四百一話 魔界騎士の戦いと安堵


 ◇◆◇◆


 槍使いと黒猫の光魔ルシヴァルの関係者が樹と破壊の血を持つ女王サーダインとそれらのグループと樹海で激闘を繰り広げている頃……樹海へと落下中の魔界騎士がいた。

 その魔界騎士の名はデルハウト。デルハウトは樹と衝突すると、樹を打ち倒し体格に見合う反動で跳ね返っては、向かいの樹の幹と衝突――。

 再び跳ね返っては他の樹の枝を折りつつ地面に落下し、地面と衝突。

 転がったところで、血を吐いたデルハウトは意識が回復した。

 愛用の紫色の魔槍もデルハウトに突き刺さる勢いで落ちてくる。

 デルハウトの頭部スレスレの地面に穂先が突き刺さり耳が千切れた。

 ツィィン――と、鼓膜が潰れる音が脳内を侵食する。

「ぐぐぐうあ――」

 愛用の魔槍グルキヌスは頭部に刺さったわけではないが、血を大量に吐くデルハウト。

 濃厚な魔素を含む体液と血を撒き散らし、苦しみの声を上げていた。

 デルハウトの鎧は大きく裂けている。鎧の損傷によって傷は一見酷いが聖槍アロステの<刺突>を受けた肩の傷はもう癒えかけていた。

「――ぶあぅぅぅ」

 デルハウトは大きな息を吐きながら体を震わせる。

 血を撒き散らすのを止めた。片膝で地面を突いて、頭を振る……。

 地面が揺らいだように感じたデルハウト――。

 再び自身が持つ愛用の魔槍を確認しつつ立ち上がる。

 異常なタフネス能力を持つデルハウトは槍使いとの戦いで敗れ去ったとはいえ……。

 魔蛾王の魔界騎士であり魔人武術の上位者。

 〝愚烈〟の位を超えて〝愚王〟の位を獲得している魔槍グルキヌスを操る強者でもある。

 そして、槍を扱う者しか認めないという噂と伝承がある魔界側の戦神こと闇神アーディンの加護、<武槍技>を獲得している。


 <魔槍技>とは別種の奥義が<武槍技>だ。


 更には王魔デンレガの秘宝を巡って狂乱の魔界剣士ハザンと互角に戦った強者。

 その魔界剣士ハザンとの激闘で<剣凪・速王>を体に喰らい、未知の皮膚病を発症したことによってデルハウトは<大王体>という回復系スキルを獲得していた。


 その<大王体>とは、魔精音波の精神波攻撃にも耐性があるスキル。

 この回復スキルは超一流の部類。

 嘗て槍使いと激闘を繰り広げた転移者ヨシユキ・タケバヤシが復讐の女神メラドから授かっていたエクストラスキル<天賦の身>には敵わないが、数々の回復スキルが融合し成長したスキルと同規模のスキルだ。そのお陰で、シュウヤの扱う精神と魔力と血を吸う魔槍杖バルドークが背中に突き刺さっても――<導想魔手歪な魔力の手>が握る聖槍アロステの一撃を体が裂ける勢いで喰らっても、<大王体>の効果でデルハウトは、命からがら回復を遂げた。


 魔界騎士デルハウトが信仰している闇神アーディンは闇神リヴォグラフと繋がりがある。

 リヴォグラフは魔剣を好むが、アーディンは魔槍を好む。その闇神アーディン。

 暴虐の王ボシアドと天魔鏡の大墓場で、互いの得物で数千合打ち合うことで有名だ。

 大墓場で、槍の技術を競い、殺し合いながら……。

 しまいには大墓場を越えて地獄の大平原へと向かう。

 そうして、彼らは悪神デサロビアの領域に侵入し、悪神デサロビアとも壮絶な戦いを繰り広げる。


 そのデサロビアと喧嘩をし、機嫌の悪い吸血神ルグナドからリヴォグラフとアーディンとボシアドは血弾を全身に浴び続けながらも戦いを止めようとしたキュルハに対しても攻撃。


