第113話 雨天

雨が降っている。土砂降りだ。僕は椅子に座って本を読んでいる。この雨は、僕が生まれたころからずっと降っていて、一度もやんだことがない。傍らのテレビが天気予報を告げる。明日も雨でしょう。知っているよ、そんな事。だって晴れた事なんかないんだから。


窓の外を見る。雨が降っている。降りしきる雨粒に遮られて、遠くを見通すことは出来ない。景色は黒に近い灰色。窓から目を離すが、辺り一帯の激しい雨音がガラスを通り抜け、雨は部屋中に満ちている。時折、遠くで雷が鳴る。昔は少し怖がって、体をこわばらせたものだったけど、今はもう慣れてしまった。本を読むのには邪魔だな、と思う程度だ。


天気予報からチャンネルを変える。雲一つない、水色に澄んだ空の映像が映し出される。これが晴れというやつなんだろうな、と僕は思う。僕は一度も青空というものを見たことがない。夕陽もそう。


雨の向こう側には、もしかしたら青空が広がっているのかもしれないけれど、先も見えない土砂降りを、僕は風邪もひかずに進めるかどうか、分からない。ぬかるみに足を取られやしないだろうか。転んで傘を壊してしまいやしないだろうか。玄関に、長靴と傘くらいは置いてある。出かけるべきだろうか。もしかしたら、今日は出かけるにはいい日かもしれない。相変わらずの雨だけど。前も見えない土砂降りだけど。


天気予報にチャンネルを戻す。明日は雨でしょう、と、相変わらず天気予報は告げていて、外では相変わらず、激しい雨が降っていた。

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