二百六十二話 ガトランス&ムラサメ

 

 朝、横で寝ているダークエルフのヴィーネに、


「今日はこのアイテムボックスへ魔石を納める」


 と、右腕に嵌まる腕輪状のアイテムボックスを見せながら話していた。

 ヴィーネは銀髪の一部を首の横から背中へ流してから、


「……前に、鉄の杖のような物を出していた?」


 澄み切った声で聞いてきた。

 俺の腕を見てから見つめてくる。


 銀色の目に反射し映る俺を見ながら、


「そうだ。昔、留守番していたヴィーネが着ていた黒いコートも、この特殊なアイテムボックスから貰った物」

「あ……はぃ」


 ヴィーネは自ら慰めていたことを思い出したらしい。

 恥ずかしそうに顔を逸らし、腰をくねらせた。

 青白い背筋から、くびれた腰の艶がある肌を見せてくる。

 タオルケットがそのキュッと身が締まった腰に悩ましく巻き付き、綺麗な腰椎の一部と半分の尻を覗かせていた。


 純粋に美しい。絵画の女神ポーズといえる。

 そんなセクシーな背中に唇を当て背骨のなだらかなラインに沿うように、キスを重ねて……。


「あっ、ぅん、ご、ご主人様……」


 ヴィーネは反る。その姿勢も実に悩ましい。

 ヴァニラの匂いが漂うヴィーネの皮膚を伝う寝汗と色っぽい声の反応を楽しみつつ……。


 寝台から起き上がった。


 俺は素っ裸の状態。

 股間のもっこり山は捨て置く。


 そのまま右手首にあるアイテムボックスを操作して、魔石を取り出した。


 地下二十階層で集めた大魔石の一部をアイテムボックスの◆マークへ納めていく。


 ―――――――――――――――――――――――――――

 必要なエレニウムストーン:完了。

 報酬:格納庫+60:ガトランスフォーム解放。

 ――――――――――――――――――――――――――――


 アイテムボックスから虹色の眩い光がスパイラル状に放出。

 俺の周囲を祝福するかのように虹色の光が舞う。


 虹の風に頬が撫でられたような気がした。

 その風のような虹色の光は、中空の一か所の位置に集結し、上服を形作る。

 黒を基調とした戦闘服コートが出現していた。


 触ると表面はサラサラしている。

 炭素系のカーボンナノファイバー? 

 セルロース系のナノファイバー合成樹脂か、分からないが、魔力も感じられるし薄く丈夫な生地なのだと判断できた。


 腰と胸元に記章付きの飾り溝が付く。

 滑らかな繊維素材の表面には釦と黒ベルトが幾つか付いている。

 留め金の金属もいい。洗練されたデザインの戦闘服。

 素晴らしいユニフォームだ。

 その真新しい近未来風の戦闘服に袖を通して、襞を伸ばすように身に着ける。

 すると、空気が自然と抜けながら体にフィット。

 俺の皮膚の表面と新たに融合してユニフォームが肌とくっついた。


 おお、不思議。感覚が繋がった。

 これハルホンク系? と、予想しながら右肩から右腕を見る。


 右肩は普通に繊維層で覆われていた。

 そして、右手首、アイテムボックスの周りだけ特殊な機構となっている。

 アイテムボックスの風防の金属飾りを縁取るようにユニフォームの戦闘服が融合を果たしていた。

 ユニフォームとアイテムボックスの間には、電子回路の基板と似た模様が生まれている。


 試しに、ここでハルホンクを意識したら右肩に現れるか?

 と、ハルホンクを意識。


 刹那、黒い特殊繊維の戦闘服が自動的に蠢きつつ右肩に空きスペースができると、竜頭の金属甲がその空きスペースを埋めるように肩から浮き上がった。


 現れ方が、肩の皮膚を変質させつつの変化だから不思議だ。

 そして、ングゥゥィィの声を期待……。

 『黒いの喰わせろ』とか聞きたかったが……声は今日もなしか。


 さて、試しに出現させた、このハルホンク君。

 試しただけなので、消えてもらおうと、竜頭の金属甲を意識して消失させた。

 金属甲の中央が、ぐにょりと音が鳴りつつ内側に窪むと、一気に右肩の中に折り曲げられるように吸い込まれていく。

 直ぐに、その空いた右肩の表面をガトランスフォームの黒の特殊繊維布が自動的に覆った。

 こりゃ便利だ。

 ガトランスシステムに組み込まれた形状記憶の特殊繊維が仕込まれているのか?

 または物質をナノマシン的な魔法の力を用いて原子レベルで解体、再構築を行っている?


