二百八十八話 手紙の主※
◇◆◇◆
『おいら、おならをぷーとしたら空の世界へ飛んでたんだ、すごいでしょ!』
「空の世界?」
『うん、おいら、楽しいー』
と、グウは可笑しなこといって不思議な石を床に落として消えちゃった。
まだ、全くグウを使いこなせていない……天邪鬼すぎるのよ。
使い魔とはいえない。完全に振り回されているし……。
でも、最近、魔杖ビラールを使えるようになってきた。
最初は魔力を杖に維持させる難易度が異常に高くて諦めようと思ったけど……。
『俺にもお前のような女を守りたいっていう、“小さなジャスティス”があるんだよ!!』
と、あの人の厳しく温かい言葉が、わたしを奮い立たせてくれた。
頑張る気力、生きる力をくれた言葉。
その言葉を思い出しながら、わたしも小さいジャスティスの為に頑張ろうと、デイジーと【戦神の拳】との冒険者活動の合間に、ビラールに魔力を浸透させることに挑戦を続けることが出来た。
何日も暫く努力を続けた結果……。
ついにビラールの杖に魔力を留めることに成功!
同時に<召喚術>というスキルも獲得出来た。
優秀な鍛冶屋のドワーフ兄弟に杖を直して貰って大正解。
不思議なドワーフの男の子。
ボン君は一度も見たことのない
手の甲から紋章を発生させて、濃密な魔力を放っている光景は目に焼きついてる。本当に凄かった……。
きっと王国の錬金局からの引き合いも激しいんだろうなぁ。
そして、エンチャントで生まれた金属同士を融合させて不思議な金属を使い繋ぐように加工するザガさんの手作業の技術は感動すら覚える。
ホルカーバムと違い、流石は大都市、他にも凄腕の職人さん居るかと思うと、色々と他の地域にも足を運んでみようと思わせてくれた。
今度、街の東の方にも案内してもらおうかしら、布細工の職人さんや、美味しいお店もあるだろうし。
そのドワーフたちに直して貰った魔杖ビラールを上手く使いこなせるようなってきたところなんだけど……肝心のグウの維持がまた大変。
グウを無事に出現させても『オイラ、オイラのアイラー』と抱きついてきて、すぐに消えちゃうし。
さっきも変なこと喋ったグウは消えてしまった。
そのグウが落とした不思議な石を手に取る。
綺麗……星のような輝き。もしかしてグウは違う世界の石を取ってきたのかもしれない。
不思議な石が凄く綺麗だったから、鑑定して貰おう。
わたしは石を持って、鑑定屋の店が多い第一の円卓通りに向かった。
数多くの冒険者の中に混じるように通りを歩いていると、アイテム鑑定屋と書かれた看板を見つめた。
路上での鑑定人? あまり見たことない。
冒険者の活動中にこの通りは通るけど、こんな店は初めて。
鑑定を頼んでみようと、看板の横に座っている店主に近付いていく。
店主は黒髪に眼帯を掛けている片目だけの女性だった。
「……鑑定量は銀貨一枚」
高いような……。
「はい」
でも、たまにはと、その眼帯の女の人へお金を払い、石の鑑定をお願いした。
「……時空属性の秘めた石、珍しい異界の石、ここじゃ双子石と呼ばれているね。内実は恋の石と呼ぶ。この石に愛している人物を思いながら想いを込めれば、恋だけでなく自分の運が開けるかもしれないよ……かの天帝もそういっているかもしれない」
そういって鑑定してくれた黒髪の片目の女の人。
捩れた襟元も何か雰囲気を感じる……。
流れの鑑定士さんだと思うけど。
眼帯から放っている異質な魔力も際立っている。
まさか魔女?
見た目は修道女じゃないけど、ダモアヌンの魔女?
……アイラも魔女だったし、まさかね……。
そんなことを考えながら、第一の円卓通りを出た。
鑑定してくれた女性は怪しかったけど、恋の石、時空属性の双子石だって。
ふふ、あの人への想いを込めちゃう!
