を差し向けながら、強めの口調で指示を出す。
その瞬間、ルッシーと正式に名前を決めたわけじゃないが、眷属の妖精は双眸を煌めかせて頷く。
その頷いた瞬間――背中の樹製の羽が収縮。
ルシヴァルの紋章樹と繋がるルッシーは背中が畳まれるようにルシヴァルの紋章樹に引き込まれていく。
その動きは……。
あたかもアラジンの精が魔法のランプの先端に吸い込まれていくようにも見えた。
とにかく凄まじい速度だった。
聳え立つルシヴァルの紋章樹は一部から血が垂れているが、平然としている。
『ルッシーちゃん。戻るのも速いですね』
『あぁ、ルシヴァルの眷属だからな。他にも能力はあるだろう。そして、まだ幼く拙いが……女王サーダインを未然に防ぐルシヴァルの力は俺にはないものだ。素直に尊敬する。だから、このエリアの守護にはいいかもしれない』
『これからの教育次第といったところですね。サナとヒナのこともあります。彼女たちに言葉を教えながら、ムーちゃんとの訓練も行える武術が巧みで言語学者のような教師も必要かと』
『教師とはいえば……』
『はい、ミスティ』
言語学者でも武術が巧みということでもないが、ツッコミはしなかった。
ただ、ミスティもミスティで研究がある。
ま、のちのちだ。
紋章樹の鎧を身に纏っていたルッシーが消えると、坊主頭の一人が、前に突出。
両手持ちの鋼鉄製の棒を真横に振るいながら、
「――皆の者、攻撃を止めよ!」
そう叫ぶと、神界戦士たちは動きを止める。
アーバーグードローブ・ブーのような頭部が環状の金属生命体が隊長ではないようだ。
指示を出していた人族の坊主が隊長格らしい。
額には魔力が漂う特徴的な梵字が浮かぶ。
眉毛は濃く彫りの深い顔立ち。
片方の眉は古傷によって一部が削られている。
眼窩の奥から火のような野生の熱を感じた。
戦模様の前掛けに鎖帷子の衣を着ている。
足裏から魔力粒子を放っていた。
キサラのような魔法かスキルを使うのか?
スリッポンのような靴は魔力を内包しているから、靴の魔力で浮いている?
脹ら脛も太いし、強そうだ。
すると、神界戦士たちの胸元の金属が変形。
サーフィンを行うような細い金属板が伸びていた。
へぇ……坊主たちは浮いているわけじゃなかったらしい。
その金属板に着地していく。
といっても神界戦士は巨人じゃないから、少し違和感がある。
『神界戦士……閣下の
他にもホフマン側と戦っていた神界勢力が居た。
表情は皆、厳しいが、戦いは止まった。
このまま交渉を続けようと思ったところで、
「……ソナタ、魔界の眷属か?」
隊長格らしき坊主の方が、聞いてきた。
「違います……」
と、答えたが……。
下には血が滴るルシヴァルの紋章樹が聳え立つ。
さらに、俺の首には
鑑定能力や観察力に優れた者が見れば分かるかもしれないが……。
そして、さすがに悪夢の女神ヴァーミナと交信をして、魔蛾王の魔界騎士だったシュヘリアを俺たちの懐に招き入れた。
とは、素直に神界軍団の方々に語れないよ……。
皆、厳つい顔だし……。
……少し緊張感を生む。
「……ルグナドの吸血騎士や吸血神信仰隊の暗部ではないのだな?」
隊長格の隣の大柄の坊主が聞いてくる。
ソロボを超える大柄な坊主さんだ。
刺すような睨みも怖い……。
オークを超える人族だ。迫力がある……。
「……違いますよ。下の村の者です」
「……ほぅ。その騎乗している巨大魔獣が棲む村だと?」
「そうですよ。別段獣使い系が不思議ということでもないと思いますが」
冷や汗を掻きながら、無難に口を動かした。
「そうだが、魔獣使いか槍使いの貴方は、さきほど、光魔法をも難なく使いこなしていた。そんな光魔法を扱える神聖教会か、光神の関係者が樹海に住んでいるのか?」
もっともな疑問だ。
怪しまれないように笑顔を意識して、
「光神の関係者かもしれませんが、それが何か?」
この神界戦士団の方々に鑑定能力を持つ者が居るかもしれない。
だから、右肩の竜頭の肩金属防具のハルホンクを意識して、胸元を露出するようにV字へと洋服のデザインを変更しながら正直に話をした。
左胸には<光の授印>の証拠。
鎖が絡む白色の綺麗な十字架マークがあるからな。
乳首を露出する変態ではないが、分かってくれるだろう。
――はっ、しまったかもしれない。
ガチムチのそっち系の方だったら……。
「……不敵な奴だ。ここは様々な魔が行き交う樹海だぞ?」
隊長さんは、チラッと胸元を見たが十字架のマークに気付いていない。
「そうだ。だいたい魔獣に乗った光神ルロディスを信仰する教会騎士の存在が……いや、まさかな……」
お、気付いたか?
