6F
「かなり久しぶりだね、君とは。」
「ええと、ハートさん……ですよね?」
笑顔で軽く頷かれたその方は、
「もっと奥に行こう。」
それで僕たちは、キッチンまで退いて。かつて冷蔵庫があったあたりから、居室を介して通りのほうを眺めた。天井の照明が全て外されていて、洞窟の奥のような暗さが。かつては窓があった開口部の手前までおよんでおり。逆光に舞い上がる塵芥は、だんだん収まりつつあったので。僕は、次に起こることを嫌でも想像してしまって。こう囁いた。
「ここは、裏口がありません。ガレージの横からパーキングに出ても、向かいから丸見えです。もし、下まで降りてきたら……」
ハートさんは人差し指をご自身の唇にあてた。よく判っているよ……という感じだ。それで僕は、この方が。かなり前からここに詰めていて、先ほどの三人はもちろん、射撃者からも。
「……レイモンドォ!」
行きかう車の音を切り裂いて、はっきり名指しする憤怒の叫び……を、もろに浴びてしまい。血の気は引き、全身が震え上がった。ここの向かいの建物は、古くからの
「マットローッ!!その中だと判ってるぞ!」
かなり年配の男性が。狙撃銃(?)を構え、声を枯らして叫ぶのにも打って付けである……とは、思いもしなかった。近隣の店舗……少なくとも、お隣のアウトドアショップ「プリズモダール」は営業している筈だが。明瞭に銃声が轟いたわけでもないから。店内からでは察知できなくても無理はない。この街道自体、行きかう車は多いのだが。わざわざ歩くような人は、誰も……。
「誰の邪魔も入らん! すべてを話せ!」
えっ?
「十三年前のことからだ! さもなければ……」
十三年前……?……といえば、あの。
「……先ほどのようになるぞ!この銃で、同じようにな!!」
ハイスクールの乱射事件……だとすれば、この声の主は……生き残りか。いや。いくら何でも、こんな高齢ではない筈だ。そうすると、生き残れなかった側の――
「ここに掛けろ!!」
大声と同時に、
「やめなさい、君の番号を知られるよ。」
デイバックから取り出した携帯で。キー操作を始めたら、ハートさんに耳打ちされた。
「あそこは……二階がないから、一階まで降りるしかない。そうすると、車が邪魔になって撃ちにくい。」
なるほど。少なくとも店舗の側は、天井が高いから……か。シャッターの上は、三階なんだ。
とはいえ、ずっとここに居るわけにもいかないし。あちらが一人とは限らない……とも思ったが。ハートさんは意外なことを言い出した。
「すぐ警察が来る。もっとも、それに及ばんかもだが。」
え? それは一体……と。
思ったのと、ほぼ同時であった。
「何だ?お前は……どこから……よせ!!」
驚きに染まった大声が、迫る何かに掻き消され。獣が暴れるような振動と、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。