百七十九話 アイテムボックスの恩恵とゴロゴロ

「帰る前にヒュアトスのお宝をゲットよ!」


 レベッカが白魚のような手を翳し、高らかに、宣言。

 荒神カーズドロウが閉じ込められていた丸扉を潜ると、


「うあ、血塗れじゃない……でも血だけ、頂いとく」


 彼女は嫌そうな声をあげているが、血を吸い取り特殊金庫の中に入っていく。


「あれ、中には何もないわ……」

「ヒュアトスはこの金庫に大金をかけたと言っていたから、金と引き換えに荒神カーズドロウを手に入れたのかもしれないな。それか他に隠し金庫があるのかもしれない。ユイは分かる?」

「分からないわ。ありきたりな机の下とか?」


 ……見てみるが、ないな。


「ないようだ」


 レベッカは金庫から出ると、その特殊金庫の表面を触りながら、


「無理そうね……」

「その特殊な金庫自体も、もう魔力は感じないし価値はなさそうだ」

「うん……」

「レベッカ、そんな残念そうな顔を浮かべていても、探す時間はあまりないわよ?」

「ん、ユイのいう通り、屋敷の残骸が外に散らばっているから、衛兵隊がくるかもしれない」


 確かに、侯爵が死んだからな。

 サーマリアで一波乱ありそうだ。


「……ドラゴンの卵だけでも、ありがたいってことで、さっさと家に撤収しよう」

「しょうがないっ、お宝は諦めるわ」

「ん、戻る」

「マイロードのお屋敷ですな」

「鏡のゲートを使うのね」


 ユイの言葉に頷きながら二十四面体トラペゾヘドロンを取り出し、起動。

 俺はドラゴンの卵を持ち、皆と一緒にペルネーテの自宅、寝室に戻ってきた。


「それじゃ、ユイとカルード以外は休憩、自由行動ってことで」

「ん」

「了解~、汗を流したかったけど、バスタブを使うのよね?」

「そそ、ユイとカルードの<血魔力>な」

「ん、痛いけど、儀式は大切」

「そうね。それじゃ、エヴァ、中庭にある大きい盥で一緒に水浴びしましょうよ」

「ん、分かった」


 エヴァとレベッカが仲良く歩いていく。


「にゃぁ」


 彼女たちの足もとには黒猫ロロもいて、トコトコと歩いていた。

 視線はエヴァの太腿に向けられているので乗りたいらしい。


「では、わたしはリビングにて、<瞑想>を行います」

「わたしも一緒に水浴びをしてきます」


 ヘルメとヴィーネも自由に語ると歩いていく。


 寝室の角にドラゴンの卵を置いてから、メイド長イザベルに経緯を説明。

 二階に使用人は来させるなと厳命。


 ユイとカルード用の薄着の服を用意してから、


「ユイ、カルード、二階にいくぞ」


 二階のバスタブへと案内。

 二人にバスタブの中に入ってもらい処女刃を渡す。

 さすがに親子だから裸は恥ずかしいだろうと思って、薄着の服を渡して着てもらってから、いつものように時間がかかる処女刃を使ったマゾ儀式を開始した。


 血塗れになりながら<血魔力>の第一段階を覚えさせていく。


 ……夜になり、ユイとカルードはほぼ同時に<血魔力>を覚醒させる。

 時間が掛かったが、<血道第一・開門>を覚えた。


「それで血文字が可能だ」

「<血道第一・開門>……血の操作ですね」


 カルードが血を吸い取りながら語る。


「そうだ。成長したら次の段階へ進めるだろう」

「はい」

「次もあるのね、楽しみ……」


『……大好き』

『俺もだ』


「マイロード……我が娘とは結婚を?」

「父さんっ、余計なことを言わないのっ」

「だが、今、血文字で、いちゃついていたではないか」

「いいじゃないっ。皆もやっていたから、わたしもやりたかったのよ」

「ふむ……」


『イエス、マイロード……我が最高の君主……』 


 カルードさんも渋い表情で血文字を作る。


「……ありがとう。二人とも、ふざけるのはそこまでにして、食事でも取ったらどうだ? 血しか飲んでないだろう?」

「はい」

「うん、お腹減ったぁ」

