三十四話 ランタンを使いたい
複数で狩りをするのがここでは普通らしい。
俺のような
まぁ詳しくは
今の相棒は、黒豹っぽい黒い獣スタイルで、首の端から二つの触手を出してゆっくりと歩いていた。警戒している?
あの丸っこい触手の先端の裏側はピンク色の肉球ちゃんだ、モミモミしたい。
その黒豹っぽいロロディーヌの陽射しが当たって黒光りする毛並みが美しい。
そんな相棒と黒い茨の壁に挟まれた通路を歩いていると……。
突然、喧騒、剣戟音が耳に飛び込んできた。
もちろん掌握察による魔素の探知も忘れない。
魔素は物凄い数を探知。
気になったから剣戟音が聞こえたほうへ足早に向かう。
茨の通路を通っていると、地面のあちこちに不自然な穴が空いている?
うひょ、そんな穴から
その
冒険者の数は五人だが、大丈夫だろうか。
その中で異彩を放つ際立った動きを見せる冒険者がいた。
仲間を守るように
だが、数はどうしようもないようだ。
一人、また一人と怪我を負ってしまう。
――助けるか。
「ロロ、邪魔にならないように、周りの
「にゃ!」
俺は――わざと注目を浴びるように大声を張り上げた。
そのまま
頭には小さい二本の触覚があり、口には顎と鋭そうな牙がある。
胴体から生えた六本の脚がせわしなく動いて、冒険者たちを苦しめていた。
その前脚の先には、討伐証拠となる黄色い爪が見えた。
「助けが無用だったなら謝る――」
黒槍で
「とんでもない、ご助力感謝する――」
俺に向けて感謝の言葉を発した騎士。
眉庇を下ろしているので顔の判別はつかなかった。
ハーフプレートを着込み、盾と長剣を巧みに扱っている。
腕先と足先に魔力を集中させているのが視えた。
<魔闘術>は使えるようだ。
その騎士は群がる
素早く正確に盾を振って
怪我を負った冒険者たちを守るように奮迅している。
見事な動きだった。
「そうか、それじゃ、遠慮なく
俺の言葉に、騎士は黙って頷く。
そのまま
それを確認してから
そのまま黒槍の穂先が
その黒槍を引き抜きながら――腰を捻り――。
斜め前から近寄ってきた
横へ吹き飛ばした。
回し蹴りの勢いのまま、左足の爪先を軸に横回転を続ける――。
移り変わる視界にいる
その頭部を破壊。
更に、上下にステップをくり返すような歩法から――。
バットをフルスイングするように黒槍を水平に振り抜いた。
右からきた
石突で
その時、
飛び跳ねるような機動で戦う神獣だ!
尖った爪や鋭い牙で
――牽制を兼ねた動きか。
効率的な戦い方だ。さすが神獣。
こういう雑魚は全部ロロディーヌに任せちゃうかなぁ。
なんて怠け者のようなことを考えながら、無造作に黒槍を撃ち出し、穂先を
あっというまに二十匹ぐらいは倒しただろうか。
もう周りに
俺の肩に乗り、後ろ足で首元を掻いていた。
『ここの毛が痒いにゃ』という感じに掻いている。
助けた冒険者たちの方もそれなりに
死骸があちこちに転がっている。
そこに、さっき奮戦していた騎士が俺に話しかけてきた。
「ありがとう。わたしの名はキッシュ・バクノーダ。キッシュと呼んでくれ」
声質から女性と分かる。
今も眉庇が降りているので顔は見えないが、瞳の色彩は判別できた。
綺麗な薄緑色。
「いや、当然のことをしたまで。俺の名はシュウヤ・カガリ。シュウヤでもカガリでも、好きなように呼んでくれればいいよ」
「ありがとうございました」
「ありがとう」
元気よくお礼を言って頭を下げてきたのは、
「ン、にゃおん」
「わぁ、かわいい」
「黒猫ちゃんだ」
「さっき見てた! この猫つよいね~。ちょっと大きくなってたし」
冒険者たちの足元へ頭を寄せている。冒険者たちはきゃっきゃと楽しそうに
その怪我をした冒険者たちの声はまだまだ子供で、見た目も明らかに大人ではなかった。
それも皮膚が鱗の種族の子供が多い。
幼そうに見える子供たちが、何故ここに……。
そんな疑問を持っていると――。
女騎士は眉庇をあげるどころか、兜を脱いでいた。
風が吹いたわけではないが、綺麗な薄緑の長髪が靡く。
緑色の瞳に、頬には蜂のような刺青が見えた。