 この漆黒のユニフォームが包む腕と連なる手と指にかけても指抜きグローブのように黒い繊維層で指が半分覆われている。

 甲から手首に掛けて、<鎖の因子>のマークの位置は、ハルホンクと同様に穴がちゃんと空いているし、色合いの濃淡も微妙に違う。


 細かな線が<鎖>の位置を示すように刻まれてあった。

 渋い……。


 そして、黒い掌の中に円状の印がある。

 中心が青白い。

 イオンエンジンの噴射ノズルのようにも見える。

 幅は小さいが円の縁は水晶。

 その水晶の内部は、電子回路が密集したような作りで煌めいていた。

 なんだろうこれ……ここからビーム? 

 まさか、某ヒーローのように、空を飛ぶ時に使用する射出孔だろうか?


 いいねぇ。

 あの両手と両足を揃えて空を飛ぶポーズ好きなんだ。


 そんなことを考えながら、掌から、腰に視線を移す。

 腰の黒ベルトの一部も変形していた。

 剣が納められるように特別な剣帯が付いている。

 最初はヴィーネのお気に入りであるコートかと思ったら、肌に密着したコスチュームとはな。


 想像の範囲外だった。

 すると、アイテムボックスの表面にある半球体的な風防からレーザーが照射。

 腕の上に簡易の小型画面ディスプレイが生成。


 その小型画面ディスプレイは点滅。

 アイテムボックスと連動しているようだ。


 その小さい画面には、


 ―――――――――――――――――――――――――――

 ――音声認識可能。

 ――≪フォド・ワン・ガトランス・システム≫可動中。

 ――遺産神経レガシーナーブ確認。

 ――カレウドスコープ連携確認。

 ――船体リンクシステム……エラー確認できず。

 ――ナ・パーム統合軍惑星同盟衛星連動……エラー確認できず。

 ――敵性銀河帝国軍衛星反応……エラー確認できず。

 ―――――――――――――――――――――――――――


 カレウドスコープと連動しているのか。 

 試しに、右目の側面をタッチした。


 いつものように薄青い視界の中に淡い光を伴ったワイヤーフレーム状の細い線が浮かぶ。

 コンマ数秒も掛からず――。

 縞と横に視界が広がった感覚を受けると同時に解像度と視力が上がった。


 着替えたヴィーネに視線を移す。

 彼女の全身を縁取る姿を確認……。

 フレームがプラスされた部屋の表示もいつもと変わらない。


「……ご主人様。それは竜の金属甲ハルホンクとは、また違うのですね」

「そうだ。違う防具」

「何か、格式を感じさせる作りです」

「さすがはヴィーネ。たぶん、その通りで、どっかの軍隊のユニフォームだと思う」


 フォド・ワン・ガトランス・システム。

 とか表示されていたし。


 さて、カレウドスコープの視界はこのままにして……。

 指の関節をぽきぽきと鳴らしてから、アイテムボックスの水晶体へその指を当てる。


 その水晶のような風防から照射が続く小型画面ディスプレイを指で触る。

 『閉じろ』と意識すると小型画面ディスプレイは消えた。


 直ぐにアイテムボックスを普通に起動。

 ◆マークへと魔石を納めた。


 ―――――――――――――――――――――――――――

 必要なエレニウムストーン:完了。

 報酬:格納庫+70:ムラサメ解放。

 ―――――――――――――――――――――――――――


 虹色の光がまたもやアイテムボックスの表面から発生した。


 光の粒子が尾ひれを作るように回転しながら宙に漂うと柄の形となる。

 刀身がない鋼鉄製の柄。

 これが黄緑色に縁取っているのは、何か意味があるのだろうか?

 カレウドスコープとこの戦闘服が連携しているのも関係がありそう。


 はばきの部分からある鍔は、横に細く少し飛び出ている形。

 その下の柄巻部分は、金属だが、刀の握る部位と似たような目貫の象嵌が施されてある。


 これがムラサメか――。

 右手で鋼の柄巻を握り掴む。

 握った感触はいい。


 ――しかも軽い。

 鋼と思うが……違う金属? 宇宙の未知の特殊金属と予測。

 鑑定したら何か分かるかもしれない。

 ヴィーネにあげた黒い戦闘服も鑑定してもらうべきだったか。


 しかし、このムラサメの起動方法はやはり魔力か? 