 真新しい覇王樹を穿つアーディンとボシアド。

 アーディンとボシアドは互いに背中を合わせて共闘しながらルグナドとキュルハとデサロビアとリヴォグラフ戦い始めていく。

 

 そんな魔神大戦を嘲笑うかのごとく、十層地獄の王トトグディウスが特別な<魔想力>を使い、<悪魔の仙像手>を魔界の夜空へと召喚。

 その<悪魔の仙像手>を用いて、魔界を荒らすように争う神たちの魔力を吸い上げた。

 その魔力をもって自らの封印を解こうと、魔界に散らばる眷属たちへと吸収した魔力を振り撒く。

 さらにはアムシャビス族を懐かしむ三つ眼のメリアディが、<是光ノアムシャビス>を使いつつ血濡れた長杖を振るっては、翳すと、傷を負った神々の回復を促していく。

 

 こういった魔界の神同士の衝突は計り知れない衝撃を魔界に生み出す。


 神具を超える武具の破片が魔界の草原が続く大地に降り注ぐ。

 新たに魔鋼の大渓谷を作り出しては、元々あった傷場をも神話ミソロジー級の武具の欠片が侵食し、狭間ヴェイルの魔力と融合した結果……。


 新たな鋼を好む闇の眷属たちを生み出した。

 次元軸が近い惑星セラにも影響を与えているのだが……。


 魔界の神々セブドラホストたちはあまり気にしない。

 それもまた因果の流れ。


 そして、魔界騎士デルハウト。

 魔槍杖バルドークの精神汚染にも耐えたように、あまり戦闘中は動揺しない。

 が、シュウヤの闇技を見て驚いたことには理由があった。

 

『惑星セラの地上で活動する槍使いと黒猫が、闇神リヴォグラフ様か闇神アーディン様の加護や恩寵を獲得している可能性があるのか?』


 と考えたからだ。

 または、


『冥界の入り口が近いグリム谷の領主争いを経て魔界騎士から成り上がった闇神アスタロト様も、あの槍使いの武術を見たら好みそうだ』とも考えていた。

 

『いや、素直に闇の精霊ベルアードの加護かもしれない』


 そう考えたデルハウトは樹木に背中を預けて夜空を見る。

 清々しい表情を浮かべつつ……再び思考に入る。


 ……槍使いと黒き魔獣。

 まさに強者と強き魔獣であった。

 剣、槍、巨大魔獣と一体化した戦いの機動はまさに魔界騎士そのもの。

 樹海上空の乱戦時に……魔界の神々セブドラホストの使徒が、その眷属に連なる魔族の一部が槍使い側に加わっていたことにも当てはまるか。実際に魔界の神々セブドラホストも槍使いに注目していたようだ。

 時空の乱れを利用した悪神デサロビアの巨大な眼球の幻影が遥か上空に浮かんでいた。

 

「狂眼トグマや魔人武王ガンジスも、あのような強さなのだろうか。本当に見事だった……」


 こちらから乱暴に喧嘩を売ったが……。

 素直に手合わせをしてくれた槍使いを思うデルハウトは感謝していた。

 そのまま夜空を眺め続けていたデルハウトだったが……。

 

『報告をするか』と手首に備えた特殊な紐を引っ張った。

 紐は彼の手首の上に環状に展開されると、環の内側に薄い膜が拡がった。薄い緑色の膜はシュウヤの手首に嵌まっている戦闘用携帯型デバイスが映し出す立体ディスプレイのようだ。