長耳には緑色の宝石、翡翠だろうか、がついたピアスをしている。
エルフか。綺麗な女だ。
俺が少し驚いた表情を浮かべていると、キッシュと名乗った女エルフは笑顔で話しかけてきた。
「驚かせたかな。そうなのだ。こいつらはわたしがヒノ村から連れてきたんだが、まだ新米でな……」
「ヒノ村?」
「あぁ、この蟲宮近く、森林地帯にある村だよ。バルドーク山近くと言えば分かりやすいか」
「なるほど。俺はヘカトレイルから直行だ」
「そうか、あの城塞都市から……あれほどの腕前となると、高名な冒険者とお見受けする」
「いやいや、そんなんじゃないよ。それより、これを回収しちゃおうか」
と、軽く挨拶するように右手をあげて指でくいくいと
「あ、あぁ、そうだな」
俺は黙々と黄色い爪を回収していく。
ククリ剣を使い、
甲殻は嵩張りそうなので一枚だけにして、他は小さい爪と触覚のみを回収した。
粗方回収を終えてから、キッシュに話しかけた。
「どうしてこんな子供たちをここに?」
「おれたちは子供じゃないっ」
「そうよ、わたしたちは冒険者ランクDよ!」
俺の言葉を聞いていたのか、
キッシュはそんな子供らしい態度に優しく微笑んでいる。
「アッリにターク、落ち着きなさい。だが、その通りなのだ。この子たちは村では一端の冒険者。今回は、村に被害を及ぼす蟲宮に向かい、どうしてもクイーンを倒したいと言い張るんでな……わたしが付いていけば上域のみならいけると判断して、乗り込んできたのだ」
「冒険者だったのか。そりゃ済まなかったな」
背が小さい新米たちに謝った。
「ううん。分かってくれたならいいの」
女の子は優しい口調で許してくれた。
俺は顔を引き締めながらキッシュに、
「しかし、危険なことに変わりはないだろう? 今も危なかった」
「そうだな。わたしの認識が甘かった。シュウヤがここにいなかったら、いったいどうなっていたことか……」
反省はしているようだ。
でも、あんな大量に
よし、とっとと自分の依頼をこなすとしますか。
「でも助かってよかったよ。それじゃ、俺はこれで――」
「待ってくれ。何も恩を返さずに別れるわけにはいかない」
「ん~、俺は依頼を受けているし、このまま中域まで行くつもりなんだけど……」
俺の言葉に驚いたのか、キッシュは目を大きくして瞬きしていた。
「な、なんだと、
ま、
「あぁ」
「危険すぎる。さっきのように、一匹一匹現れる訳ではないのだぞ?」
「そうだな。だが、何事も経験だ。それにさっき俺の動きを見ただろう? そう簡単には死なないよ」
俺は光魔ルシヴァル、ヴァンパイア系の新種族だ。
死にたくても死なないし。
キッシュは納得したように頷いていた。
「それもそうだが、わたしは恩を返したい……」
このキッシュという女騎士、随分と義理堅いな。
「ん~、お礼はいいんだが、あ、そういうことなら、ちゃんとその子……いや、その冒険者たちを村に送ってあげることが恩を返すことになるということで」
と言ってから、右肩に黒槍の柄を乗せて奥に向かう。
「あっ、待つのだ」
「ん?」
振り向きはせず、立ち止まる。
「わかった。納得はいかないが、いずれ恩は返す、借りだ。今はありがとう、とだけ言っておく」
振り返らず片手を挙げて、「おう」と返事をしてから奥へ向かった。
「キッシュ、顔赤い~」
「あっ、ほんとだ。もしかして、今のかっこいいお兄さんに惚の字だったりして~~」
「キッシュもそんな顔をするのね……」
「ほんとだ、赤い~」
「キッシュ……」
「な、なにを言ってるのだお前たち! 馬鹿なことを言ってないで、さっさと村に帰るぞ!」
そんな社会科見学のような一行と別れて――。
上域を進む。
黒い茨の低い段差に囲まれた円形の広場がある。
ここから下が中域になってるのかな。
広場の他に小部屋も多数ある。
木札に書いてあった細かな説明を思い出していく。
黒い小部屋が網の目のように広がって茨の迷宮の中核を成していると記されてあった。
茨が格子状に複雑に入り組んで構成された部屋には
イメージだが、ハニカム構造の蜂の巣を巨大化させた感じなのか?
