二百六十七話 バルの進化?
「それじゃ、本館に戻ろう」
女の意地を見せたヴィーネを誘う。
「はい」
「――にゃあ」
アーレイとヒュレミはポポブムの上に乗り休んでいる。
バルミントはポポブムの足に鼻を付けて、必死に何かの匂いを嗅いでいた。
動物、いや竜の生態は分からない。
俺が
「閣下、おかえりなさい」
いつもの場所で瞑想をしていたヘルメだ。
ヘルメは、下半身が液体のまま浮かんでいる。
その液体の下部から周囲に散っている水飛沫は美しい。
「おう。半分液体と化しているけど、大丈夫か?」
「大丈夫です。それより、閣下の霧のような霧の開発ができそうなのですっ」
その彼女の自信を含ませた物言いに噓はなかった。
本当に液体だった下半身の一部が霧の状態に……。
大門の上で、紅茶を飲みながら一緒に訓練を繰り返していた影響を受けたのかもしれない。
「……おぉ、凄いな。だが、無理をしてないか?」
ヘルメは眉を中央に寄せて、難しそうな顔を浮かべているので、少し心配だ。
「大丈夫です、もう終えますので」
「そっか」
ヘルメは霧の状態を解いて、普通の人型に戻っていた。
その様子を見ていると、
「にゃ」
小さく鳴いてから机の上に飛び乗り、座布団が置かれた場所へトコトコと歩いていった。
座布団の中央部に両足を乗せると、土を掘るように中央部に窪みができるまで上下させていく。
そこは砂場じゃないが……。
できた窪みの位置に後脚も乗せて座布団の上に体を乗せると、今度は、自分の尻尾を追いかけて、くるくると、その座布団の上で回り出し、体勢を丸く屈めて落ち着いていた。
最後に、伸びていた尻尾で『ぽんっ』と机の上を叩いてから口元に沿えている。
目も瞑っているので眠るようだ。
可愛い……あのお目目を無理に開かせたい。
と、悪戯を考えながら、右手首にあるアイテムボックスから黒い甘露水を取り出す。
その時、使用人のミミが気を利かせて、複数のゴブレットを用意してくれた。
「お、ありがと」
「いえ、注ぎます」
素直に、彼女が用意してくれたゴブレットに黒の甘露水を注いでもらう。
ミミは、精霊ヘルメ、ヴィーネのゴブレットにも黒い甘露水を注いでいた。
というか、精霊ヘルメの器だけ大きくて底も深い……。
ヘルメ、順調に信仰心を集めているようだ。
彼女のおっぱいから聖水を求める日は近いか。
未来で、おっぱい教とお尻教の二大派閥の争いが起きたりして……。
大変なことになるかもしれない。
ヘルメの場合、世界のお尻を蹂躙したいと前に語っていたから、お尻教の派閥が勝つかもな。
そんなアホなことを考えながら、ゴブレットを口に含み、皆で飲みながら寛ぎ会話を続けていく。
次第に話題は雑談を含めたバルミントの会話へ移行していた。
「バルミントは大きくなってきた」
「はい、大きくなるのは微笑ましいですが、このまま成長しますと竜としての狩りの仕方、飛び方も学ばずに、過ごすことになるかもしれません」
「だな……」
「ヴィーネの指摘は尤もです。そこで提案があります。閣下が前にお話をされていた
ヘルメが細い顎に指を当てながら話してくる。
「それは少し考えていた」
「その竜婆は危険かもしれません。食うために国、人を襲う混沌な気質を持つとか……かなりの気まぐれなのでしょう? バルミントが食べられてしまうかもしれません」
ヴィーネは心配そうな顔を浮かべて話す。
「気まぐれでいったら、俺も負けていない」
「冗談ではないのです」
ヴィーネさん、冷然な目だ。
懐かしい。最初もこんな感じだった。
「すまん、だが、共食いはないだろ。バルミントは違う大陸の出身とはいえ、
話だけでもしてみる価値はあるはずだ。
