三百四十一話 死蝶人VS<筆頭従者>ホフマン
神獣ロロディーヌはハイグリアが乗った状態でも速度を緩めない。
古代狼族としての身体能力と魔力が並ではないことを感じ取っている?
相棒のことだからハイグリアの匂いが気に入っただけかな。
それか、
『たのしいニャ~』
『あそぶニャ~』
といった単純な思考かもしれないが、
神獣らしい四肢の動きだ。俺の鼓動に合わせたように、両前足が左、右と、リズムよく交互に前へ出ると鋭い前爪で大岩を削り踏む。
後脚で大岩を蹴り、その大岩を見事に粉砕!
そのまま勢いよく直進した。更に、斜め上に突き出たサーフィン板のような太い樹木を前足で踏む。揃えるように出たであろう後脚で、その太い樹木をへし折りつつ血鎖の方向へと勢いよく跳ねて移動――衝撃と機動が凄まじい。ハイグリアが小声で「きゃ」とかわいい声を出す。
同時に俺の腰に回していた彼女の手が少し震えた。
俺は『大丈夫だぞ』と意思を込めてハイグリアの手の上に掌を重ねてあげた。銀色の体毛は柔らかくて気持ちいい。
「……ありがとう」
ハイグリアに返事はしないが、ハイグリアの手をギュッと握る。
ハイグリアは僅かに声を発したが、気にせず、難所を軽やかな機動で移動していく途中、相棒が、前足を揃えて地面に爪を食い込ませながらの急ストップ。神獣ロロディーヌの好きそうな昆虫がいたようだ、姿勢を低くして腹を地面に付けていた。
鼻息を荒くした相棒は、俺たちを乗せたまま匍匐前進を行うように左に傾いている樹にだるまさんが転んだの遊びを行うように徐々に前に進む。
「ふふ、神獣様が興奮しているのだな」
「あぁ」
とハイグリアと俺は少し笑う。そして、
「虫が前に! おっ!」
と言うと
その動きから桃色の豹が主役のアニメーションの時に流れだす有名な曲を思い出した。
そんな相棒の横っ腹を踵で優しくコツンと叩く。
そして、後頭部の体毛を梳いて地肌を撫でながら、
「ロロ、ノッたが、遊びはここまでだ、今は遊ばない」
「ンン」
と神獣ロロディーヌは昆虫を無視して樹を蹴って先を進んでくれた。
やがて、二つの大きな崖に挟まれた間から龍の爪のような岩窟が見えてきた。ロロディーヌは走りながらも馬に似た頭部を左右に揺らしながら状況を把握してしくと、胸の獅子のような毛を縦に揺らしながら四肢の動きを止めて動きを止めた。<血鎖探訪>の先端は岩窟を差す。
滴る血も方向を差すように消えていた。岩窟は大きい……目的地はあそこだ。その岩窟の上には村がある。天然の要害を利用した作りか。
急な崖に沿って並び建つ小屋と木組みの見張り台が見えた。
人が見えない不気味だ。ホフマンの一党がいる場所だろうし、当然か。
辺鄙な村というより秘境かもしれない。崖にある狭い階段を使って下と行き来していると分かるが不便そうな印象だ。そういえばゴルディーバの里も崖の上にあった。すると、俺の腰に両手を回していたハイグリアが、
「ここが目的地か?」
と、俺の背中越しに聞いてくる。
「そのようだが……」
ハイグリアの吐息を背中に感じつつ――。
崖下の出入り口付近を見た。え? 戦いが起きている?
「
「あ……あれは……」
ハイグリアは
ハイグリアは怯えている?
