百六十五話 寄宿学校レソナンテ
一部の【月の残骸】の幹部たちを連れて惨殺姉妹のルルとララの娼館に案内してもらった。
娼館の一室で彼女たちと話し合う。
縄張りの件を了承してもらった。
話し合いが長引くとルルとララは簡易な寝台に横になる。惨殺姉妹と言う渾名が嘘に思えてくるくらいに可愛い寝顔だ。
もぞもぞと動いて背中を丸くしたな?
まったく……可愛い重さだ。
ヴィーネも眠そうだったから、
「いいぞ、寝ても」
「しかし、交渉は……」
「メルがいる」
「では失礼して」
ヴィーネもママさんたちが使う寝台で眠りだす。
ママさんの娼婦たちは俺たちの存在にビビりすぎて交渉にならなかった。
メルが優しく丁寧に説明をしながら会話を行うと、やっとママさんたちは落ち着きを取り戻す。
スムーズに交渉が進んだ。
ルルとララを歓楽街と市場街の名目的な縄張りのリーダーとして、【新・月の残骸】の支配下になることをママさんの娼婦たちは了承。
ロバート・アンドウには、ルルとララの護衛という名目で常に側に置きフォローさせる。
ま、実質のリーダーはロバート・アンドウということになるが構わんだろう。
裏切ったら首を刎ねればいい。
「ロバート。お前にここを任せるが、いいな?」
「……了解した。命を助けてもらったから当然だ」
ロバートは俺の瞳を見て、頬を紅く染めてから、
「俺の父さんに少し似ている方でもある。運命だと思って、総長の言葉には従おう」
お父さんと似ているのか。
「そうか、日本と言う言葉を聞いたことがあるか?」
「ニホン? 知らないな」
「そか、ならいい」
俺はメルに視線を向け交渉は終わりだな?
と、意味を込めて頷く。
「交渉は成立ということで」
「はい、今後ともよろしくお願いします」
娼婦たちは頭を下げてきた。
眠っていたヴィーネを起こし、娼館を出た。
「ご主人様、途中で眠ってしまい申し訳ありません」
「俺が指示したんだ。構わんさ」
「……にゃおん」
と、ヴィーネに向けて鳴く。
ヴィーネから微かな笑い声が漏れる。
そのまま幹部たちを連れて歓楽街の通りを歩く。
歩きながら売上金とか色々細かなことは全部メルに任せると伝えた。
戦いから会議に交渉と……睡眠時間が足りていないメルは機嫌が悪い。
青筋を眉尻に立て不満な表情を見せていた。
「報告書は読んで頂きます」
「俺が読む必要が本当に
魔力を表に放出しながら、隣を歩くメルを睨んでプレッシャーを与える。
「……わ、分かりました。精査してから判断します」
「よろしく」
アルカイックスマイルで対応。
そこに、腕に月の残骸の腕章がある若い兵士が走りよってきた。
俺たちの前で、膝を折り頭を下げる。
「総長、マダムカザネの部下、戦狐のリーダーのミライという女が近くに来ています」
「ミライ? カザネの部下か。そういえば面会予定日を決めてなかった」
「総長、わたしたちに接触してきた女ですよ」
メルが補足してくれた。
「分かった。君、そのミライという女性を、ここに連れてきてくれ」
「はっ」
若い兵士は踵を返して走る。
女性を連れて戻ってきた。
その女性は整った小顔。
日本人の女性に近い。
額に何故か濃いインクの点印がある。
インドのビンディだと既婚女性の意味となるが……ただのお洒落かな。
その綺麗な顔の女性は頭を下げてから口を開く。
「……失礼します、わたしはマダムカザネの使い、ミライと申します」
「どうも、シュウヤ・カガリです。カザネさんは、俺にまた会いたいとか?」
「はい、この間のメッセージは主に伝えてあります。主は『返事はすべて了承します』との、言伝てです。そして、今、近くに来ているので、直に面会をお願いしたいのです」
この通りに来てるのかよ、あの婆さん。
彼女たちは俺たちを追跡していた?
