二十六話 新しい配下×魔界セブドラの知識

 

 早速、髑髏の指輪を試すことにする。


 漆黒色の骨の顔に丈夫そうな兜を被ったデザイン。

 眼窩には一対の赤い眼を表現しているのか小さい赤い宝石が埋め込まれてあり、その赤い宝石の眼は光ってみえる。


 一瞬、前世で見たことのある特撮番組を思い出す。

 黄金騎○に出てきた喋る指輪を。


 その髑髏の指輪を指に嵌めてみた。

 うんともすんとも、何にも反応なし。


 ゾルは指で触り使用していた。

 俺もやってみよう。念じれば反応するかな?


 もう片方の指で髑髏どくろの表面を触りながら、『指輪よ力を示せ』

 と念じた瞬間――魔力が失われて指輪が弾ける。

 ブルッと震えた髑髏どくろの指輪。


 思わず、指輪を装備している手を遠ざけようと伸ばしてしまった。


 伸ばした手の指先に装着している髑髏の指輪の眼窩に嵌まっている赤い宝石から黒色と赤色の糸のような線が出ると、宙に弧を描いて地面に付着した。


 ゾルの時と同じ。

 骨騎士たちが召喚されるようだ。


 黒猫ロロは驚いているのか、毛を逆立てている。


 その間にも、糸が付着している地面は沸々と沸騰。

 沸き立つ音を立て、もくもくと煙が立ち込める。

 その煙が風で消えていくと、骨騎士たちの姿が見えていた。


 ピコーン※<召喚術>※スキル獲得※

 ピコーン※<魔法使い>の条件が満たされました※戦闘職業クラスアップ※

 ※<魔法使い見習い>から<魔法使い>にクラスアップ※


 おぉ、骨騎士召喚でスキル獲得に<魔法使い>になっちゃったよ。

 召喚された黒と赤の骨騎士は、佇んで動かない。


 何か指示を出してみるか。


「おい、右へ動け」


 俺の声に反応した骨騎士たちは右へ動き出す。

 左へ動けと言うと、左に動いた。


 その骨騎士の奇妙な動きに、黒猫ロロは警戒しているのか、毛を逆立てながら尻尾も膨らませていた。

 黒猫ロロは姿勢を屈めて警戒しながらゆっくりと骨騎士へ近付いていく。

 そして、骨の脛へ猫パンチを当てて逃げるという、ヒット&アウェイのボクシングを披露していた。


「はは、そんな警戒するなよ、ロロ。こいつらはペットみたいなもんだ。大丈夫だぞ」

「にゃぁ」


 黒猫ロロは膨らませていた尻尾を元に戻しながら俺の後方へ回り込んだ。


 スキルの説明文を見ておくか。


「スキルステータス」


 取得スキル:<投擲>:<隠身>:<脳脊魔速>:<血鎖の饗宴>:<刺突>:<瞑想>:<魔獣騎乗>:<生活魔法>:<導魔術>:<魔闘術>:<導想魔手>:<仙魔術>:<召喚術>new


 <召喚術>をチェック。ぽちっとな。


 ※召喚術※

 ※召喚には術者の高水準の魔力と精神力が求められる。条件があえば特殊な魔具、魔道具、魔導具、神具、魔神具を媒介することにより狭間ヴェイルを越え、違う次元界から魔具や神具等に因果指定された存在を召喚することが可能。また、命名の儀を行うことで、自身の魔力を消費することになるが、更なる魔具の進化を促すことも可能になる※


 黒と赤の骨騎士が、魔具に因果指定された存在ということなのか。


 命名の儀。

 ようするに、俺が名前をつけるということだな。

 せっかくだから名前をつけてみるか。


 そんな軽い調子で、指輪に手を触れながら――、


「黒がゼメタス、赤がアドモス」


 あまり考えず、フィーリングで決めた名前をスラスラ言ったその瞬間、また指輪が反応した。


 触っていた指輪が俺の魔力を急激に吸い上げていく。


 えっ、うおっ、指輪が変形?

 頭蓋骨が兜を被る造形が波が起きたように動いて変化した。


 これ、魔力を吸うだけじゃないのか。


 その変化は指の第一関節を越えて爪の根本まで進出してから止まった。

 デザインは一新され、より精巧な兜となっている。


 眼窩に嵌まった赤い宝石も若干光が増したように感じた。

 すると、その赤い宝石が本当に光る。


 黒と赤の太い糸が発生。

 眼窩から飛び出たその太い糸は、骨騎士たちへ伸びて接触し、太い糸と骨騎士の腹が瞬時に固定され、太い糸から太い線へ変化を遂げる。


 太い線はまるで臍の緒、血管のようにも見えた。


 思った通り太い線は、どくっどくっと音を立てて脈打ち出す。

 脈が動く度に、骨騎士たちが、ドクンッと仰け反る反応を示していた。


 何か栄養を与えているのか?


