第0話 ひとくいマンイーター 15

 広域連続殺人犯チ十三号。

 警察は既に昨日の死体損壊遺棄事件を同一犯による連続殺人事件と断定。

 同一犯の犯行と断定されている殺人事件が過去に3件発生している。昨日の事件で4件目の犯行。断続的な連続殺人としては異例の連続記録更新であろう。

 一度に4人以上を殺す人間は別に珍しくない。立て続けに4人連続で殺すことも可能だろう。しかし、長期間断続的に4件の殺人を達成し、今なお、逮捕されるどころか容疑者の特定にすら至っていないというのは異例中の異例である。

 最初の事件は1年前。被害者は一人暮らしの20代のOL。住宅街の外れの送電塔のふもとで遺体が発見された。送電塔はフェンスで囲まれており、夜間に人が立ち入ることはまずないとは言え、付近には人家もあるし完全に目につかないというわけでもない。その上、被害者の現場と遺体には指紋や体液、皮膚片なども含む数々の物証が残されており、犯人の逮捕は容易と思われた。

 しかし、当初の想定に反して捜査は難航し、そのまま犯人が特定されることもなく、その二週間後に次の事件が発生する。被害者は小学生の男の子。通学路から一本脇道に入っただけの路地裏で遺体が発見された。この事件でも犯人は現場に数々の物証を残しており、第一の被害者と第二の被害者の間にはなんらの接点も見つけられないことから、警察は同一犯による連続無差別殺人事件と断定。当初、第一の事件において顔見知りの犯行の線で地道に交友関係などを洗っていた警察は、ここで大きく方針転換をすることになる。

 警察や各自治体によるパトロールの強化などもあってか、それから三カ月間は何事もなく過ぎたが、しかし、また次の事件が今度は隣県で発生する。現場は山中の廃ホテル。場所が場所なだけに遺体の発見が遅れ、正確な日時は特定されていない。被害者は40代の会社経営の男性。身長190センチを超える筋骨隆々の大漢である。ひ弱な女子供を狙う卑劣な犯行、というワイドショーで繰り返し報道される犯人像を嘲笑うかのようである。俺は誰でも殺せるぞ、と。

 この時期から、ワイドショーやゴシップ誌で推定される犯人像は、劇場型の愉快犯ではないかといった方針に転換。この手の犯罪者はどんどんエスカレートするものなので今後も犯行が続くであろうと不安を煽ったが、犯人は相当の天邪鬼なのか事件はここで一旦、ピタリと止まる。警察は有力な手がかりを多数手にしてもなお、容疑者の特定にすら至ることすらなかった。どのような悲惨な事件も続報がなければ徐々に人々の関心は薄れていくものだ。ここ最近は報道されることも少なくなり、時折、付近の住民が不安げに噂話をする程度になっていたようである。

 それが半年以上も経った昨夜になって、また突然の再開。被害者は20代の会社員男性。現場は取り壊し予定の廃ビルの一室である。この事件でも現場には数々の物証が残されており、そこから警察は同一犯の犯行と断定。

 いずれの事件においても、被害者の遺体が激しく損傷しているのが特徴である。爪を剥されていたり、指や四肢が切断されていたり。それらは司法解剖の結果、被害者がまだ生きているうちになされたことが判明している。つまり、拷問である。

 犯人は遺体を食っていたのではないか、という推定もある。


 わたしは沢城恵の勉強机の上にあった、いまだにウィンドウズビスタなダイナブックを開いて情報を検索する。

 犯行は極めて大胆、かつ杜撰、でありながら確定的な情報は皆無。ひとつには、殺す対象に一切のこだわりがなさそうであるのが大きな要因だろう。目についた殺せる対象を、殺せるタイミングで殺している。大胆で杜撰に見えても、状況が整わない限りは無理に殺しに行くということはしていないのだ。つまり、殺すことそのものが目的であって、殺す対象は誰でもよいということだろう。

 もっと言えば、おそらくは食べる対象は誰でもいいのだ。グルメじゃない。

 こういった犯行に、警察機関の従来的な捜査手法は極めて相性が悪い。動機や交友関係などから犯人を推定していくことが困難だからだ。それを、沢城恵は独自に調査していたということだろうか。そして、なにをどうやったのかは分からないが、単独で犯行現場を押さえることには成功したというわけだ。

 しかし、肝心のそこで恐怖に負けてしまった。

 人が人を食う現場を目撃して、その光景の凄惨さに耐えられなかったのだろう。

 恐怖した沢城恵は反転して逃走し、最終的に犯行現場である廃ビルの屋上から転落した。


 「エージェントコードKK1208ストリームワン」

 <確認しました。ご用件を>

 わたしは概念通話でオペレーターに繋ぐ。

 「このボディでイフリーテスの娘と接触したわ。同じ学校の生徒なの。把握できる?」

 <当該個体は把握しています>

 「現在地を捕捉できるかな」

 <可能ですが、いったいなんのために?>

 オペレーターは当然の疑問を呈する。

 <当該個体は以前からプログラムでも把握していますが、仕様の範囲内での活動しか認められず、プログラムの規定には抵触していません。たとえイフリーテスに対抗するためであっても、たとえば人質を取るなどの行為は倫理規定により認められていません>

 「そういうわけじゃあないわ。せっかく接点があるのだから、このボディに居るうちにちょっと探りを入れたいだけ。うまくいけば、ロストしたエクスカリバーも回収できるかもしれない」

 わたしは適当に口から出まかせを言う。

 <承知しました。データを転送します>

 わたしの頭の中に、概念通話を通じてデフォ子の位置情報が直接に伝達される。

 <あと数日でボディの転移の準備が整います。それまでは、くれぐれも無理をなさいませんように。プログラムにはまだ、あなたの力が必要です。エクスカリバーの回収も重要ですが、そのためにストリームワンの自我までロストするわけにはいきません>

 「分かっているわ。ありがとう」

 概念通話を切る。

 デフォ子はまだ帰宅していない。通学路途中にある繁華街をプラプラと出歩いているようである。わたしは着替えもせずに制服のままで家を飛び出した。

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