少なくとも、普通の蟻の巣ではなさそうだ。
階段を下りていくと、薄暗くなってきた。
俺には<夜目>があるが、一応ランタンをつけておく。
せっかく買ったんだから、使わないとな!
お、
冒険者の一団が
あれが
白く長い脚を左右へ動かして牽制している。
二本の長い脚の先には鋭そうな鉤爪が付いていた。
当たれば強力そうだ。
体長は二、三メートルはある。
正面の盾持ち戦士が
しっかりとした連携だ。
冒険者たちは
そんな風に冒険者たちの狩りの見学をしていった。
もちろん掌握察と<
慎重に中域を進む。
黒い茨の通路を歩いていると、また魔素の反応。
そこの角からだ。
このありんこ、俺を急襲するつもりなのか?
迎え撃ってやろうじゃないか。
角を曲がった瞬間――。
やはり、
俺は――何事もなく迎撃に移る。
足に魔力を溜め前進。
風槍流『片切り羽根』を実行しつつ前傾姿勢で踏み込む。
黒槍の穂先を
連続で黒槍を突き出す――。
<刺突>ではないから槍の引き際の隙があるが、
太い腹と白色の長い脚を、黒槍で穿っていく――。
穿たれた腹の穴からは、白い臓物が飛び出した。
穴が空いた白色の長い脚は地面へ落ちた。
最後に止めの<刺突>を喰らわせてやる。
魔闘脚で強く地面を蹴った――足下から煙が発生。
真上へ少し跳躍しながら、
昇竜のように天を穿つ黒色の矛。
穂先が
穂先は脳にまで達して、
破壊された頭部は千切れて、打ち上げ花火のように高く飛ぶ。
首無し
まるで巨人に頭がもぎ取られたようだった。
暫し、そんな情景を思わせるほど……。
頭部を無くした
千切れた首からは白い粘液が溢れ出た。
その反動か分からないが、背後へ倒れていく。
「にゃにゃ~」
ん? 『わたしの出番がないにゃ』的な感じに聞こえたぞ。
不満そうに足下でいったりきたりする
しまいには落ちていた
白色の脚をあちこちに運ぶ遊びを始めてしまった。
アイスホッケー的な遊びか?