 そんな疑問を浮かべた瞬間。

 ――ウハッ、肋骨が胸から飛び出していた。骨騎士たちの胸に丸い穴が開き、左右へパカッとご開帳。

 肋骨たちが左右上下へ孔雀の羽のように広がって踊り出したと思ったら、アコーディオンの蛇腹をたたむように胸にできた穴へ吸い込まれていった。


 何だあれ……。

 あの骨騎士たちはまだ変化の途中らしい。


 その吸い込まれた穴から、新たな太い骨と鋼鉄の肉のようなモノが産み出されている。

 肉塊のような部位が、高速カメラで録画したものを逆回しで見ている感じに付き、再生されていく。

 更に、その再生中のような二体の骨騎士から黒の蒸気と赤の蒸気が産み出され、その煙によって再生されていく骨騎士たちの姿が見えなくなってしまった。


 何かが蒸発するような音を立てているとだけ分かる。


「にゃっ、にゃ、にゃぁん」


 黒猫ロロは今の現象を見て興奮したのか、何回も鳴いて、くるくると俺の周りを回っていた。


 しばらくすると、蒸発する音も聞こえなくなり、煙が風に吹かれ骨騎士たちが姿を現す。

 二体の骨騎士は片膝を地面について頭を下げていた。


 一先ず収まったのか?

 今ので魔力をかなり消費したぞ?


 久しぶりに、口の中で胆汁を味わった。

 <仙魔術>を初めて使ったときよりかは若干ましだが。


「閣下、黒沸騎士ゼメタス、ここに見参」

「閣下、赤沸騎士アドモス、今ここに。何なりとご命令を」


 うはぁ、喋っているし……。

 こいつら、知能を得たのか。


 名乗った骨騎士たちを観察した。


 全体的に骨が太く……。

 胸板なんて骨と筋肉がついたゴツイ鎧に変わっていた。

 二体の骨騎士の腕や胸板はそれぞれ名前に因んだ黒と赤の蒸気を纏っているし、頭部は、頬骨が分厚い兜のように額にまで広がっている。


 眼が赤く光っているのは前と変わらないようだ。


「骨騎士がスケールアップしやがった。この指輪、すげぇな……」


 変化を遂げた骨兜の指輪を見ながらそう呟くと、黒骨騎士が即座に反応し、


「閣下、その指輪は闇の骨兜ダークボーンヘルムから変化を遂げ、今は闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトとなっております」

「ほぅ、そんな名前に……この変形した指輪、名前も変わっていたのか。で、君たちは、さっきまで骨騎士だったよな」


 今度は赤骨騎士が反応し、


「閣下、もう私共は骨騎士などの一兵卒ではございませぬ。閣下の命名の儀により名を賜りましたアドモスと――」

「ゼメタスでございます」


 二体の骨騎士、いや、もう、黒沸騎士ゼメタスと赤沸騎士アドモスか。

 フィーリングで付けた名前だが、似合っている。


「そうか、ゼメタスにアドモス、今後ともよろしく」


 そんな俺の挨拶に沸騎士たちは、


「――はっ」

「ははっ――」


 と若干ハモリながら俺に対してゴツい頭蓋骨を下げていた。


「その命名の儀が、魔力を消費した原因だったり?」

「そうでございます」

「そうでございますとも」


 ハモり具合が重低音だ……。


「それで、お前たちは違う世界に住む者なのか?」

「住むというより、存在している。と言った方が正しいかと」

「ところで、その違う世界とは、魔界とかいう所?」


 俺の問いに黒沸騎士ゼメタスが、


「はい。魔界セブドラ、この世界、セラに繋がる世界の一つです」


 やはりそうか。

 でも、この世界がセラ? 初めて知ったよ。

 詳しく聞いてみよ。


「そのセラとは、俺が今いる世界なのか?」

「はい、そうでございます」

「すると、もう一つ、違う世界があったりする?」


 予想はしているが、聞いておく。


「はい。私共が知っている名は神界セウロスでございます」


 はい、やはりありました。天界と地獄か? 