「メイドたちに言えば何か作ってくれる。それに、冷蔵庫もあるし何かしらの作り置きがあるだろう」

「冷蔵庫……迷宮都市でしか取れないマジックアイテムね」

「知っていたか」

「そりゃ知ってるって。一応は貴族の端くれよ? 実は、憧れ的な物だったけど」

「ユイ、すまん。わたしの稼ぎでは……」

「父さん、もう過去は捨てたんだから、今更よ」 


 親子の愛情を見せているユイとカルードを連れて一階のリビングに戻る。 

 皆はもう寝室で寝ているらしい。 


 リビングの端には常闇の水精霊ヘルメがぷかぷかと浮いて<瞑想>を行う。

 端には狐耳をもつ副メイド長クリチワと夜勤と思われる使用人たちが控えている。


「クリチワ、食事はまだ残っているか?」

「はい、畏まりました」 


 食事はすぐに運ばれてくる。


「――これはどこかで見たことがある魚だ」

「にゃん」


 足下から黒猫ロロさんの甘えた声が響く。

 相棒も欲しいのかと思ったら、黒猫ロロ専用の大きな皿に盛られた魚を食べていた。


「ロロは今まで食べてなかったのか?」

「いえ、レベッカ様、エヴァ様、ヴィーネ様とご一緒に沢山のカソジックをお食べになられていました」


 副メイド長のクリチワが狐耳をピクピクさせながら教えてくれた。


「そっか、ロロは食いしん坊だ」

「ロロちゃんが喜んで食べるのは分かる。この魚料理、香ばしくて美味しい」

「……これは中々の料理ですぞ」


 ユイとカルードも口々に絶賛。


「カソジックを仕入れるなんて、シュウヤは高級店とも繋がりがあるの?」


 ユイが料理を食べながらそんなことを聞いてきた。


「知らん。メイドに完全に任せているから」


 クリチワへ視線を移す。


「はっ……高級店との繋がりはありません。そのカソジックは港の小売り業者からイザベルが命令して、使用人たちに仕入れさせました」

「へぇ、さすがはメイド長だな。それで、お金は足りているか?」

「はい、もう十二分に頂いております……」


 クリチワは慎ましく頭を下げて答えていた。


「そっか。ならいい」

「シュウヤは優秀なメイドを雇ったのね。ところで、わたしと父さんの部屋なんだけど……」


 そうして、談笑しながら部屋を決めていく。

 結局ユイは一階の部屋に決まり、カルードは二階の部屋に決まった。


「それじゃ、俺はやることがあるから。また明日」

「うん、おやすみ」

「マイロード、身辺警護はお任せください」

「カルード、俺は大丈夫。それに今日は色々とあっただろう? ルシヴァルの力を得たといえ、まだ皆と同じように慣れてないはずだ。ゆっくりと休むといい」

「……マイロードのお優しさ、身に染みる思いであります」


 カルードは微笑むと本当に鳥肌を立てていた。


「いいから、父さんの部屋は二階でしょうに。少し話があるから行くわよ」

「あぁ、分かった。では、失礼致します」


 カルードも大袈裟な奴だ。

 さて、アイテムボックスへ魔石を納めるとして、少し寝てから納めるか。


 寝台へ背中からダイブ。目を瞑った。


 すると、腹にどすんと感触が。

 胸に肉球の感触が。

 トコトコと歩いてくる、小さい相棒ちゃんだ。


「にゃぁ」

「ロロッ」


 肉球を顔に当ててきた。

 パンチかい!


「肉球の匂いを嗅いでほしいのか?」

「ンン、にゃぁ」


 喉声で鳴きながら、肉球で顔を叩いてくる。

 また前足を上げて、下げての、肉球判子アタック。

 

 ぽんぽんと、顔に足裏の肉球を押し当ててきた。


「そんなことしてると!」


 俺は我慢できずに猫パンチを繰り出す黒猫ロロを抱きしめる。


「この悪戯足ぃぃ、たまらんなぁ」


 左右の前足の裏を握る!

 肉球をモミモミしながら、両前足を左へ右へと交互に伸ばした。


「体操お猫さんの刑に処する!」

「にゃぁぁぁ」


 ふはは!

