四十五話 凄腕の二人と対決

 

 スッと立ち上がり、小さい階段を慎重に上がる。

 背を屈めながら木製扉へ掌を当て、慎重に扉を押し開いた。

 右にいる給仕たちは、大理石の調理台の上で粉を捏ねたり、まな板の上で野菜を切ったりしている。


 夕食の準備か。

 彼女たちは調理に夢中で俺には気付いていない。

 某ゲームのようにダンボールを使って隠れて進みたい。

 が、そんな便利なアイテムはないからな。

 背を屈めた姿勢を維持して、家具の下の死角を利用。

 上手く隠れながら、誰にも気付かれずに廊下へ進むことができた。


 反応があった場所はこの廊下の先。

 廊下の右奥に開かれた扉が見えた。


 足早にその扉へ向かう。


 壁に右肩を付けて中の様子を窺うが、ここからじゃ、部屋の左の壁に飾られてある絵しか見えない。

 しょうがない。見られちゃうかもしれないけど、素早く扉の左端へ移動。

 左の壁際から、再び肩をつけて中の様子を窺った。

 中は会議室のような大部屋。縦長の黒い机が右奥へ続いている。上座である議長席の位置に座っている小太りの男が見えた。


 偉そうな態度だし、位置的にコイツがボスだろう。


 小太りなボスの隣には幹部らしき姿勢の良い上背がある男もいる。

 副官か参謀かな?

 その姿勢が良い男はボスへ頭を下げて報告を行っている獅子種族と人族を厳しい視線で捉えている。

 副官は腰に二本の細いレイピア系の剣を差していた。


 こいつらが【茨の尻尾】のメンバーか。

 やるにしても、部屋の中に隠れる場所はない。


 潜入ごっこはここでお終いにして、姿を見せちゃうか。

 そう思い立って<隠身ハイド>を解除。

 堂々と歩きながら大部屋の中へ侵入。

 黒槍を肩に担いで、大きな縦長机の表面を左手でさわりながら、ボスを囲む奴らへ近付いていく。


 まだ奴らは俺に気付かない。

 ――ん? 違った。一人気付いたか。


 奥の大きい窓ガラスの端にある柱、カーテンが収まる柱に背を預けながら腕を組み、俺を鋭い視線で睨む男がいた。

 この男だけが、逸早く俺に気付いたらしい。

 魔素の反応を薄く保っていた奴はたぶんコイツだ。

 手練れだろう、要注意だな。


「ですから、もう既に店は荒らされて――」


 報告しているのはさっきクナの店を荒らしていた奴か?


「他の闇ギルドの仕業だと? だいたい、そのクナを殺った槍使いとはいったい誰なのだっ――ん?」


 ボスが俺に気付く。


「あ、いえ――えっ?」


 ボスに遅れて大柄の獅子種族も俺に気付く。

 皆一斉に視線を向けてきた。

 黒槍にも注目してくる。


「おいっ、お前は誰だ!」


 ボスが俺を指差して叫ぶ。

 続いて、隣にいた長身の男が、二本のレイピアを抜いて、


「その槍、何者だ?」


 その問いに、


「何者と言うか、お前らに襲われた男だよ。それで、お前らが【茨の尻尾】か?」

「まさにその通りだが、その槍といい、お前が報告にあった槍使いか?」

「どの槍使いを言っているのか分からないが、ま、確かに、俺は槍を使うな?」


 多少おどけて話してやった。


「なにぃぃ、背は高いが、まだまだ小童、若造ではないかっ! 堂々と現れよって……報告通りならば、クナが帰らないのはこいつのせいか。……ガヌ、ドンパ、此奴を仕留めろっ! ライザ、わしを守れ。カリィ、報酬分は働いてもらうぞ?」


