二百六十三話 ムラサメブレードの切れ味
「なんだ、緊急とは」
「突然、港側の倉庫街に海光都市の魚人海賊たちと思われる集団が現れたのよ。魚人たちは素早く縄張りを築いて、濃度の濃い魔薬、違法奴隷の商売を勝手に始めているわ。今、それを止めさせるために、メル、ベネット、ポルセン、アンジェ、ルル、ララ、ロバートたちが率いる月の残骸の兵士たちと、その魚人共が睨み合っている状況なの」
「ついに来たか……」
魚人海賊と盟約を結んでいた【梟の牙】が潰れて日が経つからな。
「いいから、急いでよ。口に黒いお毛毛がついてる、猫好き総長!」
「――わかったよ」
口を拭ってロロの可愛い黒毛ちゃんを取る。
一応、血文字で、他の<筆頭従者長>たちに連絡しておくか。
『港側の倉庫街にて、海光都市から進出した魚人海賊の一部が縄張りを築いたらしい。ウォーターエレメントスタッフの件かもしれない。俺はそこに向かう。暇だったら来てもいいが、先に俺が向かう以上、待ってはいられないからな』
と傍にいるヴィーネとヴェロニカ以外に血文字を送った。
『ん、分かった。まだ素材狩りに出てないから、倉庫街の港にいく』
『了解~。エヴァと一緒に向かう』
エヴァとレベッカは買い物デートだったようだ。
『賭博街で遊びながら、【月の残骸】の手伝いのつもりで見回り中だったけど、父さんと合流して急いで向かうから』
ユイは個人的な見回りか。
カルードと合流してからとなると遅れそうだな。
『今、講師の仕事中だからいけないわ』
ミスティは当たり前の返事。
全員の返事を見てから、ヘルメに視線を向ける。
ヘルメの休んでいるゾーンには新しい彫像と花飾りが増えていた。
使用人たちのヘルメに対する信仰心が高まっている。
新興宗教、ヘルメ教は、もう始まっているのかもしれない。
数千年後にヘルメ像が……。
教義にお尻を捧げるとかありそうだ。ヤヴァいな。
そんなオカシナことを考えて、一人笑いそうになったが、
「……ヘルメ、出かけるぞ、左目に来い」
「はいっ」
ヘルメは、水状態になると、液体のままスイスイと床を這うように俺の足下まで移動してきた。
すると、液体ヘルメの中央部が山なりなままグイッと盛り上がった。
そんな山なりの液体ヘルメの先端がニュルッと動いて、波打つと、液体の一部が長細く変化。
その長細い液体ヘルメはぐわりぐわわりと、螺旋を描くように回りに回って、スパイラル状の液体のまま俺の左目に収まってきた。
動体視力が良いから、良く分かるが、ビームを浴びているような印象だった。
左目にヘルメを納めてから、ヴィーネに視線を向ける。
ヴィーネは朱色の厚革服を着て胸ベルトのアイテムボックスを装着していた。
戦闘モードだ。
ヴィーネのおっぱいが少し隠れるが、その隠れ方が……。
また巨乳さんを強調している感じがして、良い。
俺も装備を確認。
今は、暗緑色の半袖タイプの防護服のハルホンク。
肩の竜頭装甲は出現していないタイプだ。
アーゼンのブーツを穿いた状態だが、ガトランスの戦闘服に途中で変身するのも面白いかもしれない。
今は、この暗緑色のハルホンクの防護服で、魚人たちと相対するか。
武器は腰に差すムラサメを試す。
「……行くか」
「にゃお――」
「ヴェロニカ、ヴィーネ、外にいこう」
「はい」
「装備は、その丈夫な防護服だけ?」
暗緑色の半袖姿を、ヴェロニカは疑問に思ったらしい。
「そうだ」
「そう……なのね。半袖? でも、祭りでの戦いを見ていたから、丈夫なのは知ってるけど」
彼女は訝しむが、俺の事だから深くは追及してこなかった。
二人を連れて中庭に出る。