 そして、シュウヤが持つ戦闘用デバイス及び戦闘用携帯型デバイスと呼ばれる物は惑星セラの物ではない。

 そんなディスプレイと似たデルハウトの魔道具。

 内実はまったく違う魔紐が作る丸型の膜だ。

 その膜に頭部を二つ持つ人型魔族が映る。

 一つは蛾の形をした骸骨兜の頭部。もう一つは舌と指で蛾を模る異物の頭部。

 幅が厚く盛た両肩は闇神リヴォグラフの七魔将の紫闇のサビードと似ていた。


「ゼバル様……」

「デルハウトか。貴重な魔次元の紐を使う連絡とは、他の魔界騎士が見えない理由か?」

「はい、エミリアは死に、シュヘリアは行方不明です」

「魔双剣のシュヘリアが行方知れずだと? あやつが死ぬところは想像できないが……相手は神界と繋がる強者か?」

「いえ、違うかと。俺とエミリアは黒き巨大魔獣に乗った槍使いに敗れました。他にもルグナドの尖兵を含めた魔界の神々セブドラホストの眷属たちと神界の勢力たちが入り乱れた乱戦が始まり……」


 蛾の形が、怒り顔を表現したように形を変える。


「お前たちはロシュメールの遺跡調査、湾岸都市テリアに巣くう吸血鬼ヴァルマスク家たちの掃除をする予定ではなかったのか?」

「……予定ではそうでした。しかし、ベンラック村の東に位置する樹海上空に新しい光の十字森が発生したかのような次元の裂け目が発生したのです。すぐに閉じたようですが」

「ベンラック村。神々の争いにより樹海に封じられた、または、地下世界に封じられていた旧神の類が復活を果たしたのか?」

「はい、旧神が復活した模様です。しかし、すぐに屠られたようです」

「……まことか」

「神殺しの閃光をハッキリと確認しました。そして、空に発生したと思われる次元の裂け目を確認しようと向かった先では……神界勢力と魔界勢力の争いだけでなく、魔族同士が互いに力を誇示するようにぶつかり合う乱戦が始まっていました。その激しい争いの中、ルグナドの尖兵たちとペルネーテで有名だった〝槍使い〟が接触。しかし、神界勢力側の勢いが強くなり、槍使いと接触していたルグナドの尖兵たちが神界勢力に攻撃を受け大規模な争いへと発展。神界側もルグナドの尖兵たちに集中し始めたところで、俺たちは、その槍使いと対峙して戦った結果、敗れました」


 デルハウトの魔蛾王ゼバルへの報告は続いた。

 そのあとゼバルから罵詈雑言の言葉を受けてから、「お前は帰ってこないでいい」と冷たく怒りを滲ませた口調で言われたあと、「使えん奴だ」から「くだらん戦いに参加しよって……二度と顔を見せるな」と、舌打ち音が響いてから魔次元の紐が一方的に消失。


 デルハウトは、茫然と、萎れた紐があった宙空を眺める。

 

 不思議と彼は落胆した表情を浮かべていない。

 忠誠を誓った主から放逐を受けても、平然としていた。

 そのタイミングで、不自然な魔素の気配を感じ取る。


 視線を自らが落ちた血溜まりとなっている場所へ向けた。


「濃厚な血の匂いだから見にきたが……」


 現れたのは黒髪の男。

 黒光りしている外套を着こむ。

 外套で覆った下半身のズボンは把握できないが、ラメ革の靴の先を覗かせている。


「何者だ」

「今は主にこの樹海で活動している血を好む者だ」

「……ヴァルマスク家か? 空で戦っていたルグナドの尖兵ではないようだが……」

「ちげぇ。こそこそと隠れるのが得意な一族と一緒にするな」

「外れ吸血鬼……しかも、その魔力操作の扱いは高祖級か」

「そうだよ。元ハルゼルマ家といえば納得か?」

「始祖の十二支族のパイロン家や古代狼族との争いで滅び去ったと聞いたが、生き残りがいたのか」

「まぁな? 放浪を重ねて、この憩いの樹海で活動中なのさ、餌が豊富だからな?」

「そうか。なら、俺も餌ということか。ん?」


 デルハウトは黒髪の外れ吸血鬼から樹海の奥に視線を向ける。

 そこから風を纏ったような速度で登場したのは古代狼族の大柄な男だった。


 地面の葉が舞う。

 古代狼族は爪鎧を身に着けている。

 その背後から、古代狼族の小隊メンバーたちが現れ始めた。


 勿論、シュウヤたちと一緒に暮らしているハイグリアたちではない。

 ハイグリアとダオンとリョクラインはキッシュたちの村に駐屯している。

 