 椅子に座るボスは全員へ命令を下す。


「はいっ」

「はっ」


 獅子獣人ガヌと人族ドンパは立ち上がり、それぞれ武器を抜く。

 同時に、副官らしきライザと呼ばれた長身の男は、一本の剣を素早く鞘に戻し、胸にぶら下げていた笛を手に取る。


「ドミンゲス会長、お任せを、ピィィィ――」


 笛を鳴らしていた。

 チッ、あれで仲間を呼ぶ気か。

 笛の音が響くと同時に、俺は前へ駆けていた。

 ――先手必勝、長引かせず殺る。

 魔脚で一気にガヌとドンパとの間合いを詰めた。

 そのまま走る勢いを加算して、黒槍を右から左へと振るう。

 扇状の魔線のような軌跡が見えた刹那、ドンパの横っ腹に黒槍の穂先が衝突――ドンパの内臓や脊髄をぶち抜き一気に体を真っ二つにした。


 黒槍の刃は決して鋭くはない。

 が、力と速度があれば十分にこういったことが可能だ。


 ――血飛沫と一緒に舞う二つの肉塊と血濡れた黒槍が、隣にいたガヌの体に衝突。

 ガヌの獣人らしい太い胴体をくの字にさせて左へ吹き飛ばす。

 中央にあった長机へ勢いよく頭から突っ込んでいた。

 ガヌは硬い長机に頭から突き刺さり、両足だけが見えている。


 まさに犬神家状態。


 これには皆が驚愕。

 その隙に、無防備に座る肥えたボスの喉元へ黒槍の穂先を伸ばす――が、金属音が響く。ライザがボスを庇うように姿勢を低くしながら、二本の細剣をクロスさせて俺の槍を防いでいた。

 ライザは細目で俺を睨みつけながら、二本の細剣で黒槍の穂先を持ち上げるように上方へ弾き、吶喊してくる――。


「――ハァッ!」


 ライザの気合い声が響くと、左右の手がユラァッとぶれる――と同時に何筋もの銀色の剣閃が生まれた。


 ――首へ左の突き。

 ――腕に右払い。

 ――脇腹へ払い、左回転しながらの下段斬り。


 その連撃は鬼気迫っている。


 さすがに速い。

 最初の斬撃を紙一重で躱し、黒槍で剣を弾きながら後退。

 後退直後、ナイフが飛んできた――。

 それをとっさに仰け反って避ける。

 後方回転を連続で行い、続けざまに放たれたナイフや短剣を避け続けた。


「――ヘェ、大柄なのに器用だねぇ。スゴイなぁ、サーカスみたいだ。今のを躱すとはね」


 なんかちょい甲高い声だな。キモそうな声だ。


「カリィ、良いぞぉ。流石は元ラドフォード帝国の特陸戦出身なだけはある」


 椅子に座る肥えたボスがカリィを褒めた。


「五月蝿イヨ――」


 カリィは、なぜか雇い主であるボスの声に冷徹な反応を返す。


「え?」


 カリィの突然の言動に、椅子に座っていたボスは脅えたように黙ってしまった。


「おいカリィ、ここで裏切りか?」


 仲間割れか?