 試しに握る鋼の柄巻に魔力を込めた。

 プラズマ染みた光刃のブレードが――ブゥゥゥンと響く。

 柄のはばきの根元から青緑色の刀身か。

 はばきの内部に光刃の放射口を備えているらしい円筒状の金属の輪でも仕込まれているのかな。


 綺麗な光刃としての青緑色のブレードだ……。

 プラズマなのかな、非常にカッコイイ……。

 あ、黄緑色にも時折変化するようだ。


 その光刃を左右に揺らして、ブゥゥン、ブゥゥンと音を鳴らす。


「それは魔法剣ですか?」


 剣術も扱えるヴィーネは興味を持ったようだ。


「似たようなもんだ」


 ヴィーネは銀仮面を外した状態。

 その双眸は青緑色に光るブレードの光に染まって見えた。


「明るくて、魅力的です……」


 そう語る彼女の頬を刻む銀色の蝶は、いつ見ても綺麗だ。

 そして、彼女が、この光刃というか未来の刀に興味を持つ気持ちはよく分かる。


 本当に、この光刀のムラサメブレードは美しい。


 魔力を止めると瞬時に光刃は消えた。

 鋼の柄巻だけになる。

 よーし、実験だ。


 アイテムボックスから銅貨を出し床に置く。


 再度、ムラサメの鋼の柄巻へと魔力を込める。

 光輝くブレードを出した――。


 ムラサメブレードの切っ先で――。

 床に置いた銅貨を突く――。

 銅貨は感触もなく、じゅあっと音を立て蒸発した。


 素晴らしい威力。これは、魔剣ビートゥ……倉庫行きか? 

 ……光のブレード使いを目指すか! 

 二刀流、魔界騎士、じゃなくて宇宙騎士を! 


