四十四話 潜入

 

 机の上はカオスな状況だ。

 どっさりと積まれた羊皮紙書類の山。

 嵩張る羊皮紙の山の上に魔獣納品リストと分かりやすく書かれた束があったから目を通していく。

 そこには禁輸印が記されてある様々なモンスターの名が羅列表記され、ペルネーテ、ファダイク、グロムハイム、タンダールなどの各都市行きと書かれてあり、最後にプレセンテ魔獣商会の押し印が押されてあった。

 領収書のようにも見える。

 その多くの書類の中で、最も行き先で多いのが【鉱山都市タンダール】で、【ガイガルの影】宛てになっていた。


 折られた手紙らしき物もあったので、広げてみる。



 □■□■



 クナ様。


 拝啓 この度は沢山の使役モンスターを輸送して頂きまして、本当にありがとうございました。

 クナ様のご尽力のお陰で、我が闇ギルド【ガイガルの闇】は、現在タンダールにおいて勢力が急激に伸びております。

 我らのマスターであるサソリ様も大変喜んでおられました。

 お礼の金貨は同封しておりますので、後でご確認ください。

 それから、ご希望の物件のクレボニーの店が手に入りましたので、ここに場所を記しておきます。

 きっとこの店はタンダールにおける【茨の尻尾】の足掛かりの地となるでしょう。

 最後に、鉱山の洞穴利権に関しましては、敵対関係にある糞な【影翼旅団】が相手の裏にいるようなので、流石に時間が掛かりそうです。

 ですので、暫く待っていただきたい。

 それから、タンダールに来られた際は、ガイガルの三指と呼ばれているこのセンビ・マキージオに、是非都市の案内をお申し付けください。



 □■□■



 この内容が確かだとすると……どうやら【茨の尻尾】は【ガイガルの影】と頻繁に取引していたようだな。


 ここはあのクナの家か。

 他に、幾つか汚い手書きの紙片を発見。

 その中の一つを読んでみる。



 □■□■



 この人面の形をした壺か瓶、先っぽが鍵?

 これっていったいなんなの?


 今まで数多くの古い品を集めてきたけれど……血を欲するように動く瓶なんて、見たことがないわ。ヴァンパイアの魂でも宿ってるのかしらァ? 魔界に関係する物かと思って調べてみたけれど、関係ないようだし。勿論、神界に関する物でもなかった。


 不思議な瓶。


 それとも違う系統、未知なるアブラナム系か、旧神か呪神か、迷宮に住まわれるサビード様に関する品なのかしら? 迷宮産だから迷宮に関する物だと思うのだけど。でも、ここからだと遠いし、転移陣も無理。管理者のサビード様は、わたしの本性を知らないからあまり話したくないからなぁ。


 あぁぁっ、分からない、イライラする~。


 もう、地下オークションでこんな物買わなきゃよかった。

 よくみたらキモい大きな耳が二つもあって変だし、もう調べるのはやめてアイテムボックスの中へずっと入れとこうかしら……。



 □■□■



 鍵のついた人面の瓶か壺とは何だろ……。

 本性を知らないとは、サビードを裏切っていたのか? 