 ライザがカリィにそう尋ねた。

 ライザは怒りを抑えたような口調だった。


 俺に向けていた二本の細剣の内、片方の剣をカリィへ向けている。


「……イヤイヤ、裏切らないヨ。美味しそうな獲物が増えて、チョット感情が昂ってね」


 獲物が増えてという言葉が気になる。

 なんだか、このカリィは不思議な雰囲気を持つ。

 それに――<魔闘術>もかなりのレベルと見た。カリィはさっきまで魔力を抑えていたようで、今は全身から溢れるほどの魔力を放出している。


 更に、目に魔力を留めていた。

 カリィは、俺の魔力の動きを視ているということだ。


「なら、契約通りに動いてもらおうか。あの槍使いを殺るぞ――」


 ライザが俺に向かってくる。


「ハイハイ――」


 その気の抜けた返事と共に、後ろからカリィが続いて駆けてきた。


 さっきの剣筋と言い――このライザも中々やる。

 剣突の速さといい、<魔闘術>のレベルも段違いだ。

 後ろのカリィには負けているが――。


 凄腕レベルの二人が相手か、二対一は初だ。


 頑張るしかなさそうだ。

 ライザの細剣を弾き、黒槍の突きを返す――。


 俺が返した黒槍の突きは細剣の腹を滑るように弾かれ、すぐにライザは突きで反撃してくる。カリィも二本の小剣を使い、イヤらしく要所要所で剣撃を浴びせてきた。


 何秒間か――二人の攻撃を躱し、突き、弾くのを繰り返す。

 だが、均衡はここまでだ。

 ――死角を利用させてもらう。


 ライザの突きを強めに弾き、黒槍の石突で反撃しようと狙うポーズを取り、わざとカリィのフォローを誘う。


 案の定、カリィは小剣を俺の右から突いてきた。

 ――よし、釣れた。

 その突きを躱すために、俺はライザの左へ側転。

 カリィはライザが邪魔で追撃に入れない。


 狙い通り、俺の側転中のコンマ何秒の間にライザが反応してきた。

 細剣を握る右手を突っぱねるように真っ直ぐ伸ばして細剣を俺の胸に突き刺そうとする。


 ――来た。

 その真っ直ぐ伸ばしている細剣を逆手に取る。

 視界が逆さまに成っている最中に迎え撃つ。黒槍の穂先を細かく∞の形に動かして、突き出されたライザの細剣を黒蛇が絡んだように巻き込んでいく。


「グッ」


 細剣だけでなく腕も捻れると、ライザは表情を歪めた。


 その瞬間――ライザの手にあった細剣が捻れて反発。キンッと金属音を立てながらライザの手から離れ、ライザの顔に向かって飛ぶ。

 ライザは急ぎ頭を反らし、飛んでくる細剣を躱す。


 ぎりぎりで躱すことに成功するが、右耳の一部を掠めて血が舞い、ライザは怯んだ。

 飛んだ細剣は天井に深く突き刺さり、不気味な振動音を立ててぶらぶらと揺れ動いていた。


 そのコンマ何秒の間に――側転は終了。

 俺は魔脚を使い着地際の制動を無くしながら立ち上がる。


 イメージはガゼル。下半身をしならせるように素早く立ち上がり、勢いよく怯んでいるライザの頭へ向けて左の拳を振り抜く。

 オマケで同時に<鎖>を射出。


 ――鈍い音が鳴り、ライザの顔面を<鎖>が貫く。


 脳漿と頭蓋の一部の血霧が部屋に撒き散らされるが、<鎖>はそんな血霧なぞ関係ないと言うように直進――隣にいたカリィの右上腕部を衣服の一部も破りながらくり貫き、横壁に突き刺さっていた。


 左フックからの<鎖>が至近距離で決まった。

 <鎖>は一直線に張り詰めたピアノ線のようになり、付着した血液が床板に滴り落ちている。


 ――間を空けずにいく。


 夥しい血を全身に浴びながら、瞬時に血が滴る<鎖>を消失させた。

 同時に、怪我を負ったカリィの胴体へ向けて黒槍の<刺突>を撃ち放つ。


 しかし、金属の感触と共に甲高い金属音が耳に届く。

 カリィは横壁に背を預けながら俺の<刺突>を防いでいた。

 ひゅ~やるねぇ……顔は歪めているが、傷ついた腕と無事な腕に持った二本の小剣をクロスさせ、<刺突>の黒槍の穂先を見事に防いでいる。


 そこで衝撃か何かでカリィの衣服が破れ、上半身が露になった。


 ん? 右肩に入れ墨だ。

 ――黒い翼。右胸の鎖骨辺りから右肩にかけて大きく彫ってある。

 カリィは表情を歪めて斜め後ろに跳躍し――後退。

 俺から距離を取った。


「いやはや……参った、コウサンだヨ」


 そこで、カリィは怪我をした腕をダラリと下げ、両手に持っていた小剣を捨てた。

 小剣は不規則に跳ねる。


「何が降参だっ、わしが大金をだして雇い入れた――」

「――五月蝿イヨ、豚は死ね」


 椅子に座っていたボスは眉間に小剣が刺さり、あっさりと死んでいた。


 カリィは下に落として跳ねた小剣を蹴った?

 それだけじゃないな――違う、何か――。


「ウ~~ン、キミはボクを殺したいカイ?」


 ボスを殺したカリィは、俺にそう聞いてくる。

 目がすわり、狡猾そうな薄ら笑いを浮かべていた。


 こいつ、ワケがわからん。

 怪我を負ってるくせに、表情は薄ら笑いだけで微塵も崩さない。

 肩から胸に広がる黒い翼の入れ墨も気になるが……。


 頬の入れ墨も気になる。

 そこにはハートにナイフが刺さった特徴的な入れ墨があった。

 エルフじゃないが、少し前に接触してきたクリドススを思い出す。


「……俺はどっちでも良いが」

「ソウ――ボクはもう我慢できないヨッ」


 その薄ら笑いが不気味な悪態笑顔カーススマイルへ変化した瞬間――。

 背筋がゾワッとした。

 まだ何かある――。

 と思った時、俺の魔察眼は捉えていた。


 カリィの足元からユラッと<導魔術>が発動していたのだ。

 カリィから出た<導魔術>の魔線が一本、地面に転がる小剣と繋がっていた。


「フッ」


 げッ、師匠の鬼畜な小剣四本による遠隔攻撃を思い出す……。

 カリィは顔をニヤつかせて座ったまま死んでいるボスに近付き、頭に刺さった小剣を怪我をしていない左手で引き抜くと、魔線が繋がった小剣を宙に漂わせながら俺に飛び掛かってきた。