その瞬間、馬獅子型に変身していたロロディーヌの無数の触手たちが出迎えた。
「きゃ」
ロロディーヌは、俺、ヴェロニカ、ヴィーネの腰回りに触手を何重にも一瞬で巻き付かせると、黒毛がふさふさな自身の背中に運んでくれる。
今回はヴェロニカが前に座り、俺の後ろにヴィーネが座った。
「ヴェロニカ、場所の案内を頼む」
彼女の背中越しに頼んだ。
「うん、任せて♪」
俺は、ロロの胴体上に生えている黒色のビロードのような毛を優しく撫でながら、
「ロロ、とりあえず、ペルネーテの東だ」
神獣ロロディーヌに指示を出す。
「にゃおお」
走り出す相棒のロロディーヌ。
黒馬か、黒獅子か、黒豹か、黒色のカラカルか、巨大な黒オセロットか。
要するにネコ科の大きい神獣ロロディーヌだ。
その走る途中、俺の前に座ったヴェロニカは、その神獣ロロディーヌに場所の説明をしていた。
相棒は「にゃおおお」と馬でいう『ヒヒィーン』風に鳴いてから、倉庫街へ向かった。
神獣ロロディーヌは、四肢を躍動させる。
家々の壁を四肢で突くように跳ね飛ぶ。
瞬時にペルネーテの空を飛ぶように駆けた。
ロロディーヌが突いた家の壁が……どうなったかは知らない。
あっという間に、到着した。
「……ここよ。しかし、凄い子ね、ロロちゃん、いや、ロロ様は……」
ヴェロニカは左手でロロディーヌの黒毛を撫でている。
「にゃおん」
鋭角な耳をピクピクと反応させて、ヴェロっ子に反応するロロさん。
「ふふ、カワイイ声。やっぱり様ってより、ロロちゃんかな? さ――降りるわよ」
華麗に着地するヴェロニカ。
ヴェロニカは神獣ロロディーヌの爆速移動は初体験だったはずだが、ヴィーネとは違った。
足にくることはないようだ。
俺も続いて降りた。
ヴィーネも降りたが、モデルのような長い足をふらつかせていたから、直ぐに支えてあげた。
「ご主人様、毎回、すみません」
「気にすんな、いつものことだ」
選ばれし眷属なんだが、これは治りそうもないな。
昔の感覚が残っているのかもしれない。
さりげなくヴィーネの背中を支えながら銀髪を触っていると
すると、ヴェロニカが、
「こっち」
ヴェロニカに付いていく。
無数の魔素が集結している場所がある。
港も近いのか、海の匂いも漂ってくる。
空にカモメ風の鳥が飛んでいく。
冷えていない通りの赤石と倉庫の石壁から、よどんだ暑い空気を感じさせた。
秋だが、倉庫街に人が集まっているせいもあって暑い。空はいい天気。
そんな呑気な考えを浮かべながら、通りの角を曲がると、
「あ、ヴェロニカと総長!」
【月の残骸】を率いるメルがいた。
待っていましたと言わんばかりに、彼女は品のある唇の端を上げて笑顔を見せる。
「総長のお出ましだっ、勝ったね、この勝負!」
ベネットは新しい弓を掲げると宣言している。
「シュウヤ様、お待ちしてました」
「総長様、パパと待ってました」
ポルセンとアンジェだ。
初めて会った時と態度が違うアンジェ。
ツンは、もう俺に対して起きないらしい。
彼女とポルセンに指輪の件を話すのは、またあとだな。
しかし、姉のヴァンパイアハンターのこともあるし、話をしないといけないとは思う。
「総長がきた!」
「ララ、まだ前を見てて」
「総長……」
ルル、ララ、ロバートはそれぞれ武器を抜いて構えていた。
「総長が来てくれたぞー」
「おぉーー」
月の残骸の兵士たちも騒ぐ。
彼ら兵士は熱気を発散していた。
むっとする熱気を運んでくる勢いだ。
その反対側の向こうには、頭の上と首から桃色と紫色が混ざったモヒカンのような長いエラが生えた魚人たちの姿が多数確認できた。