「ソーグ殿。〝厳魔検プリレ〟の値を無視ですか? この者が
あの魔道具は博士と同じ物か?
あれで神官の人族たちは、俺の血か魔力を探知したのか?
そして、隊長の名前はソーグか。
しかし、十字架のマークは彼らにはあまり意味がないようだ。
「あぁ……そうだ。または、教皇庁一課遺跡発掘局の高位司祭とかな」
「遺跡発掘局ならありえますが……
「そうは言うが、アロモンド、さきほどの光魔法の説明が付くだろう?」
「……強烈な光魔法の使い手……」
「そうだ。あの光魔法は確実に上位。司教が放つ烈級、王級クラスだ。光の精霊の加護を受けていると聞いても不思議ではない威力だった」
「はい、スクロールの規模を超えたモノでした」
「……我、光ヲ見タ。コノ者ハ、攻撃ヲ止メタ。ソレガ何ヨリノ証拠」
「確かに……ドラーズ・ブーが語るように強烈な光だった」
「我ラノ姿ヲ直ニ見テ、攻撃ヲ止メル者、魔界ノ者ニ、ソノヨウナ者ガ居ルカ?」
「居ないな」
坊主頭と頭部が金属環の方々は、色々と語る。
俺という混沌とした存在を見極めようとしているらしい。
その会話に参加しない怒ったような面で俺を睨む神官さんが居るが……。
俺はそんな坊主頭の方々の額に浮かぶ梵字が気になった。
梵字は双眸の魔眼らしきものと繋がっている。
坊主頭の方々が持つ魔眼は、戦闘系に特化していると判断していいだろう。
何らかの鑑定能力を持っていたとしても……。
彼らの喋る内容から俺の精神の内面を探る系統は持っていないと判断した。
この会話自体も俺の精神に対して探りを入れる〝間〟の可能性もあるが……。
とりあえず、いつ戦いになってもおかしくないから下へ誘導だな。
「……戦いは〝なし〟ということでよろしいでしょうか。もしそうなら場所を変えましょう。こんな空ではなく、地に足をつけながら話をしませんか?」
サイデイル村から引き離そうと、遠くの樹海へと雷式ラ・ドオラを差し向ける。
念のため、第三の腕状態へとスムーズに移行できるように指状態のイモリザを意識。
第六の指から右手の肘先に第三の腕予定のイモリザを移動させておく。
「……誘導か? 皆、侮るなよ……下の巨大樹を見ろ……あのようなルグナドのような禍々しい<血魔力>を有した巨大樹に、その<血魔力>の結界を維持できる者ぞ……」
「俺もデルガグと同様だ。認めない……吸血鬼王国の礎のような存在なぞ……」
「……確かに下の、光と闇が混じり合った血の巨大樹……非常に怪しい」
「……ふむ」
当然だが……。
俺と敵対はしない坊主と戦士も居れば……。
今のように俺を睨みながら語る坊主軍団と、金属頭の戦士も居る。
彼らは俺という存在と攻撃をしてきたルシヴァルの紋章樹ことルッシーを怪しんでいるんだろう。
だが、比較的ブーさん系の生命体と相性は良いようだ。
金属の頭部の生命体の雰囲気は、俺に対して好意的な印象を持っていると感じさせた。
ま、どちらにせよ戦う理由はない。
痛いのは嫌だし、このまま交渉できるなら交渉を続ける。