俺の掌握察も完璧じゃないからな。
探知外からの追跡なら気付けない。
「……いいよ。そこの金物屋の端で会おう」
「はい、ありがとうございます」
ミライはお礼をいうと、素早く立ち上がる。
踵を返して、カザネの下に走った。
すると、神輿がきた。
神輿にはカザネが乗っている。
仮面をかぶった筋骨隆々の汗苦しい男たちが、神輿と椅子に座った婆さんを担いでいる構図だ。
わっせわっせとの掛け声はない。
あのむさい野郎どもは、奴隷の部下か。
部下に担がせた神輿の上に椅子がある。
その椅子に座った婆さんが、カザネだ。
風音丸子、丸子お婆ちゃん。
カザネが乗る神輿が地面に降りた。
そのカザネ婆さんが、
「――シュウヤさん、この間の件は謝ります」
頭を下げた。
が、信用はできない。
「にゃあ」
肩に戻っていた
「これはこれは、お噂は耳に入っていますよ、可愛い黒猫様」
「ンンン」
婆さんには興味がないようだ。
顔をプイッと逸らす。
尻尾を僅かに揺らしていた。
「カザネ、俺に会いたかったんだろ。満足したか?」
「……はい。待ってくださいな。話したいことがあります」
「あの変な空間には行かないからな? 魔法もなしだ」
「……承知していますよ。ここで結構です。この通り霊装道具や魔道具は何もつけていません」
『確かに、不自然な魔力は感じられません』
『そうみたいだな』
ヘルメと念話をしているとカザネ婆は布ローブから両手を伸ばす。
皺が目立つ上半身の胸を少し見せてきた。
萎んだおっぱいが少し確認できる。
さすがにおっぱい研究会臨時総理といえる俺でも範囲外だ。
「……まる子や、それは無理だ」
「……もぅ、いけずぅ。ですね」
冗談に乗ってくるとは、さすがは元日本人。
彼女は違う世界の日本人のはずだが、その世界にも同じアニメがあったのか?
と、疑問に思うが指摘はしなかった。
「……それで話したいこととは?」
「盲目なる血祭りから始まる混沌なる槍使い」
なんだ突然。
言霊的な呪文か?
象徴的な言い回し。
そういえば、巫女系だ。
何か未知の神通力を持つのかな。
「わたしのスキルで、予め知っていた
鑑定の他に予知もあるのかよ。
不思議な国、日本の霊能者かっ。
運命神アシュラーがカザネを気に入った理由はそれかもしれない。
しかし、彼女の話の辻褄は合うが。
だから何なんだ、という話だ。
「……それがどうしたんだ?」
易者、身の上を知らず。
ともいうし、彼女も俺が関わると自分の先行きが見えないから不安なのかな。
「……凶事は去ったと思いたいですが、何分、シュウヤ様の見えない心が読めない。だから直接意思疎通を取りたかったのです。それから【星の集い】のアドリアンヌ様から、シュウヤ様へ八頭輝推薦の話が出ています。年末に行われる地下オークションを円滑に行うためにも、協力をお願いしたいのですが……どうでしょう」
八頭輝ねぇ。
もし就任したら闇ギルドの盟主たちと面を合わせるのか。
年末の地下オークションは参加予定。
楽しみだから喜んで協力はしたい。
――ヴィーネ、アドバイス、カモーン!
