二百五十話 冒険者、槍使いとしての言葉
「純粋な礼だ。受け取るがいい」
この竜鷲勲章はどんなものか分からない。
年金が貰えたりするのだろうか。
純粋な礼なら、もらっておこう。
「……ありがとうございます」
素直に受け取った。
綺麗な女性の使用人は、竜鷲勲章をハルホンク防護服の左胸辺りに着けようと、奮闘してくれている……が、勲章の裏の針先は暗緑色の厚い布に弾かれて針が折れそうだ。
ハルホンクはお洒落なキルティングジャケットか、外套風だから、彼女は針を刺せると思っているようだ。しかし、布っぽい厚い幅のハルホンクに針は通らない。
使用人さんは、見る見るうちに表情を強張らせた。
悪いが、針が通らないのは仕方ない。
まさに、ングゥゥィィ風の声を上げて驚いたことだろう。
「……すみません、この服は特殊で刺さりにくいかと。勲章はもらっておきます――」
「あ、はい」
『申し訳ありません』といった表情を浮かべている使用人さん。
彼女から強引に竜鷲勲章を奪う。
綺麗な彼女の手を、『大丈夫ですよ』と反対の手でギュッとしたった。
――痛ッ。
竜鷲勲章からツッコミが掌に針が刺さった。
しかし、ングゥゥィィが起きてたらなぁ。これを喰わせたのに……。
そうしたら、左胸の表面辺りに勲章を浮き上がらせることも可能だったろうし。
そんなことを考えながら白金貨の袋を取る。
どっしりとした重さと金貨の嵩張る音が気分を高揚させてくれた。
「……その勲章の他にも、大騎士という礼もあったのだが……断られてしまった」
「殿下……それは」
「……ふっ、大騎士の序列八位の地位は、お前にとっては役不足ということか?」
ファルス王子は眉を動かし、片頬を吊り上げながら聞いてきた。
「とんでもない……何度もいうようですが、俺は槍だけの男。Bランク冒険者という肩書きで十分です」
「分かっている。それはこちら側の
ニヤニヤ顔の王子。
彼は、俺が断ることを予想して聞いていたらしい。
その思惑とは……【月の残骸】のことか。
俺が大騎士となれば、自然と王子の護衛となる?
そうなれば、王子は自ずとペルネーテの最大の闇ギルド【月の残骸】を手に入れると。
「……はい、闇ギルドのことですね」
第二王子ファルス。
最初は王位を狙う野心家には見えなかったが……。
エリボル絡みの王太子派に連なる大貴族&貴族たちの疑獄。
さらに、戦争中の負け戦、王太子派の公爵の息子が起こした不祥事の邪教絡みの大事件で、さすがに腰をあげるつもりか。
というか時勢的に、ここで名乗りを上げなかったら、いつあげるんだという時勢だな。
「……そうだ。その理由だが勘違いをしてくれるなよ? エリボル・マカバインの【梟の牙】と組まなかったのは、兄の派閥であったのも理由の一つではあるが闇ギルドに対していい印象がなかったからだ。今回の大騎士への誘いは、シュウヤの持つ【月の残骸】の仕事ぶりを評価しての誘いであると思ってくれ。報告によると、火災事故で消火活動を手伝い、倉庫街がある港近辺では、子供を含む人身売買の糞な違法奴隷業者を潰し、歓楽街では、濃度の危険な魔薬業者撲滅に動いていたと聞く……衛兵隊と関わる魔薬取り引きを秘密裏に許可していた糞貴族を人知れずぶち殺したことは目を瞑ろう。いや、よくやった。更には、ペルネーテの利権を狙うラングリード侯爵の犬【ベイカラの手】に支援を受けた連中を追い払ったことも聞いている。まぁ、ラングリードの陰謀爺の手勢を潰したことは、わたしのためではなく、ペルネーテの縄張りを巡る他の【闇ギルド】に対抗する行動の一環だと理解はしているが、そういった善を含む衛兵顔負けの仕事ぶりは、治安を担う面もある優良闇ギルドと判断したのだ。錬金商会の違法な薬、縄張りでの違法な金の徴収について文句を言いたい面も多々ある……が、そのことについては目を瞑ろう」
俺の推薦の件を兼ねてフラン経由か何かで【月の残骸】の活動も調べていたようだ。
なら、正直に話すか。
「……俺は、【月の残骸】の総長、盟主でありますが、正直【月の残骸】の細かな活動は知りません。他の闇ギルドの動向を知っているぐらいでしょうか」
「……部下を信頼しているからこそできる行動と言葉だな。やはり、大騎士も務まるぞ」
「大騎士の話は断りましたので……」
そこで話を切り上げようとした。
「……では、単刀直入にいおう。大騎士が無理なら【月の残骸】の盟主として、わたしの直属の配下になるのはどうだ?」
ストレートだ。
遠まわしをせず、まどろっこしいことは嫌いか。
やはり、様々な条件が重なり、本格的に王位を狙う好機と捉えたようだ。
あぁ、だからガルキエフが派兵されるのか?
