第21話 お化け屋敷

「はあっ!?お化け屋敷?そんなのあんたらだけでいってよね」

「そういわずにさあ。これも莉音をメロメロバッキュンさせる作戦の一部なんだよお」

とねだるソラ。

 私の机におかれたソラの手にデコピンをする。

「だからなんなのよ。その作戦って⋯⋯」

「いったあい!莉音、ひどいよお⋯⋯」

 あと一日で夏休み。

 浮かれまくった学生は夏休みの計画をたてはじめる⋯⋯のだが⋯⋯家でゆっくりしたい私としてはしつこく遊びに誘 ってくるSUNNY'Sの面々がうっとうしくて仕方ない。

「ほら、僕達プールとか海とかは無理だからさ!だから、お化け屋敷にいこうよお」

と粘るソラ。

 そのとなりにはなにかを考え込んでいるナギくん。先ほどから一言も言葉を発しておらず不気味だ。「どうかしたの?」そう声をかけようとする。が⋯⋯

「行きましょうよ、莉音」

 その声のする方を見れば、腕を組んでニコリと微笑んでるともちゃんが(ともちゃんが微笑む=イケメンを仕留める時か誰かを始末する時)いた。

「え⋯⋯いや、でも⋯⋯」

と渋る私などお構いなしに

「いいから。行きましょう」

というともちゃん。

 ここで逆らってはいけないということを瞬時に察する私。

「あ、はい⋯⋯」

 そうして私は、ヤンキーによるフルボッコの刑を免れるため貴重なholidayを手放した⋯⋯。






「おーい、莉音ー!ここだよー!」

 集合場所である遊園地につくとソラがこちらに大きく手を振ってくる。

 ほかの方々はもうきていて、私が一番最後みたいだ。

 だからといって悪びれる気持ちはかけらもないのだが⋯⋯。

「おはよう⋯⋯」

 ソラ達のところにたどりつくと気だるげにそういう。

「じゃあ、全員そろったし行きましょ。」

 そういうともちゃんは気合いいれまくりなのがよくわかる。

 ふりふりのワンピースとか⋯⋯。

 私と遊ぶ時なんて常に上下スウェットだぞ、この人。

 よくみれば、元々綺麗なのにそこに軽いお化粧までしていていつもの倍綺麗に見える。

 これもまたイケメンハンターの技なのだろうか。

 恐るべし、イケメンハンター。






「⋯⋯で、ここがそのお化け屋敷?」

とたずねるヨウにソラが元気よく

「うん!そうだよ〜」

と答える。

 アイドル風情がいくともなれば、みんな豪華な都会って感じの遊園地を想像していたかもしれない。

 でも、私は人があまりいない遊園地を希望した(アイドルと一緒にいるなどファンから相当な妬みや嫉妬を受けるに決まってるからね⋯⋯。人は少ないほうがいい)