「……俺が怪しいことは否定しません。しかし、下には無辜な存在も居ます。村に住む者たちをこの争いに巻き込むなら戦うのも〝仕方がない〟と判断しますが……何度も話をしているように、もし、話し合いで済むのなら、そこの地上でお話をしましょうか」
「にゃお」
神獣ロロディーヌも俺の言葉と合わせるようにすべての触手を体の中に引っ込める。
胴体の横から伸びていた黒翼の角度を畳むように変えて後脚の方から風を起こしていた。
小さい尾翼を作ったようだと感覚共有で分かる。
「……承知した。俺の名はソーグ。戦神ヴァイス様を崇めている、戦神教の神官だ。戦闘教団樹海支部長が一人」
「同じく戦神教の神官が一人。名はアロモンド」
彼は鋼鉄製の魔槍を扱うようだ。
「……チッ、デルガグ」
戦神教の神官の双眸には憎しみがあった。
俺を吸血鬼だと判断したようだ。
こりゃ、戦いになるかもな……。
『閣下、わたしの存在には気づいていないようです』
『気付いていないフリかもしれない』
『はい、あの額の魔紋と繋がる魔眼を持つ神官は複数存在しました』
ヘルメと念話していると、神獣ロロディーヌは俺の意志を汲み取る。
ゆっくりと旋回しながらサイデイル村から離れることに成功した。
そのまま樹海の地に降り立つ。
ジャバウォックが棲んでそうなタルジイの森のようだ。
神獣のロロディーヌは、黒豹タイプに姿をチェンジ。
左の方をとことこと歩きながら空を見ていた。
そして、その空から神界勢力の方々が、地響きを起こすように着地してくる。
坊主頭の集団も全員が着地。
その中で、着地した隙を見せずスタスタと軽い身のこなしで厳つい顔の男が近づいてきた。
デルガグと名乗った人物の横に居た神官だ。
上半身は黄色の羽織一枚。
右胸に独特のマークがある。
刺青のある筋肉質な胸元を露出していた。
下半身の腰に巻かれた紐ベルトには、どこかで見たような魔道具がぶら下っている。
布ズボンは普通。
靴は隊長さんと似た魔力を備えた物を履いていた。
彼らは歩き方といい空を駆けるように移動する身体能力の持ち主だ。
凄腕なのは確かだろう。
手にも魔力が漂う槍の長柄武器を持つ。
どっちが先端でどっちが後端か分からない。
刃状の刃と金棒を備えた槍だ。
『閣下、でますか?』
『いや、大丈夫だ。戦神ヴァイスを信仰している戦好きの集団だ。余計な刺激はしない方がいい。神界の事情というか、仲良くなったら、どういった争いがあるのか情報を獲得できるかもしれない』
『……なるほど、そこまでは頭が回りませんでした』
『情勢を把握できれば、何かしら打開策は生まれるもんだからな』
孫武の教えは偉大だ。
すると、
「――陛下」
「シュウヤ様」
飛ぶように魔女槍に乗って登場したのはシュヘリアとキサラだ。
彼女たちは俺の左右に立った。
ロターゼは居ない。
神界勢力の環状の頭部を持つ奴が、手から光り輝くチャクラム系の金属武器を取り出す。
あれはブーさんが前にくれた
「……待った。彼女たちは俺の部下だ。戦いではなく話し合いが目的だったろう?」
「……どの口がそんなことを喋る……戦神教を舐めるなよ」
「そこの片割れは魔界騎士だろうが!」
シュへリアの見た目か?
