百六十六話 ニャンモナイト&メイドを雇う
校長と言っていたように白髭を蓄えたお爺ちゃんが現れた。
この爺さんがデイランさんか。
「おお、モロスではないか、今日はどうしたのじゃ? デュアルベル大商会での仕事か?」
「いえ、校長、上客であらせられる、シュウヤ・カガリ様のお屋敷を任せられる上等メイドたちの紹介をお願いしに参りました」
モロスさんに紹介される。
「どうも、シュウヤです」
挨拶してから丁寧に頭を下げる。
「これはご丁寧に、わしはデイラン・レソナンテ。ここの校長兼商会の会長をしております。では、客間に案内するので付いてきてください」
「はい」
「それでは、わたしはここまでです。シュウヤ様、また今度」
「あ、はい。ここまでありがとう」
モロスさんは俺の言葉に頭を下げて答えていた。
「モロスよ。客を紹介してくれてありがとうな。今度、わしが酒と食事を奢ってやるからのぅ、またな」
「はっ」
「では、こちらへ」
デイランに案内される。
肩に
隣にはヴィーネも一緒だ。
廊下の先にあった客間へ通された。
長机と高級椅子。壁には絵画、国からの感謝状の羊皮紙が専用の額縁に収まっている。
「ささ、ここに座ってください」
「はい」
「ンンンッ」
反対側の椅子に飛び移った。
椅子の上でくるくると回って、自らの体を湾曲させながら丸くなって眠り出す。
自らの尾を飲み込む蛇のように尻尾と後脚を綺麗に頭部に沿わせてアンモナイト化。
要するにニャンモナイト。可愛く丸まっている。
寝るらしい。
俺とヴィーネは
そこに専属メイドたちが次々と現れては机に、羽根ペン、インク、契約書、御香的な匂いが漂う色つき蝋燭、高そうな器に入った紅茶に菓子と思われる黒の丸い物体を置いていく。
更に、慎ましい姿の熟女メイドが現れた。
「わたしはメイド長のスーと申します。この度はレソナンテ商会からメイドを買っていただけるとか」
「はい。シュウヤといいます」
「シュウヤ様、宜しくお願いします」
頭を下げてから熟女メイドのスーさんは、デイラン校長の隣に座る。
その熟女メイドのスーさんが、ニャンモナイトの
自然と綻ぶ頬。その気持ちは分かるぞ、熟女メイドさん!
そのスーさんが、口を開く。
「契約は、一生の面倒をみる契約、年ごとの契約、月ごとの契約がありますが、どれにしますか?」
何事もシンプルに。
「一生の面倒をみる契約を選びます」
デイラン爺さんは納得顔を浮かべて、頷いた。
「そうですか、では、屋敷に住まわせることが前提となります。そして、完全にメイドたちはシュウヤ様の所有する財産となります。ただし、メイドたちを管理するメイド長にはそれなりのお金を渡すのが流儀といいますか、当たり前のこととなります」
奴隷みたいなもんか。
「分かりました。それと、その雇ったメイドたちは、雇い主の情報を外に漏らさないと約束はできますか?」
この質問にはデイラン爺さんが答えた。
「それについては心配ご無用。メイドを買っていく方は
大商人=闇ギルドの盟主でした。とか、ありえるか。
だったら、ヴァンパイア系の血塗れな光景を見ても大丈夫そうだ。
「なるほど」
続いて、俺の冒険者としての実力を軽く問われた。
この質問時にはヴィーネが少し怒った口調で答えるが、俺が諌めてから話を続けた。
更に、屋敷がどこにあるのか聞かれる。
住所的なものはないので、武術街の大きい敷地、近くにある通りを軽く説明。
後は屋敷のサイズはどれくらいで、泊まれる数やら、庭があるかなど、細かく聞かれて答えていく。
「分かりました。後、シュウヤ様が選べるのはメイド長と身の回りの世話をするメイドのみとなります」
「俺は選べないのですか?」
「はい。ですが、ご安心を。様々な役割のあるメイドたちは寄宿学校で暮らしている優秀な使用人たちです。我々が適切に選び、シュウヤ様のお屋敷までお送りしますので」
ここはプロに任せるか。
「承知しました」
「では、少々お待ちを、学校で最高の人材を連れて参ります」
説明を終えた熟女メイド長のスーさんは、素早い所作で立ち上がり、頭を下げてから客間を離れる。
暫くしてから、多数の若い使用人たちを引き連れて戻ってきた。
「シュウヤ様、まずは、こちらが戦闘、護衛、メイド長、身の回りの世話、メイドオールワークスが可能な優秀な人材たちでございます。名は左端から、人族のスザンヌ、人族のイザベル、狐獣人のクリチワ、人族のデュー、人族のアンナ、エルフのセーラです」
皆、頭には小さいフリフリがついたヘッドドレス。首もとには可愛らしいブローチを身に着けている。
背中開きだと思われる紺のワンピース系ロングスカートにエプロンのフリフリ姿は可憐で、素晴らしくカワイイ。
……ロングなスカートの膨らみ、パニエの中身が非常に気になった。
ガーターベルト系のパンティにムチムチなフトモモちゃんが生息しているのだろうか。
これはあれだ。スカート捲り研究会を立ち上げろと、久々に神の指示がきたのかもしれない。
いや、いかん、いかん。メイドを選ぶんだ。
エロ思考はここまでにして、恒例の摩察眼での要チェックや!