「ロロ、ここは遊び場じゃないんだぞ?」
「にゃおん」
「わかってるよ。次はロロディーヌにも頑張ってもらうさ」
俺の言葉を聞いた
「にゃっ」
と元気良く鳴いた。
そんな可愛い
白色の脚の爪を剥ぎ取っていく。
幅がある甲殻は袋に収まらないので取らなかった。
回収を終え、更に薄暗い中域を進む。
おっ、掌握察に反応。
――魔素だ。
またもや
長い白色の脚も視認できた。
姿勢を低くして狩りの体勢だ。
斜め後ろから
前足をそろ~っと、ゆっくりと出して前進していた。
あれで、悟られないように進んでいるつもりらしい。
獲物の
俺たちに背を向けている。
と、四肢に力を溜めるように背を屈め、小刻みに体を揺らす。
肉食動物が獲物を補食する前の動きだ。
そして、膨れ上がってみえた下半身が一気に躍動――駆け抜けていく。
むくむくっと豹か山猫へ変身を遂げながら触手を前方へぐんっと伸ばす。
触手の先端にある骨剣が、
すると、
背中を爪で引っ掻きながらよじ登り始める。
山猫に近い姿のロロディーヌは、
「ガルルルゥゥ――」
と吼えながら背中の出っ張りに噛みつく。
そのまま
神獣と化したロロディーヌは背中から離れない。
触手骨剣に加え、四肢の爪と牙がしっかりと背中に食い込んでいる。
結局、ロロディーヌはそんな
そうして
凄い――ぱちぱちと拍手。
「いや~、ロロやるなぁ。
「にゃぁ」
山猫っぽいロロディーヌは嬉しそうに鳴いてドヤ顔を繰り出す。
「はは、分かったから、回収するぞ」
倒した
体長に比べれば格段に爪は小さいから、荷物的には余裕があった。
回収を素早く済ませた。
黒い茨の通路を進んでいく。
中域は上域と違う。
段々と薄暗く……。
進むごとに暗くなっていった。
腰に着けたランタンの灯りが目立つようになる。
そこに悲鳴が聞こえた。
「逃げろぉぉ、
「うあぁぁ、
「ひぃぃぃ」
左の視界の端で冒険者たちが逃げていく姿が確認できた。
そこに敢えて向かう。
――ん? 暗闇の中に舞台照明が当たるようにポツンと一箇所明かりがあった。
逃げた冒険者が落としたランタンの灯りだろうか?
魔法の明かりだろうか?
そこに……
一匹だけ
警戒を強めて進む。
暗闇が強い、もうランタンを止めて<夜目>でも使っちゃうか?
いや、最初は、やはりランタンを使いたい。
……掌握察に反応。
<
更に近付くと、落ちていたランタンの明かりがその場をはっきりと映す――。
三匹の
うは、この
こいつが
それよりも、あいつは何だ?
ごつい蟻だ。
鎧蟻と言えばいいだろうか。
さっき冒険者は
しかも、あの
額の左右には黒光りする非対称だが鋭そうな角が伸びている。
その下にある一対の複眼も赤く両生類のように鋭い。
顎も細く尖っていて嫌な感じだ。
胴体は亀の甲羅のようなものに腹部や背中が覆われ全体的に硬そう。
そんな重い胴体を支えるのは六本の甲殻に覆われた脚。
脚の上部には赤毛のファーのようなふさふさの毛が生えていて、膝には筋肉の筋がびっしりと詰まっているのが見て取れる。
脚の先端には鋭そうな鉤爪も確認できた。
筋肉が多そうだ。
あの重そうな甲殻が覆う体を支えられているのにも納得がいく。
あの体長から、ブルドーザーをイメージしてしまう。
あの発達している大顎で死肉を咀嚼している姿。
バリバリと骨を噛み砕く音がここまで聞こえてきそうで、嫌悪感を覚えた。
そこで、姿を黒猫に戻していた
ランタンを消して<
ここでやっと<夜目>を使う。
それと、依頼外の
先に
その前に指輪を見る――。
――これを使うかな?