「はい、竜には竜の過ごし方があるでしょう。やはり、今後のバルミントのためにもいいかと思います」
「そうですか。中庭の騒ぎ声が小さくなるのは、寂しいですが……」
ヴィーネの気持ちはよく分かる。俺だって寂しい。
だが、ヘルメの話す通りバルミントの更なる成長のためには必要不可欠だろう。
続けて、今後の展望を話し合っていく。
「閣下、ヴェロニカのように【月の残骸】の副長であるメルを、選ばれし眷属である<筆頭従者長>へ昇華させないのですか?」
「精霊様の案は一理ありますね。対闇ギルド戦において戦力アップは重要かと」
メルの眷属化か。
前に、ベネットとともに考えたことはあるが、彼女たちの場合は……ヴェロニカが自分の眷属にするかもしれない。
「……メルとベネットは、多分、ヴェロニカがじかに眷属化を行うと思う。正確には聞いていないので分からないが、彼女は眷属化を行いたい人材が既にいると話していた」
「あ、そうなのですか。血魔力については聞いていたのですが、眷族については、聞いていませんでした」
「そういえば……彼女は閣下の眷属で、唯一<血道第三・開門>、第三関門を獲得しているのですね」
ヘルメが目元から霧状の水分を放出しながら語る。
あんさん、器用なことを……。
「……そそ。元々はヴァンパイアの先輩だ。俺がたまたま持っていたアイテムで人族に戻れたから眷属にできたが」
「その元々持っていたアイテムを内包していたアイテムボックスを持っていた者、確か、名をクナ。魔族と聞いていましたが、聞いた範囲ではただの魔族とは思えない人脈です。そして、閣下は時々、その名前を出すと、眉を曇らせたような表情を見せます……」
そりゃ……。
「聞いて驚くなよ……その名も、世界のクナショック! というモノが起きたのだ」
「……意味がわかりません」
「ご主人様が、美人な女性にだまされて、振られてしまった? ということですか?」
ヴィーネさん、的確すぎる……。
エヴァ染みてきたぞ。もしや、俺に話をしていないだけで<血道第二・開門>を獲得済みか?
心を読む系の能力に目覚めていたりして……。
「……ヴィーネさん、つかぬことをお聞きするが、実は第二関門を獲得していますか?」
俺の問いにヴィーネは、『はて?』といったように、まばたきを数回行ってから、
「いえ、ご主人様。まだだが……でも、突然に口調を変えられて、どうかなされたのか?」
「ううん、気にしないでくれ。そういう年頃なんだ」
「閣下、意味がわかりません」
「いいんだよ、グリーンだよ!」
と、意味もなくテーブルクロスの端の色へ指を差す。
決してビールではない。
「……精霊様、きっと、クナの名を出したからですよ。ご主人様とて、宗主様とて、心の傷はいえぬもの、なのかもしれません」
「……そうですね。しばらくは封印しましょう」
「はい」
二人の美人さんは、頷き合っている。
……別にクナのことは関係ない。と、思いたい……。
ごまかすように、そばで控えているクリチワの姿を見ていく。
彼女は耳が狐耳だ。
時々、あの柔らかい耳を触らせてもらっている。
感触はふあふあで気持ちいい。
彼女と視線が合うとニコッとしてくれた。
うむ、仕事の笑顔だが、それもいい。
「……閣下。そのメイドたちと戦闘奴隷たちの件でも提案があります」
参謀長の雰囲気を醸し出すヘルメの言葉だ。
視線を美人メイドに向けていたのを見ていたらしい。
「何だ?」
「秋も中頃、そろそろ地下オークションの日にちも近付いてきました。ですから、念のため、屋敷の要塞化を兼ねて、彼女たちの眷属化を考えた方がいいのではないかと……」
神聖ルシヴァル帝国の流れか?