バスケの漫画を思い出しながら、魔察眼で彼女たちを調べていく。
……皆それなりに鍛えてあるようだ。体内で魔力を操作しているのが分かる。
……ほぅ。数人だが優秀なのがいた。冒険者や武芸者と同じぐらいな質の魔闘術を扱える子が、数人いるじゃないか。
他で十分稼げそうな彼女たちが、なんでメイドをしているのか不思議だが、決まりだな。
この子たちを選ぼう。
「それじゃ、人族のイザベル、狐獣人のクリチワ、人族のアンナだけ、この場に残り、他は全員退出してください、彼女たちと面接がしたい」
この三人だけは、かなりの戦闘能力と判断。
「そ、そうですか? 分かりました」
「わしも外に?」
「ええ、お願いします」
校長デイランと熟女スーさんは若い使用人たちを伴って退出してくれた。
「ご主人様?」
「ヴィーネは側にいろ」
お前が外に出てどうする。とは突っ込まないであげた。
「はい」
すると、机で丸くなって寝ていた
「にゃおあ」
ヴィーネに向けて空パンチを放つ。
寝ていたと思ったがちゃんと聞いていたらしい。
突っ込むように鳴いているが、無視。
さて、肝心のメイドたちへ視線を移す。
初見で気に入ったのは人族のイザベル。
左右に流してある短い黒髪に、細眉で目尻が少し大きい。
背はレベッカと同じぐらいだが、双丘の豊かな山なり曲線に視線がいく。
紺のワンピースは少し膨らみがあるので、スタイルは判別できないが、まぁ良さそうだ。
「それじゃ、君たち、そこに並んで」
「はい」
「かしこまりました」
「はいっ」
指示通り、使用人たちは壁に並んでいく。
俺はデザイナーの服を作り競い合うリアリティー番組の審査員にでもなった気分で、右目の側面にあるカレウドスコープをタッチ、起動させる。
視界にフレームが加わり解像度がアップ。
彼女たちは、ぎょっとした顔を浮かべて俺の右目を凝視していた。
この反応は仕方がない。
そんな彼女たちの姿を縁取る▽マークをチェック。
スキャンするが、全員、大丈夫だった。
頭には変な蟲はいない。
少し安心、よかった。
――――――――――――――――
炭素系ナパーム生命体tnbde###73
脳波:安定
身体:正常
性別:女
総筋力値:12
エレニウム総合値:190
武器:なし
――――――――――――――――
人族のイザベルはエレニウム値が高かった。
狐獣人のクリチワは筋力値が高く、アンナはイザベルの下位互換。
イザベルをメイド長にして、他の二人も雇うことにするかな。
『この女性たちを雇うのですか?』
『そうだよ』
『魔力操作が得意のようですね、イザベルという名の人族は』
精霊のヘルメがそういうなら、そうなのだろう。
『あぁ、一応、彼女たちは、俺が居ない家を守ってもらう存在だ。戦闘能力がありそうな子を選んだつもり』
『はい、閣下の判断は間違いありません』
『そうかな、よし、消えていいぞ』
『はい』
視界からヘルメが消えてから、右目の側面のアタッチメントを触り、右目を元に戻しながら扉の方へ顔を向けて、口を開く。
「――決まりました。この三人と契約を結びます」
外へ出ていた校長たちは俺の声が聞こえると、扉を開いていた。
「――決まりましたか? どの子がメイド長です?」
「イザベル」
「わぁ、わたしですかっ、ありがとうございます。精一杯、お仕事をやらせてもらいます」
イザベルは喜び満面の笑みを浮かべていた。
他の二人は残念そうに負けたという顔色だ。
「では、さきほど説明した通り、契約書面にサインをしてください」
と、熟女メイドのスーさんに促されたので、かきかきと書面にサイン。
契約書に記された通りの白金貨を、その場でアイテムボックスから取り出し、提出した。
三人だけでなく十数人との契約だから大金だ。
「……確かに契約は完了しました。イザベル、クリチワ、アンナ、おめでとう。レソナンテ寄宿学校を正式に卒業じゃ。今日からここに居られるシュウヤ様が、お前たちの父であり、家族であり、上司となるのじゃ、永遠の奉公、忠誠を誓いなさい」