 つまり、この遊園地はその真逆なわけで。

 そこの一番人気のお化け屋敷なんてたかが知れているのである。

 しかしSUNNY'Sの面々はかなりの上機嫌だ。毎日仕事に忙しく遊ぶことなんて滅多にないからこんなところでも嬉しいのかもしれない。


「で、誰と誰が⋯⋯ペアになるんだ?」

 ネクのその一言が発せられた途端あたりの空気がピリピリし始めた気がする。

  ⋯⋯気のせい?⋯⋯。

「まあ、ここは公正にくじといこうよ」

 そういってソラが七本の割り箸をとりだす。

 なんでそんなものもってきてんのよ、と思いつつ面倒くさいのでパッとくじをひく。

「何番だっ!?」

という五人の異様な迫力に「一ですけど⋯⋯」と答える。

「一か⋯⋯」

 そういうSUNNY'Sの瞳は若干ギラついていた⋯⋯







「はあ⋯⋯なんであんたと⋯⋯」

「まあ、くじでそう決まったんだから仕方ないでしょ」

 そういってウインクをかますヨウに飛び蹴りをくらわせたくなるが、なんとかその気持ちを抑える。

 結局のところペア決めは、ともちゃん・ユータペア、私・ヨウペア、ナギ・ネクペア、そして最後にソラが行くことになった。

 厳正なるくじの結果ではあるがこのペア決めは色々と問題があるように思う。

「ちっ。なんでこいつと」

「んだと!俺だってお前みたいなヤンキー願いさ、いだだだだっ!!」

 ともちゃんに思い切り足を踏まれて悲鳴をあげるユータ。

 ⋯⋯かわいそうに。

「じゃあ、最初のペアどうぞー⋯⋯。」

 そういうソラは若干いじけてる。

 まあ、一人ぼっちなんて嫌だよね⋯⋯

「ほら、はやくいってはやく終わらせるわよ」

「ああ?お前なんかにいわれなくてもわかってんだよ」

 売り言葉に買い言葉で口喧嘩をしながらお化け屋敷に入っていくユータ・ともちゃんペア。

 大丈夫だろうか⋯⋯

 でも、今はそれより⋯⋯

「ソラ、私たちと」

「ちょっと待ったー」

 ソラに話しかけようとした私の目の前に飛び出してくるヨウ。

「邪魔。どけ」

 そういい、しっしっと手で払うふりをする。

「だってー、莉音ちゃん今ソラのこと誘いにいこうとしたでしょ」

「だから?」

「僕と莉音ちゃんの二人っきりがいいな」

 語尾にハートがつきそうな勢いでそういうヨウのうざさはハンパない。

 ぎゃああああああ⋯⋯

「え?⋯⋯」

 唐突にお化け屋敷から聞こえてきた悲鳴にぞっとする。悲鳴、というか断末魔に近いかもしれない。

「なに?あれ⋯⋯」

「悲鳴でしょ〜」

 ⋯⋯それは知っている。

 うぎゃあああ⋯⋯

「え⋯⋯」

 そんなに、怖いの?⋯⋯

 ともちゃんの悲鳴かユータの悲鳴かよくわからないけどこんなに悲鳴あげちゃうくらい怖いって⋯⋯

 それからも幾度となく悲鳴が聞こえ、私はソラを誘うのをすっかり忘れてしまっていた。

「お、おかえり」

 私がそう声をかける先にはボロボロになったユータと若干髪型が崩れているともちゃん。

「いってえ⋯⋯」

 そういって腕をさするユータ。 冗談抜きに本当に痛そう。

 あながち、ユータは怖さに耐えきれなくなったともちゃんのとばっちりをうけて断末魔のような悲鳴をあげていたのだろう。

 ともちゃん、ああみえてお化け関係はてんで無理だからな⋯⋯。

「お疲れ様、サルゴリ」

「うるせえ!お前⋯⋯」

「それより、はやく一緒にお化け屋敷いこうよ莉音ちゃん」

 そういって私とユータの間に割って入ってくるヨウ。

 私は大きくため息をつきつつ、嫌なことは早めに終わらせたほうがいいわよね、などと思いながら覚悟を決めた⋯⋯。





「ヴアアアア!!!」

 そんなダミ声⋯⋯もとい奇声で近寄ってくるゾンビ達。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 普通の女の子ってキャーっていうよね⋯⋯

