エピ060「追跡」

首都高湾岸線を東へ疾走する真っ赤なDucati 899 Panigale、(注、かっちょいい大型バイク)



時任:「後30分て所かな、…もう少しだから我慢して、」


フルフェイス(注、ヘルメット)に仕込んだスマホのイヤフォンから「時任」の声が聞こえてくる。



宗次朗:「お、おう、」


タンデム仕様とは言え、カナリ・スポーティな乗車姿勢で後ろからしがみついた「時任」の身体は、…鍛えられて引き締まっていながらも、女性らしい柔らかさを失ってはいない、


その上、コルセット無し×Eカップのブラだから、下乳の温もりが腕に密着して、…どうしたって節操無く男の身体が反応してしまう訳で、…



時任:「しっかり掴まってないと、危ないぞ、…」


宗次朗:「お、おう、」





「頼む、力を貸してくれ、」……早朝、「アカリ先生」の家から直行した「時任」は、詳しい説明も聞かないままに、二つ返事で俺の頼みを承諾、…


凡そ15分の内に航空券を手配、…まるで予め用意してあったかの様に3分の内にナップサックに荷物を詰め込み、…ガレージに止めてあったトンデモバイクの後ろに俺を搭載して、10分で一旦俺の家迄戻り、…俺がパスポートと数着の着替えを準備する30分間にお袋をたらし込んで?(注、説得して、)…返す刀で秦野のインターから東名に乗って、1時間足らずで今、市川を降りて、…後は下道を成田へ向う。



時任:「此のペースなら羽田でも間に合ったかも知れないね(注、羽田発は朝便、成田発は昼便)、…まあ、イタリア直行乗り継ぎ一回だから、ドッチにしても今日中(注、時差7時間プラス)には辿り着けるよ、」