「おぃおぃ、狼かよ。豹獣人セバーカと似ているんだよな」


 黒の貴公子がそう喋りながら愛用の覇王のシックルを外套の内側から取り出していた。

 彼は<血魔力>を意識。

 第二関門こと<血道第二・開門>の<血文王電>を発動しようか迷っていた。


 これは、俺も痛みを味わう……。

 槍使いに使おうと考えていたが、聖槍を持っているとは知らなかった。

 あんなのを喰らったら、血をどれだけ消費するってんだよ。

 <血文王電>を用いた回避には自信があるが……。


 危ない橋は渡らない。


 と、考えた黒の貴公子。


 彼の考える<血文王電>とは、彼が独自に編み出した<血道第三・開門>に通じる技。

 略して第三関門、その雷属性の血の文字が刃と化しつつ全身を覆う。

 攻防一体を成す吸血鬼ヴァンパイア専用の技だ。


 特に指先に<血文王電>を集結させて腕を雷刀のごとく突き出す電光石火の一撃は強烈無比な神話ミソロジー級の防具でさえ意味をなさない必殺の攻撃となる。


 彼が吸血鬼ヴァンパイアハンターから逃れ、逆に、狩り続けられる理由の一つだ。

 そして、このセラの世には、その<血文王電>を封じ込めた特異な秘奥魔石が存在している。

 が、黒の貴公子は知る由もない。


「古代狼族か。俺も不運だな、ムグがいない今となっては……」


 デルハウトはそう喋る。

 

 失った魔獣がいれば切り抜けることは可能と判断。

 

 が、今は彼が騎乗していた魔獣はいない。


 魔蛾王ゼバル様からは切り捨てられた。

 どうやら、ここが俺の最期の地か。

 愛用の魔槍を握る手に魔力を込めていく。

 

 しかし、この魔槍が手元に落ちてきたことには意味があるのかもしれない。

 

 そう、闇神アーディン様が、槍使いとの戦いを含めた生と死の戦いを祝福してくれたのだと。

 ……『もっと戦い魂を賭けて<武槍技>を使え! そして、我に魂を捧げろ』


 と、俺に訴えかけているのかもしれない。


 そう考えるデルハウト。

 

 すると、古代狼族の者たちが、


「我らの縄張りに吸血鬼と魔界の眷属が紛れ込むとは」

「ドルセル様。こいつらが魔神アラヌスの復活を目論む親玉ですか?」

「魔犬は連れていないが、確かに、あの不気味な屋敷からは近い……」


 樹海での経験が豊富な狼将ドルセル。

 と、貴重な血筋の師団長クラスの古代狼族の若者が警戒しながら語り合う。

 不気味な屋敷。それは、ベンラック村から少し離れた樹海の中に存在した。

 その不気味な屋敷は、死蝶人たちの縄張り以上に狭間ヴェイルが極端に薄い場所の中心地としてベンラック村で活動を続けている冒険者たちの中では有名だった。


 屋敷の周囲には、槍使いが倒したバーナビー・ゼ・クロイツが使役していた魔犬に近い種の普通には存在しないモンスターが大量に湧いている。

 樹怪王が率いる軍勢も、多頭を持つ犬型魔獣フェデラオスの亜種を警戒し、その屋敷の周囲にはあまり近づくことはない。


 そこから数分後……。

 頭上から神界戦士アーバーグードローブ・ブーが下りてくるのだが……。


 彼らの命をかけたバトルロイヤルの戦いは、今のシュウヤたちが知ることはない。



 ◇◆◇◆



 サーダインが消えた真下の根から、サーダインの特異な魔力を感じ取る。

 だが、それは一瞬で消えた。

 そして、台風を纏うかのような形の穂先に進化した魔槍杖バルドークを見た。


 ――お前はどこまで進化するんだ?