 あんなぺこぺこしていたのに、二重、三重スパイ的なことをしていたのか。


 クナは裏で相当暗躍していたらしい。


 他にも、積み重なった書類を退かすと、古い羊皮紙本が出てきた。

 それらは魔法に関する本が多く、中には恋愛っぽいタイトルの本もある。


 薄い本とかは持ってないようだ。

 あるわけないか。


 次は机上の棚に目を移し、引き出しを開けていく。

 一番上の引き出しには魔迷宮サビード・ケンツィルで使う帰りの石玉が大量に入っていた。

 次の真ん中の引き出しからは、詰め込むように入れられた魔法瓶やポーション類があった。


 最後に一番下の引き出しを開けてみた。


 わぉ――きらびやかな宝石が数個と、金貨と銀貨が数枚、大銅貨が何百枚と入っていた。

 なんだよ、貧乏とか言ってたくせに、少しは貯金してあるじゃん。

 鼻歌を歌いながらそれらをチェックしていると、突然大きな音が響いた――。


「兄貴の蹴り、強烈ですねぇ。この扉……ぶっ壊しちまっていいんですかい?」

「いいんだよ。クナは帰ってこない」

「ですが、あの暗黒のクナですよ? まだ一日も経っていないんですから、いずれ帰ってくるかもしれません」

「だが、今までこんなことがあったか?」

「ないですね」

「そうだ、一度もないだろう。きっとクナは殺られたんだよ。ライスやボトムにタカトも連絡を絶ったしな?」

「ま、まさか」

「そうだ。あいつらはあの槍使いの跡を追っていたはず」

「確かに、ギルドから出た後を追い掛けていったきり、連絡はありません」

「そうだろう? すぐに帰ってくるはずだったよな?」

「えぇ、そうです。そのはずでした」

「……なら答えは一つだ。クナと同様に、その槍使いに殺られたんだろう」

「ハハ、まさか……」

「……もういいから、オマエも探せよ――」

「ハイッ」


 そこでガサゴソとあさる音が聞こえた。


「――しかし、少しの金しかねぇな、アイテムばっかりだ」

「兄貴、そこの後ろに扉が」

「おっ」


 ここに来るか? 槍を扉へ向けた。

 しかし、大丈夫なようだ。取っ手をガチャガチャやっても扉は開かないらしい。


「これ、鍵がかかってんな?」

「また強引に蹴破りますか?」

「やってみるか――」


 ドガッドガッと何回も扉を蹴る音が響く。

 が、扉はびくともしない。すこぶる頑丈だ。


 しまいには体当たりの音に変わる。

 だが、いっこうに扉は開かない。


「なぜだ。俺の力でも開かないとは……」

「力で有名なラハカーンの兄貴でも開かないんじゃ、俺では絶対無理ですね」

「クナの野郎、頑丈な扉に鍵までかけやがって」

「何かしらの魔法による物でしょう、あの暗黒ですし」

「それもそうだな。この中は諦める。ドンパ、ボスにはこう報告するぞ。ここはもう他の闇ギルドに襲われ中はすっからかんでした、荒らされていましたぁ~。とな?」

「分かってますって」

「おう、これだけの品数だ。売れば相当な金になる。あいつにこれらを売り払ってから、ボスのところへ戻るぞ」

「へい、サホイの旦那ですね」


 暫くガサゴソとあさる音がした後……。

 静かになった。

 クナと同じ組織の奴らか。死んだと分かったら金やアイテムを盗みに来るとは、仲間とは思えない。

 しかし、あの扉は頑丈だな。魔察眼で扉を見る。

 ……なるほど。頑丈なわけだ。

 魔力を帯びた扉か。

 扉の上の魔石らしき物と繋がっている。


 すると、このもう一つの扉はどこに繋がっているんだ?