 ふさふさの腹に顔を埋めた。

 やっこい感触を味わっていると、耳朶を噛まれた。

 が、甘噛みだ。そんな黒猫ロロを抱きしめながら寝転がる。

 そこで相棒を離してあげた。黒猫ロロは逃げず、俺の脇腹辺りに肉球を押し当てる。

 と、首を肘辺りに乗せて、俺の肘を枕代わりに眠り出す。

 一緒に寝るか~と、相棒の耳の裏を伸ばすように耳のマッサージを行った。


 黒猫ロロはいつもの心地いいゴロゴロの音を響かせる。


 いいBGMだ。


 俺の子守歌だな……そんなことを考えながら目を瞑り、眠っていく。


 ◇◇◇◇



 朝方、いつものように起きた。


 寝台に座りながらアイテムボックスを操作。

 中魔石と大魔石を大量に出す。


 金箱を出現させた際に登場したモンスターたちから、大量の、エレニウムストーンである大魔石、中魔石を手に入れたからな。


 そして、メニューにある◆マークを押す。


 ◆:エレニウム総蓄量:160

 ――――――――――――――――――――――――――― 

 必要なエレニウムストーン:200:未完了。 

 報酬:格納庫+25:ディメンションスキャン機能搭載。 

 必要なエレニウムストーン大:5:未完了。 

 報酬:格納庫+30:フォド・ワン・カリーム・ガンセット解放。 

 必要なエレニウムストーン大:10:未完了。 

 報酬:格納庫+35:フォド・ワン・カリーム・ユニフォーム解放。 

 ?????? ?????? ?????? 

 ――――――――――――――――――――――――――― 


 いつものようにウィンドウの右に文字が羅列表示される。 


 ウィンドウの左にも文字が表示された。 


 ――――――――――――――――――――――――― 

 ◆ ここにエレニウムストーンを入れてください。 

 ――――――――――――――――――――――――― 


 ◆マークへ床に置いてある大量の中魔石を、とりあえず、指定の数だけ、入れていく。 


 ――――――――――――――――――――――――――― 

 必要なエレニウムストーン:完了。

 報酬:格納庫+25:ディメンションスキャン機能解放。 

 ―――――――――――――――――――――――――――


 その瞬間、ウィンドウと腕輪が虹色に輝く。


 金属腕輪アイテムボックスの円の表面が波を起こしたように蠢きボコッと音を立てては、丸い水晶のような物が金属腕輪の中心に生まれ出ていた。 


 生まれた水晶から細かな虹色のレーザーが立体的に放射されている。 

 虹色のレーザーの放射が終わった水晶からは立体的な地図が浮かんでいた。 


 この部屋の間取りだ。 

 これがディメンションスキャンか。 

 簡易地図ミニマップ? 

 水晶に手を触れると立体映像は消えた。

 

 近未来的な装置だ。腕輪の表面にある小型水晶体は緑色。


 まだ残っていた中魔石を全部入れた。 


 そこで、エレニウムストーンの数を確認。 


 ◆:エレニウム総蓄量:470 

 ――――――――――――――――――――――――――― 

 必要なエレニウムストーン大:5:未完了。 

 報酬:格納庫+30:フォド・ワン・カリーム・ガンセット解放。 

 必要なエレニウムストーン大:10:未完了。 

 報酬:格納庫+35:フォド・ワン・カリーム・ユニフォーム解放。 

 必要なエレニウムストーン大:50:未完了。 

 報酬:格納庫+50:フォド・ワン・ガトランス・システム解放。 

 ?????? ?????? ?????? 

 ――――――――――――――――――――――――――― 


 フォド・ワン・ガトランス・システム解放とは何だろう。まぁ納めれば分かること。 


 ◆へ大魔石を順番に入れていく。 


 ――――――――――――――――――――――――――― 

 必要なエレニウムストーン:完了。 

 報酬:格納庫+30:フォド・ワン・カリーム・ガンセット解放。 

 必要なエレニウムストーン:完了。 

 報酬:格納庫+35:フォド・ワン・カリーム・ユニフォーム解放。 

 必要なエレニウムストーン:完了。 

 報酬:格納庫+50:フォド・ワン・ガトランス・システム解放。 

 ――――――――――――――――――――――――――― 


 光だ。虹色じゃなく、普通の光。 

 アイテムボックスから無数の光の粒子が放出された。

 

 粒子は宙に弧を描きつつ三か所に集結。

 

 集結した一つは、ピストルらしきものを模った。

 

 本当にビームガン。

 ビームガンの表面には、幾何学模様が至る所に細かく刻まれている。

 鋼鉄製のベレッタに近い。


 二丁あればガンカタが試せそうな銃。


 集結した二つ目は、銃身が長いビームライフルだ。

 

 スケルトンの部位は随所にある。

 銃身被筒と表面の金属は、三日月の外装。

 リアサイト的な月のマークも特徴的だ。

 複数の金属が三日月を描くように細まりつつ放熱フレームを形成して銃口と繋がっている。


 ストックの肩当てが備わる銃底は金属。

 グリップは金属。

 スケルトンの表面が多く、その透けた内部が色々と見える。

 バーファースプリングに、フィードトレイ的な金属がクリスタルと融合している。

 フィードカバー的な金属の耐熱板的な熱効率が良さそうな外装もスケルトンと一体化して見え隠れ。

 ガスポート的なエネルギー変換を高めそうなクリスタル素子が比較的大きいコイルとして中心を形成している。

 バレルの外側を覆う金属は滑らかそうだ。銃口は細い

 銃口の下に二脚架が付けられるような金具もある。


 撃鉄やらボルト、ボルトキャリアか?