 魔槍杖バルドークは何も答えない。

 <紅蓮嵐穿>を獲得した余韻のような耳鳴りが響く中……。


 ヘルメが左目に戻るのを感じた。

 すると、神獣ロロディーヌが、


「にゃごぁぁぁ」


 女王を倒したお祝い? 炎を吹いた。続いて、


「俺様も暴れるぜぇ! <フォカレの愚火槍>」


 闇鯨ロターゼもロロディーヌの火炎を浴びないように遠距離から火を纏ったイッカク角を振り回して樹の魔族たちを攻撃。


 <紅蓮嵐穿>の強烈な魔力嵐を喰らい吹き飛んでいた女王サーダインの幹部たちは……。

 消失したか、蒸発したか、分からないが、姿を消している。

 その幹部たちが吹き飛ばされた樹海の森を消失させるように――。

 神獣ロロの火炎が湖畔の樹木地帯を焼き尽くす。


 残っていた樹の魔族たちはあっという間に全滅した。

 辺りは完全に静まり帰る。

 焼き畑農業ではないが、燻った臭いを感じながら、魔槍杖バルドークを肩に置いた。

 掌握察を用いて、周囲を確認。

『閣下、かなりの魔力を消費したはずです。念のため、わたしの魔力をお吸いになってください』

『ありがとう。<瞑想>するから大丈夫だ』

『はい。その魔槍杖バルドークは、どこまで進化を……まさか壊槍グラドパルス的に?』

『<闇穿・魔壊槍>か。どうだろう。ありえるか?』

 と念話をしていると、

「槍使い、倒したのねー。ありがとうー」

「礼を言うぞぉぉぉ」

「でも、左長には報告しちゃうから、ごめんねー」

 撤退していた【樹海狩り】のメンバーたちの声が遠くから聞こえてきた。

 彼らに追われることになるのかな。

 ま、美人さんは大歓迎だ。

 イケメンと渋い二槍使いからも学べることは大いにありそう。

 そこで、レベッカに向けて血文字を書く。

『レベッカ、こちらは粗方片付いた。少ししたらそちらに向かう』

『了解。夜が明けて、空が騒がしかったけど……詳しくは、あとでゆーーっくりと聞かせてもらうから』


 血文字だが、冷や汗を掻いた。


「シュウヤ、大丈夫? あ、ぼあぼあ嵐が凄かった!」

「魔槍杖バルドークの必殺の技とお見受けしましたが……素晴らしい一撃です」

「この魔槍杖らしい強烈な一撃。ただ、魔力と精神が削られていく感覚も強烈だった。<仙魔術>の胃が捻じられる感覚とはまた違う」


 と語り、美人な二人に笑みを返す。


「シュウヤ様専用、ある程度のリスクを伴うと……しかし、印象深い一撃です」

「古竜のような魔力の鱗が凄く綺麗だった。邪獣も見えたけど」


 エヴァは紫の瞳を斜め上に向けていた。

 魔槍杖から発せられた魔力嵐を思い出しているんだろう。


 魔槍杖バルドークを握りながらも、その魔力嵐の一部は見えていた。

 攻撃することに精神を集中させていたから、注視はできなかったが、

 

「……二人とも緊急時に、よく連携して戦ってくれた」

「ん、〝いつものことだ〟」


 エヴァは俺の真似をして唇から小さい舌を出し、微笑む。

 トンファーを出して<刺突>の真似をしていた。

 腕を前後させ腰が少し妖艶に動いて隠れおっぱいが揺れる、魔導車椅子を行き来させながら、風を孕むトンファーが黒い軌跡を宙に生む。


 ふあっと前髪が揺れていた、良い匂いも漂ってくる。

 そのエヴァに、


「もしかして、<刺突>を獲得した?」

「ん、この間、大草原での狩りで<正刺突>というのを獲得した」


 道理で真似というか、トンファーを生かす素晴らしい技に進化していた訳だ。


「わたしも、天魔女流の<乱突>――」


 エヴァに嫉妬したキサラがおっぱいを揺らしながら見事な突き技を見せてくれた。


「ん、槍を手前に引く速度が速い! 八槍神王位? リコよりも鋭そう」


 トンファーをしまったエヴァが拍手しながらキサラの槍武術を褒めていた。


「神王位? 聞きしに勝ると言われる神級たちのことでしょうか。わたしはそのような偉大な武人ではないです。しかし天魔女流を認めてくれたことは嬉しい。高手たちも喜んでくれるはず。ありがとうエヴァさん。それと、大草原というと……」