 師匠が前に言っていたな。


「……他にはそういう世界はないの?」

「次元界は幾つも存在すると聞いたことがありますが、詳しくは分かりませぬ」


 俺は隣にいた赤沸騎士アドモスへ答えを求めるように視線を送る。


「同じく、分かりませぬ」


 兎に角、他にも違う次元界、何とか界が存在するらしい。

 ようするに、天国、地獄だけではなく、他にも世界は存在するのか。


「すると、神とかも、それぞれの世界に存在するのか?」

「はい」

「そうでございます」


 ほぉ、どんな姿なんだろう。召喚できたりするのかな?


「……君たちを召喚したように、その二つの世界からその神々を召喚、なんてことができたり?」

「物理的には無理でございます」

「無理か、だが……このセラだっけ? この世界に神々が影響を及ぼしたいとか、支配したいとかありそうだけど」


 俺の言葉に黒沸騎士ゼメタスは重厚ボイスで流暢に、


「はい、確かにそうです。魔界セブドラを支配するモノたちは、このセラに強い執着を越えた拘りがあります。欲望や信仰を欲し生贄も欲しがるでしょう。そして、恐怖や憎悪などの感情を自分たちの糧としているのです」


 今度は赤沸騎士アドモスが、


「更には、唆した大魔術師アークメイジたちを使い、セラ側でわざと次元界の狭間ヴェイルへと傷を作り、魔界セブドラとの僅かな繋がりを作り出そうとする神々もいます。その神々はその僅かな傷から眷族たちをセラへ送り込もうとするでしょう。他にも眷族をワザと召喚させたり、あらゆる魔道具や魔神具を使い、定命の者を誘惑、間接的な支配、或いは脅しや精神の乗っ取りにより、直接的な支配を目論もうとする神々も居ます」


 へぇ、物騒な存在だな。

 いや、物騒と言うより、聞く限りは悪魔的な存在だ。


「では、君たちも負の感情が餌になり、俺の精神を乗っ取りたいと思ってるの?」


 この俺の問いにも、沸騎士たちは表情を崩さず、骨の口についた奇妙な唇を動かして答えていく。


「いえ、そのようなことはできませぬ。確かに我々は魔界セブドラに存在する者。負の感情は力と成り得ます。しかし、我々は精神波を構築すらできませんし、魔法を使う攻撃はできません。魔族にも多種多様な存在がおりますので。それに、主である閣下との繋がりは魔界セブドラに於いても異質。今の我々にとって、閣下は神を超え因果律を超えし存在となっております」


 不思議と忠誠を感じるのも俺と繋がりがあるからか。


「「我らは閣下により誕生したのです」」


 赤沸騎士アドモスも加わり、重厚ボイスが重なった。


「眷族の宗主たる閣下は絶対無二。我々沸騎士は、閣下と繋がった魔力によって生きております」


 本心であると分かる。

 やはり繋がりがあるからか?


「なるほど、分かった。でも、君たちはあっさりと召喚できたのに、神々の召喚は無理なのかな」


「はい。神々は強大であり難しいのです。私共の魔素量など塵に等しい存在。神々とは比べ物になりません。我々の魔素は小さく、閣下が所有しておられる指輪型魔道具、闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトを媒介することにより狭間ヴェイルを越えられるのです」


 赤沸騎士アドモスは俺の指輪へ視線を向けながら話していた。


「ほぅ、魔素量とかに関係してくるわけか。すると、強大なほど、その狭間ヴェイルを越えるのは難しくなる?」

「その通りでございます。狭間ヴェイルと呼ばれる次元に挟まれる境界は、神ほどに強大な存在ほど弾くと言われています。ですので、直接神を召喚するのは無理なのです。しかし、条件次第では……」


 言いにくいのか? 二体共黙ったままだ。


「先ほど物理的に無理と言わなかったけ?」


 生理的に無理、と言う振られ言葉が脳裏によぎるが口には出さなかった。


「それはそうでございます。しかし、厳しい条件を満たした場合ならば、神の一部を凝縮した状態で、召喚することが可能かもしれません」

「条件とは?」


 先ほどと同じくまず黒沸騎士ゼメタスが、


「我々が知っている範囲ですが……第一に召喚される神自身が魔界セブドラで広大な領域を確保。第二にセラにおいて大多数の信徒、信奉者、狂信者たちを確保しなければなりません」


 赤沸騎士アドモスも続き、


「第三に狭間ヴェイルを越えて魔界セブドラに強く影響を及ぼせる強力な魔神具を地上で用意。第四にその魔神具に膨大な量の魂や魔素に恐怖や憎悪を注ぎ込み、第五に儀式を完成させて、やっと、神の一部が召喚可能と言われております」