 チェンバーと繋がる小さい螺旋状のコイル染みた金属。

 それらがクリスタル素子の小さい電子基板と融合。

 

 コイルのようなモノが詰まっている? 


 そのスケルトンと金属の融合が異常にカッコイイ。

 機関銃ではないと思うが、イメージ的に、M16A4と似た造り。


 スケルトンと金属だし、明らかに、普通の銃の構造ではない。


 トリガーと三日月の外装金属には、魔力を吸い込む形状もある。

 アイテムボックスから出す度に形状が変わるとか、変形とかが出来そう。

 ま、頗る渋いビームライフルだ。


 集結した三つ目が、その銃を収める帯ベルトと黒色の戦闘服のユニフォーム。


 アイテムボックスから黄緑色のレーザーが照射。

 フォログラフィック文字が浮かぶ。 


 ―――――――――――――――――――――――――――

 ――≪フォド・ワン・ガトランス≫起動――。 

 ――≪フォド・ワン・カリーム・サポートシステムver.7≫を検知。 

 ――遺産神経レガシーナーブを検知。 

 ――≪フォド・ワン・ガトランス・システム≫へ統合されます。 

 ―――――――――――――――――――――――――――


 ガトランス・システムは解放されて統合されたようだ。 


 カリームがガトランスに変わったようだけど効果が分からない……。

 進化したとは分かるけど。

 そこで、格納庫を確認。 


 ◆:人型マーク:格納:記録 

 ――――――――――――――――――――――――――― 

 アイテムインベントリ 60/260 


 ちゃんと増えている。 


 ついでにアイテムボックスから大銅貨を取り出し、部屋に置く。

 ビームガンの確認しよ。 


 浮いた近未来的な形のビームガンを取り、握る。 

 大銅貨に狙いをつけて引き金を押し込み、撃ってみた。 

 小銃から小さい光線が放たれる。

 光線が突き抜けた大銅貨に穴が空いた。近未来的なビームガンだ。 

 先程遺産神経レガシーナーブも統合と表示があったから、もしかしたら……と、右目の十字金属のアタッチメントを指の腹で触る。


 カレウドスコープを起動した。


 その瞬間、フレームが表示された。

 ミニマップ的な物が視界の右上に登場。

 銃との連携システムなのか、スコープとエネルギー弾の元が強調表示されている。


 おぉ、マップを意識すると三次元的なマップが視界にリンク表示された。

 これは凄い、便利だ。

 エネルギー弾の元は五百二十九と出ているので、エレニウム総蓄量の数か。 

 銃を構えると、更にスコープが大きくなる。 

 再度、穴が開いた大銅貨へ狙いを定めると、スコープが標的である大銅貨に固定された。 

 試しに、少し外して撃つと、自動的に補正されたのか大銅貨に光が直撃。簡易アシストか。弾数も一つ減っていた。

 魔石が弾。そうなると、あまり連打はできない。

 ビームライフルも試したいが……これは外で試したほうがいいだろう。


 寝台上にビームガンを投げておく――。


 そこでアイテムボックスのメニューの、◆を押してエレニウム総蓄量を表示させた。


 ◆:エレニウム総蓄量:528 

 ――――――――――――――――――――――――――― 

 必要なエレニウムストーン大:100:未完了 

 報酬:格納庫+60:ガトランスフォーム解放 

 必要なエレニウムストーン大:300:未完了 

 報酬:格納庫+70:ムラサメ解放 

 必要なエレニウムストーン大:1000:未完了 

 報酬:格納庫+100:小型オービタル解放

 ?????? ?????? ?????? 

 ―――――――――――――――――――――――――――


 弾はやはり総蓄量か。

 新しく追加されたガトランスフォーム、ムラサメ、小型オービタルはどれも非常に気になった。


 ガトランスフォームは新しい服? 

 ムラサメは武器か? 


