第120話 昏睡人形のための夜想曲 #3

目醒めると、私は一本の大樹だった。見渡す限りの平原で、樹上には青空が広がるばかり。この土地には、私の他には何もなかった。雲一つない空だったので、雲くらい、あればいいのにと私は思った。すると遠くから雲が流れてきて、空に変化をもたらした。鳥のさえずりも聞こえないので、渡り鳥でもいればいいなと私は思った。すると遠くから鳥が飛んできて、私の枝で羽を休めた。鳥たちは空に透き通る声で楽しそうに歌った。


地上に何もいなかったので、動物でもいれば賑やかになるだろうかと私は思った。するとどこからか動物たちがやってきた。動物たちは、私の影の下で眠り、気ままに過ごした。様々な種類の動物たちがいたけれど、争う事はしなかった。


ここでは、誰かを殺す必要がなかったので、私はただ、風に吹かれて枝を揺らした。ゆったりと流れる時間の中で、ただ、鳥や獣たちの歌声を聞いていた。


私は独りぼっちだったので、話し相手がいればいいなと私は思った。するとどこからか蛇がやってきて、私の枝の一つに巻き付いた。私は葉を揺らし、蛇はそれに応えた。私は話し相手ができたことが嬉しかった。私は蛇と話して過ごした。


私は話し相手を手に入れた。蛇はたくさんいたけれど、話せる蛇は一匹だけしかいなかった。蛇以外にも話し相手がいればいいなと私は思った。すると、どこからか二人の人間がやってきた。人間は、私に様々な事を要求した。私はそれに応えてやった。けれど彼らの要求はとどまることを知らず、無理難題を私に押し付けた。


私がそれに応えられなくなったとき、人間は、私を罵り、騒ぎ立てた。彼らはここが自分の世界だと主張して、鳥や動物を追いたてた。鳥のさえずりは消え、私のもとで気持ちよさそうに眠る動物は去り、どこかへ行ってしまったのだった。あとには二足歩行だけが取り柄の猿だけが残された。


鳥や獣たちが戻ってきてくれればいいのにと私は思った。だが、ひとたびここへ戻ってくると、人間たちに散々に追い散らされてしまうのだった。

私は嘆く。ああ、ここはもう、完璧からは程遠い。

いっそすべて消えてなくなってくれればいいのにと私は思った。

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