第31話 寒い夜だから・・・③
武村は刈ってきた枯草の塊を掩体にバラバラと万遍なく撒く。こうする事で上空からの偵察でも偽装効果を発揮して見つけられにくくする、という効果がある。
「まぁ、こんなもんでいっか」
久々の土木作業で酷使した身体を労う様に腰のあたりをポンポンと叩く。作業中は外していた装着セット(サスペンダー・弾帯・エンピ・水筒・弾嚢×2)を着装し、小銃を手に取った所で小隊長(富士野曹長)が草むらからヌッと現れた。
「お~武村、穴は掘れたか」
「はい、富士野曹長。こんなもんでどーっすかね?」
「うーん、お前穴入って構えてみろ」
了解、と武村は掩体の中に降りて警戒方向に
「右限界は・・2時の方向にある赤白の鉄塔。左限界は10時の方向の先に交わる演習道の交点です」
「よし、じゃあ敵がどこまで迫ったら射つ?」
「えーっと・・、ここから概ね150メートル先にある
「それでよし。状況に入ったらここに無線を置くから、敵を発見したら報告の後に射撃開始。のらりくらり歩く敵は圧倒撃滅せよ!」
「了解!」
武村は小隊長から「他の陣地でも手伝ってこい」と言われ、平本のいる所まで歩く。銃口を下に向け、【吊れ
「おーい、手伝いに来たぞ」
「武村士長、もう終わったんすか?」
「あぁ、もう小隊長の点検を受けてオッケーもらった。小隊長に『他を手伝え』って言われたから来た」
「そうなんすね」と言って平本は穴から出る。
「さっき、ツル借りたじゃないっすか?あれから自分過酷だったんすよ」
額の汗を拭い、ウンザリな顔をしながら
「過酷って?」
「いやもう、土が凍ってるとかじゃなくてデッカイ石がゴロッゴロ出てくるんすよ!初めの50センチくらいはツルでイケたんすけど、途中からツルが刺さんなくて。何だろう?って思ってエンピでカリカリ土を掻いたらコブシ
はぁ、と大きくため息をし、今度はヤケ気味にゴクゴクと飲む平本。見ると穴から少し離れた所に石が一塊の山みたいに積まれていた。
「そりゃ災難だったな。まぁ、よくある事だけどね」
「そうなんすか?」
キョトン顔をする平本。
「あぁ。防御陣地の選定って、大体同じような場所になるんだよ。だから多少前後する事はあっても、大きくズレる事はあまりないな」
「ふーん。でも、それと石が発掘されるのと関係があるんです?」
「うん、毎回同じ場所を掘り返してると、だんだん土が少なくなってくるんだよ。ほら、
「はい」
「で、状況が終わって掘った掩体を埋め戻すんだけど、土が足らなくてそこだけベッコリ凹んでたら、どうなる?」
「・・班長に怒られます」
「だろ?『来た時よりも美しく』だからな。だから、その辺に転がってる石や、掘り起こしてしまった大きな石なんかをドカドカ穴にぶち込んで【かさ増し】するんだよ」
「えええぇぇぇ~~!!」
リアクション芸人のような驚き方をする平本が、武村は可笑しく思えた。
「なんすかそれ!?めっちゃ手抜きじゃないっすか!てか自分巻き添えじゃねっすか!」
知らんがな。
「まぁ、通常は大きい石は埋め戻してはならないって事になってるけどな」
「そう!そうっすよ!自分も新教でそう教わったっす!」
「だな。だが、それを忘れた・・若しくは確信犯がこういう事をしでかすと。
そして・・」
「自分みたいなヤツが引っかかるんすねぇ!!は・ら・た・つ~~!!」
平本はエンピの刃を土に突き刺して怒りを発散させる。
外れクジを引いた平本には申し訳ないが、実はそういう石を多く発掘しそうな場合は掘る場所を変えても良い事になっている。主射撃方向が大きくズレない限りは分隊長に示された場所であっても変更して良いのだ。
口に手を当て、笑いをかみ殺しながら「お前、場所を変えようと思わなかったの?」と意地悪く聞く武村。
「え?何いってんすか。分隊長に『ここ!』って言われたんだから、そこ掘るしかねーでしょう」
「そ、そっかぁ」
やばい、噴きそう。
「でも、こんなに大量でキツかったろう?」
「キツいなんてもんじゃなかったっすよ。途中で心が折れそうになるし、頭来てぶん投げた石が脇に置いといた銃に当たって倒しちゃうし、たまったもんじゃなかったっすよ!」
プンプン怒ってる平本とは対照的にに、武村は後ろを向いて大量の石に困り果てる平本を想像しては笑いを堪えていた。
場所を変更しても良い件についてはもう少し黙っておこう。
「大変だったな。あとは私も手伝うから、チャチャっと終わらせちゃおう。で、
天幕戻ったらラーメンでも食って温まろうぜ」
「武村士長、コンロと鍋も持ってきたんすか?」
「あぁ」
「おっしゃぁ!今夜はラーメンパーティーっすね!」
・・・立ち直りの早い奴。
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