『彼らと戦うのですね。皆、中々の魔力操作をしています』
ヘルメが指摘している通り、魚人だからな。
「あいつらが、魚人海賊か、【海王ホーネット】か?」
メルに話しかける。
「いえ、それが、ガゼルジャン魚人海賊【油貝ミグーン】という組織らしいです。同じ海光都市から来たと名乗っていましたが」
「なんだそりゃ、少し、話しかけてみるか」
「どうでしょうか、無手の場合は分かりませんが、武器を持って彼らに近付きますと、一方的に槍投げが始まりますよ?」
「構わない。交渉できないなら潰す。メルは幹部の一部を引き連れて、この港近辺を含めて、同じ魚人系組織が進出してないか調べてこい」
「わかりました――ヴェロニカ、ベネット、ポルセン、アンジェ、行きますよ」
「了解」
「わかりました」
「はい」
「いやよ、総長と一緒に戦う」
「ふーん、欲しがっていた新しい骨を手に入れてあげたのに、要らないのね。分かった」
メルは嫌がるヴェロニカを見て、嗤いながら語る。
「えっ、もしかして、ホルカーバム産じゃなくて、ララーブイン山にある古代人の骨を?」
ヴェロニカは目の色を輝かせる。欲しかったものらしい。
「そうよ」
「ごめんなさい。メル、頑張ろう? 新しい血剣ぐるぐるの舞いを見せてあげる♪」
「ふふ、そうこなくっちゃね。それじゃいくわよ――」
メルに率いられた【月の残骸】の兵士たちが素早く移動していく。
残った兵士は約半分か。
『ヘルメ、お前は魚人たちの右背後、右側面へ回れ、俺が戦い始めたら急襲しろ』
『はい、わかりました』
左目から出る水状態のヘルメ。
煉瓦の床の表面を、液体のまま――。
スルスルと移動して魚人たちのほうへと向かう。
「ロロ、お前は陰から左側面にある高い建物、倉庫の上に登れ、戦いになったらそこから急襲だ」
「にゃぁ――」
宙でむくむくと黒豹に変身。
四肢を躍動させて駆けた。
倉庫の陰に向かう。
相棒の走る姿を見ながら、ヴィーネに、
「まずは俺が最初に交渉を行う。交渉が決裂し戦いとなったら、ヴィーネは、いつでも攻撃に参加できるようにしておけ、周りの兵士たちの指示を任せる」
彼女は指揮能力もあるはずだ。
地下での経験は伊達じゃない。
「……わかりました、お任せを」
「総長、わたしたちは何をすればいい?」
「突っ込むのー?」
「先陣なら、俺もできるぞ」
ルル、ララ、ロバートか。
「お前たちは、俺の従者であるヴィーネの指示に従え」
「わかりました。ララです。綺麗な銀髪の青い肌のエルフお姉さん、宜しくお願いします」
「ルルだよー、わかったー。おっぱいお姉さんの指示に従う」
「了解した。この間、総長が紹介していた家族の一人か。珍しいダークエルフで強そうだ。素直に指示に従おう。俺の名はロバートだ」
ヴィーネはルルとララとロバートの挨拶を受けて、微笑を浮かべる。
だが、直ぐに冷然とした態度になる。
冷たい眼差しで彼女たちを見つめていた。
「はい。宜しくお願い致します。では、ご主人様のお楽しみを邪魔にならないように、戦うコツをお伝えしておきましょう……」
ヴィーネは戦術的な話を始めるが、ルルとララの頭には確実に入っていないと思われる。
綺麗な銀の髪を彼女たちに弄られていた……。
ロバートは真剣に頷いているので、彼なら実行できるだろう。
さて、俺はネゴシエーションを楽しみますか。
今日は二度目だけど、指の関節をぽきぽきと鳴らし音を立てていく。
魚人海賊の顎下、首から耳上にかけてある桃色と紫色が混じった長いエラが首の後ろまで続いている。
その特徴的なエラ魚人たちのもとへ近寄っていった。
