七十二話 魔導人形からの心霊体験
ゴメスは散らばっている荷物を回収している。
フランも殺した盗賊や死んだ冒険者たちの遺体からも金目の物を剥ぎ取っていた。
生き残っていた商人のタジキも恐る恐る死体に近付き、黙々と嫌そうな顔を浮かべながらも回収を手伝っている。
俺も麻袋を腹に抱え持ちながら、荷馬車がある場所へ運ぶ。
荷車のとこに運んだけど……車輪の金具は外れているし、金属部位が壊れている。
これ、直せるのか? 地面に転がる壊れた金具を手に取ってみた。
その時、捕らえていた女のミスティが声を発した。
「わたしなら直せるわ」
彼女は自信ありげに言う。
枷を外してやり、自由にさせてやる。
その途端、ミスティは額の紋章を輝かせた。
ミスティは壊れた金属へと黒く変色した細い指を伸ばす。
興味がある。金属へ触る瞬間が特に。
ミスティの指が壊れた金属に触れた――。
すると、金属の表面に血管的な模様が浮く。
更に葉脈的なモノが発生し、幾何学模の小さな魔法陣へ変化を遂げる。
が、それらの小さい魔法陣は壊れた金属の中へ浸透するように消えた。
刹那、その金属が生き物のように蠢きうつつ糸を発生させると、壊れた部分がくっつき合い自動的に再生されていった。
不思議すぎる……本当に壊れた金具は元通り、車輪が直ってしまった。
ミスティはさすが魔導人形を扱うだけのことはある。
「ひゅ~、その女。やるじゃねぇか。それがシュウヤが殺さねぇ理由だな。おい――みんな、荷馬車が復活だ。この荷物を載せられるぞっ!」
ゴメスが荷物を抱えながら、口笛を吹いて、嬉しそうに叫んでいる。
「どう? それと、魔導人形の壊れた部品も回収したいのだけど、大丈夫かしら?」
ミスティは自信ありげに語る。
「あぁ、いいけど。ウォーガノフを再生させたりしたら、その魔導人形ごと、お前を壊すからな?」
「わ、わかってるわよ……そんな怖い目を向けないでよね。だいたい……小さい緑闇鋼と黄魔鋼の塊だけだし、鉄水晶コアが壊れているから再生させようにも部品が足りなすぎるわ」
怖い目……俺は自然と睨みを利かせていたらしい。
ミスティは理解不明な金属名を言うと、回収していく。
彼女が拾っている魔導人形の部品は本当に小さい。
濃い黄鋼と海松色の小さい金属を燐光させる。
あっという間に小さく濃縮するように
元の色合いに戻った指先で金属を跳ねるように扱い、細工箱の一枠へ纏めたインゴットを納めて仕舞っていた。
扱いがプロだ。金属の扱いにはかなり手慣れている動き。
あの細工箱には、他にも特殊な金属の塊が詰まっていそう。
生き残るためのアピールもあるだろうけど、確かに殺すには惜しい。
彼女からは俺の知らないことが色々と聞けそうだ。
そんなことを考えていると、ゴメスたちが散らばっている荷物を集めたようで、直した荷馬車の上に荷物を運び終えていた。
おっ、馬が増えている。
ゴメスたちのクランメンバーの一人が荷物の回収ついでに逃げていた複数の馬たちを連れ戻してきたらしい。
荷馬車にその馬たちを連結させている。
他にも、盗賊たちが持っていた荷物が一ヶ所に集められていた。
彼らはその取り分を話し合っている。
俺もその場に参加しとこ。
「盗賊たちはそれなりに良い装備を持ち、金も持っていたぞ」
「そのようだ。わたしが回収した魔法使いたちも、火の魔宝石に風の魔宝石が付いた杖を持っていた。金は銀貨十二枚」
俺もトマスから回収した金貨が入った袋を置いておく。
死んだ盗賊や仲間の冒険者たちから回収した物資は結構な金になりそうだった。
さらに、盗賊たちの根城が近くにあったので、金貨、銀貨、大銅貨、という金以外にも、長剣、槍、斧、弓、矢、杖、革鎧一式、盾、これらの品を皆で平等に分け合うらしい。
でも、俺は捕虜を貰ったから遠慮しとこう。
話しておくか。
