第97話 連鎖 -butterfly effect- 28

「ちっ……」


 舌打ちをこぼしたジンの双剣が巻き起こした剣戟の嵐が、同時に二機の〈エクエス〉の腕を刈り取る。

 しかし、それだけでは、彼の〈ティエーニ〉に襲いかかる剣の牙の数は減らない。腕を失った機体は素早く後方に下がり、五体満足な機体が前に出てジンに攻撃をかける。相当数に損傷を与えたはずだが、それでもなお、敵の壁は分厚く、指揮官がどこにいるかも分からなかった。

 徐々に、ジンは盾を前面に押し出した〈エクエス〉の円陣の中央に追いやられていた。包囲されつつあるのには気付いている。しかし、ジンには敵を切り続けるという選択肢しかなかった。


「邪魔だ」


 痺れを切らしたジンが、地面を蹴り、背部のブースターを使って加速。囲みの頭上を飛び越えて、その向こう側に着地する。

 無意味に堅い守りを敷くとは思えない。その先に指揮官機があると想定しての行動だったのだが、予想に反して、そこには何もなかった。


「指揮官がいない……?」


 若干の困惑を感じると共に、ジンはあることに気が付いた。先ほどの囲み。それは相手を討つための陣形だっただろうか?

 むしろ、ジンを先に進ませないための、足止めのための陣形ではなかったか。

 目的は撃破ではなく時間稼ぎ。おそらく、ここにいる戦力ではジンを倒せないと判断しての行動。

 指揮官は後方ではない。もっと俯瞰的に戦場を見ている。そう、平面的にではなく、立体的に。

 先ほど、盾に囲まれて塞がれた視野が、飛び上がることで開けたように。

 ならば、指揮官は──


「上か」


 先ほどから頭上を飛んでいたヘリ。それが指揮官の居場所だ。

 騎士団というからそちらにばかり意識がいってしまったが、革命団ネフ・ヴィジオンも、前線指揮を執るメンバーがいる時は、似たようなことをしている。

 貴族側にそんな合理性や効率性を重んじるやり方をする者がいると想定しなかったジンのミスである。

 とはいえ、見つかってしまえば、まともに自らを守る術を持たぬヘリなどいい的であるのだが。


「堕ちろ」


 剣を肩越しに振りかぶり、投擲する──


「ーーっ!?」


 直前、ジンは電流が走ったかのような感覚にその動きを一瞬止める。

 それは──

 ──濃密な死の気配

 確実な殺害を期した一撃。

 彼らを狙う明確な殺意。

 殺意、敵意、悪意、そういったものに敏感な彼の感覚はそれを直感のみで捉えていた。

 そして、それを悟ったジンは、迷わず、その剣を正面に振り下ろし、同時にもう一方の剣を背後へ向かって振るった。

 直後──

 ──高速で物体がぶつかり合う硬質な轟音が響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る