と、聡明なヴィーネに視線を向ける。
「ご主人様、八頭輝と成れば、地下オークションで融通が利くかもしれません。そして、多くの大商人、大金持ちの顧客と知り合うこともできるでしょう」
的確なアドバイスだ。
さすがはヴィーネ。
優秀な秘書! いや助手&従者or俺の女だ。
「それもそうだな。よし――カザネさん。その話は受けよう」
「好かった。早速アドリアンヌ様へと報告を行いましょう。年末の地下オークション会合の場所が、正式に決まりましたらシュウヤ様にご連絡を致します」
「分かった」
「そして、是非とも、ご出席をお願い致します」
「了解」
「では、また後日。お会いしましょう」
カザネは周りの部下たちへ指示を出す。
部下たちが担ぐ神輿が上がると、えっさえっさという勢いで、反対の方向へ去っていく。
その去り際に、大谷刑部、関ケ原で散った名将の名が浮かんだ。
小早川がこなきゃ死ななかったのに。
「……総長、八頭輝就任おめでとうございます」
「おめでとうございます」
関ケ原の戦いの歴史を思い出していると、メルたちから一斉に祝いの言葉を連呼される。
「ありがとう。でも、俺は冒険者という仕事を気に入っているんだ。邪魔はしてくれるなよ?」
「……」
「返事はどうした」
低い声質で、皆を見据える。
「にゃごあ」
皆を脅すように変な声を発していた。
その瞬間、
「はい!」
「分かりました! 総長と
「はいっ、気をつけます
なんか、ロロ様とか呼ばれているぞ……。
さて、一段落したしそろそろ家に戻るか。
「それじゃ、俺たちは家に戻る」
「はい。護衛を総長の住まいの周りに配置しますか?」
メルは俺の実力を知っていて、わざと聞いてくる。
「必要ない。それより、俺の冒険者仲間たちを守る人員は割いたんだろうな?」
「はい、そのはずです」
「ならいい。じゃ、またな」
「はっ」
その場で【月の残骸】の幹部たちと別れた。
黒馬のような神獣のロロディーヌの背中へと乗り込む。
ヴィーネを前に乗せた。
俺の背中に手を回すヴィーネ
彼女のおっぱいの感触を腹にダイレクトアタックを受ける。
駅弁スタイルだから股間が反応しちゃう。
んだが、紳士を貫く――我慢だ。
一物さんは我慢できないが、我慢だ。いや、我慢、ぐぁぁぁんと、混乱しながら――
素早く迷宮都市ペルネーテを駆けた。
――家に帰ったら奴隷たちにも軽く説明しとかないとな。
と、使用人を雇う予定だったことを思い出す。
「ロロ、ストップ」
「にゃ――」
神獣ロロディーヌは四肢に力を入れると、滑らかに屋根の上で停まった。
「……ご主人様?」
抱きついているヴィーネは顔を上げる。
「ヴィーネ、突然だが、俺の屋敷は広いだろ?」
「はい、それがどうかしましたか?」
「使用人を雇おうと思う」
「そうでしたか。これから使用人ギルドへ向かうのですね」
「それもいいんだが、キャネラスに紹介してもらおうかな、とか考えている」
「確かに、優秀な使用人たちを紹介してもらえる可能性は高いですが、キャネラスは王都グロムハイムへ向かっている可能性があると思われます」
ヴィーネはキャネラスの下で働いていたからな。
彼のスケジュール的なものは把握していたか。
「彼はどんな用で、王都へ行っているんだ?」
「【デュアルベル大商会】の定例会議かと思われます」
「大商会の商人だし、商会も集合体となると……かなり忙しいそうだな。思えばヴィーネと初めて会ったのはヘカトレイルだった……覚えているか?」
「ヘカトレイル? ……あ、あの時の、奴隷市場ですか?」
「そうだよ。一応は視線が合っていたから覚えているかと、思っていた」
ヴィーネはショックを受けたように涙目になってしまう。
「……すみません、思い出しました。あの時、わたしを見ていたご主人様の姿を……それなのに、わたしとしたことが」