「皆、聞いてくれ。今回のことで“女の権利”は貰った。だから、盗賊からぶんどった物はあんたらで分け合ってくれ。俺は依頼の成功報酬だけでいい」
俺の言葉を聞いたゴメスは目を見開く。
「――ずいぶんと気前がいいな?」
「あの魔印女なら高く売れるとは思うけど、こっちの方が大量よ? 欲がないわねぇ隊長とは違うわ~惚れちゃいそう」
「確かに、だけど、シェイラ。神王位並みな魔槍使いのシュウヤさんとゴメス隊長を比べちゃ可哀想だ」
「そうねぇ。あの後ろ姿に……ジオも影響されちゃったか」
「えぇ、シュウヤさんは優れた
「お、おまえらぁ、俺と違うだぁ? たっく……好き勝手にズケズケと……プロの冒険者なら分け前なんて譲らないのが基本なんだぞっ」
ゴメスはそう強がって話しているが、口元がニヤけている。
「わたしも構わない。ゴメス、わたしとゴメスのクランで分け合おうか」
フランも賛成してくれた。
「そうだな。了解だ。しかし、シュウヤ。後で金が欲しいとか言っても、分けてやらんからな~」
「はは、分かってるよ」
「それじゃ、ちゃっちゃと、山分けにしちまおう」
戦利品が公正に分けられていく。
そのせいか、ゴメスたちが乗る馬たちの荷物が嵩張っていく。
結局、直した商人の荷車に、ゴメスたちが得た戦利品の一部を載せてもらっていた。
フランの方は力強い魔獣なので荷物が嵩張っても平気なようだ。
準備を調えると、ゴメスが話してくる。
「死んだ仲間の冒険者カードは拾えるやつは拾えた」
「そか、弔い的なことはいつやるんだ」
「ふっ、神官みてぇなことを言うんだな。俺らは死が隣り合わせな冒険者だ。どんな安い依頼だろうとプライドを持って仕事をする。冷たいようだが、弔うことに時間を費やすより、商人を守る依頼を素早く完遂させることの方が重要だ」
なるほど。
彼が実際に戦うところを見ていないが、クランを率いてるだけはある口ぶり。
俺は冒険者としての心持ちを教わった気がした。
「……冒険者か」
「あぁ、だから、そろそろ出発しないか?」
それもそうだな。
自らの行動の結果だけど、こんな死体ばかりのとこは嫌だ。
「了解」
俺は即答。
「わたしも、いつでも行ける」
「フラン、次からはあんたが先頭に立ってくれ」
ゴメスは隊商リーダーをBランクであるフランに任せたいようだ。
「……分かった。ただし、人数が少ないんだ。これからは順番で行こう」
「それで構わねぇ」
ゴメスがフランの意見に同意すると、俺に視線をよこす。
「俺もそれでいいよ」
「分かった。んじゃ皆、出発だ」
「「おうっ」」
こうして、ゴメスの掛け声と共に隊商隊は進み出した。
荷馬車と幌馬車が移動を始める。馭者だった獣人はもう死んでいないのでゴメスのクラン員の一人が馭者を務めていた。
フランを先頭に俺とゴメスたちが後ろから続く。
ポポブムの後頭部には
何時間か密着しながら乗っていると、
「わたしの座り位置は、ずっとこのままなのかしら?」
ミスティの両手は拘束したままだ。
そのままの格好でポポブムに乗せているのが我慢できないのか、そう発言してくる。
「そうだ。おしっこか?」
「ち、違うわよ」
「そうか、多少密着してるが、我慢しろ」
「……ふん、お尻の位置に、変な感触があるのだけど?」
ちんこの感触が嫌らしい。
全く、それぐらい我慢しろよ。
「うるさいな。ロープで引き摺っていた方がいいのか?」
「嫌よっ、そんなことしたら死んじゃうじゃない」
「だったらケツに、俺の一物が当たろうが、我慢しろ。今からそんな調子でどうするんだ? 奴隷として売ったら性奴隷として、誰かに買われる可能性もあるんだぞ?」
「う、そ、それは嫌すぎる……はぁぁ、なんで、こんなことに……糞、糞、糞……」
うはっ、陰鬱だ。
糞を連発して、呟いてるし……。
「おぃ、糞糞言うな。元は貴族だろうに……」
「しょうがないでしょっ、癖なのよ……」