肌模様のマークは確かに魔族固有のモノと推測できるが……。
「戦神教? 神官長ダビデ、副官長マシューは元気でしょうか」
「亡くなった神官長の名を? 現在は不滅のマシュー殿が神官長だが……」
キサラは過去に戦神教を関わりがあったな。
「サキノ、光魔法ハ、我ラヲ陥イレル作戦ダッタノカ?」
「あの血が滴る槍の穂先……黒マスクも怪しい」
「黒魔女教団の名はご存知でしょうか」
キサラはそう尋ねるが……
「……古い殉教者集団としての名は聞いたことがある」
「そんな集団より、これは罠。そいつも古い集団名を名乗り我らを欺こうとしている。魔界騎士に違いない」
戦神官デルガグがそう叫ぶ。
キサラも魔界騎士と認定されたようだ。
「キサラは違うぞ」
「――糞、罠か! 土構えを取る。アロモンド、デルガグ、やれ!」
「さすが隊長! 待っていました!」
「守っていた村はきっと魔界の神が関係する邪教の村ですよ。あの血が垂れていた巨大樹ごと、焼き払いましょう」
戦神教の神官たちはそれぞれに魔力を放出し気合いの声を発しながら語る。
おいおい。
ますますおかしくなってきた! ってか?
「そうだな……魔界騎士が居ると分かった以上……皆殺しだ」
「さきの魔法を放った者が従えている者たちだ。光神ルロディス様に関係する何かを隠し持っているのかもしれない。そして、秘宝を隠し持つ外れ吸血鬼の可能性もある……気をつけろ。魔界騎士ならば、三位一体が基本……」
「ちょっと待て。部下は魔界騎士じゃない」
「――問答無用!」
神官と戦士たちは俺の言葉を無視。
襲い掛かってきた。
即座に、キサラとシュヘリアが対峙し二人の神官を切り伏せる。
剣戟音が耳朶を叩くのと同時に、キサラから<魔嘔>の歌声が響いてきた。
魔闘術を全身に纏う。
そこに頭が金属状のブーさん系神界戦士が下から振るった剣身が光る鉈が身に迫った。
鋼の棍棒を扱う神官は胸元を突いてくる。
俺は右手の雷式ラ・ドオラを水平に構えて下から迫る鉈の刃を受けた。
そして、右肘を前に突き出すように雷式ラ・ドオラを右から左へと真横に振るう。
黄色の扇状の軌跡を宙に残しながら神界戦士の胴体を浅く斬った。続いて右脇に固定した短槍の柄を起点に腰を右に捻り右手を払うように、その右手に握る短槍ラ・ドオラを素早く横へと振るう。
黄色い穂先が神界戦士の胴体を真っ二つにする勢いで脇腹を捉えることに成功。
ラ・ドオラを握る手に力を込める。
そのまま強引に右肘を手前に引き戻しながら短槍を振るい抜く――。
神界戦士の硬い金属の胴体は不規則な形で折れ曲がりながら切断。
二つに分かれた金属の体は激しくその場で円を作るように乱回転し鉄のような人造人間的な内臓群と金属の液体を撒き散らす。
短槍を生かす二連斬りが決まった。
――が、そこに神官の突きが迫る。
鋭い突きの機動を読みながら、短槍を斜め上に動かして、その突きを弾く。
首に少し傷を受けたが、直ぐに爪先を軸に体を横回転させながら斜め前に出る。
戦神教の神官の左側に出ながら、回転の勢いを雷式ラ・ドオラの短槍に乗せながら雷式ラ・ドオラの<投擲>を行った――。
下からぶん投げた雷式ラ・ドオラ――。
雷神の名が付くように雷光を感じさせる勢いで宙を飛翔――。
「ぐあぁぁ」
雷式ラ・ドオラの穂先が反応できなかった神官の腹を貫く。
悲鳴なぞ無視だ。魔脚で前進――。
左手で神官の腹に突き刺さった雷式ラ・ドオラの短槍の柄を握り短槍を取り戻す。
そして、前のめりに倒れる神官の肩を片足の裏で踏むように、蹴り上げ前方へと跳躍した――。