あの人を想って一緒に石と寝てから……手紙を書こう……。
それから、盲目の聖女様に祝福を掛けて貰って……。
わたしは自然と足が速くなっていた。
路上を走る足。
スキップしているように見えるかもしれない。
あの鑑定士に影響を受けたちゃった。
だって、恋だけでなく自分の運が開けるかもしれないという鑑定結果。
これも、努力してグウを召喚できるようになったお陰。
グウの事を気に入ってくれてるデイジーとお茶をしてから、早く宿に帰ろう。
◇◆◇◆
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:22
称号:光邪ノ使者
種族:光魔ルシヴァル
戦闘職業:霊槍血鎖師
筋力24.1→25敏捷24.6→25体力22.9→23.2魔力28.9→28.3器用22.4→23精神31.2→31.0運11.5
状態:普通
ステータスの確認と大魔石の収集を一端終えた俺たちは、部屋に帰還。
視界に寝台側にある椅子が入る。
忘れてたな。椅子の背に掛けてある胸ベルトを手に取り、俺の肩に掛けた。
胸ベルトは短剣が納まっている。
「ご主人様、お帰りなさい」
ヴィーネだ。
テンテンディーティー片手に持ち近付いてきた。
彼女は前にあげたフォド・ワン・
背中に
長袖なのでラシェーナの腕輪は見えない。
「……よ、ただいま。ありがとう――」
気が利くヴィーネからテンテンを受け取り濃紫ジュースを一気飲み。
喉越しがいい。疲労回復効果があるとかだっけ……俺の場合は関係ないが……飲んでいる唇と喉元を凝視してくるヴィーネから愛を感じる。
渡されたテンテンを飲みきると、体内で魔力が沸き上がるのを感じた。
俺はヴィーネに空き瓶を返しながら、
「この不思議ティーを作り上げた開発者と会ったのも気になるが、手紙があるとか。まずはそれを見せてくれ」
「――ご主人様、わたしたちは寄宿舎に戻ります」
<従者長>のママニが、割り込む形で喋っていた。
「分かった。自由に過ごせ、何かあったら血文字で連絡な」
「はい。それでは、ヴィーネ様も失礼します」
「……血獣隊たち、いい面構えだ。ご主人様の下で頑張ったようだな」
「「はいっ」」
ママニとフーは敬礼して、軍人の雰囲気を出しているヴィーネの言葉に応える。
「はいっ、ヴィーネ姉様!」
サザーはヴィーネを姉と呼んで犬耳を愛らしく動かし反応を示していた。
「当然である」
ビアは蛇舌を伸ばしながら早口で語る。
態度が大きいが、三つのおっぱいを触る仕草で挨拶をしていた。
勿論、鎧で隠れているので直に触っていないけど。
「素晴らしい……各々からルシヴァルとしての血の繋がりと個の強さを感じるぞ。そして、かつての妹たちの事を思い出させてくれた。ありがとう」
ヴィーネは珍しく素の感情を表に出しながら<従者長>たちを褒めて、目頭を熱くしていた。
ダークエルフだった頃の魔導貴族アズマイル家の妹たちの姿を思い浮かべたらしい。
もう仇は討ったが……彼女の一族は皆、亡くなっているからな……サザーたちは新しい妹たちとなる。
「ありがとう、ヴィーネ。その言葉は俺も嬉しい」
「はい、ご主人様……」
ヴィーネ。
一度見たら忘れない蠱惑的な銀彩の瞳……渋い銀仮面も相変わらず彼女に似合う。
ヴィーネと俺は、暫し恋人のように見つめ合っていた。
空気を読んだママニたちは丁寧にお辞儀を行い、寝室から廊下へ出ていく。
「ン、にゃあ」
ヴィーネは猫の声に惹かれて優しい表情を浮かべながら、走るロロの姿を見つめている。
そして、途中から命令されていた事を思い出したのか、持っていた手紙を俺に渡してきた。
「……これです」
手紙は少し重さがある。
「……何か、中に入っている?」
封を開けて手紙を読まずに、中に入っていた物を確認。
石だ。取り出して見ると……。
その石は前に見たことのある石だった。
『石ですね、リビングにある石に似ています』
双子石か。迷宮の主アケミさんから貰ったのと同じだ。
どういうことだろうと、ヴィーネの顔を見るが、頭を傾げて不思議な顔を浮かべている。
ま、手紙を読むか。
□■□■
シュウヤ様
拝啓 突然に失礼致します。
わたしの名はミア、今はアイラと名乗っています。
シュウヤさんが、わたしの、皆の【ガイアの天秤】の仇を討ってくれたことは聞いています。
ですが、礼はこの手紙に書きません。
直接、お会いしたその時にお礼の言葉を捧げたいと思います。
小さなジャスティスの名に懸けて、それが筋ですから。
それとは、別に手紙の中に石が入っていると思います。
その石は、とある杖を使い手に入れたのですが、綺麗でしたのでお礼のつもりでお送りします。
受け取って下さったら嬉しいです。
今は、ペルネーテで友と再会を果たし冒険者活動を行なっています。
おかげさまで冒険者活動は順調。
【戦神の拳】という名の方々とパーティを組み、現在は迷宮の三層から五層を主軸にモンスターを倒す日々が続いています。
それから、その戦神の拳のパーティメンバーのシェイラさんと同姓なこともあり仲良くなりました。
時々、デイジーと一緒に買い物に出かけたりしているんですよ。
そんな冒険者活動の合間ですが、シュウヤさんの言葉を励みに、特別な杖を使えるように努力を続けておりまして……。
頑張った結果、最近になって特別な杖を使えるようになったんです!