「癖か……」
「――そうよっ」
わざわざ、振り返って睨んでくるし。
……糞糞の話なぞ耳に入れたくないので、話題を変えるか。
そうだ。ついでに魔導人形のことを聞いておこう。
「それより、お前の魔導人形を作る技術が気になる。俺とロロが倒した、あの、
「……大金さえあれば作れるわ。まず、貴族関係者の工房か、腕の立つ職人工房を借りるか、大金を使って工房を作るかして、作成道具、高級な素材部品を大量に用意すれば作れる」
それなりに設備と素材が必要か。
あの
いや、そもそも、中世の世界に凝り固まる必要はないからな、機械の物があっても良いじゃないか。
彼女は専門家だし、少し掘り下げて聞いてみよう。
「……ほぅ、大金か。専門的なことを聞くが、
疑問に思ったことを早口で全部ぶちまけてみた。
「……」
ミスティは前へ振り向き直して、何かを考えるように俯く。
黙ってしまった。
「おぃ、なぜ黙る」
「――貴方、何者なの?」
急に顎をぐいっと上げて、また振り向いてきた。
密着していたので、余計に顔が近い。
――綺麗な顔だ。思わずミスティの顔を凝視する。
この女はやはり、元、貴族か。
顔には化粧らしき白粉が見え、甘い香水の匂いが漂う。
黒い細眉も綺麗に整えられて、大きな瞳の中には黒斑のある焦げ茶色の虹彩を輝かせていた。
朱色の小さい唇端を動かして、口角を上げている。
ミスティの顔は、笑っていた。
彼女はどうやら俺に興味が湧いたらしい。
そういや、名乗ってなかった。
「……俺はシュウヤ・カガリ。冒険者Cランクだ。それ以外に肩書きはないぞ」
「そう……シュウヤ、よろしくね」
「あぁ、よろしく。それで、さっきの質問なんだが……」
「――分かってる。答えるわ。でも、シュウヤは頭が良いのね。正直、びっくりしたわ。自我精神、魔導生命は理解できるけど、しーぴーゆー、エーアイ、ぷろぐらむ、デンキカイロ、センサー、そんな言葉は初めて聞いた用語だし、魔法技師が使いそうな言葉を矢継ぎ早にポンポンと繰り出してくる……まず、普通の冒険者では、そんな言葉は出てこないと思う」
「……そんなことはどうでもよい」
俺の言葉を聞いたミスティは若干目を細める。
彼女はしょうがないといった顔色を浮かべてから話を続けた。
「はいはい。では、まず命令系統だけど、それは作った職人がある程度設定できるわ。その命令文を刻める幅は、作った主人の魔力量と精神力、後、本人が持つ特殊スキルが合わさって、尚且つ性能の良い鉄水晶コアとかの素材、専用炉の組み合わせ次第で増減するの……例えば
作る本人の魔力量、精神力、スキルだけがあっても駄目なのかよ。
途方もないね、
「……そりゃ、膨大に金がかかりそうだな。白命炉厰、軍の工廠が持つと、言っていたけど、やっぱり高いんだろ?」
「勿論よ。軍だけじゃなく、貴族も持っていることもあるわ。貴族としての力を示すことに繋がるからね。だから、大金が掛かる。炉は鍛冶の鋳造に使われるような炉でもないし、専門の素材が必要で専用の鍛冶スキルで作られた専用炉だから」
複雑だな、炉を作るのにもスキルがいるのか。
鍛冶、錬金、エトセトラ、奥が深い。
その時、脳裏にゾルの家にあった摩訶不思議な炉のようなものがあったのを思い出す。
あれは何か専門の炉廠だったのだろうか……。
「ほぅ……」
難しいので、さも、わかったような面を浮かべて呟く。
「後、難しくて、お金もべらぼうに掛かるけど、小さいウォーガノフも作成は可能よ。これも同じように部品素材で性能が変わる。最後の精神のことだけど、魔導人形に高度な自我の精神を持たせるなんてことは、まず不可能。無理よ。主人の命令を忠実に聞くことが重要なのだし……さっきも言ったけど、もどき。のようなモノなら、できないこともないと思うけど、現実的じゃないわ」
自我は無理……なのか?
