三百九十六話 力を持つ者たち

 甲冑は漆色が目立つ武者姿となった。

 とりあえず、戦闘態勢は解いたようだし、無難に挨拶かな。


「やぁ、こんばんは」

「わたしたちを誘拐なんて……貴方どこの組織の者かしら? 一角機関? 帝国作戦群? 対外だと、EFSB? NCIA? MI6? 対12グローバルソーサラーあたりかしら」


 誘拐か……。

 一角機関と帝国作戦群は俺の知る日本に近いネーミング。

 対十二なんたらは「12モンキーズ」か? 違うか。


「いや、所属はしてない。だが、君たちの世界情勢に興味はある。MI6はイギリスの諜報機関だよな? NCIAとはアメリカ系の情報機関かな。違う地球は地形が変わっていたりするのだろうか」


 この分だと放射能塗れのfalloutが酷いパラレル日本とかありそうだな。


「……素直に喋るつもりはなさそうね。ここは、気候からしてパプアニューギニアとか?」


 やはり、そうなるか。

 丁寧に話をしたところで、無駄かな。

 ま、ざっくばらんに説明するか。


「日本語が理解できる俺がいて良かったな? 正直に話すからよく聞いておけ。ここは〝異世界〟であって日本じゃない。貴女たちが乗っていた旅客機が空に現れたから救いに動いた。その場に強く信頼できる仲間がいなかったら、正直、君たちは全員死んでいただろう」

「え?」

「地名は樹海。その奥地。地形が複雑だから俯瞰しないと把握が難しいが、ベンラック村が左だ。ペルネーテも左、右上に城塞都市ヘカトレイルがある、キッシュの村が近くだ」


 と、理解はできないと思う説明を早口でした。


 第一印象は黒髪ストレートが似合うお嬢様という印象。

 頭は良さそう。

 女の子といっても女子高生ぐらいかもしれないが。


「……君たちのふらついた旅客機を空で視界に捉えた時、君たちの機体を狙うような位置に戦闘機も居たが、追われていたのか?」

「追跡を受けて追い払おう命令を出そうとしたら、強烈な光を浴びたところだったの」


 そうか。

 ヘッドマウントディスプレイ型のヘルメットをかぶったパイロットもびっくりしただろうな。


「その戦闘機はモンスターと衝突し爆発して散ったよ。ビジネスジェット機らしき機体の方は仲間のエヴァが救った。今、湖の周りでキャンプの手伝いをしてくれている黒髪の子がそうだ。そして、旅客機の上部はあそこに居る相棒の神獣ロロディーヌが運んだ。君たちが乗っていた旅客機の後部機体は、もう粉々だろう」

「え、貴方は空を飛べるということ?」

「そうなる。当時、開いたタラップから内部に突入した俺は、亜神ゴルゴンチュラと半透明の武者が戦っている最中に、隣で寝ている子を助けた。それから、旅客機の外に飛び出た死ぬ直前だった君を救ったんだ。だから、誘拐犯じゃない。理解できたか?」

「……えっと……うん」

「んあァ~。あれ、ここは……」


 悲鳴を上げるように起きた眼鏡娘。


「こんばんは」

「あ、あ、こんばんは!」


 と、律儀に頭を下げてくる。


「どうも、君には名乗ったが、もう一度。俺の名前はシュウヤ・カガリ。日本でいうとカガリ・シュウヤか。因みに何度もいうが、ここは君たちが知る世界ではない――」


 そのタイミングで、相棒の神獣ロロディーヌを見ながら、


「相棒の姿を見てくれたら納得すると思う

「ン、にゃ」


 話を聞いていた神獣ロロディーヌがふさふさした長耳をぴくぴくと動かし反応。

 そして、俺のほうに頭部を向けると駆け寄ってくる。


「ンン、にゃ~」


 黒き神獣こと逞しい四肢の動き。

 黒豹のしなやかさと、黒馬のような美しさ、黒獅子のように凛々しい姿を併せ持つ。


 周りがざわめくのも当然。

 首元から生やした触手群が決定的だろうな。


「ンン、にゃぁぁ~」


 群の触手のうち二つの黒触手の先端をくるくる回転させつつ俺の隣に来る。


「ひぃぃ」

「又兵衛ぇぇ!」


 驚いた二人。

 長髪の子は甲冑武者の名前を呼んで戦闘態勢を敷かせてきた。

 