 と思ったが……槍使いの神がいたら悲しむので、本格的に浮気はしない。

 剣術はこの間、ヴィーネ、ユイ、カルードから教わったからな……。

 ――徐々に覚えていけばいい。

 魔力を止める。

 鋼の柄巻だけとなった。

 しかし、この鋼の柄巻がスコープ内だと黄緑色に縁取られている意味は……。


「もしかして……」


 と、持っていた鋼の柄巻こと、ムラサメブレードをベッドへ投げてみた。

 宙を弧を描く鋼の柄巻は黄緑色に縁取られたままだ。


「ご主人様?」

「あぁ、少し実験だ、気にするな」

「はい」


 右手を伸ばした。

 ベッドに転がる黄緑色が縁取る鋼の柄巻ムラサメブレードを意識――。


「ムラサメよ、来い」


 その瞬間、鋼の柄巻が超伝導磁石に吸い寄せられるような勢いで飛んできた――。

 右手の掌に納まる。

 おぉ、念動力みたいだ。いいね。


「この掌と繋がっているのか」

「凄いですね、引き寄せました。何かのスキルですか?」

「似たようなもんだ」


 鋼の柄巻に魔力を送ると青緑色に輝くブレードが伸びる。

 魔力を止めるとブレードは止まった。

 腰にある鋼の柄巻ことムラサメブレード用だと思われる剣帯へ柄巻を差す。


 続いて、右腕のアイテムボックスをチェック。


 ◆:エレニウム総蓄量:691→1082

 ―――――――――――――――――――――――――――

 必要なエレニウムストーン大:1000:未完了

 報酬:格納庫+100:小型オービタル解放

 必要なエレニウムストーン大:1500:未完了

 報酬:格納庫+150:偵察用ドローン:解放

 必要なエレニウムストーン大:3000:未完了

 報酬:格納庫+200:アクセルマギナ解放

 ―――――――――――――――――――――――――――


 魔石の三千個……。

 アクセルマギナとはなんだろうか……。


 アイテムボックスのインベントリもチェック。


 ◆:人型マーク:格納:記録

 ―――――――――――――――――――――――――――

 アイテムインベントリ 65/260→390


 ちゃんと増えている。


 この密着した服を脱ぎたい場合は、普通に装備を解除と念じればいいのかな……。


 『コスチューム解除』


 そう強く念じた瞬間――。

 密着した特殊戦闘服がアイテムボックスの中へ吸い込まれていた。

 素っ裸に戻る。


 勿論、腰に差したムラサメは吸い込まれず床に落ちた。


 すぐに裸の状態で『ガトランスフォームを着用』と念じた。

 刹那、アイテムボックスから黒い素材が展開し、戦闘服を身に纏う。


 またすぐに『着用解除』と念じた。

 戦闘服はアイテムボックスへ自動的に吸い込まれた。


 ハルホンクと似たように運用が可能か。

 身体にあるハルホンクとは違い、このアイテムボックスと連動しているようだが……。 

 素っ裸状態で、ムラサメを見る。


「……」


 ヴィーネは炯々とした凄まじい目で俺の一物を凝視していた。

 が、相手はしない。いや、相手にしてほしい。もとい、我慢だ。


 落ちたムラサメは、もう黄緑色に縁取られてはいなかった。

 一応、そのムラサメに向かって右手を伸ばす。


「来い」


 と、念じながら呟いても、さっきと違い、自動的に掌の中へと戻ってこなかった。


「やはり、ガトランスの戦闘服と連携しているのか……」


 床にあるムラサメブレードの柄巻を拾う。

 柄は鋼か鮫革のようなモノを生かした作りだと思う。

 その鋼に特殊繊維の糸が目貫を作るように巻かれてあった。

 鋼の柄巻だ。

 その鋼の柄巻こと、ムラサメブレードに魔力を込めると――。


 光刀としての光刃としてのブレードが生まれ出る。


「これなら、普通に武器として使えそうだ」

「綺麗……」


 光るブレードに視線を向けていたヴィーネが呟く。

 このムラサメ、彼女は使えるのだろうか。

 試してみるか。魔力を止めて、素の鋼の柄巻状態にしてから、


「これ、試してみる?」


 と、渡した。


「あ、え、はいっ」


 ヴィーネは一瞬、喜んだような表情を浮かべて寝台から立ち上がる。

 床に長い両足を下ろして、ゆっくりとしたモデル歩きで近付いてきた。


 そんな美人さんに鋼の柄巻を差し出すと、青白い手で受け取った。


「魔力を注ぐと、光の刀身が伸びるはずだけど……」


 彼女はムラサメを握る両腕を垂らし、重そうなそぶりを見せた。


「こ、これは重い……わかりましたッ」


 表情と言葉から、ヴィーネは鋼の柄巻に魔力を送っていると分かる。

 だが、うんともすんとも。


 ムラサメブレードは起動しなかった。


「わたしには使えないようです……」


 残念そうな表情を浮かべたヴィーネ。

 鋼の柄巻を返してきた。


「俺専用というより、ガトランス専用といえるかな」

「ご主人様専用。独自の武器ですね。さっきの目は楽しんでおいででした。本格的に剣術の稽古を再開しますか?」

「よく見ているな。しかし、今はいい。俺は槍使いだ」

「はいッ、槍剣流開祖です?」

「はは、二槍流に続いて槍剣流か。前にもそれ言わなかったっけ。ま、確かに、他に開祖はいなさそうだけど」

「ご主人様なら違和感ありません!」


 ヴィーネはそう言ってくれるけど……。

 まだ少しやりたいことがあるから、実験を再開。


「イモリザ、新しい腕になれ」


 イモリザは指から瞬時に小型の芋虫になると、腕を這い上がり、胸元を通って、右腕の下にくっつく。

 瞬時に新しい腕と化した。

 素っ裸状態もあれなんで、ヴィーネの顔を見ながら右肩のハルホンクを意識。

 肩の表面に竜頭を象った金属甲が浮かぶ。

 普通に半袖バージョンをイメージした。

 その瞬間――右肩の竜の口部位から暗緑色の布が展開される。


 暗緑力の半袖防護服。白銀色の枝模様が随所に施されて金具とベルトもある。

