二百九十九話 別れと再会

 カルードが鴉さんを連れて屋敷に来た。

 庭で訓練していた血獣隊も一緒だ。


「マイロード。旅の準備が調いました」

「何処に向かう予定なんだ?」

「南方から北西へ迂回しながら帝国領土の迷宮都市サザーデルリを目指します。そこで力を得て人脈を獲得し、それらを活かしながら戦乱が多い西方のフロルセイル七王国、今はもう六王国に進出し一旗あげようかと」


 戦争中に平原のど真ん中を直通するのは避けるよな、南から迂回か。


「……迷宮都市を経由して遠い西方か。納得だ。お前が第二王子とフランに掛け合い、キリエから情報を取得した理由だな」

「はい」

「それで新しい組織の人員に誘ったようだが詳細を聞いていない」

「断られました」


 頷いた。本人が行きたいといっても王子が離すわけがない。

 キリエの今後は重要な情報源の一つとして立場も保障されるだろうしな。


「わたしとしましては……閣下に敗れはしたものの、魔眼持ちで様々な戦闘経験を持つキリエが欲しかったのですが、王子とフランにも嫌な顔をされました。本人にも、「シュウヤさんの部下? 助けられたシュウヤさんなら喜んでついていくけど、あんな戦乱溢れる場所に戻るなんてごめんよ」と、拒否されましたので仕方ありません」

「そのキリエからどんな情報を得たんだ?」 

「要衝都市タンデートの地下闘技場、第二黒髪隊が行っている刑務所を利用した人体実験、異端者ガルモデウスが作り上げた人工迷宮」

「人体実験だと?」

「はい、処刑が決まっている者たちの体を新製品の実験台に利用しているとか」


 マッドな野郎共だ。


「ガルモ何たらも気になるが、その他は?」

「目的地の一つ、迷宮都市サザーデルリの地下の事を聞きました。マハハイム山脈の真下には広大な地下世界が存在し、獄界ゴドローンに通じているとされている黒き環ザララープがあり、周辺の独立都市は獄界ゴドローンの【魔神帝国】に支配されているとか、ですが、近くには魔界セブドラへの道でもある傷場があり、その傷場から地下に流入している魔族たちと獄界ゴドローンの魑魅魍魎の怪物たちが争っている。更に、地下には元々地下に住まう者たちもいますから、三つ巴以上のカオスの争いが繰り広げられているようですね、その争いは、地上のサザーデルリに及ぶ事があると聞きました。肝心のフロルセイルの事もタータイム国、レドレイン国で行われた斜線陣を用いた歩兵の戦場経験を少し聞きました」

「地下もカオスだな、何かあったら血文字で連絡をするように、俺もカルードたちを呼ぶことはあると思う」

「はい」

「父さん、わたしも後で合流するかもしれない」

「いいのか?」

「わたしも成長したい。それに、血文字で会いたいといえば、すぐに来てくれると思うし……」


 ユイは俺を見つめてくる。


「おう。ロロディーヌと一緒に参上してやろう、ユイも血文字で此方に呼ぶこともあるだろう」

「うん、ということで鴉さん。暫くの間、父さんを宜しくお願いします」


 ユイは鴉と呼ばれている黒髪の女性に頭を下げていた。


「腐れ縁ですから任せて下さい」


 鴉は微笑むとカルードを見る。カルードも笑っていた。

 長年連れ添った夫婦の雰囲気を感じさせる。

 そのカルードが厳しい表情を作ると、俺に顔を向けた。


「マイロード、行って参ります。成長し闇ギルドを作る。何かの武勲を立てて名声を得ては領土を得たい、或いは独立を果たします。そして、マイロードの来る日に備えて下地を整えておきましょう。更に、マイロードが危機の時、光魔ルシヴァル全員が必要な戦いの時には、直ぐに戻って参ります」