 又兵衛は瞬時に半透明の姿へ戻ると、片手持ちの十文字槍を横回転。

 女の子を守るように一歩、二歩、前に出る。


 体勢を斜めにしながら、槍の穂先を下から突きやすいように構えている。

 黒髪の女の子は管狐のマークが目立つ腕輪を装着している腕を上げていた。


「にゃ?」

「ロロを見て驚いているんだよ」

「ンン」


 喉声を鳴らし紅色と黒色が織りなす瞳を半透明の武者に向けた。

 両前足の先から出た四つか五つはある鋭い爪が朽ちた地面の根っこを削る。


 破砕した木屑が舞った。

 女子高生のような二人を見て、


「君たち。俺たちは攻撃をしてないだろう? というか流れ的に分からないか?」

「……」


 二人とも黙ってままか。

 神獣の姿だと脅しに見えるか。


「ロロ、向こう側で、焚火を見てきていいぞ」

「にゃ~」

「ロロちゃん、こっち~アイテムボックスから違うお肉だすから」


 エヴァが呼んでいた。

 肉のご馳走を食べたあとはエヴァの膝枕かな。

 それとも神獣ロロのフサフサな頭の枕でエヴァが寝るってこともあるか。


 と、相棒とエヴァの様子を想像してから、助けた二人を見る。


「さて、誤解は解けたかな」

「……」


「あ、あの。わたし覚えています。シュウヤさんに救われたことを。あ、名前はヒナと申します。命の恩人です。ありがとう」


 眼鏡娘がヒナさんか。


「ヒナさん。助かって良かった。そっちの疑り深いお嬢様も宜しく頼む。そして、その武者又兵衛が暴れるのは勝手だが、仲間と神獣に手を出したら――」


 警戒していた侍に向けて<鎖>を伸ばす。

 半透明の侍は予測通りに素早い反応を示す。


 目の前に迫った<鎖>の先端を十文字の穂先で右辺へ弾いた――。

 <鎖>は蛇が宙を泳ぐようにしなりつつ外軌道へと向かった。


 その弾かれた<鎖>を強引に横へ動かす――。

 半透明の侍を囲うように背後へ<鎖>を操作した。

 そして、木の根ごと半透明な侍をぐるりと<鎖>で巻き付けていく。


 直角の動きには頗る強いが横からの連鎖した物には対処が難しいようだ。

 守るという性質上、仕方のないことだが弱点を利用させてもらった。


「……こういったように容赦はしない。それ相応の覚悟を持って行動しろ」

「え、こんなことが……爪牙の臣。御守様の又兵衛がこうもあっさりと」

「じゃ――」


 拘束する気は、さらさらない――。

 <鎖>は消去。

 翻して、ロロディーヌが用意したガサツな肉パーティの場所に向かう。



 ◇◆◇◆



「サナ様……」

「ヒナ。貴女は信じているの?」

「はい。現実は現実……この状況です。サナ様が回収に費用を投じた銀の棺桶もあそこに……」

「……そうね。どう考えてもここは……はぁ、もう御守様は仕舞うわ」


 溜息を吐いたサナは警戒させていた又兵衛を解く。

 手首の管狐模様が音を鳴らし僅かな光を発しては、十本の指爪も点滅を繰り返していた。


 爪先模様は十二名家特有の文様が浮かんでいる。

 音なし又兵衛こと、半透明な武者は霧状となって、サナの爪の内部に納まった。


 その行為を羨まし気に見つける丸眼鏡のヒナ。


「はい。人跡未踏の秘境を思わせる環境。わたしたちの乗っていた飛行機の残骸。助かった方々……巨大な神獣といい、ここは絶対に東日本ではない」

「小笠原諸島、噴火して新しくできた大陸……」

「太平洋のどこか? ない、ですね」


 サナに対して、手で押さえた丸眼鏡越しに鋭い視線で語るヒナ。

 彼女の額は小さい。

 が、おかっぱ系の髪型が似合う可愛らしい少女だ。

 

 サナとヒナは視線を合わせて、微笑むと、互いに夜空を見た。


「月が、二つ。しかも、残骸の月とは……ハハッ」


 綺麗な残骸の月と小さい月の二つの月光が織りなす夜空は美しい。

 だが、サナにとっては、美しい二つの月と星々が作る惑星セラの夜空は恐怖に思えた。

 