 と、その扉を調べる前に、アイテムボックスの格納をポチッとな。

 ――この引き出しの中にある宝石含め、金貨、銀貨、大銅貨を全部もらっとこ。真っ黒なウィンドウの中へ入れていく。

 おっ、引き出しの底に大事そうに紙に包まれた書類が出てきた。


 その書類は――。

 第一級奴隷商人免許状、オセベリア王国発行。


 免許状かよ。

 こんなもんまで持ってるとはな。

 一応、アイテムボックスの中へ入れた。


 さて、気になるもう一つの扉を調べるか。 


「やはりこっちも鍵がかかってる」


 鍵といえば、クナが使ってた鍵束があったな……。

 あの鍵束の中に、この扉を開く鍵があるに違いない。

 そう確信して、アイテムボックスから鍵束を取り出した。

 鍵束から一個一個鍵を取り出して、扉の鍵穴に合うか試していく。


 カチャ――。


 おっ、意外と簡単に鍵が合った。

 鍵束は多面球体を入れたとこと同じ、ベルトの胸にある小さいポケットに入れておく。


 そして、扉をおそるおそるゆっくりと開けた。

 扉を開けた先には、魔法陣が一つと、下に向かう階段があるだけだった。


 この魔法陣……。

 あのクナのことだ、きっと魔迷宮サビード・ケンツィル行きだろう。

 それよりも、階段が気になる。


「ロロ、いくぞ」


 黒猫ロロは丁度いい角度の出っ張りに頬をこすりつけていた。

 必死に匂い付けのマーキングを行っている。


 おしっこをプシャーッとしないだけマシだな。 


「にゃ」


 黒猫ロロは俺の肩にひょいっとジャンプ。

 最近のお気に入り場所の頭巾の中へ潜る。

 頭巾の中でぐるぐると回った黒猫ロロ

 手足の爪を出し入れしながら肉球を押し当ててくる感触が、とても愛しい。

 相棒の可愛い体重を背中越しに感じながら、魔法陣は放っておいて階段を下りる。


 階段の下の横にシャベルで掘ったような洞穴を発見。

 ――怪しい。

 確実に通路だ。薄暗いが進んでみよう。

 <夜目>は使わない。

 

 ライトボールを先行させた。通路を照らすライトボールは先に進む。と、その通路の先に光がある。そこは部屋か、部屋から光が通路へと漏れていた。

 掌握察にも魔素の反応を得る。

 光を発している先の空間から複数の魔素を感じた。

 モンスターの集団か? 慎重に調べよう。ライトボールを消し、<隠身ハイド>で気配を消して通路を進む。

 光が洩れているように扉はない。壁と地続きのアーチ状の出入り口か。その手前に右肩を当てつつ……。

 そっと顔を出して……部屋があるだろう中を覗く――。


 だだっ広い空間、そこには複数の檻がある。

 モンスターの声が響いてくる。

 複数の魔素はこいつらか。

 ここにはこいつらしかいないようだ。


 早速、その檻が複数置かれた広い空間へ入る。

 檻の中には見たことのない魔獣やモンスターたちが囚われていた。

 かなりの数だ。


 手前の檻にはゴブリン、豚鼻のモンスター、小さいドラゴン的な爬虫類系の翼があるモンスター等が閉じ込められている。


 先ほどの羊皮紙のリストに書かれてあった通り……。

 ここは多種多様な魔獣やモンスターたちの保管庫か? 

 ん――なんだあれ、四肢が異常に輝いている獣。

 足下が強く輝いているが、全身からも眩い燐光を放っている。

 尻尾は長く細い。

 全体的に馬に近い流線形の輪郭。

 ユニコーンや麒麟と似ているが……微妙に違うか?


 頭部にある三本の長い角が螺旋状に絡まり、一本の太い角となっていた。

 角は妙にカッコイイ。 


「……」

「綺麗でカッコいい魔獣だな」

「にゃ」


 きっと珍しい馬の魔獣なんだろう。

 黒猫ロロも頭巾から出て右肩へ移動していた。


 檻の中にいる馬魔獣を見つめている。


「フン、人族に言われなくとも、綺麗なのは分かっているわ」

「うお!? 言葉が解るのか! この魔獣、独自の言語があるのか」

「言語? おかしいわね。人族にはただ唸っているようにしか聞こえないはずだけど……この人族……わたしの言葉を理解しているのかしら?」


 理解しているさ、と言おうとしたが、


「ニンゲン」

「ニンゲンガ、キタ」


 違う檻にいるゴブリンたちだ。

 ギャッギャーッと声が聞こえてきた。

 ギャッギャーッと聞こえるが……。

 

 <翻訳即是>のお陰で意味が理解できる。


 しかし、珍しいモンスターなら分かるが……。

 こんなどこにでもいるゴブリンたちが金になるのか?

 あのクナの書類に書いてあった通り、売り物になるんだろうとは思うが。

 そんなゴブリンたちを無視する形で、この空間を念入りに調べていく。

 他の大きい檻の中には金色のグリフォンの親子と見られる成獣と幼獣、ポポブムに似た魔獣や、魔迷宮の中にいたホグツたちの姿も見えた。


 喋った光る角を持つ馬魔獣と、この色のグリフォンはかなり珍しそうだ。

 色的に派手だからそう感じるだけかもしれないが。


 近付いてみる。

 と、地下モンスター園となっている端に地上に続くだろう斜め上へ向かう大きな坂を発見。

 その坂に足を向けた時――。


「そこの人族っ、待ってよっ」

「ん?」


 その言った光る馬魔獣は檻の端に移動していた。

 