 今さっき殺されたボスと被るが……。

 コイツ、何がコウサンだよっ。

 宙に浮いた小剣は俺の周囲をぐるぐる回りながら、急所を狙って斬ってくる。

 蜂のように宙を舞う小剣を黒槍で弾き、吶喊してくるカリィの首を狙ってくる小剣の刃を黒槍の上部で滑らせて弾く。


 お返しに石突を向かわせる。

 カリィは余裕顔を浮かべ、左半身をずらして石突を躱す。

 そのままくるりと回り、わざわざ自らのバランスを崩すかのように左手を俺に伸ばして突き技を繰り出してきた。


 少し踏み込むか。


 カリィの鋭い剣突を躱し、床を蹴って側面へ移動。

 移動の力も乗せた黒槍の薙ぎ払いをカリィの胴体へ繰り出した。

 だが、カリィもキュッと床から音を立て、逆の側面に回り込んで俺の薙ぎ払いを躱してくる。


 カリィの妙な動きはバランスが崩れているようで崩れていない。

 左から回り込んでいたカリィは――反撃してくる。


 袈裟斬りの軌道で俺の肩口を狙う。

 と思いきや――背後からも小剣が飛んできた。


 右足を軸とした回転を行いながら、半身をずらして背中に飛んできた小剣を視界に捉えると、黒槍を回転させて石突で小剣を弾き――肩口にきた斬撃も回転を維持しながらぎりぎりで躱した。