 集めてすべてを解放したい。

 しかし、魔石の量が……さすがに多いから大変だ。

 次は黒い戦闘服のコスチュームを着るか。


 装備を脱いで……着てみたが……。

 あまりこれといった変化はなし。 

 銃を持ち、構えながらカレウドスコープを起動したり解除したりしても、何の効果もない。 

 ただの戦闘服だった。


 が、特殊な繊維と分かる黒い光沢がカッコイイ。

 コート系の外套。

 外套で少し厚めだが、普段着、寝間着、室内用にするか。


 小型のビームガンは放置。

 このビームライフルを中庭で試すか。


「ご主人様、おはようございます。それは、いったい何なのです?」

「にゃおん」 


 廊下からヴィーネと黒猫ロロが寝室に入ってきた。


「おはよう。これはアイテムボックスから手に入れた奴だ。迷宮の魔石を決まった数納めると、報酬として色々なアイテムが手に入る」

「鉄の長杖と、衣服もですか?」

「そそ、後、右目の横のここにあるアタッチメントもそうだ」 


 俺は顔を少し傾けて、右目の横にある十字金属を見せる。


「そのような効果があるアイテムボックスなのですね。不思議です」

「――にゃっ」 


 黒猫ロロは俺の肩に登ってくるとアタッチメントに鼻を近付けて匂いを嗅いでいた。


「ロロ、匂いはしないだろ。後、触るなよ」


 予想では別種の知的生命体による宇宙軍的なシステムだと思うが……。


「……それで、この長杖だが、ビームライフル。または銃という飛び道具なんだ」 

「びーむらいふる、じゅう、ですか。弓矢の一種なのでしょうか」

「まぁ、それが進化、魔道具、杖のマジックアイテムと一体化したような特別な物と思えばいい」


 宇宙文明の品だが、ま、今はこれでいいか。 


「マジックアイテムなら納得です」

「それじゃ、このライフルを試しに中庭へいく」

「……はい。わたしも見学をしたいです」

「うん、いこうか」


 相棒は俺の肩をポンッと叩いてから尻尾で俺の耳朶を叩いては、首を尻尾でくすぐってくる。

 くすぐったいってより……黒毛の毛先の感触が……ゾクッとした。

 

 相棒を見ると、双眸の黒色の瞳が真ん丸化。

 謎だが、俺を悪戯しているくせに興奮している相棒だ。

 その相棒を肩に乗せたまま、ヴィーネを連れてリビングを歩く。


「シュウヤ、見たことのない服を着ているけど、その杖も何?」

「あぁ、新しい武器だ。実験する」

「へぇ」

「ん、気になる」

「わたしも」


 レベッカとエヴァは頷き合うと、歩み寄ってきた。


「閣下、わたしも行きます」


「シュウヤ、なになに?」

「マイロードのご出陣ですか、わたしもついていきます」


 ヘルメ、ユイ、カルードもついてくる。


「まぁ、皆様……何か行うのですか?」 


 結局、メイドを含めて全員が俺と一緒に中庭に移動。

 中庭で訓練していた戦闘奴隷たちも集まってきた。


「ご主人様っ、迷宮に挑まれるのですか? でしたら頑張ります」

「主、我は迷宮に潜りたい」


 虎獣人ラゼールのママニと蛇人族ラミアのビアは互いに熱気溢れる言葉を放つ。

 その体からは汗が流れていた。


「ご主人様、ボクの剣術を見て欲しい……」

「ご主人様……わたしはもっとお話が……」


 小柄獣人ノイルランナーのサザーとエルフのフーは頬を紅く染めながら呟いていた。


「迷宮には挑まない。サザーの剣を見ても、フーと話をしてもいいが、今は少し実験を行う。あとでな」

「「はいっ」」

「にゃっ」 


 肩にいた黒猫ロロが奴隷たちの声に反応した。

 跳躍しては着地。

 猫らしく尻尾を立てながら奴隷たちに近寄っていった。

 黒猫ロロは、小柄なサザーのことが気に入ったようだ。


 サザーへと触手を複数伸ばして、サザーの髪に犬の耳まで触っていく。

 サザーの小さい体を触手でくすぐるようにまさぐり、遊び出す。


「きゃっ、ロロ様だめですー」


 サザーは逃げ出した。

 が、黒猫ロロは追いかけっこだと思ったのか。


「ンン――」


 と、喉声を発して、逃げるサザーを追いかけていった。

 そのまま触手で小柄なサザーを掴んでは、くすぐり、また放しては、追い掛けるという新しい遊びを開発する相棒。


「ロロ、からかうのは程々にな」

「きゃぁっ、ご主人様ぁ、助けてぇ、ボクの貞操がぁ、ロロ様にうばわれちゃうぅ」


 猫が子犬と戯れているようで、面白いが。

 注意しとくか。


「ロロ、嫌がっているから優しくしてあげなさい」

「にゃあ」


 聞き分けのいい黒猫ロロは触手を引っ込める。

 と、サザーの小さい足をぺろっと舐めてから、彼女の小さい足へ頭部を擦りつけていた。


「ふふ、ロロ様もご主人様も優しいです」

「にゃ」


 黒猫ロロはいつもの猫顔だが、笑ったような感じがした。

 髭の膨らみが、可愛いんだよ! まったく……。


 さて、実験だ。 


 また大銅貨をアイテムボックスから取り出しては、地面に置いて少し距離を取った。 

 カレウドスコープを起動してから長口径のビームライフルを構えた瞬間――。

 