微笑を浮かべ歩きながら、
「こんにちはー、魚人海賊の皆さんっ、元気ですかー」
間の抜けた大声を叫んでいた。
場違いな挨拶に、魚人たちはざわめき出す。
「素手の男が近付いてきたぞ?」
「闇ギルドじゃないのか?」
「お頭ァァァ、変な男が近寄ってきますー」
「元気だぞおおお」
「俺も元気だー」
数人、挨拶を返してきた真面目な魚人がいた。
そんな魚人たちの中から、一際、大柄の魚人が姿を現す。
大きい……有に三メートルは超えている。
紫色の鱗顔にある窪んだ双眸の奥に、碧色の眼光を灯していた。
魚人のむきだしの体は、つるつるで毛がなく、筋肉の隆起した胸と腹に、鋼のような薄紫の鱗皮膚がぴんと張っている。
「ここは我らガゼルジャン魚人海賊【油貝ミグーン】の縄張りだ。人族の小童よ、離れていろ」
「なんで、ここに縄張りを作ったのですか?」
そう質問すると、魚人はきゅっと細まった視線を作り、
「人族の小僧、そんなことはお前には関係がない」
「魚人海賊様、そこを教えて頂けるとありがたいのですが」
頭を下げてから、丁寧に話す。
「……そんなに知りたいのか? 海光都市で優秀な
ヴェロニカが話していたことと符合する。
「いえ、女は間に合ってますし、魔薬も要りません。魚人さんたちは、金を稼ぐのが目的ですか?」
「買わないのなら、もうお前に用はない。これ以上の言葉はいらぬぞ。次、その口から言葉が漏れた時、この海槍グヌーンが、お前の喉仏を、命を、刈り取ることになる」
大型な体格に見合う三つ矛の大槍をぐるりと手前に回した魚人。
その穂先を俺に向けてきた。
「ククッ……」
碧色の眼光を宿す魚人は、ニヤついた掠れた声で嗤うと、銀色の鋭い歯を見せてくる。
もうこいつに、敬語は必要ないな。
「……あっそ、で、言葉が漏れたが?」
「舐めた真似を! 人族めがぁぁぁ――」
愉悦顔から一転、大柄魚人は倉庫の建物群が振動するかのような怒気を発し、敵意剥き出しの表情から、三つ矛の槍を伸ばし、どたどたと足音を立てるように前進してきた。
その瞬間、左手で小銃を抜くように腰に差していたムラサメを取る。
そして、暗緑色の
ゼロコンマ何秒の間に、右手首のアイテムボックスから黒い特殊繊維が発生。
腕を黒繊維が這い体を覆うように自動で展開されていく。
俺は暗緑色から漆黒色の戦闘服姿へ変身を遂げた。
左手に握るムラサメもそのままだ。
そのムラサメの鋼の柄巻へと魔力を込めた瞬間――。
――ぶぅんと音を立てながら青緑色の光刀が出現した。
走ってきた魚人は速度も速く槍の腕もそこそこだが――。
目の前に迫った三つの矛を、半身をずらして避けていく。
――眼前を過ぎていく三つ矛の槍、柄の模様が綺麗だ。
狙いは、その槍の根元――ムラサメブレードを即座に掬い上げた。
光刀が、槍の柄を通り抜けた。
蒸発するような音が響く。
三つ矛の槍の根元をあっさりと切断した。
さすがは、ムラサメの光刀。
プラズマか不明だが、何でも斬れそうな雰囲気だ。
「な、なんだと!?」
大柄魚人は驚く。
獲物の三つ矛の大槍を自慢そうに扱っていたからな。
が、そんなことは知らん。
お返しだ――ムラサメに魔力をたっぷりと込めてから、いきなりの<投擲>。
ぶぅんっと効果音を宙に響かせながら、ムラサメブレードは飛翔していく。
「――ぎょばっ」
大柄魚人の眉間に青緑色のブレードが突き刺さった。
脳を焼き切ったのか、魚人は変な断末魔の叫び声をあげ、寄り目状態で背後に倒れていった。
その直後、魔力が途切れた光のブレード部分が消え、鋼の柄部位だけとなってから、魚人の顔から転がり落ちていくのを確認。
