CAME OUT でたわね。
26
「機密の見張番」である
ジェンはパーキングで堂々とサボり倒し、ロージーも僕と二人っきりで手持ち無沙汰にしている……という、今のこの状況が嘘のようで。
徐々にクール・ダウンしていった、というのでは勿論無くて。あの後すぐ、ここを沸き立たせていた「
窓の外を眺めながら、「その時」の記憶へ。ぼんやり旅立とうとしていた思考が、不意に中断したのは。
「出たわね。」
ロージーが、ポツっと口に出したから。丸椅子のうえで振り返ってみたけど、彼女はこっちを見もしない。
「何がです?」
「……。」
これはマットロウ
(何だろう?……裁判所のシステムが復旧したとか?)
僕のほうの端末から
(通知じゃなくて、新着掲示の方かな……おっ?)
NLSCの「受信メッセージ・一覧」からエントランス画面に戻ると、「What's New」と銘打った枠内に。真新しいリンクが上がっていた。
(ここのリンクって、誰が載せるんだろ?……ええと。『
コムズカシイことばが、そのまんま口に出てきそうになって思わず
いったい、どこへ「リンク」されているのか……マウス・カーソルをそろりと重ねてアドレスを窺うと、ドメイン名に「
おっと、これは確か……。
――でも、そんなふうに流していても。2008年以降、一連の「意図せざる加速」苦情対応でノヴァルが。キャブラの欠陥を知っていながら
しかし、僕が目を凝らして探していたのは、そうした「処分」のことではなく――
「一番下、訴状のpdfもあるわ。」
突然、声を掛けられて驚いた。いつの間にかすぐ背後に、ロージーが立っていたのだ。ひどく静かに、しかし訝し気に。こちらを探るような目で――
「何を確認したいのか知らないけど。ずいぶん詳しくなったようね?」
「ええ、いけませんか?」
突っ込んでくるロージーに、自分でも驚くほど。まともに反応してしまった。
「だって、貴方から『どう?読んでみたら』って、そう言ったんですよ?」
「……わたしが?」
思わぬ反撃だ……とでもいうかのように。彼女の戸惑いが、眉間の歪みとなって現れていた。本当に整った
*******************
それは。当所を炙る「
(こっちから掛けてみるか?)
そう思った瞬間、ボスのスマートフォンから着信した。
それで伝えられたのは、ここから出撃したD&Dのローヤー勢は……タイツォータ側で用意した会場で、ノヴァルの役員たちと話すことになったが。ファーレル主任の求めで、ここから持ち出した文書類や機材類は「戻す」必要があるので、ロージーに託したい――とのことだった。
要は、「いったん施錠して、裁判所までロージーを迎えに来てほしい。ロージーが持ち帰った文書等を確認したら、帰宅してかまわない。」ということだ。
D&Dの本部から来たローヤーたちも、機材や文書を抱えていたが。こちらはファーレル主任が専用車両で管理しているので、出張所から出た分は「主任以外の誰か」が戻さなければならなくなった……と。なるほど。
「でも。今、パーキングに残っているのは一台だけ……
『ウォレスがある。こないだ触ってたし、キーも預かってるな?』
「あー、シェヴラですか……確かに。」
『二人乗りのウォレスでも、後ろに載るぐらいの荷物だから。』
――で、このとき初めてシェヴラを運転したのだが、急いでナビゲーションに登録するのが大変だったこと位しか――思い出せない。キーファー証人は(何故か)ナビゲーションを使ってなかったようなので。
幸い、道は空いており。思ったほどかからずに、裁判所のエントランスで待っていたローザ・ユーグランディーナ(+α)を迎えることができた。
シェヴラテインの
「まだ終わらないんですか。」
「この
「ええと、そうじゃなくて……」
「これのこと?……こないだの証人尋問の、終わったのを見てるだけ。」
「
「そう。今日の
何故か、そのとき僕は。肝心の『陪審評決の結果』を聞かなかった。
ロージーもそれには触れず、車を裁判所から出した後も。証人尋問のほうを読んでいた。
「誰の証言なんです……?」
「
「はあ。」
赤信号で停めたので、彼女の見ているページを眺めてみた。ええと何か、全く知らないひと達の
「?……うちの事件、
「この方達は原告じゃなくて、
「?」
「改めて読むと、ずいぶん冷静な人もいるのね。」
「冷静……どういう風にですか?」
ロージーの答えはなかった。
シフトレバーを握る僕の右手を覆い、少しだけ「前へ」と促す。前触れのない、まったくの自然な動きに、僕は反応できなかった。
もう、ただ驚いて。動揺している間に、ひんやりした感触は当たり前のように、すっと消えた。
「こうやって
「は、はあ……。」
僕は。突然の
「どう、読んでみる? ……もう、機密じゃあないから。」
そう呟いた直後には。
瞼は閉じ、掌も垂れて……「書類」が膝へと滑り落ちていった。
************************************
だから。ロージーが僕に「読め」と言って「書類」を渡したことを覚えていなくても、何ら不思議はない。
シェヴラがここに到着して、彼女が目を覚ましたときも。「書類」が手元にないのに、探そうとしなかったから。あのときの、乗車中のことは……全く、覚えていないのだろう。
そして。
持ち帰って「書類」を読んでしまった、僕のほうは……。
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