「死……」と、声音を震わせて呟く。
何の冠詞か聞き取れないが表情から推測すると、蝶々の女怪人は死を予感させるほどの危険な相手ということか。そんな蝶々の女怪人と戦う
試験管の中には液体だけでなく燐光を放つ小型蟲が無数に入っていた。
蟲は魔素を大量に内包している。小型蟲が口から吐き出した細かな銀粒子は綺麗だ。スノードームの中で舞う雪のように見えて美しい。
拳と試験管に連動している十本の指先から十本の黒色の剣が爪のように伸びている。どの指先も長剣の大きさで、黒色の波紋が綺麗だったが表面に……天禽、天衝、月喰、天剣、傷門、天柱、紫門、驚門、二黒、蛇剣と十個の漢字に似た文字が浮かんでいた。
西洋の出で立ちと相反した武器。黒色の爪剣だから、黒爪剣と呼べるか。禍々しい呪符甲骨文字的な特殊な異体文字とは……更に数本の剣の表面には、油膜に似た魔力の膜が展開し、一瞬で、その油膜に火が引火したように剣身が燃え上がった。燃えた剣身の間から覗く渋い目がカッコイイ。あの
だとしたら蝶々の女怪人といい、あの漢字系の能力といいただ者ではないだろう。そこから推測される
漢字が浮かぶ黒剣爪はイモリザを彷彿とさせる。が、イモちゃんの爪より太く短い。十本の黒剣一つ一つの動きを見て、一瞬、「シザーハンズ」の主人公の姿を思い出す。あの映画をもう一度見たい。
昔、ポップコーンを片手に映画をよく楽しんだ。
が、あの主人公の心境ではないが、切なくなった。
そんな黒爪剣を巧みに操る
突きと払いといった流れるような剣のモーション。
黒く燃える剣爪が混ざる特殊な斬剣を幾つも繰り出す。
それは絶倫の太刀の技をひしめかせる勢いだ。
その黒爪剣の捌きだけでなく、その歩法も見事。
時折、<血魔力>系スキルの加速技を用いたのか、血色の斑点と幻影を足下に作り出しつつ前傾姿勢で突進したと思ったら――宙に跳ねる軌道から連続した蹴りも繰り出す。
両手の黒爪剣を活かす蹴り技と、膝と肘の打撃から血の礫をマントから飛ばす。嗤いながら素早い機動で躍動する。絶剣流、飛剣流、など、我流を織り交ぜた剣術を繰り出しているのだろう。しかし、白色の蛾か蝶の女怪人も嗤い、蝶々だけに軽々としたダンスを披露するように戦う。
上下に体が別れた
大きな鎌の刃によって切断されたマントのほうは地面に落ちた際に塵となって消えたが……さすがは
再生力が異常に高い。余裕な態度だ。表情も、さも当然といった顔付きだ。やはり、あいつがヴァルマスク家の<筆頭従者>ホフマンだろうか。
そんな
顔はすこぶる人族に近く、超絶な美人さんだ。
蝶っぽいコスプレが似合うアイドルグループといったほうがいいか。
そんなアイドル風の美人さんではあるが……今の表情は……いまだかつて見たことのない酷薄な一面があると分かる表情を浮かべている。そこでハイグリアを見た。ハイグリアは、白色の蛾と赤紫色の蝶の女怪人を見て、怯えている。そのハイグリアに、
「あの蝶々たちを知っているのか?」
と聞きながら血鎖の方向を確認。<血鎖探訪>の先端は動いている。
子供たちは生きているかもしれない。それとも死体が荷車で運ばれているとか? まだ生きていると判断したい……見学はしまいだ。
蝶の女怪人の二人組は気になったが無視。
「ハイグリア、あそこで戦うヴァンパイアと蝶々たちに用はない。子供たちが心配だ、中へ向かうぞ」
「あ、あぁ、だが、あそこに近付きたくないの、だが……シュウヤはあそこへ向かうのだよな……」
「始めの言葉を忘れたか? 躊躇するならおいていく」
厳しい視線を意識して伝えた。ハイグリアの腕を強引に外す。
相棒の背中を跨いでいた足を上げて飛び降りた。
降りた俺に向け、
「あ、まってくれ、わ、わかったから」
とハイグリアもおずおずとした態度で降りてくる。
降りた直後――ロロディーヌは姿を黒豹へと変身。
頭部を上げて俺のことを見てきた。つぶらな瞳だ。
黒豹の姿で、いつも通り「ンン、にゃ」と猫の声で挨拶してくれた。
すると、首に少し痒いところでもあったのか、後脚の爪先を首の下に運ぶ。その爪先を横に振る。器用に首の毛を払うように、首を掻く。
『ここが、かいぃぃ~の、にゃ~』
と、いった声は聞こえないが、そんな感じだ。
首に傷ができそうなぐらい黒毛が舞う。
――その間に魔槍杖バルドークを右手に召喚。
「――準備はいいか? ロロ」
首を掻くのを止めた
「ンンン――」
相棒らしく頷く。と先に走り出した。
「ちょっ」
――速い。と、思いつつ、相棒を追いかけ並ぶように走る。
岩窟の出入り口付近の壁には亀裂のような線が多数入っていた。
地面に瓦礫が散乱……血か。これらの血の元は
それは永劫に責め苦を心に刻ませる地獄の光景を連想させる。
嫌な光景だが、
一石二鳥気分の俺は――足下から大量の血を吸い寄せて気分よく吸収!