 下地か。その気持ちに応えよう。


「未来には夢が待っている。カルード先生。期待しています」

「はいっ、永遠なるマイロード!」


 カルードは軍人らしい敬礼ポーズを取る。

 俺も「ラ・ケラーダ」のマークを作り彼の気持ちに応えた。


 カルードは眼に涙を溜めながらも満面の笑みを浮かべる。

 そのまま会釈をして踵を返し玄関の方へ歩いていった。


 鴉さんも俺たちに頭を下げてから、カルードの背中を追う。

 カルード……渋い背中だ。

 鴉さんもあの背中に惚れたのかもしれない。


「カルード様! わたしたち血獣隊にご指導してくださったことは忘れません!」

「去らばだ、先生」

「ボクも忘れないよ! 先生! 大鹿カセブのお肉を奢ってくれた事は忘れない!」


 血獣隊から先生と呼ばれる<従者長>カルード。

 正直、俺も寂しい。だが、漢の出発だ。

 そして、自分の目標に邁進する姿は、どんな血塗れた未来だろうとカッコイイし尊敬する。


「カルード様、鴉さんとお幸せに……トトラの肉屋出張店のお食事がとても美味しかったです」


 フーは一人何かショックを受けたような顔付きだ。


「ユイパパさんとはいつでも連絡を取れるとはいえ……寂しいわ」

「ん、叔父さん先生、血獣隊から凄い慕われている。草原での稽古は厳しかった」

「庭に轟いていた渋い声が、なくなるのね。でも、フロルセイルといったら帝国の更に西でしょう?」


 ミスティが心配そうに呟く。

 遠いが案外……俺が持つ二十四面体トラペゾヘドロンで行ける場所かもしれない。

 鏡の一つにフロルセイル地方、七王国のどっかの国に鏡が設置され、または埋まっている可能性もある。


「……そうだな」


 鏡の事は話さず、ミスティの言葉に同意した。


「うん。わたし、図書館で大きな湖を中心とした七王国を文献で見た覚えがある。宗教遺跡を壊したりする国があったり、爆発ポーションが盛んに作られたり、多重紋章魔法を用いた戦術魔法を駆使したり、戦乱が多い国々と」

「基本的にポーションはスキルが求められますが、爆発ポーションは、中でも取り扱いが非常に難しいらしいです。オセベリア王国では錬金局から少量ですが売られています」


 ミスティの言葉にヴィーネが反応していた。


「そんなポーションが行き交うドンパチ激しい国。この間の戦争で倒したタケバヤシ、タマキ、キリエと同じような黒髪が居るとなると、カルードも一筋縄ではいかないかもしれないな」

「お父さんなら大丈夫」


 ユイが力強く語る。

 苦戦はするだろうが、カルードなら成長に繋がるだろう。


「相手が凄腕ばかりならば、その経験は宝となりましょう。将来、剣術を含めてどこまで<従者長>の実力が伸びるか楽しみといえる。わたしも語学と商売の研究より、自らを鍛えねば」