兄の王太子の負け戦に手を貸す第二王子という構図。
ガルキエフの派兵が切っ掛けで、戦争が好転すれば……ファルス王子が派閥争いで優位に立てる?
仮にガルキエフが戦場で負けても、兄を助けるために派兵したという事実は残る。
先ほど、王子自ら
貴族の面子と貴族同士のパワーバランスが、微妙に蠢いている時期なこともあるだろう。
ファルス王子が事件の公表をあえて控える形で、邪教とペルネーテの違法業者潰しの件を、貴族同士の交渉の道具に使っていると予想する。
ま、これは一つの推察に過ぎない。
だから、まったく違うことを考えているかもしれない。
【
さて、そんなことより返事をしないと。
王子の配下は、大騎士と同じく断る……が。
「……殿下、お断りします。ただ……」
「ただ?」
「レムロナとフラン、彼女たちとは今後とも仲良くしていきたい。と、思っているので……」
「ほぅ、あの二人に惚れたか。大騎士を第一夫人、その妹を第二夫人……ふむ」
「殿下、いきすぎです。配下という形は取りませんが、彼女たちの上司である王子殿下とは、今後も
深くもなく浅くもないという微妙な意味合いだが、通じないかもな。
「ふん、つまらん、妄想してもいいではないか。それにレムロナはわたしのお気に入りの部下だぞ?」
「……」
俺は黙ったまま視線を強める。
「ほぅ、勇気があるなァ、シュウヤ・カガリ」
俺の視線に合わせてそう語る王子も視線を鋭くする。
第二王子ファルスの背後から動物系の幻影が見えたような気がした。
気のせいか。
なら、応えよう。
「えぇ、いけませんか?」
王族に失礼だが、睨みを強めた。
「……はは、ふはは、漆黒の眼で、わたしに重圧を与えるとは。わかったわかった、レムロナとフランが喜ぶなら祝福しよう。それで、槍使いではなく、【月の残骸】の総長として聞く。その
処置は暗殺の隠語か?
それよりシャルドネ、この都市に来るのか。
彼女は地下オークションに興味があるとか話していた。
部下の白髪の渋い親父系の部下のサメが、年末は忙しいとか喋っていた。
オークションに行くのを止めていた覚えがある。
シャルドネは、結局、望み通り地下オークションに出席するようだが。
そのシャルドネが王子と会うのは、そのついでかもしれない。
ということは、シャルドネは第二王子派に付くのか。
彼女がどこの派閥とかまったく知らないが。
……少しシミュレーションしてみよう。
このまま……第二王子の犬になり……。
彼の望み通りどぶの底に積もったヘドロの処理を行いながら……。
王太子派を裏と表から駆逐し、宮廷に足掛かりを得て、現国王に謁見して爵位と領土をもらい得て、戦争をしているラドフォード帝国を追い払い、ついでにシャルドネを嫁にもらって、ヘカトレイルを分捕り、ファルス国王を擁立し、オセベリアを南マハハイム大陸最大の覇権国家へ。
その途中で真田昌幸が沼田城を奪ったように……。
ヘカトレイルを餌に小さい城と領地を奪い独立の流れか?
そして、王国の人材を調略し、強固な城を築きながらラディカルな革命を推進、帝国、王国、全部を敵に回す。
そう、ヘルメが大好きなルシヴァル帝国の建国とか。
ヘルメがいた場合、生意気な尻ですね。
とかいって、王子を攻撃しそうでダメだな。
しかし、そんな立身伝も面白い人生かもしれない。
他の世界線では、そんなルートもあるかもな……。
「……長い間だな?」
「申し訳ございません。先ほどの答えですが、レムロナと同じく治安協力。ですが、我々は既にペルネーテで行っている活動の範疇かと。付き合いとは、そのくらいということで」
「……悪びれず堂々と語りおって、つまらん、浅いぞ」
もっと協力しろか。だったら……。
「王子もお話をされていたように、つい先日、副長であるメルたちが独自に動き、海軍大臣ラングリードの手駒、【ベイカラの手】に支援を受けた闇ギルド戦にて勝利を収めました」
暗にもう協力関係では?