校長デイランは厳しい口調で使用人たちへ指示を出す。
「はい、イザベルはここにメイド長として、シュウヤ・カガリ様へ一生を捧げます」
メイド長イザベルが頷いてから、一歩前に出て、選手宣誓のように話す。
「はっ、クリチワはここに世話係としてシュウヤ・カガリ様へ一生を捧げます」
「はいっ、アンナはここに世話係としてシュウヤ・カガリ様へ一生を捧げます」
遅れて二人も揃えた口調で宣言。
なんか奴隷と契約するときより厳しい雰囲気なんだけど。
使用人としてのプライドからかもしれないが。
この空気感に、自然と呑まれてしまい、内なる平たい顔族の心が出てしまう。
無意識に口を開いていた。
「よろしくお願いします」
シーンと静謐な空気が漂う。
しまった、主人の言葉じゃなかった。
「……はは、これからも頑張ってくれたまえっ」
急ぎ取り繕う。
「はっはい」
「今後ともよろしくです」
「よ、よろしくお願いいたします」
メイドたちは、少し困惑した顔を浮かべるが、挨拶して頭を下げてきた。
「では、他のメイドたちを集めて馬車に乗せてきますので、シュウヤ様は校門前で待っていてください」
校長デイランはそう語り、部屋から出ていった。
「わたしは馬車を複数用意してまいります」
スーさんも出ていく。
「……にゃぁ」
猫パンチを放っていた
そんな可愛い猫の姿に、
「わぁ」
「可愛い」
「……前足を伸ばして背伸びしています、かわいい……」
三人のメイドたちは、早速、
「にゃお、にゃ」
そのまま尻尾を左端のイザベルから順に絡ませてから、三人の足へ頭を擦りつけていた。
「わぁぁ」
「たまりません」
「シュウヤ様、猫に触れたいですっ」
三人とも目を輝かせては興奮している。
「いいぞ、ロロが許せばな」
「「はいっ」」
メイドたちは気合声を発して
ところが、
「ンン、にゃ」
喉声を数回響かせながら、鳴くと、逃げてくる。
天邪鬼な
軽やかな機動で、俺の肩に着地。
「あぁ」
「素早いです」
「逃げちゃいました」
三人のメイドは泣きそうな表情だ。
「ロロ、触らせてあげないのか?」
と、
「にゃ?」
『しらん、にゃ』風に、顔を傾けてから、俺の肩に喉を乗せて、まったりと休みだす。
「ロロはそんな気分じゃないらしい。ま、お前たちは俺の家で働くのだから、いつか、機会があるだろ、また今度だな」
「はい……」
「分かりました」
「いつか、もふもふを……」
そこでヴィーネへ視線を移す。
「お前たち、そこのダークエルフは俺の従者。んだが、
「はっ、はい、大事な女である。……わたしの名はヴィーネ、ご主人様の従者です。――それと、ご主人様に色気を使ったら……
うひゃ、途中でいきなり口調を変えた……。
久々に冷笑に移り変わる表情を、生で見たよ。
怖いヴィーネさんだ。
途中からの冷然な目へ移行する瞬間は、確実に冷凍庫を開けた時のような冷風が周りに漂っていた。
俺までゾクゾクしちゃったからな。
「……えっと」
「……?」
「……だーくぶれずむ? それはいったい……」
強張った美人メイドの三人は、俺とヴィーネの顔を交互に見ては、混乱していく。
「ようするに、生きていたことを後悔するぐらいに
地下先生たるヴィーネの言葉だ。
こりゃ、ヤヴァイな。
釘を打つどころじゃなく、剣でぶッ刺している勢いだぞ……。
なので、注意しとこう。
『また、調子に乗っていますね、閣下、許してくれれば、お尻に教育を施しますが』
まったく、ヘルメもこの調子だし。
まぁ、水に埋めるを言わないだけ、マシか。
『いや、しないでいい』
少し、怒りの念話を行う。
『はいぃ、すみません』
ヘルメは水だけに青ざめて消えていく。
俺は気を取り直すように目に力を入れてから、鋭い視線でヴィーネを見た。
「ヴィーネ、脅すな。俺が雇ったんだ。お前がとやかく言うことじゃない」
「はぅぁ――す、すみません、調子に乗りすぎました、反省しています……」
俺の雰囲気と言葉で、狼狽したヴィーネ。
だが、重ねる。