「キャー」

「ちょっ、莉音ちゃん棒読みとかやめて!わざとらしくて僕泣いちゃう」

「はっ?あんたのためにいったんだけど」

 せっかく、ヨウのことを思って悲鳴をあげたというのにそのいいようはあんまりではないか。

 ヨウはうなだれて「は〜、知ってたけどさ〜。莉音ちゃん酷すぎー」

 めんどくさいなー、この人と思いつつ、なんとか進み、気づけばゴールしていた。

 案外短いものなのだな、と感心していた私だけどこのお化け屋敷、道がいくつかに別れているらしく、私とヨウは最短コースを進んでいたようだった。

 きっとともちゃんとユータは最長コースだったのだろう。

「莉音、おかえり〜。ヨウに変なことされなかった?」

とたずねてくるソラ。

 私はもうやけになってきていて、「変なことならいつもされてるし」と答えるとさっさと歩き出した。

 後ろでヨウを問い詰めるソラくんとそれにヘラヘラと返してるヨウの声、猿みたいに騒いでるユータ、それをとりとめるネクの声が聞こえる。

 あとは、ともちゃんにお任せして帰ろ⋯⋯

「帰んの?⋯⋯」

 唐突に手首をつかまれ、振り返る。

 ナギだ。

「へっ?まあ⋯⋯。」

 バレずに帰ろうとしたのだが⋯⋯。

「うちに」

「嫌ですー。私の家は私の家でちゃんとあるもん」

 ナギの声を遮りそういう。

 それに、れん兄が近くにいるしね♪

「あの⋯⋯さあ、いっといた方がいいかもしれないから伝えとくけど⋯⋯人魚って告白すると泡になって消えちゃうんだよ」

「え?⋯⋯」

 確かに、「人魚姫」でそんな描写があったかもしれない。

  ⋯⋯が、リアルでそんなことがありえな⋯⋯⋯⋯ありえるかも⋯⋯⋯⋯しれないな⋯⋯

 ナギの人魚姿をみたという事実がいつもファンタジックな出来事もリアルに起こるのだ、ということを証明する。

 ふと、そんなことを考えながらナギをみやる。


 夕日に照らされたナギのその表情は「切ない」という言葉がとても似合いだった。




〜ナギ〜

 人魚が消えずに想いを伝えられる方法、実はたった一つだけ知っているんだ。

 だけど、それを素直に教えてあげられる程ぼくはまだ莉音のこと諦めきれてないみたいだ。

「⋯⋯何考えてるのか知らないけど⋯⋯まず、私にそんな勇気ないし⋯⋯。でも、ありがとう」

 そういって無邪気に微笑む彼女が愛しくてたまらないんだけれど、その想いを形にすることなんて出来なくて僕はやるせない気持ちで微笑む。

「どういたしまして。みんなには僕から上手く伝えとくから」

 そう、答えておく。

「じゃあ」

 そういって去っていく莉音の背中を見つめながら胸の奥がジンジンと痛む。

 だって⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

 わかるよ、誰だって。

 あの瞳の色は恋をしている人の楽しそうで喜びに満ちていてでもどこか切ない、そんなものだから⋯⋯。

 そんな瞳みせられたらもう、どうすればいいのなわからなくなる。

「ナギ〜、どうしたの?」

「ん?ああ、ソラ⋯⋯。なんでもないよ」

 そういって瞳に少し溜まっていたものを服の袖口で必死に拭う。

「ナギ⋯⋯泣いてたの?大丈夫?」

 どこで買ってきたのかソフトクリームを手にしていたソラはその片方を僕に手渡す。

「季節限定のフルーツソーダ味だよ。これで元気だしてね」

 そういってフワリと微笑む幼なじみにどこかホッとする。

 それと同時にどこかワクワクとした気持ちになってくる。

 この際、遊んで忘れてしまおう。

「あれ?莉音ちゃんは?」

 そう訪ねてくるソラにさらりと「帰ったよ」と答えた僕は、うなだれるソラの横をすりぬけみんなの元にいく。

「おお、ナギ。旨そうなのもってんな!一口くれよ」

というユータ。ちなみにユータの一口は全部である。

 ぼくはそれを無視し、みんなにある提案をする。

「もうこの際だからさ、この遊園地内にある乗り物全部乗っちゃおうよ!」

 僕のその言葉に固まるみんな。

 僕が普段からみんなにあわせてて自分から意見をいったりしないからだろう。

「楽しそうだな、いいぞ」

 そういってくれたのはネク。

 ネクはお父さんのような包容力を持っていてこんな時などすごく心強い。

 それに続いてほかのみんなも賛成してくれた。

 莉音が目立たないところがいい!といったためにここは乗り物の数もすくないしょぼくれた遊園地だが⋯⋯。

「じゃあ、あれに乗りましょ」

 そういうともちゃんの指さす先には今にも壊れてしまいそうなジェットコースター。

「え⋯⋯あれ?⋯⋯。僕、命の危険を感じるんですけど⋯⋯」

というヨウ。

「いいからいくわよ」

 そういって有無を言わさずに歩き出すともちゃん。と、うなだれるSUNNY'S一行(僕を除く)

 うん。ここの遊園地、中々楽しそうだ。僕は、文句をいいつつ歩き出すみんなの背をながめ、そっと微笑んだ⋯⋯。




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