「わたしも最近はクルブル流が身に付いてきたから、正拳突きだけなら自信がある」


 レベッカがヴィーネに対して白魚のような手で力瘤を作る。

 筋肉はついているように見えないが……。


「ん、焦らず、各自のできることをやればいい。わたしはお手玉をできるようになりたい」

「え? 正拳突きは? お手玉って……」

「止めた。今は、サージロンの球でお手玉を直接手でできるようになりたい」

「もう、せっかく、訓練仲間ができると思ったのに……」

「エヴァは芸人さんになりたかったの?」

「ううん、リリィが最近連れてきた近所の子供たちが喜ぶかなと思って」


 エヴァは可愛らしい目標だ。


「さ、俺たちは地下オークションだ。もうじき迎えがくる」


 メリッサとディノさんに会えるはず。楽しみだ。

 契約の金貨。返す金貨を胸ポケットの中に入れておく。

 ハルホンクの防護服の胸ポケットは便利だ、そのポケットにシャルドネも来るかもしれないから、侯爵の指輪も入れておいた。


 準備を調えると、ミライの部下が用意した迎えの馬車が複数屋敷に到着。

 皆で馬車に乗り込み移動を開始した。


「ついに地下オークションだ」

「はい、八頭輝としての出席。誇らしいです」


 隣に座るヴィーネは漆黒色のシックな装甲が付いた服を身に着けている。

 銀色の髪と合う。着替えの時にオークションですが、戦いがあるかもしれません。と語っていた。


「知り合いにも会える」

「盗賊ギルドの方と侯爵様でしたね」


 ヴィーネの長細い足下を見ながら、


「そそ、メリッサとディノさんにシャルドネ様だな」

「前に聞いた。美人さんの侯爵様から部下に誘われたが、断ったと」

「ん、シュウヤが竜退治で活躍した時」

「シャルドネ……」


 レベッカとエヴァの会話にミスティは機嫌を悪くする。

 彼女とヘカトレイルの侯爵は因縁の相手だ。


「……無理をしてオークションに来なくてもいいんだぞ。ミスティ」

「大丈夫よ。恨みは忘れないけど、マスターの知り合いだし、オークション会場でしょ? 静かにしているから」

「ん、ミスティ、偉い」


 エヴァがミスティの手を握って真剣な表情を浮かべて褒めていた。

 ミスティの心を読んで本心だと悟ったのだろう。


「ならいい。昔の話の続きだが、ヘカトレイルの後は、ホルカーバムへ向かったな」

「ホルカーバムの話ね……メリッサと何回もイチャイチャを楽しんでいたとか、平気な顔で語っていた事も、思い出してきちゃったのだけど?」


 と、レベッカが語尾の音程を上げながら呟く。

「むかつくんだけど」に聞こえた。


 頬を膨らませながらのレベッカの言葉だ。

 衣装は真紅のドレス、胸は滑らかな滑走路。

 細い括れを締めているベルトは黒い柄でハートマークの飾りが付いている。

 ポーチと黒色の金具入れが揃う。


「ん、前に、隠さずえっちな話をしてくれた」


 エヴァがボソッと小声で話す。

 青紫色の絹の上服とムントミーのアクセサリーの衣服が似合う。

 アクセサリーの釦と上服の黄金比バランスが見事。

 菖蒲色の瞳と合わせたと分かる。

 珍しく金属の足を活かすようなミニスカートを穿いていた。

 近未来風のコスチュームに見える。


「……過去の話を告白しないほうがよかった?」


 エヴァの場合は隠しようがないが。


「ううん、そんなことない。微妙な女心ってやつだから、というかそれぐらい察してよ。ふんっ」


 レベッカは細い指を俺に向けてから、少し叛ける。


「あ、もうそろそろ貴族街に着く」


 ユイの言葉と同時に馬車が止まった。

 過去の愚痴はそこで終了。


「到着ーロロちゃんも、降りようね」

「にゃお」


 レベッカが、俺の肩で休む黒猫ロロの鼻を指でタッチしてから、先に馬車から降りた。

 続いて、皆が降りていく。


 血獣隊の面々も降りている。

 通りは、あまり見られない光景となっていた。

 貴族、闇ギルド、商会に関係する専用馬車が幾つも集まり、停まっていく。

 そして、その馬車から続々と身なりの良い人物たちが降りてきた。


 様々な大商人たちが屋敷の門を通り地下オークション会場である敷地内へ入っていくのが見えた。

 仮面を装着しているアシュラー教団の関係者が、客の動線を意識して会場まで丁寧に誘導しているから流れはスムーズだった。


 その導線に混ざる形で玄関から敷地内を進む。

 幅広の屋敷の入り口から赤い絨毯が敷かれてあった。