「……彼女たちは、部下。いや、仲間となる存在でもある。女だろうと邪険にするな、大切に扱え」
「ご主人様……そんな目で、わたしを……嫌いになられましたか?」
嫌いになるわけがない。
まったく……。
厳しい顔色を崩して、優しさを意識し、
「なるわけないだろう。お前は俺の大切な女の一人だ」
「はいっ、嬉しい……」
「だが、気を付けてくれ。できなかったら……」
と、魔闘術を全身に纏わせて、空気が一瞬、震動するかのように膨大な魔力を外へ放出させる。
「――わ、わかりました。これからは気を付けます……」
「よし、いいだろう」
俺の
……最初からこれじゃ、印象が悪すぎたかもしれない。
だが、これでヴィーネとメイドたちが家の中で遭遇しても、修羅場になることはないだろう。
「……お前たち、外へ向かうぞ、もう校長も待っているだろうし」
「「はいっ」」
「ははっ」
「分かりました」
俺たちは学校の巨大寄宿舎から外に出た。
使用人見習いたちが訓練を行っている校庭を歩き校門前へ移動。
そこには大きな幌馬車が三台停まり、数多くの使用人たちが出迎えていた。
先輩、後輩、の間柄なのか、皆で抱き合って、
〝元気で〟 〝さようなら〟 〝忘れないわ〟 〝頑張るのよ〟
と、互いに目に涙を溜めながら別れの挨拶を行っていた。
後ろでは熟女メイドのスーさんが涙を流している。
全部で十人は超える人数の使用人たちが別れを終えると、幌馬車へ乗っていく。
一応カレウドスコープでチェック。大丈夫だ。全員、蟲には感染していない。
「シュウヤ様、一応、馭者には屋敷の場所は伝えておりますが、念のため、この馬車にて先導をお願いできますかの?」
校長デイランが白髭をいじりながら言ってくる。
「了解です。デイランさん、お世話になりました」
「はい。何かありましたら直接、この商会へおいでください」
デイランは笑顔を浮かべると、頭をさげてくる。
「俺たちはこっちに乗って先導だ。ヴィーネ、馭者への指示は任せた」
「はい」
ヴィーネは馭者の隣に座り、俺はイザベル、クリチワ、アンナ、の三人と一緒に馬車の中へ乗り込む。
すぐに馬車は進み出した。
馬車の一団は大通りで渋滞に巻き込まれて、少し時間が掛かったが無事に俺の屋敷に到着した。
ヴィーネが先に下りて大門を開けている。
複数の馬車が敷地内に入り中庭に入っていく。
「ついたぞ」
「はい」
「ここですか」
「楽しみです」
馬車の中で座っている彼女たちは笑顔で話している。
先に馬車から降りた。
戦闘奴隷たちも中庭に集まっていた。
「ご主人様、お帰りなさいませ。お仲間であるエヴァ様とレベッカ様、そして、遅れてミスティと名乗る冒険者の方がこの屋敷にいらっしゃっていました」
あちゃー、来てたか。
ミスティは宿からここの場所を聞いたのかな。
「それで、何か文句はいっていたか?」
「はい、聞きますか?」
ママニは虎顔で苦笑していた。
雌としての
「聞こう」
「では、レベッカ様が、『シュウヤ、いないじゃないっ、馬鹿!』と、お怒りになられておりました」
想像がつく。
「そ、そうか、ありがと、エヴァは何か言っていたか?」
「はい。『シュウヤは色々と火種を抱えた身、忙しい。仕方ない』とお話をされていました。でも、『シュウヤに会えないのは、寂しい……ん、残念』とも。そして、最後には、必ず話をするように、エヴァ様は強調されていました」
エヴァ、済まない。
「それで二人は?」
「はい、レベッカ様が、エヴァ様を誘い、どこかの店に行くとお話をしていました」
こないだガールズトークで話していた件かな。
「わかった。言い難いところを話してくれて、ありがとう。ママニ」
「いえ、とんでもないです」
「それで、ミスティは何か言っていたか?」
「はい、『ここがシュウヤのお家なの? 凄すぎる。』そして、『また、来るわ』と、短く発言されてから去っていきました」
また、か。タイミングが合えば良いけど。
「……あ、そうだ、新しくメイドたちを雇ったから、後で、挨拶しといて」
「はっ」