「――お頭が死んじまったァァァ」
「だが、あいつは武器を持ってない、隙だらけだっ! 人族をやれぇぇ」
その瞬間、右側面で水状態で待機していたヘルメが人型になり、
「やらせません!」
氷礫の魔法を魚人たちの集団に撃ち放っていた。
「ギャアァァ」
「ぐえッ」
「え? 右に女が出たぞおおお」
続いて、左の倉庫上にいた
「にゃごおお――」
全身から射出させた大量の触手骨剣を魚人たちの集団へ伸ばしながら、飛び掛かる。
「おい、今度は空に怪物!?」
「怪獣マンターンか? ぐぁ」
触手骨剣が瞬時に二十人近くの魚人を突き刺していた。
その咬み殺した死体を踏み台にして、縄張りに侵入した相手を唸り声で殺すように荒ぶる声をあげながら次の標的へ向けて空を飛ぶように移動。
荒ぶる神獣獅子――堅い土の地面に着地。
その土地面を足から伸びていた鋭い爪で削り取る勢いで、素早く四肢を躍動させ走る。
駆けながら、伸びた前足の爪で、魚人の足を引っ掻くように切りつけていた。
続いて、俺の背後からはヴィーネの光線矢が、
次々と、正確に魚人たちの眉間を捉えて射殺していた。
「――総長、俺も混ざるぞっ」
両手剣のロバートだ。
彼は、俺の横を走り抜けながら、右斜め前にいた魚人を肩から袈裟斬りに切り伏せていた。
「ぎぇぇ」
魚人は肩からぱっくりと大きく裂かれて血が噴出。
「王剣流で、混ざるー」
「絶剣流でいくー」
ルルとララの二人も、それぞれに剣術の流派を名乗りながら、交互に交差するように走る。
狙いを付けた魚人に斬り掛かっていた。
二人は分身したのか? と、錯覚するような、身体の重なりを生かす可憐な独特の剣術の連携斬りで、魚人を真横から真っ二つにした。
その間にも、背後から弓矢が放たれてくる。
【月の残骸】の兵士たちの矢だ。彼らは前線に出てこなかった。
ヴィーネがちゃんと指示をしているらしい。
俺も大柄魚人の横に転がり落ちたムラサメを左手に呼び戻し念動を行うようにキャッチ。
スムーズに、腰に差し戻す。
ガトランスの戦闘服の腰に、ムラサメブレードの鋼の柄巻を収納できる専用のスポットがある。
そして、右手に魔槍杖を召喚。
さて、本格的に殲滅戦を行う前に、宣言しておくか。
「――お前たちは、無手の俺に対して矛を向けた。理由はどうあれ、お前たちは殲滅対象となる!」
そう叫び声をあげると、挑発と捉えたのか、怒り狂った魚人たちが、俺に吸い寄せられてきた。
「糞がぁぁ、人族めぇっ、おとなしく魔薬をやっとけやぁ」
「囲めぇ、まだ数ではこっちのが上だぁ」
「お頭の仇をおおお」
正面から一、右側面からも一、突撃してくる魚人の姿を捉える。
待たずに迎え撃つ。
まずは、正面から来た土手っ腹を持つ魚人だ。
腰を捻りながら左足で地面を踏み咬みながら、魔槍杖を握る右手を捻り出す。
紅矛螺旋の<刺突>を、前方の魚人の土手っ腹へ突き出した。
螺旋した<刺突>の紅矛が土手っ腹を突き破る。
「――ぐあっ」
魚人の腹に刺さった魔槍杖を引き抜きながら、視界に、右から俺の首を突き刺そうとする槍矛が見えたので、爪先を軸に回避だ。
――体を回転。
首を突き刺そうと伸びる槍矛が、鼻先、頬、耳先を掠めるのを感じながら回転避けを行い、その回転運動する勢いを乗せた右上段回し蹴りを、槍突を繰り出してきた魚人の頸へ吸い込ませる。
魚人の頸にめり込んだ右足の甲。
アーゼンの堅い黒革は魔竜王製の足防具より威力があるかもしれない。
魚人の頸は千切れて、左方へ飛んでいく。
魚人の頸を刈り取ってやった。