 壁の両端に真新しい青白い石塔が立ち、天井に眼球型の魔道具が設置されてある廊下を歩く。

 多数の大商人らしき人物たちの姿を確認しながら、彼らと共に廊下を進んだ。


 レベッカとエヴァが廊下の壁に飾られてある絵と花瓶に興味を持ち眺めていく。

 ミスティが鎧を着た集団に気を取られ、肩に居る黒猫ロロが天井で蠢いている眼球魔道具に紅い瞳を向けていた。


 会合が行われた場所はこの辺りのはずだが、普通の壁に戻っていた。

 その代わり、隣に階段が新しくできている。

 皆が降りているその幅広い階段を下りていった。


 階段の途中から一気に空間が開ける。


 ここが地下オークション会場。

 品物を乗せると思われるアーティストが演奏を披露するような円形のステージ台が中央にあり、ステージ台の縁から透明の膜が天井まで伸びていた。

 強盗、戦闘の防犯対策はちゃんと施されているようだ。


 その円形のステージ台を囲うように、丸いテーブルが均等に並ぶように設置されていた。

 もう大商会、闇ギルド関係、貴族関係者、仮面を被った人たちがそのテーブル席に座って談笑している。


 きょろきょろと見渡していると、


「盟主様とお供様、こちらになります」

「ン、にゃ?」

「関係者の皆様はこちらです」


 アシュラー教団の仮面をつけた使用人たちだ。

 肩に居る黒猫ロロの挨拶は無視されたが、係の人は俺たちを案内してくれた。


「盟主は盟主たちの専用席が用意されているのね」

「メルは別の席に居るから、シュウヤの側でいい?」


 エヴァの視線の先に、メル、ヴェロニカ、べネットが座っている席があった。

 皆、ドレスを着込み手を振っている。


 じっくりと【月の残骸】の女傑衆たちの可憐な姿を拝見したいが……今は八頭輝の場所へ向かうか。


「……いいよ」


 と、エヴァに答える。


「エヴァ、貸し一つだからね」

「ん、分かった、ディーの店の食事無料券もつける」

「ふふ、了解」

「ねぇ、その券、学生たちにもあげたいな」

「ミスティにもあげる」


 レベッカとミスティはメルたちと合流するようだ。


「と、いうことで、レベッカ、ミスティ、血獣隊たち、後で」

「「はい」」


 血獣隊たちは、緊張しているのか動きが硬い。


「うん、ロロちゃん、またね」

「ン、にゃ」

「了解。ここで、ゴーレムを出したら怒られちゃいそうね、出さないけど」

「ん、ミスティ、腕輪の金属を溶かしてる」

「あ、つい……」


 溶けた金属が床に落ちるが、すぐにエヴァが足に吸い寄せていた。

 そんなやり取りを見ながら、エヴァ、ユイ、ヴィーネを連れて、八頭輝の専用席が並ぶテーブル席の方へ歩いていく。

 すると、その奥にシャルドネたちが座っている席が見えた。

 挨拶をしよう。大商会の席でも特等席のようだ。仲間たちに向け、


「知り合いがいた。少し挨拶してくる」

「はい」

「わたしたちはここに居るね」

「にゃん」


 肩に居た黒猫ロロが床に降りると、ヴィーネの足下に向かう。

 ヴィーネは背凭れがついた椅子に座っている。太股に手を置いて、


「ロロ様、一緒に座りますか?」

「にゃあ」


 黒猫ロロは返事をしながらヴィーネの膝の上に跳躍。

 その太腿の上でくるりくるりと横に回ってから、エジプト座りのような格好になって、上目遣いでヴィーネの顔を見やる、可愛い。


「ん、負けた、ショック」


 黒猫ロロは、いつも、エヴァの太股の上に乗っていたからな。


「いいなぁ、ロロちゃん、こっちに来る? マッサージをしてあげる」

「ンン」


 黒猫ロロはユイの声を聞いて、喉声を発した。

 そのままヴィーネの膝の上から跳躍――机の上に飛び乗ると、華麗な足取りでユイの目の前まで移動している。


 そこで、腹を見せるように、机の上でごろにゃんこしていた。


「ふふっ、ロロちゃん!」


 ユイが興奮して黒猫ロロを弄り出す。

 黒猫ロロはユイの掌に腹を撫でられて嬉しかったのか、ゴロゴロと喉音を響かせながら、腹を見せながら体を横にゆっくりと回転させた。

 黒猫ロロの腹の黒い産毛に隠れている薄い桃色な肌と乳首が見えていた。

 ユイは興奮したように、相棒の腹に顔を埋めていた、面白い。


 そんな微笑ましい光景から視線を逸らし、【月の残骸】の盟主席を後にする。


 シャルドネ、獣人のキーキ、白髪のサメが座る席へ向かう。

 シャルドネは純白のテーブルクロスと対照的なピンク色のドレスを着ている。