 基本的になにかしらの膨大な媒介する物が必要ということか。


「へぇ、そこまでしても、一部か……」

「そうなのです」

「はい」

「だが、さっき話していたように、セラの地上世界に傷を作って魔界への道を作る魔術師がいると言っていたよな? そこを広げて、魔界セブドラの神々が出現したりはしないの?」

「無理です。そもそも地上から狭間ヴェイルに傷を作ること自体が不可能に近い離れ業でございます。そして、傷が作られたとしても、広げることはできません」


 沸騎士たちはハモリながら話を続ける。


「その傷場からは魔素の小さい種族たちが選ばれセラへ送られます。それに、傷場となった魔界セブドラの場所は魔界セブドラにおいても争いの場と化し、神々や諸侯たちによる争いの火種となるのです。さきほど述べた条件を整えずに、強引にその傷場から神が進出しようとしても、セラとの間にある挾間ヴェイルにより神気が霧散してしまい、神としての力を大幅に削られます。それは神としての消滅の危機に繋がるでしょう」


 ほぉ、神と言えど、そんなことになるのか。


 しかし、狭間ヴェイルに傷か。

 繋がりというイメージだと、あの地下にあった黒き環ザララープとは関係ないのだろうか。

 あのゲートを知っているか分からないが、一応聞いてみよう。


「突然だが、黒き環ザララープと魔界セブドラは関係ないのか?」

黒き環ザララープとは?」

「わかりませぬ」


 赤沸騎士も黒沸騎士も知らないらしい。

 地下にあったあのゲートとは関係ないようだ。


「俺が見たことあるのは、地下深くにある黒い環だ。ゲートみたいなのが、この世界には無数にあるはずなんだが……」

「セラにそのような物が……」

「存じ上げませぬ」


 黒き環ザララープのことは知らないようだ。

 黒き環ザララープからも魔族は出現しているはずなんだけどね。


「魔界セブドラにはそういうワープできる黒き環ザララープ的な建造物はないの?」

「ありません」

「転移陣を用いた転移魔法ならあります」


 魔法はあるけど黒き環ザララープは無いんだ。


「無いのか。黒き環ザララープからは過去に魔族と名乗る奴らが出現していたらしいんだけど、本当に知らないのか?」

「知らないですぞ。建造物でそのような物があるとは……」

「魔族……推測ではありますが……違う次元界にいる魔族かもしれません」


 違う次元界の魔族か。種族も多種多様か。


 そりゃ可能性はあるよな。

 まぁ、そんな推察をしたところで、しょうがないんだけど。


 基本的なことに戻って聞いてみよ。


「わかった、ありがと。それで、君たちはこの指輪から呼び出されているって認識で合ってるよね?」

「はい」

「そうでございます」

「呼び出される時だけど、その狭間ヴェイルを越える時は苦労しないのか?」

「それは大丈夫でございます。先程も申し上げた通り、閣下と私共には信仰を越えた特別な道での繋がりがありますので」


 やはりそんな感じのがあるか。

 でも、いまいち分かり辛い。特別?


「さっきも繋がりと話していたが、その道の何が特別なんだ?」


 俺の疑問に素早く答えたのは隣にいた黒沸騎士ゼメタス。


「それは閣下が先程行った<召喚術>と命名の儀。それに、閣下自身のお力である魔力でございます」


 魔力ね。


「その証拠に、閣下の豊潤なる魔力が魔具に浸透したことにより、魔具が変化を遂げています。指輪が反応し形が変わったのは我らに閣下の魔力が入り込んだ証。お陰で、我らが強くなったのは勿論、魔界セブドラにその魔具、闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトの象徴である楔が打ち込まれて、極々小さいですが魔界に領域を持てるようになりました。更に、その領域からですと、わたしたちのみ狭間ヴェイルを越えるのも容易になり、魔界での強さを保った状態で、このセラへ来られるのです。それを道と呼んでいます」


 この魔具が楔になり、道を作ったと。

 ……領域?


