WAR  -詩篇-

『戦場』


涙が落ちるとき

あなたはいつもそこに居ない

約束なんてはじめから信じていない

信じられるのは自分だけだと知っているから


私の覚悟はいつも固い

死と隣り合わせの生しか 持ち合わせがないから

背後に隠した狂気が 私の痛みを教えてくれる


他者の弱みを利用して

勝ちを増していく今日も明日も

ただ息が出来るようにと願ったがために

私の全ては戦場に帰す


悲しみよ大地に伏せて

ただ死を待つことで静けさを得て

私の罪を沈黙の砦に囲って


恐怖は芳しい茨のように思考を研ぎ澄ます

この身は朽ちてもなお孤高を窮め

徒な回帰をよしとしない


私は何も持たずに

何も求めずに 戦いの中を彷徨い

愛がこの身を強くするのを感じている


最期こそは私らしくありたいと

腕を振り上げ叫んだのは

あなたの名前だったのだ


私を生かすあなたの名前

私を守る 私の大事な

“愛おしい人”



『こんな生を』


こんな生を

生きているなんて

昨日までは思いもせずに


終りを覚悟した

独りで死ぬ覚悟を


綴じていく景色の向こうに

生まれてきた場所があるように

死ぬ場所もあるんだと

ようやくわかったんだ


振り返りふりかえり

歩いてきた道のりに見合わないほど短く

この先が途切れるんだとしても


怖がらずに進めるように

だから大地は暖かいんだと

ようやく気付いたんだ


悲しくて 何度流した涙でさえ

辿りつけなかった悟りの淵には


腕の一本さえ無く 向こう側を向いている頭しかない


こちらから行くのではなく 迎えに来るのでもなく

既に終点に 自分が立っていると分かる


ちゃぷんと跳ねる影の なんと細やかな

ぬるま湯のようにも 氷水のようにも感じるその中に

浸りゆく感覚を


するりと身体を通り抜けてしまいそうな 不安を


どうか次の日を確かに生きるために

とっておこう


愛しているから 世界を 生を 

愛しているから 私たちを


愛しているから 

どうか 


この生を貫かせて



『THE WAR』


戦争は

都合のいいことばかりを並べていたら

すぐさまやって来る事象の一つで


みんながあんまり善人ぶっているから

長引く雨のようで


誰かが尻尾を出して それを掴まえる

底意地の悪いゲームに結実する


本当に戦争が残酷なのは

なにも瞳の濁ったサルを轢きころすからではなく


偶然によって選ばれた『ヒーロー』から

生死の境を奪うからだ


彼には死の安息がなく 生の罪深さまで剥ぎ取られ

まるで ハリボテのようなのに


それでも足りないとばかりに

今日も小さな復活の儀式サバトばれている


あらゆることの一部始終を見てきた私には 

正しさというのが 何なのかは分からない

だが少なくともそんな馬鹿げた戦争おあそびには

よくよく距離を取っていたいことだと思った




『THE BATTLE』


誰かが誰かを殺したら

誰かが誰かを憎まなくてはならない法理などなく


誰かが罪を犯したからと言って

誰かがそれを罰する道理もない


それが本当の世界だから

私たちはそうでないファンタジーに こだわり過ぎる


ただどうしたいかだけ

(HOW YOU WANT , OR WHAT YOU WANT?)

ただ どう生きたいかだけ

(WHY YOU LIVE, OR HOW YOU LIVE?)


そんなこと 他人の命の重さとは関係ない


世界が死んでも 自分が死んでも

そのことを嘆く人間がいなければ

僕はまるごと自由の風にのって

どこへともなく 消え去っていたのに


あらゆる価値と名のつく汚泥に 足を掬われて僕は

還るべき空を失いかけている


この中から僕は叫ぶ


永遠の闇よ! 僕の愛は ただ君だけを

愛して 僕を愛さない! この放浪の極まるところ

は それのみだからこそ

僕を空へ引き戻してほしいと!


空は何も言わず 透き通った笑みをたたえたまま

僕を覆い 沈めた


優しい愛撫に我を忘れて

あらゆる憎悪と渇望を吸い取ってくれるかのような


だから地上で僕は 

戦うことを選んだ


この小さな大地にヒトはごまんといるけれど

僕の心は 空の彼方へ繋がれた


さあ何も怖くない すべてを受け入れ

全てを飲み込む

世界は僕を知るだろう


自由を捧げた聖者たちの狂気の渦が

この大地を赤く染め上げるとき

君は歓喜の声をあげる


憐みや救いなど

何の価値も無いと!


僕たちは壊れやすくとも

壊れてしまえない君の玩具だ


世界に棄てられるまで 殺戮と破壊の糧に自身を捧げよと


僕は君の兵隊 

すべてを命じて すべてを奪ってみせて

枯れた叫喚も疎かにすることなく 復唱してみせて


この渦が鎮まるまで

しずまるまで…





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