 足を檻に当てながら必死にアピールしてくる。

 その光る馬魔獣と視線が交じり合う。


「そうよ。わたしを見てる人族!」


 俺か。

 坂は上がらず、


「何だ?」


 と聞きつつ、その『こっちに来て』と必死にアピールする魔獣の檻に近寄った。


「よく戻ってきたわ人族っ。言葉が分かるのね」


 光る馬のユニコーン的でもある魔獣は足で檻を叩き唸っていた。


「あぁ、そのようだ。お前は人族の言葉がわかるようだな?」

「勿論よ。そんなことより、ここから出してよ」


 何故言葉がわかる? とは聞かなかった。


「そこから出したとして、俺になんの得がある? それに無事に逃げられるのか? ここは人族が多く暮らす都市の中だぞ?」

「もう、そんな意地悪言わないでよ。ここから逃げるのは大丈夫よ。見てなさい――」


 と言った光る馬魔獣――。

 なんと、背中の辺りから大きな翼が生えていた。

 おぉ、ペガサスかよ。

 それには黒猫ロロも驚き、檻の近くへ移動して、光る馬魔獣を見ている。


「……空を飛べるのか」

「そう。飛べるから、出してくれさえすれば迷惑はかけないわ。自力で逃げられる」

「そんな翼があるのに、なんで捕まったんだ?」

「アセントの超実を食べてる時に矢や網で捕まったのよ」

「食事中にか」

「そうよ! それで、出してくれるの?」

「わかった、出してやるよ。暴れるなよ?」

「本当? ありがとう」


 光る馬魔獣はヒヒーン的な声を発して動きを止めた。


「少し退いててくれ」

「うん」


 檻の仕組みを見ていく。

 ……右端にレバーがあって、赤いマークに鍵穴もある。

 あのレバーを下に動かせば動きそうだ。

 レバーを下にガチャッと動かす。

 反応なし。あの鍵穴に挿す鍵が必要か。

 またクナの鍵束で開くかな?

 鍵束を取り出し、また鍵穴に一つ一つ鍵を試していった。

 おっ、ビンゴ、当たりだ。鍵を回したらカチャッと小気味良い音が鳴る。

 赤いマークだったのが緑のマークに変わった。

 レバーを下へ動かすと同時に檻の扉も上がる。

 光る馬魔獣は元気よく頭を振り、檻から出る。


「わ~い、出られたっ。貴方、人族なのに優しいのね」

「優しくないぞ。たまたま助けただけだ。それより逃げたらどうだ? あの坂が出入り口に繋がってるっぽいぞ」

「そうね、ありがとう――」


 光る馬魔獣は坂を駆け上がる。

 俺も鍵束をポケットに戻してから光る馬魔獣を追いかけた。

 この坂は横幅が広い、大きい魔獣でも運べるようにするためだろう。

 坂を上がると、舞台のような場所に出た。

 ――誰もいない観客席。サーカス会場のような雰囲気だ。

 ひょっとして、オークション会場とか?