アーゼンのブーツが真っ赤だ。
「――あ、槍使いと黒豹ちゃんだ」
「ついに接近~」
「なんなのだ、お前ら死蝶人は!! 施設を破壊し貴重な素材を奪い……<従者長>たちの命まで吸い取るとは……樹海の領域内に引き籠もっていればいいものを……」
背後から戦う連中の声が聞こえるが無視。
俺と
――ところが、背後から殺気を受けた。
俄に、反応し――咄嗟に左へ跳ねて殺気を回避した。
ひゅっと風切り音がなった直後――俺の進む方向の地面に小型の蝶が突き刺さった。
――蝶のブレスレットの後端には半透明の奇妙な螺旋した魔力の鎖が伸びている。その不可思議な魔法か魔力の鎖は、蝶の女怪人の片腕と繋がっていた。片腕というか、蝶で構成した腕か……もしかして、あの魔法の鎖は俺と同じ部類の力か? 赤紫色を基調としたすこぶる美人な蝶の女怪人は「わぁ、避けた。やっぱり槍使いは特別な強者ね」とそんな感心した声音で語りながら魔力の鎖を腕の内部に収斂させた。魔法の鎖の収斂を途中で止めた。蝶の女怪人は魔力の鎖の先端を……蛇でも撫でるように、愛し気に確認している。そんな腕と魔力の鎖を仕舞うように消すと、赤紫色の蝶の女怪人さんは怪しい視線を寄越してくる。美人さんでフェロモンたっぷりの視線。……いかん。魅了を受けたが、そんな視線には応えず、白色の蛾の女怪人を注視した。
白色の蛾の女怪人は
しかし、あの
黒色の十本の爪剣以外にも黒い霧と血の剣と槍の群れを誕生させた。
黒色の血の剣と、その槍の群れと、自身の指から伸びた十本の黒爪剣を使う。十本の黒爪剣は速く鋭い。
白色の蛾の女怪人を圧倒する剣術を披露。
女怪人の周囲を舞う白色の蛾たちを、正確に斬り落としていく。
更に、白色の蛾の女怪人のかぶっていた帽子を消し飛ばす。
押し込む
あの
古めかしい帽子を瞬時に再生させる白色の女怪人も凄い。
体を構成する白色の蛾。その蛾と蛾の間から、唇のお化けのような巨大な唇を出現。巨大な唇から魔力の波紋と人の精神値を削るような恐慌音を放つ――呪い声か? 魔力の波と、その形として見える呪いと分かる声の群れが――空間ごと闇と幽界に引きずり込む勢いで、周囲を呪いの空間に染め上げるが、
黒色の十本の爪剣と、黒色の血の剣と槍の群れで、その呪いめいた呪文攻撃を斬って突き刺す。重音と高音が混ざる歪な不協和音が響き渡っていた。
どちらもどちらか……。
「……ジョディが気になるの? でも、わたしの<アルルン>を
赤紫色の蝶の女怪人の言葉だ。白色の蛾が人型の体を構成している女怪人の名はジョディか。その赤紫色の蝶の女怪人は再び出現させていた魔法の鎖を少しだけ伸ばすと、先端をロールした髪でも、こねくり回すように指に絡ませた。その指の動きは、男の一物を弄っているような、厭らしさを感じさせた。
一物ではくアルルンが魔法の鎖の名か。アイテム名かもしれない。
しかし、あの顎に指を当てながら、とぼけて嗤うような、顔を歪ませる表情は癇に障る。悦に入った表情も見せてきた。俺の足下から頭部の全身を舐めるように見つめてから魔槍杖バルドークを凝視。アッリとタークを助けたいが、この蝶の女怪人と戦う必要がありそうだ。魔槍杖バルドークの紫色の柄を肩に掛けながら、