駒のような蹴りを下半身に戻しながら、同時に引き戻していた魔槍杖を横へ百八十度振り回し、回避運動の隙を見せずに、次の攻撃へ移る機会を窺う。
魚人たちは、魔槍杖と蹴りのコンビネーションを生かした振り回しを見て、動きを止めていた。
駒のように回る俺を警戒したらしい。
距離を詰めてこないなら、詰めてこない戦術を駆使するまで。
魔槍杖を消してから、大文字を作るように両腕を左右へ伸ばした。
そして、両手首の位置にある<鎖の因子>マークから<鎖>を射出。
左右斜めに伸びた二つの<鎖>。
距離を取っていた魚人たちの首やエラを突き抜けていた。
「ぐふあぁ」
「ぐぐぞおぉ」
<鎖>は、首とエラの部位をちゃんと貫いているけど、彼らはまだ生きていた。
タフだ……まぁ、いい。それなら……彼らの胴体へ<鎖>を絡ませてやる。
よし、十分に、雁字搦めにした魚人同士を、勢いよく正面衝突させてやった。
頭と頭に星マークどころか、陥没した血飛沫の星マークを作る魚人たち。
「なんだありゃぁ」
「やべぇ、ただの槍使いじゃねぇ」
「――遠距離戦に備えろっ」
「俺は逃げるー」
死骸に絡んだ状態の<鎖>を消失。
再度<鎖>を出現させる。
ひさしぶりに左手の<鎖>を棒状の三節棍へ変化させる。
右手の<鎖>で普通の偽槍を作成した。
三つ目の腕化は必要ないだろう。指の状態のままだ。
逃げる魚人たちは追わずに、まだ残ってる魚人へ直進。
狙いを付けた魚人の足へ三節棍を伸ばし、強打させ、足を折る。
「ぎゃぁぁ」
折れた足を抱えこむように沈んだところへ、右手の偽槍で頭蓋を突き刺し止めを刺した。
その直後の隙を狙った、魚人たちから投げ槍が放たれてくる。
急ぎ、ステップワークを踏みながら放たれた槍を避け、右手の偽槍を崩し、ホプロン型の鎖盾を作り出しては、無数の投げ槍をそのホプロン型の鎖盾で弾いていく。
相手は距離を詰めてこない。
逃げながら投げ槍で対処するつもりらしい。
ホプロン鎖盾を使いながら、魔脚で素早く前進。
後退した魚人の足目掛けて左手にある三節棍の<鎖>を伸ばす――。
が、その途中から棍を崩し蛇のように蠢く<鎖>に変化させた。
足を<鎖>の先端が貫く。
<鎖>を足に絡ませて捕まえた。
「げ、何故、俺なんだぁぁぁ」
運が悪いことを嘆くように、そんな叫ぶ声をあげる魚人を引き寄せるとしよう。
――足に絡ませた左手の<鎖>を収斂。
「ひぃぁ」
俺の足下にきたビビる魚人。
その頭部目がけて、右手のホプロン鎖盾を打ち下ろす――。
魚人の頭部を潰して血を浴びた。
血飛沫が起きた瞬間――。
投げ槍を実行していた魚人たちが一斉に背中を見せて一目散に逃げていく。
「逃げるのだめー」
「これを投げちゃうからー」
ルルとララは拾った剣と槍を使い<投擲>を行う。
次々と逃げる魚人の背中に剣と槍が突き刺さっていた。
ルルとララは幼い。
それ故、その非情な行為を楽しむ姿勢に独特の迫力を感じた。
ヴィーネも【月の残骸】の兵士たちへ追撃戦の指示を出したらしい。
多数の兵士たちと共に前線に躍り出る。
背中に靡く銀髪を躍らせながら近付く魚人をガドリセスの魔剣で切り伏せていた。
逃げ惑う敵には狙い済ませた翡翠の
さすがヴィーネ。
弓道とはまた違うが、美しい構えだ。
確実に光る矢で魚人たちを仕留めていた。
そこに、ロバートが多数の【月の残骸】の兵士たちを連れて、港の奥へ走っていくのが見える。
これは勝ったかな。
「にゃおおぉーん」
と、勝鬨の鳴き声を発した。
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