 背中の上部から露出した肌が香を含んだ絹のようにも見えた。


「……シャルドネ様、お久しぶりです」

「あ、シュウヤ様!」


 振り向いたシャルドネ。

 仮面を脱いでいた。相変わらず綺麗なお嬢様だ。


「久しぶりですね。噂はあれから聞き及んでいますことよ? ふふ」


 口元を扇子で隠すシャルドネ。

 本当に久しぶりの再会だ。

 カルードとは別れたが、これも人生。


 別れと再会はつきものだ。

 しみじみと人生を思う中、彼女の服装をチェック。

 上服は、蝉の羽を思わせる薄布がメイン。

 襟から続く開かれた胸元を上手に隠すように滑らかな線状のデザインが施されてある。


 晩餐会で着ていたドレスとは違うが金が掛かっていそうな服だ。


「……噂は噂。冒険者ですから」

「あら、昔と変わらないと仰るのですね」

「勿論です。指輪を頂いた時から変わりません」


 準備しておいた指輪を見せる。


「まぁ……驚き! あの時の指輪を、大切にして頂いているのですね! 当家が抱えている魔金細工師も喜ぶでしょう」

「はい。栄光ある侯爵家との絆ですから」

「嬉しいですわ。やはり、わたくしが目をつけた殿方です。シュウヤ様、今からでも遅くないですから、ヘカトレイルに戻り一緒にサーマリアを切り取りましょう。そして、わたくしと結婚するのです」


 何を言ってるんだ……。


「お嬢様、勝手に決められては困ります」

「閣下、お戯れはこの辺りで……」

「なんですのっ!」


 シャルドネは侍女のキーキとサメを睨む。


「だって、シュウヤ様はオセベリア王国の貴族ではないのですよ? それなのに、突然結婚とか、混乱しちゃいますよ」


 シャルドネはニヤリと笑みを浮かべ、


「分かっていないのですね? 詳しい詳細は存じ上げていませんが、シュウヤ様は、ファルス様から竜鷲勲章を授与されたのですよ? 戦争も砦を奪い返す活躍をなさったとか、戦争中でありながらも、伯爵家、公爵家、第一王子様まで動いていると聞きます。この報は、何れ王様の耳にも届くことでしょう。そして、独自の武装集団を率いる【月の残骸】の盟主であり、過去に個人の冒険者として唯一、魔竜王殺しに貢献している武人。このことが広く露見すれば、シュウヤ様の武力と行動力に中央貴族たちの注目が向かうのは必定。王に直々に召し抱えられる可能性も高いのですわ! ですので、その前にわたくしとシュウヤ様が直接関係を持てば、わたくしの発言力も上がりますし、シュウヤ様の武力によりサーマリアの領土を切り取ることも可能! これによりアナハイム家がより磐石となるのですっ」


 一瞬で先を思考したか。

 闇ギルドが武装集団に変わっていたが指摘はしない。

 それに王とかは興味ないので、まず会うことはないだろう。


「……そ、そうでしたか。お嬢様、申し訳ありません」

「キーキ。好きな冬季料理大会に出られず、無理にこのオークションに出席したことを、まだ根に持っているのですね」


 シャルドネは少し笑みを含めた悪戯っぽい顔を浮かべて、獣人のキーキを責めていた。


「……その通りです。お嬢様」

「閣下、先をお読みになっての言葉でしたか」


 サメが感心しながら、語る。


「当然ですわ、セシリーが活躍したとはいえ、敵にもグリフォン部隊は存在します。ハイム川を越えた地点、ムサカ、トリムトン、旧フローグマン領、あの辺りに橋頭堡を築くのに、まだまだ戦力を増強しなければなりません。それに、何のために、この地まで来たと思っているのです? ただオークションを楽しむだけとお思いですか?」

「いえ、第二王子と第一王子の関係に騎士団と中央貴族と王宮の伝と……大商会……」


 シャルドネとサメにキーキは、サーマリアとの領土紛争について机上に地図でもあるが如く会話を続けていった。

 シャルドネが語るように、ここに来た理由はオークションだけではないだろう。

 派閥関係の貴族と交渉か。金、兵糧、兵の貸し借り、騎士団関係とか色々とありそうだ。


 そのタイミングで周囲を見る。

 すると、右端にメリッサとディノさんを見つけた。

 変わらないメリッサの姿。彼女の匂いを感じとる。


「……それでは、失礼します」

「え、もうですの?」

「はい」


 俺は素早く踵を返す。


「ああ、シュウヤ様が、領土覇権の夢が……」


 今は領土とかは興味ないから無視。

 それより久しぶりのメリッサだ。嬉しいなぁ。

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