第042話 黄金の国

旅人は、ついに黄金の国に辿り着いた。海を越え、山を越え、遙かな旅路を越えて。その国は、確かに黄金の国だった。まばゆいばかりの煌きが、国中を満たしていた。


旅人は歓待を受け、黄金の国を案内された。人々の使う雑貨から、道端の石ころに至るまで金で出来ていた。黄金の木があり、実を付けると、それもまた美しい金色だった。旅人が食べると、えも言われぬ芳醇な甘みが口いっぱいに広がった。この国では、何もかもが美しく光り輝いていた。


一晩明けると、旅人の持ち物が黄金に輝いていた。軽い羽ペンも、金属特有の重みと冷たさを持ち、旅人の手の中で威厳のある光を放っていた。旅人は驚いて男に尋ねた。返ってきたのは、こんな言葉だった。


「ええ、そうですよ。この国に外から持ってきたものは、すべて黄金になるんです」こともなげに、当たり前の事のように語られた。旅人は道端に転がる金の石ころをかき集め、鞄に詰め始めた。それを傍らで見ていた別の男が笑いながら言う。


「だけど、無駄だよ。この国にあるものは、外に持ち出したら、すべて元に戻ってしまうからね。石ころがこの国で黄金に変わっても、持ち出したら元の石に戻ってしまうんだよ、旅人さん。その石ころも、ただの石ころさ」


旅人が次の旅を始めるため、黄金の国を去る日が来た。門を越えてしばらくしてから、旅人は拾っておいた石を取り出してみた。それは何の変哲もない、ただの石だった。ズボンのポケットにその石を入れて、少しの間もてあそんでいたが、いくらか歩いたところで、結局捨ててしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る