 そんな誰もいない会場で、光る馬魔獣は翼を広げて飛び回っていた。


「ここ、出口がないわ~」

「あるだろう。ほら、そこに」

「あっ、あそこね」


 あの馬魔獣、少し視野が狭いようだ。

 そして、その出入り口と見られる大扉に俺も近付いた。

 この大扉、鍵が掛かっている。


「この扉、魔法で吹き飛ばしてもいいかしら?」


 そんな魔法があるなら、天井、会場ごと吹き飛ばせばいいのに……。

 とは言わなかった。


「……待て。目立つことはやめろ。これ、外してやるから」


 閂を外してやる。

 そして、大扉を馬魔獣が通れるぐらい開けてあげた。


「わ~い、開いたわ。ところで、まだ名乗ってなかったわね。わたしはハイセルコーン族リィジィーンの娘、名前はマバオンっていうの。記念に貴方の名前を教えて」


 ハイセルコーン族で、名前がマバオンか。

 お菓子みたいな種族名だ。


「……俺の名は、シュウヤ・カガリだ」

「わたし、忘れないから。人族にも心優しき者は存在するって。シュウヤの名前も覚えておくわ。お礼にこれをあげる」


 マバオンは頭を下げると、角が伸び始めた。

 伸びた角の先が眩しく光ると、その角の先から小さい角笛が出現した。その角笛は空中を漂い、俺のところまでくる。


 これを俺にくれるのか。


「それ、わたしの仲間って証拠だからね。じゃあ行くわ。――本当にありがとう」


 マバオンは翼を畳みながら、僅かに開いた扉の隙間から外へ出ていった。続いて俺も外へ出る。

 ってはえぇぇ、マバオンはもう空高く舞い上がっていて、小さくなっていた。

 もう点の大きさだよ。


 こうして、後に光る伝説と言われたマバオンの野獣物語は今ここに始まるのであった。

 宇宙を超えて銀河を駆けるマバオンは、イデオンを見つけに宇宙の旅に出ましたとさ……。


 さて、変な妄想はここまでにして、外に出たが、どうするか。


 まずはもらった角笛を仕舞っとこ。

 この角笛、俺の役に立つとは思えない。

 とりあえずアイテムボックスの中へ入れておく。


 もしかしたら、永遠に出すことはないかもしれない。


 そんなことを思いながら、目の前の厩舎を見た。

 厩舎を越えた先には大きい屋敷がある。

 大屋敷の正面広場は見回りが数人巡回しているようだ。


 幸いにも、あの見回りたちはこっちに気付いていないし、マバオンが空高く飛んで逃げたことにも気付いていない。

 あいつらがこっちに来る前に、<隠身ハイド>を発動。

 背を屈めながら死角へ移動した。

 死角から、改めて大きな屋敷を見る。

 そこにはプレセンテ魔獣商会と書かれた看板が見えた。

 茨のトゲのようで尻尾のようなマークもある。


 あのマーク……クナの魔道具店にもあった。


 なるほど、そういうことか。

 ここが闇ギルド【茨の尻尾】のアジトか。

 きっと、表向きは普通の商会なのだろう。

 鏡から興味本位でこんなところまで来てしまったが……。

 ここから引き返すのもな。

 それに、【茨の尻尾】がここに存続する限り、放っておいても俺にちょっかいを出してくることは容易に想像できる。


 なので、近くに来たついでだ。

 直に乗り込んで【茨の尻尾】の頭を潰すか、または幹部クラスを虐殺するか。

 俺は右手に握る黒槍を降り下ろす。

 ――やるか。

 最悪、怪我しても回復するし。

 念のため<導想魔手>を準備しとこ。


 だが、このまま潜入するにしても、正面からいくのもな……。

 厩舎裏から回ろう。腰を低く屈めて、厩舎裏から大きな屋敷の裏庭へ突入。

 草の茂みを利用して隠れながら屋敷の様子を窺う。


 <隠身ハイド>を使用しながらの移動は、ちょっとした忍者気分だ。


 屋敷の裏手には様々な花壇や植木が植えられてある。

 壇上の小さい階段の横にテラスがあり、階段を上がったすぐ先に扉があった。


 壇の下は死角だ。その手前から侵入するか。

 隠れながら屋敷の裏手に近付いていく。

 屋敷の目の前まで簡単に移動できた。

 花壇や植木を通り過ぎ、小さな階段の先にある扉を見る。


 裏口はあそこだな。


 その前に、掌握察――。

 魔素の気配は、入ってすぐの部屋に三つ存在する。

 相手に<分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>を感じるスキル持ちがいたら感付かれるが……。

 えぇい、この際だ。使ってしまおう。


 <分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>。

 ――匂いはどれも女だと分かる。使用人だろう。

 こいつらは無視して、一階、中央の部屋の奥にある臭いの反応を探る。

 ――複数あり。男が五人いるな。

 掌握察をもう一度行う。

 ――ん? 魔素の淀みが一つ。

 <分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>だと男が五人と分かるが……。

 警戒するべきなのは、この魔素の気配を薄く保っている奴だ。

 二階には何も反応なし。


「さて、ロロ、中で何があるか分からないから、お前は一応ここで待機だ」

「にゃぁ……」


 黒猫ロロは少しショックを受けたか?

 肩から降りて茂みに隠れた。


「そういじけるな。すぐに片付けて戻ってくるさ」

「ンン、にゃ」


 黒猫ロロは喉声と小声で返事をした。

 一応は許してくれたようだ。


 よし、潜入作戦スタート。

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