「はは、まぁいいじゃないか。あの時があったから、今がある。あの時にヴィーネを見て、好いな、と思っていたんだぞ」
「嬉しい……」
ヴィーネはキスを求めるように目を瞑る。
求めに応じて、ピンクと紫掛かった綺麗な唇へ優しくキスを行った。
柔らかい。一回、二回と優しいキスを繰り返す。
三回目のキス終わりに、また上唇へと優しく唇を重ねてあげた。
「ン、好きです……」
ヴィーネは潤んだ瞳。
少し火照った笑顔で告白してきた。
「あぁ、俺も好きだ」
今度は銀仮面の反対側の頬へと唇を当てた。
頬に唇の跡が付かない優しいキスをしてから、唇を離す。
――ヴィーネは離れた俺の顔を追うように唇を突き出しつつ吐息を漏らす。
可愛く色っぽいが……キスはおしまいだ。
さて、使用人を雇い終わったら……。
この大事なヴィーネに<眷族の宗主>のことを告白しよう。
<筆頭従者長>に成るかを聞いてみる。
勇気がいるが……。
『閣下……ずるい』
と、突然ヘルメが視界に登場しながらの、突っ込みだ。
『魔力が欲しいのか?』
『キスもですが、はい……』
『キスは今度な、魔力を少しだけあげよう』
魔力を注いでやった。
精霊のヘルメはパッと消える。
『はぅんっ、あ、ありがとうございますぅ』
念話は終わらせ、ヴィーネを見る。
「……ヴィーネ、休憩はいるか?」
「いえ、さきほどの交渉時に少し仮眠していたのでいらないです」
「分かった。ユニコーン奴隷商館に向かうぞ。キャネラスがいなくても、モロスに聞けば、使用人ギルドに融通が利くかもしれない」
「はい」
黒馬の姿と似た神獣ロロディーヌ。
ふさふさな毛が包む胴体を、掌で、撫で撫でを行う。
「――ロロ、この間の奴隷商館の位置は覚えているか?」
相棒は、鋭角な耳をピクピクと動かし、
「にゃ、にゃおん――」
覚えているらしい。
強く鳴いてから一気に跳躍――。
「きゃっ」
進み出したところで、ヴィーネはまた、強く俺を抱きしめてきた。
バニラの香りが鼻を占める。
直ぐに大通り沿いに出ると、あっという間に瀟洒な屋敷前に到着。
煉瓦で左右対称のアールデコ風。
ユニコーン奴隷商館前だ。
「ついた」
「はい」
ヴィーネの抱きついてる手を解いて神獣ロロディーヌから降りる。
続けてヴィーネも降りてきた。
少し足がもたつくが……。
乱れてしだれた長い銀髪を直す仕草を取る。
艶めかしい。
見惚れている間にロロディーヌは一瞬で縮む。
黒猫の姿に戻ると、いつもの定位置である俺の右肩へ戻ってきた。
ヴィーネの用意が整うのを待ってから……。
この間は、開いていたが今日は閉まっている。
扉に真鍮製の金具のドアノッカーがある。
そのドアノッカーで扉の金具を数回――叩く。
ゴンゴンッと鈍い金属音が扉から反響。
すると、扉が開かれた。
現れたのはヘッドスカーフを被ったエプロンドレス姿の少女の使用人。
モロスさんではなかった。
まだ小さいし、客間担当見習い、子守担当見習い、だろうか。
「お客様、御用はなんでしょうか。ご予約はしていますか?」
「予約はしていない。キャネラスに用がある。いるか?」
「いえ、王都に出かけていません。失礼ですが、お名前を伺っても?」
「名はシュウヤ、シュウヤ・カガリ」
「あっ、こ、これは失礼をっ、ただちに奥の間にて、お食事を用意させます」
さすがはキャネラス。
俺の名前を下っ端の使用人にまで教育済みか。
「いや、それはいい。モロスさんはいるか?」
「はいっ、執事ですね、すぐに呼びにいってまいります」
「よろしく」
少し待つと、オールバックの髪型が似合うモロスを少女メイドが連れてきた。
「これはシュウヤ様、本日はどういった用件で?」