止めとこ。
今は急襲したいからな……。
沸騎士たちは強いし役に立つけど、デカイし音も立てる。
そんなことを考えながら、ジャケット裏からナイフを取り出した。
まずは
俺は狙いを付け――ナイフを<投擲>。
狙った
あっさり地面に倒れて動かなくなった。
続けて<投擲>を行う。
しかし、初撃から遅れて放ったナイフは狙いが逸れて脚に刺さる。
と、頭をこちらへ向けて足をカサカサさせながら近寄ってきた。
が、その
鋭い赤色の複眼を向けてくる。
食べていた冒険者たちの死骸から後退し、闇の中へ消えた。
しかし、魔素は察知している――。
六本の脚を蜘蛛の脚のようにカサカサと素早く動かして壁を上っていた。
どうやら、俺の背後に回り急襲するつもりらしい。
胴体はずんぐりなくせに妙に素早い。
あの茨の壁には蟻の脚を引っ掛けやすいのもあるだろう。
まぁ、多少は頭が回るようだ。
だが無駄だ。左手を
<鎖>は宙に弧を描くように曲がりながら鎧のような甲殻の背中に突き刺さる。
壁を昇っていた
その際に
しかし、触手骨剣はキィンと金属音を響かせて弾かれていた。
一方で、俺の<鎖>は刺さっている。
この<鎖>の先端はかなり鋭いのか?
そんな思考を行いながら刺さった<鎖>を消す。
亀のようにひっくり返った
キィン――硬質な音が響く。
そうこうしているうちに、
赤い眼で俺を睨み付けてくる。
赤毛が生えた脚を素早く動かし横回転。
角を生かすように正面を向く。
と、闘牛士の赤い旗へ突っ込む興奮した牛のように突撃してきた。
――速い、迫ってくる。
俺と
と同時に通り過ぎる
脚の関節の隙間に筋肉繊維が見え隠れしているのを改めて確認した。
――狙いはあそこ。
黒槍を水平に保ち<脳脊魔速>を発動した。
身体速度が増した俺は風が通り抜けるような動きで
脚の関節へ狙いをつけ、黒槍を薙ぎ払った。
狙い通りに、黒槍の刃が関節の筋肉繊維に衝突し千切っていく。
脚が数本無くなった
勢い良く跳ね返り、ひっくり返っていた。
背中側の甲殻を地面につけて踠く。
今度はもがいても立つことは無理だ。
おっ? 触手の軌道を変化させている。
どうやら
小さい触手の攻撃だが、柔らかそうなところへちゃんと狙いを絞ったようだ。
触手骨剣を間接部位に滑り込ませるように攻撃し、脚を切断していた。
呻き声を発し、残っていた甲殻脚を激しく動かしている。
少し試すか。そんな
走る勢いを利用し、魔力を込めた蹴りを食らわせた。
凹んだだけかよ。
これ、かなり丈夫だな。
<脳脊魔速>が切れるまで蹴り続けていく。
が、埒が明かないので、
狙い目は頭のつけ根。
筋肉繊維が見える首。そこへ、<刺突>を繰り出す。
<刺突>が首筋に突き刺さると、袋の空気が急激に抜けるような異音が発生。
耳を劈く音と共に
ピンポン玉のように跳ね上がった
頭無しとなった
決して切れ味は鋭くない黒槍の刃だが、身体能力を生かした豪の力と、<刺突>のキレが
まぁ、柔らかい部分を狙ったから当然か。
この甲殻、良い素材のようだ。持って帰り、鍛冶屋とかに持っていこうかな。
繋ぎ目の柔らかいところを切っておく。
しかし、さすがに大きすぎて袋に入らない。
しょうがない、手で直に持っていこう。
あの壁に埋まっている頭も回収しとこ。
倒した証拠になるだろうし。
頭も大きかったが、一つの魔法袋を丸々使うと収まった。
重い甲殻を引きずりながら、奥には進まずに辺りに湧いていた
途中、大きな甲殻を盾代わりにしたり、障害物のように扱い、
こうして辺りの
討伐証拠は全て回収。
終わった終わった。帰るか。
「戻るぞ」
「ンン」
ったく、もう寝るのかよ。
まぁ良いさ、地上へ戻ろ。
背中で寝ているロロの重さを感じながら暗い中域を脱する。
明るい上域へ戻ってこれた。
その途中……冒険者たちから向けられる視線が少し恥ずかしかった。
引きずる黒い甲殻が目立ってたからな。
そんな視線に耐えながら、重い甲殻を抱えるように持って転移陣に立ち、ヘカトレイルの冒険者ギルドに帰還した。
受付を見ると、おっぱい受付嬢がいた。
彼女はまだ仕事をしているらしい。早速その受付へ向かう。
甲殻を受付に乗せると、甲殻が重かったのか、受付台からミシッと音が鳴った。
受付嬢は目の前に現れた大きい甲殻に驚いたようで、目を丸くしている。
続けて魔法袋から依頼分の爪や触覚を提出。
「――頭、あ、これは依頼分を超えて五つ分になるので、依頼達成は五つとなります。でも、この頭に甲殻って……」
「そうだ。それと、この甲殻は買い取りしないでいい。この頭は依頼外だが、討伐証拠として持ってきた。金とかは貰えるかな?」
「はい、大丈夫です。依頼外ですけど、討伐したのなら報酬がちゃんと出ますよ。依頼達成には数えられないですけどね」
「了解」
「では、少々お待ちを」
受付嬢は依頼の品と頭を抱え持って奥へ移動していく。
頭は大きいけど、結構な力持ちなのか?