 現実がじわじわと覆いかぶさる。

 虚構と思えない世界がサナの知る世界を壊していた。


「サナ様、大丈夫ですか……」


 ヒナはサナの表情から恐怖を感じていると察した。

 長年連れ添ってきた間柄だけにヒナは敏感に感じ取る。


「……ヒナは強いのね。ここ、彼が語っていたように異世界なのよ? 十二名家のない。軍部教練のない……あ、戦争もない? 暗殺一家のマクファデーもいない?」


 サナは希望を見出そうと言葉を続けていたが、


「そうですね。父も母も……」


 ヒナの表情を落としながらの、そう小さい言葉を耳にした途端、


「あ……」


 サナはハッと表情を浮かべる。

 そこで、自分自身も初めて失った存在に気付くことができた。


 十二名家。

 躾が厳しく親という親の存在はただの教官でしかない存在だが、兄という優しい家族がいたことを。


「ご、ごめなんさい。ヒナ……」

「大丈夫です。サナ様が傍にいます」

「わたしも、この環境で知ってる人がいない状況を想像したら……だから、ヒナが傍にいてくれて本当に良かったと思ってるんだから」


 ヒナがいなかったら、もっと途方に暮れていたのは確実ね……。

 と、サナは本当にそう思いながら丸眼鏡が似合うヒナに語り掛けていた。


「ありがとうございます」

「もうここでは十二名家は関係ない。家系がどうとかの柵もない。昔のように友達よ」

「はい。あ、うん」

「ふふ!」


 サナとヒナは寄り添いながら皆が集まっている焚火の場所を眺めていた。

 

 二人は、シュウヤが見ず知らずの人々に対して、誰一人隔てることなく状況を説明していく様子を見て……悪い人ではなさそうだと心に思っていた。


 そして、数刻が過ぎた頃。


「あ、黒猫ちゃん」


 そう、二人の前に現れたのはロロディーヌ。

 焼き魚を咥えた黒猫の姿バージョンだ。

 

 そこに顎髭を生やしたシュウヤが、顎をぽりぽりと掻きながら現れる。


 本人的にはカルードの影響を受けたとか、ダンディズムを久しぶりに意識してみたとか考えている。



 ◇◆◇◆



「よ、お嬢さんたち、落ち着いたか?」

「ン、にゃぁ~」

「ロロも何も食ってないお前たちのことが心配らしい。珍しく口に咥えている」


 といっても、猫は猫。

 咥えていた焼き魚を地面に落とした。

 

 落ちた焼き魚を再び咥えて彼女たちの足下へと運ぶことはしてないので、何がしたいのかいまいち分からないが。


「あ、ありがとう。でもお腹は――」


 くぅぅぅ~んと、お腹の音が鳴る。


「はは、腹は正直だな?」

「二人ともこっちに来たらいい、ほら――」


 手を差し伸べる。

 この俺の行動に、ヒナともう一人の女の子は頷く。


「紹介が遅れたわね。わたしの名はサナ。宜しく命の恩人さん」

「ありがとう」


 サナとヒナの女の子らしい手を握る。

 そのまま細い腕を引っ張っては、紳士的にエヴァが料理を振舞っている焚火の側に案内した。



 ◇◇◇◇


 皆、寝静まる。

 焚火の残り火から音が響いた。


 俺も休むかな。

 はは、戦いより喋ってる方が疲れを感じた。

 戦闘狂ここに極まれり、俺も俺だな。


「にゃ」


 背後からロロの声が響く。

 振り向くと、焚火の側でぷっくらと膨れた内腹を見せる態勢で横たわっていた黒豹姿のロロが居た。

 

 ピンクの乳首ちゃんを見せながら、『おっぱい吸うニャ?』とか語るように目を細めて俺を見ていた。

 まったく、可愛んだよ!