黒豹とかしたロロディーヌが躍動しているところが視界に入る。
駆け抜けながら神界戦士の両足を両前脚の爪で削り取っていた。
そのまま体勢を崩した神界戦士たちに飛びかかっては、その首に噛みつく神獣。
「ガルルウッ」と唸り声を上げては金属の頭をえぐり取る。
金属製の環状の頭部が脊髄ごと引っこ抜かれるところはグロい――。
だが、獣の戦い云々の前に命の遣り取りだ。関係ない。
圧倒するような勢いを見せるロロディーヌ。
他の神界戦士や人族の戦神教の神官たちは気合いの声を発して、ロロディーヌに襲い掛かる。
だが、相手は黒豹の姿とはいえ、神獣だ。
素早く巧みに動く敏捷性が高いロロディーヌを捉えることは難しい。
光り輝く薙刀の連撃や鋭い<刺突>系の槍穂先の攻撃を華麗に避けていく。
隙が生まれた相手の足を黒触手の骨剣が捉えると、その触手を収斂して、神官を引きずり倒しては腹に噛みつきを行う。
続けて、後脚でその神官の股間を潰しながら違う標的目掛けて跳躍――。
背後から神獣を突き刺そうとした神官の首に噛みつく。
その神官の頭部を前脚の爪で引っ掻き長い尻尾で叩きながら、その顔面を後脚で踏みつけ、また跳躍したロロディーヌ。
荒々しい動きだったが、宙の位置を飛翔する黒豹は素直に美しい。
黒女王としての気品を感じさせた。
その宙の位置から黒い孔雀が羽を広げるように黒触手を展開。
ゼロコンマ何秒も掛からず黒触手の群れから生まれた銀色の骨剣は、ガトリングガンを髣髴する勢いで無数に突出を続けながら標的に襲い掛かった。
凄まじい銀穿の連撃――。
戦神教の神官たちは塵と化すように身体を貫かれていく。
あっという間に複数の神界戦士と神官を始末するロロディーヌ。
触手骨剣の切っ先に残っていた肉塊を詰めて、肉団子状態にしては持ち上げていた。
「にゃおおおおおおん――」
南無。と、死んだ敵方に祈りたくなるが、キサラとシュヘリアの戦いも視界の端に映る。
キサラは凄腕の神官と数度の打ち合いを演じていた。
相手は隊長クラスか。俺を睨んできた男。
名はデルガグだったか?
キサラは魔女槍からフィラメント群を放射状に展開させては、連撃を繰り出しているし、速度タイプへとマスクから特徴ある兜に変えているから本気だろう。
シュヘリアは三対一の状況。
神界戦士に囲まれていた。
そこで、彼女独自の双剣術を披露。
右に半歩前進しながら左手を真横に振るい右手の魔剣を手首が、はちきれんばかりに振動を起こさせながら振るい抜く――。
二人の神界戦士の首から鮮血が迸る――と、首から頭に斜めの赤線が入り、その頭部は斜め下へずれ落ちていった。
金属の頭部の環の断面からどろりと金属の脳が落ちていく。
そんな状況を把握したところで、着地。
着地の隙はない。
しかし、そのタイミングで、残っていた神官たちが槍を伸ばしてくる。
回転させた短槍で中段突きの穂先を防ぐ。
短槍の柄と槍の穂先が衝突した箇所から火花が散った。
その火花と踊るように左足と右足の軸を意識し――。
背面を晒しながら腰を捻り、左回転中の短槍を、突き出す。
刃を神官の頭部に繰り出した。
が、防がれた。腰の回転を戻すように腰を落とす。
そして、その腰ごと体を右回転しながら下段突きを繰り出した。
この連撃も槍の下部で防がれた。
――やるな。槍の動きは巧みだ。
相手は隊長クラスか、アロモンドとか名乗っていた。
他とは違う。防ぐ技術といい動きの質は極端に良い。
しかし、この防いでいるアロモンドの槍ごと、持ち上げてやる!