 その回転の勢いを黒槍に乗せる。

 左へ移動しているカリィの腹へ薙ぎ払いを行った。

 しかし、カリィの左手で扱う小剣で軽く斜めに黒槍の穂先を流される。


 やはり往なされるか。

 その動きを見越して足払い――。


 カリィは跳躍――俺の蹴りを避けた。

 その姿はまるで体操選手のようで、足を百八十度左右へ開いた状態だ。


 更に、<導魔術>の宙に浮かせた小剣で、俺の蹴り途中の足首を狙うと同時に、左手に握った小剣で俺の胸を突き刺そうとしてきた。


 急遽、蹴り技を止める。

 俺は受けに回り、黒槍の長さを利用。

 カリィの同時攻撃に対処した。


 黒槍を手前で回転させて胸に迫った剣突を黒槍の上部で受け止め、ほぼ同時に足を攻撃してきた小剣を黒槍の下部で受け流す。


「――ヒヒヒッ、ハハッ」


 カリィは跳躍からの連撃攻撃が弾かれても動揺していないようだ。

 着地後も滑らかに躍動し、変な笑い声をあげているが、隙を見せていない。

 半身の体勢で、制動を殺すように動きを流動させている。


 カリィの剣技には何かの流派らしい流れの筋があった。

 それに、<導魔術>によって操られた小剣の動きも質が高い。

 きっとこいつは小剣が得意なのだろう。


 次から次へと死角に回り込んでくる小剣――。

 カリィ自身もその宙に浮かんだ小剣と連携し、素早い斬り込みを仕掛けてくる。

 本人の表情は笑いっぱなしで、本当に楽しそうだ。

 また笑顔を浮かべて小剣を振るってくるし――だが、俺はカリィの斬撃を避け、躱し、弾く最中にも、その動きを冷静に分析していた。


 カリィの息は若干上がってきているので、このまま粘れば俺の勝ちだろう。

 でも、そんなつまらないことはしない。


 そこで、俺は普通に戦うのをやめた。


 まずは、この邪魔くさい漂う小剣からだな。

 そんなコンマ何秒の思考の後。


 左手首のマークから<鎖>を突出させる――。


「っと――」


 カリィへ向けて<鎖>を突出させたように見せかけた。

 本当はカリィに向かって突出させた訳ではなく、<鎖>は弧を描くように小剣へ向かう。


 <鎖>は恒久スキル<鎖の念導>により自由自在だ。

 <鎖>の軌道をぐるぐると螺旋状に変化させて、カリィが<導魔術>で操っている小剣に<鎖>を巻き付けてやった。


 小剣を<鎖>で絡め取ることに成功。

 カリィは小剣を取られると、すぐに表情を変える。

 逃げるように後退して、俺と距離を取った。

 魔力消費も重なったせいなのか、肩で息をしながら顔が蒼白になっている。


 カリィは頬を引きつらせながら、


「……はぁ、はぁ、そ、それは反則だヨ。ボクのとっておきの技、<導魔術>が効かないとはね。こうなったら本当にボクの負けだ」


 やはり<導魔術>。

 非常に興味がある。


 カリィはアキレス師匠が教えてくれた<導魔術>を使った。


「どこでそれを?」

「タンダールだヨ」


 タンダール……確かアキレス師匠が前に暮らしていたと語っていたな。


「誰に習った?」

「そんなに気になるのかい? ミランダという名前のお師匠だ。もう死んじゃったけど」


 嘘は言ってない感じ。


「ほう」

「追撃してこないところを見ると、見逃してくれるのかな? だったら、ボクは退散させてもらう」


 本当に逃げたいらしい。

 さきほどまであった殺気があまり感じられない。


「いいのか? お前は戦闘狂に見えたが……」

「ハハハ、戦闘狂か、確かにその通りだね。でも、任務外で君と戦ったのは、完全にボクの我儘わがままだったり」

「どういうことだ?」


 そう問うと、カリィは薄い唇に指を置いて、また薄ら笑いを見せる。


「……ボクの本来の目的はねぇ、この【茨の尻尾】に潜入して内側から潰すことだったのサ。でも、君が倒してくれた暗黒のクナと二剣のライザが邪魔でさァ、中々任務を遂行できなかったんだよ。本当なら今回はお礼を言わなきゃいけないところだったりするんだ。さっきも言ったけど、ツイツイ……君の強さを見ていたら我慢できなくてねぇ……ボクのアソコもビンビンだしっ。ま、結局、ボク自身が痛い目にあっちゃったんだけど……」


 うへ、キモスギル。

 ウィンクしながら変なポーズで股間をアピールするな。

 しかもフル勃起シテヤガル。


 それにあの口調、何か毒気に晒されてる気分だ。


「それじゃ、凄腕の槍使いさァン、またどこかでね♪」


 と気持ち悪く喋ると、カリィは背後にあった窓に跳躍、ガラスを派手に突き破りながら外に脱出して走り去っていく。


 その瞬間、背後や屋敷の周りから「あの黒翼の刺青男を追いかけろっ」「会長ぉぉぉ」「笛の音がぁ」などの切羽詰まった声が聞こえてきた。


 俺も逃げなきゃと思いながらも、椅子にぐったりと死んでいるボス、会長とやらから流れる血をちょろっと拝借。

 カリィが出たところから同じく脱出した。

 人はいなかった。と言うか、カリィの奴は正面から堂々と逃げているらしい。人が向こうに集中しているようだ。


 <隠身ハイド>を発動して裏庭へ直行する。


 黒猫ロロは俺が来るのをまだかまだかと待っていたらしく、俺の姿が見えるとすぐに肩へ飛び乗って頭巾に収まった。


 さて、退散だ。

 最初に入ってきた会場へ素早く戻る。

 会場の中にあった地下へ続く坂を下り、モンスターたちが閉じ込められた檻の場所に戻ってきた。


 このモンスターたち、どうなるんだろう。


 そうだ。逃げるついでに全部解放しちゃおう。

 追手も混乱するだろうしな。

 檻に入れられたモンスターたちを次々に解放していく。


 大量に居たゴブリンたちはギャーギャーと喚きながら俺に向かってきたが、向かってきたうちの一匹を黒槍で頭から一刀両断して殺すと、またギャーギャーと喚きながら反対方向へ逃げていく。

 それにつられたように、他のモンスターたちも坂を上がり逃げていった。


 その逃げていくモンスターたちの様子を少し見てから、通路を走り抜けクナの家へ戻る。


 一段落したが、体に付着した血の汚れが目立つ。


 これ、洗わないと……。

 視線を泳がせると、部屋の隅にある水瓶を発見。

 その水瓶を利用して、<生活魔法>の水も使い、血の汚れを洗い流す。


 皮服を絞り強引に振り回して水分を飛ばし、乾かした。


 ん~、まだ臭う。

 血の臭いが僅かに残っているけど、今はこれでいいや。

 まだ湿っている服を着ていく。

 後は念のために、この地下へ続く扉を閉めて鍵をかけた。

 続いて、店の外部、外へ通じていると思われる頑丈な内扉へクナの鍵を差し込み使用。


 ――カチャッと気持ちいい音が響く。

 イエスッ、開いた。


 扉の先はクナの店だったが、俺が商品を選んだ店内ではなくなっていた。


 棚は壊され、商品は殆どなくなり、荒らされた状態。

 少しやるせない思いを感じながら、荒らされた店内を走り抜けて外へ脱出した。


 雑踏の中へ紛れ混んでいく。

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