 ちゃんと右下にある新しい腕も半袖の状態になっている。


 腰ベルトにムラサメを差して仕舞った。

 そこで、アイテムボックスを、もう一度チェック。

 真空管が振動したようにブゥンと効果音を発し変化した。

 最近はあまり意識してなかったデフォルメされた謎のアバターキャラクターを注視。


 前と変わらず、顔に四つの目を持つ謎の宇宙人か何かの種族。

 そして、やはり、イモリザの新しい腕も新しく表示されていた。


 このアバター種族の絵、俺の姿に差し替えできないのだろうかと、タッチをしてみるが変わらず、無理なようだ。


 ま、いいやと、今は気にせず、この新しい腕にショートカット機能である武器を登録しよう。

 __空欄部分をタッチ。


 アイテムボックスの中に表示されている武器類が羅列されていく。


 セル・ヴァイパー、トフィンガの鳴き斧もあるが、やはり魔槍グドルルが第一候補。

 ビーム薙刀、関羽の青龍偃月刀を彷彿とさせるオレンジ刃の魔槍グドルルを登録。


 ――擬態改造義手に魔槍グドルルを装備しますか? Y/N


 このアイテムボックス、新しい腕を擬態改造義手と認識しているらしい。


 ……当然Yを選択。


 擬態改造義手と認識された俺の新しい腕(イモリザ)の掌の中に魔槍グドルルが召喚された。

 確認のため、『消失』と魔槍グドルルに念じるとパッと消失。

 新しい右下腕を意識しながら『武器よ来い』と念じると、魔槍グドルルがちゃんと握られてあった。


 再度、消失させて無手に戻す。

 これでスタンダードの風槍流。

 フェイントを交えた二槍流。

 更に、三槍流へ戦闘中にリアルタイムの変化が可能だ。


 しかし、この異星人……額が広い。

 頭部に不思議な模様もあるし……。

 異星人の文明、ナ・パーム統合軍。

 そして、『カリーム』から『ガトランス』という称号に変わった。

 軍関係の物と推察できるが……。


 ま、帝国と出ていたから争いがあるのは確実だろう。

 今はアイテムボックスとして利用させてもらう。


「ご主人様、その種族はいったい……」

「これか、アイテムボックスを使っていた種族なのは間違いないだろう。違う恒星系の異星人か、或いはこの星に住む太古の種族。目が複数ある種族は何処にでも居るからそっちのが可能性は高いかもしれない」

「……はい? 恒星系の異星人? とは……」

「ダークエルフ風だと、夜に天蓋、天井の世界が光るだろう?」

「はい、最近は美しいと思えるようになりましたが、最初は……」


 ヴィーネは表情を暗くする。

 彼女が初めて地上を放浪した頃か、そりゃ恐怖だったろう。


「……その光が太陽と同じ光を放つ恒星。その恒星の周りに惑星が回っているんだ。ここじゃ違うかもしれないが。だから、俺たちが暮らしているような惑星は無数にあると思われる」

「……よく分かりませんが、天蓋にも違う種族たちが暮らしているのですね」


 ま、その認識でいいか。


「そういうことだ」


 そこで床にある胸ベルトを掴んで、それを羽織るように装着してから、部屋を出た。

 渡り廊下に出ると、


「「――ご主人様、おはようございます」」

「おはよう」 


 そのまま、廊下で待機していたメイドたちへ腕を上げ挨拶。

 俺とヴィーネは、リビングへ向かう。

 クリチワとアンナのメイドたちが、俺の部屋に入っていくのを視界の端に捉えた。掃除かな。


「閣下、おはようございます」


 ヘルメの声だ。

 彼女はリビングの奥にあるいつもの瞑想ルームで休んでいた。


「おはよ、ヘルメ」

「はい」

「にゃお」


 机の上で香箱スタイルで休んでいた黒猫ロロも挨拶してきた。

 顔を上げて鳴いてくる。


「ロロも、おはよ」

「にゃおん――」


 俺に呼びかけるように鳴いた黒猫ロロは、香箱スタイルを止めて、むくっと起き上がる。

 両前足を前方に伸ばして、背筋を伸ばした。

 これから『体を動かすにゃぁ』とでも言うように背中の毛を立たせながらの背伸びだ。

 背伸びに満足した黒猫ロロさん。

 喉声で鳴きながらトコトコと机の上を歩いてくると、上向く。


「にゃ」

「いいぞ」


 と、笑顔で語ると、相棒は「ンンン」と喉を鳴らしながら俺の肩へ跳躍してくる。

 肩で寝場所を作るようにくるくると回る。

 途中で気まぐれを起こし、俺の首下から頬にかけて、舌を使いぺろぺろと舐めてきた。


「――うひゃぁ、ちょっとくすぐったい」

「にゃあ」


 よーし、お返ししたる!

 肩にいる黒猫ロロを掴みあげ、抱っこしながら、柔らかいもふもふの内腹に顔を埋めてふさふさ具合を堪能した。


 同時に肉球をモミモミするのも忘れない。

 黒猫ロロは幸せそうにゴロゴロとした音を喉から響かせてきた。


「ふふ、ロロ様のそのリラックス顔。わたしたちには、あまり見せない顔なんですよね……羨ましい」


 側にきたヴィーネが語る。


「閣下、わたしの胸に、お顔を埋めてみますか?」


 ヘルメは瞑想中だが、そんなことを言ってきた。

 時々やっているから今は必要ない。


「今はいいよ、瞑想しておけ」

「わかりました」


 ヘルメの声を聞きながら、胸の前に黒猫ロロを抱く。

 赤ちゃんを包むように抱くような姿勢だ。

 そのまま椅子に座り、目の前の机の上に、その黒猫ロロの内腹を見せるように上向けに、両腕を上げて万歳を作らせるように寝かせてやった。


 薄くなった毛からピンク色のおっぱいが見える。

 かわいいロロのおっぱい。


 そんな俎板の鯉状態を俺は堪能し、まったりと過ごした。


「――総長ぉぉ、緊急連絡っ」


 突然のヴェロニカだ。血の剣に乗った姿で登場した。

 緊急なら血文字で連絡すればいいのに。

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