そのタイミングで、イザベルたちも遅れて馬車から降りてくる。
幌馬車に乗っていた使用人たちも降りて、俺のもとへ素早く集まって整列していた。
イザベルは集まってくる使用人たちの様子を見て、小さく頷くと、一歩前に出て口を開く。
「皆さん、わたしがメイド長のイザベルです。そして、副メイド長兼、シュウヤ様の身の回りを世話するのが、クリチワとアンナになります」
メイド長としての仕事はもう始まっているらしい。
「そうです、わたしは身の回りの世話をするクリチワといいます。もうここは寄宿学校ではありません、シュウヤ様のお屋敷を守るのがわたしたちの仕事」
「そのとおり、わたしも同様の仕事が決まっているアンナです。皆さんも自分の仕事をしっかりと頑張っていきましょう」
クリチワとアンナもしっかりと使用人たちへ話していた。
「「はい、メイド長、副メイド長」」
その後、すぐにイザベルは視線をこっちに向けてくる。
遅れて全員の使用人たちが俺へ視線を向けてきた。
説明をしないとな。
少し彼女たちからのプレッシャーを感じながら説明を始めた。
「……あそこが、お前たちが住む場所だ」
俺は本館じゃなく左の寄宿舎を指した。
中庭を挟んで戦闘奴隷たちと対面に位置する、大部屋。
「それで、真ん中の家が本館であり本宅。中庭を挟んでお前たちの住む反対側にあるのが、戦闘奴隷たちが住む寄宿舎だ。右下に鍛冶ルームもある。左下は厩舎だ。中庭を含めた、全ての部屋のメンテナンスを頼む。それと、聞いているとは思うが、俺は冒険者だ。普段はここにはいないこともあるだろう。なので、お前たちがこの屋敷を守ることも多くなると思われる。だから、しっかりと働いてくれよ」
「「ははっ」」
使用人たちは一斉に頭を下げる。
「更に、いい訳じゃないが、俺は冒険者だけじゃない。違う側面があることだけは胸に刻んでおけ、これはあまり外へ俺の情報を漏らすなという意味もある。後で、イザベルに少し説明をするから詳しくは彼女から聞くように」
「……」
「返事はどうした?」
低い口調で使用人たちへ問う。
「「は、はいっ」」
「よし、イザベル、クリチワ、アンナ、本館にこい」
「は、はいです」
「了解しました」
「はいなっ」
ヴィーネと一緒にイザベルたちを連れて本館に戻った。
俺はリビングルームの椅子に座りながら、部屋を軽く説明していく。
「それと、最後に、さっきの話の続きだが、聞く覚悟はあるか?」
「……」
三人は顔を見合わせて頷く。
「あります」
「わたしも」
「大丈夫です」
話そうとしているのは、闇ギルドのことだ。
更に怖がると思うがしょうがない。
「……俺は闇ギルドを持つ者でもある」
「ひゃ……」
「なっ」
「ひぃぃ」
やはり怖がるか。
だが、こんなのは序の口なんだよな……。
「こないだ【月の残骸】の総長になった」
「そして、ご主人様は、近々、八頭輝の席に座る至高のお方」
ヴィーネが補足してくれた。大袈裟だけど。
「……契約の時に書かれておりませんでしたが」
イザベルがそんなことを聞いてきた。
「こんなことを契約に書くわけがないだろう。それにお前たちだけにこの話を打ち明けた点をもっと評価してくれても、良いじゃないか?」
「そ、それはそうですが」
「まさか、闇ギルドとは……」
「……大当たりだと思ったのに……」
クリチワ、アンナは顔をひきつらせての不満気な物言いだ。
「だが、もう契約はなった。いまさら引き返せないぞ。だが、他にも大商人が実は闇ギルドを持っていた話ぐらいは聞いたことがあるだろう?」
「はい」
「それはそうですが……」
「確かに」
「後は、鏡の件、ゲート魔法が使えることも知っていてもらおう」
「な、なんですかそれは」
「え!?」
獣人のクリチワと人族のアンナは驚いている。
「まさか、シュウヤ様は時空属性持ちの魔術師でもあると?」
イザベルは少し知っているのかそんな風に聞いてきた。
「そうだな、魔法使い系であり槍使いだ。――この通り」
右手に瞬時に魔槍杖を召喚させる。紅斧刃から続く先端の紅矛をみせてやった。