「ん、ロロちゃん。ここの湖に棲む魚を捕まえるの上手」


 となりには魔導車椅子状態のエヴァも居る。

 足には毛布が掛かっていた。

 初めて迷宮内で会った時もこんな感じだったことを思い出した。


 俺もエヴァとロロの隣に移動して、根っこの椅子に座る。


「そうだな、エヴァも料理をありがと」


 ロロの片足の裏をマッサージしながらエヴァに話をした。


「美味しかった?」

「そりゃ、不味いとはいえないだろ?」

「ん……」


 少し、悪戯しちゃった。


「はは、冗談だよ。凄く美味かった、ピリッとした辛さがいい味の、メリハリの利く肉の蒸し料理」

「うん。ローストした肉はあらかじめアイテムボックスに入れてあるから、簡単」

「あ、大草原の?」


 黒豹ロロは、俺のマッサージしていた手を引っ込める。

 自身の頭部をその足裏で擦るように洗い出した。


「そう。石蹴り大鳥、強い上に大量に居るからディーの店で大人気料理の一つになった。けど、ヘルゼイカの大鳥のような高級の肉料理には敵わないとディーは言ってた」

「その名前はどっかで聞いた覚えがある」

「晩餐会では定番らしいから、その時かもしれない」


 へぇ、貴族御用達か。

 あ、思い出した。晩餐会といえば、色々と女侯爵から説明を受けていたっけ。


「当たりだ。シャルドネから紹介された料理にあったよ。思い出した」

「ん……」

「ん? どうした?」

「わたしも思い出した。シュウヤの血を吸ってない」

「はは、そんなことか。ほらッ」


 <血道第一・開門>を意識。

 手首から血を出して、エヴァの口元に運ぶ。


「ありがと――」


 エヴァは頬を染めて、あーんと小さい唇を開けていた。

 可愛い。手首を小さい唇に近づけながら、俺は血を操作。

 ――エヴァの口の中へと入れる。

 彼女の口の中に血が入った瞬間、何かエロさを感じた。


「……」


 エヴァの瞳が紅色に染まる。

 目元の周りも筋が走り、ヴァンパイアとしての表情を見せていた。


「ん、ぷぁッ」


 かなりエヴァが俺の血を吸ったところで手を放す。


「吸い込み速度が上がったような気が」

「そう? お手玉の修行頑張ってるから、成長しているのかもしれない」


 サージロンの球か。

 確か、魔力操作の効率が上がる効果とかあったはず。

 他にも副次的に上がっていると予想。


「んじゃ、エヴァに全部の体液を吸われちゃう前に、少し休憩」

「ふふ、レベッカが居たら、何か言いそう」

「あはは、確かに」


 そう笑いながらエヴァとロロが休む場所から離れた。

 湖面の側を歩いていく。

 湖面の上は激闘があった場所とは思えないぐらい静かだ。


『――閣下、亜神ゴルゴンチュラの卵石はどうされるのですか?』


 左目に宿るヘルメが聞いていた。

 姿は勿論、小型の妖精バージョンだ。

 水曜日はスイスイというように平泳ぎしながら聞いてくる。


『秘密だ。それより上空の風の流れがおかしい』

『あ、本当です。閣下の中が気持ちよくて、外に気を向けてませんでした』

『俺も今気付いたぐらいだ。気にするな……』


 と、夜空を見る。

 もう深夜は回った時間帯。


 ツーンと、この感覚……決してアイスの食べ過ぎじゃない。

 首から痛み……。

 空から敵か?

 ヴァーミナが悪夢を俺に見させているいるわけじゃない。

 

 使徒関係が、実際のセラ世界に来たのか?

 

 一応、皆が寝てる場所の後方の森にも気を配るか。


『エヴァ、上を見てくる。下はロロディーヌと共に頼む』

『了解』


 空気の流れがおかしくなっている元凶はすぐに分かった。

 闇の半身を展開させているホフマンが浮いていた。

 