お礼の石もこの杖のお陰で手に入れました。
最後に……この魔杖を使いこなして少し成長を実感したら、直接会いに行きます。
ミア(アイラ)より。
□■□■
手紙の主はミア。
筋というニュアンスから絶対、本人だ。
今はアイラと名乗っているのか。
「ご主人様、その顔色は……」
「気にするな。驚いただけだ。ミア……ちゃんと生きていてくれたんだな」
元気そうな様子が目に浮かぶ。
成長を実感したら俺に会いにくるか。
屋敷を知っているなら会いにくればいいのに。
まぁ、ミアは極端に真面目な子だからなぁ……。
でも本当によかった。彼女なりに再生している。
さて……感傷は終わりだ。
もう一つの事案を聞いておく。
「……それで、ヴィーネが遭遇したタイチという名の黒髪の錬金術師と会ったらしいが、どんなことを話したんだ?」
「はい……」
「買い占めているのはお前か?」
「から始まり、わたしが肯定しますと……」
「どこの商会の者だ、俺の製法を盗む気か? 特許がないとはいえ、俺のテンテンデューティーの真似はできないぞ。だいたいアンタは美人過ぎるんだよ……肌が青白いエルフとか珍しいだろ! あ、まさか、ダークエルフとかいう種族ではないだろうな。もしやこれが、運命の出会いという奴か! そうなら、この薬を飲んで欲しいなーというか飲めよ。そして、俺の錬金商会を立ち上げの時に秘書になれ!」
「……と言ったように一方的に語り、黒い瞳に魔力を溜めながら怪しい薬を手渡してこようとしましたが、ガドリセスでその怪しい薬を一刀両断にしてあげました」
黒髪のタイチか。
いきなり怪しい薬を渡そうとする男……神の右腕というけど、かなり頭が悪そうだ。
神とは、もしや自称なのか?
「……で、そのタイチはどうした?」
「叫び声をあげて……」
「なんだ! ツンにも程があるだろう。いきなり剣を向けるなんて、俺の右腕の力を知らないから……あれ?」
「……そう、その時、わたしが古代邪竜ガドリセスの伸びる巨大牙を彷彿させるように、薬だけでなく、ガドリセスを用いて、タイチの衣服を切り刻み頭部の黒髪も切ってあげました。そして、テンテンデューティーを作ったことは尊敬に値する。ご主人様がお気に入りだからな。だが、変なことをするならば、次から命はない。と脅してあげました。その瞬間、タイチは、顔を青くして口から泡を吹くと、叫び声をあげて裸の状態で逃げていきました。逃げているタイチの背中からも魔力が溢れて外にも漏らしていましたが、戦闘能力に関しては、さほどの力はないようです」
ヴィーネの話を聞いていた小型ヘルメが怒った表情で頷いていたから、
『ヴィーネ、そんな相手を生かしてしまうとは』
……タイチを敵に回したか?
しかし、ヴィーネの動きに反応せず、逃げたのなら脅威になる相手ではないか。
「いい判断だ。テンテンデューティーは美味しいからな。命を取らなかったのは評価する。だが、もし次、絡んでくるなら俺が対処しよう。ヴィーネが単独中にまた会ったのなら、好きにしたらいい。テンテンがなくなっても構わない」
暗にヴィーネの好きなようにしろと指示を出す。
「はいっ!」
『閣下、その相手がきたら、わたしが相手をしてあげましょう』
『了解した、頼むかもしれない』
ヘルメと念話をしてから、ミアがくれた石を握りながらヴィーネに顔を向けて、
「……んじゃ、リビングに戻るか」
「既に、選ばれし眷属たちは集合しております」
「そうだったか。ならそこで、新しい物を披露しようかな」
「新しい物……血文字で何やら仰っていましたが……」
「そう、見たことないと思う」
オービタルの反応を見て楽しむか。
ヴィーネを連れて部屋を出て板の間廊下を歩いてリビングへ向かう。
机があるリビングに<筆頭従者長>たちが勢揃い。
周りにメイドと使用人が控えているので、国の会議でも開かれるような雰囲気があった。
俺がリビングに現れると、エヴァ以外の全員が立ち上がる。
視線を厳しくしながらルシヴァル家の宗主として胸を張って机に近付いていった。
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