第0話 ひとくいマンイーター 16

 自称、愛と正義の魔法少女、沢城恵は広域連続殺人犯チ十三号を独自の調査で突き止め、犯行現場を押さえるところまで行ったものの、そこで恐怖に負け、戦うことすらできずに殺された。そこまでは分かった。まあいい。

 それで、わたしは一体なにをどうしようとしているのか。

 わたしは頭の中にあるデフォ子の位置情報の場所へと真っ直ぐに向かいながら、自問している。

 沢城恵は殺された。しかし、それが一体どうしたというのか。沢城恵はわたしにとっては、ベイルアウトして一時避難のために現地徴用した緊急用の物理ボディでしかない。完全に赤の他人だ。

 考えもまとまらないうちにデフォ子を見つけてしまう。行き交う人ごみの向こう。デフォ子はひとりで、スタバのカップを持って軽くガードレールに寄りかかりながら、スマホを操作している。

 なるほどな、と、わたしは思う。アレは完全に狩りの体勢だ。全然目を引く容姿ではないのに、ついつい目がそちらに向いてしまう。気になってしまう。鬼の特性であるフェロモンを発散しているのだ。それに引き寄せられてきた哀れな個体を捕食する、熱帯の食虫植物と同じ戦略である。

 見ている間に、男がひとり、デフォ子に近づいてなにか声を掛けている。デフォ子はスマホの画面から顔を上げて、曖昧な笑顔を浮かべる。ふたりはしばらく、そこで立ったまま言葉を交わしている。その様子はとても自然で、傍から見ているぶんには親しいふたりが会話をしているようにしか見えない。

 話がまとまったらしい。ふたりは連れ立って移動をする。男のほうが少しだけ前を歩き、先導するかたち。わたしは距離を保ったままふたりを追跡する。

 わたしは一体、なにをどうしようとしているのか。

 人食い鬼が誰を食おうが、そんなことはわたしの知ったことではない。人食い鬼は元より人を食う存在として世界に在るのだ。それは世界の仕様のうちである。

 しかし、沢城恵はきっとそれを許さないのだろう。

 「この人間のフリをして生きていろ、というのがプログラムの指示だものね」

 わたしは、わたし自身に対して言い訳の言葉を並べる。

 「いまは沢城恵として生きているんだもの。沢城恵として自然な行動を取るべきだわ」

 ふたりは人気のない路地裏に入っていく。まだ時間も早く、路地裏とはいえ繁華街のただ中でもあるのに、気が付けばいつの間にか周囲には人影がない。先導して歩いていた男が地下に降りる階段の入り口を指し示し、デフォ子は一度、不満そうなリアクションを返したものの、なんらかのやり取りがあって結局ふたりはその階段を降りていく。

 ふたりの姿が完全に見えなくなってから、わたしは階段の入り口まで駆け寄る。元はバーかなにかが入っていたのだろう。今は廃業して空きテナントになっているようだ。

 狭く、そして暗い。

 心臓が高鳴っている。

 嫌な予感。言いようのない不安感と気味の悪さを階段の奥の暗がりに感じる。

 これは恐怖だ。

 「愛と正義の魔法少女でしょ」

 わたしは勇気を奮い立たせて、恐怖を押しのける。

 制服のジャケットの内側に手を突っ込めば、そこには固く冷たい感触。

 マジカルベレッタM84。

 わたしは拳銃を抜いて構え、狭く暗い階段を静かに静かに降りていく。

 突き当りにあった扉に背をつけ、中の物音に耳を澄ませる。

 静かだ。中の様子はなにも伺い知ることができない。

 覚悟を決める。心の中でカウントをする。

 3……2……。

 突入する。

 「動くな!」

 素早くマジカルベレッタをデフォ子のほうに向ける。デフォ子は呆けたような顔をしている。鬼に魅せられた哀れな男は中途半端な距離で突っ立っている。わたしはデフォ子から視線を外さないまま間に割って入り、男を背中側に庇うように陣取る。

 「魔法少女じゃん。どうしたの?」

 デフォ子は拳銃を向けられてもなお、慌てる様子も見せずに呑気にそんなことを聞いてくる。

 「今度こそ逃がさないわよ」

 わたしの口から出てくる威勢のよい言葉とは裏腹に、マジカルベレッタの照準は震えている。また、恐怖しているのか。

 「あ……でもさ」

 デフォ子がわたしの後ろのほうを指差してなにかを言おうとしたところで、わたしは頭に強い衝撃を受けて意識を失な

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