宗次朗:「そうか、」


宗次朗:「色々、手間掛けさせて済まないな。」


時任:「気にしないで、…これでも僕は君と一寸した旅行が出来て、結構楽しんでるんだから、」



俺達は、ピックアップ用の停車場で、何だか黒服っぽいおじさん?達にバイクとメットを預けて、…



宗次朗:「あの人達は?」


時任:「気にしないで、…まあ、色々親切にしてくれるおじさんだよ、」


恐らく何時も「時任」の身辺護衛している方々?かと思われ、…



宗次朗:「初めて見た、…」



第一ターミナルの、アリタリアのチェックインカウンターに辿り着く、


丸っ切り全部「時任」任せで、手続きは進み、…


何の問題も無くセキュリティと出国審査を終えて、免税店が並ぶ空港内へ、



時任:「少しばかりお金を交換して来るよ。」


宗次朗:「ごめん、…その、…」


時任:「気にしないで、後でちゃんと返してもらうって、」





ナップサックから取り出した「ポンド」の束は、手際良く「ユーロ」に換金されて(注、時任はイギリスからの帰国子女)、



時任:「結構、手数料高いなぁ、…」


宗次朗:「何だか、手慣れてるんだな、」


時任:「そうかな、…ちょっと、買い物しようか、」


宗次朗:「買い物って?」


時任:「急いでて何も持って来なかったからね、取り敢えず歯ブラシ、歯磨き、シャンプーリンスに、化粧品、それからサングラスと、…」


それで、俺がぽかんとしていると、…



時任:「ヨーロッパの夏の日射は容赦ないんだから、サングラスはお洒落じゃなくても必要だよ。」


宗次朗:「いや、そうじゃなくて、…お前も、化粧品使うんだな、」


それで、「時任」がムスーっと、頬っぺたを膨らませる。



時任:「何か文句有るの? 僕は女の子が好きなだけであって、別に男になりたい訳じゃないんだけどぉ、…」


宗次朗:「ごめん、…」







それで、不足した衣料品やら日用品を補充して、レストランで簡単な腹ごしらえをする。



時任:「ヴェネチアは小さな街だから、中に入ってしまえば最悪歩いて探す事も出来るんだろうけど、…少しでも「情報」が欲しいな、」


料理が来る迄の間、「時任」はスマホと格闘、…どうやら「時任家」の情報調査網をフル活用しているらしい。



時任:「アメリカの企業オーナーの親族が相手とか、言ったっけ、」


宗次朗:「ああ、」


俺と同じ歳の「相田」が、現実に誰かと結婚する、…と言うまるで安物のラノベか少女漫画ミタイナ・シチュエーションに、まるで実感が湧かない。



時任:「もしかしてこの話って、結構コンフィデンシャル(注、秘匿)なのかな、…ナカナカ情報が掴まえられないミタイだ。」


宗次朗:「分んない、長男の新事業がどうか、とか、言ってたけど、…」



時任:「相田家の長男か、確か南米の電池用材料関係の仕事に手を出し始めたとか聞いたな、」


宗次朗:「時々思うんだけどさ、お前って本当に高校生なの?」


俺達は、運ばれて来たコロッケ蕎麦を啜って、一次休憩、…



宗次朗:「何か、久しぶりにモノを食べた気がする、」


時任:「それは良かった、」


「時任」は、体温を取り戻した俺の顔を見て、ニッコリと微笑んだ。







テッセラ空港の到着ロビーに辿り着いたのは夜の22時を過ぎた頃だった。


「時任」は二人分のスマホのSIMを入れ替えて、魔法の呪文の様にTop Upバウチャー(注、空港のWiFiを使ってネットで料金チャージ、時任は予め数カ国向けのPay as you go SIMを持っていたと思われる、)、通信を回復させる。



宗次朗:「お前、凄いな、」


時任:「そうかな? 好きな子を追っかけてはるばるヴェネチア迄来る君の方が、余っ程凄いと思うけどな、」


それから、片方を俺に渡して、



時任:「コレを持っていれば、何時でもGPSで君の居場所が把握出来る、はぐれても直ぐに迎えに行くから、安心して。」


宗次朗:「あぁ、有難う。」


成田で買った荷物はソコソコかさ張るが、周りに適当な鞄を売っている店も見当たらず、



時任:「取り敢えず、島に渡ろうか、」


そう言って、タクシー乗り場へ、…俺は、丸っ切り聞き取れない「時任」と「運転手」の英会話を眺めながら、…ちょっと、胸が疼く、



タクシーは長い橋を渡って、リベルタ橋の終点のランナバウトで俺達を降ろした。



時任:「先に何か食べる?」

宗次朗:「ああ、」


それから俺達は、公園を突っ切って、まるで迷路の様に入り組んだ夜の街を徘徊し、途中の露店で安物の帆布リュックを買って荷物を詰め替えし、



宗次朗:「よく、道が分るな。」

時任:「ナビが有るからね、半分は勘だけど、」


それで結局、グランド・カナル沿いのオープンテラスの有るトラッテリア(余り畏まらないレストラン)のテーブルに辿り着いた、…



俺は、メニューの一切を「時任」に任せて、

ライトアップされた運河沿いの建物が、キラキラと夜景を水面に映し出すのを、ぼーっと眺めていた。



時任:「どうやら、相田さんは未だパリに居るらしい。」


宗次朗:「パリ?予定が変わったのか?」


時任:「詳しい事迄は分らないけれど、多分それは無さそうだ、…「シュウイチロウ・アイダ」の名前で、8月3日に結婚式が予約されている事は、確からしい。」


相田周一郎あいだしゅういちろう」、…紛れも無い「相田」の父親の名前が、今回の一件が、何の手違いでも間違いでもない「現実」である事を改めて、突きつける。



時任:「彼女はどうやらパリのオートクチュールで結婚式用のドレスを仕立てているみたいだね、」



一体、「相田」は、どんな気持ちで、ウエディングドレスを作っているのだろう、


もしかするとすっかり気分を入れ替えて、綺麗なドレスやイタリアでのお洒落な結婚式に、浮かれていたり、するんじゃないだろうか?



宗次朗:「はぁ、…俺は、本当にこんな所に来て、良かったのかな?」


時任:「そろそろ、聞かせてくれても良いかな?」


「時任」は、テーブルに立て肘を付いて、あくまでも優しい眼差しで、俺の事をじっと見詰める。



時任:「君は、此処に、…何をしに来たんだい?」

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