「精霊様、確かに全員を眷属化し、手っ取り早く強化を促すのも一つの考え方ですが……」
聡明なヴィーネ。
俺のことを一瞥してから、何かを思案し笑窪を作るように指を片頬へ指しながら話をしていた。
手と指、綺麗だなと思いながらも、前々から考えていたことを自然と漏らしていた。
「……戦闘奴隷たちとメイド長の三人だけは、眷属化の話を勧めるかもしれない」
「ご主人様が珍しい……彼女たちの人生、哲学、精神性を考えて眷属化はしないと思ってました」
「そりゃ常に考えているさ。彼女たちを、俺の永遠の螺旋に巻き込んでしまっていいのか? とな。だからこそ、今まですぐに眷属化をしなかった理由でもある」
アメリのような場合もある。
すると、ヘルメが涼しげな表情で俺を見据えて……、
「お優しい……ですが、閣下はいずれ大軍勢を率いる偉大な御方。オセべリア王国を裏から乗っ取るか、東のレフテン、サーマリア、西のラドフォード帝国の領土をかすめ取るか、はたまた、まったく未知の土地で、国を興すか。いずれにしても神聖ルシヴァル大帝国を築くのですからね」
またヘルメの病気が始まった。
「神聖ルシヴァル大帝国……素晴らしい響きだぞ、精霊様!」
ヤベェ、ヴィーネが興奮して影響されている。
「なぁ、そんなの作ってもしょうがないだろう? 美女たちが住む楽園を作るのなら少しは興味があるが」
「閣下……素晴らしい。血の楽園帝国、選ばれし眷属の国を作る気持ちがあったのですね。その楽園ルシヴァル大帝国で行う尻教育は、わたしとヴィーネが担当致します」
ヘルメは冗談半分で、にこやかに語っている。
尻の部分は本気かもしれない。
「お尻は専門の精霊様にお任せしますが、わたしはご主人様を正面から支えますので心配はいりません」
「正面はヴィーネに任せましょう。そして、先ほどした話と繋がりますが、参謀長としてメルをルシヴァル家に迎え入れるべきです。武と智を兼ね備えているカルードがいますが、彼は独自の闇ギルド創設&閣下のための地ならしへ向けて旅立つようなので」
忠誠度がマックスな彼女たちには悪いが……。
その理想を叶えてやるつもりはない。
「……お前たちが好きに考えるのは自由だ。が、前にも話したように、地下オークションの後は魔界を目指しながら旅をする予定がある。だから、現時点での国作りはしない」
双眸に力を入れて語る。
「了解しております。わたしは閣下の水ですので、ついていく思いです」
「……わたしも色々な想いはありますが、当初から、ご主人様の血となり骨となる思いは変わりません」
彼女たちは納得したのか分からないが、迷宮で入手した宝箱に話題は移る。
四角い水晶体、丸い専用箱に納められた天帝フィフィンドの心臓、スロザの渋い店主が古い時代の物と語った薄い鋼板のことを思い出した。
四角い水晶体は魔力が膨大だ。
何かのキーになるのかな?
どんなアイテムなのか全く想像ができない。
フィフィンドの心臓のほうは……。
もしかすると、鏡の十七面:不気味な心臓、内臓が飾ってあった黒い額縁に、納められる心臓かもしれない。
しかし、納めに行くとして、鏡の先にある部屋が本当に時間が止まっていたらどうしよう……。
さすがに時間が止まっていたとしたら、俺も動けなくなる可能性がある。
それとも、そう見えただけで……。
まったく関係がなく、十七面は普通のアイテム保管庫かもしれないが……。
ま、今は薄い鋼板の方を調べてみるか。
「……精霊様は、宝箱に入っていた装備類は要らないのですか?」
「別段に要らないです。使えなくはないと思いますが。沸騎士たちも欲しがらないでしょう?」
ヴィーネとヘルメが話をしている最中に、アイテムボックスを弄り、四角い水晶体と鋼板を取り出していく。
「そういえばそうですね……」
ヴィーネは俺がアイテムを取り出したことに気付いて見てきた。
「……ご主人様、それは石板と同じく宝箱に入っていた物ですね」
「そそ、これも中庭に設置した墓標のように、俺の魔力を送ったら起動できるかな? とね」
と、話しながら、膨大な魔力を内容している水晶体へ魔力を送ってみた。
しかし反応はなし。
これは何か別の要因が必要なのか? 別パーツ?