シータ、ゾルの妻に似せて作った代物は魔霧の森で出会い殺したゾルの日記の記述にあった通り、
七魔将サビードと取引していたのが証拠か。
多少は技術的に似たような類があるかもしれないが、シータの自我意識のような意識を持たせるには吸霊の蠱祖を用いた、魔術、死霊術、魔法、生贄、触媒を用いた悪魔を呼び出すとか、冥界にアクセスするとか、
あの時のシータは確かに自我を持っていた。
最後に見せた表情なんてリアル女性そのものだったし……。
だが、全ての事象が、神様の悪戯。の一言でも片付けられるから、考察したところで無駄か。
「……無理か。魔導人形を作る天才が、そういう物を作った。とか聞いたことないのか?」
「……随分と長考していたけど、何を考えてたの?」
「いいから、質問に答えろ」
「あぅ、怖い目で見ないでよ。無いわね。わたしの兄貴がオカシクなる前は、そういう天才と云われる類いの人物だったけれど……さすがに無理だと思う。専門は魔金細工師だったし……特別な
ゾルと知っているが、あえて聞く。
「お前の兄貴とは、ゾル・ギュスターブのことだよな」
俺の言葉を聞くと、ミスティは身体をビクッと動かして反応。
「――やっぱり家の名前を知っているんだから、イカレた兄貴のことは聞いたことはあるわよね、そうっ、殺戮者、A級犯罪者でどっかに消えた……有名な男が兄貴よ。あいつのせいで、ギュスターブ家は……奴はわたしが見つけて、この手で殺してやりたい……」
俺がその兄を殺ったと言ったら、彼女はショックを受けそうだな。
黙っておく……。
「そうか、それよりも、
「……やっぱり興味があるんだ。何度も言うけど、わたしが最高の
ミスティはまだ聞くの? と言うように、少しげんなりした顔を浮かべている。
だが、俺は話を続けた。
「それはあくまでも普通の範囲での話だろ?」
「確かに……神、魔族、神遺物、特殊な魔道具を使えば、可能なのかもしれない。でもその分野は全くの畑違いで分からないわ。そんなことが本当にできたのなら、確実に歴史が変わるでしょうね。……まぁ、でも、不可能でしょう。
聞いたことのない神の名前が出た。
ゾルの日記にはそんな機械の神の名前は書かれてなかった。死神の名と魔命を司る神の名前が書かれてあったのは覚えている。クナが持っていた神絵巻にもそんな神は載っていない。違う次元界の神か?
そんな調子でミスティから
――数時間が経過。
先頭を走らせていたフランが
「休憩だ。各自、馬や魔獣に餌を」
そう言って手を上げながら皆を呼び止める。
俺も言われた通り、皆に歩調を合わせて休憩。
ポポブムに水を飲ませたり、乾燥草を食わせてやった。ポポブムは嬉しそうに鼻息を荒くしながら餌を食っている。
おっ、誰かが来る。
気付いていたが、後ろを振り向かずにポポブムの首を擦ってると、背後から声がかかった。
「すみません」
「ん?」
話しかけてきたのはルクソール商会の商人タジキだった。
俺が振り向くと、何回も頭を下げている。
商人特有の諂う態度ではないと分かる。
必死な顔からこの人の性が見えた気がした。善な人だろう。
「今回は本当にありがとうございました。このご恩は忘れません。そして、ホルカーバムに着いたら是非ともルクソール商会へおいでください。きっと、ドミニカ会長も喜んでくれるはずです」
たぶん、行かないと思う。
けど、無難に答えておこう。
「気が向いたらな」
「はい、わかっています」
そんな調子で会話を続けたタジキは何回か頭を下げてから、幌馬車に戻っていった。
休憩を終えた俺たち隊商の一団はまた西へ進み出す。
次第に乳白色の薄い霧が周囲に発生。
若干視界が悪くなってきた。
だが、フランから先導を代わっていたゴメスたちは視界が悪くても霧を突き抜ける勢いで速度を下げずに進んでいた。
ゴメスたちは急いでるのか?
先頭を見つめた、そんな時――ん? 急に湿気が増えた?
しんみりとした冷たい空気が頬に当たる。
何故か、生暖かい風が混じり背筋がゾクっとした。
更に、幽けき風音。
乳白色の霧の中から黒く縁取られた灰色塊が蠢く。
しかも――俺たち隊商を追い駆けてきたっ!