「迷宮都市ペルネーテの周囲にオセベリア大草原という地名がある。最近は迷宮に潜らないで、リリィのパーティーメンバーとの食材狩りとお手玉の訓練をがんばってた」


 キサラに南マハハイム地方の説明をするエヴァの仕草がいちいち可愛い。

 さて、


「……二人とも積もる話はあとだ。ロロが珍しくサナさん&ヒナさんになついているようだし、合流しよう。レベッカたちの下にも向かわないと、リンゴ畑の件もある」

「ん、レベッカ、植物と破壊? の女王サーダインを見られなかったから、怒るかも」

「だなぁ、そこはエヴァさんの出番ですよ」

「ん、がんばる」


 天使の微笑を浮かべるエヴァ。

 今日はエヴァが大活躍だ。

 ビジネスジェット機を運んでくれたし。


 あとで時間があれば肩でも揉んであげるか。

 金属疲労ではないが、骨足もマッサージしてあげたい。

 

 そんな安堵タイムを満喫できればいいな、キゼレグの銀箱も回収しよう。

 死蝶人のシェイルも気になるし、レベッカたちの下に戻る。


『閣下、ここに畑を作ってお水をぴゅっぴゅしたいです』

『それは今度な?』


 視界に浮かぶ小型ヘルメにそう念話をしてから、女魔界騎士も忘れずに運ぶ。

 

 サナさん&ヒナさんと合流。

 沸騎士たちが「閣下ァァ」と抱き付く勢いなのでスルー。

 

 ヒナさんはどうやら、猫用の餌を持っていたようだ。

 コンパクトな入れ物に鳥のササミが入っているのを確認。

 猫の餌を携帯しているとは、相当な猫好きと判断した。


 やりおる。


『閣下、あのヒナはなかなかに知恵が回るようですね』

『ロロの餌付けか?』

『はい、神獣ロロ様が味方となれば、万の兵を得たのと同じことですから』


 確かに、万というか、普通の一般兵だとしたら何十万だろうな。

 スキルやら魔法があるから簡単にはいかないと思うが、そして、神獣だから小さいササミを食べるという感じはしないが……。

 が、ヒナさんの前で腹を見せるゴロニャンコ。


「んじゃ、ロロ、起きろ」


 瞬時に起き上がるロロディーヌ。

 颯爽と後頭部へと向けて跳躍した。


「ンン――」


 相棒の可愛い喉声が響く。黒毛と触手が出迎えてくれた。

 

「皆も、ロロに乗ってくれ。飛行機の機体は後回しだ。今は合流を急ぐ」

「俺様も乗っていいのか? ぐぁ」


 キサラから肘打撃のツッコミを受けるロターゼ、痛そうだが、コミュニケーションだと分かる。

 俺の首に付着している触手手綱が反応しているから相棒がロターゼにツッコミを入れたがっていることは感覚からも分かっていたが、黙っていた。


「いつもそうなのですか?」

「稀人の女。懐かしい言葉を聞かせてくれるじゃないか。そう、俺様はいつもツッコミを受けている。タフだからな?」


 サナさんに対して真面目顔を作って語る闇鯨ロターゼの姿は何かシュールだった。


「さぁ、リンゴ畑に戻って、村の皆に報告だ」

「にゃおお~」


 神獣ロロディーヌはゆっくりとした速度で移動を開始した。

 ロターゼが遅れてついてくる。 

 空を飛ぶロロがロターゼの放屁を見たくて後退しようとしたが、阻止した。

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