「……邪魔をするつもりのようだな」
話をしていた。同時に魔察眼を行う。赤紫色の蝶の群れで構成された女性の体を凝視。蝶は数え切れない一つ一つの小さい蝶から濃密な魔力を感じた。魔力が波のようにうねった。こんな濃密な魔力を持つ蝶たちで構成した体を持つ女怪人……実は……とんでもない相手かもしれない。
大きさの規模は違うが、その濃密な魔力の質は邪神シテアトップを思い出させる。思わず自然と喉にゴクッと唾が通った。ヘルメを連れてくればよかったか? 自然と常闇の水精霊の姿を思い出していた。
能力の<精霊珠想>だけではない……彼女の明るさが側にないと寂しさを感じる。いつの間にか、ヘルメは俺の一部と化していたようだ。今頃はキッシュの尻を追いかけているのかもしれないが……が、気は紛れた。ありがとうヘルメ。さて、あの赤紫色の蝶の女怪人と戦うとして……。
まずは<鎖>での奇襲か?
次に<血魔力>で速度を得てから牽制の氷魔法だろうか。
それともいきなり<
蒼い槍纓で蝶々を刻むのもいいかもなと一瞬の間に戦闘シミュレーションを脳内で展開した。<魔闘術>を足に纏いながら風槍流の歩法の『風読み』を実行する。半身を赤紫色の蝶の女怪人へ向けた。
爪先に体重を掛けながらじりじりと近付いた。
「ふふ、素敵な夜の瞳には滂沱の闇を感じるし、武術の歩法と特別な魔槍を見ているだけでゾクゾクしちゃう♪」
「――ちょっとシェイル? 槍使いと遊ぶなんてずるい!」
「――フザケルナ! 死蝶人! ヴァルマスク家を舐めるなよ! わたしがなぜ<筆頭従者>になれたのか……そして、外での活動を許されているのか。その神髄を見せてやろう。この魔界六十八剣が一つ〝十凶星ランウェン〟だけではないのだからなァ」
<筆頭従者>の高祖。やはり彼はホフマンか。
そのホフマンは十の黒剣爪の名を自慢気に叫んでいた。
「――血道の極みを見せてやる……」
凄みを出すように魔力を溜めた?
「ハハハハッ、血道第三――<ヴァルプルギスの夜>を喰らうがいい――」
威信を感じさせる口調で叫びつつスキルを発動する。
しかしここで「ファウスト」とはな。
ホフマンは四月三十日生まれ?
転生者だとしたらフランスかドイツ生まれだったりして。
終末論を唱えていたメルキオール・ホフマン……。
『エノクとエリアの吐き出す炎で世界が滅ぶ』と予言していた方か……。
『エチオピア語のエノク書』は魔術教本とかで有名だった。
と、感想を持った瞬間――。
彼は双眸を赤く輝かせながら、突如、自らの体の半分を炎上させた。
え? 自殺? 十本あった黒爪剣も片腕のみの五本だけとなる。
いや、燃えたように見えただけだった。
半身を、炎を模った蝋燭が溶けたような……。
どす黒い血と黒い霧に変化させていた。
血の変化に合わせて、特徴のある襟の一部も変形。
黒色の血と黒色の霧が宙に漂う、生きた蝙蝠の翼……?