分からないが、暫くはアイテムボックスの中に眠っていてもらおう。
薄い鋼板の方にも、魔力を送る……が、うんともすんとも。
起動はしなかった。
カギ付きの文字も謎。これは外れか。
鋼板の方は、iPadのような機械かと予想したが……。
「……起動しなかった。飾るか。リビングの棚にでも。台にも使えるかも」
「残念ですね。さっきの墓標は反応していたのに」
「ま、こんなアイテムもあるさ、しょうがない」
四角い水晶体をアイテムボックスの中へ仕舞ってから、立ち上がる。
反応を示さなかった鋼板を持ちつつ花瓶が置いてあるシンプルな棚に向かう。
その棚の上の端に、飾りの一つとして立て掛けるように鋼板を置いた。
……さて、軽く昼飯にでもしようかな。
リビングの椅子に座るヴィーネに顔を向けて、
「そろそろ昼過ぎだけど、何か食べる?」
「はい、そうですね」
「了解、イザベル。昼飯を頼む」
と、リビングの端にいるメイド長へ頼む。
「畏まりました」
「にゃあ」
「あ、ロロの分もね」
「はい」
暫くして。料理がきた。
冷たいスープとフィレ肉。
豊富な野菜を盛った皿。
小型のパン。
酒が入ったゴブレット。
机の上に並んでいく。
仕込みといい……素晴らしい料理だ。
白身の魚をむしゃむしゃと食べていく。
「……ガルルルゥ」
お気に入りの魚なのか、誰も取らないのに獣の習性が声に現れていた。
さて、俺も食べるか。
まずは、このミルフィーユのように重なった肉だろう。
見た目は小型でフィレ肉にも見える。
……箸でその肉を押し込むと簡単に肉が割れた。
凄く柔らかい。
その一欠けらの零れた肉を箸先で掴む。
口に運び食べた。
おぉ……最初の感触はやっこいぞ!
柔らかいのは分かっていたが、想像以上だ。
そして、香ばしい。
肉の表面から内部に染み込んでいた香辛料……が、たまらない。
クルックの実だろうか?
胡椒系の香りもある。
その香りが味覚を一段階引き上げているような気がした。
美味しい肉を楽しむように、一噛み、二噛みと咀嚼を続け……ていけなかった!
溶けるなや! 悔しい、が、うめぇ!
肉は、ほのかに甘い味を残して溶けるように消えていく。
ほっぺが落ちる。思わず、ヴィーネの顔を見た。
やはり、元ダークエルフの彼女も……。
この肉の感触と味に満足だ。
美味しいと感じていると分かる。
にっこりと笑顔を浮かべている。
頬がまだらに朱に染まっていく。
「……肉、美味いな」
「はい。すばらしい味かと」
互いに頷く。
そんな高級レストランのランチのような昼飯を食べていく。
イザベルに料理の野菜と肉料理の仕込みから、色々と褒めた。
そうして、皆で和気藹々と談笑タイム。
イザベルから、肉の正体を知る。
どうやら、俺が彼女たちに預けた邪界牛グニグニとペルネーテの周囲にある大草原に生息する鹿系モンスターのカセブの肉を主力に使い、ある香辛料と魔力棒を使いつつ特別な塩もまぶして……。
独自な調理法を試したとか。
聞くところによると、王国美食会に入るために必要な秘密の五十のレシピを集めているうちに、料理の腕が上がったとか。
名を聞いてないが、やりおるな、キッチンメイド。
そんな調子で食べ終わり、まったりとした雰囲気に浸る。
「……ご主人様、席を外します」
「おう」
ヴィーネが、おしっこタイムらしく、廊下の方へ歩いていく。
彼女の歩き方はレースクイーンを彷彿とさせる……。
「にゃぁお」
「ロロ、くすぐったい」
この間と同じだっ!
と、お返し――。
「にゃ、にゃあんー」
目的は、俺の胸にかけたネックレスらしい。
師匠から頂いた鍵付きネックレスを、爪で遊ぶように弄り出す。
前足から出た爪と金属が擦れて、チャリッと音を立てていく。
その直後、首元から二つの小さいお豆さん触手を俺の頬へ伸ばしてきた。
気持ちを伝えてくる。
『好き』『遊ぶ』『空』『空』『好き』『遊ぼう』
荒野から戻ってきたら空の散歩へと行くか。
と、考えながら
「……ヘルメ、さっきのバルミントの件を進めるつもりだ」
「はい、閣下のお目目に入りますか?」
「いや、いいよ」
「では、千年ちゃんを連れて、植木、花々、未知なる植物が売られているという、使用人とメイドたちが話していた植物の祭典市場を見に行ってきます! 新しい兄弟、お尻愛を増やしてあげるのです!」
千年ちゃんか。彼の兄弟、
この間も地面に埋めていたし、仲良くなったようだな。
そういえば、彼女は尻好きの前に、植物へ水を上げて、植物を愛でることが好きだった。
尻の印象が強すぎて薄れていたが。
しかし、その植物の祭典?
