エピ031「罪と罰?」

一部の男子の習性として、

それまで当たり前に出来ていた事が、ある日突然出来なくなってしまう事が有る。


例えばそれは、…

小学校二年までは普通に話したり遊んだりしていた女子が、ある日突然恥ずかしくて近寄りがたい存在になってしまったりする事だ。


マロングラッセの様に甘く固まった記憶を優しく解きほぐして観るに、その原因の一端は「禁忌」の出現に関係していると、思われる。


女の子のスカートの中を覗いては駄目、…

プライベートゾーンに触っては駄目、…

当然、あんな事やそんな事は絶対に駄目、…


それまではオマタにチンコが生えているかいないかの違いでしかなかった身近なものが、ある日を境に、全く別の種族、別の生き物だった事を、知らされる。



更に追い打ちをかける様に、男子が女子と仲良くしていたりすると、…


「京本の奴、女子とイチャイチャしてる。恥ずかしい~、」

「やーい、男女!」


等と囃し立てられる事で、ますます「異性との無闇な接触」は、社会的に「イケナイ事」へとすり変えられて行く。 皆、自分が出来ない「羨ましい事」を他の誰かがやるのを、全力で阻止しようとする訳だ。


こんな風にして、かなり人格形成の初期段階から、道徳的?な「洗脳」は強固に構築されて行き、…


そんな、ごく有り触れた当然の帰結として、


小学校二年生までは、「すず姉ちゃん」にかなり懐いていた、…らしい「俺」は、小学校三年になった頃を境に、ぱったりと寄り付かなくなった。…らしい。 そしてきっと俺の諸々の「甘酸っぱい気持ち」は、ものの見事に、記憶の奥底の「恥ずかしいから思い出さないで」領域へと、封印されてしまった。…らしい。


所で余談だが、「すず姉ちゃん」とは、「円涼子まどかりょうこ」が同級生から「すず子」とあだ名で呼ばれていたのを、俺がそのまま名前だと勘違いして「すず姉ちゃん」と呼んでいた、…と言う事らしい。




その日、何故か、いや、俺が「円先輩」の事をすっかり忘れていた罰として、俺は朝っぱらから「円先輩」の部屋に呼び出されていた。



涼子:「宗ちゃん、…凄く、…大きくなったね。」


そして、何故か、いや、俺が「円先輩」の事をすっかり忘れていた罰として、俺は上半身素っ裸で、四つん這いの格好を強いられていて、



涼子:「宗ちゃんの肌、…すべすべで、気持ちいい、…」


そして、何故か、いや、俺が「円先輩」の事をすっかり忘れていた罰として、俺は一切身動きする事を赦されず、「円先輩」の冷たい指先に、されるが侭に、触られまくっていて、…



宗次朗:「先輩、…ソコ、擽ったい、です。」

涼子:「駄目、動かないで、少しの間だから、…我慢できるでしょ。」



先輩のお母さん:「ほんと、済みませんねぇ、…」

涼子:「ママ! 勝手に入って来ないで! 今大事な所なんだから。」


先輩のお母さん:「お茶とお菓子持ってきたのよ、…宗次朗クンだっけ、本当、久し振りよねぇ、ねえ覚えてる? アナタ小さい頃、時々うちに遊びに来てたのよ。」


宗次朗:「はあ、…何だか、覚えている様な、いない様な、…」

涼子:「ママ、邪魔だから、早く出て行って! 宗ちゃんも、頭上げないで、」



そして、何故か、いや、俺が「円先輩」の事をすっかり忘れていた罰として、俺は「円先輩」が学校に提出する課題(人物クロッキー)のモデルを命じられているのだった。


でも何で、ヨガのポーズ? (注、ネコのポーズの項垂れ姿勢、、)



涼子:「この、首から肩にかけての筋肉の陰影が、何ともソソッテ堪らないのよ。…」

宗次朗:「だから先輩、そこ擽ったいですって。」



シャカシャカと、スケッチブックに鉛筆を走らせる音だけが、二人きりの時間を支配する、


時々「円先輩」は俺に近づいて来て、肩甲骨の凹凸を、手触りでチェックしたりする、

俺は、部屋中に沈殿した「円先輩」の匂いに溺れながら、無自覚に股間が大変な事になっているのを、さっきから必死に誤魔化し続けている。



涼子:「え、…」


涼子:「やだ、…宗ちゃんったら、…こんなに、ビンビンに立たせて、…」

宗次朗:「ひっ?…」


涼子:「チクビ!」


悪戯な「幻のアイドル」が、無邪気に、俺の胸の二つのぽっちりを、…摘まみあげル!!!



宗次朗:「「先輩ぃぃい!!」」


流石に俺も耐えきれず、ダンゴ虫の様に丸まって、床に転がって、…縮こまる!



涼子:「ゴメン、ゴメン、…寒かった?」

宗次朗:「イヤ寒クハ無イデスケドソウイウ問題以前ニ今ノハ容赦シカネマス。」



涼子:「一寸、休憩しよっか。」


そうは言われても、俺は直ぐに起き上がれない訳で、まるでふてくされた猫みたいに、そっぽ向いて転がった侭で、固まってしまう。



宗次朗:「先輩って、画家を目指してるんですか?」

涼子:「うーん、どうかなぁ、…何だか「これ!」って、やりたい事が見つからなくってね。」


涼子:「海外に行ってミタイんだ。もっと、違う価値観とか、世界を知りたいの。…今は、その下積み勉強中、かな。」



「円先輩」は、元々は芸能界を目指していた筈なのだ、でも「それ」に触れるのは、何だかイケナイ事の様な気がして、俺は再び、口籠る。







お昼、先輩のお母さんが用意してくれた「鍋焼きうどん」を食べながら、「円先輩」が、封筒に入ったモデル料を渡してくれる。



涼子:「これ、少ないけど、バイト代。」

宗次朗:「良いんですか? こんなのもらっちゃって?」


涼子:「お蔭で課題も仕上がったし、もし良かったら、またお願いしても良いかな?」

宗次朗:「いや、恥ずかしすぎるんで、今回きりって事で、…」



涼子:「ねえ、午後から、何か予定あるの?」

宗次朗:「はあ、受験生向けの学校説明会なんで、市民センターへ行きます。 俺、一応「写真係」なんで。」


涼子:「そっかぁ、懐かしい~、ねえ、私も行っちゃ駄目かな?」


勿論参加は自由だが、学校には、「事件」を起こした「円先輩」の事を、良く思っていない者だって少なくない。 面白半分興味半分で「先輩」の事を「晒し者」にしようって思う輩も、居ないとは限らない。


そんな所へわざわざ出かけて行って、「円先輩」自身が辛くなったり、しないのだろうか?



宗次朗:「別に、駄目って事は、無いですけど、……」


言葉の選択に戸惑う俺の、一寸困った表情に、「円先輩」は、苦笑いする。



涼子:「そっか、心配してくれてるんだ。」

涼子:「…優しいね。」


何だか、熱を帯びた眼差しで、「円先輩」が俺の事を、上目使いして、



涼子:「じゃあ、変装して行こうかな、…」



確かに、何時までも逃げ隠れしている訳にはいかない訳で、だからこそ「先輩」も、新しい学校で新しい事に挑戦しようとしているのだろう。 それなのにそんな決意を、俺なんかの「無思慮な同情」で挫けさせる事の方が、百万倍 性質たちが悪い。



涼子:「一緒に、宗ちゃんに付いて行っても、…良い?」

宗次朗:「俺なんかで良ければ、…全然、構わないですよ。」


涼子:「えへへ、…」


一寸、照れた風に頬を赤めながら、満面の笑みで微笑む「先輩」を見ていると、…


何故だろう? 3つも年上の筈の女性が、とてつもなく可愛くて、無性に護ってあげたくなるのは、一体、…何故なんだろう?

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