「今日は奴隷とかではないんです。貴方のような素晴らしい使用人を雇うにはどうしたら良いのかを聞きにきたんですよ。できたらモロスさんを雇いたい。無理なら、使用人ギルドで使える人材を紹介して欲しいところです」
モロスさんは驚いたのか、目を見張っていた。
「……わたくしをですか?」
「ええ、はい。屋敷のハウスキーパーとして雇いたいです」
「……これは光栄の至り。しかし、
さすがはキャネラス。いい商人だ。
今度、また違う奴隷を買っちゃおうかなぁ。
「そうでしたか」
「はい、使用人は何人ほどをご希望でしょうか。家の大きさによりますが数十人単位となります。それと……女か男かの希望はございますか」
「……人数は普通で構わない。性別は、どちらでも構わないと言いたいところだが、俺も男だ。どうせなら美人で使える女がいい」
「ご主人様……」
ヴィーネは睨むと、顰蹙。
視線は厳しいし、少し怖い。
「……はは、随分と、慕われておいでのようで」
モロスは微笑みながらヴィーネと俺を見る。
「当然だ。至高のお方……最高の雄なのだ、です……」
最初は、素の感情を出して語りつつ最後は恥ずかしそうに普通の声で話をしていた。
しかし、真顔で俺を見ているヴィーネさん。
……嬉しいが、少し恥ずかしい。
『成長していますね、彼女は』
常闇の水精霊ヘルメが長い睫毛を揺らしながら視界に登場。
満足そうに頷いていた。
『この間のヘルメの言葉が効いたか?』
『そのようですね。ですが、調子に乗る可能性もございます。その時はわたしがお尻ちゃんに、罰を与えましょう』
……また危ないことを。
『その罰とはなんだ……』
『水で埋める』
『尻をか?』
『はい、いえ、すべてを』
……死んじゃうじゃねぇか。
『ヘルメさん、それは禁止ね』
『閣下がそうおっしゃるのでしたら……暫くは控えたいと思います』
『ヘルメ、あまり怒らないでいいから、冷静に行動しろよ?』
『冗談です』
『分かってるけどさ、消えていいぞ』
『はいっ』
ヘルメは地下に潜るように消えていく。
念話を終えてからヴィーネを見る。
「……ヴィーネ、ありがとな。でも、黙ってて」
「はい」
「……羨ましい限りです。ごっほん、では、ヴィーネ様には悪いですが、美人で使えるメイド長から戦闘、雑用までなんでもこなせる、メイドオールワークスに、主人の身の回りの世話、護衛をこなす戦闘メイドたちを、
おぉ、何か多い。
役割ごとにメイドさんがいるのか。
その辺のことは、全くの門外漢だから少しずつ理解していこ。
「お願いします」
俺は尊敬を目に込めて、礼を述べてから頭を下げた。
「使用人のわたしに、そこまでの態度は必要ないですよ、シュウヤ様」
「あ、それはそうかもしれないが……」
「……ですが、わたしは貴賎ない態度のシュウヤ様を尊敬いたします。旦那様が金だけではなく、シュウヤ様を気に入る理由が少し分かった気がしました」
そこまでのことではないのだが……。
単純にモロスさんの仕事がカッコ良く見えただけだし。
ま、それは置いといて、金だけでなくキャネラスは俺のことを気に入っているのか。
「……キャネラスがそんなことを」
「はい。では案内します」
「宜しく」
ユニコーン奴隷商会を後にして、また馬車で揺られること数十分。
目的の場所、通り沿いにあった三階建ての大きな屋敷に到着。
大きい屋敷の古い学校みたいな建物にも驚くが……。
多数の人、女性たちが屋敷前にある巨大な門から通りを越えて端の向こうまで並んでいる様子にも目を見張った。
モロスさんが説明していく。
「この建物を所有運営しているのはレソナンテ商会という中規模の商会です。貴族専門以外での使用人教育ではペルネーテどころか、南マハハイムで、一、二を争うほどの商会なんですよ。使用人の教育のために独自の教育制度を設け、男女身分関係なく幼い子供から大人まで関係なく受け入れています。そこで何年も厳しい寄宿舎生活を過ごし使用人としての技術を色々と学んでいるんです」