と聞いているつもりだ。
「老獪爺が動いたのは知っている……この都市を含めて多数の都市に進出していた【梟の牙】が消えたことにより、わたしが動く前に布石を打とうとしたのだろう。あの陰謀好きな爺のことだ、〝アイテム狂いのうつけな坊や〟と、評判なわたしのことなど眼中にないかもしれぬがな」
アイテム狂いのうつけな坊や、か。
ここはあれか?
サングラスっぽい貴重なアイテムもあるようだし、それを拝借しつつ、王子には無礼だが、酒を飲みつつ『坊やだからさ』と呟くべきなのか?
うつけといえば、織田信長とかぶる。
ファルス王子……内実は、機を狙う為にうつけを演じていた戦略家なのか?
そこから分析するに……。
アイテムを集めている理由に何かありそうだ。
背後の幻獣っぽいのも気になる。
そして、ファルス王子の込み入った胸の内なぞ、分からないが……。
無難に話そう。
「……ということで、意図せずとも、自然と協力関係にあった。と思うのですが」
「それはそうだが……その副長が独自で動いたとは、どういうことなのだ。お前が総長なのだろう?」
当然の疑問だ。率直にいうか。
「俺はお飾りですよ。槍だけの男なので」
「盟主がお飾りだと自分でいうか……驚きだ……いや、槍にあるように、ある種、
俺は厳しい表情を意識して、
「はい」
と、短く返事をしてから頷く。
すると、王子は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「……シュウヤ・カガリ、惜しい、惜しいが……自由で奔放。とても眩しく羨ましい生き方だ。お前が武人としてこの国に
王子は感心しきった顔付きで語る。
レムロナとフランからの偏った情報を鵜呑みにしすぎだ。
「……王子、それは買いかぶりです」
「……はははっ。買いかぶりか。後ろで控えている美人なダークエルフの従者といい、謙遜も極めると毒だな?」
ヴィーネは冷然とした氷のような双眸で王子を見てから、頭を少し下げていた。
「そんなつもりは……」
「わかったわかった……もういうまいて」
王子は笑うが、さっきのような笑いではない。
「はい」
「しかし、西の平原と南海で行われているラドフォード帝国との覇権戦争により、芳しくない話題が続いていたこの時期に、このような楽しい話題をわたしに提供してくれたことは素直に感謝しているぞ。シュウヤよ! 今後とも
王子は心行き顔。
何かスッキリした、って印象を受けた。
爽やか青年ここにあり。というように。
頭を下げとこう。
「はっ――努力致します」
「うむうむ。では、もう帰ってよいぞ」
「――はいっ」
礼儀を意識した立ち居振る舞いで立ち上がり、その王子の部屋からヴィーネと共に退出。
「ご主人様、わたしは誇らしいぞ」
背後から俺の隣に来たヴィーネさんだ。
素の感情のまま話をしていた。
少し早歩きをしたせいか、口端に銀髪が絡んでいる。
色っぽい。
「この勲章か?」
勲章を印籠のように色っぽい彼女へ見せる。
重さは金属だからそれなりにある。
純金かもしれない。
竜と鷲が絡み合うデザインでカッコイイ。
普通にファッション性が高いのでアクセサリーのブローチにできると思う。
だから、ングゥゥィィに吸収させたい。
大喰いの覇王ハルホンクは眠ったままだ。
とか、考えていたら……。
ヴィーネが、そのングゥゥィィのように竜鷲勲章に喰い付く感じで凝視してきた。
「……素晴らしい竜鷲勲章。さっきは見ていて心が震えたぞ」
またまた、ヴィーネちゃん、大袈裟なんだよな。
銀色の虹彩の瞳をキラキラ輝かせて興奮しちゃっているし。
それもまた可愛いけど。
「そこまでのものか」
「そうですよ。迷宮十一階層に突入した、あの六大トップクランの
「なるほど、ただのアクセサリーとしてしか見ていなかったが、王子はそれほどに……」
……ファルス王子は、俺を羨ましいと語っていた。
アイテム好きな王子の一面しか知らなかったが、彼の違う一面が、少し見れたような気もする。