あの鈍器なおっぱいを持つだけはある。
後ろが少しざわつく。
近くにいた冒険者たちからの視線が集まっていた。
あの甲殻が目立ち過ぎたか?
暫くして、受付嬢がおっぱいをぷるるんと揺らして戻ってきた。
「お待たせしました。これが報酬と冒険者カードです。いきなりのDランクですね。おめでとうございます」
「おお、どうも」
初仕事を完了させられた、嬉しい。報酬は金貨少しに銀貨と大銅貨十数枚。
冒険者カードと金を回収。
「ところで、あの頭のモンスターはなんていう名前?」
「あれは
「ほぉ~」
Bクラスか。
重い甲殻持ちだし、かなり強いんだな。
「さすがです。
ウキウキした表情で語るおっぱいさん。
二の腕を伸ばして筋肉を見せようとしている。
その際におっぱいがたゆんっと揺れるので凝視してしまった。
急ぎ、誤魔化すように話していく。
「……まあね。それで、この甲殻なんだけど、これを加工できる鍛冶屋ってどこかない?」
「鍛冶屋さんといったらドワーフさん。一流処の腕前の鍛冶屋さんを知っています」
「その場所は?」
「え~と、ここから目抜き通りをまっすぐ行きまして、二つ目の路地を右に曲がり、七半横丁の最初の右の路地を曲がって、そこのつき当たりの角を曲がりますと鍛冶街がありまして、そこの一番奥にあります」
うー、こんがらがる……二つ目の路地に、七半横丁を……。
「……わかった。それじゃ」
指で頭をコツコツと叩いて、何とか頭に叩き込んでいると、
「良かったら、わたしが案内しようか?」
背後に振り返る。声の主はさっき助けた女エルフ、キッシュだった。
薄緑の長髪が目立つ。
「……お、キッシュじゃないか。あの子たち、冒険者たちは村へ?」
「あぁ、あれからすぐに送ったから平気だ。それより、失礼ながら話を聞かせてもらった。あの子たちの命の借りには遠く及ばないが、その店を案内させてくれないか?」
笑顔に透明感があって良い。
改めてエルフのキッシュの姿を目に焼きつける。
兜を片手に持ち、鎧のハーフプレートはくすみがかった白色。
女性特有の少し膨らんだ鎧の右胸辺りには、鶴のような小さいエンブレムが描かれてあってカッコ良かった。
腰周りは長剣を差し、白く短いタセット付きの短いスカート系の防具だが、スパッツのような薄緑色の下穿きを履いている。
足が長いので、柔そうな腿の白肌が少し見えていた。
その上から皮の繋ぎがベルトのように太股へ巻き付いている。
足には足先から膝上までを守るように薄緑色の長い脚甲を装着していた。
その色合いはストレートの薄緑の長髪と色が合うので、余計に綺麗に見える。
「……宜しく頼むよ。……命の借りとかじゃなく、案内してくれるだけで十分だ」
きれいなキッシュにエロイ笑顔で頭を掻きつつ頼んだ。
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