そこに売っている植物の中に、あんな喋る邪神シテアトップの流れを組む千年植木が売られているかどうか……。
いや、この世界だ、可能性はあるか。
邪神もそれらしいことを話していた。
……今はラッパーというより壊れて変な歌手風の植木だけど実際に存在しているのだから、他にも面白い植木が売られているかもしれない。
俺もカフェで流れるような渋いBGMを聞かせてくれる植木が欲しい。
「……それじゃ、念のために金を渡しておこう」
アイテムボックスから白金貨と金貨を大量に取り出し、机の上に置く。
「これで好きな植物をたくさん買えると思う。あと、その市場で千年植物に釣られて、変な行動は慎むように」
「はい、ありがとうございます」
それじゃ……。
竜婆のサジハリがいるか分からないが、バルミントを連れて
中庭へ向かう。
「バルミント~」
「ンン、ガォォォ」
厩舎の前で、寝転がっていたバルミントは起き上がると、トコトコと駆け寄ってくる。
バルミント、
真ん丸の一対の眼と鼻がひくひく動いて、カワイイ。
「ンン、にゃお」
肩にいた
「――痛っ」
その際に、
傷口から、大量の血が滴り落ちた。
「にゃおー」
地面に降りた
「気にするな。一瞬で回復するし、いつものことだ」
と、口癖の言葉をいいながら、笑顔を意識。
半袖のハルホンク衣装だしな。仕方なし。
<血道第一・開門>を意識して、血を戻そうかと思った瞬間、
「――ガォォンッガッ」
バルミントが、勢いよく懐に飛び込んできた。
そして、そのバルが一心不乱に、がっつくように腕から滴り落ちる俺の血を舐めている。
その時、右手の親指の爪の表面を刻むネイルアートの竜紋が反応。
バルミントの契約の証しが光った。
同時にバルミントの小型竜の体が血の色を帯びながら一回り大きく成長。
背筋側に赤黒いコントラストが綺麗な甲殻が新しく生えた。
根元と甲の先の部分の色合いが変わるし、魔力の変化が美しい。
俺の血がバルの進化を促したのか?
「……バル、俺の血、美味しかったか?」
「ガォォンッ!」
お、顔が少しだけ凛々しい。まさに、
俺の魔力とロロディーヌの魔力を受けて生まれてきただけに、ルシヴァルと親和性が高かった?
……成長したら光闇を受け継ぐ最強ドラゴンとなるかもしれない。
「……そかそか」
「ン、にゃにゃおん」
首元、いや、全身から生やした複数の触手群をバルミントへ向けて伸ばしていた。
そのまま、少しだけ進化したバルミントを、触手たちを使い、かつぐように上に持ち上げて……。
全身のマッサージをしてあげていく。
「ガゥンッ、ガァッ、アゥゥーガァォォー」
小さい四枚翼を広げ『ここもマッサージしてぇ~』みたいな声を出している。
このままだと、最強どころか、まったり竜に育ちそうだ。
しかし、竜婆の魔女サジハリが、この大人しいバルミントの姿を見たらどんな反応を示すやら……。
期待と不安を抱きながら
「……バルミント。同じ竜系の種族に会わせてやるからな。もしかしたら、バルの師匠になってくれるかもしれない」
「ガォォ?」
そう話しながら、四の記号をなぞりゲートを起動させる。
ゲート先の光景は前と変わらない。
茶色の岩肌と地面に武具の残骸、宝飾品が散らばっていた。
あの宝飾品……価値がありそう。
「……サジハリの姿は見えないが、ロロ、バルミント、行くぞ」
「にゃお」
「ガオッ」
「プボプボォォォン」
厩舎前で見ていたポポブムが寂し気に法螺貝を鳴らす。
が、ポポブムは留守番だ。
アーレイとヒュレミはポポブムから離れて、神社を守る狛犬のように門番としての仕事をしていた。
陶器製状態で反応はなし。
それはそれで寂しい。
けど、偉いなと思いながら
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