「シャプシーだっ!」
フランが叫び声を出す。
そして、生暖かい風が吠え狂う。続いて怨念の塊を感じさせる、不気味で陰鬱の潜り声が周囲に響いた。
「このまま、無視だっ! 相手をせずに霧を脱するぞっ! 取り憑かれたらおしまいだっ、突っ走るっ」
「「――了解っ」」
ゴメスたちは一斉にしゃがれた生声を発し、隊商は速度を上げる。
俺もポポブムの腹を叩き、速度を上げてついていく。
ミスティは体を震わせているのが分かる。
やがて、乳白色の身体に絡み付くような霧は消えた。
蠢き声を響かせながら隊商を追いかけてきた灰色霧の塊は怨みの篭った不気味な叫び声を周囲に撒き散らして、消えていく。
おどろおどろしい霧が消えても隊商は速度を上げたままだ。
ゴメスは逃げるのに必死だ。
隊商が進む地面は浅い沼地に変わっており、疎らに白樺の木々が生える場所へ突入していた。
ポポブムが踏みしめる地面は泥濘んでおり、ぐちゃぐちゃと音を立てて進む。
馬や魔獣たちの吐く息が荒くなってきた。
隊商はそこで一旦速度を緩めて、徒歩ペースとなる。
ゴメスが溜め息を吐きながら話しかけてきた。
「ふぅ、さっきのシャプシーは厄介だからな。霧と共に消えたが……」
俺は同意して頷き話す。
「あの灰色霧の塊か、不気味な感じだった」
「変な声が今も耳に残ってるぜ……光属性の魔法があれば、楽なんだが、俺たちは使えないしシュウヤも無理だろう?」
確かに光属性は無理だな。覚えていない。
「無理だな」
「わたしも使えない。一応、聖水を持っているが、数が少ない。やはり逃げて正解だった」
赤髪のフランも焦燥顔だった。Bランクの冒険者がこの態度だと、あのシャプシーとやらはかなり危険な相手だったらしい。
「聖水を持っていたのか。さすがだ」
「あぁ、経験上な。たまたま持っていただけだよ……ここは
フランは盗賊襲撃時の時よりも顔を強張らせて、はっきりと恐怖の顔色を表に出していた。それを見たゴメスも顔を青くして頷く。
「……そうだな。了解した。進むとしよう。ここはもう、ホルカーバムの東側だ。沼地から巨頭石群の辺りだ。さっきのシャプシー以外にもゴブリンやオークのテリトリーでもある。だが、障害にならなければ無視をする。荷物が満載だからな、今は移動が優先だ」
ゴメスは青ざめていた顔色を直すように無精髭を掻き、語る。
そして、周囲を見渡しながら、片手で手綱を握りしめると、前方へ駆けていく。
隊商は後ろから続いた。
暫くして、街道らしき場所へ出る。
ぬかるんだ土道なのはあまり変わらない。進行速度は遅い状態なので、ゴブリンやオークに襲いかかってこられたらめんどうだなと、考えていた。
幸いにもゴブリンたちを遠くに見かける程度で、襲いかかってこない。
だが、嫌な泥濘はそこで終わり、勾配の低い登り坂となる。
登り坂はなだらかに続いていた。
俺たちは足取りが軽くなったので、爽快な気分で坂を上っていく。
やがて、大きな丘上に到着。ここからハイム川を俯瞰できた。
丘の右辺には巨石でできた頭の石像があちこちに埋まっているのが見える。
――眺めがいい。風で髪も揺れる。
眺めを満喫しながら丘上に続く街道を俺たちは隊商を守るように進んでいた。
そして、夕方が過ぎ夜となる。
「ホルカーバムまで、後一日ぐらいのところだ……今日はここで夜営しよう」
「了解。賛成だ――」
フランはゴメスの意見に賛同し、鳶色の瞳で俺を見つめてくる。
「わかった。夜だしな」
俺もその視線と言葉に答えるように頷き、了承した。
「それじゃ、お前ら、夜営の準備だ」
「おう」
「魔法を出すわ」
ゴメスは素早く仲間へ指示を出している。
メンバーはそれぞれがてきぱきと行動していた。
女魔法使いが魔法の明かりを灯し、ゴメスは荷物から棒を幾つか取り出して何か組み立てている。
鉄棒を地面に刺して、交差させていた。
火ではなく交差させた棒の先端へランプを取り付けている。
まさに青白い篝火のような感じだ。
そこで、平幕のキャンプを張り終えたフランが「偵察に出る」と言葉短く言い残す。
彼女は皆の返事は待たずに平べったいトカゲ魔獣に跨り、魔獣の腹を叩くと、右辺にある遺跡らしき巨大石頭群の中へ向かっていく。
彼女が向かった、あの頭だけの石像群遺跡。
元はエルフたちを象った像なのだろう。どれも耳だけが長い。
フランの行動は気にはなったが……。
追いかけなかった。
どうせ、左肩に止めていた透明の鷹だろう。
俺を追跡しているのか、この依頼にたまたま参加していたのかは分からないが、彼女の裏にいるのが誰であれ、遠くにいる存在なのは確かだろうからな。
予想と違い、今度こそ、本当にお花摘み(Nature calls me)かもしれないが……。
さて、俺も近くで
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます