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(ロージーのこと、なるべく言ってた筈なのに……どうして。)


 突然の追及で。自分が、ジェンの関心を……ロージーとの間でから引き離したかったから、冷たく言っていたのだと――しかも、をまんまとジェンに見抜かれていたと――否応なしに気づかされて、僕は。ひどく動揺して、目の前で起きている奇妙な……に気づくのが、かなり遅れてしまった。


(あれっ……?)


 このときジェンは、眼鏡をしていなかったので。僕を追及する両目のキラキラが、いつもの五割増しなのは不思議じゃない……とは思ったけど。やけに眩しい原因はだけじゃあなくて、後ろで纏めて(見かけの)ボリュームが減ってる筈の。非常に細い、灰緑色の――いつもならふわふわして特に意識に上らない、今も綺麗に揃いきれていない――であって。その各々が、少しずつズレたでギラギラと輝き。それらが反射している―――光源となりうるものを探しても、ひどく弱々しいガレージの照明しか見当たらない……と気付いて。改めて彼女のほうを見て、その顔から首にかけて――あるいは手首から指先にかけて――露出している肌が、白無地のシャツよりも明るくみえるのに仰天した。


(な、なんだこれ?)


 しかし。思わず目をこするリアクション、許されていなかった。いま彼女の示している疑問……「どうしてかしら?」へ回答することが最優先だと、このは命じている。答えなければならない――


「ロージーは、UAが起きたときの基本対処を。僕に教え込んでくれたんです。」

「オーバーランの対処法?……フロアマットとかの?」

「原因によらず、です。」


 気恥ずかしさはあったものの、では。あの夜、シェヴラテインを運転して。彼女ロージーを州都の裁判所まで迎えに行き、その帰りの車内で起きたことが……詳細に至るまで整えられ、口からスルスル出ていくのは止められず。

 ただ、意外なことに。「一方的に手を握られる」とか格好の材料が俎板cutting boardの上に出てきても、ジェンは穏やかに頷き発光するだけで。一切ことをしなかった。


「シフトレバーをニュートラル位置に入れなさい――か。それなら確かに……どの原因で起きても。どんな場合でも、通用するわね。」

「本当に。どの州でも運転教習で教えるべきだ……と思います。」

「それは、として?」

「ええ。」

「ウォレスのこと……彼女は予想していたと思う?」

「さあ、どうでしょう。」


 頭を冷して考えれば、あのときロージーは疲労困憊していて。ウォレスの……身勝手な社長の意向に沿いすぎた設計も、乗り慣れないそれを運転する僕の技量も。多分、信用していなかったのだろうが。自分とて、第二にたどり着くまで目を覚ましていられる自信もなかったとすれば。


「おそらく。どんな車でもがあると思っていて、いちばん重要な対処法を念押ししてくれたんだと。」

「じっさい、そのウォレスはだったの?」

「ノヴァル車より危険だと思います。」

「なぜ?」


 そこで僕は、シェヴラテインで隣州への運転中に起きたUA事象と、バーキン氏のワゴンの介入のおかげで生還した後に、ハバリさんから「WiFiで攻撃していた」と告白されたこと。シェヴラテインの設計について以前ビルが話していたことや、ボスから聞いたことを総合して。僕が抱いた疑念――シェヴラテインのECMにはメインCPUの死活監視はあっても、ブレーキエコー・チェックは実装されていないのでは?――を、すべて説明した。

 その間、ジェンは。(たいへん珍しいことに)いっさい口を差し挟まず、僕を喋るがままにさせていたが。最後まで聞いた後に。


「そう。やはり……のね。」


 こう呟いて、僕を驚かせた。

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