または真新しい黒マントにも見えた。黒色の血と霧が宙へとさざなみを起こす。小さいカーテンが、靡くようにホフマンの前方に扇状に展開していく。しかし、大波の黒い血と霧は、ばさばさと音を立てて鴉に変身した。鴉だけではない――巨大な石棺? 棺桶か? 更に、巨人の腕、足、といった様々なモンスターの姿へと黒血と霧が姿を変えて、否、黒色の波と霧から黒々しい色合いの鴉を含めた魑魅魍魎が出現していく。
それらが、よそ見をしていた白蛾の女怪人へと集中的に襲い掛かった。
巨大な石棺の蓋が横にズレると石棺の中から巨大な腕が出現した。鱗の皮膚が目立つ。その棺桶の中からハチェットを持つ骨腕も出現した。
骨の腕の関節部には、臭そうな腐肉が、これでもかというぐらいに付着している。更に骨腕の上部には堕天のような黒翼が生えている? その骨腕は全部で二百体ぐらいいた。わらわらと、うじゃうじゃとした骨腕の群れだ。続けて、馬の嘶きがうるさい首なし騎士が登場。首なし騎士は幻影ではない。赤黒いフランベルジュの剣を、縦や横へと振り回し、白蛾たちをばっさばっさと叩き斬っていく。
「きゃぁぁ――」
「――ジョディ!」
赤紫色の蝶の女怪人が叫ぶ。ホフマンの独自の魑魅魍魎なスキルを喰らったからな。さすがに心配らしい。しかし、その隙を逃すつもりはない。
――魔脚を使う。俺は前傾姿勢で赤紫色の蝶の女怪人に向けて走る。
女怪人は大きな鎌の持ち手を少し離し、柄を短く持ち直してから金属棒の表面を指でなぞる。瞬時に柄の表面に魔法文字が浮かぶ。睨むような切れ長の目を寄越してきた。
左足で地面を捉え踏むっ地面に亀裂を生むイメージでの踏み込みから腰を捻り狙いは女怪人の胸元へと右手が握る魔槍杖バルドークを前方へ押し出す渾身の<刺突>を繰り出した――が、大きな鎌の柄を前に出し、
「くっ、速いわね――」
と魔槍杖バルドークの<刺突>を大きな鎌の柄で受け持つ、<刺突>を防いだ柄と紅矛の間から激しい魔力を内包した火花が散り、金属の不協和音が響いた。
衝突した箇所はちょっとした花火会場だ、小さい蝶々が焦げる。蝶々が消失していくのを視認しながら、赤紫色の蝶の女怪人は後退した。
すると、
「にゃごァ」
と、退いた赤紫色の女怪人へ『にがさないにゃ!』とでもいうように鳴いた。首下から触手を赤紫色の蝶の女怪人へと伸ばす。
しかし、赤紫色の蝶の女怪人は、口元を僅かに尖らせ形を変えて反応。
煌びやかな衣装と体の形を崩すように、自らの体の蝶々で防御陣を展開した。一瞬、視界が蝶の群れで埋まるほどの量。
防御陣を構築した蝶々が雨霰と
触手骨剣は止まった。
「――黒豹ちゃん、かわいい触手ちゃんね♪」
余裕めいた言葉。赤紫蝶の衣装を失い体の一部が変化していていたが、体の内側の蝶々たちが蠢いた。一瞬で赤紫色の蝶々の群れが女怪人の体にピタリピタリと纏わり付いていくと蝶の体と衣装の再構成を行う、魔力をかなり消費したようで、赤紫の蝶々たちの魔力が減っている。回復したようだが、赤紫色の蝶の女怪人はダメージを受けた可能性はある?