 右に巨大棺桶。

 表面の芸術性の高い絵柄は変わらない。

 三人の騎士らしき姿が映っている。


 近くには赤黒い巨大頭部が浮いていた。

 左に、斧腕群と上半身が魚怪人で下半身が蛇の怪物も浮いている。


「よう、俺に何か用か?」


 と、聞いたが、死蝶人のことだろうとは予想がついた。


「死蝶人を生み出した亜神ゴルゴンチュラの復活かと思いきや、いきなり消滅ですからね。それを難なくやり遂げた槍使いと直に挨拶――」


 突然、光り輝く環がホフマンの胴体を捉え真っ二つに。

 瞬時に半身の闇世界と切断した部分が繋がったので意味はなさそうだ。


「高位吸血鬼、抹殺対象。神界戦士ジェンガ・ブーが参る!」

「ホフマン様を守れ――」


 突如として、怪人軍団VS環人軍団の乱戦が始まった。

 神界戦士は他にも居た。

 それぞれ、デルタバード・ブーとか、なんたらブーと名乗り出ては怪物たちと衝突。


 黄金環が頭部に生えた神界戦士か。


 俺の知るアーバーグードローブ・ブーの姿はなかった。

 しかし、背中の一対の黒き大翼もブーと変わらない。

 顔の中心に丸穴が空いている奇天烈な顔も変わらないな……。


 名前だけか。


「――神界戦士が標的を変えた! ルグナドの尖兵と戦っておるぞ!」


 そこから見たことのない巨大黒馬に跨った騎士が登場した。

 魔壊槍とは違うが、魔槍を持った奴だ。

 さらに、


「へぇ、あれが槍使いね」

「まってよ。神殺しよ。安易な接触は……」

「あら、魔界騎士シュヘリアさん? 主様の命令をお忘れですか?」


 なんだか、わらわらと……。

 魔槍に魔剣に……力を持つ者たちか。

 魔界騎士なのか? 分からない。


「これだから、嫌なんだ、ヴァーちゃんになんと報告したらいいんだ」


 あ、こいつは知ってる巨漢黒兎。

 俺の首筋マーク<夢闇祝>の反応元はこいつか。


 他にも厳ついキャタピラーの魔族さんも居る。

 つうか、闇の勢力の一部が集結しているのか?


「何だが、おもしれぇな――」


 あ、時獏じゃないか!

 あっちこっちに知っているのが居たが、ムカデの冠を頭に生やした怪物と戦いを始めていた。


『お鼻ちゃんから、ピュッピュしてます!』


 この状況を魔侯爵アドゥムブラリに聞こうとかと思ったら、地上でレベッカのところだった。

 波群瓢箪も仲間のところに置いたままだ。


 乱戦中だが、沸騎士を呼ぶか。その場合はロロを上に展開しないと。

 下はエヴァとあの半透明な武者だけになるが……。

 まぁ現時点では、下から魔素の気配はない。

 

 沸騎士たちが空を飛べればなぁ。

 ま、仕方ない。


「シュウヤ殿も大変ですな」


 突然話しかけてきた背が高い骸骨のオッサン。

 いや、黒マントの髑髏の杖を持った魔術師だ。

 こいつはシキのとこに居た。


「えぇ、ところであなたは」

「あぁ――はい、忘れてしまいましたかな。名はハゼス。闇の教団ハデスとは関係はないで、あしからず」 


 黒マントの髑髏魔術師は、片手で持った杖を振るい、身に迫った岩礫を粉砕しながら喋っていた。


 こりゃ、ロロディーヌを呼んでおいた方がいいな。


『――エヴァ、ロロを上に呼ぶが構わないか?』

『大丈夫。それよりも、わたしも上に行った方が』

『いや、皆になにかあると気まずい』

『承知』


 ということで、


「ハゼスさん、少し外れるよ」

「さようですか……主からの言付けが」


 今の状況じゃ無理だ。


「ロロ――来い!」

「にゃごぁぁ~」


 スパイラルしながら爆速で突進してくる。


 魔界騎士らしき女たちと男騎士も近づいてくることはなかった。

 というか、ホフマンとは違うグループは確実か。


 神界の戦士との戦いに参加しようとしないし。


『閣下、ここは分離しておきますか?』

『迷いどころだ……もう少し様子を見る』


 と、考えながらも分離して戦うことになりそうだと、予感はある……。

 新しい仙魔術の出番かな。


 白炎で夜空に花火でも作るか。


 ま……奥の手だな。

 <鎖>を基本として<サラテンの秘術>を用意だ。

 

 そう思考しながら神獣ロロディーヌの背中に飛び乗った。


「ンン――」


 ロロディーヌが巨大な触手骨剣を振るい蝙蝠型魔族を粉砕。

 そんな旋回中、状況を把握。


 神界勢力と魔界勢力の一部の争いが激しい。

 いや、この場合は魔界勢力と呼べるのか?


「――信仰が分からぬ神界勢力が! 纏めて糧にしてくれる! <ヴァルプルギスの夜>は絶対無敵!」


 ホフマン勢力と神界勢力の戦争が激しくなっている。


 他の魔界の奴らも互いに争いを始めていた。

 訳が分からない。

 

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