「へぇ……」
身分関係なく教育を受けられるので、貧しい地方からこのレソナンテ商会にまで、はるばる学びにきては働こうとする女性たちが多く、毎日のように幼い少女から成人女性までが、面接、試験を行いに、このレソナンテ商会に訪れるのだとか。
凄まじい……メイドだけの世界がここにはある。
子供から大人まで受け入れているというとこがまた凄い。
何というか、男女共学だと、ここで昼ドラ系、メロドラマ的な展開が毎日のように繰り返されているんだろうな……。
生徒と生徒、先生と教え子、禁断の恋。
妊娠させてしまって、いやーんな展開が……。
はぅあ、いかんいかん。
「……凄いな」
変な妄想を振り払うように、顔を左右に振って呟いた。
「……ええ、あのように今日も、長蛇の列ができています」
俺の様子にモロスは訝しむように見ていたが、指摘はしてこない。
「ここで使用人を雇われるのですね」
ヴィーネも並んでいる人々を見ながら話す。
「そうなるな」
「はい、では中へ行きましょう」
モロスに連れられて、寄宿舎学校のレソナンテ商会へ入っていく。
校庭も大きい。そこではメイドの格好をした女の子たちと使用人見習いの男たちがそれぞれに素手の組み手、木剣、木槍、走りこみを行っている。
軍隊のようだ。
そこで軍曹らしき人物が口を開いた。
「お前たち、気合がたりん!」
「――はいっ」
木槍を持った複数の生徒たちが一斉に振り上げ、木槍を地面に叩きつけていた。
「軟弱者がぁぁぁっ、もっと、もっとだ! 力を入れろ!」
「――はいぃぃ」
うへぇ……。
「そんな腕前では、ララーブイン寄宿学校の奴らに勝てないぞ! お前たちは負けたいのかっ?」
「い、いえ」
「声が小さいっ!」
「「――はいっ」」
「よーし、良い面構えだ。ララーブインどころか、王都グロムハイムの貴族専門ローファン寄宿学校にも勝てるようにしてやる」
「はいっ、教官」
「頑張ります、教官」
「教官、やりますっ」
ヤヴァイな、青春だ。
彼女たちは学校同士で競い合っているらしい。
「シュウヤ様、気になりますか?」
立ち止まって見ていた俺にモロスが聞いてきた。
「あぁ、気になる」
「彼女たちにも戦争があるんですよ。毎年、各地方都市にある寄宿学校同士が一堂に会してメイド武術大会が開かれるのです」
……そうなんだ。
「……毎年ですか」
「えぇ、彼女たちは必死ですよ。活躍したら即貴族に召し抱えられる。または、大商人、優秀な冒険者の屋敷に雇われやすくなりますから」
なるほどな。ローマは一日にして成らず。
メイドたちもそんな気概で頑張っているのかな。
きっと語り尽くせない
俺たちはメイドたちの必至に行う訓練を見学。
ムカデ競争、玉入れ、カバディ、卓球? 相撲、自衛隊徒手格闘、といったような訓練だ。
メイド相撲は、はっきりいって魅力的すぎて、目が点になった。
ヴィーネに腕の皮をつねられたから、「ハハハ」と乾いた笑い声で誤魔化しつつ、大きな玄関の扉前まで歩いていった。
大きな茶色の扉をモロスが押し開く。
「いらっしゃいませ」
中では頭に小さいかぶり物を乗せた質素な紺色ワンピースを着ている女性メイドに出迎えられた。
メイドの両手には白い付け袖が目立つ。
丁寧な所作で頭を下げていた。
「どうも、ユニコーン奴隷商会のモロスです。校長デイラン先生か、メイド長スーさんはいらっしゃいますか?」
「はい、少々お待ちください」
校長か。メイドさんは足早に廊下の奥へ向かう。
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