第122話 昏睡人形のための夜想曲 #5
朝起きると、私はセミになっていた。季節外れの冬だというのに。私は寒空の下で、仲間もなく、乾燥した樹木へとしがみついている。もし私が体温を感じることが出来たなら、きっと私は寒さで震えていただろう。土の中で眠って過ごしていれば、きっと無事にこの冬を越せただろう。本来ならば、きっとそうなるはずだったろう。だけれど私はそうでなく、冬の寒空の下で、ひとりぼっちで、冷たい風の中、樹木にはりつき鳴いている。もし夏ならば、誰一人として気に留めず、あるいは風物詩として見過ごすだろう。だけれど、今は冬なので、セミがいるには寒すぎる。セミが鳴くには静か過ぎる。人々は、私を見ては、顔をしかめて去っていく。私は思う。私とて、冬に鳴きたいわけじゃない。
私はきっと、七日もたたずに死ぬだろう。今は冬で、私は季節外れのセミだから。孤独でなく、生物学的限界でなく、ただ、私がここに居るべきでないゆえに。ただ、私の季節でないゆえに。
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