彼は他の兄弟と骨肉の政治闘争を繰り返しながら王位を狙いにいかなきゃいけない立場だからこその、勧誘だったはず。
その大切な勧誘が断られても、ちゃんと俺の言葉を聞いて理解を示してくれた。
冒険者として本当に認めてくれたようで、凄く嬉しい。
だから……ファルス王子がオセベリアの王に成れるのか気になる。
王太子が決まっている時点で詰んでいると思うが……。
応援したくなった。
王子に付いているレムロナの心が移ったかも。
ま、自然と会話を続けていれば肩入れもするか。
んだが、権力争いに興味はないし貴族という官位や領地とかもらってもな。
俺は武人として生きたい。
それに民を思う君主とか、左見右見状態になるのは分かっている。
だからこそ、冒険者としての自らの気持ちを思い直す切っ掛けとなった。
王子、ありがとう。感謝だ。
冒険者として誇りを持ち、師匠と同じAランクを目指す。
未開拓地域を開拓&魔竜王戦のような依頼を探すか。
しかし、そのAランクの目標もあるが、ハルホンクの精神世界に居た魔皇シーフォの想いも届けてやらないとなぁ……。
たっくよぉ、卑怯なんだよ。
あんな消え方をすると……。
忘れられないだろうがっ。三日月型の魔皇め。
『徒花に終わるわけがない。お前を導くと信じている……さ……』
三日月型だが、最期の言葉、カッコ良すぎなんだよ。
【シーフォの祠】。
それが魔界の何処にあるのかは、まったく分からない……が、届けてやるか。
魔界に行くためのアイテムを地下オークションで落札するとして……。
ハイセルコーンの角笛はあるから魔王の楽譜をゲットすりゃいい。
んだが、果たして地下オークションで本当にそんなものが毎度毎度出品されるものなのか?
という根本的な疑問がある……。
まぁ、こればかりは運に頼るしかない。
大商会、闇ギルド、個人の金持ち、大貴族、出品する者たちは様々なはずだからな……。
そんなオークションのあとは、ぶらり旅。
傷場が近い聖王国には可愛い姫ちゃんたちもいる。
んで、旅は……ツアンの故郷だろう。
それと、槍と剣の武術の訓練だな。
あ、だが、近くのベンラック村も見てみたい。
キッシュも、どうしているんだろう。
船旅もいいなぁ。
海を潜って深海を探索もいいかも知れない。
どの程度<血鎖の饗宴>で潜れるか、深海2000を超える!
地下の岩盤に核爆弾を埋め込んで、連鎖的に爆破を行い、人工地震を起こすような、糞な奴らが、いないのか、調べないとな!
鏡の探索もあった。
ま、永遠の命だ。
焦らずに探索していけばいい。
近いうちに……散歩しよう。
師匠たちにも会いたいし。
魔石をアイテムボックスに入れることもあった。
ナパームなんとか同盟だったか、モンスターを倒せす成長を兼ねた魔石収集をがんばっているママニたちには期待できる。
そして、大事な眷属たちとイチャイチャも忘れない。
他の綺麗な女性たちとの会話も忘れない。
俺の身勝手なポリシーである『小さなジャスティス』に懸けて助けよう。
相棒と遊んで楽しむことをしながらだな! うむ、そうしよう。
これは
勲章をアイテムボックスに仕舞ってから、
「……ヴィーネ、外へ出る」
「はい。ご主人様、嬉しそうですね?」
さすがは第一の<筆頭従者長>ちゃん。
体に触れずとも表情から気持ちを察してくる。
「分かる?」
「はいっ」
にこやかなヴィーネを見て、愛しくなった。
瞬時にヴィーネとの間合いを詰めた。
素早く腰に手を回して抱き寄せた。
「――きゃ」
「ヴィーネ」
「あ……はぃ」
ヴィーネは爪先立ち。
目を瞑ると、紫の唇を寄せてきた。
長髪が唇の端に色っぽく挟まったままだから――。
その髪を、イモリザの六本目の指先で、梳いてあげてから、そのヴィーネの唇を奪う――。
柔らかい唇だ。
可愛い唇から伝わる体温と微かな血の音。
俺にはルシヴァルの力があるから、より詳細に伝わってきた。
同時に強い欲情と血の飢えを感じる。
ヴァニラの匂いが鼻腔を通った。
――ヴィーネの愛しい匂い。
時折り触れる銀仮面の冷たさ。