 ビームライフルの後部から細い金属管が伸びて右目の卍に変化済みのアタッチメントと合体。 


 ――視界が変わった。


 パラメーターの数値が上下。

 俺の目の動きに完全にリンク。 

 大銅貨に狙いを定めると、ズームアップされた。

 よし――撃ってみよう。引き金を押し込む。 


 ――銃口から放たれる太い光条線と独特な射出音。 


 ビームが当たった大銅貨は一瞬で溶け、地面を融解させた。


「おぉぉぉ」

「ご主人様は司祭級の光魔法も操れるようだ」

「また、新しい魔法?……」

「ん、マジックアイテムと連動しているようだけど……」 


 皆はそれぞれビームライフルの感想を呟いていた。 


 そんなことは無視して、視界に表示する情報を分析しようか。

 今度は弾が二つなくなっていた。 


 これはライフルだからか?

 威力が大きいから消費も大きいようだ。 

 だがしかし、魔石を消費する以上暫くは封印だな。 


 アイテムボックスに魔石を大量に納めるには、どちらにせよ、中と大魔石は必須……。


 大商人から魔石を直に買い取るか、冒険者ギルドへと魔石の収集依頼を出すのもいいか。

 集めるのは大変だ。

 それか……彼女たちに、戦闘奴隷たちに迷宮の中に潜ってもらうのも手か。


 俺たちが他のことをしている間、彼女らをここで遊ばせておくのは勿体ない。

 彼女たちに修行を兼ねた魔石稼ぎをしてもらうという寸法。


「……ご主人様?」


 虎獣人ラゼールのママニが視線を向ける俺を見て首を傾げる。


「なぁ、お前たち戦闘奴隷だけで、迷宮へ挑んでも、大丈夫か?」

「装備が調った今なら、こないだの五階層なら余裕ですね」

「主がいないのか。だが、我が頑張ればいけるであろう」


 ママニは厳しい顔色だが、目はやる気に満ちていた。

 ビアはいつもと同じで蛇舌を伸ばして語る。


「……ボクもビアの周りで動き回って、ご主人様から貰い受けた魔法剣でばったばったとモンスターを倒してみせます!」

「わたしもフォローしますので、五階層なら余裕だと思われます。ただ、ご主人様のパーティのような殲滅速度は期待できませんが」


 黒猫ロロを胸に抱っこしているサザーとフーも元気よく笑顔で話す。

 レベッカよりも小さいサザーが猫を抱っこしている姿も、何かくるもんがあるな。


「良し、それならお前たちだけで中魔石を集めてきてくれ。大型は無理して集めないでいいから、命を大事にだ」

「はいっ」

「畏まりました」

「我はやるぞ」

「ボク、頑張ります」


 そこで、ママニの気合いの入った虎顔を見て、思い出す。

 アイテムボックスを操作。


「ママニ、これをあげとく。サジュの矢だ。数は有限だが、喰らわせた相手に暗闇効果をもたらす矢だから危なかったら自由に使え」


 黒光りする矢束を渡す。


「はいっ、ありがとうございます。では、準備をして参ります」


 早速、ママニに続いて奴隷たちは準備を始めていく。 


 俺もやることは多数ある。 

 邪神の手駒と迷宮にいる邪獣を倒す。 

 ザガ&ボン&ルビアに会って土産を渡す。 

 第二王子へマジックアイテムを売りに行く。 

 家に来ていた講師のミスティにも会いたい。 


 名前を変えたミアにも……【梟の牙】が全滅した情報はもう知れ渡っているはず。


 俺とは関わらず、人知れずどこかで暮らしているのかもしれない。

 元気ならそれだけでいいんだがな。 


 そんなことを考えながら……。

 ビームライフルをアイテムボックスに仕舞った。

 卍に変形したアタッチメントをタッチ――。

 

 普通の視界に戻す。


「……奴隷たちだけで迷宮に潜らせるの?」

「あぁ。俺たちはやることがある」

「そう……邪神の手駒? を倒すのね」

「他にもあるがそのつもり」


 レベッカとそんな会話をしていると、大門が開いた。 


 そこには見知った顔がいた。

 頭にバンダナを巻いたミスティだ。 

 