「え~っとだな……そもそも、魔界セブドラのことはよく分からないんだが、その領域とは?」

「魔界セブドラにおける領土と言いましょうか、魔界セブドラで領域を確保すると、セラと魔界セブドラを阻む狭間ヴェイルを比較的越えやすくなり、セラにおける贄、憎悪、欲望、快楽、恐怖、信仰心といったモノから魔素や魂を獲得、確保しやすくなります」


 ほぅ、贄ね……。


「それらの贄は魔界セブドラにおいて多大な影響を与えるのです。なにしろ、セラにおける負の感情は、魔界セブドラに存在する者にとって重要な糧、エネルギー源となるのですから」


 糧、エネルギー源か。食料みたいなもんかな。


「……もっと分かりやすく」


 赤沸騎士アドモスが代わりに話し出す。


「セラの生物が持つ負の感情、信仰心、魔素、魂は、私共にとっての食べ物であり、その贄を得るのが、なによりも魔界セブドラで力となりエネルギー源となります。ですので、悪魔、悪霊、魔人、影狼、陰蛾、不死、邪霊、怪魔、魔族、魔神などの悪鬼羅刹の勢力たちが日夜、いえ、夜しかないのですが、魔界セブドラ内で領域を広げようと争っています」


 領域に贄か。

 地上より忙しそうだ……。


「領域とか、どこの世界も忙しいんだな」

「――はいっ、魑魅魍魎の諸侯たちの群雄割拠な状況です」

「そかそか、それで、君たちの魔界セブドラでの立場とかは……」

「はい、元々魔界セブドラでは端の端で末端の存在でした。しかし、閣下に名前を頂きまして、閣下の眷族の尖兵として新たなる存在へと変化を果たしております。そのお陰で、魔界セブドラでは端の存在ではなくなりました。魔界セブドラでは上等戦士など容易く屠りますぞ」


 上等戦士と言われてもよく分からない。


「そうでございます。私共は閣下の新しき眷族の尖兵。魔界セブドラでもセラでも、何なりとご命令を」


 魔界セブドラでも命令……急に言われてもな。

 俺は魔界王になるっ! いや、ありえない、違うな。


 ……魔界セブドラとか、複雑そうだ。

 ま、俺には神々の話など関係無いし、違う話をするとしよう。


「……ところで、突然話を変えるが、お前たちは、戦えるな?」

「――はっ」

「何なりとご命令を」

「それじゃ早速だが、お前たちの力を見たい。俺の訓練に付き合ってもらおうか――ロロは大人しくしといてくれ。ユイのとこに戻ってもいいぞ」

「にゃ」


 黒猫ロロは簡単に返事をすると、とぼとぼとお尻を振って庭の方へ歩いていき、庭の植木側にある土を掘り出していた。

 小さい凹を土に作ると、そこに自らのお尻をつけて座る。


 すると、シャァ〜ッと、おしっこの音が聞こえてきた。


 黒猫ロロは何とも言えない顔を浮かべている。

 おしっこを終えると、立ち上がって振り返り、片足で凹んだおしっこした場所へちゃんと土を掛けて片付けていた。そのままユイのいる倉庫へ戻っていく。


 可愛い。


「……それと、君たち骨だけど、壊しちゃっても大丈夫?」


 俺は気を取り直すように沸騎士たちに聞く。

 すると、黒沸騎士ゼメタスが素早く答えた。


「大丈夫ですぞ。インターバルはありますが、我々は壊れても、閣下とその指輪が有る限り永遠に復活を遂げます。閣下と遠く離れても、自動的に魔界セブドラへ戻りますし、閣下が指輪へ戻れと念じてくだされば、すぐに魔界セブドラへ戻ります。そして、またお呼びいただく場合も、指輪に来いと念じてくだされば、暫しの間の後に、参上致します」

「分かった。それじゃ、訓練といこうか」


 そこで、黒沸騎士ゼメタスと赤沸騎士アドモスと戦う。


 強さは骨騎士だった頃とは雲泥の差。

 黒々、赤々とした骨鎧は硬く、反応速度も速い。


 黒光り、赤光りする長剣と方盾を使いこなす技量は舌を巻くほどだ。

 片方が長剣を伸ばしたら片方が方盾を使い守備に回る。コンビネーションの質が異常に高い、互いをフォローする動きが素晴らしかった。

 明らかに、今まで戦ってきたどのモンスターよりも強い。


 見た目はモンスターのような姿だが、動きは熟練された騎士。

 なんか剣と盾を使う流派を学んでそうな年季を感じさせる動きの質。

 剣の腕はそれほどでもないぐらいだったが。


 総合的にユイと同じかそれ以上の強さと言ってもいいだろう。


 最終的に沸騎士たちを粉々にして、訓練は終了。

 そこで、指輪を触って『来い』と念じるが、沸騎士たちは戻ってこなかった。


 インターバルが必要と言っていたからか?

 ま、今は戻ってこなくても良いけど、また戻ってくるとしたら、こりゃ良い戦力だな。


 さて、魔界セブドラの知識を得られたが、少し長引いた。

 ユイのところへ戻ろ。

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