「ひゃぁっ」
「あぁぅ」
「ひぃ」
三人とも腰を抜かしてしまった。
「ごめん。驚かせてしまったか」
魔槍杖を消して仕舞った。
彼女たちは立ち上がり、口を開いていく。
「お、驚きましたよ……」
「凄い、手品みたい」
「あんなことが可能なのですね」
俺はゆっくりと頷きながら話を続けた。
「まぁな。それで、ゲート魔法は寝室に置いてある鏡を使う、だから、いきなり寝室から現れることもあることを覚えておけ」
「……分かりました」
「寝室ですね」
「覚えておきます」
「それと……」
呟きながら、アイテムボックスから白金貨と金貨を数十枚、銀貨と大銅貨を大量に出す。
金貨を袋に纏めて机の上に置いていく。
「この金を信頼するお前たちに託す、この屋敷のメンテナンス、お前たちの給料、使用人たちの給料分だ」
「す、すごい大金」
「わぁ」
「……給料がこんなに」
浮つく彼女たちを見据えて、話していく。
「設備の維持、近所付き合い、面倒事、全てをひっくるめての値段だ。余裕がでたら商売に手を出してもいいだろう。だが、それは必ず俺に報告しろ、ホウレンソウは大事だ。報告、連絡、相談、まぁ、居なかったら勝手に判断して構わない。その辺の判断はメイド長イザベルに任せよう。そんな彼女を、クリチワとアンナはフォローすること」
「畏まりました」
「頑張ります」
「わたしも努力しますっ」
イザベル、クリチワ、アンナは慇懃めいた態度で頭を丁寧に下げていた。
「血についても説明がしたいが、まぁ今のとこはこんなもんか?」
そう気軽に話しながらヴィーネへ顔を向ける。
「後は精霊様の存在と、ロロ様のお姿が変わられることも説明しておいた方がよろしいかと思われます」
「あぁ、そうだな、俺の左目には精霊ヘルメがいる」
精霊ヘルメが視界に登場した。
『閣下、でますか?』
『いや、今日はいい、今度な』
『はい』
すぐにヘルメは視界から消えていく。
「精霊様……」
「そんなことが可能なのですか……」
「シュウヤ様とはいったい……」
「にゃ?」
肩にいる
「精霊は今度な。よし、ロロ、黒豹型にチェンジしてみろ」
「ンンン、――にゃおん」
机の上で瞬時に黒豹型へ姿を変身させていた。
「うあっ」
「猫ちゃんが獣にっ」
「あうあーーでも、かわいいーかっこいいー」
獣人のクリチワが一人、狐耳をぴこぴこ反応させて違った驚きの反応を示す。
「このように、ロロは瞬時に姿を大きくすることができる。最大規模は、想像がつかないが、この本館から中庭までが埋まるぐらいに巨大化はできるかもしれない。ま、巨大化は禁止中だから、ロロは成らないけど」
「にゃあ」
机の上で寝転び、逆さまになりながら、肉球を俺たちに見せびらかすように片足を伸ばしてくる。
「お話しを聞いた限りでは、怖いですけど……か、かわいすぎる」
「た、たまりませーん」
「さ、さわっても宜しいでしょうか……」
三人とも、すっかり怖がるそぶりは消えて、
「いいよ、
「……ンン、にゃっ」
イザベルが肉球を触ろうとしたが、さっと片足を引っ込めて机を転がり遊び出す
次は尻尾を触ろうとしたアンナの手を躱すように尻尾を丸めて逃げる。
狐獣人のクリチワは抱きつくように顔を寄せるが
ありゃ、完全にロロが遊んでいるな。
「うぅ、すばやいですっ」
「でも、かわいいいい」
「協力して、捕まえましょうっ」
「「うんっ」」
メイド長を含めて彼女たちの最初の仕事は、
微笑ましいが……。
これから、一生に一度、あるかないかの大事な告白だ。
俺は真剣な思いを、顔に出すことを意識しつつ……。
と言うか……かなり緊張してきた。
「ヴィーネ。大事な話がある、ついてきてくれ」
「はい……」
ヴィーネもただならぬ気配を感じ取ったのか、緊張した顔色を見せていた。
そんな彼女を連れて、リビングから渡り廊下を歩いて寝室へ移動していく。
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