 彼女は軽く手を振って近付いてくる。


「よっ。この前、家に来てくれたようだな」

「うん。今日は会えてよかった」

「生徒たちのパーティはどうなったんだ?」

「解散してきたわ。今日はそのことでお願いしにきたの……」


 ミスティは遠慮勝ちに話す。


「パーティか」

「うん。シュウヤのパーティへ入れて欲しい。魔導人形ウォーガノフの簡易型ゴーレムなら一瞬で組み立てが出来るし、知っての通り、金属に関しての知識なら自信があるから」

「いいぞ。皆に紹介しよう、俺の眷属であり仲間であり女たちだ。手前にいるのは、レベッカ」


 右手を伸ばし紹介した。


「どうも! こんにちは、レベッカ・イブヒンです。選ばれし眷属、<筆頭従者長>が一人よ」

「その隣の車椅子に座っているのがエヴァ」

「ん、よろしく、エヴァです。同じく選ばれし眷属の<筆頭従者長>です」

「左が、ヴィーネと精霊ヘルメ。常闇の水精霊が正式か」

「ご主人様の<筆頭従者長>が一人、ヴィーネであります」

「閣下の水でもあるヘルメですよ」 


 精霊と聞いて、ミスティは目を見張り、片膝を地面に突けて頭を下げていた。


「精霊様……生まれて初めて形ある精霊様を拝見しました……」

「良い態度です。閣下に失礼がなきよう……」 


 ヘルメは顎をあげて、ミスティを見下ろすように偉そうな態度を取る。

 長い睫毛を揺らしながら、全身の黝い皮膚をウェーブさせた。


 一瞬、水の女神に見えるほどの迫力。

 Sが強まると、雰囲気を変えるヘルメさんだ。


「は、はい」

「それで、その隣にいるのがユイとその父であるカルードだ」

「ユイです。シュウヤの選ばれし眷属の<筆頭従者長>が一人。よろしく」

「カルードと申します。わたしもマイロードの選ばれし眷属の<従者長>です」


 ミスティは恐縮したように頭を少し上げてから口を動かしていく。


「……皆さま方は、シュウヤの部下なのですね……」

「うん、愛している人」

「ん、仲間でもありシュウヤの恋人」

「ご主人様の永遠の恋人であり、部下であります」

「仲間であり、恋人、愛人? 大好きな人っ」

「閣下は至高の御方」

「マイロードは偉大なマスターロード」 


 皆の言葉に面を食らうミスティ。


「で、こんなメンバーだが、ミスティはいいのか?」

「……正直、驚いたけど、貴方のこと・・だし、何とでも考えられる。そして……他に女がいても、わたしの気持ちは変わらないわ……糞、糞、糞ッ」


 ミスティは、まだらに頬を紅くしながら、語尾には小さい声でいつもの癖を出していた。


「なるほど、なるほど……なるほど、な? シュウヤは、また、他に女を……」

「ん、シュウヤが望むならいい」


 レベッカはだれかのギャグをパクった?


「閣下の下僕、配下が増えるのは素晴らしきこと」 


 ヘルメが下僕、配下とか言ってる。


「……まだ配下とかは決まってないから……パーティを組むだけだよ」 


 気まずい顔を浮かべてミスティを見た。


「配下……シュウヤの配下になら喜んでなるわっ……わたしの心を変えてくれた人だもん。そして、再会したのは何かの運命だと思うし」 


 まじかよ。


「まぁ、そう事を急ぐこともないだろう」

「ううん。それとも、元盗賊、元貴族、魔導人形ウォーガノフ作りが趣味な女なんて、眼中にないのかしら……」

「なわけない。綺麗な女は好きだ。俺も魔導人形ウォーガノフには非常に興味がある。だが、俺の配下になるのはパーティを組んで迷宮に挑んでからでも遅くはないだろ?」

「そうだけど、うん。わかった。それで迷宮に挑むのはいつ?」


 今日は邪神の駒、パクスを討つ。いなかったらザガのとこへ挨拶へ行くから……。


「……三日後、辺りでどうだ?」

「いいわ。朝の時間、この家へ来ればいい?」

「それでいい」

「了解。それじゃ、皆さん、三日後、また来ますので、その時にまた、お願いします」

「はーい」

「ん」 


 レベッカとエヴァは笑顔で頷いている。


「三日後」

「はい」 


 ユイとヴィーネは表情は変えずに返事をしていた。


「……」 


 カルードとヘルメは黙っていた。 


 ミスティは背中を見せて大門から去っていく。


「さて、俺たちは邪神の手駒を討つか」

「冒険者パクス・ラグレドア。迷宮に潜っている可能性が高いと思うけど」

「そうだなぁ、もしそうだったらザガのとこへ行く」

「ザガ?」

「知り合いの凄腕鍛冶屋だよ。ザガ&ボン。俺の魔槍杖、鎧などを作ってくれて世話になったところだ。そして、ルビアという女の子の世話をしてくれている友であり尊敬できる素晴らしい鍛冶屋だ」


