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「このボタンで、非常の際に
「よりにもよって『再起動』よ?」
「ねぇ。」
ロージーとジェンの声援(?)も受けて、ビルは繰り返した。
「本当に、何てことを……マット。そんなこと、あるわけないだろ?」
「い、い……言ってません!!」
少し前とは打って変わって、ビルの表情は余裕に満ちていた。たぶん、脳内の地球では……(人々がクルマを軽んじた故の)滅亡から回復して、(これからクルマの良さを知るであろう)新人類が誕生しているのだ。
そして、僕を諭すような口調で――
「そういう危険からのリカバーにしか効かない装備はね。まず
「……は?」
ジェンとロージーが、微妙にずっこけた。(そういうことじゃないでしょぉ……)という声が聞こえてきそうだったが、僕にとってはチャンスでしかない。
「そうなんですか。どうして?」
「いいかい、『それが無ければ危険である』なんて話になったらどうする?」
「まだつけてない車が売れなくなる?……あれ、違うんですね。」
「売れなくなるだけ――ならまだいいんだけどね。」
「はあ。というと?」
僕は。雰囲気を窺いながら、まあこれなら無難だろう……と想像したことを言ったのだが。全員の顔にタメイキというか失笑のようなものが浮かぶのを見て(まーた、いつものパターンか)と観念しながら、ビルを促していた。しかし――
「さあ、そのこたえは。ロージー?」
「そういう機能がメーカー側で装備可能になった日……それ以降に設計した非装着車が、ぜんぶ訴訟リスクを抱えることになるからよ。」
「そう。安全弁護士からは、『顧客クレームで危険性を認識していて、リカバーできる機能を合理的な費用で装備できたのに、ノヴァルはそれを怠っていたのです!』……って、そう言われるでしょうね。」
(ピザを頬張るほうに復帰した)ビルに替わって、ロージーが答えた説明に。被せたジェンの(
『もっと合理的な手段が、
これは僕の想像だが。パストーラのハイブリッドECUのソフトウェアが、バイエル氏曰く「適切な設計」だったというのは、当時でも珍しい、最先端のことだったのではないだろうか。
そう考えると、ビルの言うことも理解はできる。当局の命令で一斉に装備することにすれば、メーカー側では必要ないと考えていたことが立証できる――というのだろう。
理解できるのだが、座り心地というか……居心地の悪い感じになってしまうのだ。折角、メーカー側で「よかれ」と思ってつけた新装備なり新機構なりが。訴訟になれば、未装備の車種を攻撃する材料にされてしまう……ことが。
何ともまあ、一体どうしたものだろうか。
パストーラの設計についていえば。エンジンに加えて、電気モーターを装備するうえで、「ハイブリッドECU」とやらは必須の装備であるだろうし。少なくとも当時は追随するメーカーもなく、ノヴァルの独壇場であったから。「これくらいでいいだろう」という相場観も、比較対象も無い中で。適切に、お金をかけた設計をしたのだろうと思う。
そしておそらく、パストーラの中では。この「まともな設計の」ハイブリッドECUの働きによって、「ありえない設計の」
そうしてバイエル証人の「お墨付き」を得たパストーラは……同じ年式ではないが、ボスも乗っている。一方、ジェンのSUV:リワンゴDは旧世紀の設計で、そもそも電子スロットルではないようだ。
そして。ビルご自慢のマッスル・カー:マンファリは、バイエル証言で「欠陥を警告」されている丁度その世代のあたりだが。特製のV12エンジンでありECMに同じ系統のソフトウェアを採用しているか怪しいし、また採用してるとしてもマニュアル・シフトなので。クラッチ・ペダルを踏めばエンジン出力を遮断できる筈である。
――あれ? もしかして。
ここに詰めてたD&D勢のローヤー全員が、原告側の訴えるような問題がない車種に乗ってるんじゃ? 偶然だろうか。しかし、えー……?
「急に黙っちゃって、なに考えてるの? 言いたいことがあるなら、言いなさい。」
「皆さんの……」
まで言いかけて、ピタリと硬直した。おいおい……いったい自分は、いま何を?
「皆さんの……何?」
「……
ふたたび。ジェンに促されて自然に硬直が解けそうになり、そこで事態に驚愕した。
(う。うぁ…………あ……あッぶねー!!危うく頭の中をスラスラッと口走るとこだったよ。なんだ今の!?)
ジェンの視線を浴びて、冷や汗が背中を伝って落ちていくのを感じつつ。頭の中では、ここで言うための、何か別のことを必死に探しまくって。
それで、ようやく思いついて。
「
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