第085話 宝石

洞窟の中を進んでゆく。弱々しくゆらめくランプの炎だけが頼りだ。洞窟の壁を、ほんの数歩程度の周囲だけだけれど、静かに照らしてくれていた。壁に埋まっている鉱石が光を反射する。近くへ寄り、砂を払った。それは小さな、宝石のかけらだった。手際よく削り出して先へ進んだ。。


ランプがすべてを照らしてくれる訳ではないが、進むべき道は分かっていた。洞窟の中は、染み出した水が滴る音や、鼠が走り去る音が時折する以外は、静寂が支配していた。その中に靴音が響いた。開けた場所では天井に蝙蝠たちがびっしりと集まり、いつ来るとも知らない夜明けを待って眠っていた。


やがて、目的の場所についた。壁には色とりどりの宝石が埋まり、ランプの光を受けて輝いていた。そのうちの、ひときわ大きい宝石があった。慎重に、傷つけないように気を付けながら掘り出した。吸い込まれるようなその光に、心奪われた。宝石の中には、誰かが夢見た世界が、そっくりそのまま閉じ込められている。だからこそ、その輝きに魅せられるのだ。

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