 ザガの職人顔とボンの真ん丸顔を思い浮かべる。


「シュウヤの武具を……それは凄いわ。会いたいかも」

「ん、シュウヤの友で、尊敬しているドワーフたち……わたし、凄く会いたい」


 レベッカとエヴァは真剣な顔を浮かべて話していた。

 ヴィーネは会っているので黙って頷いていた。


「分かった。だが、とりあえずはパクスの家へ向かおうか」

「ん、了解。邪神の使徒と対決」

「【暗部の右手】の幹部と兵士たちとの戦いで、蒼炎弾の扱いにもだいぶこなれてきたからね、楽しみ。後、エヴァとの連携が面白くなってきたし」

「ん、あの時のレベッカ、かっこよかった。蒼炎弾の連打、じゅばーんって、凄かった」


 エヴァがレベッカの活躍に影響を受けたらしい。

 ヒュアトスの屋敷の正面口の戦いは、強烈だったのかもしれない。


「閣下、わたしの水の出番ですね」

「ご主人様、準備はできています」 


 常闇の水精霊ヘルメとヴィーネが、俺の横で片膝を地に突けながら話す。


「昨日、聞いていた奴ね。わたしも行ける」

「マイロード、ご指示を」 


 ユイとカルードも気合いを入れた視線で、やる気を示す。


「ん、ロロちゃんがもう変身している」


 エヴァのいう通り、足下にいた黒猫ロロが黒馬か、黒獅子に近い姿に変身。 

 早速、触手を俺に絡ませる。

 ヴィーネにも絡ませて乗せてきた。


 が、他は乗せていない。


「ちょっと……ロロちゃん。わたしは乗せてくれないの?」

「ん、ロロちゃん、ヴィーネだけを乗せている……」

「ロロちゃんにも好みがあるのかもね……」 


 ユイはそう言いながら艶やかな黒毛を撫でている。

 が……その視線は笑ってはいない。

 

 俺に正面から抱き着いているヴィーネのことを睨んでいた。


「ロロ様はわたしの匂いを好きと、前に気持ちを伝えてくれました。きっと、強き雄であるご主人様の御傍に控えるのは、わたしが一番だとロロ様が判断して下さったのだっ、ふふ」


 ヴィーネは興奮しているのか、素で話す。


「調子に乗っていますね。閣下、ヴィーネを水に埋めるご許可を……」

「わたしが許すわ」

「ん、わたしも」

「あ、もちろん、わたしも」 


 ヴィーネ対ヘルメ、レベッカ、エヴァ、ユイの構図。また喧嘩を始めているし……。

 唯一の男眷属であるカルードへ助けを求めるように尊敬の眼差しで視線を向ける。


「……」 


 カルードさんは、この緊張感のある、殺伐した空気感を受けて、緊張していた。

 目が泳いで、冷や汗を浮かべている……。

 俺と視線を合わせても、すぐに頭を伏せて逸らしてきた。


 くっ、頼りない野郎だ。


「……ご主人様、皆がわたしを虐めてきます……」


 ヴィーネはしれっと俺に抱きつきながらそんなことを言ってくる。


「……むかつくー」

「ん、でもロロちゃんが選んだ。わたしは車椅子だし……」

「閣下、ご許可を」

「そんな許可、出すわけないだろう。喧嘩はするなよ。ロロ、えり好みしてないで乗せてやれ」

「にゃお」


 馬っぽいロロディーヌは少し大きくなった。

 レベッカ、ユイ、最後に車椅子ごとエヴァを乗せてあげていく。


「ロロ様……わたしは……」

「にゃ? にゃあん」


 ロロディーヌは大きい顔を精霊ヘルメに向けると乗せないお詫びのつもりなのか。

 黝い色の葉っぱの皮膚を持つヘルメの顔を大きな舌でぺろっと舐めていた。


「ヘルメ、俺の目に来ればいいじゃないか」

「はい……そうします」


 ヘルメは液体のままスパイラルしつつ俺の左目に収まった。

 カルードも乗せていないが、まぁ<従者長>であり、男だしな。


「それじゃ、行くぞ。カルード、付いて来い」

「イエス、ついていきますぞ」


 神獣ロロディーヌが中庭を歩き大門へ向かう。

 触手で器用に大門を開けて路地を進み出した。

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