視線のフェイクを入れてから、豪槍流を意識した力の槍で、下から雷式ラ・ドオラを振り上げた。
「――風槍流だけでなく、豪槍流とは――<戦神流・巌烏>」
アロモンドは逆に俺の力を利用するように軽やかに跳躍しながら、発言――。
スキルを発動。
俺の頭を両断しようと鋼鉄製の槍を縦に動かしつつ穂先を振るい落としてきた。
――速い。即座に<血道第三・開門>を意識――。
<
俺は前進しながら、短槍の上部を持ち上げて、そのアロモンドが繰り出した重い槍の刃を受け流す。
火花が散って火傷するが構わない。
相手も額から梵字の魔力を解放させていた。
ストロボめいた閃光を魔眼から発すると、素早く引いていた槍で<刺突>系の技を繰り出してくる。
それを屈んで避けるのと同時に短槍の後端の刃を持ち上げた――。
アロモンドの胴体を切ろうとしたが、斜め機動の槍によって俺の雷式ラ・ドオラは防がれた。が、防ぐだろうとは思っていた――。
俺は血を纏う速度を生かす。
背中に両手を回しながら雷式ラ・ドオラの持ち手を変える。
そのまま雷式ラ・ドオラの短槍を横から振るう。
短槍による回転連撃だ――。
アロモンドは魔眼を目まぐるしく回転させる。
彼の瞳から反射する赤い軌跡が幾つも見えた――。
俺の振るうごとに短槍が加速する勢いの回転連撃を捉えることは難しいだろう。
魔闘術の配分も途中で変えながら、短槍を一旋、二旋、と振るっていく――。
「イッ――」
黄色の穂先がアロモンドの頬を浅く削るが避けられた。
頬から耳が血濡れたアロモンドは僅かに後退。
俺はヴァンパイアとして追う――。
くるりくるりと舞うように前進する度に、雷式ラ・ドオラの穂先は加速する。
黄色い閃光が生まれた三旋目――。
アロモンドは防ぎきれず両手持ちだった魔槍が弾け飛ぶ。
体勢を崩したアロモンドは無防備だ。
これが止めだ――。
回転の力をゆるめず、さらに加速した俺は、雷式ラ・ドオラから雷鳴が轟くような黄色い閃光を生み出して前進した――。
アロモンドの横を、風を纏う速度で通り過ぎた――。アロモンドの姿は見えない。
背後から血が迸る音が聞こえてから、頭部が落ちた音も聞こえてきた。
風槍流オリジナル『風雅の舞・改』が決まった。
ヴァンパイアらしく、血を体に吸い寄せる。
……血を失っていたからちょうどいい……。
そこに隊長のソーグが歩み寄ってきた。
「……よくも戦神教の仲間をやってくれたな?」
「……人の心は面の如し」
俺はトン爺の受け売りの言葉を発して、短槍の雷式ラ・ドオラで風槍流の構えを取る。
今から退けとか、甘い言葉を話すつもりはない。
戦いに正義も悪もねぇからな……。
「ルグナドの魔界騎士か吸血鬼が、人の心を語るだと?」
相手が美人なら違ったかもだが、まさに、信条はそれぞれ違う。
「語る口と心があるんでね」
「……減らず口か。樹海支部を敵に回したことを後悔させてやる」
半身の体を斜めにずらす。
戦神教の隊長ソーグへと、左手を伸ばしつつ、その左の手のひらを晒した。
そして、くいっと手首を返して、
「ごたくはいいだろ?
語尾の言葉と同時に、左手の指先を手前にちょんちょんと動かして誘う。
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