第104話 ロボット

私はロボットに改造されてしまった。徹底的に。何もかも。


ある夜、私が寝ていると、部屋に男たちが押し入り、私をさらった。私は訳も分からぬまま、抵抗することすらできずに連れ去られたのだった。私は意識を失い、次に起きた時には手術台の上に横たえられていた。体は拘束されていなかったが、麻酔でもかけられていたのか、指一本動かすことは出来ない。この白い部屋の天井には手術台を照らす明かりがあり、無機質な光で私を照らしていた。数人が、白衣に身を包み、私を取り囲んでいた。視界の外では、よく見えないが器具を用意しているのか小さな金属音が時折聞こえる。


しばらくのち、手術が始まった。器具の切っ先が私の肌を裂き、私を分解する。痛みは感じない。だけれど、わかる。私は血管の一本一本、神経の一本一本、血の一滴に至るまで抜き取られてゆくのがわかる。私はバラバラに分解されている。手足の感覚はないけれど、だけれど、わかるのだ。私は何もかも奪われている。白衣の集団たちは、抜き去った血管たちの代わりに、機械の部品を挿入する。そうして、私はロボットになった。私の肉体は、まだ傍らのトレイにそれぞれ乗せられたままだった。彼らは、それをゴミ箱へ捨てた。私は視界の端でそれを眺めていた。私の改造が済んだ後、彼らは私を家へと帰した。私に、家に帰るよう命令した。私はロボットだったので、それに従った。私には、それに逆らう権利がなかったから。


そして、私は家に帰った。私は何もかも失っていた。だけれど父も母も、血が通っていない私を、それでも愛すると言ってくれた。私はそれがつらかった。いっそ命令してくれればよかった。自分の肉体を取り戻してくるように、と。私はどうすればよいのか分からない。彼らの愛情に応える術をもっていなかったから。なぜなら私はロボットだったから。私はロボットにされてしまったから。


私はロボットだから、休みを知らない。疲れも知らない。

そして、幸せも、もちろん知らない。

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