「にゃ」
触手の連撃が通用しなかった
「ガルルゥゥ……」
久しぶりに獣らしい声を発した。少しでも威嚇しようとしているらしい。猫科特有の体勢を大きく見せるように、両前足の半身を前に出す。
そのまま横歩きをしながら右へ迂回していく……獣らしい威嚇行動だが、俺にとっては、かわいらしい行動で自然と和んでしまった。赤紫色の蝶の女怪人への敵意は収まっていく……しかし、赤紫色の女怪人が攻撃してきたことに変わりはない。赤紫色の蝶の女怪人が纏った新しい衣装を、魔察眼で確認しながら、
「お前は俺を知っているようだが、何者なんだ?」
「あいつらは死蝶人。樹海で手を出してはいけない相手だ……」
そう答えたのは怯えて攻撃に参加していなかったハイグリア。
ハイグリアは体のいたるところから銀毛が逆立ち飛び出ていた。
「死蝶人か」
「うん♪ 昔から、そう呼ばれている〜。わたしの名はシェイル♪」
「それで、シェイルさんとやらは、俺と戦いを望むんだな?」
魔槍杖の先端を彼女へ差し向けながら語る。
シェイルは俺の魔槍杖バルドークを両目で捉えて「美味しそう……」と呟いてから、
「……戦う? ううん、遊びたい!」
と嗤うように叫ぶ。
と、大きな鎌を左右の手で入れ替えつつ、手の内で、くるくると大きな鎌の柄を回す。
シェイル本人も、大きな鎌と同じく、俺がゴルディーバの里で訓練した〝爪先半回転〟の避けを実行するように横回転していくと、胸の蝶々が蒼色に変化した。
魅力的な乳房を蝶々で再現しているが、あの蒼い蝶々は前にも見たことがある。
モルフォチョウ? 胸にも白銀色に輝く小さい円マークがあった。
円の中に蒼色の蝶々が点滅しているが、あ、思い出した。スロザの店主に鑑定してもらったベルトの中に入っていたコインだ……名前は『ゴルゴンチュラの鍵』か、色合いと形もそっくり。
「その蝶の色合い……」
「ん? 槍使い。もしかして……このマークを知っているの?」
シェイルは自らの胸を見つめてから、聞いてきた。
「知っているかもしれない。それはゴルゴンチュラのマークだろう?」
「え? ど、ど、どうして!? 知っているの……」
シェイルはゴルゴンチュラの名を出した途端、全身を震わせる。
無数の蝶々たちが、彼女の体から逃げ散るように、飛び立っていく。
シェイルは蒼い蝶の色合いを崩していた。握る大きな鎌も地面に落とすほどの動揺を示す。
落ちた大きな鎌は消失。これは蝶女怪人を退治できる攻撃のチャンスか? が一応『攻撃はするな』と
しかしハイグリアは『意味がわからない』というニュアンスでかぶりを振る。
そして鋭い視線を俺とシェイルに向けてから、両手の指から小さい銀爪の出し入れを繰り返していた。
「ハイグリア、一応、少しの間だけでも後退していろ」
「……名を教えた相手がいるのに、下がるわけにはいかない」
おい、その双眸の中には愛があるぞ。
俺がその目を見たら、チラッと視線を外してくる。
「……俺の邪魔はするなよ」
「分かっている」
ハイグリアには名がに重要だったようだ。
聞いて悪いことをしたが、そのハイグリアは怯えている。
戦いを仕掛けることはないだろう。ハイグリアが仕掛けてしまったら守ってやらないと<鎖>の防御陣を意識するか……犬歯が可愛いハイグリアから蝶女怪人へ視線を向け、
「……ゴルゴンチュラが気になるか?」
「……うん、もう遊ばないから、どうして知っているのか教えて……」
シェイルは双眸を潤ませて語る。すると、蝶女怪人ことシェイルは体を徐々に縮小していくと周りに飛ぶ蝶々たちと同程度にまで姿をミニマム化していた。え? どういうカラクリだ?
「なぜ、小さくなった?」
驚いて声質が高くなってしまった。もう片方の蝶女怪人の姿はどうなっているんだと疑問に思うが、ホフマンと戦っている蝶女怪人の姿を確認した。依然戦いは継続中だ。ホフマンと白蛾の蝶怪人との戦いは……凄まじい争いへと発展していた。地面が窪みまくり岩窟には線状の傷痕が至る所に発生している。ホフマンは半身からオーロラか、霧か、波のような、ゆらりゆらりと揺れる黒血と黒い霧を展開させている。その黒血の波と霧から黒色の鴉と魑魅魍魎の化け物の群れを出していたが……現在は、黒血の波と霧のようなモノが漂う状態へと戻している。あの黒血と霧の魔力を多大に消費するタイプか? 血を大量に消費か、連続使用が無理なスキルなのかもしれないが、彼の周囲に展開のウネウネと漂っている大風呂敷のような黒血か黒霧は不気味の能力だ。
俺の<
今日何度も思ったが……<筆頭従者>の実力は本物だな。<従者長>とは比べものにならない。ノーラを含めて弱点を突いても<筆頭従者>相手には
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