これもたまらない。
熱い愛情を感じさせる鼻の感触も、だ――。
ヴィーネの唇を労るように俺の気持ちを伝えるように……。
長いディープキスを続けた。
そこから彼女の腰から背中の上部へ両手を廻す。
胸ベルトに連なる金具の裏に掌を滑り込ませてから……。
紅色の羽と黒羽が混ざるムントミーの衣服の上から肩甲骨の出っ張りと溝を優しく労わる。
「んん……」
感じたヴィーネはキスしながら体が震えていた。
可愛い背中を愛撫していく。
彼女はモデルのように背が高い。
この背中からヴィーネを抱く感触が、また、たまらない。
ヴィーネの震えを押さえる、いや、安心させるように抱きしめを強くした。
その背中を堪能していた両手で、彼女の左右の肩においてから、柔らかい薄紫色のヴィーネの唇に重ねていた自らの唇を優しく離した。
「ご、ご主人さ、ま……」
「唇だけで、イったか」
両手を伸ばすように体も離してから、ヴィーネを見る。
彼女は瞳を潤ませていた。
「……ご主人様……続きを」
恍惚とした表情。
ヴィーネらしい細い上唇が可愛い動きだ。
だが、
「それは今度だな」
俺の言葉を聞いたヴィーネは苦しそうな表情を浮かべる。
「いやだ――」
そう強い口調で語るヴィーネ。
我慢できないのか、自らの胸を預けるように抱きついてきた。
ルシヴァルの血を引き継いだ力を示すようにキツク背中をさば折りにする勢いだ……。
ハルホンクが、ングゥゥィィと悲鳴を鳴らすような締め付け。
「――ヴィーネ。嬉しいが周りを見ろ。先ほどから兵士たちが、ちらほらと……」
最初は俺からのキスだが、
「あ、そ、そうですね」
恥ずかしそうな表情もまたいい。
離れようとしたヴィーネの細い手を握った。
掌がしっとりと濡れていたが構わない。
恋人握りで一緒に王子の屋敷から外へ出た。
「ンン、にゃぁ」
外の空気を感じると。
同時に
むくむくっと、瞬時に黒馬か黒獅子かという神獣の姿へと変身を遂げていた。
レムロナとガルキエフはもういない。
彼らの戦いに幸があらんことを。
そして、馬、獅子、グリフォンを彷彿とさせる立派なロロディーヌの姿を見ていく。
鋭角な雰囲気を持つ黒豹っぽい顔で、空を見ている。
凛々しさを感じさせた。
何を集中して見ているんだろう――。
俺も釣られて空を見たが……。
――分からない。少しだけ空間が動いたような?
気のせいか、青い空に薄雲がたなびいていた。
相棒はまだ空を見ている。
猫は時々、あるからな、だれもいない方向をジッと見ていることが。
動物が持つ無意識ってだけではないだろう。
猫だけ、猫のタペータムだけが捉えることが可能な透明なガス状の宇宙生命体とかが見えているのかもしれない。相棒は触手を伸ばして来なかった。
だから、先にヴィーネを――。
その空を見ている神獣ロロディーヌの背中へと乗せて上げた。
俺もバイクや馬へと乗り込むように相棒の背中を跨いだ。
「――次はザガたちのところにいく」
「はい」
黒馬っぽいロロディーヌの腹を軽く足で叩く。
「ンン、にゃぁぁ」
空を見るのを止めたロロディーヌ。
相棒は触手を俺とヴィーネの腰に回してきた。
ヴィーネの柔らかいおっぱいを胸に感じて、あそことあそこがダイレクトアタック気味になるから煩悩が刺激されて大変だったが、エッチはせずに、ザガ&ボン&ルビアの店へ直行――。
相棒は跳躍――。
「きゃ」
ヴィーネの悲鳴が聞こえたように、相棒はいつもより力強い膂力だった。
竜騎士の団長さんが騎乗していたファンファンというドラゴンを真似た?
あの飛び立つ姿が格好良かったドラゴンを意識したのか、相棒よ!
「ンン、にゃおおおお」
と、
――あっという間にペルネーテの空だ。
『そら』『そら』『うんち』『あそぶ』『くちゃい』『うんこっと』『ぱんぱん』『たぬー』
そんな気持ちを寄越す相棒は楽しそうだ。
少し空で遊ぶか? 『うんち』は禁止な?
「ンン――」
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